最も信頼できる株式市場の一つとされた日本株が、予想外の暴落に見舞われ、わずか2日間で日経平均が3192円下げ、世界で最も損失を被った市場になった。だが、日本経済を揺るがすような悪材料が出た訳でない。日本株急落は、円キャリートレード(日本で低金利の資金を借りて投資する)の手仕舞いという技術的な理由である。つまり、これまで超金融緩和を続けてきた日銀が、「金利のある世界」へ移行すると利上げに踏みきったことが理由である。海外投資家がこれに,大慌てしているのだ。
『ブルームバーグ』(8月2日付)は、「転機迎える日本株、緩和トレード終焉か 日銀タカ派姿勢で」と題する記事を掲載した。
(1)「日本株は、海外投資家からインフレヘッジの手段として位置づけられていた側面が後退していることも影響しているようだ。松井証券の窪田朋一郎シニアマーケットアナリストは、「(株安は)緩和トレードの巻き戻しだろう。低金利持続を前提にしたストラテジーが修正を迫られている」と指摘する。海外投資家が日本で資金を調達して投資する手法は、金利が上昇するようなら見直す必要が出てくるとの見立てだ」
下線部は、まさに円キャリートレードを指している。この円キャリートレードは、日銀の利上げで続行不可能となり、借りた円を返済する手仕舞いで日本株を売ったのだ。これだけででも、利上げによる円安阻止効果は抜群である。円相場は、3日午前1時25分で1ドル147円04銭である。
(2)「商社株は、著名投資家ウォーレン・バフェット氏が率いる投資会社バークシャー・ハサウェイの投資先として注目を集めた。バークシャーは、日本株投資の資金の大半を、相対的に金利が低い円建てで借り入れて調達しているとみられている。商社を含む卸売業は、この日の業種別下落率の5位に入った。市場では「バークシャーが戦略を見直すのではないかとの警戒感が浮上し、追随して商社株を買っていた中長期投資家などから売りが出たのではないか」(国内証券のアナリスト)との思惑が聞かれた」
バフェット氏は、日本で低利資金を借りて商社株へ投資するという極めて低資金コストであった。円キャリートレードである。
(3)「JPモルガン証券の高田将成クオンツ・ストラテジストは、世界的なインフレトレードからの資金引き揚げの一環で日本株が売られているとの見方を示す。「ハト派的なパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長の会見が、インフレトレードからの即時撤退にお墨付きを与えた可能性がある」と高田氏はみている。インフレトレードとは、インフレヘッジできる資産を買う取引で、インフレ連動債の上場投資信託(ETF)やコモディティ、高配当株などの取引を指す。グローバル投資家の間では、この中に日本株も含まれている。これまではグローバルでインフレのときでも、日本では基本的に利上げはできず、その結果として円安になり株高になるという傾向がみられ「期待インフレが高まる中で日本株がアウトパフォームすることが、この20―30年の通説だった」(JPモルガン証券の高田氏)という」
グローバル投資家は、インフレトレードを行ってきた。インフレヘッジできる資産を買う取引で、この中に日本株も含まれている。日本は、基本的に利上げできず、その結果として円安になり株高になるという傾向を利用してきたもの。このインフレトレードの基本構造が、日本の利上げと米国の利下げ徴候の強まりによって崩れた。これが、ここ2日間にわたる日本株暴落をもたらしたのである。
(4)「日銀の連続利上げが見込まれる中での大幅安を、コムジェストのリチャード氏は、日銀が追加利上げに動いたことで「(海外短期筋にとって)好材料出尽くしになった」ためという。JPモルガンの高田氏は、インフレトレードの巻き戻しのほか、予想外の日銀タカ派化で、膨らんでいた円ショート(売り)や日本株ロング(買い)のポジションがいずれも急速に巻き戻された結果、日本株は大幅に調整しているとも指摘している。積み上がったポジションが調整を終えるには1─2週間ぐらいかかるのではないかとコムジェストのリチャード氏はみている」
市場の予想では、日銀が利上げするとみていなかった。その「狼狽」が、円キャリートレードの巻き戻し(解消)を一挙に行わせた。平家軍が、富士川の水鳥の羽音に驚いて総退却した構図とよく似ているのだ。この騒ぎは、1~2週間は続くという。
(5)「全体相場が大きく調整した中でも、日本製鉄やコナミグループ、アステラス製薬など直近に決算を発表した銘柄群は上昇した。「物色意欲は払底したわけではない」としんきんアセットマネジメント投信の藤原直樹シニアファンド・マネージャーは指摘している。足元の相場はパニック的な動きのため3万5000円程度への下落はあるかも知れないものの、株価収益率(PER)はデフレ時の過去平均並みの水準に低下してきたとして「きっかけがあれば短期間で反発する余地はある」と、藤原氏は予想する」
言葉は悪いが、日本のゼロ金利に群がっていたグローバル投資家は、インフレトレードを行っていた。それが、環境激変で一挙に手仕舞いを迫られている。話を簡単にまとめれば、こういうことだ。ここは、落ち着くことが重要。軽挙妄動をしないことだろう。





