勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2024年08月

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    日本製鉄の森高弘副会長兼副社長は8月1日の決算会見で、USスチール買収について「自信をもって今年中にクローズ(完了)できる」と述べた。当局による審査も「どんどん進んでいる」明るい見通しを明らかにした。

     

    日鉄は、トランプ前政権下で国務長官を務めたマイク・ポンペオ氏をアドバイザーに起用している。買収に向けた交渉を円滑に進める狙いがあるとみられる。日鉄は同氏以外にも複数の外部アドバイザーを起用しているという。

     

    今回の買収計画は5月末時点で、欧州連合(EU)の欧州委員会のほか、メキシコ、セルビア、スロバキア、トルコ、英国の規制当局から承認を得ている。米国以外の全ての規制当局の承認を得たので、米国での承認を待っている段階だ。

     

    『ロイター』(8月1日付)は、「USスチール買収、当局審査進む「今年中の完了に自信」―日鉄副会長」と題する記事を掲載した。

     

    日本製鉄の森高弘副会長兼副社長は1日の決算会見で、USスチール買収について「自信をもって今年中にクローズ(完了)できる」と述べた。

     

    (1)「森氏は、今年に入り5回訪米し、700人以上の関係者と会ってきたという。そうするなかで「正しく我々の意図を伝え、知れば知るほどポジティブな反応になってくる」と述べた。今後事業を続ける中で、現在買収に反対の立場にある全米鉄鋼労働組合(USW)との関係は重要と位置付けている。森氏は「組合自身は明確にポジションを変えていない」としながらも「周辺状況は変化しつつある。コミュニティや従業員、議員を含め正しい理解が浸透してきている」との感触を示した」

     

    各国規制当局が、日鉄とUSスチールの合併を承認している以上、独占禁止法での規制をクリアしている。米国が、これに対して「拒否」できないことは確かであろう。米国内では、大統領選と絡んで政治家が労組の人気を取るという意図で無理矢理、合併反対論をぶち上げている。

     

    反対論の一つに、日鉄は中国鉄鋼業界と関わりがあるとして騒ぎ立てていた。この問題も、中国企業との合弁解消で解決した。

     

    日鉄は、中国の鉄鋼メーカー宝山鋼鉄との合弁事業を解消すると発表した。保有する宝鋼日鉄自動車鋼板株の50%すべてを宝山に売却するもの。発表によると、8月29日に経営期間の満了期日を迎えるので、関係当局の承認が得られることなどを条件に合弁を解消する。

     

    同合弁は2004年、中国国内の高級自動車鋼板生産を目的に設立された。これに対して、米民主党のシェロッド・ブラウン上院議員がバイデン大統領に宛てた書簡で、日鉄と中国の鉄鋼業界との関係について「徹底的に調査することが不可欠」と主張していた経緯がある。今回の合弁解消で、こういう政治的動きを乗り越えられる。

     

    中国の宝山鋼鉄は、1972年の日中国交正常化を機に両国の友好を象徴するプロジェクトとして、日鉄の全面協力のもとで生まれた鉄鋼会社である。半世紀の間に、日鉄と宝山との立ち位置は大きく変わった。かつては、先生と生徒の関係が中国経済の発展によって、ライバル関係になった。日鉄はもう一度、世界の鉄鋼業界の覇権を握るには、USスチールとの合併が最適という結論になったのであろう。それには、宝山鋼鉄との関係整理が不可欠と判断したとみられる。

     

    日鉄は、長年磨いてきた環境技術(水素製鉄)を武器とするなら、米中のどちらの企業と手を結んだ方がプラスか。答えはおのずと米国となる。実際、日鉄はUSスチール買収に際して環境技術の移植による強化策を提示している。日鉄は、半世紀にわたり関わってきた中国という巨大市場を捨てるリスクを覚悟で、USスチールとの合併で軸足を米国シフトする形になった。日米経済の新たな象徴となろう。

     

     

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    習近平氏は、中国をマルクス主義で塗り替えようとしている。金融機関を「寄生虫」と見ているからだ。国有金融機関に対して、減給や賞与返還を強制している。この裏には、金融の果す機能である「資源最適配分」に理解及ばず、企業の生み出す価値を吸い取っているとみている。中国経済は、いよいよ「闇の世界」へ突っ込んでいく事態になった。

     

    『フィナンシャル・タイムズ』(7月29日付)は、「中国の国有金融機関 減給や賞与返還の動き広がる」と題する記事を掲載した。

     

    中国政府が金融業務の検査対象を投資信託の運用会社や香港拠点の銀行幹部に広げるなかで、中国の国有金融機関が社員に対するボーナス返還命令や給与カットに動いている。

     

