日本製鉄の森高弘副会長兼副社長は8月1日の決算会見で、USスチール買収について「自信をもって今年中にクローズ(完了)できる」と述べた。当局による審査も「どんどん進んでいる」明るい見通しを明らかにした。
日鉄は、トランプ前政権下で国務長官を務めたマイク・ポンペオ氏をアドバイザーに起用している。買収に向けた交渉を円滑に進める狙いがあるとみられる。日鉄は同氏以外にも複数の外部アドバイザーを起用しているという。
今回の買収計画は5月末時点で、欧州連合(EU)の欧州委員会のほか、メキシコ、セルビア、スロバキア、トルコ、英国の規制当局から承認を得ている。米国以外の全ての規制当局の承認を得たので、米国での承認を待っている段階だ。
『ロイター』(8月1日付)は、「USスチール買収、当局審査進む「今年中の完了に自信」―日鉄副会長」と題する記事を掲載した。
日本製鉄の森高弘副会長兼副社長は1日の決算会見で、USスチール買収について「自信をもって今年中にクローズ(完了)できる」と述べた。
(1)「森氏は、今年に入り5回訪米し、700人以上の関係者と会ってきたという。そうするなかで「正しく我々の意図を伝え、知れば知るほどポジティブな反応になってくる」と述べた。今後事業を続ける中で、現在買収に反対の立場にある全米鉄鋼労働組合(USW)との関係は重要と位置付けている。森氏は「組合自身は明確にポジションを変えていない」としながらも「周辺状況は変化しつつある。コミュニティや従業員、議員を含め正しい理解が浸透してきている」との感触を示した」
各国規制当局が、日鉄とUSスチールの合併を承認している以上、独占禁止法での規制をクリアしている。米国が、これに対して「拒否」できないことは確かであろう。米国内では、大統領選と絡んで政治家が労組の人気を取るという意図で無理矢理、合併反対論をぶち上げている。
反対論の一つに、日鉄は中国鉄鋼業界と関わりがあるとして騒ぎ立てていた。この問題も、中国企業との合弁解消で解決した。
日鉄は、中国の鉄鋼メーカー宝山鋼鉄との合弁事業を解消すると発表した。保有する宝鋼日鉄自動車鋼板株の50%すべてを宝山に売却するもの。発表によると、8月29日に経営期間の満了期日を迎えるので、関係当局の承認が得られることなどを条件に合弁を解消する。
同合弁は2004年、中国国内の高級自動車鋼板生産を目的に設立された。これに対して、米民主党のシェロッド・ブラウン上院議員がバイデン大統領に宛てた書簡で、日鉄と中国の鉄鋼業界との関係について「徹底的に調査することが不可欠」と主張していた経緯がある。今回の合弁解消で、こういう政治的動きを乗り越えられる。
中国の宝山鋼鉄は、1972年の日中国交正常化を機に両国の友好を象徴するプロジェクトとして、日鉄の全面協力のもとで生まれた鉄鋼会社である。半世紀の間に、日鉄と宝山との立ち位置は大きく変わった。かつては、先生と生徒の関係が中国経済の発展によって、ライバル関係になった。日鉄はもう一度、世界の鉄鋼業界の覇権を握るには、USスチールとの合併が最適という結論になったのであろう。それには、宝山鋼鉄との関係整理が不可欠と判断したとみられる。
日鉄は、長年磨いてきた環境技術(水素製鉄)を武器とするなら、米中のどちらの企業と手を結んだ方がプラスか。答えはおのずと米国となる。実際、日鉄はUSスチール買収に際して環境技術の移植による強化策を提示している。日鉄は、半世紀にわたり関わってきた中国という巨大市場を捨てるリスクを覚悟で、USスチールとの合併で軸足を米国シフトする形になった。日米経済の新たな象徴となろう。