勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2024年08月

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    中国政府は、国債相場に対して他国にみられない行動をみせている。国債価格の急騰に危機感を募らせているからだ。国債は、国家が信用保証する「最強の債券」である。他国では、国債価格が上がれば利回りが低くなるので、長期金利低下によって投資を増やす効果を生むのだ。中国では、こういう理屈が通らない別個の事情を抱えている。国債価格が急落した場合、国債を多数保有する地方の金融機関が倒産する危機に陥るのだ。 

    『ウォールストリートジャーナル』(8月26日付)は、「中国国債の強気相場、政府が気に入らないのはなぜ」と題する記事を掲載した。 

    中国には強気な市場が一つある。だが政府はそれが気に入らないようだ。中国の株式市場や住宅市場が低迷する中で、ある資産が際立っている。それは国債だ。10年債の利回りは1年前の2.6%前後から2.15%近辺(22日時点)まで低下(価格は上昇)している。

     

    (1)「大抵の国――特に中国のように警戒すべき景気減速に見舞われた場合――では、この状況は歓迎されるだろう。だが中国当局は、国債の価格急騰を食い止めようと並々ならぬ努力をしてきた。それが奏功し始めている。国有銀行が大量の国債売りに転じたとの見方を背景に、中国国債利回りはここ1週間ほどで実際に上昇している(20日時点)。また強気相場を抑える一環として、中国人民銀行(中央銀行)は先月、「数千億元」の国債を借り入れる契約をブローカーと結んだと発表(1000億元は約2兆円)。規制当局も債券市場で活発な動きを見せる銀行に対する監視を強化している」 

    全ての価格が値下がりしている中国で、国債価格だけが高騰する。これは、政府として警戒するのだろう。国債価格の暴落が起これば、その波及先が大被害を受けるからだ。 

    (2)「各国中銀が債券市場に介入するのはよくあることだが、利回りを上昇させるための介入は珍しい。人民銀は先月、短期金利を引き下げたばかりだ。国債利回りを逆方向に動かそうとする強引な取り組みは、中国経済に関する新たな懸念材料だ。もし債券価格上昇が急に反転した場合、銀行が巨額の損失を被りかねないためだと公式には説明されており、例として米国のシリコンバレー銀行(SVB)を挙げている。SVBは昨年、大量の預金流出に見舞われて経営破綻した。米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを始める前に購入した米国債の含み損を心配した預金者の取り付け騒ぎが起きたためだ」 

    中国の国債価格が暴落する事態になれば、米国で昨年起こったシリコンバレー銀行(SVB)のように、預金取付けが起こりかねない。中国が、神経を使っている理由だ。

     

    (3)「確かに中国国債には、投機熱が高まる兆しがあった。出来高は急増し、一部の相場の動きは理性を欠いていた。例えば、5月に売り出された30年物国債は初日に価格が25%上昇した。国債市場で通常予想されるような変動幅ではない。だが一方で、投資家が低利回りだが基本的にリスクのない資産に殺到しているのには、非常に強い根本的な理由がある。第一に、中国経済は住宅市場の崩壊が足かせとなり、今も低迷している。米国や西欧を悩ませるインフレへの懸念ではなく、物価下落圧力が問題になっている。7月の中国消費者物価指数(CPI)の食品とエネルギーを除いたコア指数は、前年同月比0.4%上昇にとどまり、6月の0.6%上昇から減速した」 

    中国で国債人気が急増しているのは、他に安心して投資できる対象がないからだ。中国経済が総崩れしている結果である。 

    (4)「さらに、投資先の有望な選択肢がない。上海と深圳に上場する主要銘柄で構成されるCSI300指数は年初来2%安(22日時点)で、昨年まで3年連続で下落している。不動産市場はかつて中国の世帯に最も人気の投資先だったが、深刻な不況の中にある。7月の主要70都市の新築住宅価格は前年同月比で5.3%下落した」 

    かつては、不動産市場が最も人気の投資先だった。それが、現在の不動産不況で投資対象でなくなった。消去法で行けば、最後に残ったのが国債となる。

     