    (1)「6月に立ち入り調査と当局の通達を受けた投信運用会社の2人のファンドマネジャーによると、中国本土の国有大手投資信託に勤務する一部運用担当者は、年間報酬のうち290万元(約6150万円)を超える分を返還するよう要請された。2024年分のボーナス支給も遅れているとファンドマネジャーの1人は話した」

     

    国有大手投資信託は、一部運用担当者の年間報酬が年間6150万円を超えれば返還するよう求めている。これは、中国の公務員(医師を含む)の低報酬から比べれば「貰いすぎ」という印象はある。

     

    (2)「国有複合企業、中国中信集団(CITIC)傘下の中国本土にある投資会社と雇用契約を結び、香港に出向している複数の幹部もボーナスの返還を求められたと2人の関係者が明らかにした。国有複合企業、中国光大集団傘下で香港を本拠とする投資会社、中国光大控股の幹部も、ここ数年間に支給されたボーナスの返還を要請されたと関係者2人が語った。国有金融複合企業に対する統制はまず中国本土で強化された後、香港の投資信託運用会社や金融機関の幹部にも検査対象が拡大し、特に中国本土で契約した幹部が標的になっていると銀行関係者らがフィナンシャル・タイムズ(FT)に明かした。通常、国有金融機関が幹部らの報酬を決める際には中国財政省の承認が必要となる」

     

    過去に支給したボーナスの返還とは、穏やかな話でない。明らかに、不良債権の償却原資に充てる計画であろう。

     

    (3)「習近平中国国家主席は、「質の高い発展」を目指す全国キャンペーンの一環として「新たな質の生産力」いうスローガンを掲げ、金融より科学技術や製造能力を重視する姿勢を繰り返し強調している。習氏は富の分配を重視する「共同富裕」も掲げており、金融業界の幹部やその高額報酬を取り締まる動きと合致する。「『共同富裕』実現への取り組みとともに、金融の大部分は『実体』経済活動に寄生しているという習氏の考え方がはっきり見て取れる」と、米カリフォルニア大学サンディエゴ校21世紀中国センターのビクター・シー所長は話す」

     

    このパラグラフは、習近平氏の「頭脳構造」を分析する上で重要である。金融より科学技術や製造能力を重視するのは、「素人考え」であろう。これは、金融の機能を軽視しているからだ。金融が、資源の最適配分を実現する上で重要な役割を果しているとみないからでもある。習氏は、市場経済(金融が仲介)よりも計画経済(政府が決定)を重視する偏った考えの結果だ。

     

    (4)「大手投信運用会社で北京本社に勤務するファンドマネジャーは、投信業界が「新たな生け贄になっている」と言う。「IPO(新規株式公開)を手がけるバンカーが狙い撃ちされ、今度はファンドマネジャーの番だ」。また、「国有金融複合企業傘下のすべての証券会社とその投信部門に影響が及ぶだろう」と北京の国有証券会社の社員は予測する。「まず経営幹部と高給のスタッフが主な対象となったが、今は調査の対象が広がっている。我々の過去5年間の出張経費も一定の基準を超えていなかったかどうか、現在調べられている」と指摘する」

     

    投信運用会社の報酬もチェックしているのは、株式市場を無視している結果であろう。ここまで来ると、中国経済は計画経済入りを宣言するようなものであろう。

     

    (5)「北京の多くの国有銀行は今、さらなる給与カットを検討中だ。事情に詳しい銀行幹部によると、中国建設銀行(CCB)では一部幹部が24年に給与をさらに1割減らされる見通しだ。減給の割合は個人の業績にもよるという。共産党指導部は18日に閉幕した第20期中央委員会第3回全体会議(3中全会)の文書で、金融システム改革を継続し、金融のシステミックリスクを予防すると明言した」

     

    金融のシステミックリスクを予防するためには、金融機関の内部留保を手厚くしなければならない。そこで、手っ取り早い方法で賃金カットするもの。玉砕覚悟の「竹槍戦術」である。財政赤字を増やすと習氏の政治責任になるので、行員の負担で不良債権を処理せよというものだ。世も末という印象である。個人消費が伸びない背景だ。 

     

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    習氏の心境「御身大切」

    広東省までが経済不振

    IMFが示す奈落の底

    習氏は4期目続投示唆

     

    中国国家主席の習近平氏には、明らかに自己にかかわる長期戦略で迷いがみられる。習氏の基本戦略は第一に、終身国家主席を務めることにある。これまで行った政敵排除で受ける恨みは、習氏が権力を手放した瞬間に襲ってくる。このリスクを避けるには、毛沢東と同様に生涯、権力を握り続ける「現役」が唯一の条件であろう。 

