勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2024年11月

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    韓国での日本旅行ブームは健在だ。円安と短時間で海外旅行が楽しめると「コスパ」が大きく影響している。国内旅行費用に若干の上乗せ程度で、日本旅行ができるとなれば、「反日」を乗り越えさせるのであろう。

     

    『中央日報』(11月30日付)は、「韓国、日本旅行190%増 欧州は70%減 変化する海外旅行」と題する記事を掲載した。

     

    物価高とウォン安ドル高が長期化し、新型コロナパンデミック(感染病大流行)以降に爆発的に増えた海外旅行需要に変化が表れている。北米・欧州など10時間以上飛行する長距離旅行ではなく、費用の負担が少ない日本などアジア旅行の人気が高まっている。旅行業界は冬季の特価商品と来年の連休商品で旅行客の需要をつかむという戦略だ。

    (1)「韓国観光公社によると、2020年4月の新型コロナパンデミック当時に3万1425人にまで減少した海外旅行客は、今年1月には277万866人となり、パンデミック以前の2019年1月(291万2331人)の95%まで回復した。海外消費はさらに急速に回復し、コロナ以前の記録を更新した。韓国銀行(韓銀)によると、上半期の国内居住者の国外消費支出額は19兆4127億ウォン(約2兆800億円)と、2019年同期(18兆3787億ウォン)比5.6%増え、上半期基準で過去最高となった。7-9月期の海外カード使用額も57億1000万ドル(約8550億円)と過去最高だった。パンデミック期間に抑えられていた海外旅行需要が爆発した、いわゆる「報復消費」だ」

     

    韓国では、パンデミック期間に抑えられていた海外旅行需要が爆発している。その受け皿が、日本になっている。日本の海外旅行は、9月でパンデミック前の2019年比で30.8%減である。日本人は、「出不精」に陥っている。

     

    (2)「海外旅行の規模はパンデミック以前並みに戻ったが、旅行のトレンドは変わった。長距離旅行よりは費用を抑えられる短距離旅行が増えた。市場調査会社コンシューマーインサイトが先月、全国成人2000人を対象に調査した結果によると、調査対象者が過去6カ月間に最も多く訪問した地域は日本(32.3%)、ベトナム(16.6%)、欧州(8.1%)、オーストラリア・グアム・サイパン(4.2%)などの順だった」

     

    韓国調査によれば、過去6カ月間に最も多く訪問した地域は日本(32.3%)である。3人に1人は日本旅行を楽しんでいる。これは、リピーター効果によるものだ。

     

    (3)「パンデミック以前の2019年の同じ期間の調査と比較した場合、日本とベトナム旅行客はそれぞれ189%増、116%増、欧州と米国・ハワイ旅行客はそれぞれ70%減、52%減となった。コンシューマーインサイトの関係者は「パンデミック以前と比較すると、費用を抑えた緊縮旅行傾向が目立つ」とし「当分は近距離・コスパ旅行の人気が続くだろう」と分析した。短距離旅行に対する関心が高まったのは、不景気で物価高が続き、消費者が費用の負担を強く感じているためと解釈される」

     

    市場調査会社によると、2019年の同じ期間の調査と比較した場合、日本とベトナム旅行客はそれぞれ189%増、116%増と日本が圧倒的に増えている。2019年と言えば、日韓関係が最悪であったので、当時と比べて現在の増加率が大きく出て当然であろう。欧州は70%減である。旅行費用のかかることが、欧州行きを敬遠させている面もあろう。

     

    (4)「ウォン安ドル高で、費用の負担がさらに増えた影響もある。ハナ銀行によると、昨年末に1ドル=1300ウォン台序盤だった為替レートは今年3月には1ドル=1350ウォンを超え(ウォン安ドル高)、今月12日には1ドル=1403.5と、2022年以来2年ぶりに1ドル=1400ウォン台となった。ソウル江西区(カンソグ)の会社員キムさん(27)は「8月の夏休みに欧州に行きたかったが、費用が負担になり、札幌を4泊5日の日程で行ってきた」とし「円安のおかげでコスパのよい旅行ができて満足だった」と語った

