勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2024年03月

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    5年前の香港では、中国の専門知識を持つ金融プロフェッショナルが、UBSグループシティグループなどの金融機関から引っ張りだこであった。それが現在は、失職したバンカーが職を求めて苦しい日々を送っている。短時間に、「天国と地獄」を経験させられている。原因は、言わずと知れた香港の中国化と米中対立が背景にある。こうした構造問題が横たわっている以上、香港金融界へ再び陽がさすことは期待薄であろう。

     

    『ブルームバーグ』(3月26日付)は、「金融のプロ 香港で再就職困難ー5年前の引く手あまたから一転」と題する記事を掲載した。

     

    わずか5年前は、中国の専門知識を持つ金融プロフェッショナルはUBSグループシティグループなどの金融機関から引っ張りだこだった。小米や美団などの新規株式公開(IPO)により、金融の中心地としての香港の地位はニューヨークと張り合うレベルまで高まった。こうした金融プロフェッショナルの努力が寄与し、香港と米国に上場する中国本土企業の時価総額は計6兆米ドル(約908兆円)を超えた。

     

    (1)「米中の地政学的緊張が資本市場に大きな打撃を与えている現在、株価低迷と経済の見通し悪化で香港のIPOは干上がっている。また、中国共産党の習近平総書記(国家主席)が推し進めるデータセキュリティーと金融市場規制の強化により、中国企業による資産取得や海外上場は難しくなっている。かつて、シティでも働いていた元バンカーは、「中国の上昇軌道や国内外の金融市場緊密化を当然のことと思っていたが、今は一時的な現象に過ぎなかったと理解している。恐ろしい」と述べた」

     

    香港金融市場は、米中対立と中国による金融市場規制が重なって、5年前までみせた繁栄がウソのように消え去った。

     

    (2)「金融ディール仲介の中心地だった香港は、最大級のダメージを受けた。さらに米国の大手銀行で相次いだレイオフやグローバル資本の対中投資引き揚げが、国際金融センターとしての香港の役割低下に追い打ちをかけた。人材あっせん会社ロバート・ウォルターズのマネジングディレクター、ジョン・ムラリー氏によると香港で求職中のエントリーレベルより上の金融専門家は同氏が扱う求職者数に基づくと「数百人」に達する。同氏は「香港は非常に脆弱(ぜいじゃく)な市場であり、人員削減はまだ続くだろう」と語った」

     

    香港は、数百人の金融プロが失業する異常事態に追込まれている。さらに今後、失業者が増えそうである。

     

    (3)「ゴールドマン・サックス・グループJPモルガン・チェース、シティはここ1年半の間にアジアで数度にわたり人員削減を行ってきた。ゴールドマンの元従業員は、解雇をきっかけに自分と同僚は香港にとどまるべきかだけでなく、業界にとどまるかどうかについても考え始めたと話した。中国・香港市場のIPO減少は、膨れ上がった従業員数を正当化できなくなり、各行がアジア全域でリストラを検討せざるを得なくなることを意味する」

     

    ゴールドマン・サックス・グループJPモルガン・チェース、シティといった投資銀行は、ここ1年半の間に矢継ぎ早に人員整理をしている。事態の急変を告げている。

     

    (4)「実際に業界を離れたバンカーもいる。昨年、グローバル投資銀行のアナリストの職を失ったヤンさん(24)は求職活動を数カ月続け、コンサルティング会社やベンチャーキャピタル、プライベートエクイティー(PE、未公開株)投資会社の面接を10社ほど受けたが採用には至らなかった。ヤンさんは結局、中国本土の実家に戻り、従来型金融以外のキャリアを目指すと決めた。「競争は以前よりはるかに激しくなっている。PEの求人が1件あれば、数百人の元銀行員から履歴書が殺到する」とヤンさんは語った。ヤンさんら取材に応じた一部の人々は重要なキャリアに関する問題だとの理由で、フルネームを明かさない条件で話してくれた」

     

    金融専門家1人の求人に対して、数百人が応募する就職難だ。採用される確率は、宝くじを買うようなものだ。

     

    (5)「昨年12月、香港の金融専門家数を反映する香港証券先物委員会(SFC)の免許取得者数は4万4722人と、2021年末から600人余り減った。金融業界が22年域内総生産(GDP)の約23%、雇用の7.5%を占めていたことを考えると、金融サービス活動の鈍化は香港経済を圧迫しそうだ」

