勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2024年04月

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    中国の地方政府は、長引く不動産不況で土地売却益が急減し財政赤字に陥っている。窮余の策として、公務員へ徹底した「節約」を強いている。公用車でなく自転車の移動とマイカップ持参だ。経済政策の失敗が、こうした珍事を招いている。 

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(4月30日付)は、「中国公務員の倹約、移動は自転車 マイカップ持参」と題する記事を掲載した。 

    中国共産党が公務員に対し、今後は財布のひもを締めることに慣れるよう通達すると、現場の対応は迅速だった。少なくとも21の省レベルの地方政府が今年、公用車の予算を削減した。貴州省の省長は行政の運営費を15%削減する方針を表明。 

    (1)「倹約はわずかな金額からでもできる。南部の雲南省の統計局は、夏は空調を摂氏26度未満に設定しないよう職員に指示した。内モンゴル自治区の当局は、政府機関は机や椅子、パソコンなどを修理して再利用し、備品購入を極力減らすべきだと述べた。南西部の宜賓市は、定例の書類は低品質の紙で印刷するよう職員に求めた」 

    習近平氏は最近、「長征」の苦難の歴史を引き合いに出している。1934年から1936年にかけて行われた紅軍(中国共産党軍)の大移動だ。国民党軍に包囲された紅軍が、江西省瑞金の根拠地を放棄し陝西省延安まで1万2500キロを行軍である。この苦難を思えば、今の苦境は大したことでないと言うのだ。

     

    (2)「中国の地方財政はここ何年も重債務できしみが生じていたが、3年間のゼロコロナ政策を経て多くの自治体で財源が枯渇した。コロナ禍の経済的後遺症と不動産不況により、多くの地方政府が依存している土地使用権の売却収入が落ち込み、問題が悪化。この数カ月で大手格付け会社2社が中国の格付け見通しを「安定的」から「ネガティブ(格下げ方向)」に引き下げた。倹約の規模は、全国に広がる中国経済の新しい現実を反映している。低成長と労働市場の軟化は庶民から公務員まで多くの国民に打撃を与え、少ない資金でより多くをこなすのが常態化している」 

    中国は、不動産バブル崩壊に直撃されている。バブル時の「あぶく銭」が消え去って、膨張しきった地方財政は悲鳴を上げている。世界の大手格付け会社2社が、揃って中国の格付け見通しを「引き下げ」方向で検討していると発表した。 

    (3)「中国の習近平国家主席は、政府の無駄削減の一環として2019年に初めて大々的な倹約方針を打ち出した。政府は昨年12月に取り組みを強化し、これが長期的方針だと当局者に伝えた。党の年次経済政策会議の報告書には「党と政府機関は倹約的な生活に慣れなければならない」とある。党の中央規律検査委員会は1月、「倹約生活は一時的な要請や便宜的な方策ではなく、長期にわたって順守すべき原則であり方針だ」とし、「たとえ1分(の硬貨)でも重要分野に使い、最大限の効果を上げるために使う」よう指示した。習氏はこれまで規律検査委を通じて自身の方針の徹底を図ってきた」 

    党の中央規律検査委員会は、下線部で長期の財政危機を指摘している。不動産バブル崩壊を認めているのだ。中国財政は、袋小路に入っている。これでは、台湾侵攻など不可能であろう。

     

    (4)「ここ数週間で多くの地方政府が職員向けに「倹約生活に慣れる」ための指針を出した。公共交通機関や安い文房具の利用、両面モノクロ印刷のほか、食べ残しを出さない、出張を減らす、公用車やオフィス家具の修理・再利用などを命じた。中央政府は重債務の自治体によるインフラ支出への監視を強めたほか、財政規律への本気度を示すため、今年の財政赤字目標を昨年の国内総生産(GDP)比3.8%から3%へ引き下げた」 

    地方政府は、職員に対して公共交通機関や安い文房具の利用、両面モノクロ印刷のほか、食べ残しを出さない、出張を減らす、公用車やオフィス家具の修理・再利用などを命じた。これによって、中国経済が復活するわけでない。じり貧経済が続くだけのことだ。 

