勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2024年03月

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    中国の不動産危機が緩和される兆しが見えない中、中国最大級の不動産会社の1社が決算発表を延期し、もう1社は記録的な減益となった。かつて売上高で中国トップの住宅建設会社だった碧桂園は28日遅く、より多くの情報が必要だとして通期決算報告を延期すると突然発表した。一時は上場デベロッパー最大手だった万科企業は、23年の通期純利益が前年比46%減少し、1991年の上場以来最大の落ち込みを記録したことを明らかにした。万科企業は、深セン市の後援を得ている国有企業だ。

     

    『ブルームバーグ』(3月29日付)は、「中国不動産業界の苦境続くー碧桂園が決算延期 万科企業は利益急減」と題する記事を掲載した。

     

    (碧桂園や万科企業などの絶不調に関する)発表は、一部の銀行における不良債権の急増とともに、弱い経済と低迷する消費者心理が中国の住宅販売に重くのしかかり続けていることを浮き彫りにする。2月には新築・中古住宅ともに前年比の価格下落幅が拡大し、低迷する市場を支えようとする当局の困難が鮮明になった。

     

    (1)「CGSインターナショナル・セキュリティーズHKの中国不動産調査責任者、レイモンド・チェン氏は「中国の不動産セクターは、当社の調査開始以降で初の純損失を計上する可能性が高い」と述べた。「デベロッパーの売り上げが改善するまで、このセクターには慎重な見方を続けている」と続けた。不動産市場の低迷は、民間、国営を問わずほとんどの企業に影響を及ぼしている。碧桂園と万科はわずか1年前には生き残る可能性が高いと評価されていたが、碧桂園は昨年10月にドル債務不履行に陥り、万科はデフォルト(債務不履行)回避に取り組んでいる」

     

    中国の不動産セクターは、初の純損失を計上する可能性が高いという危険な状況だ。これが、現実になれば中国経済の受けるダメージは決定的になる。

     

    (2)「碧桂園の発表によると、同社の通期決算発表は3月31日の期限よりも後になる見込み。香港市場が祝日明けで取引が再開される4月2日から同社株は売買停止となる公算が大きいという。万科の2023年通期の株主帰属純利益は前年比46%減の122億元(約2560億円)。ブルームバーグが調査したアナリストは14%の減益にとどまると見込んでいた。同社は向こう2年で1000億元を超える債務削減を目指すとし、上場来初めて配当を見送った。株価は29日の深圳市場で一時3.8%安となった」

     

    国内最大の民間デベロッパーである碧桂園は、23年の決算発表を延期した。会計上の適切な見積もりと判断を行うためにより多くの情報を収集する必要があるとしている。同社は昨年終盤、110億ドルのオフショア債で債務不履行(デフォルト)を引き起こしていた。

     

    国内2位の万科企業は、国有企業である。売上高は7.6%減の4657億元、純利益は46.4%減の122億元だった。純負債比率は54.7%で、11%ポイント上昇した。万科の株と債券はここ数週間、大きく売られており、株主の深セン当局は資金繰り難を打開するための支援を要請している。

     

    万科企業は別の発表文で、上場予定となっている自社の消費関連REIT(不動産投資信託)を大株主の国営企業・深センメトロが約10億元購入すると発表したことを受け、深セン政府による今後のさらなる支援を期待しているとした。『ロイター』(3月29日付)が報じた。

     

    国有企業である万科企業でも、こういう事態に陥っている。不動産バブル崩壊が、不動産開発国有企業をも飲み込んでいるのだ。深セン市は、もはや救済能力を失った形である。

     

    (3)「長引く不動産不況は、大手国有銀行のバランスシートもむしばんでおり、不良債権は増加の一途をたどっている。政府は国有銀に対し、国内経済の活性化を支援するとともに、負債を抱える不動産開発業者を支援するよう要請している」

     

    不動産セクターは関連産業も含めれば中国の国内総生産(GDP)の約3割を占めるとされる経済の支柱だ。中国政府は問題の沈静化に動くが、動員される銀行側の負担が増し、金融システムへの圧力が強まるというジレンマもある。政府は1月に、地方政府が支援すべき住宅開発プロジェクトを選別する不動産融資協調制度(通称ホワイトリスト制度)を創設した。リストの対象プロジェクトについて銀行に積極的な融資を促す、実質的な指導だ。