     

    香港GDPは、金融サービスが23%も占めている。香港経済が、大きな打撃を受けるのは不可避である。 

     

    あじさいのたまご
       

    米国では、日本製鉄によるUSスチール合併に政治的な動機で反対論が強まっている。バイデン氏が、大統領選を控えてUSW(全米鉄鋼労組)の支持を得るためにあえて行った発言とみられている。このように、政治の都合で民間企業の合併問題へ介入することは、中国の国家資本主義に似てきたとの批判を浴びている。 

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月25日付)は、「中国型資本主義に向かう米国」と題する記事を掲載した。 

    中国系短編動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」が中国企業の傘下にとどまるのか、米国内でのサービス利用を禁止されるのか、それとも事業を売却するかを決めるのは誰か。ワシントンの政治家だ。米鉄鋼大手USスチールを買収できるのは米企業なのか日本企業なのかを決めるのは誰か。ワシントンの政治家だ。

     

    (1)「かつては取締役会や株主総会で行われていた経営上の意思決定が、米国各地でますます政治の影響を受けるようになっている。米国が、生産手段を政府が管理する社会主義に向かっているわけではない。しかし、国家資本主義に傾いているのかもしれない。そこでは、国益を確保するため政府が日常的にビジネスに介入する。問題は、TikTokとUSスチールの事例が示すように、国益の定義が時々の政治的優先事項に適合するように絶えず変更されていることだ」 

    米国の国益は、市場経済によって実現するものである。この原則が、トランプ氏とバイデン氏の二人の大統領によって危機に瀕している。政治が、経済へ介入しているからだ。 

    (2)「米国は自由放任主義の楽園であったことは一度もないが、他のどの国よりも自由市場資本主義を信じ、効率性と利益を基に資本の配分が決まることを認めていた。ドナルド・トランプ前大統領もジョー・バイデン大統領もこうした考えを持っていない。2人とも自身が描く国益のビジョンに合う方向に企業の経営判断を誘導するため、税金・補助金・規制・権威など連邦政府のあらゆる手段を喜んで使う」 

    大統領は、自らの権限によって企業の経営判断を税金や補助金などを使って誘導する。だが、こういう誘導策を超えて企業の合併問題へ介入するのは越権行為である。

     

    (3)「中国の全体的な経済モデルは、外国企業を組織的に差別するなど、市場経済と公正な競争に関する原則を選択的に無視することによって機能している。中国の国家資本主義は国際的な競争の場を自国が有利になるようにうまく変えたため、米国を含む他国にその国なりの国家資本主義を採用させる結果を招いた」 

    米国は、中国の国家資本主義モデルに対抗するために、自らも同じ手法に陥る危険性を弁えなければならない。 

    (4)「トランプ氏は米軍が国内企業から鉄鋼を調達できるようにする必要があると主張し、同盟国からの輸入鉄鋼にも関税を課した。2020年にはTikTok事業の米投資家への売却を強制しようとしたが、失敗した。バイデン氏が追求する国家資本主義はトランプ氏ほど個人的ではなく、より洗練されている。目標は二つある。米製造業とグリーンエネルギー産業を育成するとともに、重要な技術と知識の国外流出を規制することで安全保障を強化することだ」 

    バイデン氏は、トランプ氏よりも洗練された形でグリーン産業と重要技術の国外流出阻止を目指している。

     

    (5)「バイデン氏は先週、日本の鉄鋼大手、日本製鉄によるUSスチール(本社ペンシルベニア州ピッツバーグ)買収に反対する意向を表明。同氏の国家資本主義もトランプ氏同様に、個人的で政治的、そして最終的に非生産的になりかねないことを示した。バイデン氏はUSスチールが米国内で所有され続けることが必要だと述べたが、その理由は何だろうか」 

