勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2024年07月

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    日本銀行は31日の金融政策決定会合で追加利上げを決めた。従来の0~0.1%程度から0.25%程度に引き上げる。政策金利は08年10~12月の0.3%前後以来の水準となる。7対2の賛成多数で決定した。利上げは、8月1日から実施する。 

    これで、日本は金利のある世界へ復帰した。利上げに伴い住宅ローンの利上げなど行われるが、預金金利の引上げで相殺されるので、家計にはプラスという計算だ。 

    『ブルームバーグ』(7月31日付)は、「日銀が政策金利0.25%に追加利上げ、国債買い入れ減額と同時決定」と題する記事を掲載した。 

    植田和男総裁は6月、7月会合までに得られるデータや情報次第では、国債買入れ減額計画と利上げの同時決定も「十分あり得る」との見解を表明していた。個人消費の弱さを理由に利上げに慎重な声もあったが、基調的な物価上昇率が日銀のシナリオ通りに推移する中で、金融政策の正常化を着実に進める姿勢を明確に示した。

     

    (1)「日銀は利上げの理由を、日本の経済・物価が見通しにおおむね沿って推移している状況を踏まえ、2%物価安定目標の持続的・安定的な実現の観点から「金融緩和の度合いを調整することが適切であると判断した」と説明した。実質金利は大幅なマイナスが続き、緩和的な金融環境は維持されると指摘。経済・物価見通しが実現していけば、引き続き政策金利を引き上げ、緩和度合いを調整していく方針を示した」 

    人手不足に伴う大幅賃上げは、今後も続く見通しである。それだけに、これまでの利上げ慎重論の前提が取り除かれたことは、日本経済にとって大きな前進である。 

    (2)「第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは、今回の決定で「日銀は基調的なインフレを重視していることが確認された」と指摘。景気への懸念で利上げに慎重な「ビハインド・ザ・カーブ」の姿勢から、先回りして政策を進める「アヘッド・オブ・ザ・カーブ」へ確実に変わっているとし、「日銀はレジームチェンジをしてきている」との見方を示した」 

    利上げに慎重な「ビハインド・ザ・カーブ」から、先回りして政策を進める「アヘッド・オブ・ザ・カーブ」へ確実に変わったと指摘されている。このことが意味するのは、日本経済の「デフレ脱却宣言」にも等しい重みを持つ。

     

    (3)「ブルームバーグが17~22日に実施したエコノミスト調査では、今会合での利上げ予想は29%にとどまったが、9割超がリスクシナリオとして利上げもあり得るとみていた。その後の金融政策を巡る政治家の発言や事前報道などを受け、市場では利上げを織り込む動きが出ていた」 

    市場の予想を上回る利上げになったことは、長い目でみて「円安投機」への警告となろう。卑俗な言葉で言えば、「日銀を甘く見るな」というところだろうか。 

    (4)「国債購入の減額計画では、これまでの月間6兆円程度を原則として四半期ごとに4000億円程度ずつ減額し、26年1~3月に3兆円程度まで圧縮する。長期金利が急激に上昇する場合は、機動的に買い入れ増額や指し値オペなどを実施する。必要なら決定会合で計画の見直しもあり得るとした。来年6月の会合で中間評価を行う。エコノミスト調査では、減額計画の決定直後に5兆円に減額し、その後は四半期ごとに購入を縮小して2年後に3兆円まで圧縮するというのが中心的な見方だった。結果は市場コンセンサスに沿った内容となった」 

    日銀は、事前に国債購入の減額計画で市場の意向を聞き取り調査していた。この面では、市場を納得させて、長期金利への無用な混乱を避けるという手堅さを見せている。

     

    (5)「声明と同時に公表した新たな経済・物価情勢の展望では、見通し期間の最終年度となる26年度の消費者物価(除く生鮮食品)の予想が前年比1.9%上昇と目標の2%付近を維持。消費者物価の基調的な上昇率が見通し期間の後半に2%目標とおおむね整合的な水準で推移するとのシナリオも変わらなかった。日銀の結果発表後、円相場は1ドル=151円台に上昇した後、153円台まで下落するなど上下に振れる展開となっている。債券市場では新発10年国債利回りが2.5ベーシスポイント(bp)高い1.02%に上昇幅を縮小。日本株は大幅に上昇し、一週間ぶりの3万9000円台を回復した」 