     

    韓国人は、円安が旅行コスパを高めていることを認めている。手軽に海外旅行を楽しめるからだ。


    (5)「旅行業界は、冬季の旅行客を確保するため特価商品を相次いで出している。ハナツアーは来月8日まで「2024ブラックフライデー」イベントをし、最大50%割引のパッケージ旅行商品を販売する。モドゥツアーは来月15日までの「メガセール」で地域別割引クーポンとメガセール専用商品の割引を提供する。キョウォンツアーは「2024スーパーイージーアワード」企画展を開き、人気旅行地と人気ガイド商品を割引販売する」

     

    韓国旅行業界は、「特価商品」を発売して集客力を高めようとしている。韓国も不況であるだけに、「低コスト・高パフォーマンス」を売りにして、日本旅行客を集めている状況だ。

     

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    11月29日の東京市場では、円相場が対ドルで上昇。一時は、149円台後半と1カ月超ぶりの円高水準に振れた。東京都区部の消費者物価指数(CPI)が、生鮮食品を除くコアベースで市場予想を上回り、日銀の利上げを後押しするとの見方が強まり円買いへと繋がった。 

    これまで、新NISAによる海外投資急増が「円売り要因」となっていた。その流れに最近、変化が起こったのかという点も関心を集めている。海外投資への流れが弱まり、円売り圧力が衰えてきたとすれば、円安相場は大きな転機になるからだ。 

    『ロイター』(11月28日付)は、「『家計の円売り』に変調か、英国事例から考えるNISAの今後ー唐鎌大輔氏」と題する記事を掲載した。唐鎌大輔氏は、みずほ銀行チーフマーケット・エコノミストである。 

    年初から円安の一因として注目されてきた「家計の円売り」に変調が見られ始めている。円相場の中長期見通しにかかわる論点ゆえ、現状を整理しておきたい。

     

    (1)「『家計の円売り』の代理変数として注目されてきた投資信託等委託会社(以下投信)経由の対外証券投資は11月発表分ではプラス3930億円と昨年9月以来、約13カ月ぶりの小さな買い越し額にとどまっている。商品別に見ると株式・投資ファンド持分がプラス2717億円、中長期債がプラス863億円、短期債がプラス350億円といずれも買い越しを確保しつつ、新NISA(少額投資非課税制度)稼働後としては極めて小規模な水準にとどまった」 

    「家計の円売り」代理変数として注目されるのは、投信経由の対外証券投資である。これが、11月実績では、昨年9月以来の最低の「買い越し額」になった。注目すべき現象だ。 

    (2)「この理由は定かではないが、10月はトランプ氏勝利の期待が先行する中、米9月雇用統計などの劇的に弱い結果にもかからず、米金利上昇・ドル高・株高というトリプル高の傾向が強まっていた。かかる状況下、(家計と関連する)投信を含めて米国債を手放す(損切りする)動きが先行したという観測は根強い。 

    日本の家計が、トランプ復帰を見込んだ「トリプル高」を利用して、米国債などを手放したとすれば、その見通しの「凄さ」は絶賛される。極めて合理的な判断を下したことになるからだ。

     

    (3)「為替市場で実際に起きたことは、最近の150円台定着に象徴されるドル/円相場の急伸であった。そのような中で投信の動向が注目されてきた背景には、新NISA稼働に伴う「家計の円売り」の多くには為替ヘッジが付いておらず、アウトライト(注:売り戻し条件や買い戻し条件を付けない取引)の巨大な円売り主体である。実際、そのフローが2024年上半期の円安局面に寄与してきた疑いは大きい。9月、10月と失速したとはいえ年初10カ月間における投信の買い越し額はプラス10兆1045億円に達している。だからこそ、「家計の円売り」がこのまま萎んでいってしまうのかは注目に値する論点と言える」 

