中国は過去40年もの間、高い経済成長率によって生活が改善してきた。だが、20年のパンデミック以降は生活が激変している。住宅ローンを払い続けても、肝心の住宅が手に入らないこと。また、賃下げは当たり前の事態になり雇用不安に怯える日々を送っている。こうした生活環境の悪化が、市民の抗議活動を増加させている。
『ブルームバーグ』(8月28日付け)は、「中国市民の抗議活動、雇用や住宅巡り増加傾向 経済停滞で不満増大」と題する記事を掲載した。
中国で抗議活動が増加傾向にある。景気減速の悪影響が市民を動揺させているが、政府は大型の景気対策を控えている。
(1)「米人権団体フリーダムハウスの「中国反体制モニター」が集計したデータによれば、4~6月(第2四半期)に記録された抗議件数は前年同期比で18%増えた。28日発表のリポートは、大半が経済問題に関連した抗議だとし、44%が労働に関連し、21%は不満を抱いている住宅所有者によるものだと指摘した。フリーダムハウスは抗議の定義について、一般的に当局や権力者への不平を表明し、権利を主張するなどの行為としている。リポートは中国の国民感情を大まかに捉えているが、世界2位の経済大国に広がる不満を完全に把握しているわけではない」
今年4~6月の抗議件数では、前年同期比で18%の増加だ。そのうち、44%が労働関連であり、21%が住宅問題に起因している。この先、抗議件数はどこまで増えていくか注目点である。
(2)「中国共産党の習近平総書記(国家主席)の下で強化された監視とインターネット規制によって抗議行動は抑え込まれ、デモは小規模で広がらないことが多く、デモ参加者が習主席に怒りを向けることはほとんどない。ただ、今回のリポートは共産党が直面している経済的な課題を浮き彫りにしている。約40年にわたる生活水準上昇に失速の兆しが見られる中国で、国民は経済の停滞と自信喪失に見舞われている。不動産危機に加え、米国との貿易戦争や習指導部による民間企業締め付け、新型コロナウイルス対策として実施されたロックダウン(都市封鎖)など、全てが成長の重しとなっている」
中国社会は、経済=金儲けに敏感な社会である。人間の価値は、給料水準で決まるという「唯物論」を信奉している。孔子や孟子などのような「唯心論」とはかけ離れている。それだけに、経済減速=社会不満増大という単純比例が成り立つ。中国の歴史で、皇帝が変わる大きな条件は経済衰退であった。
(3)「中国反体制モニターを主導するケビン・スラテン氏は、「ここ数十年、中国共産党は本質的に、経済的繁栄と引き換えに、国民が一党独裁の権威主義に服従することを要求してきた。成長鈍化の影響がより多くの市民に及ぶにつれ、このトレードオフが損なわれる可能性がある」と分析している。2022年半ばのデータ収集開始以来、検閲強化にもかかわらず、抗議活動の数が増加していると調査担当者は説明。スラテン氏によると、6月の集計が過去最高となったのは、抗議活動の新しい情報源を取り入れ始めたことも一因だ」
中国は、国民に選挙権を与えず、代わりに経済成長で報いてきた。だが、経済減速でこれが不可能になっている。中国政府は今後、選挙権を与えない代わりに何を与えるのか。困った事態へ突入している。
(4)「低迷から抜け出せない不動産市場を下支えしようと、政府は救済策を強化しているが、不動産危機が抗議行動に拍車をかけている。過去1年で不動産セクターに関連する抗議件数は前年との比較で10%増加した」
政府は、不動産対策で抜本策を回避している。地方政府と金融機関に問題の解決案を委ねており、「当事者意識」が欠如している。
(5)「ワシントンのシンクタンク、スティムソン・センターで中国プログラム担当ディレクターを務めるスン・ユン氏は、労働紛争や不動産を巡る対立はより頻繁になっているものの、こうした事例は散発的で、中国政府の考えを変えた22年のロックダウンに対する抗議活動の激しさや広がりのレベルには遠く及ばないと話す。スラテン氏によれば、経済絡みの抗議運動は住宅プロジェクトの停滞や突然の企業閉鎖や流動性不足、賃金の不払い、さらには地方政府が退職者に十分な給付金を支給できないといった不満によって引き起こされることが多い」
経済問題では、賃金不払いや地方政府の退職金支給が関わっている。いずれも、契約を破って不十分な金額しか払われないのであろう。こういう問題は今後、ますます増えていく状況下に置かれている。
(6)「ここ2年間の分析によると、経済関連の抗議が目立った都市の多くは中国南部の広東省に位置し、製造業の中心地である同省が景気減速の影響を被っていることを反映している。同じく上位にランクされている陝西省の省都、西安では、不動産に関係する抗議の割合が高い」
抗議の多い都市の特色が出ている。広東省が、製造業の中心地であるので景気減速に伴う不満。陝西省の西安では、不動産がらみの問題である。