勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2024年08月

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    中国は過去40年もの間、高い経済成長率によって生活が改善してきた。だが、20年のパンデミック以降は生活が激変している。住宅ローンを払い続けても、肝心の住宅が手に入らないこと。また、賃下げは当たり前の事態になり雇用不安に怯える日々を送っている。こうした生活環境の悪化が、市民の抗議活動を増加させている。

     

    『ブルームバーグ』(8月28日付け)は、「中国市民の抗議活動、雇用や住宅巡り増加傾向 経済停滞で不満増大」と題する記事を掲載した。

     

    中国で抗議活動が増加傾向にある。景気減速の悪影響が市民を動揺させているが、政府は大型の景気対策を控えている。

     

    (1)「米人権団体フリーダムハウスの「中国反体制モニター」が集計したデータによれば、4~6月(第2四半期)に記録された抗議件数は前年同期比で18%増えた。28日発表のリポートは、大半が経済問題に関連した抗議だとし、44%が労働に関連し、21%は不満を抱いている住宅所有者によるものだと指摘した。フリーダムハウスは抗議の定義について、一般的に当局や権力者への不平を表明し、権利を主張するなどの行為としている。リポートは中国の国民感情を大まかに捉えているが、世界2位の経済大国に広がる不満を完全に把握しているわけではない」

     

    今年4~6月の抗議件数では、前年同期比で18%の増加だ。そのうち、44%が労働関連であり、21%が住宅問題に起因している。この先、抗議件数はどこまで増えていくか注目点である。

     

    (2)「中国共産党の習近平総書記(国家主席)の下で強化された監視とインターネット規制によって抗議行動は抑え込まれ、デモは小規模で広がらないことが多く、デモ参加者が習主席に怒りを向けることはほとんどない。ただ、今回のリポートは共産党が直面している経済的な課題を浮き彫りにしている。約40年にわたる生活水準上昇に失速の兆しが見られる中国で、国民は経済の停滞と自信喪失に見舞われている。不動産危機に加え、米国との貿易戦争や習指導部による民間企業締め付け、新型コロナウイルス対策として実施されたロックダウン(都市封鎖)など、全てが成長の重しとなっている」

     

    中国社会は、経済=金儲けに敏感な社会である。人間の価値は、給料水準で決まるという「唯物論」を信奉している。孔子や孟子などのような「唯心論」とはかけ離れている。それだけに、経済減速=社会不満増大という単純比例が成り立つ。中国の歴史で、皇帝が変わる大きな条件は経済衰退であった。

     

    (3)「中国反体制モニターを主導するケビン・スラテン氏は、「ここ数十年、中国共産党は本質的に、経済的繁栄と引き換えに、国民が一党独裁の権威主義に服従することを要求してきた。成長鈍化の影響がより多くの市民に及ぶにつれ、このトレードオフが損なわれる可能性がある」と分析している。2022年半ばのデータ収集開始以来、検閲強化にもかかわらず、抗議活動の数が増加していると調査担当者は説明。スラテン氏によると、6月の集計が過去最高となったのは、抗議活動の新しい情報源を取り入れ始めたことも一因だ」

     

    中国は、国民に選挙権を与えず、代わりに経済成長で報いてきた。だが、経済減速でこれが不可能になっている。中国政府は今後、選挙権を与えない代わりに何を与えるのか。困った事態へ突入している。

     

    (4)「低迷から抜け出せない不動産市場を下支えしようと、政府は救済策を強化しているが、不動産危機が抗議行動に拍車をかけている。過去1年で不動産セクターに関連する抗議件数は前年との比較で10%増加した」

     

    政府は、不動産対策で抜本策を回避している。地方政府と金融機関に問題の解決案を委ねており、「当事者意識」が欠如している。

     

    (5)「ワシントンのシンクタンク、スティムソン・センターで中国プログラム担当ディレクターを務めるスン・ユン氏は、労働紛争や不動産を巡る対立はより頻繁になっているものの、こうした事例は散発的で、中国政府の考えを変えた22年のロックダウンに対する抗議活動の激しさや広がりのレベルには遠く及ばないと話す。スラテン氏によれば、経済絡みの抗議運動は住宅プロジェクトの停滞や突然の企業閉鎖や流動性不足、賃金の不払い、さらには地方政府が退職者に十分な給付金を支給できないといった不満によって引き起こされることが多い」

     

    経済問題では、賃金不払いや地方政府の退職金支給が関わっている。いずれも、契約を破って不十分な金額しか払われないのであろう。こういう問題は今後、ますます増えていく状況下に置かれている。

