勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2024年03月

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    習近平国家主席は、中国社会主義の成功を広言している。その裏では、中国の若者が生命の危険を顧みず米国への違法移民でメキシコへ殺到している。このちぐはぐな現象の中に、中国の抱える深い闇が浮き彫りになっている。中国の青年は、自分たちの未来を習近平氏でなく、米国へ託そうとしているからだ。 

    『中央日報』(3月31日付)は、「拡大一途のG2格差、激変の北東アジアの未来・コラム」と題するコラムを掲載した。筆者は、全光宇(チョン・グァンウ)/世界経済研究院理事長、元金融委員長である。 

    「政治システムの革新がない限り中国経済は没落の道を行く」。今週開催されたある国際フォーラムで筆者と対談した世界的ベストセラー『国はなぜ失敗するのか(Why Nations Fail)』の共著者であるシカゴ大学のジェームズ・ロビンソン客員教授が切り出したメッセージの反響は大きかった。

     

    (1)「10年前の出版から依然として名著に挙げられるこの本は、国の興亡は人種的、文化的、地理的要因ではなく政治体制と制度にかかっていると説明する。強力な全体主義的リーダーシップが、経済発展の過渡期的成果を出すことはあるものの持続可能ではないという話だ。韓国が、持続的に繁栄するには対内的に自由民主主義体制をさらに強固にし、対外的には自由民主同盟を強化することに注力しなければならないという助言も忘れなかった」 

    一国の発展が、政治体制と制度にかかっているというのは事実だ。独裁は、過渡的に経済を発展させるものの永続性がない。中国の現状は、これを示唆している。 

    (2)「自国優先主義、新保護主義拡大、新冷戦時代という三角波が押し寄せる懸念が大きくなっている。現在、中国経済が逆走して東アジアの地政学的リスクも大きくなっている。実体と金融の両面で、米国経済の独歩的好況の中で中国の長期沈滞の懸念と、日本の復活の兆しが対照を見せる。先週米連邦準備制度理事会(FRB)の今年の経済成長率見通し上方修正とともに年内の3回の利下げを予告する好材料が重なる中で、米日の株価は過去最高を更新した。これに対し中国・香港の証券市場は過去最高値の半分水準まで下落した」 

    米中経済の格差は、大きく拡大に向っている。米国は、グローバル経済下で中国へ流出した投資が、国内へ戻っていること。また、海外資本が日米へ向っているという二重の幸運が経済を押し上げている。中国の「不運」が、米国と日本の「幸運」をもたらしている。

     

    (3)「こうした渦中に中国は内需沈滞を克服するため輸出を推進しダンピング問題と通商摩擦問題を育てている。中国の友好国であるブラジルと欧州の西側諸国は中国のダンピング戦略に反旗を翻し提訴する動きすら見せている。中国経済を見るには公式統計より実際の事例が有益な場合が少なくない。昨年、米国とメキシコの国境を越えた250万人の移民のうち違法移民の相当数が中国出身で、その規模は出身国のうち最も速く増えた。メキシコの障壁を越えてでも希望を探そうとする違法移民の多数が中国人という事実は中国の政治・経済状況の深刻性を端的に見せる。不動産・株式投資の損失に職まで失った青年の宝くじ買いあさりブームも中国の痛い断面だ」 

    下線部は、中国の深刻な事態を浮き彫りにしている。中国にとどまっても仕事はない。自由もない。こういう二重苦三重苦に苛まれるより、「自由の天地」米国で人生の再出発を願っている。習氏にとって、これほど屈辱的な状況が起こっているのだ。

     

    (4)「11月の米国大統領選挙でバイデン大統領とトランプ前大統領のうちどちらが当選しても中国が最大の被害国になるのは明らかだという見通しが出ている。米国国民の絶対多数が対中強硬策を支持する局面でだれがなろうとG2(主要2カ国)の対立はさらに悪化すると予想され、トランプ氏はすでに中国製輸入品に対する関税を大幅に引き上げることを警告した。昨年中国に流入した海外直接投資(FDI)330億ドルは前年より82%激減してこの30年で最低水準を記録し、韓国の対中投資も78%急減した。数日前に北京で行われた「中国発展フォーラム」で習近平主席は米国企業の最高経営責任者(CEO)を招いて中国経済はまだ頂点に達していないと主張しながら資本離脱遮断と新規投資誘致に必死の努力を傾けた」 