    碧桂園は28日、15日時点で計272件の住宅開発プロジェクトがホワイトリストに入ったとアピールした。だが、銀行からの支援融資は満足に受けられないのだろう。

     

    銀行側にすれば、将来の返済が確実でなければ、いたずらに不良債権を増やすだけだ。既に、貸出利ざやは最低限の1.8%ラインを割っている。これ以上の支援は、銀行も「共倒れ」になるリスクを抱えている。限界点なのだ。

     

     

     

    あじさいのたまご
       

    中国社会では、初対面の人へのおもてなしで厚遇するのが普通だ。下にも置かない手厚い接待をするが、その時の約束はほとんど守られないと言うのが通説である。こういう人前で関心を惹く技術が抜群なのだ。

     

    『ロイター』(3月29日付)は、「訪中の外資系企業幹部、事業拡大に依然慎重 政府は手厚いもてなし」と題する記事を掲載した。

     

    中国政府は海外からの直接投資減少に歯止めをかけるため、今週の一連の行事で海外企業の経営者を手厚くもてなしたが、訪中した企業経営者の多くは中国事業の拡大に慎重な姿勢を示した。

     

    (1)「北京で開催された投資フォーラム「インベスト・チャイナ」に出席したトラック大手スカニア・チャイナのマッツ・ハーボーン社長は、中国国有企業の利益を度外視した過剰生産能力について「中国企業も生き残るために利益を出すべきだ」と主張。業界再編が起きれば、サプライチェーンから実力のない企業が淘汰され、自力で市場経済を生き抜ける真剣な企業のみが残るとの認識を示した」

     

    中国は、国有企業の再編成に熱心で、必要以上に大型合併を行ってきた、だが、民間企業については全く関心を持たず、「過当競争」に任せている。過剰輸出に期待をかけているのだ。となると、民営企業はモルモット扱いである。

     

    (2)「在中国欧州商工会議所のイェンス・エスケルンド会頭は、中国国務院が昨年8月以降、海外投資家の信認回復に向けた対策を少なくとも48件発表したが、その大半が実行に移されていないと指摘。市場アクセスや政府調達、政府高官との面会の点で欧州企業は依然、不利な立場に立たされていると感じていると述べた。

     

    在中国欧州商工会議所は、中国から48件の改善策を約束されたが、大半は実行されずに放置されている。その時だけの「調子」である。

     

    (3)「北京で開催された「中国発展フォーラム」では、米国の製薬会社やライフサイエンス企業が中国のデータ規制に対する懸念を表明。データ規制により自社の競争力が低下すると訴えた。在中国米商工会議所のショーン・ステイン会頭は「問題は、中国側がこうしたメッセージを聞いて解決したいと判断するかどうかだ」と語った。ベルリンを拠点とする中国研究機関MERICSのチーフエコノミスト、マックス・ツェングレイン氏は「他の投資家は気まずい思いをしただろう。中国がいかに戦略的かつ選択的に国際企業と関わっているかを示している」と述べた。

     

    中国は、自国にとってプラスと判断すれば実行する。そうでなければ、リップサービスに終わる。これが、基本形である。日中関係でも同じことがされている。

     

    『時事通信』(3月27日付)は、「『一帯一路』で8.3兆円不履行、中国の対東南アジア援助―豪研究所調査」と題する記事を掲載した。

     

    中国が巨大経済圏構想「一帯一路」に基づき東南アジア諸国に援助を約束した大規模事業のうち、3分の2近い547億米ドル(約8兆3000億円)が履行されなかったことが分かった。オーストラリアのシンクタンク、ローウィー国際政策研究所が、27日公表の調査報告書で明らかにした」

     

    (4)「報告書によると、2015~21年の東南アジアの大規模インフラ開発事業で、中国は843億米ドル(約12兆8000億円)の支出を約束していた。だが、実際に支出したのは296億米ドル(約4兆5000億円)で、履行率は35%にとどまる。タイやフィリピンの鉄道建設、マレーシアのパイプライン敷設が中止されたほか、規模が縮小された事業もある」