    だが、無条件に権力を握り続けることは困難である。そこで、台湾統一を目標にかかげ人心掌握術に出ている。国内で誰も反対できない目標だが、軍事統一となれば異論も出てくる。それを抑えて実行した場合、失敗すれば習氏が「詰め腹」を切らされるのは不可避である。ここで、政敵による過去の恨みが一挙に噴出する。習氏は、引退か亡命かという瀬戸際の選択を迫られよう。

     

    習氏の心境「御身大切」

    習氏が、台湾軍事侵攻するチャンスは、時期が遅れれば遅れるほど消える運命だ。不動産バブル崩壊による過剰債務の積み上がりによって、潜在成長率が低下するからだ。国力の衰退が、明白になってから行う台湾侵攻は「笑い話」の類いになる。

     

    習氏は今、台湾軍事侵攻時期を何時にするか苦悩しているであろう。財政赤字拡大に対しての極端な神経の使い方は、国力を一時的に温存し台湾侵攻に備える思惑が絡んでいる。だが、財政赤字拡大を抑える政策は、不動産バブル崩壊後遺症を放置することである。これは、中国経済の自滅を意味する最も危険な策である。こうなると、台湾侵攻のチャンスは永遠に去るのだ。

     

    習氏のベストシナリオは、台湾侵攻と過剰債務処理を同時並行的に行うことだろう。これは、台湾を無傷で占領して最先端半導体工場を手に入れる戦略である。本来、こういう虫の良いシナリオはあり得ない。それこそ、ロシアのプーチン大統領が「三日でウクライナ占領」と同じ失敗に終わる。台湾の最先端半導体工場設備は,中国による台湾占領が不可避という時点で爆破される手はずだ。爆破装置が,すでに組み込まれている。 

    こういういくつかの状況を精査すると、習氏が台湾侵攻できる時期は極めて限定されている。国力にゆとりがあることを前提とすれば、台湾侵攻の時期は現在かも知れない。だが、肝心の人民解放軍は士気が乱れている。軍上層部の汚職が絶えないからだ。軍の兵士は、勤務時間の4分の1を政治教育に費やしている。共産党への忠誠を誓わせる教育である。謀反を起こさないようにする伏線だ。こういう脆弱な構造を抱える人民解放軍が、中国同胞である台湾を襲い人命を奪う戦争に唯々諾々と従うだろうか。 

    結局、台湾侵攻は総合的にみて、そのタイミングを選ぶことが非常に難しく、すでにそのチャンスは過ぎつつあることを予感させる。だからと言って、防御体制を緩ませるというのでなく、引き続き警戒強化するとしても、中国の国内事情を冷静に分析することが極めて重要になってきた。

     

    広東省までが経済不振

    中国経済は、表面を眺めているだけではその実相をつかめないという複雑な局面に至っている。4~6月期のGDP成長率は、前年同期比では年率4.7%であった。だが、前期比でみると年率2.83%と急減速している。これを裏付ける具体的なデータが出てきた。 

    中国は、省クラスの行政区が全部で31ある。そのうち23行政区が今年上半期のGDPを発表した。うち16行政区のGDP成長率が政府目標の「5%前後」に達しなかったことが判明した。実に7割が、この厳しい局面にある。この中で目立ったのは、中国最大の行政区である広東省が、上半期GDP成長率が年間3.9%にとどまった。 

    広東省は、深圳、珠海の経済特区を抱えている。主要経済指標である省内GDP、外資導入額、輸出額、地方税収額では、全国各省市区の首位に立つ象徴的な地域である。その広東省の経済が不振であるのは深刻である。製造業不振が成長率の足を引っ張っているのであろう。

     

    また、中国の「ハワイ」言われる観光地の海南省が、上半期GDP成長率がわずか年間3.1%で、目標の8%を大きく下回った。海南省経済が不振なのは、個人消費の沈滞を裏付けている。観光が喧伝されるほど回復していない証拠だ。海南省が、広東省の不振と並んで経済低迷に陥っているのは、中国経済が、製造業や個人消費の停滞に陥っていることを裏付ける象徴的な動きであろう。 

    地方経済が、上述のように不振であるのは、地方政府の財政逼迫化を示している。これまで、地方政府の財政を大きく支えてきたのは、土地売却収入である。平均して歳入全体の3割前後は、この土地売却収入に依存する異常な偏りを示してきた。この状態が継続できたのは、不動産バブルが恒常化していたことを示している。ため息の出るような「クレージー」な状態であった。習氏は、これを異常な事態と認識していなかった点に、中国政治最大の「悲劇」がある。習氏の政治生命に関わる事態なのだ。(つづく)