     

    (6)「ここ2年間の分析によると、経済関連の抗議が目立った都市の多くは中国南部の広東省に位置し、製造業の中心地である同省が景気減速の影響を被っていることを反映している。同じく上位にランクされている陝西省の省都、西安では、不動産に関係する抗議の割合が高い」

     

    抗議の多い都市の特色が出ている。広東省が、製造業の中心地であるので景気減速に伴う不満。陝西省の西安では、不動産がらみの問題である。

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    中国市場は、もはやかつての成長性がみられない「普通の国」になった。それだけならまだしも、「反スパイ法」という根拠不明な法律によって外国人を拘束する新たなリスクが加わった。米中対立によって、地政学リスクが高まっている。こういうネガティブな条件が揃うと、「世界の工場」中国が途端に色あせた存在になった。米国企業による中国への対内直接投資は昨年、4割減という急減速に見舞われた。

     

    『日本経済新聞 電子版』(8月28日付)は、「IBMやGMが中国事業縮小、米国の対中投資 前年比4割減」と題する記事を掲載した。

     

    米国企業の中国ビジネスが転換点を迎えている。IBMなどIT(情報技術)大手は研究開発体制を縮小し、ゼネラルモーターズ(GM)など自動車大手も投資を減らす。中国の景気低迷や米中対立の長期化が背景で、米国の2023年の対中直接投資は前年比で約4割減った。一方で供給網の多くを中国に依存しており、「中国離れ」が一筋縄には進まない実態もある。

     

    (1)「米IBMは中国の研究開発部門の閉鎖や海外移転を進める。中国メディアによると約1600人が影響を受ける見通しでインドなど海外に機能を移す。IBMは「需要を踏まえて運営体制を調整する。中国の顧客へのサービス提供には影響しない」と話した。IBMは約40年前に中国に進出。2010年代から本格的に中国の政府機関や国営企業にサーバーやデータベースの提供を始め、通信インフラの拡大を担ってきた」

     

    IBMは、40年間にわたる中国市場から研究部門を撤去移転させる。中国では、豊富に供給される研究スタッフという好条件がありながら撤収するのだ。米中対立が、障害になってきた結果である。

     

    (2)「(IBMは)中国の景気低迷と中国企業による国産化で年々事業は縮小し、中国の年間売上高は23年に前年比で2割減少。21年には中国で最先端の研究所も閉鎖していた。縮小は、米中対立の長期化も大きい。米中が互いにデータ規制を強化するなか、米国企業の中国拠点から米国へのデータ転送が制約され、拠点間の連携が難しくなっている。マイクロソフトも5月に中国の従業員の一部が国外転勤の検討を進めていると報じられた。AIなどの部門が対象で、米メディアによると700〜800人が対象だ」

     

    マイクロソフトも、AI(人工知能)部門のスタッフを国外へ転勤させる計画を立てている。

     

    (3)「2国間の直接投資を見ると、米国企業の「中国離れ」は明らかだ。米商務省によると米国の対中直接投資(キャッシュフローベース)は23年に51億ドル(約7300億円)と前年比で約4割、14年以降の10年で約5割減った。直接投資はふれの幅の大きい統計だが、やや長い目で見ても減少傾向が見て取れる。14年は100億ドルを超えていたが、対中強硬策をとるトランプ政権が誕生して以降、じりじりと減少してきた。特にITや科学技術、法務など専門領域への投資は2年連続でマイナスとなった。知的財産を中国で扱うリスクが高まり、企業が研究開発機能を国外に移した実態が分かる」

     

    米国の対中直接投資は、23年に51億ドルと前年比で約4割、14年以降の10年で約5割も減っている。「世界の工場」中国というイメージは、完全に消え去った。

     

    (4)「製造業も投資を減らしている。GMは中国で研究開発部門のリストラや生産削減を進める。中国の自動車市場は比亜迪(BYD)など中国の独自ブランドのシェアが高まり、外資ブランドのシェアは20年の約6割から23年は約4割まで低下した。中国メーカーによる国産化が進み、電気自動車(EV)を巡る価格競争が厳しくなっている。ホンダや日産自動車など日本勢も事業縮小を進める中で米国勢も縮小に動く。GMのメアリー・バーラ最高経営責任者(CEO)は7月末、「中国の固定費削減は十分ではなく、合弁相手と事業の再構築を進めている」と話した。23年の米国の対中直接投資で自動車など「輸送機器」は前年比で99%減、「機械」も9割と大きく減った。製造業全体でも3割の投資が減っている」

     

