勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2023年11月

    テイカカズラ
       

    強面の中国が、人口280万人のリトアニアに外交面で屈した。経済制裁を撤回したのだ。これで、リトアニアの「台湾代表部」は大手を振って存在できる。中国が、屈辱の撤回をした背景は、中国が進めるEU(欧州連合)への接近で、リトアニア制裁が障害になってきたからだ。追い詰められる中国経済の現状が浮き彫りになっている。 

    『朝鮮日報』(11月30日付)は、「中国の屈辱、『台湾』代表部を認めた 小国リトアニアへの経済制裁を解除」と題する記事を掲載した。 

    台湾との協力を強化した欧州国リトアニアに対して全方位的に加えられていた中国の経済制裁が、2年ぶりに解かれた。人口280万人の小国が14億の大国との神経戦で全く押されない様子を見せつけ、中国のプライドに少なからぬ傷を負わせたという評価がなされている。

     

    (1)「ベルギーのブリュッセルで開かれた北大西洋条約機構(NATO)外相会議に出席したリトアニアのガブリエリウス・ランズベルギス外相は11月27日(現地時間)の記者会見で、中国がリトアニアに加えていた貿易制裁を解除したと明かした。ランズベルギス外相は「中国とリトアニアは交流再開のための話し合いを進めている」とし「貿易が完全に回復してはいないが、世界貿易機関(WTO)などによる外交的手続きに基づき、リトアニアに対する経済的圧迫措置の大部分は解除された」と述べた。中国税関の統計によると、今年10月までにリトアニアの対中輸出は前年同期比53%増の1億1000万ドル(現在のレートで約162億円)を記録し、回復傾向にある。中国国営の環球時報が「ハエを捕まえるように罰しなければならない」(2021年11月)とののしるほどリトアニアを目の敵にしていたが、2年を経て気勢は完全にそがれた格好だ」 

    中国の大言壮語が、惨めな結末を迎えた。「ハエを捕まえるように罰しなければならない」リトアニアに対して「白旗」を掲げる結果になった。退勢中国を印象づける一件だ。

     

    (2)「両国の対立は2年前に湧き起った。中国と国交を結んでいるほとんどの国は、台湾との非公式交流のために大使館の役割を果たす代表部を置き、通常は「台湾」ではなく、首都の「台北」の名を付けている。台湾は自国の一部であるという中国の主張に考慮して、国名は使わないのだ。ところが2021年11月、リトアニアが首都ビリニュスに「駐リトアニア台湾代表部」を設立し、中国は激しく反発した。欧州の国々の中で「台北」ではなく「台湾」という名で代表部設立を承認したのはリトアニアが初めてだからだ」 

    リトアニアは、EUの中国批判で先頭に立っていた。ロシアのウクライナ侵攻を非難しない中国に、警戒論を掲げてきたのだ。中国にとっては、喉に刺さったトゲになっていた。 

    (3)「中国は「『一つの中国』原則を無視する、とんでもない行為で、この先起こるあらゆる結果についての責任はリトアニアにある」として報復を開始した。駐リトアニア大使を本国に召還し、リトアニアの駐中公館を代表処へ格下げした。中国税関はリトアニアを税関の電算システムの輸入対象国リストから削除した。両国間の技術交流・協力も中断した」 

    中国は、メンツにかけてもリトアニアへ強力な圧力をかけた。輸入全面禁止の手段に出た。EUは、リトアニアを支援する形でこれに対抗した。リトアニア対中国の問題が、EU対中国の問題へと拡大したのである。

     

    (4)「こうした中国の全方位的圧迫に、リトアニアは全く動じなかった。2021年12月に駐中大使館の職員全員を本国へ撤収させ、中国の制裁を「WTOの規則に違反する不当な脅迫」だとして欧州連合(EU)の共同対応を求めた。台湾との関係は、これ見よがしにむしろ強化した。1年後には、台湾に自国代表部を開いた。今年1月にはリトアニア議員代表団が台湾を訪問して蔡英文総統と会うなど、高官級交流を続けた。今年9月には台南に台湾・リトアニア超高速レーザー開発センターをオープンし、10月にはリトアニア立法部トップのビクトリア・チュミリーテニールセン議長が台湾立法院(国会に相当)で演説した」 

