勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2024年08月

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    中国の不動産バブルが、燎原の火のように拡大した要因は「青田売り」にある。竣工前にマンションを売り出して、消費者の払う住宅ローンで建築を進めるという「おいしいビジネス」であるからだ。これでは、雨後の筍のように不動産業者が乱立して当然。この「魔法」のビジネスに断が下る。当局は今後、竣工後の販売へ切替えさせるという。こうなると、資金繰りが続かない不動産開発企業は脱落する。最後に残るのは、国有不動産企業だけとなろう。習近平氏の狙い通りとなる。

     

    『ロイター』(8月31日付)は、「中国、不動産業界の構造改革は長期戦 目先の痛みいとわず」と題する記事を掲載した。

     

    中国政府が、打ち出した不動産問題解決策はなかなか進まない。人民銀行(中央銀行)のデータによると、住宅在庫の解消を支援するための3000億元(420億ドル)の再貸付制度は、地方政府や国有企業の利用が4%にとどまる。

     

    (1)「こうした中、当局は先週、不動産業界の苦境に拍車をかけかねない抜本的な改革を進める姿勢を改めて示した。より長い時間、さらなる痛みを伴っても、不動産業界を改革する決意だ。5月に政府が住宅危機対策として「歴史的な」措置を発表したときは、期待が高まった。地方政府は、不動産開発業者から売れ残り住宅を買い取り、公営住宅にするよう奨励された。国営メディアによると、80以上の都市が住宅の在庫解消に向けた計画を発表した。問題は、実際に買い取りを実施したのは重慶や福州など一握りの都市で、買い取り数も1万戸足らずということだ」

     

    地方政府は、住宅不況で土地売却益が激減している。財政が逼迫しているなかで、売れ残り住宅の買取りというリスクの高い事業へ進出するはずがなかった。買い取り数も1万戸足らずという。

     

    (2)「一見すると、これは少なすぎるし、遅すぎる。ゴールドマン・サックスのアナリストは、80都市の住宅データに基づく6月のリポートで、政府が住宅価格の下落を抑えようとするならば、全国の供給過剰を10%減らすために約2兆元を投入する必要があると推計した。UBSのアナリストは最近のメモで、不動産の低迷がまだ底を打っていないことなどを理由に、2024年の国内総生産(GDP)成長率予測を4.9%から4.6%に引き下げた。一つ問題なのは、当局が現在市場の変革に取り組んでおり、その影響を評価する時間が必要だということだ」

     

    習近平氏は、財政赤字を増やして中国の格付けが引下げられることを最も恐れている。それだけに2兆元(400兆円)の赤字予算を組むはずがない。経済がじり貧になっても耐えて、財政赤字を増やさない意思を固めている。それが、習氏の政治的安泰に通じるからだ。中国経済の将来が、極めて暗い理由はここにある。

     

    (3)「例えば、地方政府は今や、新規プロジェクトの価格上限を撤廃するなど、独自の住宅市場ルールを設定する権限を持つ。政策支援もさらに強化される可能性がある。中央政府は、地方政府が住宅買い取り資金を調達するために特別債をさらに発行するのを認める計画だと、ブルームバーグが今月、匿名の関係者情報として報じた。ただ中国は、この危機を利用して、不動産部門を17兆ドル規模の経済のより安定した要素にするための改革も進めている。住宅都市農村建設省は先週の記者会見で、開発業者が完成前に購入者に販売する現行の先行販売システムから「完成後販売」方式への移行を加速すると改めて表明した

     

    「青田売り」を止めさせ完成後販売に切替えれば当然、資金繰りが続かず倒産企業は増える。これは、銀行の不良債権増加になって金融機関へさらなる重圧になる。すでに銀行利ざやは、レッドラインとされる1.8%を大きく割り込み、6月時点で1.54%となった。3月から横ばいだったものの過去最低で推移している。人民銀行が政策金利を引下げれば、貸出金利の引下げを避けられず、利ざやがさらに圧縮されて「銀行危機」を招き兼ねない事態となろう。こういう危機的状況で、「青田売り」を禁止されれば、不動産開発企業倒産が増えであろう。進も退くも地獄の状態にある。