    米国は、23年の自動車などの「輸送機器」が前年比99%減と壊滅的な減少である。

     

    (5)「米バイデン政権は対中規制を強め、中国に依存しない供給網の構築を目指してきた。一方で、依然として「中国離れ」は進んでいない現実がある。国産化を目指すEVの電池や半導体材料の多くは中国に依存する。半導体の基幹材料のガリウムは中国が世界の供給の98%、ゲルマニウムは6割を供給する。EV電池は7~8割を依存する」

     

    中国は、レアアース(希土類)で有利な地位にある。EV(電気自動車)・電池・ソーラーパネルで世界市場を圧倒しようとする野望の裏には、低コストで生産できるレアアースの存在がある。中国は、これを武器にして西側諸国への輸出規制の構えを見せているので、西側諸国が融通し合うシステムづくりに動いている。所詮、中国一国で西側先進国と対抗することは物理的にも不可能な話である。

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    韓国は、チェコのドコバニ原発2基を受注したが、米国のウェスティングハウスと、フランスの電力公社であるEDFから、チェコの反独占当局である経済競争保護局(UOHS)へ抗議される事態となった。 

    ウェスティングハウスは、自社技術が使われているので知的財産権侵害が名目になっている。フランスは、入札手続きに関する抗議である。韓国・米国・フランスの3ヶ国は、今回のチェコ原発入札に参加していたライバル同士である。利害の絡む抗議であるだけに、韓国は頭の痛い問題になってきた。受注が白紙化されるリスクを孕んでいる。 

    『ハンギョレ新聞』(8月27日付)は、「米ウェスティングハウスの訴訟・陳情で 韓国のチェコ原発受注が暗礁に」と題する記事を掲載した。 

    米国の原子力企業ウェスティングハウスが、韓国のチェコでの原発受注は自社の知的財産権を侵害した事案だとして米国内で訴訟を起こしたのに続き、チェコの反独占規制機関にも陳情した。来年3月の本契約前にこの問題が解決されるかどうか注目される。

     

    (1)「ウェスティングハウスは26日(現地時間)、チェコの反独占規制機関に陳情を行い、「韓国水力原子力(韓水原)が(チェコに建設しようとしている)原子炉『APR-1000』の源泉技術の知的財産権はウェスティングハウスにあり、自社の許可なしに第三者にその技術を移転することはできない」とし、その理由を明らかにした」 

    原発の源泉技術である知的財産権が、ウェスティングハウスにある以上、ここからの異議申し立ては看過できない重みがある。半導体でも源泉技術は米国にある以上、中国への輸出禁止が法的に成立している。こういう事情からみて、今回の原発輸出は知的財産権が絡むケースである。韓国の対応は、難しくなっている。 

    (2)「ウェスティングハウスは、2022年10月から韓水原の原発輸出が米国の輸出統制規定の適用を受けなければならないという趣旨のもと、米国で訴訟を進行中だ。1978年に結成された原子力供給国グループ(NSG)の指針に従い、韓水原は原発技術を海外に輸出する際には米国政府の許可を受けなければならない。韓水原に技術を移転したウェスティングハウスが申告の主体だが、まだその申告も行っていない状況だ」 

    ウェスティングハウスは、2022年10月から韓国の原発輸出に対して提訴している。こういう背景がありながらチェコは、あえて韓国へ発注する決定をした。価格が極端に安かったのか。あるいは、アフターサービスがよいのか。これが、受注決定で大きな影響を与えたのであろう。

     

    (4)「韓国の原子炉「APR-1000」と「APR-1400」の技術は、ウェスティングハウスが特許権を保有する「システム80+」の技術に基づく。韓国の唯一の原発輸出実績である2009年のアラブ首長国連邦バラカ原発受注の際には、韓国電力がウェスティングハウスに技術諮問料を支払い、発電機タービンなど主要設備の注文を任せる形で合意がなされた。今回のチェコ原発の輸出では、韓水原とウェスティングハウスは技術移転の合意に至らなかった。韓国の原子力業界では、ウェスティングハウスが韓国の原発産業を牽制し、受注過程でロイヤリティーの条件を有利にするために「嫌がらせ」をしているという主張が出ている」 

    韓国が、ウェスティングハウスとの交渉が決まらないままに、チェコの受注を決めたことは、交渉としては配慮が足りなかった面も否定できない。


    (5)「問題は、このような紛争を解決できないまま受注戦に突入したことが、最終交渉の悪材料になりうるということだ。わずか1年前の昨年4月末、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が米国を国賓訪問した際、韓米首脳は共同声明を通じて「両国は原発分野について知的財産権を尊重する」との内容で合意した。当時、韓水原がポーランドに原発輸出を推進する過程で、ウェスティングハウスが知的財産権違反の訴訟を起こした状況だったため、この文言は韓国の知的財産権の違反行為を阻止しようとする目的だとも言われていた」 