    「家計の円売り」は、為替ヘッジを付けないアウトライト取引である。それだけに、円相場を直撃してきた。8月の円急騰で、その流れが大きく変わったというのだ。手痛い傷によって、「家計の円売り」が下火になっている。これが、最近の円高転換の要因の一つとみられている。 

    (4)「11月以降、(日米)金利差に応じた投機的な円売りがかさんだが、8月の経験(注:円相場急騰)などを脳裏に焼き付けつつ「高いうちに売る」といった短期的には賢明に見える決断が優先される可能性はある。そうなると、このまま投信経由の売買動向が売り越しに転じるリスクなども視野に入れたいところだ。それ自体、円安抑制に寄与する潮目の変化であり、実質所得環境の悪化に応じて成長が抑制されている近年の日本にとってはプラスの話と言える。一方で、資産運用立国という観点からはつまずきと評価する向きも出てくるだろう」

     

    資産運用立国の目的は、家計による海外金融資産へ投資奨励することではない。家計が、内外の投資配分によって総合的に資産を増やせればいいわけだ。その投資行為が、円安防止に役立てば結果的に家計も潤うので「二重のメリット」を期待できる。日本の家計が、このことに気付いたとすれば、大変なプラス要因になる。円高が、日本経済を支えると考える私には、極めて「喜ばしい」現象である。 

    (5)「新NISAの原形「ISA」を抱える英国では英国株が敬遠され、米国株など国外資産への資本逃避が起きているという。(これまでの)日本と類似した状況と言える。「貯蓄から投資」は自国経済の成長とセットで完結させなければ、資本逃避を招くのである。これに対し、日本が仮に新NISAにおける国内優先枠を検討するとしたら、その問題意識は「国内株価の低迷」ではなく「円安の制御」になる。これは大きな違いだ」 

    新NISAが、「国内株優先」という枠を設けたとしても非難されることではない。「円安抑制」になるからだ。そういう政策的配慮が今後、されたとしても不思議はない。 

    (6)「日本で懸念されているのは日本株に資金が向かわないことではなく、自国通貨安が慢性化しているというより大きなテーマである。言い換えれば、「円安の制御」か「国際分散投資の促進」か、いずれの問題意識に重きを置くのかという基本方針の在り方が問われているのだ。(新NISAが)「円安の制御」が優先課題であるならば、国際分散投資に水を差してでもやるべきことはある」 

    新NISAの間接目的の一つに、「円安制御」配慮を加えるべきだ。円高メリットは、輸入物価の上昇を抑制し消費者物価上昇に歯止めをかける。これによって、実質賃金の上昇をもたらし個人消費が増え、国民全体が幸せになれるのだ。国民が、こういうメカニズムへの認識を共有できれば、「ウイン・ウインの関係」が成立する。その日が、早く来ることを願っている。

     

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    世界では、トランプ次期米大統領の財政出動に期待する「トランプトレード」が拡散したが、韓国は「トランプストーム(嵐)」という暴風雨に見舞われた。例の関税引き上げ論による悪影響である。最大の不安は、トランプストームが半導体や自動車、バッテリーといった韓国産業をけん引する虎の子を直撃することだ。これだけでない。多額の補助金受領問題が危うくなってきた。

     

    バイデン米政権によるCHIPS・科学法のもとで、韓国企業の半導体は、米政府の補助金を当てにしながら対米投資を拡大してきた。だが、トランプ氏は高率な輸入関税を軸に国産回帰を進め、補助金の拠出は絞る方針である。この「逆転の発想」で、サムスンやSKハイニクスは青ざめている。

     

    『ハンギョレ新聞』(11月29日付)は、「半導体補助金『ばかげた話』扱いの米国、国際的信頼は気にも留めないのか」と題する社説を掲載した。

     

