勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2024年05月

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    中国国営テレビ(CCTV)は24日夜、台湾周辺での軍事演習が終了したと報じた。事前の発表通り、23~24日に行われた。今回の演習は、「連合利剣2024A」となっている。今後も「B、C、D」などと称する軍事演習をするのであろう。中国は、台湾の頼総統を「分離主義者」とみなし、総統に就任した3日後に軍事演習を実施した。中国の理屈づけでは、頼氏の就任演説が「分離主義者」と決めつけたが、中国軍の演習ははるか事前に予定されていたことは明らかだ。 

    問題は、演習と称して台湾を油断させて奇襲攻撃することだ。今回の演習でも戦闘機に実弾を装着さえていたことが判明している。何かを仕掛ける意図であろう。米国防総省高官は、中国軍の2日間にわたる演習を分析している。それによると、「作戦は不可能」としている。米軍は、中国の手の内を観察する良い機会になった。 

    『日本経済新聞 電子版』(5月25日付)は、「中国軍『台湾全域包囲』の能力誇示、頼政権と対決姿勢」と題する記事を掲載した。 

    中国軍は1996年の台湾海峡危機の際に台湾周辺で大規模演習をした。このときの演習区域は海峡側が中心だった。台湾本島を取り囲むようにして演習したのは22年8月のペロシ米下院議長(当時)の台湾訪問時が初めてだったとみられる。

     

    (1)「今回の演習の特徴は、ペロシ氏訪台時と似た台湾の包囲にある。飯田将史・防衛研究所理論研究部長は「台湾を全面封鎖できる能力や意図があると頼政権に知らしめる狙いがある」と分析した。演習期間はペロシ氏訪台時よりも短い。当時は中国軍が台湾東方の海域へ弾道ミサイルを発射し、5発が日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下した。今回、弾道ミサイル発射は確認されていない」 

    中国は、台湾を全面封鎖できる能力や意図があることをみせつけた。たが、台湾海峡封鎖は、他国の干渉を招く理由になる。気をつけるべき点だ。 

    (2)「もっとも、演習規模を縮小し圧力を弱めたわけではない。22年8月の演習にはなかった内容や変更点が含まれるからだ。1つ目が演習の区域だ。22年8月は台湾本島周囲6カ所だった。今回は5カ所に減ったものの、前回はなかった台湾西部の澎湖諸島周辺にも設定した。台湾の離島である金門島や馬祖列島の周辺も対象に加えた。中国軍直属の国防大学の専門家は23日、中国国営中央テレビ(CCTV)の取材に「台湾当局と台湾軍の活動空間を圧迫する」と語った」。 

    金門島や馬祖列島の周辺も封鎖したことは、中国軍がもっとも占拠しやすい戦術とみられている。

     

    (3)「2つ目が事前予告の有無だ。22年8月は軍がペロシ氏の訪台を受けて2日深夜、演習区域を表示した地図とともに4日昼から開始すると予告した。一方、今回の演習は23日朝に軍で台湾方面を管轄する東部戦区が実施を公表した時点ですでに始まっていた。予告なしの演習は台湾側により大きな衝撃をもたらした可能性がある」 

    今回は、事前予告がなかった。ただ、中国艦船の動きは事前にキャッチされている。「急襲」は不可能である。 

    (4)「3点目が軍と海上警備を担う中国海警局の共闘だ。同局は24日、台湾本島東部の海域で船隊を編成し、パトロールの訓練をした。23日には馬祖列島の周辺で演習した。いずれも軍が設けた演習区域の付近とみられる。海警局は18年、軍の最高意思決定機関である中央軍事委員会の一元的な指導を受ける人民武装警察部隊の指揮下に入った。同年には海軍出身者が海警局トップに就任した。今後、対台湾で軍と海警局の一体運用が深まる可能性がある。中国海軍の艦艇と海警局の船の合計27隻の合同訓練も確認した」 