    中国は経済的苦境脱出で、米国資本の対内投資を仰ぐほかない事態に陥っている。本来の「米国覇権打倒」という勇ましい旗印からは、口が裂けても言えない話であろう。 

    (5)「ここに先週、米下院の公聴会に出てきた米インド太平洋軍のアキリーノ司令官の証言も注目を浴びている。中国が2027年までの台湾侵攻シナリオの実行準備にスピードを出しているという内容だ。実際に景気低迷局面なのに中国の国防費支出は侮れない。すでに昨年中国の国防費支出は前年比16%増え米国の3分の1水準の2230億ドルに達し、2020年以降にミサイル2倍増強と3年間に戦闘機400機、大型軍艦20隻の増強で習近平3期目の任期満了時点に軍事的衝突の可能性まで内在している。これに対し同じ期間に米国と日本は1960年の両国の安保条約締結以降最大規模に格上げされた軍事同盟体構築まで推進中だ。外信によると来月10日にバイデン大統領と日本の岸田首相の首脳会談の際に正式発表される計画だ」 

    中国の国防費増大は、習氏の支持基盤である人民解放軍への「返礼」という意味もあろう。中国経済の長期停滞予想から言えば、台湾侵攻は大きな賭になり取り返しのつかない事態が予想される。習氏が、こうした賭けを思いとどまるには、日米の結束が不可欠になっている。

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    米国とEU(欧州連合)は、日本へ経済安全保障を目的にしてそれぞれ、AI(人工知能)や半導体について共同開発を申入れていることが分った。日本が、半導体列島形成に向けて官民が一致した行動を取っていることを高く評価したものとみられる。半導体による「日本経済再興」は、現実のものとなって来た。

     

    『日本経済新聞 電子版』(3月30日付)は、「日本とEU、次世代EV電池の材料開発で連携 半導体も」と題する記事を掲載した。

     

    日本と欧州連合(EU)は4月にも、次世代技術に必要な先端材料の開発で連携する新たな枠組みを設ける。電気自動車(EV)向け電源として注目される「ナトリウムイオン電池」や、半導体の材料などの分野で協議する。有力な新材料を早期に実用化し、中国依存を回避する。

     

    (1)「EUのイリアナ・イバノバ欧州委員(研究・イノベーション担当)が、日本経済新聞の書面インタビューで明らかにした。「共通の関心分野や協力の可能性を話し合う枠組みを設けることは、互いの利益になる」と説明した。日・EUは、先端材料の分野で政策対話の枠組みを発足させる。EUは、日本の技術が欠かせないとみて協力を要請した。イバノバ氏は、再生可能エネルギーモビリティー建築電子機器――が有力な連携分野だとみている」

     

    日本は、材料分野で圧倒的な開発力を持っている。過去のノーベル賞受賞でも、この分野が多いことで立証されている。EUは、4つの分野での協力を日本に求めている。

     

    (2)「具体的には、EV向け次世代電池として期待されるナトリウムイオン電池の開発を想定する。この電池は、中国の生産量が多いレアメタル(希少金属)を使わず、低コストで生産できる利点がある。EUは、EVシフトで需要が増えることを見越し、開発で先行する中国に対抗する。太陽光発電パネルの変換効率が高まる「金属ナノ粒子」でも、日本の知見を求める。スマートフォンの省エネ性能が向上するナノ素材も候補にあがる。EUは今後、先端材料分野に研究資金を集中的に配分する。開発や量産に向けた支援を手厚くする。日本の関係機関と共同研究・開発する分野の拡充も検討する。イバノバ氏は、「ナノ材料の安全性評価の標準的手法を開発したい」と言及した。先端材料の国際標準づくりでも日本と組む考えを示した」

     

    現在の電池の主流は、リチウムイオン電池である。毎日、世界中で1%の事故が発生しているとされる安全性に問題を抱えている。しかも、原料生産が限られていることから、中国が優位を占めている。こういう事態を解決すべく、ナトリウムイオン電池開発が焦点になってきた。

     

    ナトリウムイオン電池は、リチウム・コバルト・ニッケルなどのレアメタル(希少金属)が不要で、地球上に豊富に存在するナトリウムをベースとするバッテリーである。これが普及すれば、EV価格は大きく引下げられる。

     

    日本とEUは、ナノ材料を巡る国際基準づくりでも、協調することに意欲を示した。国際ルールの策定は、かねて日本政府が苦手としていた分野でもある。EUは、こうした分野で強みを持つ。共同で取り組むことができれば、日本にとっても利点は大きい、と指摘されている。