    リトアニアは、ロシアに対しても臆せず対抗している。民族としての根強い「抵抗思想」が、今度は中国に向けられた。國を上げて台湾との交流に踏み出したのだ。この流れが他国へ伝播すると、中国は面倒なことになるのだ。 

    (5)「リトアニアに、中国発の打撃がないわけではなかった。ギターナス・ナウセーダ大統領は今年6月、本紙のインタビューで「対中輸出は実に80%も減少して大きな苦痛に直面したが、危機から脱した。特定国に過度に依存しないサプライチェーンの多角化は極めて重要だ」と語った。しかし中国は、米中競争の中で欧州との関係改善が急務となり、リトアニアと台湾の関係が深まるや、経済報復を撤回したものと分析されている」 

    中国は、ドイツの自動車メーカーにリトアニア製部品を使うなと要求するまでエスカレートした。リトアニアは工業国であるだけに、中国から受けた打撃も大きかった。 

     

    (6)「ランズベルギス外相は、両国関係の雪解けのため中国に屈従はしなかった、と強調した。ランズベルギス外相は、リトアニアに設立された台湾代表部の名称は変わらないだろうと強調し「台湾代表部問題は中国と議論すべき部分ではない」とした。リトアニアは台湾との経済協力強化に伴う利益も享受している。ラジオ放送「ボイス・オブ・アメリカ」によると、最近2年間で台湾とリトアニアの貿易規模は50%増え、リトアニアのIT企業テルトニカは2027年までに台湾の技術を利用して半導体を生産する協約を台湾の研究所と結んだ」 

    リトアニアは、台湾政府から半導体生産の資金・技術の支援を受ける取り決めをしている。27年までに半導体生産に着手する計画だ。

     

     

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    中国には、相手を力づくでも屈服させようとする悪弊がある。「一寸の虫にも五分の魂」で、必ず反発を受けることが分らないのだろう。同じ誤りを繰返しているからだ。現在再び、台湾に対して関税引上げをちらつかせ始めている。来年1月の台湾総統選に揺さぶりを掛けて、国民党候補を当選させようという意図は明瞭である。

     

    『日本経済新聞 電子版』(11月29日付)は、「中国、関税見直しで台湾揺さぶり 総統選で国民党支援か」と題する記事を掲載した。

     

    台湾総統選を前に、中国が台湾への経済的圧力を強めている。台湾が中国に貿易障壁を設けているとして投開票日の前日を期限に調査しており、結果次第で台湾への関税優遇の停止を検討する。政権与党・民主進歩党(民進党)を揺さぶり、最大野党・国民党を支援する狙いとみられる。

     

    (1)「台湾の王美花・経済部長(経済相)は、日本経済新聞の取材に応じ「(調査は)政治的な意味合いが大きい」と述べた。「中国は総統選にあらゆる手段で影響を及ぼそうとしている」と述べ、総統選への介入をけん制した。中国商務省は台湾が対中輸入規制を設ける農産品や工業製品など2509品目について、貿易障壁の観点から調査を進めている。同調査が注目されるのは、中台が2010年に結んだ経済協力枠組み協定(ECFA)に定めた、台湾への関税優遇の停止につながる可能性があるためだ」

     

    米中首脳会談で、バイデン米国大統領は習中国国家主席に対して、台湾総統選への介入をしないように釘を刺した。中国は、これを無視して「関税引上げ」の可能性を示唆して揺さぶりを掛けている。

     

    (2)「中国で台湾政策を担う国務院台湾事務弁公室トップの宋濤主任は9月、台湾の輸入規制がECFAの関連規定に違反しているとの見方を示し、調査結果に基づいて「関税優遇の停止や一部停止を検討する」と語った。さらに総統選まで3カ月あまりとなった10月に発表された調査期限の延長が台湾で波紋を呼んだ。中国商務省は「案件の状況が複雑なため」として、当初は10月だった期限を24年1月12日まで延長した。これは総統選の投開票日の「前日」にあたる。台湾では総統選に向けた中国の揺さぶりとの受け止めが広がる。中台関係に詳しい台湾師範大学の范世平教授は「政権与党の民進党を攻撃するもので(同党の総統候補である)頼清徳氏を不利に追い込む狙いがある」との見方を示す」

