勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2024年08月

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    日本経済の復活には、2%台の物価上昇が必要であるが、それを上回るリスクがあれば利上げは当然である。IMF(国際通貨基金)のチーフエコノミストのピエール・オリビエ・グランシャ氏は23日、こういう見解を明らかにした。日本の為替市場の一部では、これまでの異常円安が正常現象という認識を持っており、まだ「円安は続く」というニュアンスの発言を行っている。こうした向きには、IMFの日銀援護発言で耳が痛いであろう。

     

    『ロイター』(8月24日付)は、「IMF、日銀による利上げ継続の可能性を示唆」と題する記事を掲載した。

     

    国際通貨基金(IMF)チーフエコノミストのピエール・オリビエ・グランシャ氏は23日、日本の金融政策について、インフレ期待の高まりで超低金利政策には正常化の余地があり、日本銀行は徐々に金利を引き上げることが可能との認識を示した。

     

    (1)「各国中央銀行総裁による経済シンポジウムが開催されている、米国ジャクソンホールでグランシャ氏はロイターのインタビューに応じた。それによると、日銀の追加利上げのスピードについては、「データに大きく左右される」と述べた。また、日本のインフレ率は2%より高く、インフレ期待は日銀の2%目標あるいはそれを少し上回る水準へと向かい始めたと指摘した。「われわれの評価では、金融政策は今後さらに正常化し、政策金利は当面徐々に上昇する余地がある」と語った」

     

    毎年、夏に開かれる「ジャクソンホール会議」は、各国の中央銀行総裁がどのような発言をするか注目されている。IMFのグランシャ氏は、日銀の金融政策に信頼を寄せているようである。

     

    これまでのIMFは、日本経済に対して慎重な見方であった。今年4月時点で、日本へのミッションチーフを務めるナダ・シュエイリ氏は、日本のインフレ率は2026年に日銀目標である2%に達する見通しだとしていた。つまり、2%を確実に維持できる状態は2年先のこととみていた。利上げ時期は、「先」という印象であった。だが、この発言から4ヶ月後の現在は、日本経済が追加利上げできる体力を付けていると太鼓判を押す局面に変わってきた。

     

    (2)「グランシャ氏は、2024年の日本の経済成長は昨年の財政刺激策による拡大から鈍化するだろうが、日銀にとって重要なのは経済活動だけでなくインフレ率と認識を示した。その上で「日銀が行おうとしているのはインフレ期待の再調整だ。インフレ期待が2%に近い水準で安定を保てば、日銀は政策金利の正常化を始めるだろう」と語った」

     

    日本では、日銀の利上げに当ってGDP抑制のマイナス効果を取り上げる。IMFは、これと違った視点である。インフレ期待が2%に近い水準で安定を保てば、日銀は政策金利の正常化を始めるだろう、とみているのだ。日銀は、「中立金利」(好不況に関係ない金利水準)をめざした行動を取ると推測している。中立金利のレベルは議論のあるところだが、大方は1%水準が想定されている。日本は、この水準までの利上げが想定されるようだ。となると、日米金利差は必然的に縮小される。円安から円高への本格的な基調転換が明らかだ。

     

    シティグループ証券外国為替本部長の星野昭氏は、『日本経済新聞 電子版』(8月24日付)で、次のような見通しを語っている。

     

    (3)「短期のキャリー取引のポジションは相応に解消している。ただ、より影響が大きいのは対外証券投資や直接投資などに絡む国内勢の広義の円キャリー取引の動きだ。円高・ドル安に振れたら米国資産に投資しようと考えていた人たちが、今は円高に備えて為替ヘッジをかけようとしている。動きの早い生命保険会社などの長期投資家が米国の景気次第でヘッジをかけ始めると、円買いが本格化する可能性もある」

     

    日本の機関投資家の生保などは円高・ドル安を利用して米国への投資を開始する。当然、為替変動に備えて円買いのヘッジをかけるから、長期的な円高がはじまると予測している

     

