勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2024年03月

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    HV絶好調で他社引離す

    特許件数ダントツ世界1

    EV小休止をフル活用へ

    半導体企業と関係密接化

     

    トヨタ自動車の経営戦略は現在、100%の成功である。リチウム電池によるEV(電気自動車)限界をいち早く見抜いて、次世代電池として全固体電池の開発に全力を挙げているからだ。世界中の自動車メーカーは、リチュウム電池EVへ一直線で進み設備増強に走った。一方のトヨタは、申し訳け程度のEV発売に止めて、現行EVに代替するHV(ハイブリッド車)増産で対応した。トヨタは、この真逆の対応によって無駄なEV投資をまぬがれたのである。

     

    この戦略は、怖いほどの的中になった。現在のEVは、耐久消費財特有の発売初期に躓く「キャズム」(溝)に落込んでいる。耐久消費財は、普及率が16.5%程度の段階で販売が一段落する。初期ユーザーが、購入し終わり後は様子見の段階に入るのだ。そして、数年後に製品改良を経て再び販売が上昇に乗るものである。現在のEVは、まさにこの流れに沿った動きだ。

     

    トヨタは、リチウム電池の欠陥を知り抜いており、全固体電池がカバーできると判断している。だが、この全固体電池も全能ではない。走行距離に自ずと限界があるからだ。こうした技術の限界から、FCV(燃料電池車)・水素エンジン車・合成ガソリンエンジン車といった全ての技術開発に取組んでいる世界で唯一の自動車メーカーである。

     

    HV絶好調で他社引離す

    トヨタが、全方位の技術開発で先導できるのは、高収益体質であるからだ。トヨタのHVは、EV不振を尻目に「飛ぶように」売れていることでも分るように、経営戦略を多角化している。一つの技術に賭けないのだ。

     

    米国では、HVがとりわけ好調である。その理由は、HVの性能が向上してガソリン車との燃費の差が拡大したことや、反対に価格差が縮まっていることが大きい。HVに強みを持つトヨタは、この恩恵がとりわけ大きいのだ。トヨタが、販売会社に支払う販売奨励金は2月が1台あたり1316ドル(約19万9000円)と、業界平均2828ドルの半分以下である。奨励金は、販売店にとっては値引きの原資になっている。つまり、HVはそれほどの値引きもせずに売れているのだ。

     

    米国でHVを持たないメーカーは、販売奨励金が高止まり傾向にある。日産自動車の2月の販売奨励金は3377ドル。米GMは3136ドル、ドイツのVW(フォルクスワーゲン)も4652ドルと高水準である。EV専業のテスラは、平均で3726ドルだ。『日本経済新聞 電子版』(3月24日付)が伝えた。

     

    トヨタの2023年12月決算は、HVが大きく貢献して純利益が過去最高の3兆9472億円に達した。営業利益率は11.6%と2桁である。トヨタのライバルVWは、後記のように7.1%(23年)である。高収益とされるEVメーカーの米テスラは9%(同)である。トヨタの営業利益率が、他社を大きく引き離しているのだ。

     

    自動車メーカーは、この営業利益率が経営指針として大きなメルクマールになっている。5%を切る状況では、技術開発余力を失うとして警戒されている。過去のトヨタの営業利益率(連結決算ベース)は、次の通りである。

    2019年3月期 8.16%

    2020年3月期 8.03%

    2021年3月期 8.08%

    2022年3月期 9.55%

    2023年3月期 7.33%

     

    以上の推移からみても、23年4~12月の11.6%の営業利益率が、飛び抜けていることがわかる。円安も絡んでいるが、冒頭に上げた無駄なEV投資をしなかったことや、HVの販売が絶好調という経営戦略の勝利がもたらした結果と言えよう。

     

    世界で2位の自動車メーカーは、ドイツのVWである。VWは、EV一直線組であり現在、大きな路線変更を迫られている。今夏から予定した独北部ウォルフスブルクにある本社工場で、量産型EV「ID.3」の生産開始計画を取り止めた。元々は、23年末から生産開始予定だったが延期していたものだ。ID.3は、VWにとって年14万台を販売するEVの旗艦モデルである。こうした事情で、東欧で検討していたEV用電池のセル生産工場の投資も延期された。