     

    (4)「これは、中国恒大や碧桂園など経営難に陥った不動産開発業者の回復をスローダウンさせるだろう。不動産業界が新常態(ニューノーマル)に落ち着く過程で、改革は家計心理に重石となる可能性もある。いずれにせよ、バブルがはじけた後すぐにブームが到来することは見込みにくい」

     

    このパラグラフは、極めて甘い見通しを書いている。このような程度で済むはずがない。中国不動産業界は激震に見舞われる。GDP成長率は、すぐに3%台へ低下するであろう。

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    韓国経済は、表面的には先進国型をしている。だが、金融面での脆弱性は覆いがたく、長い金融引き締めによって、次々と実勢悪が表面化している。その一つが、プロジェクト・ファイナンスである。これは、特定の事業・プロジェクトを独立した事業体とし、そのプロジェクトから生み出される収益およびキャッシュフローを返済原資とするファイナンス(融資)である。ところが、韓国の金融引き締めは21年8月に0.5%から引上げられ現在、3.50%である。こうした高金利に耐えられず、事業体が破綻して当初、見込みの利益が上がらず不良債権化している。

     

    『ハンギョレ新聞』(8月30日付)は、「韓国の不動産PF、『不良憂慮』予想よりも深刻 当局予想の2倍」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「韓国の不動産プロジェクトファイナンス(PF)の不良水準が金融当局の予想以上に深刻であることが分かった。6ヶ月以内に処分しなければならない「不良憂慮」の判定を受けた事業場の規模は13兆5000億ウォン(約1.5兆円)で、当局の予想値(約7兆ウォン)の2倍に達する。特に、不良事業場は大半がセマウル金庫など相互金融と貯蓄銀行が融資したところだった」

     

    金融当局の監視の目が行き届かないところで不良債権が発生した。

     

    (2)「韓国金融監督院が8月29日に発表した「金融会社の不動産PF事業性評価結果」によれば、「不良憂慮」等級判定を受けた事業場の規模は13兆5000億ウォンに達する。当局は、不動産事業場の安定性の水準によって「良好」「普通」「留意」「不良憂慮」の4等級に分類している。「留意」の判定を受ければ再構造化や自律売却計画を、「不良憂慮」の判定を受ければ競売・公売計画を立てなければならない」

     

    当局は、不動産事業場の安定性の水準によって「良好」「普通」「留意」「不良憂慮」の4等級に分類している。絶えず、金融機関を通して状況把握すべきであったが、実態は生ぬるかった。特に、金融引き締め下では経営破綻が起こって当然である。その「覚悟」が足りなかった感じだ。

     

    (3)「当局は今年5月、PF全体(230兆ウォン=約25兆円)のうち、競公売物は23%(46千億ウォン~7兆ウォン)程度になると予測したが、実際の結果は2倍ほど多かった。「留意」と「不良憂慮」の判定を受けた事業場の規模(21兆ウォン=約2.3兆円)である。「不良憂慮」判定を受けた事業場は、主に相互金融が融資したところが多かった。金融業圏別のエクスポージャーを見れば、セマウル金庫などの相互金融が67千億ウォンで最も多く、貯蓄銀行32千億ウォン、証券会社19千億ウォン、キャピタルなど与信専門会社14千億ウォン、保険会社2千億ウォン、銀行2千億ウォンの順だ」

     

    相互金融とは、協同組合として組織されたもので、農協・水産業協同組合(以下水協)・信用協同組合・山林組合・セマウル金庫は、五大相互金融機関とされる。家計金融を取り扱う代表的な庶民の金融機関である。この相互金融が、不動産プロジェクト・ファイナンスに融資して回収で問題が起こった。回収まで長期を要するだけに、相互金融が行うには不適当な融資対象であろう。相互金融は、家計の小口貯蓄を集めている。融資対象は健全なものに限るべきであった。