    来年1月に任期が始まる第2次トランプ政権で中心的な役割を果たすことになる長官候補者が、サムスン電子などが米国に半導体生産工場を作る対価として支給することにした補助金を「浪費」と呼び、再考する意向を表明した。

     

    (1)「(バイデン政権は)半導体などの先端技術産業で、中国の挑戦を振り切るために、「価値を共有する」同盟国が団結しなければならないと言っていた。それにもかかわらず、政権が変わると「ばかげた話」だと言う。ドナルド・トランプ前大統領がこのように約束を反故にするならば、米国の国際的信頼は大きく失墜し、企業は苦労して準備した投資計画を変更せざるをえなくなる最悪の状況に追い込まれる可能性がある。韓国政府は米国の次期政権を強く説得し、互いに不必要な被害が発生しないよう最善を尽くさなければならない」

     

    韓国のサムスンやSKは、バイデン政権による補助金支給を頼りに、米国での工場建設に踏み切ったが、トランプ政権への「代替わり」で、補助金受給が怪しくなってきた。

     

    (2)「第2次トランプ政権で、イーロン・マスク氏とともに「政府効率化省」(DOGE)のトップを共同で務めることになったビベック・ラマスワミ氏は26日(現地時間)、自身のX(旧ツイッター)に「米インフレ抑制法(IRA)やCHIPS法(半導体および科学法)による浪費の補助金が、(トランプ大統領が政権に就く2025年)1月20日より前に急いで支給されている」としたうえで、「このようなすべての土壇場での手法を再検討し、監察官に最後の瞬間に行われた契約を綿密に調査するよう勧告する」と明らかにした。ジョー・バイデン大統領が、米国の立ち遅れている半導体生産能力を引き上げるために超党派的な法律まで作って出した約束を、次期政権の長官候補者が調査を必要とする「不適切なもの」だと断定し、反故にする可能性があるという意向を公然と明らかにしたわけだ」

     

    次期閣僚候補のビベック・ラマスワミ氏は、補助金の支給に目を光らせている。これは、韓国企業にとって青天の霹靂であろう。

     

    (3)「米国を信じて困難な投資決定を下した同盟国と主要企業を裏切るようなものだ。トランプ氏はこれに先立ち、CHIPS法について「貧しい国々に金をばら撒くきわめて悪いディール(取引)」だとし、「高関税を課せば、彼らが来てただで半導体工場を作るだろう」という見解を示した。その後、市場が大きく動揺すると、ジーナ・レモンド商務長官が乗り出し「離任する日まですべての補助金を支給することが目標」だと強いけん制球を投げた」

     

    レモンド商務長官は、バイデン政権の責任において任期中に補助金を支給するとしている。

     

    (4)「米商務省は4月、サムスン電子と補助金64億ドル(約9700億円)、8月にはSKハイニックスと補助金4億5000万ドル(約690億円)、政府融資5億ドル(約760億円)を支給する予備取引覚書をそれぞれ交わした。予備取引覚書は現時点では法的効力がない。これに対して、米国のインテルと台湾のTSMCは今月、法的効力のある最終契約を結んだ。このまま放置しておくと、韓国企業が真っ先に標的になりかねない」

     

    米国のインテルと台湾のTSMCは今月、法的効力のある最終契約を結んだ。サムスンとSKは、未だ予備取引覚書である。大急ぎで、最終契約を結ばなければならない。そうしないと、契約が水の泡になる。

    実業家のイーロン・マスク氏は、前記のビベック・ラマスワミ氏と共に、トランプ次期大統領の歳出削減の取り組みを主導するよう任命された。この取り組みは新設される「政府効率化省(DOGE)」を通じて行われる。マスク氏は、政府の支出を少なくとも2兆ドル削減できるとの考えを示しているものの、それが年間なのか、あるいは一定期間における数字なのかは明言していない。

