勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2023年10月

    a0960_008567_m
       

    中国は、中央政府自らが1兆元(約20兆5000億円)の国債発行でインフラ投資へ踏み切ると発表した。今夏の水害などの復旧事業に充当するという。だが、これだけの資金をインフラ投資へ向けることの経済効果を計算算しているか、と言えば「ノー」であろう。権力者特有の心理によって、自らの治績を土木工事でみえる形にして表したいのであろう。「万里の長城」建設と同じ志向である。民の生活には一片の配慮もないのだ。 

    「民への配慮」とは、未完成のマンション建設の完成である。不動産開発企業が、資金不足で途中放棄した工事を完成させ、国民を安心させることだ。習氏は、これを選ばなかった。問題を起こしているのは民営企業であるから、「倒産させればいい」という考えであろう。これは短絡思考すぎる。習氏への支持を失わせる最大要因になろう。民を無視してはいけないのだ。 

    『フィナンシャル・タイム』(10月23日付)は、「不動産危機を解決できない中国政府、流動性不安消えず」と題する記事を掲載した。 

    中国の不動産最大手、碧桂園控股(カントリー・ガーデン・ホールディングス)は10月18日に猶予期限を迎えた海外債務の利払いができず、デフォルト(債務不履行)に陥る可能性が高まっている(注:正式にデフォルトと認定された)。深刻な債務危機にある中国の巨大な不動産市場は再び重大な局面を迎えようとしている。

     

    (1)「碧桂園の資金繰りの悪化は2つの事実を示している。販売不振で中国全土に開発が中断された物件が多数残るなど不動産市場の悪化が続いていることと、数年にわたって世界第2の経済大国を揺るがしている不動産危機に政府がうまく対応できていないことだ。不動産開発業者の混乱が、中国経済にもたらす影響は甚大だ。建設と不動産は中国経済の両輪であり、不動産は関連産業を含めると中国のGDPの25%前後を占める」 

    中国政府は、一口で言って「無責任」である。従来は、景気刺激策として不動産開発を利用してきたからだ。だが、不動産バブルが手に負えなくなると、その責任を開発業者に押しつけ「悪者」にしている。中国の家計資産は、7~8割が不動産である。それだけに、これから始まる住宅価格の下落は、家計資産の棄捐にむすびつくのだ。それは、個人消費不振となって中国経済へ逆襲するであろう。習氏は、業者へ責任をなすりつけているが、いずれ習氏の政治手腕へ疑問符となって跳ね返るであろう。 

    (2)「中国の不動産事業者は長年、国内外で債券を発行して資金を確保し、本土での開発事業を進めてきた。マンションは完成前に売却することが多く、得た資金は新たな開発に注ぎ込む。ところが20年に政府が「三条紅線(3つのレッドライン)」を設定して不動産会社に対する銀行の新規融資を制限すると、この資金調達モデルは崩壊した。同年は消費者心理が冷え込んで不動産大手10社のほとんどで売上高が急減し、業界の流動性への懸念はさらに深まった。住宅購入者は、破綻の可能性が低そうな国営の開発会社の物件を選ぶようになっているようだ。政府は昨年11月、軌道修正を図ろうと不動産業界への支援策を発表した。銀行は、碧桂園を含む「良質」とされる企業に新規の融資枠を設けたが、業界の流動性危機は収まっていない」 

    碧桂園は、政府によって財務内容からみて「優良会社」として太鼓判をおされていた。その碧桂園がデフォルトの事態である。政府は、碧桂園の住宅購入者に「推薦責任」がある。だが、このことには一切、触れないのだ。

     

    (3)「20年に大手とされていたデベロッパー50社のうち、すでに半数以上がデフォルトに陥っている。ブルームバーグによると、中国の不動産会社が抱えるドル建ての債務残高1750億ドルのうち、21年以降1150億ドルがデフォルトになっている。国内の銀行からの借り入れは更に巨額で、再編や借り換えが必要になっている。未完成物件に関する包括的な統計はないが、全体の数は21年より減少したものの今なお過去20年間をほぼ上回る水準にあるようだ。デフォルトに陥っている不動産会社がどこまでこうした物件を完成できるかは疑問だ」 

    住宅の未完成物件は、依然として高水準である。購入者は、住宅ローンを支払い続けながら、竣工した住宅を受け取れないという事態だ。購入者の中には、抗議の意思を示すべく未完成住宅に住み込んでいる人たちが増えている。 