    (4)「当局は、現段階では各金融会社が不動産PFの不良を吸収できる水準の資本を持っていると判断した。今回の評価で引当金がさらに積み立て(67千億ウォン)られたのは、金融会社が増資などを通じて資本比率を高めたためだ」

     

    問題債権が発生したが、これによって個別金融機関の経営に破綻が起こる懸念はないという。不幸中の幸いだが、相互金融では融資対象を限定すべきだろう。

     

     


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    円高支援の材料が、欧米で同時に生まれてきた。円売り投機筋にとっては、追い詰められる状況だ。欧米が、9月に同時利下げする可能性が高まったことは、円高へ強力な支援材料になる。円高により輸入物価抑制で実質消費が高まれば、日本経済の浮揚へ向けて大きな力になる。 

    8月のユーロ圏の消費者物価指数は、前年同月比2.%上昇で2021年7月以来、およそ3年ぶり低水準になった。この結果、9月の追加利下げが確実である。現在の政策金利は3.75%である。0.25%の利下げになれば、3.50%が新金利だ。一方、米国FRB(連邦準備制度理事会)は9月、利下げすることが決定的になっている。労働需給の緩和が、失業率を上昇させており利下げの理由である。利下げ幅は0.25~0.5%とみられる。この結果、現在の5.25~5.5%金利は一挙に5%も考えられる。

     

    『日本経済新聞 電子版』(8月30日付)は、「8月のユーロ圏消費者物価、2.2%上昇 3年ぶり低水準」と題する記事を掲載した。 

    8月のユーロ圏の消費者物価指数は、速報値で前年同月比2.%上昇した。伸び率は2021年7月以来、およそ3年ぶり低水準になった。欧州中央銀行(ECB)は、次回9月の理事会で追加利下げに向けて議論する。 

    (1)「伸び率は、事前の市場予想と同じ水準だった。7月までは6カ月連続2%台半ばで推移していた。価格変動の大きい食品やエネルギーを除くと2.%で、7月の2.%から小幅に鈍化した。ECBは9月12日に金融政策を話し合う理事会を開く。6月に4年9ヶ月ぶりに利下げを決めた後、7月は政策金利を据え置いた。理事会内部では9月の追加利下げを容認する声が上がっている。金融市場の参加者も利下げを確実視している。残る焦点は拙速な金融緩和に慎重なタカ派メンバーの判断に絞られつつある」 

    ECBは、28ヶ国の中央銀行が加盟している。それだけに意見調整で時間をとられるが、中核のドイツ経済の浮揚を確かなものにするためにも追加利下げが必要になっている。

     

    『日本経済新聞 電子版』(8月28日付)は、「円一段高の芽、ユーロ起点 米欧同時利下げの可能性と題する記事を掲載した。 

    市場の注目を集めた8月23日の国際経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」。米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長が9月の利下げを事実上予告し、いったん円高・ドル安が強まったが、その後は落ち着きを取り戻しつつある。だが、円相場が一段高になる可能性は消えていない。波乱の芽はユーロだ。 

    (2)「この程度で収まったか」。マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA)の深谷幸司氏は今週の円相場の動向に、こんな感想を抱いた。9月の米利下げの有無が最大の関心事だったジャクソンホール会議で、パウエル議長は「政策を調整すべき時が来た」と宣言。週明けの為替市場では一時、1ドル=143円台まで円高・ドル安が加速した。だが市場の興奮をよそに、その後は再び145円台に揺り戻す場面もあるなど、一方的に円高が強まる展開にはなっていない」 

    FRBの9月利下げ「声明」は、円高相場へ大きな支援材料であったが結果は、ほどほどにとどまった。

     