    中国は、台湾侵攻では海警船も使うことが分った。小島の封鎖に動員するのだろう。主戦場では足手まといになる。

     

    (5)「台湾国防部(国防省)の発表によると、24日は中国軍の戦闘機「スホイ30」や「H6」爆撃機など合計62機の飛来を確認した。うち47機が台湾海峡の暗黙の「休戦ライン」である中間線とその延長線を越えて台湾北部、中部、南部の空域に入った。CCTVによると2日目の24日は艦船が編隊を組み、戦闘機や爆撃機と連携しながら海上や陸上の目標物を模擬攻撃した。中国軍の艦船を追跡した台湾軍艦が、およそ1キロメートルの距離まで近づく場面もあったという」 

    中国は、まず本土からミサイル攻撃をかけ同時に空爆を実施するであろう。艦船による上陸作戦はその後だ。艦船は、台湾海峡を渡航中に潜水艦攻撃を受ける。どれだけが上陸できるかが勝負だ。「AUKUS」(米英豪)の潜水艦部隊が迎え撃つ。 

    『日本経済新聞 電子版』(5月26日付)は、「国防総省高官、中国の軍事演習『実際の成功は難しい』」と題する記事を掲載した。 

    (6)「米国防総省の高官は25日、中国軍が台湾を包囲する形で実施した軍事演習を巡り「演習しているような作戦を成功させることがいかに難しいかを示した」との声明を発表した。「彼らがこの種の演習をするたびに、私たちは彼らがどのように機能するかさらに深い洞察を得ることができる」と説明した。米軍が中国軍の演習での動きを分析し、対応策を練っていると示唆した。米国防総省のライダー報道官は25日、インド太平洋地域の米軍の態勢変更の可能性について「現在の米軍の態勢と作戦に引き続き自信を持っている」との声明を出した」 

    米軍は、今回の中国軍演習をつぶさに観察している。盲点を探しているであろう。通常は、図上演習で敵の攻略法を試すが、中国軍は「実物演習」を見せて米軍を助けている。

     

     

     

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    ドイツは、欧州経済の王者を自任してきたが、高電力料金で海外企業はドイツへの直接投資を敬遠してフランスへ流れている。フランスは、言わずと知れた原子力発電国である。低電力料金を「売り」にして対内直接投資では、ドイツのお株を奪っている。「工業国ドイツ」は危機感を強めているが、対抗策はゼロだ。ドイツ企業自体が、「脱ドイツ」を急いでいるほどである。

     

    『ロイター』(5月25日付)は、「企業投資はドイツからフランスへ、マクロン氏の改革が成果」と題する記事を掲載した。

     

    ドイツの電子部品メーカー、ハーガー・グループは事業拡大に向けた新工場の建設場所を国内とフランスのどちらにするか迷った結果、フランスを選択した。グループ会長のダニエル・ハーガー氏はロイターに、フランスの法人税軽減措置や、工場立地探しに対する地元当局の支援、さらに企業にとって悪名高い同国の厳格な労働規制を柔軟に運用できる余地ができたことなどが、決め手になったと明かす。

     

    (1)「これはまさに、マクロン大統領が就任から7年かけて打ち出してきた企業寄りの改革が、ユーロ圏の経済規模ビッグ2であるフランスとドイツの経済的な力関係を変えたことを物語っている。もはやフランスの高い税率や、ドイツの週40時間よりも少ない週35時間の労働制に外国投資家が不満を唱えていた時代は遠い昔となり、フランスへの外国からの直接投資は記録的な水準に達しつつある。ハーガー氏は「マクロン氏が大統領に就任して以来、企業にとって事業環境ははっきりと改善し、歓迎されている」と語った」

     

    フランスは、マクロン氏が大統領へ就任以来7年間、取組んできた企業寄り改革が実を結び、海外からの直接投資は記録的な増加率になっている。

     

