勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2023年12月

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    中国国家主席・習近平氏は、国内経済悪化で窮地に立たされている。渦巻く国内の不満と不安を「戦狼外交」で打ち消す戦術に出てきた。過去の「専制君主」が取った強硬外交と瓜二つである。尖閣諸島で日本漁船の立ち入り検査も行う決定をしている。

     

    中国国家統計局が12月31日発表した2023年12月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は49.0に終わった。11月より0.4ポイント低く、3ヶ月連続で好調・不調の境目である50を下回った。不動産不況など需要不足が続いたほか、広い地域で降雪し経済活動の妨げとなった。中国景気は足踏みの状態が続いている。内訳をみると、新規受注は0.7ポイント低い48.7と、3ヶ月連続で50を割り込んだ。回答企業の6割超が「需要が不足している」と答えた。生産は50.2と節目を超えたが、前月を0.5ポイント下回った。『日本経済新聞 電子版』(12月31日付)が報じた。

     

    12月製造業PMIから浮かぶ中国経済の姿は、供給が需要を上回る状態であることだ。12月の生産者物価指数は、さらにマイナス幅を広げていることを予測させる。消費者物価指数もマイナス幅が大きくなろう。こういう事態を受けて、習氏は、国民の不満を外に向けざるを得ないのだ。

     

    『ロイター』(12月30日付)は、「中国習主席、『外交上の鉄の軍隊』の編成要請 強硬的な姿勢示唆」と題する記事を掲載した。

     

    中国の習近平国家主席は12月29日、共産党に忠実な「外交上の鉄の軍隊」を編成するよう中国大使に要請した。一部の外交官によって伝えられた「戦狼外交」のようなレトリックを想起させ、中国の外交政策が一段と強硬的になっていることを示唆した。

     

    (1)「中国国営中央テレビ(CCTV)によると、北京で開かれた中国大使らとの会議で「闘争に優れ、国益の擁護者となる勇気を持つべきだ。必要なのは強大な権力に対抗する準備と確固たる意志を持って、国家主権、安全保障、発展の利益を断固として守ることだ」と指摘。「規則と規律を前面に打ち出し、厳しく自らを律し、厳しく責任を取る必要がある。また、党に忠実で、闘争に優れ、厳しい規律を守る外交上の鉄の軍隊を編成することが必要だ」とした」

     

    習氏による訓示を煎じ詰めて言えば、「戦狼外交」を強化するという宣言であろう。だが、肝心の中国経済は疲弊仕切っている。もはや、外国へ支援する資金も思うように捻出できない事態へ向っているのだ。一帯一路で抱えた不良債権の山に悩まされているほど。23年、アフリカへの経済協力は激減した。もはや、「戦狼外交」の効き目は消えているのである。

     

    (2)「また、「党、国、人民への忠誠は外交戦線の輝かしい伝統」とし、「イデオロギー的な防衛線を強固に築き、確固たる政治的信念を持ち、規則と規律を厳しく順守する聡明な人物であることが必要だ」と語った。さらに、中国を封じ込め、抑圧しようとする西側諸国の企てに対抗するため、中国の国際的な影響力を高める必要性を強調。「われわれは広く深い友好関係を築かなければならない」とした

     

    融和外交は、潤沢な資金の支援があってこそ成功するものである。資金支援がなく、「ニーハオ」では効果はないのだ。まさに、「国益」あっての外交である。こういう「ニコポン」外交と裏腹に、習氏は尖閣諸島で厳しい姿勢をみせていたことが分った。

     

    『共同通信』(12月30日付)は、「習氏、『1ミリも領土は譲らない』尖閣諸島の闘争強化を指示」と題する記事を掲載した。

     

    中国の習近平国家主席が11月下旬、軍指揮下の海警局に対し、沖縄県・尖閣諸島について「1ミリたりとも領土は譲らない。釣魚島(尖閣の中国名)の主権を守る闘争を不断に強化しなければならない」と述べ、領有権主張の活動増強を指示したことが30日、分かった。これを受け海警局が、2024年は毎日必ず尖閣周辺に艦船を派遣し、必要時には日本の漁船に立ち入り検査する計画を策定したことも判明した。

     