    ウェスティングハウスは、韓国の受注を阻止すべく法的闘争に訴えたほかに、米韓首脳会団の共同声明で「両国は原発分野について知的財産権を尊重する」と謳っている。韓国に不利な状況だ。 

    (6)「エネルギー転換フォーラムのソク・クァンフン専門委員は、「韓水原が知的財産権のリスクを最後まで解決できない場合は、チェコ政府も工事中断になりうる韓国の原発建設を承認する可能性は低い」と予想した。「原子力安全と未来」のイ・ジョンユン代表は「米国の立場としては、自国の原発技術を模倣して他国に移転しようとする韓国の行為を容認することは、米連邦規定集810(原子力技術移転時の米エネルギー省許可規定)に反する決定になりうる」として、「数年前に始まった知的財産権に関する紛争を解決できないまま受注戦に突入した手続き的な問題に対する徹底した実状調査が必要だ」と指摘した」 

    韓国側は、ウェスティングハウスの提示する条件を丸呑みする以外に解決の道はなさそうだ。名を捨て、実を取るという選択の問題である。

     

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    中国は、にっちもさっちも行かない状況に追込まれている。習近平国家主席が、従来の「三種の神器」(EV・電池・ソーラーパネル)育成に執着している結果である。中国経済は、時間の経過とともに減衰が明らかになってきた。こういした状況を反映して、証券会社は、中国株よりもインドネシアやマレーシアの株式を推奨している。「世界の工場」と言われた中国が、見捨てられる事態を迎えている。

     

    『ブルームバーグ』(8月27日付)は、「野村、中国株の保有縮小勧めるーインドネシア・マレーシア株推奨」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「野村ホールディングス(HD)のストラテジストによれば、投資家は中国株の持ち分を減らし、インドネシアとマレーシアの株に資金を投じるのが望ましい。チェタン・セス氏らストラテジストはリポートで、米利下げが追い風になる見通しなどを理由にマレーシア株とインドネシア株の投資判断を「ニュートラル」から「オーバーウエート」に引き上げた。MSCI中国については「オーバーウエート」から「ニュートラル」に下げた。

     

    投資家は、中国株への投資配分を従来よりも減らせということである。中国株の優位性が消えたという意味でだ。

     

    (2)「この判断見直しは、海外投資家の間でインドネシア・マレーシア株への関心が高まっていることを受けたもので、両市場とも2カ月連続の資金純流入が見込まれている。一方、中国株は、投資家が同国の不安定な経済と長引く不動産不況の影響を懸念する中で低迷しており、MSCI中国指数は5月末以来約3.6%下げている。セス氏らは、26日送付のリポートで、「東南アジア諸国連合(ASEAN)市場にちゅうちょなく資金を追加投入すべき時が来た」とし、米金融当局が利下げを開始する中で新興市場国株への関心の再度の高まりに賭ける最善の方法はインドネシア株かもしれないと指摘した」

     

    野村は、中国株に代わってインドネシアやマレーシアの株式投資を増やすように勧めている。これまでになかった投資判断の変更であろう。ASEAN株へは、ちゅうちょすることなく投資資金配分を増やせとしている。この判断は、経済の重心が中国からASEANへ移るとみている結果だ。この意味で、「中国経済の天下」は、20年足らずで終わった。

     

    (3)「パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長は23日、ワイオミング州ジャクソンホールで開催されたカンザスシティー連銀主催の年次シンポジウムで講演し、9月に利下げが行われるという明確なシグナルを投資家に送った。投資家は野村の指摘を真剣に受け止める理由がある。野村のストラテジストらが昨年12月に台湾株の投資判断を引き上げた後、台湾株の指標である加権指数は今年に入って約25%上げている。MSCIアジア太平洋指数は同期間に約9.8%上昇しているが、MSCI中国指数は2.7%の上げにとどまっている」

     

    野村は、昨年12月に台湾株の投資判断を引き上げて大成功であった。この判断基準が、今度はASEAN株へ向っている。経済成長パターンの変化が、その裏付けになっているに違いない。

     

