日本銀行は31日の金融政策決定会合で追加利上げを決めた。従来の0~0.1%程度から0.25%程度に引き上げる。政策金利は08年10~12月の0.3%前後以来の水準となる。7対2の賛成多数で決定した。利上げは、8月1日から実施する。
これで、日本は金利のある世界へ復帰した。利上げに伴い住宅ローンの利上げなど行われるが、預金金利の引上げで相殺されるので、家計にはプラスという計算だ。
『ブルームバーグ』(7月31日付)は、「日銀が政策金利0.25%に追加利上げ、国債買い入れ減額と同時決定」と題する記事を掲載した。
植田和男総裁は6月、7月会合までに得られるデータや情報次第では、国債買入れ減額計画と利上げの同時決定も「十分あり得る」との見解を表明していた。個人消費の弱さを理由に利上げに慎重な声もあったが、基調的な物価上昇率が日銀のシナリオ通りに推移する中で、金融政策の正常化を着実に進める姿勢を明確に示した。
(1)「日銀は利上げの理由を、日本の経済・物価が見通しにおおむね沿って推移している状況を踏まえ、2%物価安定目標の持続的・安定的な実現の観点から「金融緩和の度合いを調整することが適切であると判断した」と説明した。実質金利は大幅なマイナスが続き、緩和的な金融環境は維持されると指摘。経済・物価見通しが実現していけば、引き続き政策金利を引き上げ、緩和度合いを調整していく方針を示した」
人手不足に伴う大幅賃上げは、今後も続く見通しである。それだけに、これまでの利上げ慎重論の前提が取り除かれたことは、日本経済にとって大きな前進である。
(2)「第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは、今回の決定で「日銀は基調的なインフレを重視していることが確認された」と指摘。景気への懸念で利上げに慎重な「ビハインド・ザ・カーブ」の姿勢から、先回りして政策を進める「アヘッド・オブ・ザ・カーブ」へ確実に変わっているとし、「日銀はレジームチェンジをしてきている」との見方を示した」
利上げに慎重な「ビハインド・ザ・カーブ」から、先回りして政策を進める「アヘッド・オブ・ザ・カーブ」へ確実に変わったと指摘されている。このことが意味するのは、日本経済の「デフレ脱却宣言」にも等しい重みを持つ。
(3)「ブルームバーグが17~22日に実施したエコノミスト調査では、今会合での利上げ予想は29%にとどまったが、9割超がリスクシナリオとして利上げもあり得るとみていた。その後の金融政策を巡る政治家の発言や事前報道などを受け、市場では利上げを織り込む動きが出ていた」
市場の予想を上回る利上げになったことは、長い目でみて「円安投機」への警告となろう。卑俗な言葉で言えば、「日銀を甘く見るな」というところだろうか。
(4)「国債購入の減額計画では、これまでの月間6兆円程度を原則として四半期ごとに4000億円程度ずつ減額し、26年1~3月に3兆円程度まで圧縮する。長期金利が急激に上昇する場合は、機動的に買い入れ増額や指し値オペなどを実施する。必要なら決定会合で計画の見直しもあり得るとした。来年6月の会合で中間評価を行う。エコノミスト調査では、減額計画の決定直後に5兆円に減額し、その後は四半期ごとに購入を縮小して2年後に3兆円まで圧縮するというのが中心的な見方だった。結果は市場コンセンサスに沿った内容となった」
日銀は、事前に国債購入の減額計画で市場の意向を聞き取り調査していた。この面では、市場を納得させて、長期金利への無用な混乱を避けるという手堅さを見せている。
(5)「声明と同時に公表した新たな経済・物価情勢の展望では、見通し期間の最終年度となる26年度の消費者物価(除く生鮮食品)の予想が前年比1.9%上昇と目標の2%付近を維持。消費者物価の基調的な上昇率が見通し期間の後半に2%目標とおおむね整合的な水準で推移するとのシナリオも変わらなかった。日銀の結果発表後、円相場は1ドル=151円台に上昇した後、153円台まで下落するなど上下に振れる展開となっている。債券市場では新発10年国債利回りが2.5ベーシスポイント(bp)高い1.02%に上昇幅を縮小。日本株は大幅に上昇し、一週間ぶりの3万9000円台を回復した」
日銀は、26年度の消費者物価上昇率予想を前年比1.9%とした。安定的な物価上昇が見込めるとしている。つまり、賃上げも3%以上と見込んでいる結果だ。
(6)「伊藤忠総研の武田淳チーフエコノミストは今回の利上げについて、昨日までの為替相場が「じわじわとまた円安に戻してきており、今回見送ったらまた円安が進むリスクが払拭できなかったことがベースにはある」と指摘。その上で、「10月か12月には追加利上げをする可能性がある」とみている」
日銀は、先回りして政策を進める「アヘッド・オブ・ザ・カーブ」へ確実に変わった証拠に、10~12月の追加利上げ予想も出ている。米国が9月以降に年内2回の利下げが行われれば、日米金利差は、大きく縮小へ向う。円安是正は一段と進むであろう。文字通り、日本経済は苦境を脱する。