    (5)「こうした引き締めに財政圧力を大幅に和らげる効果はおそらくないが、政治的目的はある。「これはただのパフォーマンスだ」。中国財政に詳しいシンガポール国立大学東アジア研究所のクリスティン・ウォン客員教授はこう指摘する。地方政府の歳入増と債務削減といった「大きな問題の解決に集中すべき時に、些事(さじ)について話している」。「あちこちで数十億(元)ずつ節約」しても、約28兆元(約607兆円)に上る年間予算に比べれば取るに足りない額だとウォン氏は言う」

    中国は、地方政府の歳入増と債務削減などの根本策を行わなければならない。こうした時期に、なんとも冗漫なことで時間を空費して潜在的成長力を枯渇させているのだ。西側諸国にとっては、潜在的危険因子の中国がこういう形で国力を消耗していく姿に「安堵」しているだろう。ただ、輸出ダンピングという死に物狂いの「反撃」をどう食止めるかだ。 

    (6)「政府高官や国営メディアは、倹約は忠誠に等しく、節約は国民の利益と国の発展をもたらすプロジェクトの資金源になるとして、公務員の愛国心に訴えている。「目的は、政府が「大事に資金を集約」できるよう、通常の経費を節約することだ。藍仏安・財政相が3月に記者団に「党や政府機関が1分節約すれば、国民の生活に使えるお金がその分増える」と語っていた」 

    中央政府は、地方政府に倹約させて「プール」した資金を何に使うのか。「国民の生活に使えるお金」ではなく、軍事費へ投入するのだろう。さらなる悪循環へ落込む。米中対立は、中国を疲弊させるだけだ。世界覇権の夢は、捨てるべきだろう。


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    円相場は4月29日午前、一時1ドル=160円台を付けた後、159円台で推移していたが、午後1時すぎから急速な円高が進行。一時、155円台前半を付け、この日だけで4円以上の大きな変動幅となった。外国為替市場では、当局による介入とみられるが「ノーコメント」を貫いている。

     

    介入は、2022年10月以来である。前回の円買い・ドル売りの為替介入は、22年9月から10月にかけて、1ドル=145~151円台を付けた際に計3回実施された。外国為替市場では、次の介入と思しき動きがどの水準で入るのか探っている。157円台乗せが、介入ポイントとして意識されそうだ、という。ニューヨーク為替市場では、4月29日21時46分(日本時間)で156円38銭である。

     

    『ロイター』(4月29日付)は、「神田財務官、介入有無コメントせず 過度な変動『看過しがたい』」と題する記事を掲載した。

     

    神田真人財務官は29日午後、外国為替市場でドル/円が乱高下し、市場で介入観測が広がったことについて、「為替介入の有無については申し上げない」と述べた。過度な変動による悪影響は「看過しがたい」とし、「必要に応じて適切な対応をする」と語った。

     

    (1)「ドルはこの日、160円台前半に上昇した後に急落し、155円前半まで下げ幅を広げた。一気に5円下落したことで、市場では政府・日銀による円買い介入の観測が流れた。財務省で記者団の取材に応じた神田財務官は、「投機による、この激しい異常とも言える変動が国民経済にもたらす悪影響には看過しがたいものがある」と強調。「引き続き必要に応じて適切な対応をしていきたい」、「24時間365日、平時であっても対応できる」などと述べた」

     

    野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは、4月29日付のリポートで、「覆面で為替介入が行われた可能性は比較的高い」と指摘していた。28日の衆院補選で自民党が全敗し、政府は「円安対応を行ったとの証拠づくりを国民向けに行い、支持の回復を狙う必要が出てきた可能性もある」との見方を示したもの。こういう、政治的な配慮もあっての介入とみられなくもない。

     

    円安による国民の不満が、今回の補選結果に出たとすれば、これから予想される総選挙に向けて、政府は異常円安を食止めねばならなくなる。日銀が、7月以降の政策金利引上げを行うという予想と併せると今後、一方的な円安場面は終わるのかもしれない。

     

    (2)「この日に為替介入をしたかどうかは明らかにせず、毎月の介入実績を5月末(4月265月29日分)に発表すると説明した。今の為替水準については、「われわれは必ずしも、特定の為替レートを念頭に置いて仕事をしているわけではない」とした。欧州中央銀行(ECB)は29日、為替市場での行動についてコメントを差し控えた。為替市場では先週の日銀金融政策決定会合後に円売りが一段と加速し、当局による介入警戒がこれまで以上に強まっていた。スタンダード・チャータード銀行(シンガポール)のマクロストラテジスト、ニコラス・チア氏は、「きょうの動きが当局による介入だったとしても、一回で終わる可能性は低い」と話す。「160円台は当局にとって痛みの分水嶺、あるいは新たな一線を意味する」と語る