    そのバイデン氏が、トランプ氏と同じ手法で日鉄のUSスチール合併反対論を打ち上げた。 

    (6)「日本製鉄の潤沢な資金や日本の自動車メーカーとの緊密な関係、電気自動車(EV)モーター用の特殊な薄い電磁鋼板を製造するための専門技術は、USスチールを強化するはずだ。中国の巨大企業に対抗する日米連合の企業が生まれれば、市場経済を掲げる民主主義国の協力というバイデン氏のビジョンを体現することにもなる。だが、全米鉄鋼労組(USW)は労組のある工場に対する日本製鉄の約束に疑念を持ち、買収反対を表明した。トランプ氏だけでなく、激戦州のオハイオ、ペンシルベニア両州選出の上院議員も同様の反応だった。バイデン氏もペンシルベニア州の有権者の支持を失うことを恐れ、その流れに加わった。バイデン氏は20日、USWの支持を得た」

     

    日鉄は、EVモーター用の特殊な薄い電磁鋼板技術をUSスチールへ移転させてくれる。これは、米国鉄鋼業にとって大きな刺激である。しかし、バイデン氏は大統領選優先により合併反対論でUSWと取引している。ただ、選挙後に合併承認説も根強い。バイデン氏は、老練な政治家として振る舞っているのかも知れない。 

    (7)「ここは中国ではない。トランプ氏もバイデン氏も、自分が望む結果を単に企業に押しつけることはできない。だが、彼らの意図を予想して企業は行動を変える。投資は最大のリターンのためにではなく、政治的な都合で行われるようになる。経営陣は権力者たちの機嫌を損ねるような発言を避ける。企業は市場ではなく権力の回廊の中で競争相手に勝とうとするため、国家資本主義と縁故資本主義の境目が曖昧になる」 

    政治家は、合併という高度の企業判断へ介入してはならない。これが、米国経済の原則である。

     

     

     

    テイカカズラ
       

    企業経営では、「三代目」はリスクを伴うものとされる。日本には、「売り家と唐様で書く三代目」という言葉がある。初代が苦心して財産を残しても、3代目にもなると没落してついに家を売りに出すようになる。その売り家札の筆跡は唐様でしゃれているというのだ。 

    韓国サムスン電子が、まさに「三代目」である。二代目の猛烈経営者であった李健熙氏の後を受けた三代目の李在鎔氏は、朴槿恵大統領(当時)の失脚に絡む贈賄罪で長く被告の身であった。これが、経営の空白を生んだのだ。 

    『日本経済新聞 電子版』(3月25日付)は、「サムスン、細る先代の遺産『前例ないとGo出せない』」と題する記事を掲載した。 

    サムスンで働く30代の研究開発職の社員は、昨秋に直属の上司に告げられた言葉が忘れられない。「その改善案に前例はあるのか、そうでなければGoサインは出せない」。この社員は製造工程での歩留まり(良品率)改善のアイデアを「前例がないからこそ挑戦したい」と訴えたものの、役員の耳には届かなかった。

     

    (1)「サムスンの常務以上の役員任期は1年だ。短期間で成果を出さなければ再契約はない。出世競争の中で役員らは短期成果を求め、現場の技術者らが腰を据えて研究開発に挑む気風は乏しい。サムスンもまた「大企業病」を患っている。そんなサムスンに見切りをつけて、ライバルのSKハイニックスに転じる技術者もいる。エリートぞろいで失敗を過度に恐れるサムスンに対して、SKは「新しいアイデアも積極採用しないとサムスンと渡り合えない」(技術者)ため現場発の挑戦を推奨する社風がある。この企業文化が花開いたのが、人工知能(AI)浸透で需要急増中の「広帯域メモリー(HBM)」と呼ばれる次世代DRAMだ。SKはAI半導体で独走体制を築く米エヌビディアと関係を深めてHBMでサムスンに先行した」 

    常務以上の役員任期は1年では、中長期の経営方針は出るはずもない。しかもトップが、長く被告の身である。サムスンの経営が10年間、横ばいであったのは当然であろう。 

    (2)「AIブームを読み誤ったサムスン社内の動揺も大きく、23年7〜9月期はSKに追い上げられた。10〜12月期は巻き返しに向けた大号令がかかり、在庫を吐き出してシェアを取り戻したものの、かつてのメモリー王者の余裕はなくなった。競争力の低下は半導体メモリーに限った話ではない。スマートフォンでは10年以上堅持してきた世界首位の座(出荷台数ベース)を23年にアップルに明け渡した。自社スマホの出荷低迷は、部品供給を担う半導体やディスプレーなど他部門の販売減にもつながる」 