    (4)「英調査会社TSロンバードの中国担当チーフエコノミスト、ロリー・グリーン氏は中国の政府関係者は2年前に既に不動産業界の債務を削減する必要性を理解していたようだという。「結果としてうまくいかなかったのは、中国の不動産業界をどう変え、新しいビジネスモデルを作るためにはどうすべきかプランがなかったためだ」と同氏は分析する。「成長モデルを突然変更し、資源を不動産から他の分野に再配分するのは非常に難しい。不動産が家計から地方政府、そして金融システム全体の資産まで大きく左右する場合はなおさらだ」とグリーン氏は語った」 

    下線部分は重要である。政府は、民間不動産開発企業がデフォルトしてもかまわないという現在の姿勢が、これから中国経済をむしばみ最終的には金融システム動揺へと波及する危険性を持っているのだ。そのことの認識が、習氏には希薄である。

     

    あじさいのたまご
       

    イスラエル軍の空爆によって、パレスチナ自治区ガザの市民の犠牲が増え続け、空爆停止を求める国際社会の声が強まっている。ブリンケン米国務長官は10月24日の国連安全保障理事会で、人道的観点から戦闘の一時停止の検討を求めた。 

    経済的な打撃は、イスラエルも顕著である。予備役招集によって労働力は枯渇している。イスラエル市民が、奇襲攻撃で受けたショックは簡単に消えず、個人消費は低調である。イスラエル経済が、ハマスとの紛争で被る打撃は過去数十年に経験したことのないものになりそうだという。 

    『ロイター』(10月25日付)は、「イスラエル経済への打撃深刻、予備役招集や消費低迷で」と題する記事を掲載した。

     

    高層ビルが増え続ける主要都市テルアビブでは、市が建設現場を閉鎖したため建設用クレーンが数日間動きを止めていた。今週に入ると厳格化された安全指針の下で作業が再開されたが、業界の報告書は建設部門の停滞だけで1日当たり1億5000万シェケル(3700万ドル)の経済損失が発生していると推計している。イスラエル建設業協会のラウル・サルゴ会長は「打撃を受けているのは建設業者や実業家だけではない。イスラエルの全世帯が受けている」と話す。 

    (1)「約5000億ドル規模のイスラエル経済はハイテク業と観光業に強みを持ち、中東地域で最も発展している。今年は大半の期間にわたり堅調を維持。通年の成長率は3%に達する勢いで、失業率も低かった。しかし、ガザへの地上侵攻が間近に迫り、戦闘が地域紛争へと拡大する恐れがあるため、国民は身を潜め、食料品以外の支出を大幅に減らしている。格付け会社は既にイスラエルを格下げする可能性を警告している。何十万人もの陸軍予備役が召集されて人繰りに穴が開き、港湾からスーパーマーケットにいたるサプライチェーン(供給網)が混乱。小売業者は従業員を一時解雇し、通貨シェケルは下落している。また紛争の影響でガザ地区からイスラエルへのパレスチナ人労働者数千人の移動が止まり、ヨルダン川西岸地区からの流れも細っている」 

    イスラエルの予備役30万人の招集は、イスラエル経済に大きな影響を与えている。ガザ地区からイスラエルへのパレスチナ人労働者数千人の移動が止まっている。影響が出ないはずもない。

     

    (2)「エルサレムの主要なショッピングモールのエスカレーターや通路は紛争勃発から2週間閑散としていた。利用者は徐々に戻っているが、「客足は激減している」と、スポーツウエアを扱う店舗の店長は言う。ホテルは国境地帯から避難してきたイスラエル人で半分ほどが埋まっているが、残りはほとんど空室だ。工場は、ガザ近郊の拠点でさえ操業を続けてはいるが、定期配送を担うトラック運転手の数は必ずしも十分ではない」 

    イスラエルへの外国人観光客は止まっているので、客足が激減している。観光が、メイン産業だけに打撃は大きい。 

    (3)「先週のクレジットカードによる買い物は前年同期比で12%減少。スーパーマーケットでの買い物が急増した以外、ほぼすべてのカテゴリーで激減した。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大期に隆盛を極めたハイテク産業は苦戦を強いられている。イスラエルは国内総生産(GDP)の18%、輸出の半分をハイテク業が占める。「生産性が著しく低下している。生きるか死ぬかが問題になっているときに日々の仕事には集中できない」と、フィンテック企業シータレイのバラク・クライン最高財務責任者(CFO)は語る。同社は国内の従業員80人のうち12人が予備役に招集された」 