     

    中国の狙いは、中国との融和路線を掲げる国民党候補への支援が明らかだ。

     

    (3)「総統選はいままでのところ、蔡英文(ツァイ・インウェン)総統の路線を引き継ぐ頼氏が支持率調査でリードを保っている。対中融和路線で中国との経済交流にも積極的な最大野党・国民党の侯友宜・新北市長は劣勢にある。ECFAは2010年、中国との関係強化を推し進めた国民党の馬英九・前総統の政権で締結された。先行措置として中国側では農産品や機械、プラスチック製品など539品目の関税が段階的に撤廃された。将来の協定範囲の拡大も盛り込まれていたが、台湾社会での対中警戒感の高まりや、16年の民進党への政権交代を機に、協議は頓挫した経緯がある」

     

    中国は、農産品や機械、プラスチック製品など539品目の関税を段階的に撤廃している。これを再び、引き上げるジェスチャーをみせて牽制している。

     

    (4)「国民党の総統候補である侯氏は27日、台北市内で開いた経済9団体主催の会合に出席し「ECFAの問題を解決し、ただちに(中台)両岸の対話と交流を再開する」と話した。中国の動きと呼応するように、「ECFAカード」による経済界の支持取り込みに動いている。中国が関税優遇を停止した場合の影響はどれほどか。台湾側の統計によれば、台湾の輸出総額に占める中国(香港含む)向けの割合は4割前後の高水準で推移している。22年の対中輸出総額(約27兆円)のうち、ECFA関連は1割強に相当する。台湾経済のけん引役である半導体などハイテク製品の多くは関税優遇の対象品目でないため、同分野への影響は限られる見通しだ」

     

    中国が牽制している品目は、台湾の対中輸出の1割強とされる。半導体などハイテク製品は対象になっていない。

     

    (5)「台湾の有力経済団体・工商協進会の呉東亮・理事長は「(中台)両岸交流の重要なプラットフォームであり、(産業界などへの)心理的な影響は大きい」として懸念を示す。経済部長の王氏も「石油化学や機械、繊維といった業界への影響が比較的大きくなる」と話す。「我々は最悪の事態を想定して動く」とも述べ、対中輸出の減少などの影響が出れば企業の支援に動くとした。王氏はこうした中国の経済的圧力が「過去の総統選と比べても強まっている」と指摘した。中国の経済的圧力について、台湾師範大学の范氏は「直接的で荒っぽいやり方で、台湾の人々の反感を買う可能性もある」と指摘する。

     

    前回の総統選前は、香港の中国化(本土の国家安全保障法適用)によって、「中国恐怖論」を巻き起こして国民党候補が敗北した。今回の関税引上げの揺さぶりは、台湾世論にどのような影響を与えるかだ。

     

    テイカカズラ
       

    中韓企業は同じパターンに

    高金利に耐えられない構造

    硬直化した社会を変える道

    日韓をデータで比較すると

     

    韓国は、過去二度も金融危機に見舞われている。企業の不況抵抗力が弱いことであり、内部留保が少ないのだ。これには、生産性を上回る高い賃金水準が災いしている。生産性に見合った賃金であれば、企業も必要な内部留保が可能になる。酷評すれば、「ハンド・ツー・マウス」(その日暮らし)の経済である。

     

    最近の韓国の賃金水準は、日本に接近している。最低賃金や大企業の大卒初任給では、日本を上回っているのだ。これは、韓国特有の「貴族労組」と呼ばれている労働組合の高賃金攻勢が生んだ結果である。日本の場合は逆である。生産性を下回る賃金に不平も唱えず、唯々諾々と企業の提示する賃金を受け入れてきた。これが、企業の内部留保を手厚くし、世界一の「金満企業」を生んだ背景である。

     

    韓国は、並外れた労組の賃金攻勢で労組員にプラスをもたらした。だが、企業は必要な内部留保もできず、高金利に苦しんでいる。中小企業は、いつ破産するかという瀬戸際に立たされている。自営業にいたっては、「多重債務」の罠に陥っているほどだ。韓国経済は、日本の植民地から独立して78年も経ちながらも、依然として「脆弱構造」のままである。

     