    (2)「ドイツの雇用の55%を占め、家族経営型が多い中堅・中小企業の典型と言えるハーガー・グループは、引き続き国内にも投資しているが、結局フランス東部のアルザス地方に1億2000万ユーロ(1億3000万ドル)を新たに振り向けることになった。26日にフランス大統領として2000年以降で初めてベルリンを公式訪問するマクロン氏は、前任者たちのように外資誘致競争で置き去りにされることをあまり心配せずに済む。000年当時、フランスは週35時間労働制を導入したばかりで多くの外国投資家にそっぽを向かれていた一方、ドイツは労働改革を強化し、06年から10年間にわたる力強い輸出拡大基調の土台を築いた

     

    ドイツは、フランスが週35時間労働制を導入した結果、2006年から10年間にわたりドイツの優位性が目立ち輸出拡大基調の基礎を築いた。フランスの「敵失」に救われた形だ。

     

    (3)「近年、そのドイツの経済成長モデルには疑念が生じている。中国向け輸出や安価なロシア産天然ガスに依存し過ぎた上に、インフラの老朽化や電力価格の高騰、緊縮財政などが重くのしかかっているからだ。対照的にフランスは、原子力エネルギーを長期的に推進してきた経緯もあり、外国のハイテク企業からの投資も増えている。例えばマイクロソフトは、膨大な電力を消費するデータセンターを同国に建設する」

     

    今やドイツに逆風が吹いている。原発抑制とロシア産天然ガスに依存しすぎた結果、エネルギーコストが高騰している。ドイツは、インフラの老朽化や憲法上の規定による緊縮財政も重なり、欧州の病人とまで言われる事態だ。フランスとは、立場が入れ替わった。

     

    (4)「コンサルティング会社EYの年間調査によると、ドイツが勢いを失い、英国も欧州連合(EU)離脱による逆風が依然尾を引いている中で、フランスは2019年から欧州で外国からの直接投資が最も多くなっているマクロン氏が企業投資誘致のためにベルサイユ宮殿で毎年開催している会議では今年、過去最高となる150億ユーロ相当の投資の約束を獲得。また同氏は法人所得税率を25%に引き下げることなどで、企業の年間の税負担を250億ユーロ圧縮したほか、他の事業関連税を軽減したり撤廃したりしている。

    ドイツ貿易・振興機関によると、同国の平均的な法人税率は30%弱だ」

     

    ドイツへ集中した対内直接投資は、2019年からフランスへ流れが変わった。フランスの改革が軌道に乗ったからだ。

     

    (5)フランスは企業寄り政策が実を結び、マクロン氏が初当選した17年以降の経済成長率はドイツの2倍以上に達していることが、ロイターの計算で分かる。フランスの雇用数も過去最高水準だ。EYの調査によると、外資が創出した雇用数は昨年4%増加したただ外国投資家の人気を集めているこうしたマクロン氏の改革は、しばしば有権者の感情を逆なでし、同氏の支持率は低迷している。フランス経済には、生産性の伸び悩みから過大に膨らんだ財政赤字まで、さまざまな問題も残されたままだ。ハーガー氏は、外国投資がフランスに大きく流入しているとしても、同国の工業セクターがドイツに追いつくまでの道のりはなお非常に長い、と話している

     

    マクロン氏が、フランス大統領に就任以来のGDP成長率は、ドイツの2倍になっている。だが、国内の評判はよろしくなく世論との紛争が絶えない。フランス経済には、生産性の伸び悩みから過大に膨らんだ財政赤字まで、さまざまな問題も残されたままである。フランスが、ドイツの工業部門の水準へ到達するのはまだ先の話だ。

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    日本では、円高不況論が呪文のように唱えられている。株価の値下がりも「円安の影響」と一直線に結びつけて報道されているほどだ。今、こうした状況認識を根本的に変える局面にきている。日本製造業が、従来にないペースで海外へ移転しているからだ。円安によって、国内失業率を引下げる必要性もなくなった現在、円高による交易条件改善へ本格的に取組む時期になった。王道復帰である。