    サムスンが、AIブームの見誤りをしたのは決定的なミスであった。これが、半導体戦略の躓きの原因になった。スマホでも高級化路線の定着で、サムスンはアップルの後塵を拝する結果になった。

     

    (3)「受託生産などのシステム半導体は、19年時点で「2030年世界首位」を掲げたが、TSMCの背中は遠のく。米政府の国産回帰策に呼応した米インテルも受託生産の本格展開を表明しており、2位サムスンが追われる立場となる。家電とディスプレーは中国の競合企業がシェアを高めており、サムスンの主力4事業(スマホ・半導体・家電・ディスプレイ)の収益力がじわじわと弱まっているのが現状だ」 

    非メモリー半導体メーカーのTSMCは、業績が絶好調である。日本へ工場進出するなど、日台を基盤にして、次の発展を目指している。サムスンは大きく水を開けられている。 

    (4)「かつてのサムスンは、「日本に学べ」が経営戦略の軸だった。ただ00年代にテレビや半導体、ディスプレー、携帯電話で日本の電機大手を打ち負かし、世界トップに駆け上がったことで手本となる先行企業を失った。先代の李健熙(イ・ゴンヒ)前会長が率いたサムスンは既存事業を「種」「苗木」「古木」などと分類し事業刷新を繰り返して成長を続けた。10年には「10年後、現在の事業がすべて市場から消える」と訴えて社内に危機意識を植え付けようとした。もっとも同氏が育てた4事業体制は有効だ。問題は、事業構成の変化が乏しい点にある。14年、李健熙氏が病に倒れた後の10年間で、サムスン電子の売上高と営業利益はほぼ横ばいとなってしまった」 

    李健熙氏が、病に倒れた2014年以降、サムスンは業績横ばいという「停滞局面」に陥っている。

     

    (5)「2014年5月に李健熙氏が心筋梗塞で倒れ、急きょ代役を務めることになった長男の李在鎔(イ・ジェヨン)現会長。医薬品の受託生産事業の育成に注力し、16年に米車載部品メーカーの買収を決めるなど変革を模索してきた。しかし、17年の韓国の政権交代後に贈賄罪や資本市場法違反などに問われて逮捕・収監された。拘束は計1年半に及び、その後も裁判対応に追われて思うように経営を主導できなかった。242月には最後に残る裁判の一審判決で無罪となり、司法リスクからようやく解放されるメドが立った。李会長が実質トップとなって間もなく10年。幹部人事を掌握し、自由に差配できる条件が整いつつある。裁判の最終尋問では「サムスンを世界一流企業に跳躍させるためにすべてを尽くす」と誓った。売上高50兆円規模の巨大財閥の浮沈が双肩にかかる」 

    李在鎔氏は、前会長に比べて性格的に荒々しいことは不向きに見える。この経営者のもとで、サムスンは難局突破ができるのか。

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    中国最高指導部は、昨年12月の中央経済工作会議で、経済に対する強気な見方を増幅させるよう呼びかけた。悲観論を言い募る者は排除するという徹底ぶりだ。昔の「とんち話」と間違えるような振舞をしている。「景気は気から」と言われるので、楽観論をばら撒けば自然に人々がその気になって財布の紐を緩めるという期待感である。中国経済もここまで来ている。

     

    『ブルームバーグ』(3月25日付)は、「中国、早めの統計公表で強気の景気シナリオ演出ー効果小さいとの指摘」と題する記事を掲載した。

     

    中国当局は成長が鈍化しつつある自国経済について、ポジティブなシナリオを形成しようと新たな戦略を用いている。市場に好影響を与えようと、お世辞にも良いとは言えない経済ニュースをいち早く開示することだ。

     

    (1)「中国財政省の廖岷次官は21日、北京で記者会見を開き、予算データの明るい点を指摘。通常の月次予算統計発表に先立ち発言した。「景気回復の促進にプラスに働くと信じている」と廖次官は述べ、1月と2月の予算執行が過去5年ほどで最速ぺースだったと強調。一方、歳入の減少については、ベース効果によるゆがみがあると主張した。予算の月次データは普段、解説なしで公表される」

     

    中国高官は、公式発表の前にデータを漏らして株価などに好影響与えようとしている。本来なら、公式発表前の「リーク」は禁じられているはず。最早、こういうルールを守ろうという片鱗も感じられない。

     