    直近の2024会計年度(9月30日まで)の連邦政府歳出は6兆7500億ドル(約1028兆円)だ。このうち、2兆ドル削減は不可能とされている。となる、少額補助金削減に焦点をあわせ「戦果」にすることも考えられる。

     

     

     

     

     

     

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    生誕140年を迎えた政治家・ジャーナリストの石橋湛山が今、国会議員の間で注目されている。石橋は戦前、太平洋戦争へ反対し非戦や平和への道を訴えた。戦後は、GHQ(連合国軍総司令部)の不当な要求を拒み、マッカサーの手で政界を追放された。首相に就任するも、病気でわずか65日にして退任するほかなかった。来年は、「戦後80年」を迎える。超党派の国会議員が、石橋湛山を学び直そうとしている。将来の指針づくりの参考にしようとしている。 

    小数与党で出発した石破首相は、いつ不信任の嵐に見舞われるか分らない不安定さを抱えている。だが、石破内閣には閣僚として5人もの「石橋湛山研究会」会員が入っている。要するに、「石橋湛山内閣2.0」という趣もあるのだ。超党派の石橋湛山研究会員80名が、石破内閣を影で支える構図も透けてみえる。 

    『毎日新聞 電子版』(11月29日付)は、「与野党連携の軸? 『石橋湛山研究会』に石破首相らキーマン集結」と題する記事を掲載した。 

    戦前を代表するリベラル派言論人で、戦後に首相に就いた石橋湛山(たんざん)(1884~1973年)を学び直す超党派の議員連盟「石橋湛山研究会」に注目が集まっている。石破茂首相に加え、第2次石破内閣の閣僚5人が入会し、国民民主党の古川元久税調会長が共同代表を務めるなど、与野党のキーマンが多数関係しているからだ。「少数与党」となり、野党の協力を得て政権維持を図る石破政権が、湛山研究会を軸に新たな連携を模索するのではないかとの臆測も出ている。

     

    (1)「11月26日、衆院選後初めて国会内で開かれた9回目の会合。古川氏は冒頭で「日本も世界の雰囲気も、湛山が活躍していた昭和20年代の状況に極めて似てきている。だからこそ、今もう一度、湛山の思想を学び直し、現在に生かすにはどうしたらいいか考えていかなければいけない」とあいさつした。この日は、「湛山から何を学ぶか」をテーマにジャーナリストの倉重篤郎氏(元毎日新聞政治部長)が講演し、国会議員ら約40人が聴き入った。参加議員からは「湛山の意向をくんで、他の自民党議員が何を言おうと石破スタイルでやってほしい」「党内野党として主張してきた石破さんらしさを発揮してもらいたい」と、石破首相に対するエールも飛んだ」 

    石橋湛山の魅力は、理想を掲げ現実を語れる「二刀流」にある。これは、ジャーナリスト出身政治家という特色を100%現している。石橋は、東洋経済の経営者でもあった。経営の才覚も抜群である。現在、投資のバイブルとされる『会社四季報』は、石橋が経営者時代に生まれた。今年で創刊88年になる。『週刊東洋経済』は創刊129年で、日本最古の経済雑誌である。 

    (2)「東洋経済新報の記者だった湛山は戦前、中国大陸への進出などの領土拡大や軍備増強を目指す「大日本主義」を経済的な合理性がないと批判。平和外交や自由貿易を中心とする「小日本主義」を唱えた。戦後は政治家に転じ、56年に首相就任。1000億円以上の減税を柱とする積極経済策などを発表して大衆的人気を集めたが、翌57年に病に倒れ、在任65日で退陣した」 

    湛山は戦時中、東条英機首相から最も睨まれ、「廃刊させてやる」とまで嫌われた。だが、1号の「欠号」も出さなかった。言論統制に合わぬように記事の表現に細心の注意を払ったからだ。当時の軍部には、東洋経済のリベラリズムを応援する人たちもいた。用紙の配給で特別の配慮をしてくれたのだ。

