勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2024年02月

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    日本企業による投資が増えているアジアの国・地域はどこか。投資額の伸び率をみるとシンガポール向けが4年間で約3倍となった。シンガポールは、政府が進めるオープンイノベーション政策が奏功して研究開発(R&D)拠点の集積地となっている。中国への投資は、経済活動の自由度が狭まるリスクの高まりから、多くの日本企業が慎重になっている。中国は、日本企業誘致で血眼になっているが、結果は全く逆である。 

    『日本経済新聞』(2月26日付)は、「日本企業のアジア投資の増減率 首位シンガポール 4年で3倍 中国・韓国は大幅減少」と題する記事を掲載した。 

    日本銀行が集計し、財務省がまとめた国際収支関連統計で国・地域別の統計を比べた。日本企業が海外で工場の新設や設備増強をしたり、企業を買収したり、といった直接投資の金額を新型コロナウイルス禍前の19年と23年(速報値)とで比較し増減率をランキングした。現地からの撤退にかかるコストや負債の支払いといったマイナス収支は加味しない。

     

    (1)「アジア全体では23年の投資額は17兆3000億円と過去10年間で最も大きかった。コロナ禍直前の19年比では1.7倍に増えた。新型コロナの影響が大きく出た20年は9兆円にまで落ち込んでいた。19年から23年にかけ、世界全体への日本企業の投資額は1.2倍の伸びで、アジア向けの伸びが際立つ」 

    日本企業は、19年から23年にかけての世界への投資額1.2倍の増加で、アジア向けが飛び抜けていた。 

    (2)「ランキング首位のシンガポールの伸び率は、3.3倍と2位以下に大きく差をつけた。海外投資の実態に詳しい国際貿易投資研究所の増田耕太郎客員研究員は、「政府が進めるオープンイノベーション政策が奏功して研究開発(R&D)拠点の集積地となり、アジア事業を展開する上でハブ地域になっている」と分析する。人工知能(AI)や半導体、ヘルスケアなどの企業が世界から集まりつつある」 

    シンガポールの伸び率は3.3倍で、「断トツ」である。シンガポース政府のオープンイノベーション政策が成功しているからだ。オープンイノベーションとは、企業が技術の価値を高めようとする際、内部のアイデアともに外部のアイデアを用い、市場化の経路としても内部の経路と外部の経路を活用することだ。シンガポールは、これが優れている。

     

    (3)「雪印メグミルクは22年、シンガポールにアジア・オセアニア地域の統括拠点となる現地法人を設立した。消費が拡大するアジア市場の調査やM&A(合併・買収)を進める上での拠点と位置づけた。シンガポールはスタートアップの間口も広い。JR東日本は50億円を投じてコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)を同国に設立する。広告や物流のデジタル化で新たなアイデアを持つスタートアップを東南アジアで探し、出資するための拠点にする」 

    シンガポールのオープンイノベーション政策は、JR東日本まで取り込んでいる。 

    (4)「伸び率の2位は、ベトナムで2.1倍になった。豊富な労働力が経済を押し上げる人口ボーナス期は峠を越したとみられているが、国民の平均年齢が30歳代前半と日本よりも10歳以上若く、人口は増え続けている。消費市場の拡大を狙った小売業や、労働力を求める製造業の進出が目立つ。ファーストリテイリング傘下のユニクロは、19年末にベトナムに初出店し、現在までに22店舗を展開する。良品計画も20年11月に店舗を構え、8点まで増やした。イオンモールは都心だけでなく、郊外への展開も進めている。村田製作所は23年8月、43億円を投じて電子部品の工場を新設した」 

    ベトナムが、日本の投資先2位となった。人口が増え続けるなど市場としての価値が高い。

     

    (5)「日本貿易振興機構(JETRO)が、23年に実施したアンケート調査によると、日本の企業で事業拡大を図る国・地域はベトナムが25%と、米国の28%に次いで多かった。同機構でベトナムを担当する庄浩充氏は「人件費が比較的安価で、購買力も伸びる。米中とも関係が良好で地政学リスクが少ない」と利点を話す」 

    ベトナムは、地政学リスクがないことや人件費の安いこともあり、米国と並んで今後の有望市場に上げられている。 

    (6)「3位は、インドで91%増だった。モディ政権の製造業振興策に伴い、半導体や自動車、電池の世界大手が製造拠点を相次ぎ立ち上げている。投資誘致では金融業の役割が増し、三菱UFJ銀行が22年に経済特区で邦銀として初めて支店を立ち上げた。」 

    インドは3位である。製造業が立ち上がるまでには時間が掛るとみられている。

     

