勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2024年06月

    a0070_000030_m
       


    5月、日本を訪れた外国人旅行者は304万人となり、3月から3か月連続で300万人を超えた。韓国が73万8800人と最も多く、次いで中国が54万5400人、台湾が46万6000人、米国24万7000人である。 

    日本国内では、「オーバーツーリズム」が指摘されるほどになった。この勢いは、今後どうなるかだ。地方への分散が必要だが、それにはホテル建設が不可欠である。 

    『ブルームバーグ』(6月28日付)は、「訪日客数増加の余地大きく、マイナー観光地に誘客-IHG日本代表」と題する記事を掲載した。 

    ホテル運営大手のIHGホテルズ&リゾーツで日本を担当するアビジェイ・サンディリアマネージング・ディレクターは、訪日客数増加の余地は大きいとしたほか、観光業の持続的な発展に向け、これまでよく知られていなかった観光地への誘客に自社が貢献できると話した。

     

    1)「同社は、国内47カ所で「インターコンチネンタル」などのブランドのホテルを展開しており、16カ所で開業を予定する。サンディリア氏は28日のインタビューで、年間の観光客数が8500万人を超えるスペインや1億人に達したフランスに比べ、日本は2500万人にとどまり「成長の余地はある」と話した。たとえ今後円高に振れたとしても、大きなネガティブインパクトはないとする」 

    日本の訪日客はまだ2500万人だ。欧州から比べれば3分の1か4分の1のレベルである。日本も、ホテルさえ増やせればまだまだ増加の余地がある。円高になっても日本人気は衰えないという。 

    2)「あまり知られてない地方都市への誘客では「我々のようなグローバルブランドと協力することが重要だ」と話した。例えば、同社は2022年に愛知県犬山市にホテルを開業したが、4割が訪日客だという。同社は海外の消費者に認知されており、スマートフォンアプリなどを通じて情報発信もできるとして、地方都市への観光客の呼び込みに貢献できると意気込んだ。新型コロナウイルス禍の収束で日本の観光業は急速に回復している。3月には初めて月間の観光客数が300万人を超え、4月と5月も同じ水準だった。 

    海外で知られていない日本の観光地を売り出すには、世界的に名が通ったホテルが必要である。そうなれば、安心して旅を楽しむことができる。

     

    3)「一方で京都府など特定の観光地に人が集中し、一部ではオーバーツーリズムが起きるなど課題もある。観光客の満足度を維持しながら人数を増やしていくには、他の地域に分散させる必要がある。ホテル展開については、今年後半に中価格帯ブランドの「ガーナー」を日本に初めて投入する。IHGは以前から日本でANAホールディングスと協業するが、足元では森トラストとパートナーシップを組み、長崎県でホテルを開業する予定だ。デベロッパーなどと今後も協力していきたいと話した」 

    古都京都は、世界の憧れになっている。観光公害が起っているほどだから、これを防ぐ手立てが必要で、他の地域への分散化である。それには、ホテルが不可欠になる。 

    『ブルームバーグ』(5月15日付)は、「月給50万円でホテル幹部候補募集、米フォートレス系が低賃金に一石」と題する記事を掲載した。 

    宿泊業界で人手不足が深刻化する中、米投資会社フォートレス・インベストメント・グループ傘下で国内4位の客室数を持つマイステイズ・ホテル・マネジメントは幹部候補生の募集を始める。月給50万円と業界平均の約2倍の待遇で、宿泊業界以外からも人材を呼び込む狙いだ。

     

    (4)「幹部候補生の育成プログラムは27歳までの四年制大学卒業同等者が対象で、新卒者だけでなく就業経験者も応募できる。契約社員として旅館やホテルと、本社の料金設定やマーケティング、営業などの部門で経験を積み、3年目にはマネジャー職に就く。手腕が認められれば4年目から正社員となる。マネジャーになる前に8年程度の現場経験を積むことが一般的だったが、短期間でのキャリアアップを可能とすることでホテル経営に関心の高い人材獲得を狙う」 