    この裏にあるのは、経済がバランスを取れないことであろう。労組を支援する左派勢力が、国民の半分を占めていることでも分るように、「反企業」や「反資本主義」という理念がきわめて強い國である。日本の野党でも一部の政党以外は、こういう極端な立場でない。政治において、一定のコンセンサスができている。韓国には、それがないのだ。

     

    中韓企業は同じパターンに

    IIF(国際金融協会)が11月、世界負債最新報告書を発表した。それによると、23年7~9月期基準で主要34カ国のGDP比の非金融企業負債比率は、韓国企業が126.1%でワースト3位になった。1位香港企業で267.9%、2位中国企業の166.9%である。中国企業は、不動産バブル崩壊という歴史的な危機に遭遇している。韓国企業が、こうした中国企業に次ぐ「危機」にあることは、きわめて示唆的である。脆弱構造を示しているのだ。

     

    韓国企業は、輸出不振と高金利の重圧に喘いでいる。韓国の対GDP輸出比率は、41.45%(2022年)である。この高い輸出依存度の韓国が、輸出減少に見舞われている。輸出減は、資金繰りに大きく響くものだ。輸出には、信用状を銀行へ持ち込めばすぐに現金化できる便利さがある。その輸出減少によって、資金繰りが苦しくなっているので、借入れに依存しなければならない。現在は、金融引き締め中で高金利である。これが、韓国企業の経営を圧迫しているのだ。

     

    韓国企業は、輸出減で銀行から借入をしなければならない。これが、前述の企業負債を急増させている理由だ。韓国の4大都市銀行(KB国民、新韓、ハナ、ウリ銀行)は、7~9月期業績を発表した。それによると、延滞金貸付残高は22年末から今年7~9月期末は2兆8988億ウォン(約3331億円)へと27.29%も急増した。韓国企業は、借入れを増やしながら一方で、金利を支払えない「ダブルショック」に見舞われている。

     

    韓国4大銀行は、日本ではメガバンク3行に匹敵している。このクラスの金融機関と取引する韓国企業は、韓国でもトップクラスと見られる。4大銀行の延滞金貸出残高が、昨年末から約3割もの急増は、韓国企業の支払能力が急低下していることを示している。つまり、内部留保が少ないから金利も満足に支払えない事態に陥っている。内部留保は、企業の生命線を担う兵站部門と言えよう。

     

    韓国紙『東亜日報』と大韓商工会議所が11月、全国地域商工会議所会長を対象に景況調査した。それによると、10人に7人は現状を2008年のグローバル金融危機か、それより悪い状況と答えている。「このままでは、来年は相次いで倒産する」という危機感が、企業の間で相当の広がりをみせている。倒産激発の兆しは、すでに現れ始めている。今年に入ってから10月まで、全国法人の破産申請件数は計1363件で、破産統計を取り始めた2013年以降最大となっているのだ。

    今年6月末における自営業者の多重債務者向け貸付残高は、743兆9000億ウォン(約85兆円)に達した。昨年6月末から6.2%の増加だ。過去最大である。自営業多重債務者(3つの金融機関以上から借入れている)の数は、3.2%増の177万8000人で過去最も多くなった。

     

    以上で見てきたように、韓国の大企業から自営業者まで「借金まみれに」陥っている。この原因は、意外に思われるかも知れないが大企業労組が固執する「年功序列・終身雇用」制にある。これは、韓国が宗族制社会の遺制を色濃く残している結果だ。これが、私の韓国ウォッチによる見立てである。詳しくは後で取り上げる。(つづく)

     

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    https://www.mag2.com/m/0001684526

     

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    テスラは、世界の自動車を電動化したいと狙っている。年間販売台数で、2030年までにトヨタを上回り、販売世界一の自動車メーカーになることを目指しているほどだ。だが、現実にはEV販売にブレーキが掛っている。既に、EVを買いたい人は手に入れたが、EV懐疑派は、EVよりもHV(ハイブリッド車)へシフトしている。トヨタの戦略通りの動きである。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(11月29付)は、「『EVは売れず』、米ディーラーの訴え」と題する社説を掲載した。

     

    補助金によって消費者を自動車のショールームに誘い出すことはできるが、実際に購入させることはできない。これは、ジョー・バイデン米大統領に宛てた28日の書簡で、多くの電気自動車(EV)が売れ残り、駐車場がいっぱいになっていると訴えた全米約3900の自動車ディーラーの言葉だ。彼らは大統領が導入した厄介で非現実的なEV販売義務の猶予を求めている。