    (7)「韓国は47%の大幅減少となった。尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権になってから日韓関係は改善しているが、文在寅(ムン・ジェイン)前政権が打ち出した素材や部品の「脱日本」施策などの影響は残る。また、経済の冷え込みで韓国企業の設備投資が盛り上がりに欠き、日本企業は韓国以外の国・地域に投資を振り向けた可能性がある」 

    韓国は、日本企業にとって「反日イメージ」が残っており、「脱韓国」という流れが存在する。 

    (8)「中国への投資は20%減少したが、投資額そのものは23年も1兆円を超えた。海外における日本法人の拠点数は、中国が圧倒的に多い。外務省がまとめた22年の日系企業拠点数によると、中国は3万1324カ所とアジアのみならず世界で最多だった。1990年代以降、労働力や原材料などのコストが低いことを理由に日本の製造業が中国拠点を増やしたが、これらの利点は薄れつつある。企業活動の自由度を狭める習近平(シー・ジンピン)政権の施策への不安もあり、代わりにベトナムやフィリピンへの投資を増やす「脱中国」の動きも広がっている」 

    ベトナムやフィリピンが、「脱中国」の受け皿になっている。「反スパイ法」も影響している。

     

     

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    中国企業の不況は深刻な事態に陥っている。ドイツの先進ロボット企業と合弁契約を結んだものの、資金不足で必要な投資ができず、これを不服としてドイツ企業が契約を解除して撤退した。中国にとっては、後味の悪い結果だ。

     

    『レコードチャイナ』(2月26日付)は、「ドイツの先進ロボット企業 中国との合弁解消し生産拠点をドイツに戻すー独メディア」と題する記事を掲載した。

     

    独国際放送局『ドイチェ・ヴェレ 中国語版サイト』(2月22日付)は、ドイツのロボット企業が中国企業との合弁をやめ、生産拠点を中国からドイツに戻すと報じた。

     

    (1)「記事は、ドイツのバーデン・ビュルテンベルク州に本社を置くスタートアップ企業Neura Roboticsが先日、現在ロボット4機種を生産している中国工場を引き払い、すべてドイツ国内で生産する意向を示したと紹介。創業者が、「ドイツにはエネルギー価格の高止まりなど多くの問題があるが、転ばぬ先の杖ということで生産拠点を自国に戻すことにした」と理由を説明するとともに、「ドイツ製品の品質は今なお世界で広く認められているので、ドイツでの生産には自信を持っている」と語ったことを伝えた」

     

    ドイツの先端ロボット技術が、中国へ流れることに疑問も多かった。それが、今回の契約違反で解除となった。ドイツでは、胸をなで下ろしているであろう。

     

    (2)「同社は、中国広東省深セン市のロボット会社との合弁により運営していたものの、中国側が約束していた投資がしっかりと行われないなど双方の提携が順調に進まなかったことを理由に合弁を解消し、西側企業を新たな株主に迎えたとした。記事によると、同社は先進的な感覚機能を備え、世界で初めて人工知能(AI)とロボット技術を融合した認知機能付き協働ロボット「Maria」を生産しているという。同社の新たな株主となったHVキャピタルのグルーナー氏は、生産拠点をドイツに戻すことについて「ドイツの技術の自主性や世界市場における競争力を高めることにつながる」と歓迎の姿勢を示している」

     

    協働ロボット「Maria」は、世界で初めて人工知能(AI)とロボット技術を融合した、認知機能付き協働ロボットである。中国は、AI半導体製造が米国の輸出規制によって困難ゆえに、合弁事業への融資を渋ったのであろう。

     

    (3)「記事は、ドイツの多くの中小企業が中国とのビジネス縮小、あるいは中国市場から撤退を模索していることが最新データで明らかになったと指摘。在中国ドイツ商工会議所が1月に実施した調査では、中国市場から撤退した、あるいは撤退を検討しているドイツ企業の割合が9%と4年前の2倍以上に増え、44%の在中国ドイツ企業が地政学の変化やサプライチェーン問題など起こりうるリスクへの対策を講じたと回答する結果が出たと紹介した」

     

    ドイツ企業は、徐々に中国からの撤退を始めている。今のところはまだ、大きな流れでないが、中国の少子高齢化の進行とともに中国の魅力は低下する。

     

    『ロイター』(1月25日付)は、「中国市場から撤退もしくは撤退検討の独企業が増加ー商工会議所」と題する記事を掲載した。

     

    在中国ドイツ商工会議所の調査によると、中国市場で事業を展開しているドイツ企業のうち、同市場からの撤退を「進めている」もしくは「検討している」企業が占める比率は9%となり、4年前の4%から2倍強に上昇した。調査は昨年9月5日から10月6日にかけて566社を対象に実施した。