    ホテル業が、成長産業として登場してきた。月給50万円の高給を支給するという。広く人材を集める狙いだ。 

    (5)「厚生労働省の2023年の賃金構造基本統計調査によると宿泊業および飲食サービス業の平均給与は25万9500円で、マイステイズが提示する50万円はこの水準を大きく上回る。背景にあるのは深刻な人手不足だ」 

    ホテルマンは、現場からの「叩き上げ」の苦労人が多い世界である。そこへ、「新人類」が登場する。時代は変わるのだ。

    a0960_008532_m
       

    中国経済は、世界の非鉄金属相場を動かしている。5月は、中国経済の動意を好感して相場が急騰した。だが、6月に入って中国経済停滞予測が強まり、相場は一転して売り方優勢へと変わった。住宅不況が,解決できない以上、非鉄金属需要は増えるはずもないのだ。

     

    こういう専門的なテーマを取り上げたのは、中国経済が不動産バブル崩壊によって、瀕死の重傷を負っているという認識が世界的に共有されていないことの不思議さを強調するためだ。どう見ても、中国経済が短期的に回復できる条件がないのだ。それにもかかわらず、LME(ロンドン金属取引所)では、中国経済の回復をはやして非鉄金属を買い込んで失敗し、最後は手放すというプロらしからぬ動きをして損を被っているのだ。単なる相場観で動いている結果であろう。典型的な「論語読みの論語知らず」である。

     

    『日本経済新聞』(6月28日付)は、「非鉄急反落、中国景気が黄信号アルミ国際価格 2カ月ぶり安値 投機マネー逆回転」と題する記事を掲載した。

     

    アルミニウムなど非鉄金属の国際価格が急反落している。最大消費国である中国での景気懸念が再浮上し、相場上昇をけん引してきた投機マネーが売りに回った。中国メーカーが増産に乗り出し、過剰生産による国際的な需給悪化も意識されている。

     

    (1)「みずほ銀行金融市場部の江口侑希調査役は、「非鉄市場は投機主導のマーケットだと改めて実感した」と語る。アルミで国際指標となるロンドン金属取引所(LME)の3カ月先物は18日、一時1トン2470ドルと約2カ月ぶりの安値まで下落した。その後も軟調な推移が続き、26日までの6月の月間下落率は5.%となっている。逆回転のきっかけは中国発の需給悪化懸念だ。アルミ地金の世界消費の6割を占める中国で5月末に発表された同月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は3ヶ月ぶりに好調・不調の境目である50を下回った。不動産不況などを背景とした中国景気への警戒感から、アルミ需要に対する不透明感が強まった」

     

    相場のプロは、何か売り買いをしていないとビジネスにならないとみて手を出して損を出す。こういう局面では、一切の売買をしないで傍観することだろう。相場は、休むのも仕事なのだ。

     

    (2)「非鉄先物相場の急騰と急反落は投機マネーが主導したとの見方が強い。銅についても「中長期的な需要期待は根強いが短期的にはファンドなどの投機筋がポジションを落としている」(住友商事グローバルリサーチの本間隆行チーフエコノミスト)との指摘がある。この間に米連邦準備理事会(FRB)による利下げ期待は大きく後退している。12日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で年内の利下げ予想が参加者の中央値で3回から1回に減った。金融引き締め局面の長期化が意識されて投機筋が利益確定のために取引を手じまった可能性が高い

     

    非鉄先物相場の急騰と急反落は、投機マネーが主導したとの見方が強いという。相場へ手を出して新たな買いを誘い込み、その隙を突いて売り逃げる手法である。こういう詐欺的な売買に乗せられるようでは、中国経済の本質を理解していない証拠であろう。

     