    (4)「これから本格的な円買いが始まると思う。米景気は、減速が見込まれ政策金利を引き下げる。一方、日本の景気は底堅く、本来であれば利上げ余地は大きい。そのため大きな流れの中で円安という時代は終わり、対ドルでは円高方向に動きやすくなる」

     

    下線部の予測は、長いこと忘れ去られてきた点である。日本経済の正常化が始まった証拠であろう。

     

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    中国政府は、住宅の過剰在庫を減らすべく、農民の都市移住促進を推進する構えだ。都市住民は、仕事に追われて二人の子ども育てる経済的時間的なゆとりがないと嘆いている。それよりも、農村で時間に追われない生活の方が、子育てに有利という提案をしている。 

    『ロイター』(8月24日付)は、「人口減の中国、政府の『都市化推進』で出生率さらに低下も」と題する記事を掲載した。 

    上海にある中国ハイテク企業で働く母親、メアリー・メンさん(37)には、2人目の子どもを持つことなど想像もできない。仕事が忙し過ぎて、ストレスが大きいからだ。小学生の息子がいるが、「仕事のプレッシャーがきつくて、子どもと過ごす時間さえほとんどない。2人目の世話なんてどうすればできるのか。あり得ない」と言う。

     

    (1)「これは、都市部に暮らす中国市民にとって共通の心情だ。中国は人口減少と高齢化が急速に進んでおり、こうした都市生活の慌ただしさや高コストが出生率に与える影響について、政府はもっと緊急に対応すべきだと専門家は指摘している。中国では、国連が出産可能年齢と定義する1549歳の女性の数が今世紀末までに3分の2余りも減少し、1億人を下回ると予測されている」 

    中国の教育熱は異常である。幼少期から塾へ通わせる姿は、子どもを2人以上持ちたい意欲を減退させている。 

    (2)「中国共産党は7月の第20期中央委員会第3回全体会議(3中全会)で「出産に優しい社会」の構築に向けた計画を公表。育児や教育の費用負担を軽くするといった対策を打ち出した。しかし、政府が同時に住宅需要喚起など都市部への人口移動を奨励する方針を示したことに対して専門家の間には失望が広がっている。都市部では一般的に農村部よりも付加価値の高い商品やサービスが生産、消費される。都市部に人口を誘致する政策は、危機に見舞われた不動産セクターを支えるとともに、生産性の向上と消費の強化を通じて低迷する国内経済の成長を復活させるのが狙いだ」 

    中国は、都市部人口の増加によって過剰在庫の住宅を捌き、景気をよくできると信じている。これは逆に、出生率を低下させる意味で愚策である。

     

    (3)「この新たな都市化推進政策は、基本的な人口理論を見落としている。都市部では高額な住宅費用、限られたスペース、教育費の高さ、さらに1日の大半を仕事に費やすといった事情から、農村部よりも子どもの数が少なくなる。中国では夫婦の不妊の比率も1980年代の2%から18%に上昇し、世界平均の15%前後と比べても高い。専門家は都市部の仕事に関連するストレスや公害などが原因だと指摘する。中国の農村部は2020年の合計特殊出生率が1.54と、全国の平均1.3をやや上回った。23年の上海の出生率は0.6で、全国平均の1.1よりも低い」 

    23年の上海の合計特殊出生率は0.6という。東京都と変わらない水準である。大都市では、「子だくさん」の情景に出くわさない。やっぱり、自然の豊かな農村が子育ての適地であろう。 

    (4)「ウィスコンシン大学マディソン校のイ・フーシアン氏は、当局が「愚かにも」若者を最も出産に不向きな大都市へと誘導しており、合計特殊出生率は一段と低下し、高齢化危機は悪化すると予測。「(高い)人口密度が出生率を引き下げるというのは生物学的な法則だ」と述べた。こうした現象は東アジアで最も顕著だ。日本、韓国、台湾は第二次世界大戦後、他の多くの経済圏よりも速いペースで都市化と工業化を遂げる一方、韓国の出生率が世界最低水準となっている」 

    下線部は、確かに事実だ。あらゆる生物にとって「過密」は、生存条件を欠いているからだ。

     

