HV絶好調で他社引離す
特許件数ダントツ世界1
EV小休止をフル活用へ
半導体企業と関係密接化
トヨタ自動車の経営戦略は現在、100%の成功である。リチウム電池によるEV(電気自動車)限界をいち早く見抜いて、次世代電池として全固体電池の開発に全力を挙げているからだ。世界中の自動車メーカーは、リチュウム電池EVへ一直線で進み設備増強に走った。一方のトヨタは、申し訳け程度のEV発売に止めて、現行EVに代替するHV(ハイブリッド車)増産で対応した。トヨタは、この真逆の対応によって無駄なEV投資をまぬがれたのである。
この戦略は、怖いほどの的中になった。現在のEVは、耐久消費財特有の発売初期に躓く「キャズム」(溝)に落込んでいる。耐久消費財は、普及率が16.5%程度の段階で販売が一段落する。初期ユーザーが、購入し終わり後は様子見の段階に入るのだ。そして、数年後に製品改良を経て再び販売が上昇に乗るものである。現在のEVは、まさにこの流れに沿った動きだ。
トヨタは、リチウム電池の欠陥を知り抜いており、全固体電池がカバーできると判断している。だが、この全固体電池も全能ではない。走行距離に自ずと限界があるからだ。こうした技術の限界から、FCV(燃料電池車)・水素エンジン車・合成ガソリンエンジン車といった全ての技術開発に取組んでいる世界で唯一の自動車メーカーである。
HV絶好調で他社引離す
トヨタが、全方位の技術開発で先導できるのは、高収益体質であるからだ。トヨタのHVは、EV不振を尻目に「飛ぶように」売れていることでも分るように、経営戦略を多角化している。一つの技術に賭けないのだ。
米国では、HVがとりわけ好調である。その理由は、HVの性能が向上してガソリン車との燃費の差が拡大したことや、反対に価格差が縮まっていることが大きい。HVに強みを持つトヨタは、この恩恵がとりわけ大きいのだ。トヨタが、販売会社に支払う販売奨励金は2月が1台あたり1316ドル(約19万9000円)と、業界平均2828ドルの半分以下である。奨励金は、販売店にとっては値引きの原資になっている。つまり、HVはそれほどの値引きもせずに売れているのだ。
米国でHVを持たないメーカーは、販売奨励金が高止まり傾向にある。日産自動車の2月の販売奨励金は3377ドル。米GMは3136ドル、ドイツのVW(フォルクスワーゲン)も4652ドルと高水準である。EV専業のテスラは、平均で3726ドルだ。『日本経済新聞 電子版』(3月24日付)が伝えた。
トヨタの2023年4〜12月決算は、HVが大きく貢献して純利益が過去最高の3兆9472億円に達した。営業利益率は11.6%と2桁である。トヨタのライバルVWは、後記のように7.1%(23年)である。高収益とされるEVメーカーの米テスラは9%(同)である。トヨタの営業利益率が、他社を大きく引き離しているのだ。
自動車メーカーは、この営業利益率が経営指針として大きなメルクマールになっている。5%を切る状況では、技術開発余力を失うとして警戒されている。過去のトヨタの営業利益率(連結決算ベース)は、次の通りである。
2019年3月期 8.16%
2020年3月期 8.03%
2021年3月期 8.08%
2022年3月期 9.55%
2023年3月期 7.33%
以上の推移からみても、23年4~12月の11.6%の営業利益率が、飛び抜けていることがわかる。円安も絡んでいるが、冒頭に上げた無駄なEV投資をしなかったことや、HVの販売が絶好調という経営戦略の勝利がもたらした結果と言えよう。
世界で2位の自動車メーカーは、ドイツのVWである。VWは、EV一直線組であり現在、大きな路線変更を迫られている。今夏から予定した独北部ウォルフスブルクにある本社工場で、量産型EV「ID.3」の生産開始計画を取り止めた。元々は、23年末から生産開始予定だったが延期していたものだ。ID.3は、VWにとって年14万台を販売するEVの旗艦モデルである。こうした事情で、東欧で検討していたEV用電池のセル生産工場の投資も延期された。
VWは、EV戦略変更で多額の資金が稼働せずに「お蔵入り」している。無駄になったのだ。こうしてVWの営業利益率は、昨年12月期にそれまでの8.1%から7%に下がった。24年12月期の営業利益率は、「7~7.5%」と前期よりやや改善すると予測されている程度だ。VWの状況からみて、トヨタの優位性はさらに広がるであろう。
特許件数でダントツ世界1
営業利益率が、トヨタ11%でVWが7%では、研究開発費でさらに大きな差がつくはずである。過去の特許件数で、VWは既に大きく引き離されているのだ。
朝鮮日報と韓国特許庁は、全世界の特許の80%以上を占めるIP5(韓国、米国、欧州、日本、中国)の国・地域の自動車特許出願状況を調べた。それによると、自動車主要技術3分野で、トヨタは約1万3000件余の特許を出願し、トップであることが分かった。『朝鮮日報』(3月13日付)が報じた。(つづく)
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