    (3)「非鉄相場は5月まで歴史的な上昇局面にあった。銅が5月に電気自動車(EV)向けなどの需要期待から買いが入り、一時1トン1万1100ドル台と最高値を約2年ぶりに更新した。アルミは5月30日に一時1トン2799ドルと約2年ぶりの高値を付けた。みずほ銀行の江口調査役は「銅相場が先行して上昇し、同じ非鉄金属のアルミにも関心が向かった」と話す。急反落の背景には過剰生産という不安要素もある。中国はアルミの最大消費国であると同時に生産量も世界最大。5月のアルミ生産量は前年同月比7%増の365万トンにのぼる。ロイター通信によれば、2014年11月以降で単月としては過去最高に達したもようだ」

     

    中国政府が6月に入って、リチウム電池の増設を禁止したことは、非鉄金属需要全般が「下り坂」にあることを告げる象徴的なニュースである。こういう動きも、中国EV(電気自動車)の動きをウォッチしていれば分ることである。

     

    (4)「急騰していたニッケルも売りが優勢だ。26日に一時1トン1万7040ドルと約3カ月ぶり安値まで下落した。主産地であるフランス領ニューカレドニアでの暴動で供給不安が高まったものの、「最大生産国のインドネシアでは生産が続いており、需給について冷静な見方が強まってきた」(阪和興業の伴野純一理事)」

     

    インドネシアのニッケル鉱山開発はつい最近、欧州資本が取り止めることを発表している。EV需要が下火で採算に合わないという理由だ。世界的な「EV狂想曲」は終わったとみるべきだろう。

     

     

    a0005_000022_m
       

    韓国統計庁が6月28日に発表した「5月の産業活動動向」によると、生産・消費・投資が同時に減り、10カ月ぶりの「トリプル減少」となった。景気の先行きを示す景気先行指数も下落した。輸出は、半導体を中心にプラス行進が続いているが、景気回復を牽引するまでにはいたっていない。韓国経済の回復過程が難儀していることを示している。

     

    5月17日に政府の企画財政部は、「経済動向」(グリーンブック)を発表して楽観的トーンであった。一方、国策研究院(KDI)は6月11日、5月の経済動向分析を発表し「高い輸出増加傾向により景気が多少改善されている」としながらも、「内需は回復傾向を見せられずにいる」と正確に停滞wお見抜いていた。

     

    政府企画財政部とKDIは、なぜ食い違う結果を出したのか。企画財政部は、主に直前月と比較した経済状況を根拠にしていること。KDIは、前年同月と比較して経済を診断する方法をとっている。これは、「前期比」が微細な変化を示すが、「前年同期比」は12ヶ月前の数値と比較して基調的な変化を見る上で重要である。KDIの判断が、前年同期比であることで基調の変化を判断して、韓国経済が回復過程でないと判断したものだ。

     

    KDIは、「高金利基調が維持されていることから内需回復傾向が表面化できず不振が長期化する様相」とした。韓国政府は、内需をめぐり「回復の兆しがみられる」としたが、現実のデータによって否定された。KDIの分析が正しかったことが判明したわけで、政府分析に汚点を残した。

     

    『中央日報』(6月29日付)は、「韓国、10カ月ぶり生産・消費・投資『トリプル減少』輸出だけ好況」とだいする記事を掲載した。

     

    5月、韓国の生産・消費・投資が同時に減り、10カ月ぶりの「トリプル減少」となった。今後の景気を予告する先行指数も下落した。半導体を中心にプラス行進が続いている輸出を除けば、景気回復の速度は遅いという評価が出ている。

     

    (1)「統計庁が28日に発表した「5月の産業活動動向」によると、先月の全産業生産指数は前月比0.7%減少した。3月に2.3%減少した全産業生産は4月に入って1.2%反騰したが、5月にはまた減少に転じた。特に製造業生産が前月比1.1%減少した。輸出好況の影響で半導体生産は1.8%増えたが、機械装備(-4.4%)、自動車(-3.1%)、一次金属(-4.6%)などが一斉に減少した影響が大きかった。サービス業生産も0.5%減少した」