    (5)「中国政府が最も懸念するのは、債券利回り低下ではない。それが、中国経済について何を物語るかということかもしれない。銀行は資金を貸し出すよりも、かつてない低利回りの国債を喜んで保有するということだ。この国では、ニュースメディアやインターネットで流れる経済悲観論のような不快なニュースを削除するのは簡単だが、検閲できない債券利回りは問題の兆候とみなされる」 

    うがった見方をすれば、中国政府にとって国債利回りの急低下が中国経済の悲観論になることを恐れているのであろう。 

    (6)「政府が厳密に管理する金融システムでは、政府の誘導が少なくとも短期的には効果を生むかもしれない。だが債券利回りの持続的上昇に向け、中国政府は対症療法だけではなく、経済を曇らせている原因に対処する必要がある。すなわち住宅市場を立て直し、消費を喚起し、投資への信頼回復に努めることだ。それははるかに難路となるだろう」 

    下線部分は、真っ当な指摘である。結果(国債利回り急低下)を恐れる前に、原因(経済不振)を解決すべきとしている。

     

     

    テイカカズラ
       


    コンビニ50年目の異変

    事業再編決まった矢先に

    買収資金は5兆円以上も

    合併断っても問題はゼロ

     

    今年は、日本へコンビニという新しい流通形態が登場して50年になる。その節目の年に、コンビニ1号店を開いたセブンイレブン(現在はセブン&アイ・ホールディングス)へ、カナダのコンビニ大手アリマンタシォン・クシュタールM&A(合併・買収)を申し入れてきた。ただし、非公式・友好的という極めて緩い条件である。セブン&アイ・ホールディングスは、経産省のガイドラインもあり正式に検討している。 

    クシュタールは、2005年ごろセブン&アイへ最初に買収を持ちかけたが、即座に拒否されている。クシュタールにとって、セブンとの合併が宿願であったのだ。これが、今回の合併申し入れの背景にある。ただ、なぜ現時点で再び合併を申し入れてきたのか。理由は次の点であろう。

    1)セブン&アイ・ホールディングスが、ようやく事業再編に取組み始めたこと。

    2)同社株価が割安に放置されていることで、合併資金が少なくて済むこと。

     

    上記の2点は、セブン&アイだけに適用されることでなく、日本の上場企業で構造改善が遅れ株価が低位にある場合、M&Aの対象になる可能性を示している。今回のセブンの例は、日本企業への「警鐘」となった。 

    コンビニ50年目の異変

    セブン&アイ・ホールディングスの原点は、スーパーのイトーヨーカ堂である。戦後の流通革命の波に乗って急成長した企業である。同業のダイエーは、店舗開設の際に付近の土地を手広く買収して地価値上がり益で店舗建設費を賄った。イトーヨーカ堂は、逆に店舗の建物を借りる手堅い経営手法をとってきた。この差が、後に大きく表れた。ダイエーが失速しイトーヨーカ堂が発展した理由である。 

    このヨーカ堂は、日本で初めてのコンビニへ進出し、セブンイレブンを開業した。ここまでは大成功でその後、勢いに乗ってさらなる拡大路線へ転じた。百貨店のそごうや西武を買収して傘下に収めたのだ。こうして、社名は「セブン&アイ・ホールディングス」となり、セブンイレブンはその一部門を構成した。だが、百貨店やスーパーは通販という新たな流通革新の波に沈む結果となった。セブン&アイ・ホールディングスにとっては、新参の百貨店は売却可能でも、祖業であるスーパーのイトーヨーカ堂の分離は心理的に極めて困難を極めた。 

    セブン&アイ・ホールディングスの株主は、同社の株価低迷理由として、コンビニ事業が他の不振部門に埋没しているとみてきた。そこで、コンビニ事業以外の部門を独立させるように圧力をかけたのである。これが長いこと、「物言う株主」とセブン&アイ・ホールディングスの間で主たる対立点になってきた。

     

    セブン&アイ・ホールディングスと業態が全く異なる日立製作所の場合、「失われた30年」の間に本業と直接の関わりのない部門は、ことごとく売却する英断を行った。「日立御三家」とされ、高度経済成長時代に発展した日立金属・日立電線・日立化成は、全て日立の資本系列から離された。 