    (5)「中国は数十年にわたる厳しい「1人っ子政策」の影響で出生率が非常に低いものの、まだ望みはある。専門家によると、中国は都市化率が65%で日本や韓国の8090%に比べて低く、改善の余地がある。都市化を推進するよりも農村部の生活水準を向上させることが経済成長により持続可能な影響をもたらし、出生率の改善につながる可能性があるという。具体的には、公共サービスの充実や土地の自由化が有効だと考えられている」 

    下線部の指摘は正しい。中国政府は、これと逆の都市人口の増加を推進している。 

    (6)「安定した人口の維持には合計特殊出生率を2.1に保つ必要がある。中国政府が打ち出した「出産に優しい社会」構想には、育児や教育費用の引き下げ、育児休暇の延長、産科・小児科医療の改善、育児手当や税控除の強化などが含まれている。多くの国が同じような政策を導入しているが、フランスやスウェーデンなど出生率引き上げに成功した国は男女平等、労働者の権利保護、社会福祉などがもっと充実している」 

    儒教社会は、男尊女卑の世界である。育児に最も向かない社会システムである。だが、フランスやスウエーデンも最近、合計特殊出生率が低下している。この理由について、女性が自らの価値観を重視している結果という解釈がされている。

     

    (7)「ミシガン大学の人口学者ユン・チョウ氏は「育児費用の負担軽減は、それだけでは効果がなく、むしろ女性に家事の責任を求めるような、ある種の家族観を助長するだけだ」と指摘する。メンさんは、国民が経済的により良い生活を期待できるようになるまで、どんな政策も無駄だと思っている。「今では誰もが全く将来の展望がないと感じている。どんなに一生懸命働いても、ただ生き延びることしかできない」 

    先進国の合計特殊出生率の低下は、女性が自らの人生観に目覚めてきた証拠という見方である。出産は、女性の固有権利であるという原点が見直されているのだろう。米国大統領選では、この問題が争点になっている。

    テイカカズラ
       


    8月24日は、日本が福島処理水放出してから1年経つ。当時、韓国最大野党「共に民主党」は、IAEA(国際原子力機関)トップの訪韓を要請して、「なぜ放出を認めたか」なじりつるし上げ状態へ追込むほど過激な振る舞いをした。現実は、処理水放出による放射能問題は起こらず、今や韓国左派の「デマ」が批判される事態になった。韓国大統領室が、「共に民主党」へ謝罪を求めたのだ。これに対して、最大野党や左派メディアが反発している。

     

    『朝鮮日報』(8月24日付)は、「『“福島デマ”放流から1年』韓国大統領府、虚偽扇動を行った野党に謝罪求める 汚染処理水放出から1年」と題する記事を掲載した。

     

    韓国大統領府と野党・共に民主党は23日、日本の福島原発汚染処理水放出と韓国国内での独島オブジェ撤去などをめぐり終日「フェイクニュース論争」を続けた。

     

    (1)「韓国大統領府の鄭恵全(チョン・ヘジョン)報道官は、同日朝のブリーフィングで「野党が福島のデマを『放流』してから1年が過ぎた」とした上で「科学的な根拠もない荒唐無稽なデマは虚偽扇動だったことが明らかになったが、野党は国民に謝罪もせず無責任な行動を続けている」と批判した。鄭報道官は「ここ1年間に韓国の領海や公海上などでサンプルを採取し、4万9600回以上検査を行った結果、基準を上回るケースは1件もなかった」「野党の荒唐無稽なデマや扇動さえなければ必要なかった1兆6000億ウォン(約1740億円)の予算がこれまで投入された」とも説明した」

     

    韓国最大野党「共に民主党」は、相変わらず科学データに基づかない情報を流して、日本政府が福島処理水情報を隠蔽しているがごとき言説を行っている。

     

    (2)「これに対して野党・共に民主党の趙承来(チョ・スンレ)首席報道官は、「日本政府は今年2月から放射能サンプルを提供せず、逆に放出地点における日本の環境省のサンプルで(放射能物質の)トリチウム濃度が10倍に跳ね上がった事実だけが明らかになった」と主張した。同党の金民錫(キム・ミンソク)最高委員も同日朝から開催された党執行部の会議で「昨年10月以降、日本政府は放射能サンプルを(韓国に)提供していない」と反論した。金民錫最高委員はさらに与党・国民の力の韓東勲(ハン・ドンフン)代表が前日「原発処理水」と発言したことを問題視し「日本政府報道官をやっている。与党の代表として恥ずかしくないのか」と批判した」