     

    『ブルームバーグ』(3月30日付)は、「日米がAI・半導体で連携強化 首脳会談の共同声明原案-報道」と題する記事を掲載した。

     

    岸田文雄首相とバイデン米大統領が4月10日に米ワシントンで行う日米首脳会談の共同声明の原案が判明したと、3月30日付の朝日新聞朝刊が伝えた。

     

    (3)「日米の関係を「グローバル・パートナーシップ」と位置づけ、人工知能(AI)や半導体、量子、バイオといった先端技術の連携強化を打ち出す。米半導体大手エヌビディア、英半導体設計大手アーム、米アマゾン・ドット・コム、ワシントン大、筑波大などと協力し、AI研究開発のための枠組みを立ち上げる見通しだ。約1億ドル(150億円)を拠出する方向で調整している。日米は、安全保障に加え、経済分野でも強固な結び付きをアピールする狙い」

     

    米国は、日本の技術水準を高く評価している。AI・半導体・量子・バイオなど最先端技術で幅広い提携関係を築こうとしている。半導体では、すでに米IBMと日本の国策会社ラピダスが緊密な提携関係を構築している。最先端自動車部品では、既にラピダスが製造する手はずまで進んでいる。当然、米国へも還流される。こうして、日米経済の一体化が進む。日本経済の発展には、大きな支援材料になる。

     

     

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    習近平国家主席は、あらゆる権力を独占している。だが昨年、失脚した外相と国防相が、未だに公職に残っている。これまでは、失脚した高官は、あらゆる公職から解任されてきた。こういう前例にも関わらず、今回は二人とも公職に残っているのだ。習氏の派閥内で、新たな権力闘争が始まっているのでないか、という憶測が生まれている理由だ。一方では習氏が私情で庇っているとも読める。 

    『時事通信』(3月19日付)は、「不可解な習政権の粛清人事、公職に居座る失脚高官」と題する記事を掲載した。 

    中国の習近平政権で昨年解任された前国防相や前外相がなかなか他の公職から完全に退かないという不可解な状態が続いている。習政権は粛清人事にも謎が多く、ますます不透明さを増している。 

    1)「全国人民代表大会(全人代=国会)開幕前日の3月4日、全人代報道官は、シンガポール紙・聯合早報の記者から、前国防相の李尚福上将(大将に相当)が全人代に出席するかどうか問われて、「彼は参加できない。もう代表(議員)ではないから」と答えた。このやりとりは映像も公開されている。ところが、実際には、5~11日の全人代で代表の任免はなかった。李上将は国会議員に当たる全人代代表を続投した。報道官の勘違いだったのか、代表としての活動を事実上許されなくなったという意味だったのかは分からない」 

    解任された前国防相の李尚福上将は、全人代代表に止まっている。完全追放されていないのだ。これは、人民解放軍内部の反発を恐れた措置とみるべきだろう。

     

    2)「李上将は、2022年秋から昨年春にかけて決まった習政権3期目の指導部人事で軍装備発展部長から国防相などに抜てきされ。軍人のナンバー3となったが、昨年10月の全人代常務委で国防相、国務委員(上級閣僚)、国家中央軍事委員を解任された。汚職の疑いを掛けられたとみられる。その時点で李上将はまだ、共産党中央委員、党中央軍事委員、全人代代表のポストを維持していた」 

    習氏は建前上、汚職追放姿勢である。だが、身内にもこれを適用しなければ「規律」が維持できないために、あえて李上将にも適用した。こういう事情もるのだろう。習氏には、未だ「泣いて馬謖(ばしょく)を斬(き)る」という心境になれないのだ。私情が災いしている。 

    3)「一部の中国メディアは今年2月26日、国防省公式サイトの党中央軍事委員会名簿から李上将の名前が消えたと報道。ただ、党中央軍事委員の人事を決める党中央委員会はなぜか、昨年秋以降、恒例の総会を開いておらず、李上将が党中央軍事委員を解任されたという発表はない。党中央委総会が開かれないため、李上将は官僚にとって最も重要な党中央委員のポストも保っている。中国では普通、失脚した高官は短期間で公職をすべて解かれるので、李上将のようなケースは異例だ。政権上層部で処分決定に時間がかかっているのかもしれない。中国の「反腐敗」は権力闘争であり、要人の処分は有力者たちの力関係や思惑で決まるからだ」 