     

    一回限りの当局による介入で終わることはない。こういう見方が、海外の為替専門家から出ている。

     

    (3)「今週は、4月30~5月1日に米連邦公開市場委員会(FOMC)が開催される。インフレ高止まりの兆しを受け、米連邦準備理事会(FRB)の利下げ観測が後退している。パウエル議長らFRB要人は、政策対応はデータ次第と強調している。介入が効果を発揮するのは、中銀の政策シフトが条件なのかもしれない。OCBC(シンガポール)の為替ストラテジスト、クリストファー・ウォン氏は、「日銀が政策正常化の緊急性を示し、財務省が為替介入を実施すれば、財務省が単独で行動するより効果的だろう」と述べた」

     

    日銀が金利引上げを行えば、今回の介入効果は一段と大きくなるとみられる。ただ、日誤は、7月以降の「毎月勤労統計調査」によって、実際の賃上げ(基本給引上げ)がどこまで進んでいるか、確認したいというのも事実だ。現状では、財務省と日銀による合同「円安対策」にはならないであろう。

     

    インフレ低下に大きな進展がない米国では、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ観測が後退している。ドル買いに拍車がかかる中、5月1日の米連邦公開市場委員会(FOMC)に加え、政府・日銀による円買い介入の有無に市場の注目が集まっている。

     

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    韓国の総選挙で、最大野党「共に民主党」が圧勝した。文政権時代と同様に、「反日」を叫びそうだが自制している。これは、過去にないケースである。「親日政策」を取って来た現政権・与党を敗北させたのだから、改めて「反日」を叫んでもおかしくないのだ。 

    『日本経済新聞 電子版』(4月29日付)は、「韓国の『日本パッシング』、与党大敗でも反日起きぬ訳」と題する記事を掲載した。 

    「思いのほか静かだった。4月上旬、韓国総選挙の最終盤にソウルを歩いた感想だ。2度の駐在時代に選挙ともなれば口角泡を飛ばす市民の姿を見慣れていたせいかもしれないが、違和感を覚えた。 

    (1)「10日の開票結果は、目まぐるしく浮沈する韓国政治を象徴するような政権与党の大敗だった。その最大の敗因について、韓国の選挙事情に詳しい福島学院大の高選圭(コ・ソンギュ)教授から聞いた分析が腑(ふ)に落ちた。「韓国には1987年に民主化を勝ち取った経験がある。このため国民が大統領に権力を委任する代わりに、きちんとコミュニケーションをとれない大統領にはいつでも『NO』を明確に突きつけてきた。今回も国民の目線に合わせられない大統領と、放置し続けた与党に厳しい評価を下した」と指摘する」

     

    韓国社会は、自己の不満をデモなどの形で直接示す特性を持っている。感情をストレートに示しており、「好きか嫌いか」が尺度だ。「良いか悪いか」という冷静な判断を飛び越えている。冷静にみて、左派の主張には韓国を近代化させる内容が乏しいのだ。 

    (2)「今回大勝した野党が、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領にとどめを刺そうとし、その標的は尹氏の最大の外交成果である対日政策にも及ぶと政権側は身構える。「新韓日戦だ」。最大野党・共に民主党は選挙戦で一時、日韓関係を脅かすスローガンを掲げた。親日派とみなす保守系候補の落選や東京電力福島第1原発処理水の海洋放出を容認した韓国政府への抗議を呼びかけたのだ。しかし有権者は呼応せず、「日本」が争点にならなかった。処理水放出の抗議集会も現在はごく小規模なものにとどまっている」 

    最大野党・共に民主党は、選挙戦中に反日で煽ろうとしたが選挙民は無視した。文政権の「反日騒動」で懲りたのだろう。何の成果もないからだ。

     

    (3)「「静けさ」の背景を韓国外交の重鎮に問うと、「文前政権のおかげだ」と意外な答えが返ってきた。文氏は安倍晋三政権と対立して日韓関係が最悪と呼ばれた時期の大統領だ。重鎮は解説する。日本はかつての日本ではない。韓国に譲歩を重ねた時代と異なり、安倍政権以降は韓国がいくら声高に要求してもゼロ回答を繰り返す。歴史問題などで自ら打開案を示さないどころか、逆に解決策を迫ってくるようにもなった。だからといって「日本はけしからん」と拳を振り上げれば日韓関係が再び壊れ、結局は自分たちが得をしない。多くの韓国人がこう考えだしたのだという」 