     

    (3)「政界では湛山を再評価する動きが広がっており、没後50年に当たる2023年に超党派の研究会が設立された。入会者は今年7月時点で約80人に上る。石破首相も自著で「保守主義の本質は思想ではなく寛容である」と説いた湛山を紹介し、その考えに「学ぶべきことは多い」と記載。29日の所信表明演説でも、冒頭で湛山に言及した。湛山を敬愛するのは石破首相にとどまらない。研究会には共同代表を務める岩屋毅外相のほか、村上誠一郎総務相、中谷元・防衛相、平将明デジタル相、伊藤忠彦復興相が入会。古川氏や岩屋氏とともに共同代表を務める立憲民主党の篠原孝元副農相は、石破内閣を「石橋湛山研究会内閣だ」と評する」 

    湛山は晩年、病身を押して中国へも何度も足を運んでいる。東西対立の無益を説くためだった。周恩来(首相)とたびたび会談し、「日中米ソ」の平和同盟を提唱したほどだ。中国に、当時の「石橋人脈」へ繋がる人がいるかどうかだ。湛山は、決して「親中派」でない。厳しい意見を伝えた。当時の中国は、それを聞き入れたのだ。 

    (4)「超党派の研究会は「厳然たる勉強会の場」(自民重鎮)とする一方で、別な思惑も入り交じる。古川氏は取材に「湛山の思想を中心に国を運営していかなければいけないという思いの人が集まっている」とした上で、「(政界)再編する時の軸はここしかないと思っている。石橋湛山の思想に『この指止まれ』で集まる」と話し、政界再編の際には研究会が軸になり得るとの考えを示した」 

    国会の超党派で80人もの議員が、石橋湛山研究会へ結集している。これは、政界では異例の「横断組織」である。国際情勢が緊迫化すればするほど、「石橋思想」が生かされる局面を迎える。湛山は早稲田の哲学科で、米国哲学(プラグマティズム)を学んだ。これが、生涯の思想を柔軟にさせた背景であろう。私は、この湛山が出席した座談会を二度、東洋経済社員として傍聴した。柔軟な発想による発言であった。 

    (5)「衆院選で敗北し、94年の羽田孜内閣以来30年ぶりに「少数与党」となった石破内閣は、内閣不信任決議案が可決されるリスクを常に抱えている。ただ、石破首相と同様に湛山を敬愛する研究会メンバーの野党議員は「不信任案が出されたり、石破体制がガタついたりした時には、この研究会の枠組みでバックアップしてもいい」と話し、連携の可能性も示唆した」 

    石橋湛山研究会80人の与野党メンバーは、石破内閣が「危機」となれば始動するという。そういう危機の訪れないことを望みたいが、湛山流に解釈すれば日本政治近代化の「好機」かも知れない。

     

     

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    中国社会は、重圧社会である。国民の2人に1台という監視カメラが設置される異常な状態にある。息苦しさは格別であろう。これに加えて、長期の不況である。解雇、賃下げが日常茶飯事に行われている社会は地獄そのものだ。これに反発して無差別殺傷事件が続発している。

     

    当局は、事件の背後に「四無五失」層の存在を指摘している。「四無」とは、配偶者無し子ども無し家が無い無職、などを指す。「五失」とは、投資に失敗人生で失意に陥った人間関係で不和を抱える精神状態が正常 でない、を意味する。これら対象者を、ビックデータで把握するというのだ。これで、中国はますます国内で「みえない壁」をつくる。原因は、国民生活の苦境を顧みない政府の政策的貧困にある。

     

    『レコードチャイナ』(11月29日付)は、「中国で多発する無差別殺傷事件、当局はビッグデータで対応ーシンガポールーメディア」と題する記事を掲載した。

     

