勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2024年05月

    a0960_008532_m
       

    中国経済最大の難所は、不動産バブル崩壊後の不良債権処理である。習近平国家主席は、金融監督当局と地方政府が責任を持って処理せよと決めた。だが、事態はそれほど簡単に解決できるものではない。中央政府が、財政資金を投じない限り住宅の過剰在庫処理は不可能な事態になっている。経済政策は、「支離滅裂」状態へ落込んでいる。

     

    『ブルームバーグ』(5月27日付)は、「中国の住宅救済策、難航かーパイロット都市での実績が課題示す」と題する記事を掲載した。

     

    中国政府による大規模な住宅市場救済策は、すでに進められている小規模なパイロットプログラムを土台とすることを目指しているが、軌道に乗るのは容易ではなさそうだ。

     

    (1)「中国人民銀行(中央銀行)は今月、地方政府がデベロッパーから余剰在庫を買い取るのを支援するため420億ドル(約6兆6000億円)を投じると発表した。昨年から8つの都市で同様のパイロットプログラムが実施されているが、不動産市場を安定させる効果は限定的で、割り当てられた資金のごく一部しか投入できていないもようだ」

     

    人民銀行は、地方政府がデベロッパーから余剰在庫を買い取る資金として約6兆6000億円を融資すると発表した。すでに行われているパイロットプログラムによると、成果は上がっていないのだ。

     

    (2)「全国的な新たな取り組みに期待される役割は大きい。中国政府は不動産不況が手に負えなくなり万科企業のような大手デベロッパーの存続が脅かされる前に、低迷を食い止める必要がある。パイロット都市やその他のさまざまな地域の取り組みで起きていることは、今後の課題を示している。負債を増やすことを心配する地方政府、割安で売却することに消極的なデベロッパーや住宅所有者、この仕組み全体にあまり利益を見いだせない銀行など、主要なプレーヤーにインセンティブを与えるのは難しいことが分かった

     

    下線部のように、パイロットプログラムの行われている8都市の経緯は、芳しいものでない。誰にもメリットがないので消極的になっている。

     

    (3)「BNPパリバの中国担当チーフエコノミスト、ジャクリーン・ロン氏は「既存の在庫を購入するには、さまざまな利害関係者の利益のバランスを取るために多くの交渉が必要だ」と指摘。この複雑さを認識した上で、中央政府は「慎重」を期し、参加を自主的なものにとどめ購入する住宅数の目標を設定することはしなかったと説明した。人民銀は試験プログラムに1000億元(約2兆2000億円)の枠を設定したが、どれだけの額が実際に貸し出されたかは正確には分からない」

     

    人民銀行は、パイロットプログラムに1000億元の枠を設けたが、どれだけの融資が実行されたか把握していない。

     

    (4)「事情に詳しい関係者によると、3月末に人民銀が公表した20億元を大幅に上回っているという。人民銀の発表と国営メディアの報道を総合すると、福州、済南、天津、青島、重慶の5つのパイロット都市は少なくとも44億元を借り入れている。地方当局は、購入した不動産を手頃な価格の賃貸住宅にしなければならないが、これが一つの障害となることが分かった」

     

    5つのパイロット都市では、少なくとも44億元を借り入れているという。1000億元の枠に対して、実行は4.4%にすぎない。

     

    (5)「このプログラムでは、人民銀は1.75%の金利で資金を供給し、銀行は3%以下で各都市に融資しなければならない。しかし、孫斌斌氏ら天風証券のアナリストの計算によると、補助金によって借り入れコストが下がっても、北京、広州、深圳などの賃貸収益率はさらに低い。このギャップは、物件の管理・維持コストを考慮するとさらに広がるとアナリストは21日のリポートで説明。人民銀の新プログラムの利用が「初期段階では限定的かもしれない」と指摘した。BNPのロン氏によれば、もし人民銀の全国計画が5000億元の新規融資を促進することに成功すれば、地方政府は「補完的投資」のためにさらに5000億元を借り入れなければならなくなるかもしれない」

     

    パイロットプログラムでは、人民銀の融資枠をそのまま使っただけでは済まず、地方政府も同額の補完的投資が必要という。こうなると、地方政府は及び腰になるほかない。

     