    韓国は、反日で騒いでも日本がこれに譲歩することのないことを学んだ。これが、教訓になっている。 

    (4)「グローバル企業をいくつも擁する韓国にとって、日本は特別な国でなくなった。これも総選挙でジャパン・パッシング(素通り)が起きた深層にある心理だろう。植民地時代に端を発する反日感情は残るが、いまはそれに触れない。日本が選挙の争点とならない韓国社会の変化だ。安倍・文時代の葛藤が日韓関係を落ち着かせているとしたら逆説的だ。さらに尹大統領は、猛烈な逆風下でも対日外交のアクセルを踏みこむという見立てまである」

     

    尹大統領は、信念の人のようにみえる。幼少のころ、日本へ留学している父親に会うべく訪日した時、留学先の一橋大学教授宅へ家族で食事に招待された時の様子を、つい昨日のように懐かしく語っている。日本への親近感を深めた最初の機会であったのだろう。こういう経験を持つ尹氏が、支持率を高めるために反日政策へ転じる可能性はない。作為的な人間にみえないのだ。 

    (5)「総選挙後に話題になった一つが棄権票の多さだった。投票率はこの30年で最も高かったが、魅力的な候補者がいなかった証左だ。いまの韓国は、保革が激突する社会にあっても中道層が4割を占める。SNS時代に生きる若者は党派色が薄く、投票先も個別の論点や候補者で決める傾向が強い。グローバル志向で合理的に物事をとらえる半面、人権やジェンダーへの意識が高い。嫌中感情が広がっているのも、強権的な振る舞いへの厳しいまなざしだ」 

    韓国は、無党派層の多い20~30代が中核になる20年後に、社会も変わって行くはずだ。左派の強烈な反日が、力を失っていくことは目に見えている感じだ。 

    (6)「日韓は、国連の決議案で賛否が98%重なっている――。韓国政府関係者から聞いた話だ。2国間の懸案では対立しても、民主主義や自由市場の価値観、グローバル経済での戦略的利益は一致している。韓国で「親日派(チニルパ)」といえば、日本の植民地支配に協力した層を批判する言葉だが、日本に携わる研究者らがそのレッテルを貼られる雰囲気も薄れた。大統領自身が最も日本に友好的だからだ。尹政権のあと3年で日韓にやれることは多そうだ」 

    韓国は、強烈な反日さへ止めば日韓関係もスムースに行くはず。歴史問題で日本へ「謝罪せよ」と迫ってくることは、日韓の溝を自ら深めるだけである。過去を掘り出し善悪を言い募っても、余りにも非生産的で感情論に陥ることになろう。

     

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    EV(電気自動車)大手のテスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は4月28日、中国の李強(リー・チャン)首相と会談した。マスク氏は、中国との協力関係の深化などについて言及したという。 

    ロイター通信は、マスク氏が「フルセルフドライビング(FSD)」と呼ぶ運転支援システムを中国で実用化するために、中国の政府高官と会談すると伝えた。マスク氏は4月20日にX(旧ツイッター)に寄せられた質問に答える形で、FSDの中国への導入時期について「すぐに可能になるかもしれない」と投稿していた。 

    FSDは、車線変更やカーブを曲がる際にスムースに行えるというもので、全自動運転車(レベル5)を意味していない。厳密には、「運転補助役」というところだ。

     

    『ロイター』(4月29日付)は「テスラ、地図情報で百度と提携 中国で自動運転導入可能に」と題する記事を掲載した。 

    米電気自動車(EV)大手テスラは、中国の公道データ収集で同国インターネット大手、百度(バイドゥ)と提携した。複数の関係者が明らかにした。テスラの運転支援機能「フルセルフドライビング(FSD)」を中国で導入するための規制上の最後のハードルを克服したことになる。 

    (1)「イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は28日から中国を訪問。FSDの導入や海外へのデータ転送の承認について政府当局者らと協議するとされていた。関係者によると、百度は地図関連ライセンスをテスラが利用できるようにすることで合意。百度は車線レベルのナビゲーションシステムも提供する」 

    テスラは、自動運転実現への過程として中国の地図情報を百度と提携して入手することになった。車線変更やカーブを曲がるときの補助手段である。運転初心者には必要であろうが、ベテランにはどうか。