    (4)「ブルームバーグ集計データによると、海外ファンドは8月の初から22日までにインドネシア株を8億7400万ドル(約1260億円)買い越した。マレーシア株は約2億4000万ドル買い越している。野村は、MSCIアジア指数(日本を除く)の年末予想を707に据え置き、現在の水準をほぼ維持すると示唆。「米国の選挙関連の不確実性により、上昇が抑制される可能性が高い」と説明した」

     

    野村が、インドネシアやマレーシアの株式投資を推奨するのは、すでに市場の動きが先行しているからだ。闇雲な話ではない。実績を追認している。

     

    (5)「投資家はここ数年、中国株への投資が可能かどうか疑問を抱いてきた。中国政府は、政府系企業による株式購入を奨励するなど株式市場の活性化に努めてきたが、投資家心理への影響は限定的だった。米中間の緊張関係も、海外投資家の中国株へのセンチメントを悪化させている」

     

    中国株は、もはや過去形でしか語れない対象になっている。時代の変化は激しいのだ。

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    カナダのコンビニエンスストア大手、アリマンタシォン・クシュタールは、せセブン&アイ・ホールディングス(HD)へ買収を申し入れている。買収資金は5兆円を超すが、クシュタールは負債や株主である年金基金からの資金調達で賄えるとしている。

     

    せセブン&アイは、まだ今回の件について意思表示していないが、政府に対し「外国為替及び外国貿易法」(外為法)で最も規制が厳しい「コア業種」分類への格上げを申請したことが、関係者への取材で分かったという。これによって、合併拒否を鮮明にした。

     

    『ブルームバーグ』(8月27日付)は、「7&i、外為法でより厳しい『コア業種』への格上げを申請―関係者」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「関係者によると、7&iHDはカナダのアリマンタシォン・クシュタールから買収提案を受けた後に申請をしたという。仮に認められれば、クシュタールにとって買収のハードルが上がる可能性もある。関係者の1人は、財務省などの当局側が認めるかどうかは分からないと述べた」

     

    セブン&アイ・ホールディングスが、これまで外為法上の企業に指定されてきたことは重要な意味を持っている。セブンイレブンが、安全保障上において重要企業となっているからだ。今回、現実に吸収合併が持ち上がってきた以上、M&Aを阻止する「コア業種」指定替えもあり得ることだ。

     

    (2)「7&iHDの広報担当者は、法的拘束力のない初期的な買収提案があったことは事実だが、詳細について決定したものはないとし、独立社外取締役のみで構成する特別委員会で検討を進めているとコメントした。財務省には電子メールでコメントを求めたものの、回答を得られていない」

     

    セブン&アイ・ホールディングスは、簡単に「合併案拒否」という返事で済むが、強制的な買収行為が始まると収拾がつかなくなる恐れも強い。となれば、抜本的な対策として外為法上の「コア業種」に指定替えして貰うことがベストの選択になる。

     

    (3)「軍事技術の流出など安全保障上の問題につながる恐れなどから、外資企業による日本企業の買収や出資は外為法で一定の規制がかけられている。7&iHDは買収に際して事前届け出が必要な企業に指定されているが、現在は規制度合いが低い「コア業種以外」に分類されている。コア業種では出資比率が10%以上の場合、必ず事前届け出が必要になる。また10%未満であればいくつかの条件を満たせば事前届け出が免除されるケースもあるが、コア業種以外の場合に比べて条件が厳しくなる。役員を送り込まないなどの条件に加えて、コア業種に属する事業に関して、取締役会や重要な意思決定の権限を持つ委員会に参加できなくなるといった制約も加わり、買収後の企業運営がより難しくなる恐れがある」

     

    外為法で「コア業種」に指定されると、出資比率が10%以上の場合、取締役を派遣できないという大きな制約がかかる。これは、相手に対する合併意欲を削ぐことになる点でM&A阻止の役割を果す。

     

    (4)「7&iHDなどコンビニ各社は、自治体との協定などを通じ、災害時に飲食料品の供給の役割を担っている。また、店内の複合機では住民票の写しや印鑑登録証明書なども取得でき行政サービスを補完するなどインフラとしての役割を果たしており、安全保障上重要な存在との見方もできる

     

    セブンイレブンは、単なる物販業であれば外為法上の問題はなく、通常のM&A取引ですむ。ただ、セブンイレブンが住民票や印鑑登録証明書などの発行手続きを行っていることからみて、行政機能の一部を代行している。となれば、行政インフラが買収対象になるということで、安全保障上の問題へ発展するであろう。

     

    次の記事もご参考に。

    2024-08-26

    メルマガ596号 「国民的資産」セブンイレブンへ買収提案、日本の「コンビニ文化」危機 突かれた株安

     

     

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