    輸出の半分は、ハイテク業が占める。だが、戦争状態にあるので仕事に集中できず、予備役招集の穴も大きい。

     

    (4)「イノベーション庁のドロール・ビン最高責任者によると、ハイテク業界では労働力の推計1015%が予備役として招集された。同庁が多数のハイテク企業、特に初期段階のベンチャー企業と接触したところ、その多くが資金調達ラウンドの最中で、資金不足に陥っている。こうした企業を支援するためにイノベーション庁は1億シェケル(2500万ドル)の基金を設立し、ハイテク新興企業100社が苦境を乗り切るのを支えている」 

    ハイテク業界は、労働力の推計10~15%が予備役として招集されている。この結果、業務が滞って苦境にある。イノベーション庁は支援に乗り出している。 

    (5)「イスラエル政府は紛争のための資金と被害を受けた家計や企業への補償に「無制限の」支出を約束しており、これは財政赤字と債務の拡大を意味する。今後のイスラエル経済を占う上で過去の紛争は参考にはならないかもしれない。今回は、過去の例とは異なると当局者は指摘する。国民の間に「情緒的な危機」があり、それがすでに打撃を及ぼしていると指摘するのは、大手ハポアリム銀行のチーフ経済アドバイザー、レオ・レイダーマン氏。「人々は先行きの不透明さと不安な気持ちから消費支出を最小限に抑える」と見ている。個人消費は経済活動の半分以上を占めるだけに、経済への影響は重大かもしれない。 

    イスラエルは、ハマスの奇襲攻撃で多大の人命を失い人質までとられている。これは、過去にない被害であるだけに、国民の受けた衝撃は簡単に癒やせないであろう。ここで、イスラエルが、ハマスへ地上戦を行って「溜飲を下げる」ことよりも、恒久的な平和を構築することにエネルギーを割くべきかも知れない。報復は、新たな報復をまねくことになるからだ。イスラエルは、重大な選択を迫られている。その意味では、米国が停戦を求めていることは、イスラエルをより冷静にさせるチャンスとなろう。

    a0960_006628_m
       

    中国の有力不動産開発業者・碧桂園は、ドル建て債の利息を支払えなかった。これによって、デフォルト(債務不履行)が確定した。受託機関のシティーコープ・インタナショナルは、碧桂園が先週終了した猶予期間内にドル建て債の利払いを履行できなかったことで、「デフォルト事由」に該当すると債権者側に通告した。碧桂園は9月17日が当初の期限だった1540万ドル(約23億円)の利払いを30日間の猶予期間内に履行しなかった。

     

    碧桂園のデフォルトが確定したことで、今後の中国経済にどのような影響が出るかが注目されている。

     

    中国政府は24日夜、中央政府自らが建設プロジェクト向けに1兆元(約20兆5000億円)の国債発行計画を発表した。これは、地方政府に頼っていた従来のインフラ整備による景気刺激モデルからの転換を図るものである。地方政府は今年、不動産不況の中で債務返済に苦しんおり、もはや景気刺激を行う余力を失っているのだ。そこで、中央政府の財政負担でインフラ投資に踏み出すことになった。苦肉の策である。習主席は同日午後、就任後初めて中国人民銀行(中央銀行)を訪れ、経済を重視するとのメッセージを市場に送った。

     

    習氏は、碧桂園のデフォルトが不動産開発に悪影響を及ぼすことを認識しているので、あえて24日夜に「1兆元インフラ投資計画」を発表したのであろう。だが、不動産不況の深刻化を食止める効果があるかと言えば、「ゼロ」ではないにしても低いであろう。「1兆元インフラ投資計画」によって、未完成の住宅物件が竣工して消費者の手に渡る可能性と無縁であるからだ。

     

    IMF(国際通貨基金)は、景気対策として最も有効な手段は、未完成住宅物件を完成させて消費者の信頼感を繋ぎ止めることだと繰返し指摘している。この趣旨から言えば、「1兆元インフラ投資計画」の経済効果は削がれるであろう。

     

    『ブルームバーグ』(10月24日付)は、「中国経済は24年に2.9%成長も 不動産危機拡大ならーS&P」と題する記事を掲載した。

     