     

    (2)「中国では、自動運転システムの公道走行を実施するには道路などの地図情報のライセンス取得が義務付けられ、外国企業はライセンスを取得した国内企業と提携する必要がある。百度はライセンスを持つ12社のうちの一つだ。地図関連サービスライセンスによって、テスラはFSDソフトウェアを中国で合法的に運用することが認められる。テスラ車は道路情報、交通標識、近隣の建物など、車両の周辺環境に関するデータを収集できる。収集データの帰属先がテスラか、百度かは現時点で明らかになっていない」 

    テスラは、FSDソフトウェアを揃えることで、中国ユーザーの関心を引きつけられるとみているのであろう。中国以外の国では、どれだけアピールできるかだ。 

    (3)「百度とテスラの提携は、2020年初頭にさかのぼる。中国のテスラ車は、スマートフォンで利用可能なものと同様の百度のナビゲーション・マップを搭載している。4月20日、百度は記者会見でテスラを含む複数の企業との提携を発表したが、FSD機能に関する説明はなかった」 

    テスラは、自動運転に向けて提携を密にするであろう。

     

    『日本経済新聞 電子版』(4月29日付)は、「テスラ、AI開発強化へ1.5兆円投資 自動運転見据え」と題する記事を掲載した。 

    米テスラは4月28日、2024年に自動運転など向けの人工知能(AI)開発に100億ドル(約1兆5800億円)を投資する方針を明らかにした。同日、イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)が自身のX(旧ツイッター)で表明した。電気自動車(EV)販売が失速する中、次の柱とするAI関連投資を大幅に増やす。 

    (4)「マスク氏は、「テスラは今年、トレーニングと推論を組み合わせたAIに約100億ドルを投じる。後者(推論するAI)は主に自動車に投入される」と投稿した。その上で「このレベルの投資をせず、効率的に投資を行っていない企業は(競争に)太刀打ちできない」とコメントしている。テスラは1月に公表した23年12月期の年次報告書で、今後の資本支出計画を明らかにしていた。計画によると24年に100億ドルを超え、25〜26年にはそれぞれ80億〜100億ドルになるとしていた。今回、投資の詳細を具体的に表明した格好だ」 

    テスラは、完全自動運転車を目指している。アップルが、EVで放棄した夢を追いかけているもの。道路インフラで、全自動運転車走行を可能にする装置を設置しない限り、全自動運転車は不可能とされている。人身事故発生の場合、全自動運転車メーカーの責任となるのだ。テスラは、これほどリスクを伴う事業に立ち向かうとしている。 

    テスラは、株主に夢を売ってきた企業だ。全自動運転車が、完成するかどうかは二の次である。今後も、夢を売り続ける企業となろう。

     

    (5)「テスラは、EV販売が苦戦する中で自動運転やAIへの投資を増やしている。8月には自動運転タクシー「ロボタクシー」を公表する方針を示している。マスク氏は23日、「監視なしの完全自動運転が可能になれば、(テスラ車の価値が大幅に高まり)すぐに700万台、1000万台、10年で数千万台になる」と表明。開発中の低価格EVを含めた新たな次世代車両をベースにした自動運転サービスの拡大を念頭に置いているとみられる」 

    マスク氏は、「監視なしの完全自動運転が可能になれば」と夢を語っている。この夢が、多くの熱狂的な株主を引きつけている。マスク氏は、この夢を売るために、AI投資も増やさなければならないのだ。

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    ドイツ経済が、低成長で苦しんでいる。エネルギーコストの上昇で、国内企業が国外へ脱出して空洞化が進んでいるからだ。事態は、構造的な問題を抱えるだけに深刻だ。

     

    IEA(国際エネルギー機関)は、欧州がエネルギー政策で「歴史的に見て重大な誤りを犯した」と指摘する。その典型例がドイツだ。ロシア産の天然ガスに依存し、脱原子力発電政策を進めたことを指している。かつては、「脱原発」の模範国とされたドイツが窮地に立たされている。

     

    『日本経済新聞』(4月29日付)は、「ドイツ成長率、日本下回る 今年0.3%見通し G7で最低 政治不信で投資手控え」と題する記事を掲載した。

     

