中国政府は、不動産バブル崩壊を甘くみている節がある。李首相は、海外企業経営者の前で「たいした問題でない」と大見得を切っているが、実態はそんな軽い問題ではない。中国経済にとって、「命取り」になりかねないほどのプレッシャーを与えているのだ。
『ブルームバーグ』(3月28日付)は、「中国は債務問題に対処を さもなければ『失われた10年』に-ダリオ氏」と題する記事を掲載した。
ヘッジファンド運営会社ブリッジウォーター・アソシエーツの創業者、レイ・ダリオ氏は27日、中国は債務削減と金融緩和を進めるべきであり、そうしなければ「失われた10年」に直面する恐れがあると警鐘を鳴らした。
(1)「ダリオ氏はリンクトインで、習近平国家主席が今後の国際秩序を表現する際に使った「100年に一度の大変局」との警告に同意するとし、債務問題の管理に向けた措置を中国に勧めると投稿した。この投稿は5000語近くに及んだ。「多くの債務と貧富の大幅な格差があり、同時に大きな国内と国際的な権力の衝突や自然の破壊的変化、テクノロジーの多大な転換が存在する場合、『100年に一度の大嵐』が起きる可能性は高まる」とも指摘した」
習氏は、現状が「100年に一度の大変局」と警告している。だが、対策は小出しである。これが重なれば、「100年に一度の大変局」になりかねないリスクを抱えている。
(2)「ダリオ氏はさらに、米中間の緊張で差別されることを恐れた外国人投資家が分散を進めたり、中国を離れたりしているとも分析。このため、中国は投資獲得で困難に見舞われており、経済的・文化的対立が解消しなければ、向こう10年以内に戦争に発展する可能性が高いとした。債務問題に対処するため、ダリオ氏は中国がデレバレッジ(資産売却し債務削減をする)と金融緩和を同時に行うことを勧めている。そうした動きは、富のレベルで大きな変化につながり得るため、困難で政治的にリスクがあるとも認めた」
過剰債務問題には、早急なデレバレッジが不可欠である。これによって、金利負担を軽減することだ。現在、この正統派政策が行われていない。「言うは易く行うは難し」という側面があるだけに、勇断を以て行われなければならない。中国政府は、これを忌避している。
(3)「中国は、「振り子がどこまで毛沢東主義的・マルクス主義的なやり方に戻るかは誰にも分からない」とした上で、「より直接的なコミュニケーションは、中国指導部の伝統的なやり方ではないことが妨げとなっている。中国が、より伝統的なやり方に回帰する中ではこれも理解できる」と記した」
中国政府は、「広く公論に委ねる」という方式でなく、少ない人間で事を運んでいる。これが、大きなリスクを招いている。
『日本経済新聞 電子版』』(3月28日付)は、「IMF元幹部、中国の不動産不況『長く続く』供給過剰で」と題する記事を掲載した。
国際通貨基金(IMF)元副専務理事の朱民氏は28日、中国の不動産市場について「構造調整は非常に長く続く」と述べた。不動産不況の短期での収束は難しいとの見解を示した。
(4)「朱氏は「人口減少や高齢化などの需要変化のなかで、中国不動産は供給過剰に陥っている」とした。「中国の1人当たりの住宅面積は42平方メートルで、すでに世界的に高い水準にある」と指摘した。「中国の不動産は供給過剰であり、その構造調整は、非常に長く続くことを理解しなければならない」と厳しい見方を明らかにした。政府には、新築住宅に集中した政策を見直し、長期で安心して住める賃貸住宅の整備など抜本的な政策転換を促した。一方、中国経済の最大の焦点である金融システム危機については「発生しない」と可能性を否定した」
中国の人口動態からみて、中国の住宅需要が減少することは疑う余地のないことだ。IMFは今後10年間で住宅需要は半分以下に減るとしている。この現実を見据えれば、早期に不動産業界を再編する必要がある。
(5)「朱氏は、海南省を拠点とする複合企業、海航集団(HNAグループ)や積極的な海外投資で債務を膨らませた安邦保険集団の破綻処理を例に挙げ、「中国はこうした企業を処理する能力がある。一部の企業に関する悪いニュースを聞いても、心配する必要はない」と自信を示した。中国の倪虹・住宅都市農村建設相は全国人民代表大会(全人代、国会に相当)期間中の記者会見で「重大な債務超過に陥り経営が困難となった企業は、破産すべきは破産し、再編すべきものは再編すべきだ」と述べた。経営状態が深刻な不動産企業に今後厳しい対応を取る方針を示唆している」
中国は現在、不動産業界再編を行う能力があるとしている。このまま放置しておくと、体力消耗が続き「共倒れになる」。習氏には、その決断がつかないのであろう。