    シンガポール華字メディア『聯合早報』(11月24日付)は、10日も経たない内に広東省珠海市、江蘇省宜興市、湖南省常徳市の3件の悪質な無差別殺傷事件が起きている状況について、中国共産党中央政法委員会(法政委員会)などの司法当局がビッグデータを活用した予測により防犯能力を高めようとしていることを伝えた。

     

    (1)「記事は初めに「中国共産党中央政法委員会はSNSの情報発信プラットフォーム「中央政法政委長安剣」を通じて、24日に同委員会の誾柏(イン・ボー)秘書長が浙江省杭州市などの地方当局に、ビッグデータの分析を通じて事件発生のリスクを予測し、正確かつ精密な防犯能力の向上を調査研究するよう要求したと発表した。また、中国公安部長の王小洪(ワン・シアオホン)氏も先週、遼寧省で2日にわたって、ビッグデータを活用した新しい警務運営方式を、公安当局の新戦力として主体的かつ効率的に防犯能力と処置能力を高めるよう要求したという」と伝えた」

     

    ビックデータによって、事前に「犯罪予備軍」を把握するという。戦時中の日本は、自由思想の持ち主を「予防拘束」したり尾行を付けたりした。この「中国版」が始まる。対象者は、膨大な数に上るであろう。そんな予算余力が、地方政府にあるだろうか。

     

    (2)「国営メディアの新華社の22日付け報道を引用し、中央政法委員会の陳文清書記が招集した会議において、責任感を持って重要地点や大きな活動と社会の管理を強化し、凶悪事件の防止に努めるよう要求したことや、中国司法部でも党内部で会議を拡大招集し、社会の安全を維持する政治的責任を持って、社会問題の調査チーム設置や人員の配置により、家庭環境や人間関係、不動産などの財産状況などで見られる矛盾や紛糾を細部に至るまで調査し、情報を提供するよう指導すると述べたことを伝えた

     

    中国には、プライバシー保護などという「人権思想」の一片もないことを示している。

     

    (3)「記事は、この動静について北京師範大学政府管理研究院の唐任伍(タン・レンウー)院長は「公安当局などが地方にビッグデータ解析による調査研究を要求した目的は、最近連続して発生した悪質な無差別殺傷事件の根本原因をはっきりさせるためだ。公安当局などは長年にわたり、多くの科学技術を利用し社会的なリスクを監視してきたが、最近起きた3件の事件が示すように、現状は十分な防犯能力を満たしておらず、特にビッグデータの活用が不十分で、地方当局にもっとビッグデータの活用を重視してほしいと考えているようだ。同時に民衆の不満や脅迫行為をもっと真剣に向き合ってほしいとの思惑もあるようだ」との回答があったと伝えた

     

    問題解決のポイントは下線部にある。国民の苦しみに対して真面目に対応せず、逆に権力で押し潰してきた。「共産主義の原点」とは、全く逆方向である。共産主義は、政治権力掌握の手段にすぎなかった。大いなる欺瞞であろう。

     

    (4)「記事は、中国最高法院が23日専門者会議を開き、重大かつ悪質な犯罪の厳罰化と厳罰一辺倒にならないバランスの取れた刑事政策を堅持すると発表したことに触れ、「最高法院の会議は、民間の矛盾の激化により引き起こされた犯罪や、社会生活や生産運営上で起きた軽犯罪の処罰については、被害者の同意を得れば軽めの処分とするなど、最大限の分類により、犯罪の解決と犯罪者の更生を促すことを示している。各地の経済的弱者や、社会との連携が不十分な『四無五失』の人々に対して徹底的に調査を行い、矛盾のリスクを解きほぐし、社会の安定を維持する特別プロジェクトを展開し、地方安定の政治責任の所在を強調するようだ」と伝えた」

     

    「四無五失」層は、中国共産党にとって「政策的失敗」を意味している。国民生活改善へ真摯に向かい合ってこなかった結果である。習近平氏は、この事態をどこまで「自らの政策失敗」という視点で捉え直すか疑問だ。取締り強化で終わるであろう。

     

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