    欧州最大の経済大国ドイツは、景気回復の遅れが目立っている。ドイツ政府の試算では2024年の実質成長率は0.%と振るわず、日本を含む主要7カ国(G7)で最低になる見通しだ。ショルツ政権への不信から産業空洞化の懸念も影を落とす。

     

    (1)「ハベック経済・気候相は4月24日、「生産性と潜在成長率の見通しが非常に低い。中長期的に高成長を実現するには構造変化が必要だ」と春の景気予測の発表で危機感を訴えた。景気は、底打ちして緩やかに持ち直す想定だが、24年の実質成長率の見通しは0.3%と従来の2月時点から0.%の上方修正にとどまる。想定より長引く低空飛行はショルツ政権にとって大きな誤算だ。ロシアがウクライナに侵略した後、22年秋の時点では成長率が24年に2%台まで戻る姿を描いていた」

     

    ドイツ経済は、ロシアのウクライナ侵攻を機に始まった「脱ロシア」で大きな痛手を受けている。割安なロシア産原油依存を絶つほかなかったからだ。米国は、ドイツのロシア依存に対してかねてから警告してきた。それが現実化したのである。ドイツは、「脱原発」を進めている。こうして、ドイツのエネルギーコストは、米国より23倍高いと指摘されている。特に重工業は、コスト面で中国や米国など他の主要国と比べて著しく不利な立場にある。

     

    (2)「ドイツ経済の苦境は、先進国の中で際立つ。23年に名目の国内総生産(GDP)はドル建てで日本を超え、米国と中国に次ぐ世界3位に浮上したものの実質成長率では日本を下回る可能性がある。国際通貨基金(IMF)が4月に公表した24年の経済見通しでは、フランスとイタリアの0.%や日本の0.%を下回った。ユーロ圏全体の0.%より低く、ドイツの低迷が欧州経済の足を引っ張る」

     

    IMFが公表した経済見通しでは、今年のドイツ経済は0.3%成長である。日本の0.9%を大幅に下回り、G7では最低の見通しである。ドイツ経済の苦境ぶりを浮き上がらせている。

     

    (3)「景気低迷の主因は、インフレや欧州中央銀行(ECB)の利上げの影響だ。ドイツ連邦統計庁が30日発表する1~3月期のGDPは、市場予想で前期比0.%増と小幅なプラス成長になりそうだ。23年10~12月期は0.%減で、2四半期連続のマイナス成長となるかの瀬戸際にある。ドイツ経済が持続的に改善する兆しはまだ見えていない。今春にかけて鉱工業生産は持ち直したが、建設需要などは冷え込んだままだ。ドイツ政府は賃上げとインフレ鈍化による消費の持ち直しで景気回復のシナリオを見込むものの、直近2月の独小売売上高は前月比1.%減とユーロ圏20カ国で最も落ち込んだ」

     

    ドイツ経済にとっての重石は、高金利が続いていることもある。これが、国内経済を抑圧している。2月の小売売上高は、前月比1.%減とユーロ圏20カ国で最悪の状態である。

     

    (4)「より深刻なのは、ショルツ政権に対する政治不信の高まりだ。ドイツ連邦銀行(中央銀行)は「経済政策の不確実性の高まりが企業の投資を抑えている」と分析する。「失われた2年だった」。日本の経団連に相当するドイツ産業連盟(BDI)のジークフリート・ルスブルム会長は4月、南ドイツ新聞とのインタビューでショルツ政権を痛烈に批判した。欧州各国と比べた成長の遅れから、有効な経済対策を打てない独政府を非難する」

     

    ショルツ政権への支持率は低下している。次期総選挙では、保守党に政権が移るとみられるほど。こうした政治不安が、企業投資を抑制している。経済界からも支持を失っている。

     

    (5)「企業向けの電気料金は米国や日本より高く、産業界は立地拠点としての競争力低下に身構える。ドイツ経済研究所(IW)によると、ドイツへの直接投資額は23年に218億ユーロ(約3.7兆円)と14年以来の低水準だった。海外向け直接投資は5倍超の1159億ユーロで流出超過が続く。IWのシニアエコノミスト、クリスチャン・ルッシェ氏は「政治が現状のままであれば産業空洞化が大幅に加速する可能性がある」と指摘する」

     

    ドイツ経済は、大きな転換点に立たされている。従来からのロシアや中国へ傾斜した貿易政策が、根本から揺さぶられているからだ。ドイツは、過去のメルケル政権が敷いてきた路線が、大きく問い直されようとしている。

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