    セブン&アイ・ホールディングスが、日立製作所と同じことを行えば、株価も上昇しただろう。だが、セブン&アイ・ホールディングスの株式の8%は、ヨーカ堂創業家の伊藤家所有である。こうなると、伊藤家の承認がなければセブン&アイ・ホールディングスの改革行動は取れないのだ。特に、創業社長であった伊藤雅俊 氏存命中は、一代で築いた事業だけに荒療治は不可能である。これは、感情面から言えば難しい問題であろう。井阪隆一社長は、物言う株主と伊藤家に挟まれて大ナタを振るえなかったのだ。 

    事業再編決まった矢先に

    昨年のセブン&アイ・ホールディングスの株主総会では、物言う株主である投資ファンドの米バリューアクト・キャピタルから株主提案がされて緊張する場面となった。井阪社長ら4人の役員退任を求めるバリューアクト提案と会社提案が、株主採決を仰ぐ場面を迎えたのだ。結果は、会社提案通りとなったが、セブン&アイ・ホールディングスとして、もはや事業再編は不可避になっていた。 

    今年5月の株主総会は、昨年のような事態にならなかった。今年4月、ヨーカ堂などの新規株式公開(IPO)検討方針が公表されていたからだ。こうした事情から、バリューアクトは会社側の対応に賛同を表明して、これまでの対立構図が収まった。

     

    カナダのコンビニ大手であるクシュタールは、この一件落着後を見透かしたように、最も緩い形でM&Aを申し入れてきた。セブン&アイ・ホールディングスは、ガイダンスに従い迅速に社外取締役による検討会議を立ち上げた。 

    セブンイレブンが築き上げた「コンビニ事業コンテンツ」は、世界のコンビニ業界にない独特のスタイルである。鮮度の高いおにぎりや弁当、パンなどを作り、店に供給するセブンイレブン独特のサプライチェーン(供給網)をつくりあげ、実にきめ細かいプロセスで成り立っている。セブンイレブンは、看板やフランチャイズチェーン(FC)など米社が運営するセブンイレブンの基本モデルを導入した。だが、経営手法はセブンイレブン独特の工夫によって磨き上げたものである。(つづく)

     

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    米労働市場は、従来の想定以上に軟化している。米国のエコノミストらは、FRB(連邦準備制度理事会)が利下げペースを加速させ、その幅も大きくなるとみている。ブルームバーグが実施した最新の月間調査で明らかになった。8月の調査では、エコノミストらは失業率が年末までに4.4%でピークを付け、2025年半ばまで同水準で推移するとの見通しを示した。

     

    前記の調査では、政策金利が年末までに0.75%の引き下げを予想している。7月調査では0.50%の引き下げを見込んでいた。8月調査では、25年から26年にかけて金利低下ペースが速まると予想している。

     

    『日本経済新聞 電子版』(8月24日付)は、「米フィラデルフィア連銀総裁『年内の利下げ23回に』と題する記事を掲載した。

     

    米フィラデルフィア連銀のハーカー総裁は23日、米連邦準備理事会(FRB)が9月から年内に23回の利下げを実施するとの見通しを示した。1回としていた従来の予測よりペースが速まるとの見解だ。ジャクソンホール会議が開かれた米ワイオミング州の山荘で、日本経済新聞の取材に応じた。

     

    (1)「米連邦公開市場委員会(FOMC)は3カ月おきに参加者の経済と政策金利の見通しを集計し、匿名で公表する。FOMCに参加するハーカー氏は前回6月の見通しで年内1回の利下げを予測した。ハーカー氏は「6月は1回か2回かで迷ったが、いまは2回と3回の間だ」と説明した。パウエル議長は同日朝の講演で9月の利下げ開始をほぼ認めつつ、その後の利下げペースは明らかにしなかった。金融緩和に消極的な「タカ派」として知られるハーカー氏の予測変更は、ペースが6月の見通しより速くなるが、市場の期待ほどではないことを示唆する。金利先物市場は6月会合後、年内利下げを2回分と織り込み、23日時点では4回分とみている」

     

    ハーカー氏は、これまで利下げに慎重な「タカ派」とされてきた。そのハーカー氏が、年内に2~3回の利下げに賛成という立場に変わってきた。実勢悪の表面化が、見通しを変えさせた。

     