     

    5月の製造業生産が、前月比1.1%減少していた。これは、半導体の復調を帳消しにする他産業の落込みがあった結果だ。従来は、半導体が突き抜けた増加率であったが、未だそこまで回復していない状況を示している。

     

    (2)「消費も回復していない。5月の小売販売は前月比0.2%減と、2カ月連続のマイナスとなった。飲料など非耐久財(0.7)、乗用車など耐久財(0.1%)の販売は増えたが、衣服など半耐久財(-2.9%)は大幅減少した。業態別にはデパート(-2.4%)、免税店(-0.1%)、コンビニエンスストア(-0.7%)などで減少した。

    設備投資は4.1%減と、3カ月連続の減少となった。運送装備(-12.3%)、機械類(-1.0%)も減少したからだ。建設投資を示す「建設既成」は建築(-5.7%)、土木(-1.1%)ともに減少し、前月比4.6%減となった。特に今後の建設景気の目安となる「建設受注」は35.4%も減少した」

     

    5月の小売販売は、各業態で軒並みマイナスに落込んでいる。衣服など半耐久財やデパートなど高額商品の売行き不振が影響している。

     

    (3)「現在の景気状況を示す同行総合指数循環変動値は、98.8ポイントと、前月比0.6ポイント減少した。これは2020年5月(-1ポイント)以来の最大の減少幅。今後の景気局面を予告する先行総合指数循環変動値も100.5と、0.1ポイント減少した。このように生産・消費・投資ともに前月比で減少したのは昨年7月以来10カ月ぶり。輸出は今月まで9カ月連続のプラスが期待されるなど好調だが、決定的に内需が回復していない結果と解釈される。高麗大のカン・ソンジン経済学科教授は「高金利が長期間続いて家計と自営業者の負債は日々積もり、内需が活気を帯びていない」とし「輸出の成績がいくら良くても内需市場が萎縮すれば景気状況が早期に改善するのは難しい」と話した」

     

    生産・消費・投資は、ともに前月比で減少したが昨年7月以来10カ月ぶりである。景気循環指数の「一致指数」は、0.1ポイントの落込みであり、景気の現況を示している。高金利の影響が、経済活動へ影を落としているのだ。韓国経済の回復過程は,容易でなことを窺わせている。

    テイカカズラ
       

    韓国世論には推し量れない部分がある。「反日」では、「純粋性」を強調して日本を糾弾するが、北朝鮮の核武装には韓国も核武装して対抗すべきという「俗論」を持ち出して来る。韓国が、仮に核武装すれば、米韓関係は希薄化しよう。日韓関係も悪化するであろう。こういう国際関係の「玉突き」現象を全く理解せずに核武装論を唱える。余りにも非現実的である。

     

    「中央日報」(6月28日付)は、「韓国国民66%が核保有『賛成』、『在韓米軍』より『核兵器保有』希望」と題する記事を掲載した。

     

    韓国国民の60%以上が「韓国の核兵器保有」に賛成するという世論調査の結果があった。国民が、在韓米軍の駐留よりも核兵器の保有を希望していることが分かった。

     

    (1)「統一研究院は27日、「KINU統一意識調査2024:北朝鮮の2国家論と統一認識・米国大統領選挙展望と韓米関係」調査の結果を発表した。調査によると、2014年から韓国の核兵器保有に「賛成」するという意見は増え、2021年には71.3%で最高値になった。その後、2022年は69%、23年は60.2%と下落したが、今年は66.0%に反騰した」

     

    核兵器保有賛成論は、21年に71%にも達した。その後は下火になったが、再び増え始めている。韓国は、日本が原爆被害を訴えると「被害者ぶっている」と批判するほど。核の悲惨さを全く理解していないのだ。いずれ核を持って、「日本へ落とせ」という暴論が出てきそうな予感がする。

     