    中国不動産市場の低迷が深刻化した場合、2024年のGDP成長率は3%を割り込む恐れがあると、格付け会社S&Pグローバル・レーティングが指摘した。世界2位の経済大国にとって住宅危機がいかに大きな足かせになっているかが浮き彫りとなっている。

     

    (1)「S&Pによると、下振れシナリオでは、24年の不動産販売が22年比で最大25%減の約10兆元(約204兆5000億円)にとどまり、GDP成長率は2.9%に鈍化する。このシナリオが顕在化する確率は20%だとし、中国政府が同セクターへの大規模な刺激策を講じなかったり、裁量的な財政・金融支援を提供しなかったりした場合に考えられるという。アジア太平洋担当クレジット調査責任者で、アナリストのユーニス・タン氏は、「不動産問題が中国経済回復の足かせとなっており、負のフィードバックループで不動産販売に一段と打撃を与える」と分析した」

     

    下線部は、S&Pが最悪ケースとして想定しているものだ。今回のように、中国政府は碧桂園を「見殺し」にしてデフォルトへ持ち込んでいる。その負の影響が、どれだけ大きいかを知りながらあえて黙殺したのだ。これは、習氏が不動産開発企業に何が起こっても無視する姿勢を明らかにしたものだ。最終的には、国有不動産開発企業があるので、民間企業は不要という姿勢である。

     

    (2)「国際通貨基金(IMF)は今月、不動産セクターからの強い逆風を踏まえて24年の成長率見通しを4.2%に引き下げた。S&Pの基本シナリオでは、23年の不動産販売が前年比10~15%減、24年はさらに5%縮小と想定されている。このシナリオでは24年の経済成長が4.4%となり、ブルームバーグ調査の予想中央値4.5%におおむね沿っている」

     

    23年の不動産販売が、前年比10~15%減と想定する。24年はさらに5%縮小となれば、24年のGDPが4.4%に低下するという。IMFの24年成長率4.2%見通しは、こういう前提に立っているようである。あり得ないことではない。中国経済は綱渡りが続く。

    11
       

    教条主義が生んだ破綻

    中国EVに日本の圧力

    急減速下で2つの悲劇

     

    中国最大の産業は、不動産開発関連である。GDPのおよそ30%を占めるとされる。それだけに住宅産業の長期不振が、中国経済へ与える影響は大きい。中国政府は、住宅に次ぐエースとしてEV(電気自動車)の成長に期待を賭ける。だが、国内市場は需要の天井圏にさしかかったので、輸出増加を目指すほかなくなった。 

    EV輸出の増加となると、貿易摩擦を引き起こし兼ねない。現に、EU(欧州連合)が中国EVのダンピング調査を始める事態になっている。EUは、自動車の母国である。EUにとってはメンツにかけても、中国EVの輸出急増は受け入れがたいとして警戒姿勢をみせる。雇用を奪われるのが理由だ。中国は、EV輸出も頭打ちになれば、国内経済の牽引役を失うことになる。それだけに危機感を深めている。 

    中国経済は、1979年の改革開放政策から約半世紀を経た現在、大きな岐路に立たされている。習近平国家主席は、この危機を「統制経済手法」で乗切ろうとしている。トウ小平の改革開放政策の否定だ。中国経済が、現在の危機を迎える主因は、改革開放政策にあったのでなく、徹底化しないで不十分な形で進めたことである。市場経済政策が、共産主義思想に反するという教条主義は、改革開放政策をねじ曲げてしまった。

     

    中国共産主義は、縁故主義でもある。新中国を建設した元老の子弟(紅二代・紅三代)を経済面で優遇するという特権を認めてきた。これが、固定資産税(不動産税)や相続税を設けないという「富裕者天国」をつくり出した背景である。その代替が、土地国有制を「悪用」した土地売却益を地方政府の主要財源にする「土地本位制」(学術用語でない)である。これが、不動産バブルを生み出し、これまでの中国経済発展基盤をひっくり返す事態を引き起こした。「急がば回れ」である。経済発展に近道はないのだ。 

    教条主義が生んだ破綻

    中国の不動産開発企業の発展は、不動産バブルのあだ花である。世界の経済史を見れば分るように、バブル経済を引き起こした國の経済は、再起不能に近い打撃を受けてきた。オランダのチュウーリップ投機、英国の南海泡沫会社事件、米国の世界大恐慌、日本の平成バブル、中国の不動産バブルが歴史に残るバブルである。この中で、米国だけが再起に成功しさらなる発展を遂げた唯一の例である。米国には、「プラグマティズム」という哲学がある。絶えず、イノベーションを続ける「改革思想」である。 