    (6)「地方当局は古い住宅を購入するよりも、新しい住宅を建設し、より多くの雇用と経済成長を生み出すことによって、手頃な価格の住宅を提供することに魅力を感じるかもしれないと同氏は述べた。さらに、もうひとつの抑止力がある。敷地内の一部を公営賃貸住宅にすると、同じプロジェクト内の他の物件の価格が下がる可能性がある。そのため、値下がりした物件の所有者から不満の声が上がり、自治体とデベロッパーの双方にとって頭痛の種となる可能性がある

     

    買い取った在庫住宅が、公営住宅になると付近の住宅価格が下がるという懸念が出る。そうなると住民の反対運動が起こる。地方政府にとっても難題である。

     

     

     

    a0001_001078_m
       

    韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は5月26日、日中韓首脳会談で訪韓した中国の李強首相と会談した。李首相は、「韓中22外交・安保対話」を新設することを提案した。韓国大統領室は、中国側が提案してきた点に注目している。中国は、韓国が日米韓の安保協力で強固な立場に変わったことから、韓国をここから引離そうという狙いであろう。始皇帝が、得意とした「合従連衡」戦略である。

     

    『朝鮮日報』(5月27日付)は、「供給網・投資協力・FTA、行き詰まっていた韓中関係が動き出した 中国首相来韓は9年ぶり」と題する記事を掲載した。

     

    尹錫悦大統領は45カ月ぶりに再開された第9回韓中日首脳会談前日の26日、ソウル市竜山区の韓国大統領室で、中国の李強首相と先に二国間会談を行った。韓中の二国間会談は、昨年9月にインドネシアで開催されたASEAN3(東南アジア諸国連合加盟国+韓中日)首脳会談以来、8カ月ぶりだ。

     

    (1)「韓国大統領室は同日、尹大統領と李首相の会談で「韓中22外交・安保対話」を新設することにしたと明らかにした。韓国大統領室は特に、韓中外交・安保対話を中国側が先に提案してきた点に注目している。韓中両国はこれまで幅広い経済交流をしてきたが、安保の面では協力よりも緊張関係が続いていた。韓国政府関係者は「これまでは国際安保問題が両国経済交流の足を引っ張ってきたケースが多かった。終末高高度防衛ミサイル(THAAD)配備による限韓令(韓流禁止令)が代表的な事例だ」と言った」

     

    中国は、THAAD問題で韓国へ不当な圧力をかけ続けた。この問題を棚上げしたまま、「韓中22外交・安保対話」を提案した理由は何か。米韓関係へクサビを打ち込む狙いであろう。韓国安保は、中国が「面倒をみる」と言いたげである。その代わり。米国とは「離れろ」と言うのであろう。韓国は、経済的に苦境に立つ中国寄りになって、「日出ずる」米国と疎遠になることは考えられない選択である。

     

    (2)「このような状況で、中国側が次官(外交)・局長(国防)級22外交・安保対話を提案してきたのは、安保問題でも本格的な対話に乗り出すという意味だと解釈できるということだ。両国は外交次官の戦略対話など他の外交・安保チャンネルも再開することにした。高麗大学の南成旭(ナム・ソンウク)教授は、「米国の中国に対する全方位的な圧力が強まり、韓日米が接近していることから、中国は韓国との外交に積極的に乗り出そうと判断したようだ」と語った」

     

    中国の韓国接近は、中国経済の苦境を表している。韓国企業の直接投資が欲しいのだ。そこで、「2+2」を持ち出してきた。搦め手である。中国は、韓国の友好国であると演出しているのだ。清国時代の李鴻章が、朝鮮に対して取った振るまいと、実によく似た行動である。

     

    (3)「尹大統領と李首相が同日、韓中自由貿易協定(FTA)の第2段階協議を再開することにしたのも、肯定的なサインだと評価されている。2015年12月に韓中FTAが発効して以来、両国は主に商品市場の開放を進展させてきた。第2段階協議では文化・観光・法律などサービス分野についてもFTAが拡大する見込みだ。中国側は「韓国と長春国際協力モデル区の建設を推進する計画だ」と述べた。これを通じて製造業、エネルギー、人工知能(AI)、バイオ、メディカル分野などで両国の協力が強化されるものと中国側も期待している」

     

    中国が、FTAの拡大を韓国へ提案している。中国経済の苦境を表している。

     

