中国の地方政府は、長引く不動産不況で土地売却益が急減し財政赤字に陥っている。窮余の策として、公務員へ徹底した「節約」を強いている。公用車でなく自転車の移動とマイカップ持参だ。経済政策の失敗が、こうした珍事を招いている。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』(4月30日付)は、「中国公務員の倹約、移動は自転車 マイカップ持参」と題する記事を掲載した。
中国共産党が公務員に対し、今後は財布のひもを締めることに慣れるよう通達すると、現場の対応は迅速だった。少なくとも21の省レベルの地方政府が今年、公用車の予算を削減した。貴州省の省長は行政の運営費を15%削減する方針を表明。
(1)「倹約はわずかな金額からでもできる。南部の雲南省の統計局は、夏は空調を摂氏26度未満に設定しないよう職員に指示した。内モンゴル自治区の当局は、政府機関は机や椅子、パソコンなどを修理して再利用し、備品購入を極力減らすべきだと述べた。南西部の宜賓市は、定例の書類は低品質の紙で印刷するよう職員に求めた」
習近平氏は最近、「長征」の苦難の歴史を引き合いに出している。1934年から1936年にかけて行われた紅軍(中国共産党軍)の大移動だ。国民党軍に包囲された紅軍が、江西省瑞金の根拠地を放棄し陝西省延安まで1万2500キロを行軍である。この苦難を思えば、今の苦境は大したことでないと言うのだ。
(2)「中国の地方財政はここ何年も重債務できしみが生じていたが、3年間のゼロコロナ政策を経て多くの自治体で財源が枯渇した。コロナ禍の経済的後遺症と不動産不況により、多くの地方政府が依存している土地使用権の売却収入が落ち込み、問題が悪化。この数カ月で大手格付け会社2社が中国の格付け見通しを「安定的」から「ネガティブ(格下げ方向)」に引き下げた。倹約の規模は、全国に広がる中国経済の新しい現実を反映している。低成長と労働市場の軟化は庶民から公務員まで多くの国民に打撃を与え、少ない資金でより多くをこなすのが常態化している」
中国は、不動産バブル崩壊に直撃されている。バブル時の「あぶく銭」が消え去って、膨張しきった地方財政は悲鳴を上げている。世界の大手格付け会社2社が、揃って中国の格付け見通しを「引き下げ」方向で検討していると発表した。
(3)「中国の習近平国家主席は、政府の無駄削減の一環として2019年に初めて大々的な倹約方針を打ち出した。政府は昨年12月に取り組みを強化し、これが長期的方針だと当局者に伝えた。党の年次経済政策会議の報告書には「党と政府機関は倹約的な生活に慣れなければならない」とある。党の中央規律検査委員会は1月、「倹約生活は一時的な要請や便宜的な方策ではなく、長期にわたって順守すべき原則であり方針だ」とし、「たとえ1分(の硬貨)でも重要分野に使い、最大限の効果を上げるために使う」よう指示した。習氏はこれまで規律検査委を通じて自身の方針の徹底を図ってきた」
党の中央規律検査委員会は、下線部で長期の財政危機を指摘している。不動産バブル崩壊を認めているのだ。中国財政は、袋小路に入っている。これでは、台湾侵攻など不可能であろう。
(4)「ここ数週間で多くの地方政府が職員向けに「倹約生活に慣れる」ための指針を出した。公共交通機関や安い文房具の利用、両面モノクロ印刷のほか、食べ残しを出さない、出張を減らす、公用車やオフィス家具の修理・再利用などを命じた。中央政府は重債務の自治体によるインフラ支出への監視を強めたほか、財政規律への本気度を示すため、今年の財政赤字目標を昨年の国内総生産(GDP)比3.8%から3%へ引き下げた」
地方政府は、職員に対して公共交通機関や安い文房具の利用、両面モノクロ印刷のほか、食べ残しを出さない、出張を減らす、公用車やオフィス家具の修理・再利用などを命じた。これによって、中国経済が復活するわけでない。じり貧経済が続くだけのことだ。
(5)「こうした引き締めに財政圧力を大幅に和らげる効果はおそらくないが、政治的目的はある。「これはただのパフォーマンスだ」。中国財政に詳しいシンガポール国立大学東アジア研究所のクリスティン・ウォン客員教授はこう指摘する。地方政府の歳入増と債務削減といった「大きな問題の解決に集中すべき時に、些事(さじ)について話している」。「あちこちで数十億(元)ずつ節約」しても、約28兆元(約607兆円)に上る年間予算に比べれば取るに足りない額だとウォン氏は言う」
中国は、地方政府の歳入増と債務削減などの根本策を行わなければならない。こうした時期に、なんとも冗漫なことで時間を空費して潜在的成長力を枯渇させているのだ。西側諸国にとっては、潜在的危険因子の中国がこういう形で国力を消耗していく姿に「安堵」しているだろう。ただ、輸出ダンピングという死に物狂いの「反撃」をどう食止めるかだ。
(6)「政府高官や国営メディアは、倹約は忠誠に等しく、節約は国民の利益と国の発展をもたらすプロジェクトの資金源になるとして、公務員の愛国心に訴えている。「目的は、政府が「大事に資金を集約」できるよう、通常の経費を節約することだ。藍仏安・財政相が3月に記者団に「党や政府機関が1分節約すれば、国民の生活に使えるお金がその分増える」と語っていた」
中央政府は、地方政府に倹約させて「プール」した資金を何に使うのか。「国民の生活に使えるお金」ではなく、軍事費へ投入するのだろう。さらなる悪循環へ落込む。米中対立は、中国を疲弊させるだけだ。世界覇権の夢は、捨てるべきだろう。