     

    『ロイター』(5月26日付)は、「円安メリット生かせぬ日本経済、競争力低下で続く貿易赤字」と題するコラムを掲載した。筆者は、同社の田巻一彦記者である。

     

    4月貿易統計で象徴的だったのは2カ月ぶりの赤字だったことよりも、輸出数量が前年比マイナス3.2%だったことだ。ドル/円の月中平均レートが151円台と、1年前より円安だったメリットを生かせなかった。この輸出競争力の低下を反転させなければ、当局の介入で円安を止めても一時的な現象となるだろう。

     

    (1)「岸田政権は米バイデン政権のインフレ抑制法(IRA)に代表されるような国内への投資還流策を強く打ち出し、輸出競争力の回復を図ることで円安を止める中長期プランを打ち出すべきだ。4月の貿易収支は4625億円の赤字となり、ロイターがまとめた民間調査機関の予想中央値の赤字幅である3395億円を上回った。注目されるのは、大幅な円安進行にもかかわらず、輸出数量が低下したことだ。4月のドル/円は151.66円と前年比14.7%の円安だった。通常、大幅な円安は輸出数量を押し上げ、輸出額を大幅にかさ上げする効果を持つ。ところが、4月の輸出数量は前年比マイナス3.2%と落ち込んだ

     

    円安が、輸出数量を減らす事態は深刻である。日本製品の競争力が、低下しているという危機感を持つことは重要だ。日本企業は、海外へ生産機能を大量に移転している。この結果、貿易収支が赤字で所得収支は大幅黒字という「成熟した国際収支構造」になっている。だが、油断は禁物である。国内産業の空洞化は、絶対に阻止すべきである。それが、日本経済の若々しさを維持する秘訣であるからだ。

     

    (2)「急激な円安進行を止める対応策として政府・日銀のドル買い・円売り介入があるが、中長期的なドル買い需給を調整する力がないことは、広く市場参加者に認識されている。背景にある日本企業の輸出競争力を回復させなければ、ドル買い需給を大幅に変化させることは難しい。22日付日本経済新聞朝刊で神田真人財務官は「短期的な市場動向の要因ではないが、競争力低下には強い危機感がある」と述べている」

     

    政府の為替相場介入は、時に必要でもある。だが、それは緊急時に限られる。本筋論は、円高へ移行させる経済政策の樹立が大前提である。

     

    (3)「現実には、その危機感とは正反対の動きが活発化している。財務省によると、2023年の製造業の対外直接投資額は8兆9936億円と前年の7兆1576億円から25.6%増となっている。特にインフレ抑制法などで国内投資を優遇している米国を含む北米向けは4兆0244億円と全体の約45%を占めた。一方、23年の製造業の対内直接投資額は1兆5827億円と前年比マイナス2%と伸び悩んでいる。製造業の中には、米中対立やコスト増などを理由に中国から他のアジア諸国への生産拠点シフトが目立ち出しているものの、日本国内への還流という動きにはつながっていない。日本国内での人手不足や電力安定供給への不安、大地震など自然災害リスクなどマイナスの要因を挙げる企業が多いと筆者も聞いている」

     

    現状では、23年の対外直接投資は25.6%増だが、対内直接投資はマイナス2%と大きく開いている。日本企業は海外へ直接投資しても、海外企業は日本で直接投資を増やすどころか減らしているのだ。ただ、海外企業の半導体やデータセンターへの国内直接投資が、今年から増えることは確実である。これが、どこまで増えるのか見定めなければならない。

     

    (4)「足元で続く大幅な円安は輸出企業にとって日本での生産に関する採算の急激な好転を意味し、数年前とは環境が激変しているはずだ。そこで筆者は、台湾の台湾積体電路製造(TSMC)の熊本県への生産拠点の誘致などを先行事例とした日本企業を含めた幅広い製造業を対象にした日本国内への生産設備誘致を促進する法律を岸田首相の音頭で制定することを提案したい」