     

    日本政府は、韓国だけ特別に情報を提供することをしていない。世界共通の情報である。IAEAが承認している内容である。

     

    (3)「この問題で、放出を監視する韓国の原子力安全委員会は資料を配付し「日本の東京電力は放出時のモニタリング情報をリアルタイムでホームページに公開しており、韓国政府もこれを公開している」として共に民主党に再反論した。韓国政府関係者も「日本から放射能に関する資料を10分~1時間間隔で受け取っている」と明らかにした。共に民主党は「日本の環境省の資料によるとトリチウム濃度は放出前に比べて10倍に跳ね上がった」と主張しているが、これについても原子力安全委員会は「事実ではない」と明言した」

     

    韓国左派は、科学データに基づかない発言によって日本を批判している。中国共産党と全く同じスタンスである。

     

    (4)「共に民主党の金炳周(キム・ビョンジュ)最高委員は、同日の党執行部による会議で「ソウルの蚕室駅と安国駅、竜山戦争記念館から独島のオブジェが撤去された」「独島まで日本に上納するのか」と批判した。これに対して韓国大統領府は「独島オブジェはすでに老朽化し、通行人の動線を妨害するのでソウル交通公社が従来のオブジェを撤去した」とした上で「蚕室駅と安国駅の壁面には新たな独島オブジェを設置する予定だ」「戦争記念館のオブジェも補修して再設置する方向で検討を進めている」と説明した」

     

    韓国政府による独島(竹島)のオブジェ「撤去」は、修理のための措置という。こういうことまで全て「政権批判」に利用している。与野党の話合いなど不可能な状態だ。こうした対立から生まれる摩擦は、全て国民へ降りかかる。いつまで、こういう事態が続くのであろうか。

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    中国鉄鋼業界は、不安定な時代に突入しつつある。危機に陥っている国内不動産業界からの需要は期待できず、建設に軸足を置いた政府主導の成長モデルも、財政的にますます維持できなくなっているからだ。河北敬業集団の創業者で会長の李赶坡氏は、6月の民間企業会合で、5年間にわたり続く低迷によって中国製鉄所の3分の1近くが破綻すると警告している。 

    中国鉄鋼業は、過剰在庫処分で海外市場へ殺到している。これによって各国の鉄鋼価格を押し下げ、製鉄所を廃業に追い込んでいる。失業者が増加しているのだ。中国に端を発する鉄鋼不況が、世界鉄鋼市場を破綻させる危険性を高めている。 

    『ブルームバーグ』(8月19日付)は、「中国の鉄鋼過剰、世界揺るがす 業界全体が窮地に陥る恐れ」と題する記事を掲載した。 

    中国は年10億トン余り、つまり、世界の生産量の半分以上を生産している。今、その中国が揺らいでいる。中国が鉄鋼のスーパーパワーになる過程で世界の鉄鋼業界に衝撃を与えたように、そのピークからの退潮もまた、それに劣らない激動を招く可能性を秘めている。中国国内の建設不況が意味しているのは、鉄鋼が多過ぎ、需要が少な過ぎるということだ。各国は中国で余った鉄鋼が自国市場に流れ込み、価格を押し下げ、製鉄所を廃業に追い込み、労働者を失業させるのではと懸念。そうなれば、世界が今直面している経済的課題が一段と悪化することになる。

     

    (1)「中国共産党の習近平総書記(国家主席)は、不動産頼みの経済成長から脱却しようとしているが、これは鉄鋼業界にとって重大な意味を持つ。習氏は今後数十年かけハイテク製造業とグリーンテクノロジーを中国経済の原動力にしたいと考えている。そうした中で、不動産危機によって、鉄鋼需要が急拡大していた長い時代は終わりを告げた。だが、経済と雇用を支えようとする習指導部が、需要縮小をどのように管理できるかを巡っては大きな疑問が残る。ユィ氏は「価格急落に伴い利益率も小さくなっている。中国の鉄鋼需要は先細り」と述べた」 