    (2)「李強首相は1月、スイスのダボスで開催された世界経済フォーラム(WEF)年次総会で中国が2023年の成長目標を達成したといち早く述べた。李首相のこの発言は、公式発表の1日前だった。中国人民銀行(中央銀行)の潘功勝総裁は1月24日、2月5日に市中銀行の預金準備率を0.5ポイント引き下げると発表した。人民銀総裁が記者会見で先手を打って預金準備率の引き下げを明らかにするのは異例だったが、この動きは中国株と債券の値上がりを招いた。王文濤商務相は今月、輸出統計発表予定日の前日に行われた記者会見で、予想を超える輸出増加を明らかにした」

     

    李首相にも「情報リーク」の前歴がある。1月のスイスでのダボス総会で、中国が2023年の成長目標率を達成したと発言した。

     

    (3)「不動産危機と弱い内需が、景気センチメントの足を引っ張る中で、こうした発表スタイルの変更は、当局が中国経済への信頼を高めようと躍起になっていることを示唆している。ビジネス環境を改善させるという中国政府の言い分に対し、「公約疲れ」を抱いていると外国人投資家は真情を吐露している。何十年もの間、中国の経済成長は目覚ましかった。しかし今、中国は大幅な減速に見舞われており、その影響は他の国々や企業、そしてあなたを含む世界中に及んでいる」

     

    中国は、「針小棒大」に吹聴している。何よりも、中国国民がこういう「盛った話」を信じるだろうか。中国は、小話が得意な国である。「寸鉄人を刺す」言葉が出てこないだろうか。そうか。こういうケースも罰せられるのだ。

     

    (4)「ギャブカル・ドラゴノミクスの中国調査担当副ディレクター、クリストファー・ベダー氏は相次ぐ早期のデータ公表について、「経済当局が政治の影響を感じていることを示唆している」と述べた。その上で、この「奇妙な発表」には共通するメッセージがあるとし、「事態が予想以上に好転しているか、あるいは当局が事態を好転させるための措置を講じているかのどちらかだ」との見方を示した」

     

    中国経済が、予想外の好転状況になるには、大型経済対策が行われて初めて期待できよう。

     

    (5)「昨年の中国経済は、地政学的な緊張に加え、政策転換や新型コロナウイルス対策の余波による投資家心理の冷え込みもあり、期待外れとなった。同年12月の中央経済工作会議では、最高指導部が経済に対する強気な見方を増幅させるよう呼びかけた。人民銀の宣昌能副総裁は21日の記者会見で、経済に関するポジティブなニュースを発するという求めに沿い、預金準備率を引き下げる余地はなおあると、今月先に潘総裁が示した見解を繰り返した」

     

    預金準備率引き下げでは最早、景気への刺激効果が期待できなくなっている。「流動性の罠」に嵌まっているからだ。需要が不足しており、預金準備率を引下げたところで、借入れしようという新規需要が起こらないのだ。

     

    (6)「宣副総裁の発言により、中国株は一時的に上昇。しかし、ジョーンズ・ラング・ラサールの大中華圏担当チーフエコノミスト、龐溟氏によれば、投資家はシグナル見極めに時間をかけており、全体的に見れば、データ発表の前倒しが市場に与える影響は小さい。当局は重要なポイントを強調しているが、「そのメッセージがどれほど重要であるかを投資家が確認するには、時間と忍耐が必要だ」と龐氏は話した」

     

    投資家もだんだん「利口」になっている。「良い情報」と思われる話に飛びつかずしばらく、様子を見る習慣ができているのだ。 

     

     

     

     

     

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    米国は、半導体で中国包囲網を強化している。半導体製造設備では、日本やオランダに対して先端半導体製造設備禁輸のほかに、過去に輸出した装置のメンテナンスや部品供給も中止するように迫っているほどだ。こういう流れの中で、韓国へも厳しい対応を求めている。韓国は、半導体製品輸出の4割(2022年)が中国だ。それだけに、苦しい立場に追込まれている。

     

    韓国通信社『聯合ニュース』(3月13日付)は、「半導体『中国包囲網』に韓国も参加検討打撃懸念も米の圧力強まる」と題する記事を掲載した。

     

    米国は2022年10月、自国企業に中国への半導体関連の輸出を制限する規制措置を取った。米国のように半導体製造装置で高い技術を持つオランダや日本にも中国への輸出規制を求めた。