    (3)「岸田文雄首相が11月中旬の日中首脳会談で習氏に、尖閣を含む東シナ海情勢への「深刻な懸念」を直接伝えたばかり。中国側がこの指摘を顧みず、実際の行動によって領有権主張を強める方針であることが浮き彫りになった。中国が日本漁船の立ち入り検査計画を策定したことが明らかになるのは初めて。実際に検査を行おうとすれば、海上保安庁の船舶との摩擦拡大は必至で、偶発的な衝突が起きる懸念がさらに高まりそうだ。習氏は上海で11月29日、海警局の東シナ海海区指揮部を視察した。関係筋によると習氏は尖閣について「前進のみ。引くことはできない」と言明した」

     

    習氏は、国内不満を逸らすべく尖閣諸島で日本漁船の立ち入り検査を示唆した。実行すれば、日中関係は一挙に緊張しよう。中国経済には悪いシグナルとなろう。自滅への道に繋がる。

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    文政権時代の「反日」がウソのように、韓国では週末1泊2日での日本旅行がトレンドになっている。11月は、約200万人弱が訪日した。韓国航空業界では、11月を一般的にオフシーズンと見なしている。だが、日本路線の場合は事実上、オフシーズンがなかったという盛況ぶりである。

     

    『中央日報』(12月30日付)は、「韓国、最近の旅行トレンドは『週末日本旅行』」と題する記事を掲載した。

     

    会社員のパクさん(31)は12月16~17日の週末を利用して福岡を旅行した。土曜日の朝に出国して日曜日の晩に帰ってくる1泊2日の日程だ。長くはないが、観光名所を訪れて現地の有名な店でウナギ丼を食べるには十分な時間だった。週末に日本旅行を楽しんだパクさんは月曜日午前、普段と同じように出勤した。パクさんは「高い航空券(45万ウォン)を買って2日間だけ旅行するのは少しもったいないが、円安の時期に短くても日本旅行ができてよかった」と話した。

     

    (1)「新型コロナ流行が落ちついて海外旅行需要が回復し、週末を利用して隣国の日本を訪れる旅行が増えたことが分かった。カカオモビリティーが自社のモビリティープラットホーム「カカオT」の海外車両呼び出しサービスと航空券購買サービスの利用者統計を分析した結果だ。海外車両呼び出しサービスは海外でも韓国国内と同じくタクシーなどの交通手段をカカオTアプリで呼び出すサービスで、世界37カ国で利用できる」

     

    韓国から日本へは空路1時間強の距離である。軽い気持ちで週末旅行に日本へ来ている。

     

    (2)「報告書によると、今年は休暇を取らずに週末に日本旅行をする人が特に多いという。カカオモビリティーが今年1~9月のカカオTアプリを通じた航空券販売統計を分析した結果、韓国から日本に出国する需要が最も多い曜日は金曜日であり、日本から韓国に帰国する旅行客は月曜日が最も多いことが分かった。カカオモビリティーは「日本観光の場合、金曜日の晩に出発して月曜日の朝に帰国する旅行が多かったために表れた結果」と分析した」

     

    金曜に出国し月曜に帰国するパターンも多い。3泊4日コースだ。日本の大都会だけなく、地方都市への足を伸している。リピーターの増加で、行動範囲が広がっている。

     

    (3)「カカオTアプリで最も多く売れた航空券の到着地は、日本の大阪で、東京と福岡が後に続いた。航空券販売1~3位がすべて日本だった。このほかタイ・バンコク(4位)とベトナム・ホーチミン(5位)も多かった。一方、カカオTアプリで航空券販売サービス接続が最も多い時間は午後2時だった。次いで接続が多かったのは午後5時であった」

    大阪・東京・福岡が、三大訪問地になっている。変わった行程では、屋久島まで遊覧飛行するツアーも人気を得ているという。パンデミック前は、中国人が大挙日本へ押し寄せた。現在は、中国経済の不況で跡形もないほどの落ち込みで、韓国が首位に踊り出ている。

     

    『中央日報』(12月18日付)は、「11月、日本に旅立った韓国人旅行客だけで約200万人…『日本路線は一年中繁忙期』」と題する記事を掲載した。

     

    11月、日本に向かった韓国人旅行客が200万人に迫った。22年10月11日、日本政府が韓国人のビザなし入国を許可して以来の最高値だ。

     