    日銀は、26年度の消費者物価上昇率予想を前年比1.9%とした。安定的な物価上昇が見込めるとしている。つまり、賃上げも3%以上と見込んでいる結果だ。 

    (6)「伊藤忠総研の武田淳チーフエコノミストは今回の利上げについて、昨日までの為替相場が「じわじわとまた円安に戻してきており、今回見送ったらまた円安が進むリスクが払拭できなかったことがベースにはある」と指摘。その上で、「10月か12月には追加利上げをする可能性がある」とみている」 

    日銀は、先回りして政策を進める「アヘッド・オブ・ザ・カーブ」へ確実に変わった証拠に、10~12月の追加利上げ予想も出ている。米国が9月以降に年内2回の利下げが行われれば、日米金利差は、大きく縮小へ向う。円安是正は一段と進むであろう。文字通り、日本経済は苦境を脱する。

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    米大統領選は、共和党のトランプ氏と民主党のハリス氏の対決になるが、ここへ一つの問題が浮上してきた。トランプ氏が、終身大統領制を目指しているのでないかという疑問が湧き起こっているからだ。トランプ氏が、キリスト教徒に向って「今回の選挙で私に投票してくれれば、次から選挙に行かなくても済むようにする」と発言している。この裏には、トランプ氏が、かねてから「終身大統領」になりたいと言い続けてきたことと符節があうのだ。 

    トランプ氏には、民主主義を普遍的なものと捉えるのでなく、「状況次第」という側面がある。今回の大統領選は、「男性対女性」「保守対進歩」「白人対非白人」の象徴的な戦いになると以上に、法に対する見方が「普遍的」(ハリス氏)か、あるいは「状況的」(トランプ氏)か、を巡る戦いにもなることだ。この点は、世界の民主主義にとって大きなターニングポイントになろう。

     

    『ブルームバーグ』(7月30日付)は、「トランプ氏『終身大統領』発言に偽りなし」と題する記事を掲載した。 

    トランプ前米大統領は7月26日夜、「終身大統領」になりたいと再びぶち上げた。同氏が好んで展開する持論の1つだ。 

    トランプ氏はフロリダ州で開催された宗教団体関連のイベントで「キリスト教徒の皆さん、今回だけ投票してほしい。もう投票する必要はなくなる」と呼掛け、こう続けた。「ぜひ投票を。4年後にはその必要はなくなる。われわれがうまく修正し、あなた方はもう投票しなくて済むようになる」と言った。 

    (1)「トランプ陣営は今回の発言について、王座や王権とは全く関係ないと主張。スポークスマンのスティーブン・チョン氏は、トランプ氏は 「多大な分断をもたらし、暗殺未遂事件にまで発展した敵対的な政治環境とは対照的に、この国を団結させ、すべての米国人に繁栄をもたらすことについて語っていた」と述べた。この解釈にはかなり無理がある。共和党が先頃ミルウォーキーで開催した全国大会で結束に注力すると述べたことを踏まえてもだ」 

    共和党は、トランプ氏の発言について王権を狙ったものでないと否定している。しかし、トランプ氏の持論であることを忘れてはならない。その機会があれば、「米大統領2期制」を廃止することを否定できないようだ。

     

    (2)「トム・コットン上院議員(共和、アーカンソー)は28日のトーク番組で、トランプ氏は「明らかに冗談を言っている」と述べた。トランプ氏の批判派から擁護派に転じたニューハンプシャー州のクリス・スヌヌ知事(共和)は、発言は大げさな表現に過ぎず、「典型的なトランピズム」だと指摘。選挙の不正操作を意図した発言ではなく、国を立て直すと言いたかっただけだと続けた。リンゼー・グラム上院議員(共和、サウスカロライナ)は、トランプ氏が伝えたかったのは「米国という船を正し、次の世代に引き継ぐ」という点だけだと主張した」 

    共和党議員は、米国民主主義に危険はないと言っているが、鵜呑みにはできないだろう。米国の上下両院で共和党が多数を握れば発議できるからだ。 

    (3)「トランプ氏がここ数年、2期務めた後も政権を握りたいと繰り返し発言していることを認識するのが賢明な道筋だろう。11月の選挙で共和党が上下両院議会を掌握し、最終的に少なくとも38州の支持を得れば、憲法をいじり、大統領の任期を2期に制限している憲法修正第22条を廃止することもあり得る。トランプ氏は決して権力の放棄を望んでいない」 