    (4)「両首脳は、2011年以降13年間中断している韓中投資協力委員会も再開することにした。同委員会は韓国産業部(省に相当)と中国商務省間の閣僚級協議体だ。両国はサプライチェーン(供給網)協力強化のための「韓中輸出統制対話体」も発足させることにした。韓国政府関係者は「サプライチェーン協力強化のための連絡窓口になることを期待する」と言った。両国はまた、麻薬・違法賭博・詐欺など国境を越えた犯罪への対応で協力を強化し、人文交流促進委員会、青年交流事業なども再び推進することにした」

     

    韓国は、難しい立場だ。中国へ依存している物資が多いだけに、中国の「ご機嫌を損じる」こともできないからだ。韓国国内で、中国との交流強化を希望する世論もある。

     

    (6)「尹大統領は同日、「北朝鮮が核開発を続け、国連安全保障理事会の決議に違反し、ロシアと軍事協力を続けている。中国は安保理常任理事国として平和のとりでの役割をしてほしい」と言った。北朝鮮の非核化に向けた中国の役割を注文したものだ。尹大統領は就任後、韓米同盟の強化と韓日関係の復元に重点を置く外交活動を展開してきた」

     

    韓国は、中国に対して北朝鮮の「暴発」抑止を要請している。中国が、これをどこまで本気で取組むのか。これによって、中国の「誠意」のほどが分るであろう。

    a0960_008532_m
       

    EV伸び率一桁へ低下

    黒字はテスラ含め3社

    自転車操業のEV業界

    G7は中国製品阻止へ

     

    中国は、EV(電気自動車)で世界市場席巻目標を立てている。国内には100社以上とされる新興EVメーカーが、地方政府の支援(補助金)を得て参入している。だが、すでに国内市場は飽和状態で、EV生産工場の稼働率は50%見当まで低下している。最適操業度80%を大幅に下回っているのだ。この指標一つをみただけでも、中国の「EV戦争」は、終戦間近の状態にある。具体的には、EVメーカーの出す手形サイトの長期化が、資金繰りの窮状をさらけ出している。詳細は、後で取り上げる。

     

    習近平国家主席は、経済政策の基本方針として「先立後破(先に確立、後に破壊)」を掲げている。「先立」とは、「三種の神器」(EV・電池・ソーラーパネル)を大々的に輸出して、疲弊している中国経済へテコ入れする目的である。「後破」とは、不動産バブル後遺症の処理であろう。この先立後破は、軍事戦術で有効であっても、経済政策で言えば落第だ。不動産バブル崩壊後の不動産価格下落が日々、不動産担保貸付債権を不良債権化させているのだ。中国指導部は、こうした微妙な点を見落としている。致命傷になるリスクである。

     

    習氏は、三種の神器のなかでもEVに強い期待を賭けている。EVコストのうち約30%が、電池コストとされる。最近では、リチウムイオン電池よりも割安なレアメタルを使わないリン酸鉄リチウム(LFP)電池を使用している。リンや鉄は、レアメタルと比べて自然界に広く存在しており、埋蔵量も豊富な物質である。

     

    中国は、LFP電池によって他国よりも2割程度、電池のコストダウンを実現していると推定されている。こうした中国EVコスト構造からみて分るように、中国EVの価格引き下げには限界があるはず。現実は、この限界点を超えた値引き輸出が行われている。要するに、「ダンピング輸出」だ。この裏には、中国政府の補助金がテコになっているとみなされている。

     

    習氏が、EV輸出急増によって不動産バブル崩壊後の景気停滞を突破しようとしているのは、余りにも理論無視と言わざるをえない。不動産価格下落で毎日、不良債権は増え続けている。この状態を根本的に解決せず、EV輸出増で不況を突破しようというのは、戦時中の日本が「竹槍」で上陸する米軍と戦うような、非現実的対応にみえるのである。

     

    EV伸び率一桁へ低下

    中国のEVは、23年は24.6%の増加であった。それが、24年1~3月は13.3%増となり、4月は11%増へと鈍化している。5月以降は、一桁の増加率になるであろう。こうした事態の中で、100社以上とされるEVメーカーが販売競争を繰り広げている。どうみても「資源の無駄」という印象を否めない。この裏には、地方政府が補助金を出しており、雇用確保の目的が課されている。こうなると、EV生産が「失業対策」の一環のような形になる本末転倒な事態を迎えている。

     