     

    中国から一番、約束不履行による被害を受けたのはフィリピンである。中国による南シナ海の不法占拠問題で、オランダのハーグに設置された南シナ海仲裁裁判所は2015年10月、15項目に及ぶフィリピンの提訴項目全てに対してフィリピン側の主張を認めた。その後、中国はフィリピンを懐柔して経済支援の空手形を切ったが、ほとんど不履行であった。フィリピンは、中国から「空手形」をつかまされ格好になり、「反中国熱」が高まった経緯がある。

     

    中国が、海外支援をして実行しないのは、中国にとってメリットがない事業であるからだ。2015~21年の東南アジアの大規模インフラ開発事業で、履行率は35%にとどまるという。

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    世界1位と2位のEV(電気自動車)メーカーである中国BYDと米テスラは最近、共通点が多い。例外は時価総額で、テスラはBYDの約7倍だ。この差は、テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)の約束通り自動運転化が実現すると強く信じなければ、正当化できないものだ。 

    『ウォールストリートジャーナル』(3月29日付)は、「中国BYDとテスラ、時価総額に大差なぜ」と題する記事を掲載した。 

    (1)「BYDの香港上場株は3月27日、年次報告書の発表を受けて前日比6.1%安で引けた。時価総額は約860億ドル(約13兆円)相当、予想株価収益率(PER)は15倍となった。同社は1月に売上高と利益の暫定値を発表していたため大きなサプライズはなかったが、確定値はアナリスト予想をわずかに下回った。その結果、中国のEV価格競争がBYDの利益成長の可能性を奪っているとの懸念が浮上している。利益率が低下し、出荷台数増加による利益の伸びを相殺しているとの見方だ」 

    BYDの積極的なEV値下げ攻勢が、利益の伸びを抑えているのでないか、という見方が市場に強まっている。

     

    (2)「時価総額は5660億ドル、予想PERは62倍のテスラも、価格競争にさらされている。昨年の売上高の22%は中国で上げた。1月上旬には中国での販売価格を引き下げ、その後、保険・融資関連の割引の提供を始めた。それでも、今年の中国での販売台数は前年比で減少傾向にあり、在庫は増加している。ブルームバーグによると、テスラは3月、上海工場での生産を縮小した」 

    テスラも、値下げ競争に巻き込まれている。だが、BYDの予想PERは15倍であるのに、テスラは62倍である。この差は、何が原因であるか。結論を先に言えば、テスラには全自動運転のソフト開発期待が掛っているのだ。 

    (3)「BYDは、2023年10~12月期(第4四半期)にEVの総販売台数でテスラを抜いて話題となったが、現在は財務面で追い上げている。アナリスト予想によると、両社の今年の売上高は1090億ドル程度となる見通し。違うのは、BYDがプラグイン・ハイブリッド車を含むより多くの車両を値下げして販売していることだ。そのためBYDの利益率は低下し、利益自体も減っている。それでもEVシフトの動きが、テスラに恩恵をもたらした、価格を気にしない「アーリーアダプター(新商品・サービスを真っ先に購入する層)」の段階を超えて広がるにつれ、BYDの成長見通しはより確かなものになるだろう」 

    中国のEV販売は、地方都市(3~4級都市)で給電インフラの未整備によって、ブレーキが掛りそうだ。地方都市でのEV購入者の半分が、「買って損した」と後悔している事実が調査で判明している。こういう悪い評判は、すぐに広がるものだ。

     

    (4)「BYDは、中国市場での高級車の販売増加(テスラやドイツの自動車大手からシェアを奪う可能性がある)や国外展開の拡大を通じて、値下げが収益性に与える影響を相殺したいと考えている。逆に、テスラが大きな成長を期待しているのは、より手頃な価格の「モデル2」だ。現時点で来年と予想されているモデル2の発売後、同社の利益率は低下する可能性が高い。両社の規模は似通っており、BYDの収益性の低さは成長見通しの高さで相殺されていると言える」 