    米国38州の支持を得れば、大統領の任期を2期に制限している「憲法修正第22条」を廃止することもあり得るのだ。そういう事態になれば、米国もロシアや中国並みに墜ちる。

     

    (4)「そもそも、トランプ氏とその側近らは、2020年の大統領選結果に異議を唱え数十件にわたる訴訟を起こしたが、失敗に終わった。彼らは選挙人の集計結果の正当性を損なうため偽の選挙人名簿を作成し、トランプ氏は選挙結果について争うよう州当局者に個人的に圧力をかけた。2021年1月6日には連邦議会議事堂襲撃をあおり、一段と露骨かつ大胆に選挙結果を覆そうとした。その後も選挙結果は自身に不利になるように操作されたとのうそをつき続けている。過去には、ホワイトハウスに8年いても満足できないかもしれないとも話している」 

    トランプ派は、2020年の大統領選結果に異議を唱え、数十件にわたる訴訟を起こした。これこそ、「終身大統領制」への憧れを示している証左だ。 

    (5)「トランプ氏は2018年、中国の習近平国家主席について「今や終身の国家主席となった。終身国家主席だ」とし、「彼にはこれができた。素晴らしいことだ。われわれもいつかやってみる必要があるかもしれない」と発言。2019年には「少なくとも10年か14年間」大統領であり続けるという夢も口にした。同じ年にツイッター(現X)で、自身の支持者らが2期よりも「長くとどまることを要求するだろう」と投稿。2020年の選挙戦の際にも、3期目のシナリオに触れていた」 

    トランプ氏は、習氏の「終身国家主席」に憧れを抱いている。世界を米中ロの3極の「専制体制」で取引しようという構想なのだろう。

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    2008年10月~13年3月に日銀副総裁を努めた山口広秀氏(現在、日興リサーチセンター理事長が、古巣の日銀へ利上げのタイミングを外すなと「檄」を飛ばす。 

    山口氏は、消費者物価指数(生鮮食品を除く総合、コアCPI)は、2022年4月に前年同月比2%を超えていると指摘する。植田氏が、総裁に就任した23年4月には、2%を大きく超える上昇が1年続いていた。できるだけ早くマイナス金利などの異次元緩和政策からかじを切り替えるべきであった。後手に回ってしまっている。こういう山口氏の指摘を紹介する。 

    毎日新聞『エコノミスト・オンライン』(7月27日付)は、「山口広秀・元日銀副総裁『植田日銀は後手に回っている』」と題する記事を掲載した。 

    植田総裁は、早く異次元緩和をやめることで、2%インフレを安定的に実現する芽を摘んでしまうリスクが大きいと主張してきた。この総裁の認識と私は違う。2010年代までの日本経済のデフレ構造と、20年のコロナ禍以降の構造は明らかに異なっている。日本経済はインフレの時代に入ってきている。そういう大局観に立って、打つべき手は何か、どういうタイミングで打つべきかを考えるべきだ。デフレ時代の延長で考えていると政策を誤る。

     

    (1)「金融政策の目標は物価の安定と、その下での健全な経済成長の実現である。後手に回ったとは、こうした政策目標を達成できない方向に経済が移ってしまっているということだ。ビハインド・ザ・カーブに陥った政策を修正するのは非常に難しい。これは米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長をみていてもわかる。インフレは一時的だと言い続けている間に物価は7%を超えるところまで上昇し、FRBは22年3月から5%超も金利を引き上げざるを得ない状況に追い込まれた。こうした政策目標を達成できない方向に経済が移ってしまっているということだ。金融政策の正常化が、日銀の当面の政策目標といわれる。だがそれは違う。正常化自体が目標になることはあり得ない。金融政策の目標は、あくまでも物価(安定)と景気(成長)の実現である」 

    金融政策の目標は、物価と景気の「両にらみ」であると指摘している。柔軟に対処すべきだということだ。事前に、想定物価基準を持っていると、後から取り返しのつかない事態になる。FRBは、初動で間違えたので5%台の金利を続ける羽目になった。日銀は逆に「2%消費者物価」に拘っている。これによて、利上げのタイミングを逸している。

     