     

    VWは、EV戦略変更で多額の資金が稼働せずに「お蔵入り」している。無駄になったのだ。こうしてVWの営業利益率は、昨年12月期にそれまでの8.%から7%に下がった。24年12月期の営業利益率は、「7~7.%」と前期よりやや改善すると予測されている程度だ。VWの状況からみて、トヨタの優位性はさらに広がるであろう。

     

    特許件数でダントツ世界1

    営業利益率が、トヨタ11%でVWが7%では、研究開発費でさらに大きな差がつくはずである。過去の特許件数で、VWは既に大きく引き離されているのだ。

     

    朝鮮日報と韓国特許庁は、全世界の特許の80%以上を占めるIP5(韓国、米国、欧州、日本、中国)の国・地域の自動車特許出願状況を調べた。それによると、自動車主要技術3分野で、トヨタは約1万3000件余の特許を出願し、トップであることが分かった。『朝鮮日報』(3月13日付)が報じた。(つづく)

     

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    https://www.mag2.com/m/0001684526

     

     

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    中国は、米国との対立によって半導体の輸出規制に苦しんでいる。中国国営メディアの環球時報は、韓国半導体SKハイニックスに対して中国国内で操業する半導体工場への投資拡大を呼び掛けた。中国が、半導体でいかに苦しんでいるかを示している。

     

    『中央日報』(3月27日付)は、「『韓国企業が利益損なわないよう』、中国国営メディア SKハイニックス名指しで投資拡大促す」と題する記事を掲載した。

     

    米中間の半導体戦争が加熱している中で、中国がSKハイニックスを名指しして韓国が米国主導の対中半導体輸出規制に参加しない代わりに中国に対する投資を拡大するよう促した。

     

    (1)「中国国営メディア『環球時報』の英文版である『グローバルタイムズ』は25日、「韓国半導体メーカーに中国追加投資が重要だ」というコラムを通じ、中国発展フォーラムに参加するために北京を訪れたSKハイニックスの郭魯正(クァク・ノジョン)代表理事社長について「SKハイニックスに中国市場の重要性を強調すると同時に中国で『さらに大きな成功』を収めたいという決意を見せてくれた」と主張した。その上で「郭社長の訪問は韓国政府が半導体生産装備の中国輸出を制限するか検討しているとされる敏感な時点になされた。こうしたニュースが事実でないよう願うが、韓国がこの問題を検討しているならば韓国企業の利益を害せず保護する理性的な選択をするよう希望する」とした」

     

    中国が、SKハイニックスの半導体工場へ依存していることを示している。米国は、こういう事情を知っているので、韓国へ圧力を掛けている。

     

    (2)「中国商務部の王文涛部長は22日に郭社長と会い、SKハイニックスが続けて中国投資を増やし中国に深く根ざして、中国の高品質発展がもたらす成長機会を共有することを希望するという考えを示した。これに対し郭社長は、「中国はSKハイニックスの最も重要な生産拠点であり販売市場のひとつとしての地位を確立した。今後も中国に根を下ろしもっと大きな発展を成し遂げられるよう中国内事業を絶えず推進するだろう」と答えた。SKハイニックス関係者によると、面談は良い雰囲気の中で進行されたという」

     

    中国は、商務部長(日本の経産大臣)までがSKハイニックスへ中国投資の増加を要請している。中国半導体事情の窮迫を示している。

     

    (3)「こうした雰囲気とは別に同メディアはコラムを通じ、中国投資拡大の重要性を強調し、誤判断で被害を受けないよう圧迫を加えたと分析される。グローバルタイムズは「SKハイニックスがNAND型フラッシュの30%、DRAMのほぼ半分を中国で生産する。米国の輸出規制で中国工場での生産に支障が出ればSKの技術高度化戦略もともに支障が出る」と強調した」

     

    SKハイニックスにとって、中国半導体工場は大きなウエイトを占める。これは今後、米中関係のさらなる悪化の場合、SKハイニックスが致命的打撃を受ける予兆でもある。

     