    下線部分は、習氏の私情がにじみ出ている。ドライに対応できないのだろう。人民解放軍内部の反発も恐れているのだろう。

     

    4)「この全人代では、弾道ミサイルなどを扱うロケット軍の政治委員を昨年7月に更迭された徐忠波上将と公式行事欠席が続いていた戦略支援部隊司令官の巨乾生上将が出席して、政治的に健在であることが確認された。昨年12月に全人代代表も解任されたロケット軍の前司令官と異なり、徐上将は同軍内の何かの不祥事について監督責任を問われたが、本人に不正はなかったと見なされたと思われる」 

    全人代には、更迭されたはずの徐忠波上将と巨乾生上将の二人が出席している。これら2氏は、監督責任を問われて更迭されたと推測されている。 

    5)「解任時に不倫疑惑で話題になった秦剛前外相も、党中央委員を続けており、形式上はまだ完全に失脚していない。22年秋の時点で駐米大使(次官級)だった秦氏は昨年春までに党中央委員、外相、国務委員に大抜てきされた。3期目に入った習政権で国防相と並ぶ目玉人事だったが、7月に外相、10月に国務委員を更迭された。この二つのポストをなぜ同時に解任しなかったのかは不明だ」 

    解任された秦剛前外相は、党中央委員の肩書きが残されている。完全追放ではない。

     

    6)「秦氏は、今年2月27日に全人代代表の資格も失った。ただ、解任ではなく、「辞職を承認された」という発表だった。重大な不正があった高官は全人代代表を解任される。秦氏は何らかの問題があったものの、それほど深刻なことではなかったという意味なのか。外相という要職を更迭されたのに、不思議なことだ」 

    秦氏は、全人代代表資格を失ったが解任ではなく「辞職」である。習氏の「懐刀」とされたので、温情ある措置となった。 

    7)「そもそも、李上将も秦氏も、習主席が取り立てた幹部である。いずれ政権指導部の党政治局入りする可能性もあった。一党独裁体制の中国では、党のトップが本当に必要とする人材であれば、汚職や私生活の不祥事で失脚することはあり得ない。また、国防相人事は後任決定に2カ月もかかり、外相は党中央で外交を担当する王毅政治局員(前外相)が兼務する変則的状態が続いており、習主席が一連の粛清人事を自由自在に断行しているようには見えない。政権中枢から非主流派を追い出して、権力を独占した習近平派だが、「反腐敗」を口実に派内で新たな権力闘争が進行しているのかもしれない」 

    下線部は、重要な指摘である。党の規律維持のために李上将も秦氏も解任されたが、政治生命を100%絶っていない点が共通している。これが、今後の習氏の政治生命にどう跳ね返るかだ。将来、「生ぬるい」という反発を生むリスクもあろう。

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    中国海南省のボアオで、「ボアオ・アジアフォーラム」2024年総会が3月28~29日の日程で開催された。海外からの参加者は、いずれも中国当局の演説に聴き入って、「賛意」を表した。異論を差し挟む場所でないからだ。

     

    中国共産党序列3位の趙楽際(ちょう・らくさい)・全国人民代表大会(全人代)常務委員長は、「中国の開放の扉はさらに大きく開かれるだけで、永遠に閉じることはない」と演説した。外資企業は、中国経済の減速懸念などから対中投資に慎重姿勢を見せている。中国側は、こうした動きを押しとどめようと必死であった。

     

    『中央日報』(3月30日付)は、「ボアオフォーラム、中国の今年5%成長は無難 消費がカギ」と題する記事を掲載した。

     

    中国政府は、今年の経済成長率目標値を5%前後と提示した。この目標値の実現の可能性と実現方法に「2024博鰲(ボアオ)フォーラム年次総会」(以下、フォーラム)では大きな関心が集まった。

     

    (1)「昨年、中国経済は5.2%成長した。世界経済成長に対する寄与度は30%以上だ。関心は今年の目標値の5%成長を達成できるかどうかに向かっている。今年1~2月の中国の貿易総額は前年同期比で8.7%増えた。ハイテク製造業の利潤も27.9%拡大した。民間投資増加率は昨年の下落傾向から抜け出し、プラス成長に転じた。中国経済が安定的な回復の流れを見せている」

     