     

    (1)「ディーラーたちは、「消費者向けに多くの優れたバッテリー式EV(BEV)が販売されている」と大統領への書簡に記している。その上で、「現在の規制を受けて販売店には数多くのBEVが届いたが、こんにちのEV需要はそれに追い付いていない」とし、「多数のBEVがわれわれの駐車場に残されている」と述べている。ディーラーが持つEVの在庫は103」日分であるのに対し、全車両の在庫は56日分だ。ディーラーがEV1台を販売するには平均で65日かかる。これはガソリン車1台にかかる期間の約2倍だ。EVの販売の伸びは、メーカーが価格を引き下げ、割引額を増やしているにもかかわらず鈍化している。消費者が9月にEV1台に対して支払った額は平均で50万683ドル(約750万円)と、1年前の6万5000ドルを下回っている」

     

    EVの販売が鈍っている。値下げしているにもかかわらず、ガソリン車よりも売行きが落ちている。理由は簡単である。EV本命は、リチウムイオン電池でなく、トヨタが開発している全固体電池であることを知っているからだ。トヨタ全固体電池車が発売されるのを待っているのだろう。それまでの繋ぎ役がHV(ハイブリッド車)である。

     

    (2)「ディーラーの説明によると、「新しもの好きな人々は真っ先に列を作り、入荷してすぐにEVを購入した」というのがその理由だ。しかし、大半の消費者は「移行する準備」ができていない。EVの価格が依然として高過ぎることも理由の一つだ。持ち家でない人の多くは、充電できるガレージも持っていない。加えて、誰もが使える充電ステーションはまばらで、ある調査によれば、4カ所に1カ所は機能していない。「消費者は、気温が高い時や低い時に航続距離が短くなることも懸念している」とディーラーは指摘している。「中には毎日通勤で長距離を走行するが、充電できるほどの余分な時間がないという人もいる。トラック購入者は、けん引すると航続距離が大幅に短くなるという点を特に気にしている」

     

    EVは、充電時間のかかることが敬遠の理由である。しかも、充電ステーションが足りないなど、不満の理由はいくらでもある。

     

    (3)「ディーラーは米政府に対し、排出ガス規制案を「緩和する」よう求めている。この規制案は、新車販売台数に占めるEVの比率を2032年までに3分の2に引き上げることを事実上、義務付けるものだ。テスラ車を所有することが政治的な意思表明となるような左派中心の都市でなら、自動車メーカーは政府が求める比率を達成できるかもしれないが、他の地域では価格や利便性の方が重要だ」

     

    ディーラーは、新車販売台数に占めるEVの比率を2032年までに3分の2に引き上げる規制案の緩和を大統領へ要請した。民主党支持基盤ではEV普及率も高いが、それ以外の地域では遅れている。EVに魅力がないからだ。

     

    (4)「カリフォルニア大学バークレー校ハース・エネルギー研究所は、最新の調査で「政治信条と米国のEV普及との間には、強力かつ持続的な相関関係がある」ことを明らかにした。同調査によれば、昨年登録されたEVの約半数は「民主党支持率が高い上位10%の郡で、登録台数の約3分の1は支持率で上位5%の郡だった」という。これは「米国でEV普及率を高水準に引き上げるのは、これまで考えられていたよりも難しい可能性がある」ことを示唆している」

     

    米国では、政治信条とEV販売に強い相関関係があるという。日本では、どうであろうか。府県別に普及率と野党議員の数を比較すると面白いかも知れない。

     

    (5)「ディーラーの書簡は、進歩的な気候変動対策の強制は民主党が考えているほど支持を得ていないことを物語る重要な政治的シグナルだ。米国人は何をすべきか、あるいは何を買わなければならないかを指示されるのを好まない。ディーラーが指摘するように、「多くの人々はどの車が自分に適しているのか、自分で選びたいだけだ」。想像すれば分かるだろう」

     

    バイデン政権は、EVの普及目標を変更するのか。ディーラーの要請に対する反応が興味深い。

     

     