    (4)「SKハイニックスは、2020年に90億ドルを投じて米インテルのNAND型フラッシュ事業部を買収し、大連工場も譲り受けた。2022年5月には大連第2工場も着工した。しかし米国の対中半導体装備規制などの余波で中国事業本部の業績が振るわず、絶えず「大連工場売却説」が流れている状況だ。SKグループの崔泰源(チェ・テウォン)会長は昨年7月に「中国は代替可能な市場ではない」として大連工場売却説を否定した」

     

    SKハイニックスは、「大連工場売却説」が常に出てくる背景として、米中関係の緊迫化が存在する。SKハイニックスも、米中対立の狭間で苦悩しているのだ。

     

    (5)「中国は、米インテルとAMDのマイクロプロセッサーを自国政府機関のパソコンとサーバーから段階的に締め出す指針を昨年12月末に導入し施行中だ。米国がファーウェイなど中国企業の先端半導体開発を防ぐために制裁を強化し、中国もやはり米国のIT企業の影響力を減らすとして正面から対抗する作戦に乗り出している」

     

    中国は、米インテルとAMDのマイクロプロセッサーを政府機関の購入から締め出している。ここで、SKハイニックスが中国投資を控えることになれば、中国政府の米国半導体締出し策が空洞化するのだろう。中国は、とんだところで自らの弱点をさらけ出している。

     

     

    あじさいのたまご
       

    中国飲料水メーカー最大手・農夫山泉が、中国のインターネット上で日本に媚びているとして徹底的なバッシングを受けている。「緑茶飲料のペットボトルに描かれた寺のデザインと緑茶の説明は日本文化の宣伝だ。日本に媚びを売るひどい『媚日』で、我々の中華文化を軽んじている」というのだ。

     

    中国には、不況になると「日本叩き」を始めるパターンがある。国内の鬱憤晴らしに日本批判を始めるのだ。韓国で長いこと、時の政権の支持率が下がると「反日」を始めたのと同じ構図である。中国は、不動産バブル崩壊で長いトンネルに入っている。根拠のない日本叩きが始まっている。

     

    『日本経済新聞 電子版』(3月27日付)は、「習氏の出世支えた吉祥の寺も標的、『日本たたき』の怪」と題する記事を掲載した。筆者は、同紙の中沢克二編集委員である。

     

    中国飲料水メーカー最大手「農夫山泉」の飲料水の蓋は赤く、上から見ると日本の国旗「日の丸」に見えるので「日本に媚びている」という奇妙な批判が中国で拡散されている。赤い蓋の付いたボトルを上からみれば、全て「日の丸」になるのが当然だ。中国人民解放軍内でも愛用されている中国で最も有名な高級白酒「茅台(マオタイ)酒」。これも白地の瓶に赤い蓋だ。「茅台酒が日本に媚びている」などという批判は、かつて聞いたことがない。

     

    (1)「なぜ、中国のネット市民らは、こんなにも安易に「日本たたき」に走るのだろう。そのひとつは長年、変わらない政治的な雰囲気だ。12年9月、中国全土で「官」が裏で糸をひく官製反日デモが起き、日本企業が「焼き打ち」などの標的になった。これは、習が同年11月の共産党大会でトップに立つ直前の出来事だ。しかし、その際、醸し出された強烈な反日の雰囲気は、12年もの歳月を経た今も残っている。「日本たたき」は、中国で最も政治的に安全な不満のはけ口になっている。それは否めない事実だ」

     

    雇用不安を抱える中国の若者にとって、不満のはけくちは「反日」が定番である。誰からも批判されず、大いに盛り上がるからだ。

     

    (2)「最近、そこに新たな要因が加わった。この安全な「日本たたき」を利用して、自分が主催するネット上のアカウントにある文章や画像、映像のクリック数を稼ぎ、ファンを増やそうとする動きも目立つ。SNS、動画共有サービスなどメディアを通じてファンが大きく増えれば、広告を含む自らの収入も増える。中国は今、「ライブコマース」全盛の時代を迎えている。つまり、商業上の利益を得る目的に「日本たたき」を利用するねじ曲がったブームである。しかも、この行為は、中国で政治的に罰せられる可能性が低い。ネット上の「日本たたき」をあからさまに当局が取り締まれば、取り締まった側が、中国のネット市民の批判対象になりかねない危うさもある」

