中国国家主席・習近平氏は、国内経済悪化で窮地に立たされている。渦巻く国内の不満と不安を「戦狼外交」で打ち消す戦術に出てきた。過去の「専制君主」が取った強硬外交と瓜二つである。尖閣諸島で日本漁船の立ち入り検査も行う決定をしている。
中国国家統計局が12月31日発表した2023年12月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は49.0に終わった。11月より0.4ポイント低く、3ヶ月連続で好調・不調の境目である50を下回った。不動産不況など需要不足が続いたほか、広い地域で降雪し経済活動の妨げとなった。中国景気は足踏みの状態が続いている。内訳をみると、新規受注は0.7ポイント低い48.7と、3ヶ月連続で50を割り込んだ。回答企業の6割超が「需要が不足している」と答えた。生産は50.2と節目を超えたが、前月を0.5ポイント下回った。『日本経済新聞 電子版』(12月31日付)が報じた。
12月製造業PMIから浮かぶ中国経済の姿は、供給が需要を上回る状態であることだ。12月の生産者物価指数は、さらにマイナス幅を広げていることを予測させる。消費者物価指数もマイナス幅が大きくなろう。こういう事態を受けて、習氏は、国民の不満を外に向けざるを得ないのだ。
『ロイター』(12月30日付)は、「中国習主席、『外交上の鉄の軍隊』の編成要請 強硬的な姿勢示唆」と題する記事を掲載した。
中国の習近平国家主席は12月29日、共産党に忠実な「外交上の鉄の軍隊」を編成するよう中国大使に要請した。一部の外交官によって伝えられた「戦狼外交」のようなレトリックを想起させ、中国の外交政策が一段と強硬的になっていることを示唆した。
(1)「中国国営中央テレビ(CCTV)によると、北京で開かれた中国大使らとの会議で「闘争に優れ、国益の擁護者となる勇気を持つべきだ。必要なのは強大な権力に対抗する準備と確固たる意志を持って、国家主権、安全保障、発展の利益を断固として守ることだ」と指摘。「規則と規律を前面に打ち出し、厳しく自らを律し、厳しく責任を取る必要がある。また、党に忠実で、闘争に優れ、厳しい規律を守る外交上の鉄の軍隊を編成することが必要だ」とした」
習氏による訓示を煎じ詰めて言えば、「戦狼外交」を強化するという宣言であろう。だが、肝心の中国経済は疲弊仕切っている。もはや、外国へ支援する資金も思うように捻出できない事態へ向っているのだ。一帯一路で抱えた不良債権の山に悩まされているほど。23年、アフリカへの経済協力は激減した。もはや、「戦狼外交」の効き目は消えているのである。
(2)「また、「党、国、人民への忠誠は外交戦線の輝かしい伝統」とし、「イデオロギー的な防衛線を強固に築き、確固たる政治的信念を持ち、規則と規律を厳しく順守する聡明な人物であることが必要だ」と語った。さらに、中国を封じ込め、抑圧しようとする西側諸国の企てに対抗するため、中国の国際的な影響力を高める必要性を強調。「われわれは広く深い友好関係を築かなければならない」とした」
融和外交は、潤沢な資金の支援があってこそ成功するものである。資金支援がなく、「ニーハオ」では効果はないのだ。まさに、「国益」あっての外交である。こういう「ニコポン」外交と裏腹に、習氏は尖閣諸島で厳しい姿勢をみせていたことが分った。
『共同通信』(12月30日付)は、「習氏、『1ミリも領土は譲らない』尖閣諸島の闘争強化を指示」と題する記事を掲載した。
中国の習近平国家主席が11月下旬、軍指揮下の海警局に対し、沖縄県・尖閣諸島について「1ミリたりとも領土は譲らない。釣魚島(尖閣の中国名)の主権を守る闘争を不断に強化しなければならない」と述べ、領有権主張の活動増強を指示したことが30日、分かった。これを受け海警局が、2024年は毎日必ず尖閣周辺に艦船を派遣し、必要時には日本の漁船に立ち入り検査する計画を策定したことも判明した。
(3)「岸田文雄首相が11月中旬の日中首脳会談で習氏に、尖閣を含む東シナ海情勢への「深刻な懸念」を直接伝えたばかり。中国側がこの指摘を顧みず、実際の行動によって領有権主張を強める方針であることが浮き彫りになった。中国が日本漁船の立ち入り検査計画を策定したことが明らかになるのは初めて。実際に検査を行おうとすれば、海上保安庁の船舶との摩擦拡大は必至で、偶発的な衝突が起きる懸念がさらに高まりそうだ。習氏は上海で11月29日、海警局の東シナ海海区指揮部を視察した。関係筋によると習氏は尖閣について「前進のみ。引くことはできない」と言明した」
習氏は、国内不満を逸らすべく尖閣諸島で日本漁船の立ち入り検査を示唆した。実行すれば、日中関係は一挙に緊張しよう。中国経済には悪いシグナルとなろう。自滅への道に繋がる。