中国の不動産バブルが、燎原の火のように拡大した要因は「青田売り」にある。竣工前にマンションを売り出して、消費者の払う住宅ローンで建築を進めるという「おいしいビジネス」であるからだ。これでは、雨後の筍のように不動産業者が乱立して当然。この「魔法」のビジネスに断が下る。当局は今後、竣工後の販売へ切替えさせるという。こうなると、資金繰りが続かない不動産開発企業は脱落する。最後に残るのは、国有不動産企業だけとなろう。習近平氏の狙い通りとなる。
『ロイター』(8月31日付)は、「中国、不動産業界の構造改革は長期戦 目先の痛みいとわず」と題する記事を掲載した。
中国政府が、打ち出した不動産問題解決策はなかなか進まない。人民銀行(中央銀行)のデータによると、住宅在庫の解消を支援するための3000億元(420億ドル)の再貸付制度は、地方政府や国有企業の利用が4%にとどまる。
(1)「こうした中、当局は先週、不動産業界の苦境に拍車をかけかねない抜本的な改革を進める姿勢を改めて示した。より長い時間、さらなる痛みを伴っても、不動産業界を改革する決意だ。5月に政府が住宅危機対策として「歴史的な」措置を発表したときは、期待が高まった。地方政府は、不動産開発業者から売れ残り住宅を買い取り、公営住宅にするよう奨励された。国営メディアによると、80以上の都市が住宅の在庫解消に向けた計画を発表した。問題は、実際に買い取りを実施したのは重慶や福州など一握りの都市で、買い取り数も1万戸足らずということだ」
地方政府は、住宅不況で土地売却益が激減している。財政が逼迫しているなかで、売れ残り住宅の買取りというリスクの高い事業へ進出するはずがなかった。買い取り数も1万戸足らずという。
(2)「一見すると、これは少なすぎるし、遅すぎる。ゴールドマン・サックスのアナリストは、80都市の住宅データに基づく6月のリポートで、政府が住宅価格の下落を抑えようとするならば、全国の供給過剰を10%減らすために約2兆元を投入する必要があると推計した。UBSのアナリストは最近のメモで、不動産の低迷がまだ底を打っていないことなどを理由に、2024年の国内総生産(GDP)成長率予測を4.9%から4.6%に引き下げた。一つ問題なのは、当局が現在市場の変革に取り組んでおり、その影響を評価する時間が必要だということだ」
習近平氏は、財政赤字を増やして中国の格付けが引下げられることを最も恐れている。それだけに2兆元(400兆円)の赤字予算を組むはずがない。経済がじり貧になっても耐えて、財政赤字を増やさない意思を固めている。それが、習氏の政治的安泰に通じるからだ。中国経済の将来が、極めて暗い理由はここにある。
(3)「例えば、地方政府は今や、新規プロジェクトの価格上限を撤廃するなど、独自の住宅市場ルールを設定する権限を持つ。政策支援もさらに強化される可能性がある。中央政府は、地方政府が住宅買い取り資金を調達するために特別債をさらに発行するのを認める計画だと、ブルームバーグが今月、匿名の関係者情報として報じた。ただ中国は、この危機を利用して、不動産部門を17兆ドル規模の経済のより安定した要素にするための改革も進めている。住宅都市農村建設省は先週の記者会見で、開発業者が完成前に購入者に販売する現行の先行販売システムから「完成後販売」方式への移行を加速すると改めて表明した」
「青田売り」を止めさせ完成後販売に切替えれば当然、資金繰りが続かず倒産企業は増える。これは、銀行の不良債権増加になって金融機関へさらなる重圧になる。すでに銀行利ざやは、レッドラインとされる1.8%を大きく割り込み、6月時点で1.54%となった。3月から横ばいだったものの過去最低で推移している。人民銀行が政策金利を引下げれば、貸出金利の引下げを避けられず、利ざやがさらに圧縮されて「銀行危機」を招き兼ねない事態となろう。こういう危機的状況で、「青田売り」を禁止されれば、不動産開発企業倒産が増えであろう。進も退くも地獄の状態にある。
(4)「これは、中国恒大や碧桂園など経営難に陥った不動産開発業者の回復をスローダウンさせるだろう。不動産業界が新常態(ニューノーマル)に落ち着く過程で、改革は家計心理に重石となる可能性もある。いずれにせよ、バブルがはじけた後すぐにブームが到来することは見込みにくい」
このパラグラフは、極めて甘い見通しを書いている。このような程度で済むはずがない。中国不動産業界は激震に見舞われる。GDP成長率は、すぐに3%台へ低下するであろう。