    BYDは、販売台数の伸びが鈍化すれば、すぐに収益悪化として跳ね返る。その意味では、綱渡りをしている。 

    (5)「だとすれば、なぜテスラの時価総額は全く違う次元にあるのだろうか。その答えとして唯一考えられるのは、自動運転化の期限を何年も先送りしてきたテスラが、それを実現する「暗号」をついに解読するかもしれないという期待だ。同社の業績見通しには以前から、ハードウエアの利益に関する一節があり、直近の見通しには「人工知能(AI)、ソフトウエア、フリートベースの利益の加速を伴う」とある。このように利益率が高く資本負担の低い事業は、いずれそれが実現し、消費者がそれに対価を支払うなら、大手ハイテク企業のバリュエーションを正当化するかもしれない」 

    テスラには、全自動運転化への期待が、PERを65倍まで押し上げている理由だ。ただ、アップルがEV進出計画を取り止めたように、全自動運転化ソフト開発は難題である。レベル4は可能でも、完全全自動のレベル5実現は、道路インフラの完備が前提になる。カーメーカーの限界を超えているのだ。

     

    (6)「テスラの「完全自動運転(FSD)」ソフトウエア――ほとんどの状況で同社製EVを運転することができるが、常に人間の監視が必要――がより注目されるようになったのは、同社が昨年末に「バージョン12」を展開し始めてからだ。バージョン12は、コーディングへの依存度が高いバージョン11よりもAIに重きを置いているため、開発ペースを加速させる可能性がある。マスク氏は、今こそ売り込み時だと判断したようだ。同氏は3月25日、FSDを搭載可能な米国の全テスラ車の所有者は1カ月間無料で同ソフトウエアを試すことができるとXに投稿した。通常、FSDを利用するには1万2000ドルを一括で支払うか、199ドルの月額料金を支払う必要がある」 

    テスラは、完全自動車運転への夢で月額199ドルの賦課金を課している。利用者が、このコストに見合った充実感を得られるかだ。 

    (7)「FSDに対する期待の多くは、テスラの成長に関連している。販売台数が増えればそれだけ、FSDのサブスクリプション(定額課金)販売対象となる顧客も増えるからだ。自動運転技術は徐々に改善されているが、投資家が期待しているような価値をテスラにもたらすことができるかどうかは、依然として不透明だ。199ドルという月額料金は、依然としてドライバーに道路から目を離さないよう求める製品としては高価だ。業界のサプライヤーであるイスラエルのモービルアイが同様の技術を、ドイツのポルシェやスウェーデンのポールスターといった他の高級車ブランドに搭載し始めている状況では、なおさらである」 

    テスラの収益性は、FSDのサブスクリプションでどれだけ利益を上げられるかに掛っている。一時的には満足しても、長期にわたり利用してくれるか、いなかだ。

     

    テイカカズラ
       

    中国のミドルクラスは、中国経済の将来に対して深刻な疑問を抱いている。少し前まで好景気は当たり前だった。現在は、不動産不況に株式市場の低迷、景気のさらなる落ち込みに見舞われ、中国に好景気はもう戻ってこないのか、という厳しい問いを突き付けられているのだ。 

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月29日付)は、「中国ミドルクラスが不安をつのらせる理由」と題する記事を掲載した。 

    (1)「中国・上海に住むブレーク・シューさん(33)にとって、3年前は全てがうまくいくように思えた。起業家であるシューさんと家族は、当時ブームだった不動産に投資した。妻は第1子を妊娠していた。マンション1戸を売却したばかりで、その収益のほぼ半分を株式に投資した。その後、中国の不動産市場は低迷し、上海と深圳の主要300銘柄で構成されるCSI300指数は価値の約3分の1を失い、経済は一段とぜい弱になった。消費者マインドは落ち込み、民間投資は低調で、若年層の失業率は極めて高い水準にある。シューさんはすでに中国株式市場から資金をほぼ全て引き揚げている。次は中国からの脱出かもしれない」 

    中国景気の実態は、不動産バブルである。株価急騰もその余波であった。肝心のバブル崩壊で、中国の中間層は茫然自失の状態へ追込まれている。

     