     

    SNSのネット市民は、「日本叩き」をビジネスにし始めている。これで、多くの「いいね」を獲得して利益を上げているのだ。

     

    (3)「突然の『農夫山泉たたき』『日本たたき』というブームの背景には、商業目的も加わっている。受け手は、一種の『娯楽』として『日本たたき』を楽しんでいる面もある。これは、複雑で入り組んだ中国ネット社会の実態を反映している」。長年、中国メディアの内側から中国の社会構造を分析してきたある識者の卓見である。やるせなさを感じざるを得ない分析だ」

     

    「農夫山泉」の蓋は赤く、上から見ると日本の国旗「日の丸」に見えることにこじつけ、「日本叩き」でクリック数を上げている。

     

    (4)「一方で、全く違う方向の動きもある。ここ数年、中国から日本にやってきて事実上の「定住」を目指す中国の知識人、企業経営者らが激増している。そこには、まだ全く表に出ていない著名な民間企業経営者らも含まれる。中国内での「農夫山泉たたき」「日本たたき」とは全く別に、中国の人々の中で今、日本は見直されているのである。この潮流が、これからどんな中国と日本の新しい関係、ひいては中国と世界の新しい関係を紡ぎ出すのか。こちらのほうこそ、しっかり見守りたい」

     

    中国の大学進学率(短大を含む)は、71.98%(2022年)と高く、既に日本の62.14%(同)を上回っている。この高学歴者が増えれば、「日本叩き」で喜んでいる層は減っていくはず。最後の反日集団にもみえるのだ。それよりも、中国の知識人や企業経営者らが、日本定住を目指しているという。目に見えない親日派が増えているのだ。

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    中国は、高級耐久消費財の購買力が急激な低下に見舞われている。住宅・グッチ・iPhoneの売上げが急減しているのだ。不動産調査会社の中指研究院のデータによれば、業界上位100社による2024年1~2月までの住宅販売額は、前年同期比51.6%の落ち込みである。『東洋経済オンライン』(3月26日付)が伝えた。

     

    スイスの高級腕時計は、2月に輸出が減少した。中国本土向けは前年同月比25%、香港向けは同19%それぞれ減った。アナリストの間では、中国での高級品需要は年内に一段と冷え込むと予想されている。『ブルームバーグ』(3月25日付)が報じた。

     

    アップルのiPhoneは、中国出荷台数が2月、前年同月比で約33%減少したことが政府のデータで明らかになった。データによると、国外ブランドのスマートフォン出荷台数は2月に約240万台にとどまった。この出荷数の大半は、アップルが占める。iPhoneは高価格帯である。『ブルームバーグ』(3月26日付)が報じた。


    中国消費は、高価格帯が売れず低価格帯へシフトしている。雇用不安が、消費不安へとつながっているからだ。住宅不況が、大きく影響している。一方、中国政府はこうした状態を否定し、明るさを強調するチグハグさをみせている。

     

    『日本経済新聞 電子版』(3月24日付)は、「中国首相『不動産問題』深刻ではない、外資に投資訴え」と題する記事を掲載した。

     

    中国政府は3月24日、北京市で世界大手企業80社以上のトップを招く国際会議を開いた。李強(リー・チャン)首相は不動産や地方債務の問題について「一部の人が想像するほど深刻ではない」と主張し、外資企業に対中投資を呼びかけた。

     

    (1)「外資企業は、巨大な中国市場を重視する姿勢を示すが、首相と直接話し合う恒例の会合は見送られる。中国との意思疎通を不安視する声も出ている。国際会議「中国発展ハイレベルフォーラム」が25日までの日程である。李氏は、開幕式で「世界の企業が中国に投資することを歓迎する」と強調した。また、「中国は今年も5%前後の成長を目標としており、国内需要の拡大に努める。科学技術のイノベーションを推し進め、人工知能(AI)の発展も加速する」と述べた。対外開放も進め「中国の大きな市場は世界にとっても大きなチャンスとなる」と訴えた」

     