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    11月29日、2030年万博誘致を巡る博覧会国際事務局(BIE)総会で、韓国は29票を獲得したものの、サウジアラビアが119票を獲得して敗れた。万博は、オリンピックやワールドカップ・サッカーと並ぶ世界3大イベントとされている。これまで、この3大イベントをすべて開催した国は、米国・カナダ・ドイツ・フランス・イタリア・日本のいわゆるG7(主要7カ国)に所属する6カ国だけである。それだけに、韓国は誘致に成功して、「G8」になりたかったであろう。

     

    日本は、韓国を支持した。25年開催の大阪万博では、韓国が日本を支持した「お返し」である。日本は、支持を巡ってサウジと韓国の間で揺れたが、最近の日韓友好ムードに水を差さないように配慮したとされる。韓国万博は、最初から「無理」とされていた。25年が日本で30年も韓国では、アジア地域での開催で偏りが指摘されていた。韓国は、日本の行うことは全てやりたいということで、あえて30年開催国で立候補したのであろう。2035年開催であれば、可能性があるだけに開催時期を間違ったとも言える。

     

    『ハンギョレ新聞』(11月29日付)は、「1次投票で119対29…韓国、釜山への万博誘致『惨敗』、厳しい影響を予想」と題する記事を掲載した。

     

    釜山(プサン)が2030年世界博覧会(万博)誘致に失敗した。開催地にはサウジアラビアのリヤドが選ばれた。釜山が決選投票にも至らず惨敗したことで、少なからぬ後遺症が予想される。

     

    (1)「28日午後(現地時間)、フランス・パリで開かれた博覧会国際事務局(BIE)173回総会の第1回投票で、釜山は投票に参加した165の加盟国のうち29票を得て脱落。リヤドは119票を獲得した。イタリアのローマは17票だった。ハン・ドクス首相は投票結果が出た後、パリ現地で「国民の皆様の熱い期待に及ばず申し訳なく、重い責任を感じる」と述べた。キム・ウンヘ大統領室広報首席も29日早朝、「官民がワンチームとなって非常に努力したが、残念な結果を迎えた。夜遅くまで結果を待って応援してくださった釜山市民と国民の皆様に慰労と感謝の言葉を申し上げる」と述べた」

     

    2年前の予想では、韓国は3位とみられていた。サウジとイタリアの勝負とされていた。理由は、韓国が日本に次いでの開催になれば、2回連続のアジア開催となり「万博」のイメージに合わないという根本的な指摘である。だから、2030年は中東(サウジ)か欧州(イタリア)での開催が順当とされていた。こういう事前予想から言えば、韓国はイタリアを上回る得票であり、「善戦」した。

     

    (2)「韓国はこの1年間、官民合同で万博誘致委員会を構え、BIEに加盟しているほとんどの国と接触し、支持を訴えてきた。サムスン、SK、現代自動車、LGなど主要企業のトップもネットワークがある各加盟国にそれぞれ接触した。韓国は最後のプレゼンテーションの時、開発途上国などに対する支援を約束し、逆転を図った。ハン首相は「110の開発途上国などに5億2000万ドルの支援を保証する」と述べた。しかし、オイルマネーを基盤にしたサウジアラビアのリヤドは釜山に大差をつけた」

     

    韓国は口には出さなかったが、日本は万博を2回も開催する。それだけに、韓国も一度は開催したかったに違いない。韓国経済界も全力を挙げて誘致に協力した。「地の利」がなかったのだ。

     

    (3)「予想を超えた惨敗のため、後の影響が予想される。政府は、ムードが変わってきているとし、2回目の決選投票でリヤドに逆転すると自信を示した。しかし1次投票の結果、釜山の得票数はリヤドの4分の1にとどまった。脆弱な外交力と情報力があらわになった結果だ。特に、釜山万博誘致を来年4月の総選挙の動力にしようとした大統領室と与党としては、この構想に支障が生じるのは避けられなくなった。共同招致委員長を務めたハン・ドクス首相も、内閣改造の局面で責任論に追われる可能性もある」

     

    左派は、万博誘致失敗をユン政権非難材料に使おうとしている。これは、フェアなことではない。韓国が立候補したのは、文政権時代である。「地の利」がないことを承知で、日本と対抗したいという一念での立候補であった。それが、成功しなかっただけのことだ。

     

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