    (4)「12月17日、韓国国土交通部の航空情報ポータルシステムによると、11月の訪日韓国人旅行客は189万15人だった。新型コロナウイルス感染症(新型コロナ)直前の2019年11月(104万9753人)、日本不買運動前の2018年11月(176万6551人)より多い数字だ。海外旅行が正常化し始めた昨年11月(81万6901人)に比べると、100万人以上の差がある」

     

    今年の11月の韓国人訪日客数は、189万15人である。11月の韓国人訪日客数では、過去最高になった。

     

    (5)「航空業界では11月を一般的にオフシーズンと見なすが、日本路線の場合、今年中オフシーズンが事実上なかった。年明けの1月までは日本旅行客数は130万人だったが、毎月着実に増え、先月から180万人を超えた。円安の長期化とエンデミックにともなう報復消費が重なり、着実に増加傾向を続けたものと分析される。航空業界は、日本旅行の人気が当分続くものと見込んでいる。各航空会社は直ちに12月から年末・年明け、冬休みにつながる繁忙期を迎えて航空便を増やした」

     

    航空業界は例年11月が、オフシーズンである。だが、今年は日本航路が盛況で業界は「フル操業」という恵まれたシーズンになった。

     

    (6)「大韓航空は来年1月から鹿児島21便、大分31便、熊本28便、白浜4便など不定期便を増便する。大分路線の場合、2019年2月に運航を中断して以来、約5年ぶりに運航を再開した。エアソウルも来年1月1日から3月28日まで東京(成田)路線を週21回から23回に拡大する」

     

    大韓航空は、来年1月から不定期便を大量に増便する。ますます、訪日客が増えている結果だ。リピーター組が、円安のうちに日本旅行を堪能したいというのであろう。

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    中国は、情報戦で台湾総統選へ介入しようと狙っているが、現状では民間の監視団によって未然に防がれている。これが、中国へ接近する国民党候補への支持率の伸び悩みをもたらしているのかも知れない。 

    ニセ情報で目立つのは、「X(旧ツイッター)」に投稿された、人民解放軍の車両など装備品が台湾に近い中国福建省福州市に大規模に輸送されているというのがある。これは、映り込んだ高層ビルの特徴から、実際の撮影場所は台湾から遠く離れた北部の河北省石家荘市だとわかった。この投稿には1000件の「いいね」が集まった。中国派の「サクラ」であろう。 

    現地当局は12月23日、総統選の世論調査を捏造した疑いのある人物を拘束したと発表した。この人物は11月に中国を訪れて接待を受けていたとしている。台湾メディアの自由時報によると21日にも、偽の世論調査8件をオンラインに公開したとして台湾在住の記者が拘束された。当局は、ニセ情報取締りに全力を挙げている。

     

    『日本経済新聞 電子版』(12月30日付け)は、「台湾総統選まで2週間 対中で対立 無党派取り込みカギ」と題する記事を掲載した。 

    2024年1月13日に迫る台湾総統選を巡り、与野党3候補によるテレビ討論会が30日に開かれた。軍事威嚇を強める中国への対応を巡り、与党・民主進歩党(民進党)と最大野党・国民党の候補が火花を散らした。若者を中心とした無党派をいかにひき付けるかが終盤戦のカギを握る。3候補が直接向き合いやりとりするテレビ討論会は1回限りで、総統選の行方に影響を与える可能性もある。 

    (1)「美麗島電子報の調べによると、12月下旬時点で民進党の頼清徳・副総統の支持率は39.%。国民党の侯友宜・新北市長が28.%で追い上げる。第3政党「台湾民衆党」の柯文哲・党主席は18.%と低迷している。民進党の頼氏は、中国との融和を唱える国民党の侯氏に批判を集中させた。「国民党が政権に戻ったら米国からの武器購入ができなくなってしまう。自前の潜水艦建造も止まってしまう」と指摘した。00〜08年の民進党の陳水扁政権で、野党・国民党は米国から潜水艦などを購入するための国防予算案に69回反対した例を引き合いに出した」 

    野党国民党は、共産党との内戦で敗れた歴史を忘れて中国共産党へ接近している。与党民進党は、台湾出身者が主流だけに中国共産党へは強い対抗心をみせている。ただ、「独立」を口にすると軍事侵攻を引き寄せる口実にされるので、慎重である。台湾の人々は、「中国人」意識が薄れて、「台湾人」という認識が多数を占めている。これが、総統選にどのような結果をもたらすかである。