    (2)「約30年も金利のない世界で生活してきた日本には、利上げの影響が大きいのではという懸念がある。金利のある世界の中で、企業や消費者がどのように金利観を作っていくかは、これまであまり経験してこなかっただけに難しい。金融機関にとっても預金金利や貸出金利をどう設定していくか、債券などのトレーディングをどう展開していくか、容易ではない面もあろう。しかし、これらは試行錯誤の中で対応していくしかない。いずれ慣れていくに違いない。一方で、金利上昇の需要面へのインパクトは、今想定されているような利上げのペースでは大きくないだろう。言い方を変えれば、高めの物価上昇を抑えることは難しい」 

    日銀は、約30年も金利のない世界で生活してきた日本経済に、利上げして大丈夫かと取り越し苦労をしている。心配性の「親心」を見せているが、日本経済を強くするためにも「強い風」=金利のある経済に早く慣らせることが重要だ。 

    (3)「円安は底流には異次元緩和の副作用という面がある。もちろん日米金利差は円安の一つの要因だろう。ただ、ほかにもいろいろな要因がある。日本経済の実力の低下が円安を促す。あるいは経常収支は黒字だが、円に転換されない黒字部分が相当にあり、結果的に円高につながりにくいといったこともある。これらを踏まえると、金利を引き上げて日米金利差が縮小しても、円安が修正されるかどうかはわからない。私は、インフレはいつでもどこでも貨幣的な現象とは考えていない。デフレをインフレに変えていくために大量のマネーを供給すべきというような考え方はとっていない。従って、そもそも異次元緩和は必要なかったというのが私の立ち位置だ」 

    山口氏は、円安理由について日米金利差だけでなく、ゼロ金利下でひ弱になった日本経済の体質劣化を指摘している。金利がない世界だから、競争もない無風経済であったというのであろう。早く、この環境から抜け出さなければならない、としている。

     

    (4)「当面2%を超える物価上昇が続く。しかし、長い目で日本経済にとって適正な物価上昇率がどの程度かを見定めていくことは必要だ。コロナ禍とかウクライナ戦争がなければ、異次元緩和だけの1本足打法で、2%のインフレは実現できなかった。私は日本経済の持てる力を考えれば、長いタイムスパンで2%インフレが持続可能かどうかには疑問がある。1%程度が望ましい上昇率なのかもしれない。インフレ率については12%程度と幅を持たせてみながら、経済金融全体を見渡しつつ、金融政策を運営していくのがよいと思う。その意味では、いずれかの時点でインフレターゲット政策を見直していくことが必要だ」 

    日本経済にとって、2%の物価上昇を前提にした金融政策が必要か最検討すべきとしている。1%の物価上昇でも耐えられる金融政策にしなければ、その有効性を保てないからだ。要するに、金融政策を硬直的なものから弾力的な政策ツールにする必要がある、という指摘である。含蓄のある言葉である。

     

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    中国財政省の廖岷次官は7月26日、世界的な気候変動との闘いとインフレ抑制に中国の生産能力が貢献していると述べ、同国産業の過剰生産能力に対するイエレン米財務長官の批判に反論した。一方、西側諸国からの過剰生産への批判が高まっていることから、中国共産党は7月30日、習近平国家主席が主宰する中央政治局会議を開き、欧米諸国から「過剰生産」と批判されている問題の解決に取り組む方針を決定した。 

    『TBS』(7月30日付)は、「中国『過剰生産』批判に対応か、過当競争抑制方針示す」と題する記事を掲載した。 

    中国共産党は今年後半の経済政策について議論する会議を開き、欧米諸国から「過剰生産」と批判されている問題の解決に取り組む方針を決定しました。

     

    (1)「中国共産党は30日、習近平国家主席が主宰する中央政治局会議を開き、今年後半の経済政策の方針を決定しました。この中で「悪質な競争を防止し、非効率な生産能力を減らす」としてEV=電気自動車や太陽光パネルなどの分野での過当競争を抑制し、競争力がある企業だけを支援する方針を示しました。EVなどをめぐっては中国国内での過当競争の結果、過剰に生産された中国製品が不当に安く輸出されていると欧米諸国から批判されていますが、今回の方針は過当競争を抑制することで、こうした批判に対応する狙いがあるものとみられます」 