     

    経済産業省は、海外半導体企業などにも補助金を給付している。この効果が、これから、しだいに出てくるであろう。

     

    最大の意識転換は、日本全体が「円高不況論」から脱することだ。円安は、海外から高く仕入れて海外へ安く売ることである。そうではなくて、円高で海外から安く仕入れ海外へ高く売る道へ帰るべき時期だ。日本にその条件が、再び整ったのである。まさに、発想の転換をすべきであろう。

     

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    世界最大のヘッジファンド、ブリッジウォーター・アソシエイツ創業者のレイ・ダリオ氏が、日米経済の将来を語った。ダリオ氏は、2008年のリーマンショックを事前に予告した人物として著名である。そのダリオ氏は今、第一線を離れて、世界の金融史の分析に余念がない。 

    『日本経済新聞 電子版』(5月25日付)は、「米国は衰退期『混乱の瀬戸際』歴史に学ぶ投資家が予測」と題する記事を掲載した。 

    歴史は大きなサイクルで動くので、国家の盛衰についても詳細に分析した。オランダや大英帝国などかつての覇権国は、興隆期から絶頂期に至り、衰退期に入るというサイクルを繰り返してきた。国家のサイクルは全体では6つのステージに分類できる。新たな秩序が始まって政府の官僚制が整うステージ12、平和と繁栄を迎え、支出と債務が過剰になるのが34、財政状況が悪化し内戦・革命に向かうのが56だ。 

    (1)「米国は衰退期に属するステージ5の典型例だ。貧富の差や価値観の相違が拡大し、左派と右派が妥協せずに何が何でも勝とうと争うポピュリズムを特徴とする。過剰債務や大国間の紛争、大きな技術革新、病気のパンデミック(世界的大流行)、干ばつや洪水といった破壊的な自然現象などによって、国際秩序が脅かされることもステージ5の特徴だ。ステージ6では内戦や革命がおこる。米国は大混乱に陥る瀬戸際にいる。ギリギリの線を越えるかどうかは指導者次第だ」 

    米国は、1929年の世界恐慌と2008年のリーマンショックを「不死身」のように乗り越えた世界唯一の國である。その原動力は、イノベーション(革新)にある。このイノベーション能力にいささかの衰えもないことを見失ってはならない。原点は、米国哲学のプラグマティズムにある。

     

    (2)「2024年の最大の懸念材料は米国の政治リスクだ。民主党のバイデン氏、共和党のトランプ氏のどちらが大統領になっても、米国内の分断による政治的な紛争と、世界の地政学がもたらす紛争のリスクを抱える。高齢のバイデン大統領が任期をまっとうできなければ、誰が引き継ぐのかという問題に発展する。民主党は穏健左派よりも極左の影響が強い点が心配だ。共和党は極右に支配され、米国ではおそらく大きな政治対立が起こるだろう」 

    今年の米国大統領選は、近年最大の「政治危機」である。過去にも同様の危機はあった。それを乗り越える能力は、米国「草の根」民主主義にある。それが、試されているのだ。 

    (3)「米国や日本、ユーロ圏と、世界の3大基軸通貨すべてで債務が過剰な状態にある。債務増加が通貨の価値低下につながっている。1つの通貨が他の通貨に対して相対的に下落するというよりは、通貨の購買力が落ちるインフレ圧力や、金(ゴールド)の価格上昇という形で表れる。こうした状況は今後、数年間にわたって起こるとみる。もしトランプ氏が大統領に選ばれれば、米国は保護主義に傾き、関税を大幅に引き上げ、インフレにつながるだろう。バイデン大統領が再選されても財政拡張が続く。どちらが大統領になっても、米国は大幅な財政赤字になるとみる」 