     

    (2)「民進党の蔡英文(ツァイ・インウェン)政権は米国との関係を深め、米国製の主力戦闘機「F16」の改良型の導入などを進めてきた。頼氏は蔡路線の継承で台湾の防衛力を高める必要性を訴えた。頼氏は国民党が中台間の市場開放を目指す「サービス貿易協定案」の審議再開を公約に掲げている点も問題にした。同協定案の審議は2014年に「中国経済にのみ込まれる」と反発した台湾の若者が立法院(国会)を占拠した「ひまわり運動」で頓挫した経緯がある。頼氏は、「国民党が戻ってくれば若い人の就職やあらゆる業界に打撃となり、台湾の社会不安を引き起こしてしまう」と話した。若い世代の団結と支持を求めた」 

    国民党は、中国との経済交流を深めようとしている。だが、米中対立によって台湾資本は中国を撤退している。こうなると、国民党の主張は現実性を持たないことになろう。米中対立という「大枠」の中で、台湾市民はどういう選択をするかだ。 

    (3)「侯氏は、「蔡路線のせいで台湾は世界で最も危ない場所と言われるようになった。中国との交流と対話が大事だ」と述べた。中台間の緊張が高まったため若者の兵役が24年から1年間に延長になり、若い世代の負担を増やしたと非難した。「蔡政権で国交を結ぶ国が9カ国も減った」と言及し、国際的な孤立を招いたとの見方を示した。頼氏はかつて「台湾独立」を主張しており、総統になれば中国との戦争の危険性が高まると提起した」 

    国民党の侯氏は、中台の対立原因を民進党がつくっているという論法である。中国を批判しないのだ。こういう「親中姿勢」が台湾市民から信頼を得られるかだ。

     

    (4)「侯氏は、「蔡路線のせいで台湾は世界で最も危ない場所と言われるようになった。中国との交流と対話が大事だ」と述べた。中台間の緊張が高まったため若者の兵役が24年から1年間に延長になり、若い世代の負担を増やしたと非難した。「蔡政権で国交を結ぶ国が9カ国も減った」と言及し、国際的な孤立を招いたとの見方を示した。頼氏はかつて「台湾独立」を主張しており、総統になれば中国との戦争の危険性が高まると提起した」 

    台湾が、世界で最も危ない場所になったのは、習近平氏の武力統合論が理由である。習氏を批判すべきである。 

    (5)「民衆党の柯氏は、「中台統一はできないし、台湾の独立もできない。9割のひとが現状維持を望んでいる」と唱えた。米中のはざまでバランスを取る必要を強調した。台湾の有権者は1950万人ほどで、おおむね2割前後が投票先を決めていない無党派とみられている。有権者は総統・副総統候補、立法委員(国会議員)の選挙区もしくは原住民区、比例区にそれぞれ1票を投じる。無党派の動向は選挙戦の趨勢を左右しうる」 

    「中台統一はできないし、台湾の独立もできない。9割のひとが現状維持を望んでいる」という主張はその通りである。これを、いかに現実化させるかだ。台湾市民は、これを民進党か国民党に託するのである。

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    日本製鉄のUSスチール合併問題について、米国政府は慎重姿勢である。だが、この合併は「ベスト」とする見方が提示されている。米企業同士の合併でなく、独禁法上の問題もないことや、日鉄の技術力によって米鉄鋼業が競争力を回復できるという視点だ。何よりも日米同盟をより確実にする上でも望ましい、としている。 

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(12月25日付)は、「日本製鉄を冷遇するバイデン氏の愚」と題する寄稿を掲載した。筆者のウィリアム・チュー氏はハドソン研究所の日本チェアフェローである。 

    ホワイトハウスは12月21日、日本製鉄が米鉄鋼大手USスチールを150億ドル(約2兆円)で買収する計画について「真剣な精査に値するように思われる」と表明した。この声明は、ジョン・フェターマン上院議員(民主、ペンシルベニア州)ら保護主義者の議員たちから非難の声が上がった後に発表された。同議員らは、労働組合や国家安全保障を巡る懸念を引き合いに出し、買収を阻止すると明言している。こうした反日本企業の発言は1980年代の状況を思い起こさせる。当時は、冷戦期に極めて重要だった日米の二国間同盟が両国間の通商摩擦によって弱体化する恐れがあった。