    (2)「人々は支出を減らして貯蓄を増やし、高リスクの投資を避けている。中国人民銀行(中央銀行)のデータによると、家計貯蓄は2月までに19兆8300億ドル(約3000兆円)と、過去最高に達した。消費者信頼感はここ数十年で最低の水準に近い。都市部やホワイトカラー職の人々が一段と神経をとがらせていることは、中央政府にとって大きな問題になりかねない。政府は長年、統治の正統性の根拠を安定した経済運営に置いてきた。今、その根拠がいっそう揺らいでいるように見える」 

    中産階級は、一斉に生活防衛体制を取っている。消費を切り詰め貯蓄を増やしている。これが、景気全般をさらに押下げる事態を生んでいる。歯車の逆回転とは、こういう状態を指している。 

    (3)「中国には個人投資家が2億2000万人余りいる。つまり、株式市場の動きが国民心理を大きく左右しかねない。同国ではかつて、個人投資家はギャンブラーだと言われていた。だがここ数年の不振を経て、投資を減らし、投資先をマネーマーケットファンド(MMF)のようなもっと安全な資産に変える人が増えた。不動産部門不振は、消費者マインドをさらに悪化させた。同部門の過剰債務を抑制する試みとして政府が3年ほど前に導入した措置は危機を招いた。多くの開発業者を破綻寸前に追い込み、経済成長の大きな原動力だった同部門の足を引っ張った」 

    個人投資家が2億2000万人もいるという。これが、中間層の軸であろう。彼らは今、株式投資から遠ざかっている。住宅不振も同時並行であるから、中国経済の「心棒」が抜けた形になっている。

     

    (4)「大都市部の中古住宅価格は2月に前年同月比6.3%下落し、前年比で過去最大の落ち込みとなった。起業家のシューさんは2軒目の不動産を売却したが、大きな痛手を被ったという。だが後悔はしていない。このお金があれば、状況がさらに悪化して国を離れることになったとき、身軽に動けるからだ。「心情的には、この国がうまくいくことを願っている」とシューさんは言う。「でも指導部が今のままなら、正直なところ、出口戦略は必要だ。何しろ先行きが不安だ」。この心情こそまさに、政府当局者を不安にさせるものだ。中国政府は権力をしっかりと掌握しているが、国民感情には神経をとがらせている」 

    このパラグラフは、中産階級の心情を100%捉えている。国家を思う気持ちがないことだ。選挙で選ばれた政権でなく、銃口によって得た政権の基盤は、こういう脆弱な上に成り立っていることを示している。中国経済について、他人事としてみているからだ。真の国を思う気持ちがゼロである。当然であろう。発言権がないからだ。 

    (5)「中国の国民は、銀行や企業を相手にデモを行うなど、不満があれば公の場で声を上げてきた。政府は最重要の原則が守られている限り、少なくともある程度の異論は容認してきた。その原則とは、中央政府を批判しないことだ。だが実際には、目下の経済問題は中央政府に責任があるとの批判もある。インターネット企業や塾、不動産業界に対する政策転換や、消費者マインドを長期にわたって悪化させた厳格な新型コロナウイルス対策などがやり玉に挙げられている」 

    国民は、習近平政権への批判を強めている。「反スパイ法」強化に裏には、こうした国民の不満を押し潰す狙いがある。

     

    (6)「投資を控えて貯蓄する姿勢に転じたことで、景気低迷がマインドを悪化させ、悪化したマインドがさらなる景気低迷を招くという悪循環に拍車がかかっている。マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院の教授(グローバル経済・経営学)で、シンクタンク「ウィルソン・センター」の研究員も務めるヤシェン・フアン氏はそう指摘する。「社会がいったんある心理状態になると、それを変えるのは容易ではない」 

    下線部の指摘は、極めて貴重である。日本が長いこと、こういう状態の下で「値上げは悪」という心情が定着していた。これを取り払うのに、これまで10年もかかったのだ。厳密に言えば30年である。中国も同じ状態に落込んだ。

     

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    中国は、EV(電気自動車)値下げで需要テコ入れを図っている。だが、小都市のEV充電設備が不足しているので、EV購入後に後悔する最大の理由になっている。こうした背景から、中国のEV熱は小都市では冷めるとみられている。

     

    『東洋経済オンライン』(3月28日付)は、「中国のEVオーナー『買って後悔』急増する背景」と題する記事を掲載した。この記事は、中国『財新』の転載記事である。

     