    先進国は、いずれも過剰債務を抱えている。その筆頭は日本である。日本は、ケインズ経済学を頭から信じ込む「教室エコノミスト」が招いた事態だ。企業改革(イノベーション)を主張するシュンペーター理論を無視した結果である。今問われているのは、シュンペーターへ戻ることであろう。これは、先進国共通の課題である。

     

    (4)「私が開発したバブル測定システムは、5年ほど前に中国の不動産市場と地方債市場でバブルが発生していることを示していた。この2つの市場はまもなく崩壊した。1980年代に始まった中国経済ブームの間に債務が膨張し、貧富の差が広がった。一人っ子政策による人口減も国の債務拡大につながった。債務再編が必要だが、そのプロセスは政治的にも経済的にも痛みを伴い、きわめて困難なものになるだろう。中国は今後100年間続く嵐に突入しつつある。日本がバブル経済崩壊後、景気が回復するまでに何十年もかかったように、試練が続くだろう。株式相場をみると中国株は割安となったが、構造的な問題は解決されていない」 

    中国経済は、不動産バブル崩壊で深刻な事態だ。市場機能は、政治によって大幅に制約されており、長期不況に伴う「縮小均衡」に立ち至るであろう。それは、マルクスが説いた「恐慌論」を再現する形となる。マルクスを信奉する中国が、マルクスの予告する危機を避けられないとは不思議な話である。 

    (5)「株式市場の観点では、割安株が多い日本株は引き続き魅力的だ。地政学リスクが世界で拡大するなかで、日本は政治的に安定しており恩恵を受けている。金融緩和と円安の追い風もある。日銀は金融引き締めに向かうだろうが、利上げにより日銀は保有する国債に大きな損失を被る。そのため、引き締めのペースは緩慢なものにならざるをえないだろう。一方、日本国債は投資対象としては引き続き最悪の状態となるだろう。日本はインフレ率や名目の成長率に比べて金利を非常に低く抑えている。インフレによる目減りや低金利で、積み上がった膨大な債務の価値は切り下げられていく可能性が高い」 

    日本の正常金利(中立金利)は、IMF(国際通貨基金)によれば、1.5%が限界とされている。これが、日銀利上げの最終到達点である。となると、消費者物価上昇率2%以上を達成すれば、歳入増によって政府債務を徐々に償却できる環境が生まれるだろう。日本は、この「鉄則」を破ると破綻する。

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    SKグループ会長で大韓商工会議所会頭であるチェ氏は5月23日、東京で開かれた日経フォーラムに出席し、経済同友会代表幹事の新浪会長と「韓日協力を超えて」というテーマで対談を行った。その席で、「EUのような市場を共同でつくろう」と提案した。韓国のTPP(環太平洋経済連携協定)加入には時間がかかるので、先ずは、「市場の共同化」という主旨だ。 

    『ハンギョレ新聞』(5月23日付)は、「『韓日経済協力は切迫した状況』、『EUのように市場を育てよう』 韓日財界トップ対談」と題する記事を掲載した。 

    「韓日経済協力はもはや選択ではなく必須だ」(チェ・テウォンSKグループ会長)。「日韓が協力すればアジアの未来を導いていく機軸になりうる」(新浪剛史サントリーホールディングス社長)。韓日を代表する財界トップは、両国の経済協力が必要不可欠な時代だとし、積極的に取り組もうと主張した。

     

    (1)「大韓商工会議所会頭でもあるチェ会長は23日午後、東京で開かれた日経フォーラムに出席し、日本の主要経済団体である経済同友会代表幹事の新浪会長と「韓日協力を超えて」というテーマで対談を行った。この日、チェ会長は韓日経済協力がなぜ必要なのか、何からしなければならないのかなど、具体的な内容まで提案した。チェ会長は「韓日の経済協力は切迫した状況」だとし、詳細な理由を説明した」 