    (3)「何が円高の勢いを鈍らせたのか。理由の一つはユーロの動向だ。23日のニューヨーク市場では円高・ドル安だけでなく、ユーロも対ドルで買われ、一時は2023年7月以来のユーロ高・ドル安水準を付けた。パウエル氏の発言ばかりに関心が集中した結果、米利下げ予告がドル独歩安を招いたわけだ。だが日米欧の金融政策環境をみると、ドル独歩安とは異なる相場観が浮かんでくる。FRBのパウエル議長は9月の利下げ開始を事実上予告した。一方、日銀は7月末に利上げを決め、植田和男総裁は日銀の見通し通りに経済が進めば「もう少し金利を調整できる局面が来る」として、今後の追加利上げを排除しない。 

    ニューヨーク市場が、円高・ドル安だけに傾かなかったのは、同時にユーロも買われたからだ。ドル売りが円買いとユーロ買いに分散された結果である。この流れが、9月に円買い一本に集中するという予測である。ユーロが、9月に利下げするからだ。 

    (4)「ジャクソンホール会議では、ECBのレーン専務理事が「高すぎる金利があまりにも長くなれば、慢性的に物価目標を下回りかねない」として、過度の金融引き締めによるリスクに言及した。追加利上げのカードを手放さない日銀に対し、インフレ収束を見込んで利下げ姿勢を強め始めたFRBとECB。そこから浮かぶ為替相場の力学は、ドル独歩安ではなく、円独歩高ではないか」

     

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    米国、大統領選はいよいよ佳境に入る。共和党候補トランプ氏は、至る所で相手を罵倒している。選挙運動では、この戦術が「御法度」という。非難や批判は、相手の弱点を突くのだから有効だが、のべつ幕なしに相手を罵倒するのは限度を超えマイナスになる。トランプ氏は、果たしてお行儀の良い演説ができるのか危ぶまれている。 

    『ブルームバーグ』(8月29日付)は、「大統領選は雰囲気勝負、トランプ氏は劣勢自覚」と題するコラムを掲載した。筆者は、ブルームバーグ・オピニオンの政治コラムニスト。 

    米民主党の大統領候補、ハリス副大統領の支持率が世論調査で上昇している。これに神経をとがらせている共和党は、トランプ前大統領に分かりやすいメッセージを送っている。つまり、政策に集中してさえいれば選挙に勝てるというものだ。問題は、共和党の候補がドナルド・トランプ氏だということだ。

     

    (1)「政策に精通していたヒラリー・クリントン氏を2016年の大統領選で打ち負かしたトランプ氏は、その人が醸し出す雰囲気やオーラという意味での「バイブス」と政策文書の勝負なら、通常はバイブスが優位なことを知っている。トランプ氏はバイブスこそが、党大会の高い視聴率や5億4000万ドル(約780億円)の献金、さらに戸別訪問や「TikTok(ティックトック)」への動画投稿を手掛ける何万人ものボランティア獲得につながることを知っている」 

    選挙では、「バイブス」(雰囲気)が重要という。米国の有権者にとって、どちらの候補が自分たちの悩みを親身になって解決してくれるか。そういう「信頼感」の競争が、投票行動の決定的要因になるとされる。トランプ氏は、これまでバイデン氏が相手候補であった。ところが急遽、若くて女性のハリス氏に変わった。トランプ氏の演説は、対バイデン氏向けから変わらなければならない。それが、できるかが問われている。 

    (2)「それでも、トランプ氏は政策へとギアをシフトしようとしている。同氏が政策を無視して、ハリス氏や副大統領候補のウォルズ・ミネソタ州知事の攻撃に終始すれば負け戦になると、共和党が公に懸念を示しているためだ。トランプ氏はハリス氏について、嫌われ者で無能な信用ならぬ人物像を仕立て上げようと多くの時間を費やしてきた。一方、雰囲気や感情が持つ力を認識している民主党も抜け目なく、トランプ氏に「奇妙」というレッテルを貼った」 

    民主党は、トランプ氏へ「変わり者」というレッテルを貼って、これまでの非難に対抗している。ハリス氏は、元検事として「トランプ批判」に力点を置く姿勢だ。共和党は、こういう批判の次元から離れて「政策論」で勝負するという。

     