     

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    中国国家統計局が7月31日、7月の製造業購買担当者指数(PMI)を発表した。それによると49.4で3ヶ月連続好不況の分岐点50を下回った。7月も「不況局面」にある。非製造業PMIのうち、小売業を含むサービス活動を示すPMIも50に低下し、昨年以来の低水準となった。

     

    国民生活は、経済不振で耐乏生活を強いられている。これに反発して「抗議」の声が上がっている。習近平を批判する横断幕が7月30日、湖南省新化県にある歩道橋で掲げられたとする動画がX(旧ツイッター)に投稿された。米政府系放送局のラジオ自由アジア(RFA)などが報じた。横断幕には、「独裁、国賊の習近平を罷免する」などと書かれていた。「自由がほしい、民主がほしい、選挙がほしい」と叫ぶスピーカー音も流されたが、抗議者の姿は映っていない。

     

    『日本経済新聞 電子版』(7月31日付)は、「7月の中国製造業景況感、受注伸びず50割れ 3カ月連続」と題する記事を掲載した。

     

    中国国家統計局が31日発表した7月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は49.4だった。前月より0.1ポイント低く、3カ月連続で好調・不調の境目である50を下回った。受注が振るわず全体を押し下げた。

     

    (1)「企業の規模別でみると、大企業は前月から0.4ポイント上昇して50.5となり、引き続き50を超えた。中堅企業や民間企業が多い中小零細企業は50を下回った。海外からの新規受注を示す指数は0.2ポイント伸びたものの48.5で、3カ月連続で50に届かなかった。同時に発表した7月の非製造業のビジネス活動指数は50.2だった。6月から0.3ポイント下落した。このうち建設業は前月から1.1ポイント低い51.2だった」

     

    中堅企業や民間企業が多い中小零細企業は、50を下回っている。非製造業のビジネス活動指数は、50.2と50ギリギリの線まで低下してきている。

     

    『ブルームバーグ』(7月31日付け)は、「中国の消費低迷、スタバやユニクロ直撃 倹約志向も外国勢には重し」と題する記事を掲載した。

     

    非製造業PMIのうち、小売業を含むサービス活動を示すPMIも50に低下し、昨年以来の低水準となった。

     

    (2)「消費不振は、米コーヒー店チェーンのスターバックスやフランスの化粧品会社ロレアル、「ユニクロ」のファーストリテイリングなど、すでに世界的なブランドを直撃。各社の売上高を急落させ、株式バリュエーションの重しとなっている。オーストラリア・ニュージーランド銀行(ANZ)の中国担当シニアストラテジスト、邢兆鵬氏は、「所得の見通しが暗くなる中で消費者は品質よりも価格に注目している。当局は家計所得を増やす明確な道筋を示していない」と述べた」

     

    中国の消費不振は、米国のスターバックス、フランスの化粧品ロレアル、日本のユニクロなど、世界的なブランドを直撃している。異常事態だ。

     

    (3)「消費の喚起が喫緊の課題であることは、中国指導部も認識している。共産党中央政治局は30日開いた会議で、「経済政策の力点を民生に恩恵をもたらし、消費を促進する方向に転換させる必要がある」との見方で一致。年内の政策において個人消費の促進により大きな重点を置くと表明した。消費不況により、グローバルブランドは需要の落ち込みに加え、同じような製品をより安く販売する中国ブランドとの競争に苦しんでいる」

     

    人民日報は7月31日、習主席が26日に開かれた座談会で「現在、中国の経済発展が一連の困難と問題にぶつかっている」と認めた。ただ、「努力すれば完全に克服できる。発展に対する信頼を確実にし、戦略的集中を維持しながら実質的な高品質発展が効果的という中国経済光明論を唱えるべき」と指示したと報じた。国民の悩みとは無関係な発言である。

     

    (4)「倹約志向もまた、かつて購買力があった中国人買い物客に長く頼ってきた企業の利益や株価、さらには雇用にも打撃を与えている。ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)のアナリスト、アンジェラ・ハンリー氏は、「消費者が洗練され、消費に対してより慎重になるにつれ、事業の成長を促進する上で、どこで生まれたブランドかということはあまり重要ではなくなっていくかもしれない」と語った」

     