    中国は、不動産バブル崩壊後の政策に古色蒼然としたマルクス主義を持ち出している。いっさいの市場改革を認めない教条主義が、バブル崩壊後の中国経済立て直しに役立つはずがないからだ。ここは、トウ小平の改革開放政策に戻るべき時期である。だが、習近平氏のメンツはそれを許さないのだ。こうして、中国は人口高齢社会突入という時代背景で、右往左往するほかない宿命を負わされている。習近平独裁がもたらす国家衰退と言って良かろう。

     

    習氏が、現在の経済危機を突破する手段として、EVに期待を賭けてきたことは紛れもない事実である。中国は、リチウムイオン電池に必要な資源をほぼ支配できる状況にある。これを武器にして、西側諸国と対抗できると踏んできたのだ。現に、レアアース(希土類)の輸出制限へ踏み切っている。だが、リチウムイオン電池には固有の難題を抱えている。発火しやすい・給電時間が掛りすぎる・走行距離の短さ、などである。この技術的難点を解決するには、全固体電池開発が不可欠である。中国は、この技術開発が遅れているのだ。 

    日本は、この全固体電池で開発のメドをつけたのだ。トヨタ自動車と出光興産との協業によって実現させる。26年のEV生産は150万台、30年に350万台の計画を発表した。これは、次世代電池のフラッグが日本企業に渡ることを意味する。トヨタ・出光の全固体電池は、世界標準技術になるであろう。 

    こういう事態になると、中国EVの「賞味期限」が近いことを世界へ告知したようなものである。すでに、中国EVは国内で市場飽和状態へ突入している。過剰生産に伴うメーカーの乱売戦が繰り広げられ、倒産企業は急増している。

     

    中国は、純粋なEVとプラグインハイブリッド車(PHV)を製造しているブランドが約50あるという。専門家によれば、2030年までに中国の自動車メーカーは、10〜12社に減るだろうと予想されている。大幅な業界再編成が不可避となった。米銀大手シティグループの5月のアナリストリポートによると、中国全土にあるEV工場の23年の年間稼働率は、わずか33%という。『フィナンシャル・タイム(FT)』(10月18日付)が報じた。 

    中国EVは、供給過剰解決法として輸出増加を考えている。しかし、米国では、この重要な産業分野を中国製品が席巻するのを防ぐことを目的とした「インフレ抑制法(IRA)」を導入した。EUも、既述の通り中国EVの補助金に関する実態調査を始めた。中国のEV輸出戦略実現には、こうして大きな障害が予想されるにいたった。(つづく)

     

    この続きは有料メルマガ『勝又壽良の経済時評』に登録するとお読みいただけます。ご登録月は初月無料です。

    https://www.mag2.com/m/0001684526

     

    a0070_000030_m
       

    トヨタ自動車は25日、2026年に投入を計画する次世代の電気自動車(EV)のコンセプトモデルを初めて公開した。電池やプラットフォーム(車台)、生産方法を抜本的に見直し、航続距離や充電時間を大幅に改善する見通しだ。EV市場で先行する米テスラや中国のBYDへの追い上げを目指すとしている。 

    現時点で、トヨタのEV販売台数は限定的な水準に留まっている。だが、今後のラインアップ拡充に伴い26年に150万台、30年に350万台とすることを計画している。トヨタは、35年までにレクサス全車種をEV化することを明らかにしており、次世代EVの開発でもレクサス向けを先行させる。『ブルームバーグ』(10月25日付)が報じた。 

    『フィナンシャル・タイム』(10月23日付)は、「トヨタ、全固体電池量産にメド 航続距離2倍で急速充電」と題する記事を掲載した。 

    トヨタ自動車は、次世代の電気自動車(EV)向け電池の本命とされる全固体電池を現行電池とほぼ同じ数量製造できるメドが立ったと明らかにした。世界のメーカーが全固体電池の商用化争いでしのぎを削るなかで、重要な成果となる。新車販売台数で世界首位のトヨタは先日、電池材料の「ブレークスルー」について、技術の基本的なめどがついたと公表した。今回の技術革新により、2027〜28年には全固体電池を量産できるようになる。