    (2)「ハーカー氏は、「計画的な利下げのプロセスを開始する時期であることは間違いない」と明言した。次回の9月会合までには8月分の雇用統計や消費者物価指数(CPI)が公表されるが「単月のデータに振り回されるのではなく、長期的なトレンドに目を向ける必要がある」と述べ、9月利下げは変更しない考えを強調した。0.%の大幅利下げについては「可能性は排除しない」としつつ、利下げは企業が予測しやすいように「計画的」であるべきだと消極的な見解を示した」

     

    タカ派のハーカー氏らしく、慌てて利下げするイメージを与えないようにしている。だが、労働需給が想像以上に緩和されている現実は、認めるほかなくなっている。

     

    (3)「利下げが、住宅価格を押し下げるという見方も示した。低金利の住宅ローンを持つ家主が高金利を忌避して売り控えをしたことが、物件不足による価格上昇を招いていた。「金利が下がれば、住宅のインフレ率も下がるというのは少し直感に反するが、私はそれが現実だと思う」と述べた。ハーカー氏は景気を冷ましも熱しもしない中立金利を3%程度だとみる。政策金利をいまの5.25〜5.%から2年以上かけて同水準に引き下げるとした6月の見通しは、経済状況の急変がなければおおむね維持できるとの見方も示した」

     

    ハーカー氏は、中立金利を3%程度だとみている。時間をかけてもこの水準まで利下げされる。これが現実になれば、日米金利差は日本が0.25%としても2.75%まで縮小する。日本が、0.5%の政策金利とすれば、日米金利差は2.5%まで縮小だ。大幅な円高相場が実現する。

     

    (4)「米景気が、急速に悪化するとの懸念には反論した。失業率は7月に4.%と上昇基調が続いているが、企業による解雇の件数などが増えていないことから「労働市場が弱いという概念に異議を唱えたい。労働市場は良好だ」と指摘した。今後の金融政策運営には政治的なリスクもくすぶる。共和党の大統領候補となったトランプ前大統領は、大統領がFRBの決定に発言権を持つべきだと主張する。ハーカー氏は、「米国の内外で中央銀行の独立性が侵害されたケースは必ず悪いことが起きている。独立を守ることは非常に重要だ」と強調した」

     

    「もしトラ」になれば、FRBの政策へ干渉するリスクが高まる。FRBは、断固反対するであろう。

     

     

     

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    16~24歳の若者失業率が、7月は17.1%へ高まった。6月が卒業時期であり、卒業=失業という気の毒な人たちが増えている。就職を諦めて親元に帰り「ニート生活」を余儀なくされている人たちも増えている。こういう人たちも、実質は失業者の範疇だが、統計の定義からはずれるのでカウントされていない。 

    『ロイター』(8月25日付)は、「中国、大卒者に空前の就職氷河期、妥協やニート生活も」と題する記事を掲載した。 

    中国では失業者の増大に伴って、数百万人の大学新卒者が空前の就職氷河期に直面している。ある人は低賃金の仕事を受け入れざるを得なくなり、両親の年金を当てにした「ニート生活」をする若者も出てきた。

     

    (1)「2021年以降、中国経済を悩ませているのは不動産セクターに積み上がった膨大な未完成の建設物件、いわゆる「爛尾楼」だ。今年になってソーシャルメディアでは、この言葉にならって思い通りの仕事に就けない若者を指す「爛尾娃」という呼称が流行語になっている。今年、仕事を探している過去最多の大卒者が参入した労働市場は、新型コロナウイルスのパンデミックに起因する混乱や、金融とハイテク、教育分野に対する政府当局の締め付けによってすっかり活気を失ってしまった」 

    今の就職難は、習氏が人為的につくり出した結果である。習氏の政敵を排除するため、IT企業を抑制したからだ。習氏は、製造業重視でIT関連に無関心である。台湾侵攻に製造業は役立つが、IT企業は寄与しないという認識であろう。 