    (3)「米シンクタンク、センター・フォー・アメリカン・プログレスのパトリック・ガスパール氏は先週、「有権者は政策10カ条に基づいて投票するのではない」と指摘。「過去200年間、全ての選挙がバイブス選挙だった」とブルームバーグ・ニュースのインタビューで語った。今回の選挙は極めて予測が困難な展開ではあるが、政策よりも雰囲気が重視されるという伝統は忠実に再現されるだろう。これは、ハリス氏が政策を語るべきでないということとは異なる」 

    今回の大統領選は、200年がそうであったように「雰囲気」=「人柄」を争う選挙になるという。いちいち、政策を比べて候補者に優劣を付けてはいない。おおずかみなものだ。 

    (4)「例えば、ハリス氏が「フルハウス」と題して展開する新たな広告は、大統領になれば300万戸の新しい住宅と賃貸住宅を建設するとしている。これは、民主党中道派の大統領候補が昔から繰り広げてきたキャンペーンだ。ハリス氏には、「より詳細な」政策提案が必要だとの批判が向けられている。 

    ハリス氏は、「300万戸の新しい住宅と賃貸住宅建設」を掲げている。

     

    (5)「対照的にトランプ氏の政策は、自分が現れれば全て解決できるというものだ。有権者が最も重視するインフレ対策について、トランプ氏は今月初めにノースカロライナ州アッシュビルで行った演説で、「大統領執務室に戻った最初の日に大統領令に署名し、政府当局者全員に対し、各自の判断であらゆる手段や権限を用いてインフレを打破し、消費者物価を急速に引き下げるよう指示する」と述べた。「知性派の演説」と同氏が自賛するこのスピーチに斬新さはない」 

    トランプ氏は、「自分に任せろ」で詳細を語らない。これが、雰囲気や信頼感の醸成に役立つかだ。 

    (6)「政策の詳細に重きを置くことは現実を無視することになる。つまり、有権者の多くは仕事と家庭を両立させながら生活していくことに精いっぱいで、具体的な政策にじっくりと目をこらす時間などない。有権者が、重視するのは候補者のことをどう思っているのか、特定の候補者とフィーリングが合うかどうかだ。バイデン米大統領を相手に選挙戦を展開していた時のトランプ氏は、年齢が最大の武器だった。トランプ氏が政策に強かったのではなく、バイデン氏の見た目が弱かったため、同氏のアイデアや政策、大統領職さえも弱く見えたのだ。ハリス氏には、トランプ氏が16年の大統領選で勝利した時のような「カリスマ性」が備わっている。トランプ氏はこのような対抗馬に直面したことはなく、ハリス氏の勢いを止めることは難しいだろう」 

    ハリス氏には、元検事という履歴がある。トランプ氏は現在、被告という負い目がある。トランプ氏にとっては、異質の相手になる。このギャップをどのように乗切るか。勝負の鍵は、ここらあたりにありそうだ。

     

     

    テイカカズラ
       

    韓国経済の足取りが怪しくなっている。日本経済を抜くというかつての「元気」さが消え、7月の全産業生産指数は3ヶ月連続のマイナス状況に陥っている。一方、韓国の潜在成長率が12年低下し続けているのも気懸かりだ。OECD(経済開発機構)加盟38ヶ国中では、韓国だけにみられる現象である。韓国経済が、正念場を迎えているのだ。この記事は、数字が多いので、コメントだけでも読んでいただければ、韓国経済の実態をご理解いただけるであろう。

     

    『中央日報』(8月30日付)は、「韓国、7月の産業生産が前月比マイナス0.4% 3カ月連続減少 小売販売も1.9%減」と題する記事を掲載した。

     

    韓国の産業生産が3カ月連続でマイナスとなった。先月の消費・建設既成指標も一斉に下がった。

     