     

    (1)「業界専門家は以前から、全固体電池はEV業界の「ゲームチェンジャー」になる可能性があると注目してきた。充電時間、容量、発火リスクなど現在の車載電池が抱える課題の救世主となる。全固体電池が実用化されれば、トヨタはEVの航続距離は現行車の2倍以上の1200キロメートルになるとみている。充電時間も10分以下に短縮できる見込み。だが、全固体電池の量産はコストが高く、難易度が高い。米金融大手ゴールドマン・サックスは「今後10年での量産は比較的険しい道のり」だと指摘している」 

    全固体電池では、充放電を繰り返すうちにどうしても固体電解質に亀裂が生じ、電池としての性能が悪化することが知られている。この問題を解決するためには、物理的にやわらかくで密着度も高い、割れにくい固体電解質が必要である。トヨタの佐藤社長は、「出光の固体電解質の強みは、耐水性、イオン伝導性、やわらかさを実現できる作り方である。材料の粒子を均一に並べて、柔軟性のある形状へ変化させやすい柔らかさに作り込むものだ。水に対して強い作り方を実現できる。そういう部分が、固体電解質の競争力の源泉になっている」と自信をみせ、技術の世界標準にしたいと意気込む。

     

    (2)「全固体電池は湿度や酸素に極めて敏感な上、デンドライトと呼ばれるリチウムの樹枝状結晶が形成されてショートするのを防ぐため、機械で圧力を加えて内部の層を密着させる必要がある。トヨタによると、量産に向けた最大の技術的な課題の一つは組み立て工程だ。材料を傷つけずに正極と負極の層を素早く正確に圧着する技術が求められる。トヨタのある技術者は、全固体電池をすでに現在のリチウムイオン電池と同様に製造できるのかとの質問に対し、「積層スピードについては、あと一歩のところまで来ている。今後、量を流して品質確認を進めていく」と語った」 

    出光興産は、27~28年に年産数百トン程度の規模で全固体電池の基幹部分である電解質(硫化物系)の生産を開始する。これをテコに、数千トン規模へ引き上げる計画である。すでに、基本技術を確立したのでこれから量産規模を引き上げる予定だ。 

    (3)「トヨタは9月、全固体電池の量産準備を進めている愛知県の貞宝(ていほう)工場を一部メディアやアナリスト、投資家に公開した。6月の技術説明会では、電池の寿命を伸ばし、安定した性能を発揮できる素材に関して「ソルーションが見つかった」とした。さらに10月12日には、出光興産と提携し、全固体電池の材料として硫化物系固体電解質を共同開発・生産すると発表した。両社はこれを耐久性の面で非常に有望な材料だとしている。トヨタはこれまでに全固体電池の開発スケジュールを何度も先延ばししてきた。アナリストの中には今回の実用化目標の達成を疑問視する向きも少なくない」 

    アナリストの中に、実用化目標達成を疑問視する向きがいるのは、トヨタと出光の動きを密着取材していない結果であろう。固体電池で世界最多の特許を持つトヨタが、慎重を期しながら着実に進んでいることを認識すべきだろう。

     

    (4)「製造技術への自信を深めつつも、トヨタの幹部らは量産に際しては材料の品質確保の面で課題を解決する必要があると認める。トヨタの佐藤恒治社長も12日の記者会見で、全固体電池をEVに搭載し始める初期段階では、製造量が限られる可能性が高いと認めた。「まず具体的に世の中に出していくことが今一番大切であり、その後量的拡大を検討していく」と語った。競合他社も固体電池の技術で成果を上げている。車載電池の世界最大手、中国の寧徳時代新能源科技(CATL)は半固体電池の年内量産に向けて準備を進めていることを明らかにした。韓国電池大手のサムスンSDIは、完全に自動化された全固体電池の試験生産ラインを完成させている」 

    CATLが手がける「半固体電池」とは、次のようなものだ。(1)正極側と負極側で異なる電解質を用い、特に負極側で固体電解質を用いる技術、(2)粘土(クレイ)状または樹脂の電解質とそれを湿らす程度の最小限の電解液を用いている技術などがある、とされる。この過渡的な技術が幕間繋ぎで登場するとしても「商品寿命」は短い。サムスンSDIが、全固体電池の試験生産ラインを完成させたのは、「試験生産ライン」である。具体的な内容の発表はない。

    このページのトップヘ