    中国政府は、EV(電気自動車)・電池・太陽光発電パネルの3業種を突破口に、経済回復のテコにしている。これが、脱炭素に逆行することも厭わず、目先のGDP押し上げに利用している。

     

    (2)「フォーラム出席者は、中国経済に対する信頼を次のように口にした。「強い意志と潜在力を持つ中国の経済がポストコロナ時代のグローバル経済の持続可能な発展の主軸になった」「中国経済が1%成長すれば中国に関連する経済体の経済が0.3%ずつ成長する」「多国籍企業に中国市場は代替不可能な価値を持つ」などだ。過去の高速成長と比較すると、中国経済の成長率がやや鈍化したのは事実だ。また有効需要の不足、一部業種の生産過剰、社会的期待心理の低下など国内的に困難に直面している。それでもフォーラム出席者は「超大規模市場と強力な生産力量が中国の経済成長を支えるという事実に変わりはない」と口をそろえた。人材プールから産業科学技術革新力量にいたるまで中国は豊富な要素資源を保有するためリスクに十分に対処できるということだ」

     

    中国経済の最大の課題は、不動産バブル崩壊の後遺症処理である。博鰲(ボアオ)フォーラムでは、こういう難病を忘れたように振る舞っているのが不思議なほどだ。

     

    (3)「ローランドベルガーのドプー副会長は、「中国の固定資産投資が産業アップグレードや世代交代に集中していることが確認される」とし、「これは膨大な工業インフラを基盤に中国がより一層先進化した技術を活用し、全要素の生産性増大を実現しているという意味」と紹介した。中国の産業発展の新しい流れも今回のフォーラムで話題になった。中国が技術革新、産業アップグレードを進め、人材・市場・産業配置などの強みを効果的に発揮しているという判断のためだ」

     

    このパラグラフは、中国側の説明を「鵜呑み」にした形になっている。全要素生産性は、習氏が国家主席に就任して以来、一貫して低下しているのだ。目先の「花火」に目を奪われず、花火が終わった後の「暗闇」を想像することが必要である。

     

    (4)「中国は昨年、年間研究開発費として3兆3000億元(約69兆円)以上を投入した。前年比8.1%増えた。デロイトトーマツ中国代表の蒋穎氏は「中国は新しい質的生産力開発および発展に積極的に取り組んでいて、フロンティア技術で新産業・新モデル・新動力を促進するだけでなく、科学技術革新の新たな成果を従来の伝統産業に取り入れている」と述べた。このようにして多くの潜在力と可能性を引き出すということだ」

     

    年間研究費の約69兆円が100%、研究現場へ投じられるとみるのは間違いだ。汚職などによって、中間過程で消えているという現実を見過ごしてはならない。中国は、「汚職蔓延」という厄介な慣習が残っているのだ。また、半導体でも先端製造装置の輸入が禁じられている。米中対立が与える影響を軽視してはならない。

     

    (5)「5%成長目標達成方法についても、さまざまな意見が提示された。2023年の最終消費支出が中国経済成長の82.5%を牽引した。これに関し国際通貨基金(IMF)のスティーブン・バーネット駐中首席代表は「消費は中国経済の成長を牽引する重要な力」とし「関連の措置を通して消費力量・意志拡大に力を注ぐべき」と提言した。アジア開発銀行(ADB)のアルバート・パク主席エコノミストは「最近、中国が設備アップグレードおよび消費財の以旧換新(都市向け買い換え補助金政策)を大々的に進めていて、需要を効果的に高めた」と評価した。続いて「今後1人あたりの可処分所得を増やし、消費促進を牽引するべき」と主張した」

     

    IMFもADBのエコノミストも、遠回しに中国経済の「業病」(消費不振)を指摘している。これこそが、最大の問題である。不動産バブル崩壊が、末端需要に縮小を引き起しているのだ。

     

     

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    EV(電気自動車)は、世界的な値下げによる販売合戦が激化している。この新車EVの値下げが、中古EV相場の急落を招いている。レンタカーや社有車は、大幅値下がりするEV新車の購入を取り止める動きが広がっている。思わざる波紋で、EVメーカーに新たな障害が現れた。

     

    『日本経済新聞』(3月30日付)は、「EVシフトに中古の壁、未成熟な市場に『成長痛』再販価格下落で企業・消費者が敬遠」と題する記事を掲載した。

     