    (2)「以前は「国防のために在韓米軍駐留と核兵器保有のうち一つだけを選択するなら」という質問に「在韓米軍駐留」を選択した回答者が多かった。しかし今年は初めて「核兵器保有」(44.6%)が「在韓米軍駐留」(40.1%)を上回った。米国の核の傘政策に対する信頼度は66.9%と高かった。ただ、昨年(72.1%)と比べるとやや低下した」

     

    韓国には、核保有によって米軍に撤退して欲しいという願望がある。核は、保有しても簡単に使用できないもの。相手国から報復されるからだ。こういう危険性を弁えていないことに、背筋が凍る思いがする。

     

    (3)「『南北統一』に対する関心は2020年以降低下している。「統一が必要」という回答者は52.9%だったが、これは2019年の2回目の朝米首脳会談(ハノイ首脳会談)失敗後、2020年に南北関係が本格的に悪化しながら記録した最低値52.7%と似ている。

     

    南北統一は事実上、不可能であろう。韓国経済に,北朝鮮を救済する経済力がないからだ。日本に対して資金を出せと言ってくるであろう。

     

    (4)「統一の必要性を感じる理由も世代間で差があった。戦争世代の45.1%が「同じ民族」だから統一するべきと答えたが、若い世代であるほど「戦争の脅威の解消」を最も重要な統一の理由に選んだ。また「北朝鮮が赤化統一を望んでいる」という回答の比率は49.7%と、2018年以降で最高水準となった。2020年以降、北朝鮮の軍事的挑発が高度化したことが認識に影響を及ぼしたとみられる」

     

    南北統一を希望するのは高齢者である。それ以外は、消極的になっている。南北一体感が消えたからである。


    (5)「経済制裁が北朝鮮の核放棄につながる」と評価した比率は15.4%にすぎず、調査開始以降で最低水準となった。制裁にもかかわらず大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射、衛星打ち上げなど北朝鮮の核能力高度化が進行している点が考慮されたとみられる。「北朝鮮は核兵器とミサイルを外交的手段としてのみ活用し、韓国を実際に攻撃することはない」という命題に対して「普通」という回答した比率は46.5%で最も高かった。ただ、「北朝鮮の核の脅威が自分の人生に影響を及ぼす」と考える人は18%にすぎず、「影響を及ぼさない」は47.9%だった

     

    韓国では、北朝鮮の核武装に脅威を感じていないようだ。米国や日本を狙うだろうという楽観論である。これは、北朝鮮による南北統一論と全く相容れない想定である。北朝鮮は、日本や米国を統一しようとしているのではない。相手は正直正銘、韓国である。よって、もっと危機感を持つべきだろう。

     

    (6)「北朝鮮が最近「統一放棄宣言」をしたことに対しては47.5%が「関心がある」と、40.9%が「関心がない」と答えた。11.7%は「聞いたことがない」と答えた。今回の調査は全国の満18歳以上の成人男女1001人に対面面接をして進行された。標本誤差は95%の信頼水準で±3.1%ポイント」

     

    北朝鮮の「統一放棄宣言」は平和的手段の統一を放棄することだ。よって、武力統一する意味なのだろう。 

     

     

    a0960_008527_m
       

    日韓関係は、平穏であることは先ずなさそうである。とにかく、韓国側は「反日」が前提で問題に対応するからだ。LINEヤフー問題もその一つである。韓国側が、日本の個人情報漏洩という重大問題を軽視しており、日本側による経営支配権掌握に焦点を合わせて反対論を打ち出していた。こうした韓国側の対応に、韓国国内で反省の弁が聞かれるようになった。しかも、左派メディアにおいてだ。

     

    『ハンギョレ新聞』(6月28日付)は、「LINE問題、「『反日フレーム』を越えてこそ解決策が見える」と題するインタビュー記事を掲載した。日韓経済関係の専門家であるキム・ヤンヒ大邱大学教授がインタビューに答えた。