    中国政府は、24年のGDP成長率「5%前後」の実現を気軽に考えている節がみられる。もっとも、李首相は全人代の演説で実現に多くの障害のあることを認めたが、この国際会議ではトーンが変わっている。短期間に、中国経済の基調に変化があるはずはないからだ。それは、高級耐久消費財の売行きが急悪化していることに表れている。

     

    『東洋経済オンライン』(3月18日付)は、「中国不動産大手、12月の住宅販売額 半減の深刻」と題する記事を掲載した。これは、中国『財新』記事の転載である。

     

    「不動産会社は春節(中国の旧正月)の商戦を盛り上げようと、あの手この手の販促活動を展開した。その結果、一部の都市ではショールームの来店客数が幾分増えたが、顧客側は様子見の雰囲気が濃厚で、成約増にはつながらなかった」。中指研究院のチーフアナリストを務める劉水氏はそう話す。

     

    (2)「劉氏の分析によれば、不動産会社の(値引きや特典などの)販促活動が期待外れに終わった主因は、消費者が自分の収入や中国経済の先行きに不安を抱き、それが住宅需要の縮小を招いていることだ。ただし、12月の住宅販売額の落ち込み幅が大きかった裏には、比較対象である2023年1~2月の住宅販売が好調だった反動もある。中国では2022年12月に「ゼロコロナ政策」が事実上解除され、それまで抑制されていた需要が一気に噴出。不動産市況が2023年1月から3月にかけて一時的に回復したからだ」

     

    今年の1~2月の住宅販売が、前年同期比51.6%の落ち込みになった背景には、昨年同期が「リベンジ消費」で一時的回復状況にあったことの影響が出ている。これを割り引かねばならない。

     

    (3)「先行き不安の高まりによる住宅需要の縮小は、これまで市況が相対的に堅調だった「一級都市」と呼ばれる北京、上海、広州、深圳の4大都市でも顕著になりつつある。例えば深圳市は、(不動産投機を抑制するために)住宅購入者に課していた一定期間以上の在住年数や個人所得税・社会保険料の納付記録などの条件を2月に廃止した。北京市は、(郊外の南東部に位置する)通州区の住宅購入制限を一部緩和し、上海市は外郭環状道路の外側の地域で単身者に対する住宅取得制限を撤廃した。にもかかわらず、2月の販売データからは一級都市の住宅取得制限緩和の効果が見えない。深圳、北京、上海のいずれでも、同月の新築住宅の成約面積は前年同月比6割を超える減少を記録した

     

    これまでの住宅不況は、主として地方都市で顕著であった。「一級都市」は、地方ほどの悪化でなかった。だが、今年の1~2月はついに「本丸」へ住宅不況が波及してきたことを示している。李首相は、不動産問題は深刻でないと見得を切っているが、厳しい現実に直面している。

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    韓国は、儒教社会ゆえに「長幼の秩序」が厳格である。企業で、先輩が後輩の部下になることなどあり得ない。先輩は永遠に先輩であり、後輩の下風に立つことはメンツが許さないのだ。こういう年功序列が、技術漏洩の動機になっている。出世できなかった恨みとして、会社に機密情報を持ち出し漏洩させるのだ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(3月26日付)は、「サムスンなど技術流出、5年で96件 中国に漏れる競争力」と題する記事を掲載した。

     

    サムスン半導体部門の元常務(66)らが半導体工場の図面資料を入手して中国に流出させた。検察は韓国の産業技術保護法違反にあたるとして2023年6月に元常務ら7人を起訴した。

     

    (1)「元常務はサムスン退職後、ライバルのSKハイニックス(当時はハイニックス半導体)に移って最高技術責任者(CTO)まで務めた人物だ。中国・陝西省で半導体工場を建設するために、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業から8000億円規模の資金を受ける約束を交わしていた。さらに200人ほどの韓国人技術者を採用していたとされる。半導体が米中対立の焦点となり、鴻海は資金拠出を断念して計画は頓挫した。中国に台湾資本によるサムスンのコピー工場が稼働していた可能性もある。3月20日の第9回の公判まで被告らは一貫して無罪を主張し、裁判の行方は見通せない。国家が技術者の外国就業を制限できるのかといった論点も浮上している」

     