    脱炭素対応に伴う電気自動車(EV)シフトにブレーキがかかっている。原因は中古車・リース車市場にある。リセールバリュー(再販価値)が急落し、世界的に企業や消費者にEVを避ける動きが広がる。欧州では消費者が買い替えをためらい、ガソリン車の保有年数が延びている。

     

    (1)「ドイツのソフトウエア大手SAPは、今年に入り世界の従業員へ「今後、社有車としてテスラを購入してはいけません」と通知した。営業回りなどに使う社有車は計29千台で、テスラ車の割合は2%程度だ。環境負荷の低いEVへの切り替えは企業イメージを高められるが、SAPは保有リストからテスラを除外すると決めた。独レンタカー大手シクストも2023年12月、テスラ社のレンタカーを利用できなくなると、自社の会員に通知した」

     

    テスラのEVは、中国での競争で相次ぐ値下げへ踏み切っている。これが、中古EVの相場を下げており、社有車では買い換え時期に損害が増えるとして購入禁止策に出ている。

     

    (2)「企業によるテスラ離れの理由は、再販価値の下落にある。社有車やレンタカーは数年後に中古車市場に売却されるのが一般的だ。だが、テスラは欧米・中国で新車の値引きを繰り返したことで中古車の価値が下落。企業の資産管理を難しくした。主力セダンの「モデル3」は、中古市場で新車価格の半分近い2万~3万ドルで取引されている。価値の低下はEV全体で広くみられる。中古車検索サービスの米アイシーカーズが230万台超を調査した結果、23年10月の中古EVの平均価格は3万4994ドル(約520万円)と22年10月と比べ34%下がった。中古車全体は5%減の3万972ドルでEVの下落率の大きさは顕著だ」

     

    米国では、23年10月の中古EVの平均価格が、1年前に比べて34%もの下落である。中古車全体では、5%の値下がりである。中古EVの値下がりが目立っている。

     

    (3)「米レンタカー大手のハーツ・グローバル・ホールディングスは1月、24年末までに保有車の4分の1をEVとする目標を取り下げ、保有EVの3分の1にあたる2万台を売却すると発表。ガソリン車回帰による再販価値の向上や整備コストの低減で25年にかけて2億5000万~3億ドルのキャッシュフロー改善を見込む」

     

    米レンタカー大手は、EVからガソリン車へ回帰している。これにより、大幅な利益増を見込んでいる。

     

    (4)「EVの中古市場は未成熟なままだ。電気モーターで駆動するEVはエンジン車と比べて車体の整備や修理が難しい。EVを扱える独立系の整備工場は少なく、現状は割高な車大手系列のディーラーに頼らざるを得ない。EVのコストの3割前後を占める車載電池の問題も大きい。電池は利用環境や充放電の頻度などで劣化の度合いが異なるため、走行距離だけで評価しづらい。中古車販売企業はEVを買い取る場合に実態よりリスクを大きくとる傾向がある」

     

    中古EVは、評価が難しいという。電池は、利用環境や充放電の頻度などで劣化の度合いが異なるからだ。こうなると、安全をみて安く評価するほかないというのだ。

     

    (5)「そもそもEVの技術革新のスピードが速く、数年前のモデルでも航続距離や充電時間など機能面で新型車に大きく劣っている。こうした状況から短期間でEVを手放す例が後を絶たず、価値の低いEVが中古市場に氾濫する事態が生じている。欧州は新車販売全体におけるリース車の割合が半分を占め、日本(15%程度)より高い。フランスのALDオートモーティブなどリース上位7社で、欧州の新車販売の3割に達する」

     

    短期間でEVを手放す例が後を絶たず、安値のEVが中古市場で氾濫している。欧州では、新車のリースが需要の半分も占めている。期待したEVが、期待外れに終っている証拠だ。

     

    (6)「リース形式で自動車を利用する消費者も多く、再販価値への意識はもともと高い。リース会社はリース期間終了時点の残存価値を算定し、それを除いた金額をリース料として顧客に請求する。このため中古価格の下落はリース料の上昇を招き、新車需要も冷やしかねない。独自動車研究センターのヘレーナ・ビスバート所長は、「中古価格の不透明さから、欧州ではEVに切り替えたくても様子見を続ける消費者が増えており、エンジン車の保有年数が逆に延びている」と指摘する」

     

    中古価格の下落は、リース料上昇を招く。EVの中古価格の値下がりは、それだけリース料を引上げるので、ますますEV需要が落込むという悪循環に陥っている。

     

     

     

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