     

    (1)「日本製鉄による買収合意に対する米国の政治家からの不当な批判は、日米関係を悪化させ、通商や経済安全保障の面での連携を弱める可能性がある。ホワイトハウスは経済・軍事協力に関して同盟諸国と連携すべきであり、これらの国を批判すべきではない。日本製鉄による買収への反対意見は精査に耐えられるものではない。USスチールの主な労組である全米鉄鋼労組(USW)の幹部にとっては、米国内の同業クリーブランド・クリフスへの売却の方が望ましいようだ。彼らは日本製鉄が以前の労働協約を維持しないだろうと主張している。だが日本製鉄は米国で40年間操業しており、米国の労組と協力してきた経験があるほか、USスチールの労組との約束を尊重すると述べている」 

    日鉄とUSスチールとの合併は、政治家と労組が反対するという屈折した形だ。感情論である。独禁法上の問題ではない。 

    (2)「日本製鉄への身売りによって、米国の消費者は守られる。USスチールがクリーブランド・クリフスと合併していたら、新会社は自動車業界への鉄鋼供給を独占し、電気自動車(EV)に必要とされる鉄鋼のすべてを供給していたはずだ。競争の欠如は、消費者がEVに支払うコストの上昇につながる公算が大きい。この身売りが国家安全保障上の脅威になるとの主張も説得力がない。連邦議会の売却反対派はジャネット・イエレン財務長官に対し、対米外国投資委員会(CFIUS)を利用して売却を阻止するよう求めている。これは筋が通らない。日本は中国と違い、米国の重要な同盟国だ。米下院の中国共産党に関する超党派の特別委員会は今月、親密な同盟国を対象とするCFIUSの「ホワイトリスト」に日本を加えることを議会に勧告した 

    下線部の指摘は重要である。米下院の中国共産党に関する特別委員会は、日本を「ホワイトリスト」に加えて優遇すべきと議会に勧告している。

     

    (3)「既にこのリストに入っている国には、オーストラリアとカナダ、ニュージーランド、英国がある。このリストに加えられると、資格のある投資家は、非支配的な取引、不動産取引、強制的な報告義務に関してCFIUSの管轄権限の対象外になる。日本製鉄は米国での生産を維持する計画であり、これは米国の経済安全保障の強化につながるだろう。中国の鉄鋼メーカーは世界市場を支配しており、世界のトップ13社のうち9社が中国企業だ。今回の買収が実現すれば世界3位の鉄鋼メーカーが誕生する。日本製鉄は、中国メーカーが国外で余剰な鉄鋼を安値で販売することで生じる市場のひずみから米国の消費者を保護するだろう」 

    ホワイトリストに入っている國は、オーストラリア・カナダ・ニュージーランド・英国である。これに、米国を入れると「ファイブ・アイズ」(機密情報共有国)であり、CFIUSの管轄権限の対象外になっている。米下院の中国特別委員会は、日本をこれに加えよと勧告しているほどだ。日鉄とUSスチールの合併は当然、承認されるべき案件である。

     

    (4)「皮肉なのは、バイデン政権の産業政策が今回の合意をもたらしたという点だ。日本製鉄はUSスチールの買収を正当化できる根拠として、インフラ投資法によって今後の鉄鋼需要が高まり、米国内の生産が刺激されることを挙げている。同社はインフレ抑制法からも恩恵を受ける。同法は、再生可能エネルギーのプロジェクトに税控除やその他の支援策を提供しており、こうしたプロジェクトの設備の建設に鉄鋼が必要になる。バイデン政権がこれまで米国の同盟・友好諸国との貿易・経済安全保障面での協力の機会を逃してきたことを考えると、日本製鉄の試みは注目に値する。インフレ抑制法はクリーンエネルギーへの転換に弾みをつけることを目指していた。しかし実際には、恐らくEV技術よりクリーンな日本のハイブリッド車技術を選好するのではなく、中国が支配的な地位を占めるEV用電池関連の供給網への米国の依存度を高めている 

    下線部は、日鉄・USスチール合併がバイデン政権の推進したインフレ抑制法に則っているという事実だ。バイデン政権は、自らの政策によって生まれた日鉄・USスチール合併を拒否することがあれば、きわめて矛盾したことになる。