     

    (4)「ドイツ企業が中国市場で直面する地元企業との競争激化、不公平な市場参入条件、経済的逆風、地政学リスクといった試練が浮き彫りになった。調査では、中国事業の売却を進めているドイツ企業は全体の約2%、売却を検討している企業は7%を占めた。さらに全体の44%は、中国に依存しないサプライチェーン(供給網)を構築するなど、中国での事業運営に関連したリスクへの対応策を講じている。また中国経済が下振れ方向の軌道に直面していると答えたドイツ企業は全体の約86%を占めた。だが大半の企業は、こうした状況は一時的であり、向こう13年で景気は回復すると予想した」

     

    ドイツ企業は、売却を進めている企業が2%。検討中は7%もある。実に、9%が撤退構えである。さらに41%は、中国に依存しないサプライチェーンを構築するとしている。ドイツ企業の「中国熱」は完全に冷めてしまった。

     

    (5)「中国では新型コロナウイルスのパンデミックからの回復の足取りが想定よりも弱いことが判明。不動産危機の深刻化やデフレリスクの増大、需要の低迷により、今年の見通しが不透明になっている。それでも回答社の約54%は、競争力を維持するため投資を増やす方針を示した」

     

    54%の企業は、競争力を付ける投資を行うという。全体からみれば半分である。ドイツ企業は、中国に対して「半身」の構えである。変われば変わったものだ。

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    米自動車工業会(AAM)は23日、米政府は低コストの中国の自動車・部品のメキシコからの輸入を阻止すべきだと訴えた。米国メーカーの存続が、脅かされる恐れがある問題だと警鐘を鳴らしている。メキシコは、米国・カナダとともに「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」へ加入している。この協定では、中国からの輸入に厳しい枠がはめられているはずだが、改めて中国製の自動車・部品等の輸入阻止を訴えたものとみられる。

     

    『ロイター』(2月26日付)は、「米政府、メキシコからの中国車輸入を阻止すべきー業界団体」と題する記事を掲載した。

     

    米自動車工業会(AAM)報告書は、「低価格の中国の自動車が入ってくれば、最終的には米自動車セクターが消滅するほどの事態となる可能性がある」と指摘。中国に本社を置く企業がメキシコで生産した自動車と部品が、北米自由貿易協定(NAFTA)の恩恵を享受できないように、米国は取り組まなければならないと主張した。

     

    (1)「メキシコで生産された自動車と部品はNAFTAに基づく優遇措置を受けることができる上、米国の電気自動車(EV)購入者に適用される最大7500ドルの税額控除の対象となる。この問題は、中国のEV大手BYD(比亜迪)がメキシコでの工場開設を計画しているとの報道を受け、関心が高まった。低価格モデルで知られるBYDは車種を増やしており、このほど販売台数で米テスラを抜いて世界最大のEVメーカーとなった」

     

    中国BYDは、メキシコへEV(電気自動車)生産基地をつくり、米国へ無関税で輸出し補助金まで得られるとなれば、米国内が反対へ向けて沸騰するであろう。余りにも、国際情勢を無視した話であるからだ。

     

    (2)「米議会では、超党派の議員団がバイデン政権に対し、中国製自動車に対する関税を引き上げるとともに、中国企業がメキシコから米国に自動車を輸出することを防ぐ方法を検討するよう求めている」

     

    米国では、財務省や商務省がこの問題に対して動いている。BYDの構想が、そのまま実現できるほど米国は「寛容」でない。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(2月20日付)は、「中国EVのBYDがメキシコに足場、米国進出目指し」と題する記事を掲載した。

     

    中国の自動車メーカー比亜迪(BYD)は、米国進出に向けてメキシコに狙いを定めている。BYDはメキシコで工場用地の調査を行っており、この工場から米国に自動車を輸出することを検討する。事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。

     

    (3)「BYDの計画は中国自動車業界で、政治的リスクがあるにもかかわらず、北米進出への熱意が高まっていることを示している。中国の自動車メーカーが米国市場向けの自動車をメキシコで生産すれば、中国から直接輸出した場合に課される高い輸入関税を支払わずに済む。ライバルの自動車メーカーのトップは、中国の潜在的な脅威に警鐘を鳴らしている。米国で中国メーカーとの競争を回避するため政府による対策強化の必要性を示唆する人もいる。これらのトップは中国のEVメーカーがコスト面で大幅に有利な立場にあるとみており、危惧している」

     

    中国政府は、EV・電池・太陽光発電パネルを三大「革新産業」として推進している。BYDは、こうした中国政府の意向を受けて動いているのであろう。

     