    EVの伸び率が、一桁台へ鈍化しているとみられる理由は、都市部の普及が一巡していることだ。残されたEV市場は地方の農村部である。農村部の地方政府は、めぼしい産業がなく、不動産開発企業に依存する経済構造である。その不動産開発企業は、過剰住宅在庫を抱えて青息吐息の状態だ。地方政府の主要財源である土地売却収入が急減しており、EV普及に不可欠なEV給電施設設置余力などあるはずもない。地方政府は、職員の業務に伴う異動は、自動車を止めて自転車を利用させているほどの窮迫ぶりである。

     

    こうして、EVの普及は都市部の一巡とともに、急速に落込むほかない状況になっている。この状態で、EVはさらなる値下げ競争へ突入している。市場飽和状態の中で、売上が伸びないから値下げするのは、企業として極めて危険な選択である。

     

    中国EVの最大手であるBYDは5月10日、新発売の多目的スポーツ車(SUV)「海獅07」の価格を18万9800(約409万円)〜23万9800元(約518万円)とした。23年11月には、販売予定価格を20万(約432万円)~26万元(約562万円)としていた。実際は、当初と比べわずかだが引下げたのだ。BYDは、徹底的な価格競争で後発EVメーカーをふるい落とす戦略である。

     

    中国EV市場では、これまで米国テスラが価格決定権を持っていた。テスラは4月、中国本土で販売するEV全4車種の価格を引き下げている。セダン「モデル3」の最廉価モデルは6%引き下げ、SUV「モデルY」も5%引下げていた。テスラは、中国メーカーの安値攻勢に押されたことなどから、24年1〜3月期決算の最終利益は約4年ぶりに減収減益となっている。こうなると、テスラといえどもさらなる値下げは困難になろう。

     

    黒字はテスラ含め3社

    中国EVで、黒字経営はBYD・理想汽車・テスラの3社とされている。BYDは、幅広い車種で販売を伸している。理想汽車は、高級EV路線を堅持してきた。テスラは、カリスマ経営者マスク氏の弁舌で、全自動運転車の夢に惹かれたファンを引きつけている。

    (つづく)

     

    この続きは有料メルマガ『勝又壽良の経済時評』に登録するとお読みいただけます。ご登録月は初月無料です。

    https://www.mag2.com/m/0001684526

     

     

     

    あじさいのたまご
       

    海外の「物言う株主」(アクティビスト)は、これまで株主総会で増配や株主還元など目先利益を主張する集団と警戒されてきた。だが、最近のアクティビストは長期的視点から株主利益を高める「理論派」が増えている。国内の機関投資家も、「物言う株主」として会社側提案を拒否するケースが増えた。企業統治(コーポレート・ガバナンス)は、確実に浸透している。

     

    『日本経済新聞 電子版』(5月26日付)は、「日本株『外圧』が起爆剤、物言いは還元から稼ぐ力へ」と題する記事を掲載した。

     

    日本企業は本当に変わるのか。6月の株主総会シーズンに関心が高まっている。強まる株主からの「外圧」は日本株が再点火する起爆剤になりうるからだ。

     

    (1)「企業に改革を迫るアクティビストは異端ではなくなった。CLSA証券の日本担当ストラテジスト、ニコラス・スミス氏は米バリューアクト・キャピタルのオリンパス投資を例に「最近はアクティビストが投資前より会社を良くすることを実証した。価値をもたらすと理解されたことで他の投資家の支持を受けるようになった」と解説する」

     

    日本企業は、「アクティビスト」と聞いただけで震え上がったものだ。コーポレート・ガバナンスという認識のなかった日本企業には、異質のものにみえたのである。

     

    (2)「2000年代に米スティール・パートナーズが、サッポロHDを標的にした。不動産依存やビール事業の低迷を追及した。だが、改革要求は賛同を得られず、「日本企業を啓蒙したい」などの発言は世論の反発も浴びた。時を経てガバナンス改善が社会的課題となり、そこに真剣に向き合うファンドの外圧を見る目は変わってきた。米モルガン・スタンレーのアジア株担当チーフ・ストラテジスト、ジョナサン・ガーナー氏は「企業統治の進化がよりよい資本配分につながり、収益性重視に大きく転換してきた」と語る」

     

    企業統治論によって、株主は従業員や下請け企業などと同様に企業活動の重要な役割を果すことが理解されるようになった。企業経営者が、経営権を一人占めできないことがハッキリしたのである。

     