    中国が、『三種の神器』(EV・電池・ソーラーパネル)の生産を増やして、安値による「デフレの輸出」がこれまで国際問題になっていた。中国が、ようやく鉾を収めるのは国内の競争激化によって、赤字企業が増えているという事態へ落込んでいる結果だ。すでに、電池の増設は禁止令を出している。これからは,EVの赤字競争を止めることになる。
     

    (2)「内需拡大のため、家電など消費財の買い替えを促進することや消費意欲を高めるため観光などの分野を支援することも盛り込まれています。中国政府は今年の経済成長率の目標を「5%前後」に設定していますが、直近の4月から6月のGDPの伸びは4.7%にとどまっており、消費を喚起することで景気回復につなげたい考えです」 

    中国政府は7月25日、およそ3000億元(約6兆4000億円)を投じて乗用車や家電の買い替えを促す補助金を拡充すると発表した。乗用車は4月に発表した補助金を2倍程度に増やす。停滞した国内消費を刺激する。中国の経済政策を担う国家発展改革委員会と財政省が同日、旧製品から新製品への買い替え拡充策を発表した。24年に1兆元の発行を予定している超長期特別国債で調達した資金のうち3000億元ほどを充てることになった。 

    中国が、遅まきながら内需拡大方針へ転じたのは、海外へ「不況輸出」することの限界を悟ったからであろう。過剰生産=過剰輸出に大きな限界が出てきたことだ。このように方向転換するまでに、中国政府は何を発言していたか、その「三百代言」ぶりを聞いておくことにしよう。

     

    『ブルームバーグ』(7月27日付)は、「世界にはより多くのEVが必要、過剰生産批判に中国財政次官が反論」と題する記事を掲載した。 

    中国財政省の廖岷次官は26日、世界的な気候変動との闘いとインフレ抑制に中国の生産能力が貢献していると述べ、同国産業の過剰生産能力に対するイエレン米財務長官の批判に反論した。 

    (3)「廖次官は20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議に出席するために訪れているブラジルのリオデジャネイロでブルームバーグ・ニュースの単独インタビューに応じ、「中国は数十年にわたり、価値のある製品の供給を通じて世界におけるディスインフレの力となってきた」と語った。同次官は「各国が2030年までに温室効果ガス排出量の削減目標を達成しようとしている今、中国は世界に環境に優しい製品も提供している」と説明。国際エネルギー機関(IEA)の予測を引用し、それまでには新エネルギー車の世界需要は4500万~7500万台に達し、現在の供給能力をはるかに上回る見込みだと付け加えた」 

    中国はEV輸出によって世界の異常気象問題とインフレ抑制に貢献していると主張している。だが、現実のEV(リチウムイオン電池)では、二酸化炭素排出量削減に貢献していないのが現実だ。エンジン車に比べて割高であることも,インフレ抑制に貢献していないのだ。要するに、現在のEVは「有害」な存在である。全固体電池の出現によって、異常気象問題への解決が一歩、進むことになろう。

     

    (4)「この前日、イエレン長官は「マクロ経済モデルについて中国に対処するよう求め続ける」と発言していた。同長官は、中国が「過剰な」貯蓄と補助金を製造業につぎ込み、過剰生産能力につながっていると指摘した。中国は、主要経済国が抱く過剰生産能力への懸念に留意しているが、関税のような貿易面での脅しを同国としても懸念していると廖次官は発言。「市場経済のルールと事実について率直にコミュニケーションを取るべきだ」と述べた」 

    このパラグラフで、米国イエレン財務長官から、中国のEV問題が国内不況の代替策であるとズバリ指摘された。これを受けて、中国の廖次官は「市場経済のルールと事実について」と後退した印象の発言をしている。中国自身も、過剰生産問題の解決が必要という認識になり始めていた様子が分る。


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    (6)「『アメリカン・コンサバティブ』誌は今年に入り、憲法修正第22条は「2期連続で務めない大統領、ひいては民主主義そのものを恣意(しい)的に制約するものだ」と主張する記事を掲載し、広く拡散した。とりわけトランプ氏支持者らは任期制限で不利な影響を受けるとした上で、「トランプ2028!」を提唱した。トランプ氏は憲法を尊重すると示唆している。今年行った米誌タイムとの長いインタビューでは、憲法修正第22条を覆すつもりはないと語った。「異議を唱えることには賛同しない。私はそんなことはしない」とし、「私は4年務め、素晴らしい仕事をするつもりだ」と語った」