    (4)「米中のEVメーカーが対決するのはまだしばらく先かもしれない。BYDの計画に詳しい複数の関係者によると、同社はまだメキシコに関して何も決定していない。BYDの広報担当者は新たな市場について近く発表する予定はないと述べた。証券取引所への提出書類によると、少なくとも10社を超える中国のEV部品メーカーが近年、メキシコの新工場を発表したり同国で追加投資を行ったりしている。こうした動きは北米の自動車メーカーに域内調達品の使用を奨励する米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に対応したものだ」

     

    メキシコ政府は、中国EV進出が米国・メキシコ・カナダ協定に違反することを認識しているので「ピリピリ」した態度で臨んでいる。最初のカギは、メキシコ政府の対応であろう。

     

    (5)「BYDは中国国内外で急速に事業を拡大しており、同社の低価格EVは近年、欧州や東南アジアなどで販売が勢いづいている。昨年10~12月期にはBYDがEV販売台数で初めてテスラを抜き、世界一になった。一部の西側自動車メーカーの幹部は最近、自社のEV計画に中国メーカーがもたらす潜在的な脅威について発言を強めている。BYDなど中国に拠点を置くEVメーカーが最先端技術を搭載したしゃれたEVを手頃な価格で提供し、顧客を引き付けることができるのは技術と政府の補助金、安い人件費のおかげだ」

     

    中国EVが、中国政府の輸出「国策産業」であるので、米国が易々と輸入を承認することはあり得なことだ。こうした政治リスクを承知して、BYDは「ダメ元」ということであろう。

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    (3)「非正規の処遇を改善するための法律は作られた。例えば、15年に労働者派遣法が改正され、同じ職場で派遣労働者が3年働いた場合、正社員に登用する努力が義務づけられた。それにもかかわらず、非正規雇用者の状況は不安定なままで、先行きが明るいとは言い難い。彼らにとっては国民年金保険料の支払いですら負担になり、満額でも月6万6000円程度にとどまる年金を将来もらえるかどうかの心配をしなければならない。社会保険料も同じだ。収入の低さが生活を苦しめる」

     

    これも従来のケースである。労働力不足という絶対的条件の下で、安い賃金で非正規雇用を雇おうとしても不可能になろう。

     

    (4)「日本では10年代の終わりから労働力不足が顕著になり、非正規雇用者の数が減りさえした。その一方で90年代からずっと不安定な雇用のままという人たちがいる。その多くは女性だが、彼ら、彼女らは定年後も十分な社会保障を受けられず、自分の生活すら維持できないかもしれない。大きな困難を抱えるであろう高齢者は何百万人にも上りかねない。日本では高齢者の貧困率は既に高いが、心配な水準にまで達する危険がある。人口減少が進めば、働きざかりの若い世代がさらに減り、こうした高齢の貧困者を助けることが一層困難になる。日本は、数十年のうちに爆発するかもしれない数々の社会的爆弾に脅かされている。それは日本をもっと脆弱にし、衰退に拍車をかける

     

    下線部のようなことは起こるはずがない。日本で、新規産業が続々と興っているからだ。半導体の復興によって、すでに九州地域の最低賃金は東京や大阪を上回っている。半導体による賃金爆発が、これから東北や北海道でも起こる。海外からは、「衰退する日本」は楽しみでもあろう。だが、日本の技術開発力と中国による地政学的リスク回避の世界的流れの中で、日本経済は必ず復活する。中国を忌避する外資の直接投資が、日本へ向うという事実を見落とした議論に説得力はない。固定観念で日本経済を論じると、大きな見誤りを起こすであろう。

     

     

     

     

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    無意味な中国“大国論”

    陰謀論で覇権獲得狙う

    米は精緻な対抗策樹立

    軍部タカ派が政策関与

     

    中国は建国以来、多くの辛酸を舐めてきた。中でも、現在の経済危機が不動産バブル崩壊という世界経済史に残る規模だけに、その解決には長時間を要するはずだ。最大の問題は、真っ当な経済政策による「解決手段」を持たない点にある。これは、中国が内部的に「軍事国家」を標榜して、秘かに米国の覇権を奪取する目的によるものだ。経済成長よりも安全保障を重視する。こういう政策が招いた破綻である。 

    習氏は、「社会主義的金融政策」で乗切るという、意味不明な発言をしている。過剰債務を金融緩和によって、「凍結」しようという狙いであろう。不動産バブル崩壊に伴う過剰債務処理は、時間がかかればかかるほど利息を生んで債務が膨れ上がるという難物である。こういう現実から、早期解決が望まれるのだ。 

