習近平氏は、「新しい質の生産」と称して、EV(電気自動車)・電池・ソーラーパネルの三種品目について、中国産業の先兵という位置づけをしている。それだけに、地方政府が補助金をたっぷりと付けて支援している。すでに過剰生産へ落込んでいるが、従来と異なりすぐ生産抑制が効かない事態となっている。国有企業と異なり民間企業が主体であるからだと言うのだが。
『ブルームバーグ』(8月22日付)は、「中国の過剰生産能力、習氏の統制も力及ばずと題する記事を掲載した。
中国は、世界が必要とする以上のものを生産していると多くの人々が懸念している。電気自動車(EV)やソーラーパネルなどの価格下落が新たな貿易戦争の火種となっている。中国指導部でさえも危惧している。中国共産党最高幹部が先月末に開いた会議では、企業間の「悪質な競争」を抑制する方針が示された。
(1)「ここ数カ月、産業界の過剰生産能力を巡る状況が一段とひどくなっている。中国の工場が生産できるリチウム電池やソーラーモジュール、鉄鋼の全てを吸収できるだけの世界需要はない。しかも、これは企業利益を犠牲にしている。ゴールドマン・サックス・グループによると、ソーラーやEV、鉄鋼、建設機械の産業供給で半分余りが利益を上げておらず、状況は前年から急激に悪化。消費財を生産している企業にも恩恵はない」
ソーラーパネル、EV、鉄鋼、建設機械の半分が利益を上げていない。生産者物価指数(PPI)が、2022年終盤から前年割れのマイナス状況が続いている理由だ。
(2)「以前にも似たようなことがあった。中国は2012年から16年にかけ、同じ問題によって引き起こされた長期の生産者デフレを経験した。国際通貨基金(IMF)によれば、経済の減速に伴い、鉄鋼業と石炭産業の稼働率は10年の79%と90%から、15年には70%と65%に低下した。当時も過剰生産能力は国際問題となった。16年の中国に対する反ダンピング・反補助金調査の約半分は鉄鋼関連だった」
過去は、鉄鋼業と石炭産業の過剰生産問題であった。
(3)「共産党の習近平党書記(国家主席)がこの時打ち出した対策は、生産抑制を目的とした供給サイドの改革で、政府は15年から工場を閉鎖し、鉄鋼・石炭労働者への退職手当として1000億元(約2兆円)を投入した。これは成功だった。17年までにデフレは去り、中国アルミニュームなど一部の大手国有企業は黒字に転換した。そのため、一部の業界関係者が政府に再び供給サイドの改革に取り組むよう促しているのも当然のことだろう。しかし、今回はそれがうまくいかないと考えられる理由がある」
過去の過剰生産は、政府の指令によって止まりやすかった。今回は、過去のようにスムーズに行かないのだ。
(4)「過剰生産能力が最も深刻なセクターでは、政府の影響力が弱い。10年前、鉄鋼と石炭、そしてそれほどではないがアルミが頭痛の種だったとすれば、今回の国際的な焦点はリチウム電池とソーラー、EVだ。残念ながら、生産者の約半数が国有企業である鉄鋼とは異なり、これらのニューエコノミー分野は民間企業が大半を占めている。習総書記が昔のような計画経済に戻る覚悟がない限り、政府が企業経営者に指図することはできない」
過去の過剰生産は、国有企業間で行われたから、過剰生産ストップは比較的容易にできた。今回は、民間企業の過剰生産競争で政府の介入が効かない。
(5)「その上、過剰生産能力を利点と考える業界のリーダーもいるようだ。生産能力の弱い企業は早めに撤退せざるを得なくなり、生き残った企業には明るい未来とより大きな利益が残るためだ。例えば、リチウム電池だ。寧徳時代新能源科技(CATL)は最大手で、同業他社とは対照的に、バッテリー価格の下落にもかかわらず、利益率は上昇傾向にある。規模と優れたコスト管理が役立っている」
残存者利益を目指して、最後まで競争を続けて利益総取りを狙っている。
(6)「EV生産では、比亜迪(BYD」中国最大手だ。値下げが販売に弾みをつけたという見方もできる。4-6月(第2四半期)の販売台数は42万6000台で、米テスラに迫る勢いだ。競合勢が供給過剰に苦言を呈した6月前半、王伝福会長は企業が受け入れなければならない「自然のルールが競争だ」と述べた」
EVでは、BYDがライバルの息の根を止めるまで競争を止めないだろう。
(7)「今回、需要喚起はかなり難しい。需要の多くは海外にある。ゴールドマンによると、昨年の中国生産に占めた輸出の割合は、バッテリーが37%、ソーラーが42%、EVが19%だった。中国政府は自国のメーカーを支援するため、国内でのEV普及を加速させるよう補助金を増やすしかないだろう。しかし、残念ながら、中国と欧米との地政学的緊張の悪化によって、国内市場で稼いだ利益も簡単に損なわれる恐れもある」
企業は、輸出を目指してダンピング競争するから、過剰生産競争を止められないという。
(8)「政策当局は産業界の供給過剰と、それが企業利益や経済全体に及ぼす影響を明らかに懸念している。にもかかわらず、具体的な対策を打ち出していないのはこうした背景があるようだ。そのため、中国の過剰生産能力問題は、産業界のリーダーたちでさえ「もうやめよう」と言い出すまで悪化し続けるしかない。それは数年先のことかもしれない」
中国は、資本主義と共産主義の混合体という指摘がある。中央政府が経済計画を立て(共産主義)、地方政府が企業へ補助金を出して市場競争(資本主義)という見立てである。この結果、際限なく過剰生産が続くとしている。