     

    トランプ支持派には、憲法修正第22条を修正して「トランプ終身大統領」を狙っている人たちが存在している。

     

    (7)「では、タイム誌のインタビューで語ったトランプ氏と、大統領在任中に度々憲法を覆そうとしたトランプ氏のどちらを信じればいいのだろうか。筆者は後者だと考える。トランプ氏は根本的に無法者であり、権威主義者なのだ。もっとも、米議会は11月以降も上院と下院で多数派政党が別のままかもしれない。そもそも、憲法修正第22条の廃止を強行するために数十州の支持を取り付けるのも困難な仕事だろう」

     

    トランプ氏が、根本的に「無法者」(状況次第)であり、「権威主義者」であることは否定できまい。北朝鮮の金正恩氏やロシアのプーチン氏に対して見せる、格別の「親近感」にそれを感じる。

     

    (8)「トランプ氏は、数十年の月日をかけて、ルールや法律を回避する方法を見いだしてきた。見込み薄の状況であっても、トランプ氏が取り組みの手を緩めることはないだろう。トランプ氏は、かねて任期を超えてホワイトハウスにとどまることを望むと発言しており、26日夜にも再び口にした。われわれはトランプ氏の言葉は本気だと受け止めるべきだ。玉座に就く機会があれば、トランプ氏は逃さず行動するだろう

     

    トランプ氏は、法律の抜け穴を探して生き抜く術を体得している人物である。トランプ氏が、終身大統領を意識していることは間違いないであろう。

     

    『フィナンシャルタイムズ』(7月26日付)は、「トランプ氏が法を破る理由」と題する記事を掲載した。

     

    トランプ氏は、数々の裁判で有罪を言い渡された過去があり(直近ではポルノ女優のストーミー・ダニエルズさんに払った口止め料にからむ裁判があった)、ルールは状況次第だという見方をとる。同氏は支持者にも、こうした「ルールは状況次第」という見方を受け入れるように迫り、自身の有罪評決は政治的な目的のために民主党がでっち上げた「フェイク」だと主張している。

     

    (9)「トランプ政権で米通商代表部(USTR)代表を務め、トランプ氏が今年の選挙で勝った場合に財務長官になる有力候補とされるロバート・ライトハイザー氏についても考えてみるといい。筆者が米国以外の政府関係者とともにオブザーバーとして参加した会合で、ライトハイザー氏はいかなる貿易協定も神聖ではなく、普遍的でも恒久的でもないと主張した。逆に同氏が近著で指摘しているように、必要が生じた場合はいつでも国益を守るために協定を改定することができ、改定すべきだと考えている。ライトハイザー氏にとっては、通商法は影響力と力の問題なのだ」

     

    トランプ氏の周辺にも、トランプ氏と共鳴する人物が集まっている。トランプ政権が生まれれば、財務長官候補とされるライトハイザー氏は、ルールを曲げるのは「状況次第」の特性を濃くしている。

     

    (10)「選挙について押さえておくべき重要なポイントが3つある。第一に、人類学者のジョセフ・ヘンリック氏が指摘したように、トランプ氏が状況的な思考を抱くことは、世界的な歴史の基準に照らすと珍しくない。実際、大半の文化がこうした考え方を持っていた。むしろ、米国の裁判所が高らかにうたう「法の支配」の現代的な理念こそが例外だ。第二に、この普遍主義的な法の支配の概念がこの数十年間にわたって米国のアイデンティティーを定義し、現代資本市場の柱となってきた。大半の投資家はこの概念が覆されるかもしれない世界に対して備えができていない」

     

    米国の普遍主義こそ、民主主義の根幹を形成してきた。それが、「状況次第」という事態になれば、米国の同盟国は離れるであろう。米国を信頼できないからだ。

     

    (11)「第三に、米国の司法制度がトランプ氏に対する抑制になると考えている人は皆、同氏が法を破ったか(または破らなかったか)どうかについて議論するだけでなく、ルールを「状況的」あるいは「普遍的」に判断する違いについて声高に発信すべきだ」

     

    原則は、愚直なまでに守ることが信頼を得る原点である。米国の「中国化」や「ロシア化」は最も避けたい、最も見たくない現実である。

     

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