    (2)「約1億人に上る1624歳の若者の失業率が初めて20%を超えたのは昨年4月のことで、同6月には過去最悪の21.3%に上昇。すると当局は突然、統計算出方法を見直すためとして公表を停止した。それから1年を経て、再集計されたこの失業率は7月に17.1%と今年最悪に跳ね上がり、夏場には新たに1179万人が大学を卒業した。習近平国家主席は、若者の仕事を見つけ出すことが最優先課題だと繰り返し強調。政府も就職フェア開催や採用拡大する企業への支援など若者の就職につながる措置を打ち出している。それでもミシガン大学のユン・チョウ助教は、「かつての大卒者に約束されていたより良い仕事、社会的地位上昇、生活水準の向上見通しはいずれも、今の多くの大卒者にとって、ますます手が届かなくなっている」と指摘した」 

    日本は、かつて不動産バブル崩壊後に「就職氷河期」が起こった。中国でも、同じことが起こっている。さらに悪いことに、中国では習氏の判断によって企業が色分けされている。これが、日本以上に就職難をもたらしている。

     

    (3)「仕事にあぶれた若者の中には、故郷に帰って働かずに両親の年金や貯蓄で暮らす完全な扶養家族に戻る人々もいる。修士号を持っていても逆風を免れるわけではない。非常に激しい競争を勝ち抜いて中国の高等教育課程を登り詰めた先に、爛尾娃たちが見ているのは、低迷する経済状況にあって自分たちの資格は仕事の確保につながらないという現実だ。彼らの選択肢は限られ、高給の仕事探しで希望条件を引き下げるか、食べていくために何でも良いから就職するかを迫られる。時には犯罪にまで手を染めてしまう」 

    学部卒業時に就職先がなくて、大学院修士へ進んだ。それでも就職先はない。むしろ、就職難の度合いが進んでいる。 

    (4)「昨年、高い教育水準を誇る中国外交学院で修士号を得たゼフィア・カオさん(27)は、地元の河北省に戻り、就職活動を取りやめた。期待ほどの賃金が手に入れられないと分かり、自らの学歴の価値に疑問を感じたからだ。カオさんは「34年前に大学を卒業した後働いていても、私の給与は恐らく現在の修士号でもらえるのと同じだろう」と語り、数年後に事態が改善することを願って博士号取得を検討している」 

    大学院修士を終えても就職先がない。やむを得ず、今度は博士課程へ進むという具合に就職時期を先延ばしだが、さらなる就職難が待っているだけだ。

     

    (5)「中国河北医科大学を最近卒業したアマダ・チェンさんは先週、たった1カ月間働いただけで、ある国有企業のセールスの仕事をやめた。試用期間開始からの15日で、1日12時間も勤務させられながら、1日当たりわずか60元(8.40ドル、約1200円)しか支払われず「1週間ずっと泣いて暮らした」という。チェンさんは自分の技能を生かすために品質検査か研究がしたかったが、130件も応募したのにオファーがあったのはほとんどがセールスか電子商取引関係の仕事だった。彼女はキャリアパスを全面的に見直し、モデル業への転身も考えている」 

    医科大学を卒業すれば、医師の道があるはずだ。ただ、中国の医師給与は教師と同様に最低レベルである。医師にならず、モデル業とは学業が生かされずもったいない話だ。

    (6)「中国政府系の学術論文によると、大学・専門学校の卒業者数は今年から2037年まで労働需要を上回り、その後は出生率低下の影響で供給超過幅が急速に縮小する見通し。大学新卒者数は34年に1800万人程度でピークを迎える公算が大きいという」 

    今年の大卒者は1179万人で、34年に1800万人程度まで増えるといる。実に5割増だ。それだけ、失業者が増えることは確実である。中国経済は、26年から3%台成長へ落込む。共産主義経済は、深刻な矛盾を抱えている。いずれ、この矛盾が「爆発」する危機が訪れるであろう。

     

     

     

     

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    中国経済が、かつてなかった危機局面へ突入している最大の要因は、不動産市場の崩壊である。不動産開発企業は資金繰りに苦しみ、新規住宅の品質劣化が起こるなど消費者の信頼感をますます失っている。こうした事態を生んでいるのは、「青田売り」という販売方法にある。マンションを竣工前に売出してきたことが、安易な経営姿勢を生んできた理由である。

     

    『東洋経済オンライン』(8月21日付)は、「中国の不動産市場『負の三重スパイラル』の呪縛」と題する記事を掲載した。この記事は、中国『財新』記事の転載である。

     