    中国にその動きがないのは、財政赤字拡大を恐れているからだ。この裏には、中国が経済優先でなく軍事優先という動かしがたい構造によって縛られている事実を認めるほかない。これが、経済的に合理的判断を阻止しているのだ。

     

    中国は、驚くほど合理的解決法を模索しない国である。儒教という背景を持つ国家である結果だが、古代の戦術に全ての範例を求めている。中国古代には、不動産バブル崩壊はなかったが、土地所有をめぐって公有と私有の両極で大きく揺れ動いた経験を持っている。いずれも抜本的な解決ができず、公有による土地の疲弊と私有による土地集積という弊害を繰返し、国力が疲弊してきた。現在は、政府が土地公有を利用して住宅高騰を煽るという新たな矛盾に陥っている。政策面での進歩が、全くみられない希有の国である。 

    無意味な中国“大国論”

    中国は、合理的な根拠もなく「超大国論」を振り回している。多分、人口が多いこと・国土面積が広いこと・歴史が古いことの3点が理由とみられる。個人レベルで言えば、「名家」出身ということで、社会から尊敬され影響力を持って当然という意識だ。国家も個人も同じだが、それに相応しい真面目な努力を欠いた独善的な振舞は、周囲から浮き上がり自滅へ進むだけである。 

    中国は、毛沢東によって率いられて以来一貫して、世界覇権を握ることを目標にしてきた。2049年が建国100年になることから、政権内部では秘かに「100年マラソン」と銘打った謀略によって米国を陥れる戦術を練ってきた。米国が、これに気づいたのは2015年である。トランプ政権が、中国へ厳しく対応した裏には、この存在が大きな影響を与えたのだ。

     

    習近平氏が、中国国家主席に就任して不動産バブルを容認する政策に転じたのは、国力(GDP)の押し上げを焦った結果である。前述の米国の覇権打倒を目的とする「100年マラソン」計画がなければ、あのようなバブルによる無謀な経済底上げに走ることもなかったであろう。 

    「100年マラソン」計画の多くは、中国人民解放軍のタカ派軍人によって構築されてきた。驚くべきことは、非軍事的な戦略に関しても重要な役割を担っていることだ。例えば、家族計画や税制や経済政策といった分野まで介入している。中国経済が現在、瀕死の重傷を負っている裏には、こういう信じがたい軍部の介入が影響していると想像させるのだ。この点については、後で詳しく取り上げたい。 

    中国が描いている米国打倒の計画とは、次のようなものである。マイケル・ピルズペリー『China2049』(2015年)で明らかにされた。 

    1)敵の自己満足を引出して、警戒態勢を取らせない。

    2)敵の助言者をうまく利用する。

    3)勝利を手にするまで、数十年、あるいはそれ以上、忍耐する。

    4)戦略的目的のために敵の考えや技術を盗む。

    5)長期的な競争に勝つ上で、軍事力は決定的要因ではない。

    6)覇権国はその支配的な地位を維持するためなら、極端で無謀な行動さえとりかねない。

    7)勢いを見失わない。

    8)自国のライバルの相対的な力を測る尺度を確立し、利用する。

    9)常に警戒し、他国に包囲されたり、騙されたりしないようにする。

     

    陰謀論で覇権獲得狙う

    これら9項目をすべについてコメントするのも煩わしいので、目立ったものだけを取り上げたい。

    2)米国のキッシンジャー元国務長官は、まさにこれに該当する。中国から資金が渡っていたことは明らかになっていた。

    3)国民へ耐乏生活を強いることを前提にしている。「双循環モデル」(内需を中心にして貿易を従とする)という閉鎖経済モデルを2020年に唱え始めた。

    4)技術窃取は日常、茶飯事に行われている。ただ、海外による対中直接投資(FDI)の減少で、海外の技術窃取が難しくなっている。依然、スパイ活動の技術窃取は活発である。

    5)軍事力に頼らずに、長期的な競争に打ち勝てるとしている。謀略戦を使うという意味だ。これは、国力を消耗しないという前提に立っている。

    6)米国による「世界の警察官」行動を軽蔑している。中国が、世界各地で騒ぎを引き起こして、米国の国力を消耗させる戦術であろう。

    7)他国を騙して思い通りに操ることを意味する。そして、最大の米国打倒の好機を待つという「持久戦」を目指している。最近の「BRICS」拡大は、この一環である。

    9)中国が、最も忌避している項目だ。中国包囲網を作らせないとしているが、「戦狼外交」への反発で、既に包囲された。米国・日本・韓国・台湾・フィリピン・豪州が「敵側」だ。

    (つづく) 

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