     

    日本の代表的なメッセンジャーアプリ「LINE」の運営会社であるLINEヤフーが、日本の総務省の行政指導に対する報告書を提出しなければならない日付(71日)が3日後に迫っている。LINEヤフーは27日、ネイバーとのネットワーク分離を当初の計画より9カ月早い2026年3月頃に完了するという方針を明らかにした。ネイバーとLINEヤフーの決別がスピードアップしている。

     

    (1)「日本に対する根深い不信感が反日感情にやすやすと点火された。LINEヤフー問題が「韓国企業強奪」という単純なフレームに固められ、多様な議論につながらなかったとみている。これには専門性の足りなさという問題もある。今回の問題の理解には、日本語をはじめ経済安保、情報セキュリティ、情報技術など様々な分野に対する理解が必要だ。韓国にこのような専門家が多くなく、この点は政府も同じだったと思う。韓日の経済専門家として私自身も反省する」

     

    このパラグラフは、韓国側が個人情報の漏洩という重大問題を軽視して、反日感情で対応したことの反省を明らかにしている。韓国の「敗北」を認めている。

     

    (2)「LINEは日本で9600万人が使用する代表的なメッセンジャーアプリだ。質的な面でもLINEが日本社会で持つ影響力は大きい。日本企業や地方自治体など46万カ所が内部のコミュニケーションのチャンネルとしてLINEを使っている。このようなLINEで、個人情報流出事故が繰り返し起きた。2021年の事故当時、日本社会は大騒ぎになった。日本当局は度々LINEヤフーに対策作りを要求したが、まともに進展しなかった(LINEヤフーのセキュリティシステムはネイバーが担当している)」

     

    LINEが、日本は重要なメッセンジャーアプリである。ここからの情報漏洩は深刻な問題である。韓国では、その認識がなかった。理性でなく感情論で捉えたのだ。

     

    (3)「資本関係の見直し要求が適切かどうかの前に、LINEヤフーが持つ特殊性を理解する必要がある。この会社は2022年に制定された経済安全保障推進法(経済安保法)により、総務省が管轄する「特定社会基盤事業者」に指定された。これには日本の移動通信社・放送局も含まれる。『経済安保』という枠にLINEヤフーが含まれているという話だ」

     

    LINEヤフーは、経済安全保障推進法によって規制を受けるので、総務省が管轄する「特定社会基盤事業者」になっている。こういう法的な位置づけの企業が、個人情報を二度までも漏洩させた以上、抜本的な見直しが行われるのは当然である。韓国はこういう事情を軽視している。

     

    (4)「今年5月に公布した『重要経済安保情報保護活用法』(重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律)に注目しなければならない。日本は徐々に経済安保という観点で様々な制度的枠組みを強化してきている。この法には、外国人が日本国内の機密情報など主要データに接近する場合、禁止も可能な内容が含まれている。韓国政府の一連の対応を見て、政府がこの事態の全貌を理解しているのか疑わしかった」

     

    韓国は、日本の重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律に無知であった。

     

    (5)「ネイバーとソフトバンクの両企業間の問題という認識の枠組みを越えなければならない。ネイバーという個別企業の事案ではない局面に転換されたにもかかわらず、ネイバーの立場表明ばかりを待っていた政府の対応が繰り返されてはならない。このようなことが韓国で起きるケースにおいても適用可能な代案を考えなければならない。民間会社の所有ではあるが多くの国民が使うプラットフォームが生成するデータの持ち主は誰なのか、『プラットフォーム主権』は存在するのか、同じ脈絡で、民間所有ではあるがその性格上公共的な意味が濃厚な場合、政府はどのように扱うべきなのかなどを話していかなければならない

     

    下線部分は、韓国の認識不足を指摘している。個人情報の漏洩は絶対にあってはならないことである。韓国は、まだまだ「情報先進国」の域に達していないと認めている。

     

     

    このページのトップヘ