    野村グループの中国担当首席エコノミストを務める陸挺氏は7月、「中国で新型コロナウイルスの防疫対策が緩和されてから1年以上が過ぎたが、中国経済の回復は期待された水準に達していない。その最大の原因は、不動産市況の悪化に歯止めをかけられていないことだ」と広東省深圳で開催された経済フォーラムで見解を述べた。

     

    (1)「陸氏が指摘するように、中国の不動産市場の現状は惨憺たるものだ。国家統計局のデータによれば、2024年上半期(1~6月)の中国全土の新築住宅販売面積は前年同期比19%減少した。上半期の新築住宅販売総額は前年同期比25%落ち込み、販売面積の減少率を上回った。これは単位面積当たりの住宅価格の下落を反映している。市場の先行きを占う新規住宅着工面積は、上半期は前年同期比23.7%縮小した。これらのデータは、今回の不動産不況のパターンがかつての不況とはまったく異なることを物語っている」

     

    今年上半期の新築住宅販売面積は、前年同期比19%減少した。同期間の新規住宅着工面積は、前年同期比23.7%縮小している。新築住宅が、縮小均衡へ向っていることが分る。

     

    (2)「中国の不動産業界は目下、3つの『負のスパイラル』に同時に直面している」(陸氏)。陸氏の解説によれば、第1の負のスパイラルは住宅の価格と販売量の間で生じている。過去3年間、中国の多くの都市で住宅価格が下落したにもかかわらず、それが(かつての不況時とは異なり)消費者の住宅購入意欲の高まりにつながっていない。むしろ、値下がりがさらなる値下がりを呼ぶ悪循環に陥っている

     

    中国の不動産業界は、3つの「負のスパイラル」へ落込んでいると指摘する。第一は、価格の値下がりがさらなる値下がりを生んでいる。不安心理の増幅が理由だ。

     

    (3)「第2の負のスパイラルは、いわゆる「保交房」(訳注:不動産デベロッパーが消費者に予約販売した住宅物件の完成・引き渡しを確実に履行させること)の過程で生じている。資金繰りが悪化しているデベロッパーに「保交房」の徹底を求める(政府や消費者からの)圧力は、以前は地方都市に集中しており、大都市ではそれほど深刻な問題ではなかった。ところが、今では(保交房を最優先したための)新築住宅の品質低下の問題が大都市にも波及し、消費者の購買意欲に悪影響を与えている」

     

    第二は、資金繰りが厳しい中で竣工を急いでいるので住宅の質が劣化している。手抜き工事をしており、これが信頼を失っている。

     

    (4)「第3の負のスパイラルは、住宅販売の縮小がさらなる縮小に連鎖する悪循環だ。デベロッパーは売り上げの減少で新たな開発用地を仕入れる余裕がなくなり、地方政府は土地の払い下げに依存した財政収入が激減。巡り巡って不動産市場全体の収縮を引き起こしている。「今回の不況が始まる前は、不動産市場は中国のGDPの約4分の1を生み出し、ピーク時には(土地の払い下げ収入が)地方政府の財政収入の4割近くをもたらしていた。当時、中国国民の総資産に占める不動産の比率は7割に近づいていた」。陸氏はそう述べ、不動産市場の負の三重スパイラルが中国経済全体に与える打撃の深刻さを指摘する」

     

    第三は、住宅販売不振が住宅着工を減らすので新規の土地売却が減っており、地方政府の歳入減を招き地方行政が機能しなくなる危機だ。

     

    (5)「不動産市況の悪化に歯止めをかけ、中国経済を牽引する力を回復させるためにはどうすればいいのか。陸氏によれば、最優先の課題は新築住宅市場のテコ入れだ。中国の新築住宅は(販売段階では未完成の)予約販売がほとんどであり、「保交房」が徹底されなければ市場の信用が醸成されず、消費者の購買意欲は回復しないという。「現時点では『保交房』の徹底が何より肝心だ。中央政府が財政支援を通じて、それをサポートすることが望まれる」。陸氏はそう強調した」

     

    中央政府は、不動産業界の危機が経済の危機の根本原因であることを認識すべきだ。現実は、全く逆の方向へ向っている。「三種の神器」(EV・電池・ソーラーパネル)の育成強化を行っている。

     

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