    サムスン出身の元役員は、鴻海からの出資によってサムスン中国半導体工場の近くに、全く同じサイズの半導体工場を建設する計画であった。これが現在、技術漏洩で裁判が行われている一件である。

     

    (2)「サムスンは技術流出に目を光らせてきた。社内の複合機で使う印刷用紙には特殊な金属箔を埋め込み、情報を印刷して持ち出そうとするとゲートで探知機が作動する。新型コロナウイルスの感染拡大期でも技術職の在宅勤務を認めなかった。それでも転職者などを介しての技術流出は止まらない。米政府主導で対中包囲網が狭まり、正攻法で技術の蓄積が難しくなった中国企業が暗躍しているためだ」

     

    サムスンは、技術流出阻止に全力を挙げている。かつてサムスンは、日本の半導体技術者をソウルへ招き、「闇アルバイト」という形で直接指導を受けた。こういう「のどかな時代」と異なって、現在の中国はスパイもどきの戦術を使ってくる。油断も隙もならないのだ。

     

    (3)「韓国産業通商資源省によると、23年まで過去5年間で半導体や電池、有機ELパネル、造船分野など産業技術の海外流出案件は96件にのぼった。うち半導体は38件と最も多く、ディスプレー(16件)、自動車(9件)が続く。流出先の大半は中国だ。所属企業で出世競争に敗れた技術者らが中国に渡る。液晶パネルで世界首位に立った京東方科技集団(BOE)は100人超の韓国人が在籍し、有機ELパネルの技術開発を担った。摘発された技術流出は「氷山の一角である可能性が高い」(同省関係者)」

     

    韓国技術漏洩先の大半は、中国である。韓国技術者を大量に採用して、ノウハウを習得している。

     

    (4)「韓国が、基幹産業と位置付けてきたディスプレーや造船、石油化学、電池、鉄鋼など幅広い産業で中国企業が世界首位に立つ。国家主導で規模拡大にまい進する中国製造業と同じ土俵で戦っていては勝ち筋が見えない。韓国の貿易統計には長期停滞の予兆が表れる。最大貿易相手国である中国向けの輸出23年に1248億ドル(約19兆円)で、前年比20%減と過去最大の減少幅を記録した。半導体不況や中国の景気低迷という要因もある。それでも自動車や鉄鋼、化学などで中国企業が技術力を高め、韓国製品を必要としなくなった構造変化は見逃せない」

     

    中国と韓国の産業構造は極めてよく似ている。だが、これまでは相互補完であった。現在は競争関係へと変わっている。中国の技術力が上がってきたからだ。違法な摂取方法であろうと、韓国の技術をマスターしている。

     

    (5)「弘益大学のシン・ミンヨン教授は「中国が質的な経済成長をなし遂げたため、韓中は補完関係から競争関係へと変貌した」と指摘する。韓国では労働組合を支持基盤とした文在寅(ムン・ジェイン)前政権下で法整備された「週52時間労働」によって仕事への姿勢、働き方が大きく変わった。財閥大手の幹部は「働く意欲を持つ若手には帰宅を促さなければならず、定時帰りに慣れて『時間を会社に売る』意識も根付いてしまった」と話す。かつての出世競争を戦い抜く「モーレツ文化」は様変わりした」

     

    「週52時間労働」は、韓国の長時間労働を是正する手段であったが、弾力的な運用ができず、「紋ギリ型」になっている。繁忙期に残業時間を延長することが困難になっているからだ。

     

    (6)「輸出産業を多く抱える財閥企業の競争力が低下すれば韓国経済も減速する。23年の国内総生産(GDP、実質ベース)成長率は1.%にとどまり、日本の成長率(IMF見通しで2.%)を25年ぶりに下回った。1970年代から急速に経済発展を遂げた韓国も成長率12%の停滞期に入ったとみるアナリストも多い。日本以上に少子高齢化が進む5170万人の内需は力強さを欠き、このままでは2020年の名目GDP世界10位をピークに後退していく懸念もある」

     

    韓国経済は、技術的な行き詰まり問題も抱えている。GDP世界10位が、韓国の最高位であってこれからは、13位以下に落ちる可能性が強まっている。

     

     

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