    習氏は「三種の神器」(EV・電池・ソーラーパネル)の輸出に力を入れているが、鉄鋼の過剰生産問題では、これまで手を打たずにきた。 

    (2)「中国宝武鋼鉄集団の胡望明会長は最近、この課題の深刻さを明確に示した。胡氏は毎年1億3000万トンの鉄鋼を生産する高炉帝国を統括している。この生産量は米国とドイツ、フランスを合わせても及ばない。警告を発したのは胡氏が初めてではないにせよ、中国の鉄鋼セクターが「厳しい冬」に直面していると述べた同氏の言葉には、中国国内だけでなく世界全体が重みを感じた。山西建邦集団も最近、危機感を強調。ソーシャルメディアの微信(ウィーチャット)への投稿によると、鉄鋼業界が現在の苦境から抜け出すためには企業の3割余りが淘汰(とうた)される必要があるとの見方を張鋭ゼネラルマネージャーが15日に示した」 

    中国鉄鋼業界の3割は、淘汰される運命になってきた。

     

    (3)「コンサルティング会社、上海スチールホームEコマースを創業し、業界に40年携わってきたウー・ウェンチャン氏は「中国の鉄鋼需要はすでに天井を打ち、次は着実に減少していくはずだ」と分析。「製鉄会社間の合併や再編を政府が強力に後押ししない限り、鉄鋼が今後2、3年でこのサイクルから抜け出すのは非常に難しいだろう」と予想した。不動産不況に加え、インフラ財政支出にも陰りが見え始め、製鉄所は右肩下がりの価格下落に苦しんでいる」 

    中国鉄鋼業界は、3年間で再編整理しなければ苦境脱出が困難になるとの見方が出ている。 

    (4)「チリ政府は今年、中国からの輸入品に科す新たな関税を急ぎ導入し、製鉄会社CAPの高炉閉鎖をいったんは阻止した。閉鎖の決定を撤回した同社だったが、さらに大きな四半期損失を出すと閉鎖計画を復活させた。その結果、労組リーダーの一人としてメディナ氏(72)は従業員2500人の退職金交渉に追われることになった。また、2万人以上が何らかの関連事業に依存している地元経済にとっても大きな打撃だ」 

    チリは、鉄鋼所閉鎖によって2500人が退職せざるを得なくなっている。中国の安値輸出の影響だ。

     

    (5)「鉄鋼需要がすでに低迷している欧州では、ドイツのザルツギッターが1-6月(上期)の赤字を報告した際、過剰生産能力と中国の輸出をその理由に挙げた。独経済省はブルームバーグに対し、状況を注視しているとし、「厳しい国際競争」に触れた。欧州トップの鉄鋼メーカー、アルセロール・ミタルも同じような批判を展開している。ドイツ鉄鋼協会のマネジングディレクター、マーティン・テューリンガー氏は、「われわれの懸念が現実になりつつあることを中国からの警告が示している。過剰生産能力は、この業界の収益性と持続可能性を危うくしている」と述べた」 

    ドイツ鉄鋼業へも波及している。独経済省や欧州トップの鉄鋼メーカー、アルセロール・ミタルは、中国批判に転じている。 

    (6)「欧米と中国の間にある現在の貿易摩擦の多くは、21世紀のテクノロジーに集中している。だが、特に米国のラストベルト(さびた工業地帯)や英国の北部イングランドなど歴史ある企業やその周辺に築かれた地域社会に関して言えば、鉄鋼は感情に訴える力を保持している。加えて、国防部門が鉄鋼を必要としていることを踏まえると、鉄鋼は国家安全保障上の問題でもある」 

    鉄鋼業は歴史的産業であり、国家安全保障上の要である。中国の安値輸出が、この「聖域」を冒せば反発を受けるのは当然である。

     