    (3)「投資家の関心は一時的な株主還元から事業の見直しで稼ぐ力をどう伸ばすかに移ってきた。UBS証券の守屋のぞみ株式ストラテジストは「事業戦略に踏み込んだ提案も出てきている」と指摘する。注目するのは事業構成の見直しで評価を高めた先行組の堅調さだ。経済産業省の「事業再編ガイドライン」が好事例に取り上げた日立製作所ソニーグループなど7社の合計時価総額は19年末比で2.2倍と、主要100社で構成するTOPIX100(1.7倍)を大きく上回る」。

     

    アクティビストも洗練されてきた。日本企業が、容易に受入れないことを知ると共に、一時的な株主還元から事業の見直しで稼ぐ力をどう伸ばすかに移ってきた。こうなると、企業も聞く耳を持つようになったのである。

     

    (4)「先行事例では外圧を構造改革に生かした企業が目立つ。09年に巨額赤字で公募増資に動いた日立製作所は調達資金をインフラ事業の成長につなげただけでなく、積み重ねた海外投資家との対話を経営改善に役立てた。日立建機など20社強あった上場子会社を無くして選択と集中を進め、23年秋には35年ぶりに上場来高値を更新した」

     

    日立製作所は、アクティビストの意見をうまく利用して成功したケースである。本業に特化して、傍系事業を売却する大手術が行われた。「選択と集中」である。東芝は、アクティビストに振り回されたケースであろう。経営者に、主体性がなかった結果だ。

     

    (5)「アクティビストの提案が、経営を進めるうえでの正解とは限らない。ほかの株主やステークホルダー(利害関係者)の賛同が得られない提案は通らないのは従来と同じだ。ソニーは米サード・ポイントによる映画・音楽事業の分離要求を拒み、逆にエンタメを核とする複合経営で成長している。14日に発表した新たな中期経営計画では「利益ベースの成長重視」を宣言し、ゲームとイメージセンサーを軸とするシナリオを市場も好感した」

     

    昨年6月のトヨタ自動車の株主総会は、EV(電気自動車)進出が遅れたとして、環境アクティビストが豊田彰男社長(当時)の役員就任反対を提案した。これは否決されたが、「EV信仰者」が引き起した例だ。トヨタのEV慎重論は、結果として大成功であった。

     

    (6)「足元の市場では自社株買いだけでは株価上昇につながらないケースも目立つ。丸井グループは14日、200億円を上限とする自社株取得枠の設定を発表したものの、株価反転にはつながらず24日に年初来安値をつけた。資本効率の改善だけでなく、いかに稼ぐ力を高めるか。日経平均株価の3月の最高値更新を経て「株主総会に向けて個別銘柄に再び焦点が移っていく」(BNPパリバ証券の奥山史取締役グローバルマーケット統括本部長)。日本株高の原動力となってきた企業の変化は始まったばかりだ」

     

    丸井は、自社株取得を発表したが株価の下落に見舞われた。稼ぐ力の方針がなかったからだ。市場の受け止め方は、ここまで変わってきた。

     

     

    a0070_000030_m
       

    日本のGDPは4位へ転落し、「失われた30年」と言われて、日本人は萎縮している。だが、ASEAN(東南アジア諸国連合)の識者調査によると、世界で一番住みたい国は日本という調査結果が出た。しかも、世界覇権国の米国を上回っているのだ。理由は、国際法を順守する姿勢に加え、経済の強さ、文化への憧れなどが信頼の背景にあるという。 

    『日本経済新聞』(5月25日付)は、「住みたい国、日本が首位」と題する記事を掲載した。

    シンガポールのシンクタンクISEASユソフ・イシャク研究所によると、ASEANの人々が住みたい国は、域外で日本が首位だった。日本と回答した人は全体の17.%に上り、米国(15.%)などを上回った。 

    調査対象は、東南アジアの民間企業や政府、研究機関などに所属する識者で、ASEANも含む10カ国・地域連合の中から選んだ。日本は、「信頼できる国・地域連合」でも1位を獲得し、信頼度は昨年より増した。国際法順守の観点や経済力に期待する人が多く、米中や欧州連合(EU)と比べても日本への信頼が厚かった。休暇に訪れたい旅行先としても、ASEAN加盟国や韓国、欧米諸国を抑えて日本がトップだった。ASEAN10カ国の1994人が回答した。 