    (1)「統計庁が30日に発表した「7月の産業活動動向」によると、先月の全産業生産指数(季節調整・農林漁業除外)は112.7(2020年=100)と、前月比で0.4%減少した。サービス業(0.7%)などで増えたが、鉱工業(-3.6%)などで生産が減少した。特に半導体(-8.0%)、自動車(-14.4%)など主要業種の生産が減少した影響が大きかった。自動車は2020年5月(-24%)以来50カ月ぶりの最大減少となった。これを受け、全産業生産は5月(-0.8%)、6月(-0.1%)に続いて3カ月連続の減少となった。これは2022年8-10月以来21カ月ぶりの最長期減少」

     

    韓国経済を支えるのは、半導体と自動車である。この二大産業が、揃って不調である。半導体は、汎用品のメモリーである価格が安いという難点がある。台湾のTSMCが、好業績を上げている理由は、特注品の非メモリーであるからだ、半導体の主力は、非メモリーへ移っている。サムスンは不利だ。自動車は、EVの売上が不振であるので、現代自はこの影響を受けている。韓国では、EVの発火事故が相次いで起こり、人気を離散させている。

     

    (2)「消費動向を表す小売販売は車両燃料、乗用車などで販売が減少し、前月比1.9%減となった。4月(-0.6%)、5月(-0.2%)と2カ月連続で減少した後、6月(1.0%)に一時的に反騰したが、また減少に転じた。小売販売は車両燃料など非耐久財、乗用車など耐久財、娯楽・趣味・競技用品など準耐久財の販売がそれぞれ1.6%減、2.3%減、2.1%減と一斉に減少した。3つの同時減少は2023年7月以来1年ぶりである。投資分野で設備投資は運送装備投資が前月比で10.1%増えたが、建設既成は土木で工事実績が減り、前月比1.7%減少した」

     

    韓国の消費不振は、高金利による影響もある。だが、最大要因は家計による過剰債務の反動である。つまり、借金しすぎて首がまわらず、やむを得ず消費を抑えている結果である。この「悪習」は、朝鮮李朝時代から続いているもので、「宵越し金を持たない」という習慣が今も生きているのであろう。

     

    こうした韓国独特の経済パターンは、韓国経済に難題を持ち込んでいる。潜在成長率低下という事態である。少子高齢化が顕著に進む韓国にとって、大きな障害である。

     

    『中央日報』(2月14日付け)は、「潜在成長率12年連続下落、OECDで韓国しかない」と題する記事を掲載した。

     

    韓国経済の成長性・躍動性・収益性が主力産業から下落していることが明らかになった。韓国証券市場の低評価「コリア・ディスカウント」の根本原因として「韓国企業の投資魅力度低下」が挙げられる理由だ。

     

    (3)「中央日報と大韓商工会議所SGIが共同分析した結果、電子・化学・電気装備製造業など韓国主力産業の成長率は1970年代の19.3%から1990年代に9.6%、2010~2022年には3.4%まで大きく落ち込んだ。20年で3分の1水準まで急落した

     

    韓国主力産業の成長率が、20年間で3分の1まで急落している。中国が国産化を強力に行っている結果が現れている。これまで、韓国製造業は中国市場へ輸出することで拡大してきた。この道が今や、消えかかっているのだ。

     

    (4)「韓国の主力産業が揺らぎ、国全体の動力も弱まった。韓国の今年の潜在成長率は2.0%で2011年の3.8%以降一度の反騰もなく下がるばかりだったが、経済協力開発機構(OECD)38カ国のうちこうした国は韓国しかない。製造業稼動率は2010年の80.4%から昨年は71.3%(速報値)まで下落した。資本市場研究院のカン・ソヒョン研究委員は「投資家には北朝鮮情勢など他の要因よりも、韓国企業の低い成長性自体が投資の障害」と指摘する」

     

    潜在成長率低下は、合計特殊出生率低下がもたらす生産年齢人口(15~59歳)比率の低下が大きく響いている。この影響は、今後さらに高まる。前途は多難と言うほかない。こうなると、最大の問題は安全保障である。日本との良好な関係維持が不可欠のはずである。左派には、そういう認識がゼロである。

     

     

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