     

    (1)「聯合ニュースが取材したところ、米国が昨年後半以降、韓国に対しても圧力を強めていることが分かった。消息筋の話によると、最近では韓国の特定の企業名も挙げながら中国向け半導体製造装置輸出を問題視している。米商務省と韓国産業通商資源部はこれに関連した協議を今年2月にも行ったばかりだ。消息筋は「ワシントンとしては韓国が半導体技術の対中輸出規制の穴になるのではないかという懸念がある」と伝えた」

     

    米国主導による半導体製造設備の対中輸出規制が、韓国にも及んできた。韓国の半導体製造設備は、まだ初歩的段階である。米国は、それでも目を光らせている。

     

    (2)「米国は、自国同様に韓国に対しても立体構造トランジスタ(FinFET)技術などを用いたロジックチップ回路線幅18ナノ(ナノは10億分の1)メートル以下のDRAM128層以上のNAND型フラッシュメモリー――を生産できる装置・技術の中国向け販売について事実上の禁止を望んでいるとされる。別の消息筋によると、韓国企業が実際にこうしたレベルの装置を中国に販売しているかに関しては韓米の見方に違いがあるものの、米国は韓国企業の将来的な技術発展の可能性も念頭に置いている。韓国政府の反応について同筋は、「米国の立場は十分に理解するが、国益の観点からすると米国の要求を全て聞き入れることが正しいのか、悩んでいる」と話した。決定には至っていないながら、米国の要求を「ある程度」聞き入れる方向だと伝えた」

     

    韓国は、18ナノ(ナノは10億分の1)メートル以下のDRAM輸出へも規制の網がかかりそうだ。このレベルは、「レジェンド半導体」と称される旧世代に属する。米国がここまで神経を使っているのは、中国が旧世代設備を使って、先端半導体を作り始めていることへの警戒である。

     

    (3)「韓国政府をためらわせるのは、対中輸出規制が韓国半導体産業の競争力に及ぼす影響の大きさだ。韓国企業が生産する半導体製造装置の技術レベルは米国や日本、オランダには及ばないとはいえ、主要市場の中国への輸出が規制される場合、韓国の半導体製造装置産業の自立化を妨げかねない。米国の産業団体は、米政府の輸出規制により中国市場から米国企業が抜けた穴を韓国などの競合他社が埋めていると主張。米メーカーが半導体製造装置の販売競争で不利な立場に立たされているとし、韓国や台湾なども米国と同じ品目・形式で輸出を規制する必要があると米商務省に1月に申し入れた。韓国側はこれが米政府の政策に反映されることを危惧する

     

    米国の半導体製造設備メーカーは、自国だけが厳しい対中輸出規制を受けている中で、韓国や台湾の企業が「放置」されていれば不利になると危惧している。

     

    (4)「韓国の半導体製造装置メーカーの競争力は、その装置を購入する韓国半導体大手サムスン電子とSKハイニックスのコスト競争力にも直結する。韓国政府としては対中輸出規制に慎重にならざるを得ない。中国の華為技術(ファーウェイ)は昨夏、先端半導体を搭載した新型スマートフォンを発売した。これに衝撃を受けた米国が汎用品の半導体製造装置まで輸出規制対象に含めるなど規制を強化する場合、韓国半導体産業へのさらなる打撃は避けられない。一方で、中国への輸出規制は同国半導体産業の成長の抑制につながり、追い上げる中国を振り切りたい韓国にとって長期的にはプラスになるとの見方もある

     

    韓国はジレンマに立たされている。中国へ製造装置の輸出をしなければ、中国企業との技術格差が広がって、さらに有利な立場を維持できるというメリットだ。

     

    (5)「米国は、中国に関しても半導体や人工知能(AI)など先端技術を持つ同盟国が、別途に輸出規制体制を持つ必要があると主張している。韓国の政府内外では、米中の技術覇権争いが一時的な現象でなく構造的要因になりつつあり、半導体産業での米国の影響力を考慮すると、形式はどうあれ韓国が半導体製造装置の対中輸出規制に参加するのは時間の問題という見方も出始めている」

     

    結局、韓国は米国の要請に応じるほかないという見方も出ている。半導体の基本特許は、ほとんど米国が握っている。これが、米国の強みである。

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