    倹約志向のあまり、品質を保証するブランドと無関係に「安いかどうか」が消費基準になっている。深刻な事態を迎えている。

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    日銀が、土壇場で利上げに踏み切った。植田日銀総裁は、3月のマイナス金利撤廃の際に見せた「弱々しい」姿勢から一転して強気へ。今後の金融政策について、「今回の展望リポートで示した経済・物価の見通しが実現していけば、それに応じて引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになる」と断言した。これまで、懐疑的であった市場の雰囲気を一掃する「頼れる日銀」の姿勢を見せた。

     

    これまで、市場は7月の利上げに懐疑的であった。日銀の金融政策は、「物価の安定を図ることと、金融システムの安定に貢献することが目的であり、為替レートの安定は金融政策の目的ではない」という教科書どおりの解説を信じる向きが多かった結果だ。だが、低金利によって円安が進み、物価上昇が起これば利上げは当然の措置である。市場は、この因果関係を読み誤ったのだろう。こうした反省の上に立って、日米の金融政策次第では一段の円高進行を見込む声も出ている。

     

    『ロイター』(7月31日付)は、政策金利0.5%『壁ではない』、経済・物価次第で追加利上げー日銀総裁」と題する記事を掲載した。

     

    日銀の植田和男総裁は31日、金融政策決定会合後の記者会見で、今後も経済・物価情勢が見通し通りに推移していけば追加利上げしていく方針を示し、政策金利について2006年からの前回の利上げ局面のピークである0.5%が「壁」になるとは「認識していない」と明言した。

     

    (1)「日銀はこの日の決定会合で、無担保コール翌日物金利の誘導目標をこれまでの00.1%程度から、0.25%程度に引き上げることを決めた。利上げはマイナス金利の解除を決めた3月以来 である。植田総裁は利上げに踏み切った理由として、経済・物価がこれまで日銀が示してきた見通しにおおむね沿って推移していることを最大の理由に挙げた。為替円安で輸入物価が再び上昇に転じ、物価の上振れリスクに注意する必要があることも理由としたが、物価見通しには大きな影響を与えていないと説明した」

     

    消費者物価上昇率が、コンスタントに2%を上回っている現在、利上げを躊躇する理由はなかった。長年にわたり染み渡った「ゼロ金利」意識が、利上げを阻んだのであろう。利上げをすると、「天変地異」が起こるような認識だったのだ。

     

    (2)「植田総裁は、今回の利上げは実質金利が非常に低い中での「少しの調整」に過ぎず、「強いブレーキが景気等にかかるとは考えていない」とも語った。このタイミングでの利上げについて、先行きの急激な利上げを回避するというプラス面もあると指摘。少しずつ早めに調整しておいた方が後で楽になるとの認識を示した」

     

    .25%の利上げで、騒ぎ立てるほどのことはない。ゼロ金利に慣れた家計と企業を訓練するには、ほどよい「歩行器」となろう。日本が、金利のある世界へ戻ってきたことで、経済の正常化が始まると見ればよいのだ。

     

    (3)「今後の金融政策運営については、「経済・物価情勢に応じて引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していく方針だ」と語った。次の利上げタイミングについては「前もって決めてパスを思い描いているわけではない」とも述べた。年内の追加利上げの可能性については「データが見通し通りに出て、ある程度の蓄積なら次のステップにいく」と述べ、排除しなかった。決定会合前に、岸田文雄首相や自民党幹部から金融政策の正常化を容認するような発言があったことについて、コメントを控えた。その上で、政府とは日頃から緊密に情報交換しており、経済・物価情勢に関する基本的な認識は共有していると強調した」

     

    金融政策の独立性を考えれば、政府が干渉すべきすべきことでない。記者会見で、こういう主旨の質問をすること自体が、見識を疑わせるものだ。植田総裁が、3月のマイナス金利撤廃の際に見せた「超慎重姿勢」は、政府の立場を配慮しすぎた結果であろう。

     

    (4)「日銀はあわせて26年3月までの国債買い入れ減額計画を公表した。原則として四半期ごとに4000億円程度ずつ減額していき、26年13月の買い入れ額を月3兆円程度にするとした。植田総裁は日銀の国債保有残高は買い入れを減額して行っても78%の減少にとどまるため、買い入れ減額に伴う金利上昇圧力は「大したものではない」と述べた」

     

    日銀には、これまでの異常円安を招いた一半の責任がある。「金融政策は、為替相場と関係ない」との余計な一言が、どれだけ円安投機を促進したか分らない。今回の異常円安で、日銀も痛い経験をした。異常円安が、輸入物価を押上げ消費者物価の上昇を招くという道筋を忘れてはならない。最後は、金融政策の出番になるからだ。

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