    韓国SKグループのチェ会長は、日本との経済協力を求めている。「韓日の経済協力は切迫した状況」というのは、韓国側の事情である。 

    (2)「韓日は低成長に陥っており、両国とも輸出が重要なのに自由貿易体制が困難な状況であり、環境と直結するエネルギー問題も深刻だと指摘。特に両国が同時に直面している少子化問題に言及しながら、「このまま行けば韓日は世界の舞台での地位が地に落ちるであろうし、経済の生存まで憂慮される」と強調した。また、韓日が欧州連合(EU)のような単一市場形態の経済協力体に発展しなければならないと主張した。市場を拡大し協力を強化すれば、両国に相当な利益になり、未来世代にも希望を与えることができるということだ」 

    日韓が、EUのような単一市場形態の経済協力に発展しなければならないと強調している。それには、両国の国民感情が一致して融和することが前提であろう。その条件が、両国にあるかだ。韓国左派が、強烈な反日論に固執している現在、日韓経済協力には限度があろう。

     

    (3)「さらに、「韓日それぞれの市場だけでは経済圏の規模が小さい。両国が結合すれば国内総生産(GDP)が6兆ドル(約819兆ウォン)を超え、3万ドルの高所得者が2億人程度となる市場になる」として、「未来の成長を作っていける潜在力になりうる」と話した。「経済安保など、いつまで他国が定めた規則に従って動くのか」「市場を育てて韓日が規則を主導しよう」と強調した」 

    韓国左派が、政権を取ったときの対日ビヘイビアはどうなるか。日本側は、そこを見極めたいであろう。 

    (4)「チェ会長は、韓国の「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定」(CPTPP)加入、韓日自由貿易協定(FTA)締結などは両国の市場を育てるのに役立つだろうが、今すぐには容易でないとの見通しを述べた。「この問題は両国政府だけでなく国会の批准も受けなければならず、時間がかなりかかる。両国の信頼が土台にならなければ実現しにくい」ということだ」 

    筋論から言えば、韓国がTPPへ加盟することだ。未だに加盟しないのは、自動車産業と農水産業の競争力が日本に劣る結果だ。工業製品は原則、無関税になるだけに、韓国は加盟を躊躇している。こういう状況で、EUのような単一市場形態の経済協力は絵に描いた餅であり、実現は困難であろう。

     

    (5)「企業など韓日の民間部分で協力し、成果を出そうとの提案も出た。チェ会長は韓日が液化天然ガス(LNG)の共同購買で費用を節約し、水素・アンモニアなどクリーンエネルギーの供給源を共同で開発しようと述べた。また、米国シリコンバレーに集中しているスタートアップのインフラを韓日共同で構築し、両国の慢性的な社会問題である高齢化を逆に活用して新しいシルバー事業を実験しようと強調した」 

    このパラグラフでの協力関係が、もっとも無難であろう。日韓双方にメリットがあるからだ。こういう地道な努力の積み重ねが必要である。 

    (6)「チェ会長の具体的な提案に、新浪社長も積極的に同意した。新浪社長は「自由貿易の困難など、チェ会長が話した危機を利用してアジア経済圏を拡大する契機にしなければならない」として「韓日が協力すればアジア経済を発展させることができる」と答えた。また、新浪社長は韓日の経済協力が両国国民にも役立つと強調。「韓日ほど若い人々が互いに往来する国を見たことがない」として「高齢化、人口減少、エネルギー問題など社会的課題も似ている。一緒に解決していけば両国の国民にとってかなりの利益になるだろう」と述べた」 

    新浪社長は、チェ会長の提案が原則論であるから賛成している。誰も反対する向きはいないであろう。現実は、それを乗り越える条件と手法が問われる。かつて、日韓トンネル掘削論が登場した。これが、なぜ立ち消えになったか。技術的には可能でも経済メリットがないからだ。日韓のEU的市場論は、経済メリットは期待されても技術面(相互信頼)で大きな壁が立ちはだかっているのだ。

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