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    半導体のキオクシア(旧東芝メモリ)が、東証へ10月の上場を目指し申請したことが分った。時価総額1兆5000億円を目指す大型株式公開になる。2024年4〜6月期連結決算(国際会計基準)は、最終損益が698億円の黒字(前年同期は1031億円の赤字)だった。4〜6月期として2年ぶりに最高益を更新した人工知能(AI)需要でデータセンター向けメモリーの需要が伸びた。

     

    『日本経済新聞 電子版』(8月23日付)は、「キオクシアHD、10月上場へ 時価総額15兆円目指す」と題する記事を掲載した。

     

    半導体メモリー大手のキオクシアホールディングス(HD、旧東芝メモリ)が23日、東京証券取引所に上場を申請したことが分かった。10月の上場を想定している。時価総額は1兆5000億円超を目指し、2024年最大の新規株式公開(IPO)になる見通しだ。人工知能(AI)の普及に伴って需要が拡大するメモリーの投資競争に備える。

     

    (1)「キオクシアは、データ記憶用のNAND型フラッシュメモリーで世界3位。18年6月に東芝から独立し、19年10月に現社名に変更した。米投資ファンドのベインキャピタルと韓国のメモリー大手SKハイニックスによる特別目的会社が計56%出資し、東芝も41%出資している。東芝とベインはキオクシアの上場後、保有株を段階的に売却する」

     

    NAND型フラッシュメモリーは、東芝が1980年代に発明したものである。いわば、東芝のお家芸分野である。それだけに、東芝自体の経営が安泰であったならば今頃、世界で覇権を争う半導体企業になっていただろう。惜しいことをした。

     

    (2)「上場時の時価総額が、1兆5000億円を超えると、23年最大のIPOだった半導体製造装置のKOKUSAI ELECTRICの4200億円を上回る。24年10月を目指して上場準備を進めている東京地下鉄(東京メトロ)の想定額(6400億〜7000億円規模)も超え、18年のソフトバンク(7兆1800億円)以来の大型案件となる可能性がある」

     

    時価総額が1兆5000億円を超えると、24年最大規模のIPOとなろう。市場の話題になることは確実だ。

     

    (3)「キオクシアは、20年に東証に上場を承認されたが、米中貿易摩擦の激化を受け、市況の先行きが不透明だとして上場を直前で延期した。その後、米ウエスタンデジタル(WD)のメモリー事業との統合交渉を進めた。NAND3位のキオクシアと4位のWDが合併して首位の韓国サムスン電子に対抗する狙いがあった。ただ、中国の独禁法当局の審査を通過するメドが立たないまま、23年10月に交渉は打ち切られた」

     

    キオクシアとWDの統合案は、持ち株会社を作ってWDのメモリー事業とキオクシアが入る形を想定していた。企業価値ベースでの統合比率は、キオクシア側が63%、WD側が37%で、資本調整後に持ち株会社にWD側株主が50.%、キオクシア側が49.%出資する形となるはずだった。この統合案が実現していれば、NAND型フラッシュメモリーの世界シェアで、キオクシアとWDの統合会社がサムスンに並ぶ世界トップの位置が望めた。それだけに、SKの危機感が大きく将来の提携を模索していたキオクシアが他社と統合へ拒否感があったとされる。

     

    (4)「キオクシアが再び上場を目指すのは、事業環境の改善がある。メモリーの主力市場であるスマートフォンやパソコンの需要が底打ちし、24年4〜6月期の連結純利益は698億円と同期間として最高だった。AIデータセンター向けの需要も拡大するなか、借り入れに頼っていた資金調達の手段を増やして投資競争に備える」

     

    キオクシアは、AIデータセンター向けの需要が好調である。2024年46月期連結決算(国際会計基準)は、最終損益が698億円の黒字(前年同期は1031億円の赤字)だった。売上高にあたる売上収益は、前年同期比71%増の4285億円と、46月期として最高だった。円安に加え、低迷していたスマートフォンやパソコンの需要が底打ちした。台湾調査会社のトレンドフォースによると、長期記憶に使うNANDフラッシュメモリーの46月期の価格は、1〜3月期に比べて15〜20%上昇した。

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