    「中国のEVオーナーの5人に1人が、「次の買い替えではEV(電気自動車)を選ばない」——。購入したことを後悔しているという驚きの調査結果が明らかになった。

     

    (1)「調査を実施したのはアメリカのコンサルティング大手、マッキンゼー・アンド・カンパニーの中国法人だ。同社は3月12日、「マッキンゼー中国自動車コンシューマー・インサイツ」と題する年次レポートの2024年版を発表。このレポートの2023年版では、次の買い替えでEVを選ばないとの回答はわずか3%だったが、2024年版ではそれが22%に跳ね上がった。EVオーナーの不満の背景には、EVの急速な普及に充電インフラの整備が追いついていないことがある」

     

    EVの普及台数が増えると共に、不満も増えている。充電設備インフラが足りないことが、大きな理由である。

     

    (2)「マッキンゼーのレポートによれば、中国で「三級都市」「四級都市」と呼ばれる(充電インフラが脆弱な)地方都市では、EV購入を後悔しているオーナーの比率が54%に上った。一方、「一級都市」(北京市、上海市、広州市、深圳市の4大都市)や「二級都市」(省都クラスの大都市)では、同比率は10%にとどまった。EV向け充電ステーションの業界団体のまとめによれば、中国全土の公共充電ステーションの設置箇所数で省・直轄市別のトップ10は広東省、浙江省、江蘇省、上海市、山東省、湖北省、北京市、安徽省、河南省、四川省の順だった。いずれも経済的に発展したエリアであり、充電インフラの地域格差が広がっている実態を示唆している」

     

    「三級都市」「四級都市」でのEV不満は、54%にも上る。「一級都市」では、10%に低下する。

     

    (3)「マッキンゼーのレポートによれば、経済的に発展した北京市、天津市、上海市、広東省、浙江省、江蘇省の6省・直轄市では、EVの新規販売台数と公共充電装置の新規設置台数の比率が2020〜2022年は7.1対1だったが、2023年には6.6対1に低下した。充電ステーションの建設が加速し、装置1台当たりのEVの数が減少した(充電しやすくなった)ことを意味する。ところが、上記の6省・直轄市以外の地方では、同比率が2020〜2022年の7.6対1から、2023年は9.1対1に上昇した。経済発展が(相対的に)遅れた地域では、充電インフラ不足でEVの使い勝手が悪化したのだ」

     

    充電ステーションは大都市では普及し始めているが、地方都市ではEVが増えた分、悪化している。

     

    (4)「そんななか、中国の消費者の間では電池だけで走行する純EVより、ガソリンを給油すれば走り続けられるPHV(プラグインハイブリッド車)やレンジエクステンダー型EV(訳注:航続距離を延ばすための発電専用エンジンを登載したEV)を評価する声が増えている。マッキンゼーのレポートによれば、PHVやレンジエクステンダー型EVの購入動機について、オーナーからは「長距離ドライブの際に電池切れを心配する必要がない」「通勤などの短距離移動ならEVモードだけで必要十分な航続距離がある」などの回答が多かったという。また、EVは(中古車市場がまだ小さく)新車価格の高さの割に中古車としての評価額が低い傾向がある。このことも、EVオーナーの不満の高まりにつながっていると、レポートは分析している」

     

    EVは、中古車の評価が低いことも不人気の理由だ。未だもう一つ、充電設備不足も不満の理由だ。

     

    (5)「EVメーカーの立場では、充電インフラの整備を加速して利便性を高め、顧客のEV離れを防がなければならない。例えば、レンジエクステンダー型EVを主力にしてきた新興メーカーの理想汽車(リ・オート)は、同社初の純EVの高級ミニバン「MEGA」を31日に発売した。それに先立ち、理想汽車は独自の急速充電ステーション網の建設を開始。2024年末までに中国全土に2万基の充電装置を設置する計画だ」

     

    給電設備は、地方政府がやるべき仕事だ。これまで、メーカーが行うとなると、大変な費用負担になる。だが、地方政府にはそういう財政余力がない。こうして、地方でのEV普及に限界が出てくるであろう。

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