5年前の香港では、中国の専門知識を持つ金融プロフェッショナルが、UBSグループやシティグループなどの金融機関から引っ張りだこであった。それが現在は、失職したバンカーが職を求めて苦しい日々を送っている。短時間に、「天国と地獄」を経験させられている。原因は、言わずと知れた香港の中国化と米中対立が背景にある。こうした構造問題が横たわっている以上、香港金融界へ再び陽がさすことは期待薄であろう。
『ブルームバーグ』(3月26日付)は、「金融のプロ 香港で再就職困難ー5年前の引く手あまたから一転」と題する記事を掲載した。
わずか5年前は、中国の専門知識を持つ金融プロフェッショナルはUBSグループやシティグループなどの金融機関から引っ張りだこだった。小米や美団などの新規株式公開(IPO)により、金融の中心地としての香港の地位はニューヨークと張り合うレベルまで高まった。こうした金融プロフェッショナルの努力が寄与し、香港と米国に上場する中国本土企業の時価総額は計6兆米ドル(約908兆円)を超えた。
(1)「米中の地政学的緊張が資本市場に大きな打撃を与えている現在、株価低迷と経済の見通し悪化で香港のIPOは干上がっている。また、中国共産党の習近平総書記(国家主席)が推し進めるデータセキュリティーと金融市場規制の強化により、中国企業による資産取得や海外上場は難しくなっている。かつて、シティでも働いていた元バンカーは、「中国の上昇軌道や国内外の金融市場緊密化を当然のことと思っていたが、今は一時的な現象に過ぎなかったと理解している。恐ろしい」と述べた」
香港金融市場は、米中対立と中国による金融市場規制が重なって、5年前までみせた繁栄がウソのように消え去った。
(2)「金融ディール仲介の中心地だった香港は、最大級のダメージを受けた。さらに米国の大手銀行で相次いだレイオフやグローバル資本の対中投資引き揚げが、国際金融センターとしての香港の役割低下に追い打ちをかけた。人材あっせん会社ロバート・ウォルターズのマネジングディレクター、ジョン・ムラリー氏によると、香港で求職中のエントリーレベルより上の金融専門家は同氏が扱う求職者数に基づくと「数百人」に達する。同氏は「香港は非常に脆弱(ぜいじゃく)な市場であり、人員削減はまだ続くだろう」と語った」
香港は、数百人の金融プロが失業する異常事態に追込まれている。さらに今後、失業者が増えそうである。
(3)「ゴールドマン・サックス・グループやJPモルガン・チェース、シティはここ1年半の間にアジアで数度にわたり人員削減を行ってきた。ゴールドマンの元従業員は、解雇をきっかけに自分と同僚は香港にとどまるべきかだけでなく、業界にとどまるかどうかについても考え始めたと話した。中国・香港市場のIPO減少は、膨れ上がった従業員数を正当化できなくなり、各行がアジア全域でリストラを検討せざるを得なくなることを意味する」
ゴールドマン・サックス・グループ、JPモルガン・チェース、シティといった投資銀行は、ここ1年半の間に矢継ぎ早に人員整理をしている。事態の急変を告げている。
(4)「実際に業界を離れたバンカーもいる。昨年、グローバル投資銀行のアナリストの職を失ったヤンさん(24)は求職活動を数カ月続け、コンサルティング会社やベンチャーキャピタル、プライベートエクイティー(PE、未公開株)投資会社の面接を10社ほど受けたが採用には至らなかった。ヤンさんは結局、中国本土の実家に戻り、従来型金融以外のキャリアを目指すと決めた。「競争は以前よりはるかに激しくなっている。PEの求人が1件あれば、数百人の元銀行員から履歴書が殺到する」とヤンさんは語った。ヤンさんら取材に応じた一部の人々は重要なキャリアに関する問題だとの理由で、フルネームを明かさない条件で話してくれた」
金融専門家1人の求人に対して、数百人が応募する就職難だ。採用される確率は、宝くじを買うようなものだ。
(5)「昨年12月、香港の金融専門家数を反映する香港証券先物委員会(SFC)の免許取得者数は4万4722人と、2021年末から600人余り減った。金融業界が22年域内総生産(GDP)の約23%、雇用の7.5%を占めていたことを考えると、金融サービス活動の鈍化は香港経済を圧迫しそうだ」
香港GDPは、金融サービスが23%も占めている。香港経済が、大きな打撃を受けるのは不可避である。