    次の記事もご参考に。

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    中国の小売売上高は、季節調整値でみると「ゼロ成長」状態に陥っている。現実に、この小売不況突破策としてスーパーが安売り競争を始めている。これは、日本が歩んできた「コストカット競争」であり、危険な前兆である。中国経済が、「日本化」している顕著な例になろう。

     

    この背景には、不動産バブル崩壊後という経済構造の大変動が起こっている。住宅産業は、中国最大のビジネス部門である。ここが、崩壊したことから需要減少・雇用不安が雪崩のごとく起こっても不思議はない。小売業は、需要減という縮小するパイを安売りで凌ごうという羽目に陥っている。

     

    『ロイター』(12月30日付)は、「中国小売業、低価格戦略にシフト デフレ基調根付く懸念も」と題する記事を掲載した。

     

    中国の小売企業は価格に敏感な消費者を獲得しようと低価格戦略にシフトしており、足元のデフレ基調が経済に根付いてしまうリスクも生じている。

     

    (1)「値下げ、ディスカウント店の増殖、自社製品の廉価版導入といった現在の潮流は、利ざや圧縮、賃金と雇用の圧迫、消費意欲のさらなる減退という悪循環を招きかねない。そうなれば、ゼロコロナ政策解除後の景気回復が期待外れに終わった中国経済に、さらに逆風が強まりそうだ。日本の「失われた数十年」が引き合いに出されることも一段と増えた」

     

    中国では、安売り競争が始まっている。日本の「失われた30年」の例が取り沙汰されているという。そういう雰囲気が、定着してきたのだ。

     

    (2)「中国では、所得の伸びが減速して消費低迷が常態化し、一部の産業は減収に見舞われている。ハンセン銀行のエコノミスト、ワン・ダン氏は「企業はシェアを維持して市場から閉め出されるのを避けようと、価格を引き下げている」とし、「間違いなく価格下落、あるいは低インフレ環境になっている」と指摘した。財布のひもを締める消費者に合わせ、多くの小売企業が廉価商品を出している

     

    消費者が、廉価商品を求めている以上、企業もこれに対応せざるを得ない事態だ。この流れが定着すると、確実に「日本化」である。

     

    (3)「行き届いたサービスで知られる中国最大の高級火鍋チェーン、海底撈火鍋は9月末、低価格ブランドの店舗を2店オープンした。旗艦チェーンの70元よりずっと安い28元(3.92ドル)で牛肉料理を提供している。人件費節約のため、カフェテリアスタイルも採用した。米ウォルマート系列の会員制スーパー、サムズクラブと、アリババの食品スーパー、盒馬鮮生(フレッシッポ)は過去5カ月間、価格戦争を繰り広げている」

     

    高級火鍋チェーン店までが、半分以下の価格で牛肉料理を提供する時代になった。日本で言えば、帝国ホテル並みの高級イメージのレストランが、ラーメン店を開くようなものだろう。

     

    (4)「上海のマーケティング代理店チャイナ・スキニーの創業者、マーク・タナー氏は、消費者の「バリュー」追求により、「ほぼ全てのカテゴリーで、長年にわたるトレードアップ(より高い商品に買い換える)流れが逆転しつつある」と説明。サプリメント、乳製品、スキンケア、化粧品など複数の製品で平均販売価格が下がっていると述べた。政策当局者はインフレ率の上昇見通しを示しているが、今月発表されたデータを見ると、消費者物価は過去3年間で最も急スピードで下がり、工場渡し価格のデフレも深刻化している」

     

    下線のように、全てのカテゴリーで安売り競争に加わっている。こうなると、安売り競争は、一層の拡大をみるだろう。消費者物価の低迷と生産者物価の下落が、中国経済の現状を包み隠さずに象徴している。

     

    (5)「こうした環境下、中国では比較的新しい現象として、新種のディスカウント店が台頭し、大手の大幅値下げに拍車をかけている。創業6年のスナック菓子チェーン、零食很忙はスーパーよりも安い菓子を販売しており、店舗数を現在の約4000から2025年には1万店に増やす計画だ。これに対抗し、中国最大のスナック菓子ブランド、良品子(ベストア)は11月、300商品について平均22%の値下げを実施した」

     

    新種のディスカウント店が、チェーン化し始めている。こうなったら、中国経済は「お手上げ」である。不動産バブル崩壊が、ついにここまで波及してきたのだ。一巻の終わりである。

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