    日本は、太平洋戦争で多くの被害をASEANに残してきたが、ODA(政府開発援助)によって誠心誠意、賠償してきたことが80年近い歳月を経て「親日」へと変わったことはありがたいことである。

     

    日本経済新聞』(23年11月15日付)は、「ASEANと日本『次の50年』アブドラ・ラザク氏」と題する記事を掲載した。アブドラ・ラザク氏は、2015年にマレーシアの独立系シンクタンク、ベイト・アル・アマナを創設した。同国外務省の外交政策諮問会議のメンバーである。 

    ASEANはいま、アイデンティティーの危機に直面する。ミャンマーや南シナ海の問題に一丸となって取り組めないのは地域共同体として機能していないことの表れだ。だが、内部に問題は抱えていても、この地域に関与したい国・地域に重要なプラットフォームを提供し続けている。 

    (1)「とりわけ日本はとても大切なパートナーだ。フィリピンやベトナム、マレーシアなど中国と(南シナ海の領有権を巡り)問題を抱える加盟国があるが、日本との間にはない。ASEANと日本の間には非常に強い相互理解がある。ASEAN側は、日本を米国の「子分」とはみていない。日本はこの地域で米国よりも多くのことを成してきた。米国が存在感を示そうとするのは、単に中国に対抗するためだ。日本はそうではなく、地域へ誠実に関与してきた」 

    日本は、ASEANと何ら係争問題を抱えていない国である。信頼関係を深められる基盤が成立している。

     

    (2)「ASEANと日本は今年、友好協力開始から50年を迎えた。マレーシアを例にとれば、1981年に当時のマハティール首相が日本の発展に学ぶ「ルックイースト政策」を打ち出し、研修生や留学生を送り込んだ。彼らが日本の文化などを持ち帰り、日本企業の投資を引き付けることに成功した。より重要なのは、日本に対する我々の認識を変容させたことだろう。もちろん、この地域には他のプレーヤーも進出している。特に最近20年間は、中国が大々的にやって来て、インフラ整備などに多くの援助を提供してきた。韓国や中東からの投資も増えている」 

    1981年、当時のマレーシアのマハティール首相が、日本の発展に学ぶ「ルックイースト政策」を打ち出した。これが、日本とASEANの文化関係を深めるきっかけになった。 

    (3)「そうした状況でも、日本に対する信頼は揺るがない。中国は我々に指図をする。労働者は中国から連れて来るし、技術移転もせず、汚職の懸念がある。さらに、南シナ海は自分のものだと主張し、至る所に人工島を造成している。日本は違う。より純粋で信用に足るパートナーだとASEANは評価し続けている。中国を常に疑ってかかるのとは対照的だ」 

    日本は、ASEANへ指示することはない。領土的野心もない。純粋で信用に足るパートナーである。

     

    (4)「次の50年はどうすべきか。日本との関係は従来、貿易や製造業に焦点をあててきた。これからはもっと他の分野に目を向けたい。代表例はテクノロジーだ。技術大国かつ知識大国でもある日本は、その道筋を示すことができる。食糧や気候変動、人工知能(AI)、移民など、あらゆる問題に技術的な解決策が必要だ。知識集約型の協力という新たな次元に進むべきで、だからこそ日本の大学に注目している。(2011年に開学し日本式教育を行う)マレーシア日本国際工科院の成功は喜ばしいし、24年には筑波大学マレーシア分校も開設される予定だ」 

    日本とASEANは、今後の50年のあるべき関係について「共創」という造語を打ち出した。脱炭素やデジタルなど共通の課題に協力して解決策を見いだす。岸田首相は、当面5年で官民合わせて350億ドル(約5兆円)の資金を地域に投入する方針を表明した。 

    (5)「安全保障も重要になる。いまの米中対立でASEANはどちらにもくみせず、対立の影響を最小限にとどめたいと考えている。米中いずれにも近づきすぎていると思われたくはないわけで、日本はこの状況をもっと利用すべきだ」 

    日本は、太平洋戦争の反省から、ASEAN外交はこれまで経済協力が中心だった。いまの米中対立下で、日本には安保支援の期待も強まっている。地域の緊張を高めることは避けつつ、連携を着実に進める時期だ。岸田首相が昨秋、フィリピンとマレーシアを訪問し、東・南シナ海で覇権主義的な動きを強める中国をけん制するため、安全保障分野の協力を深めることで一致した。

     

    このページのトップヘ