勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2024年12月

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    バブル崩壊後の日本は、世界初の新技術を開発しながら、商品化後に中国や韓国にお株を奪われてきた。日本の「トレードマーク」であった政府支援の産業政策が、悪として批判を浴びてきた結果だ。時代環境は大きく変わった。地政学リスクが全面に出ており、経済安全保障が問われる状況である。日本の新技術は、国を挙げて守るのだ。

    「曲がる電池」、として知られるペロブスカイトは日本発の技術である。各社が製品化に向けて開発しているが、積水化学が紙のように「ロール」状にして貼り付ける製品化で政府の支援を受けることになった。2030年に、100万キロワット(原発1基分)の製品化を急ぐ。

    『東洋経済オンライン』(12月31日付)は、「積水化学、ペロブスカイト太陽電池 量産化の勝算」と題する記事を掲載した。

    積水化学工業は、次世代技術であるペロブスカイト太陽電池の量産化に踏み切る。2024年12月26日付けでフィルム型同電池の量産化を決定し、2025年1月6日に日本政策投資銀行から出資を受け入れて新会社「積水ソーラーフィルム」を立ち上げる。2030年には1ギガワット級(注:100万キロワット)の製造ライン構築を目指すとしており、同太陽電池の市場開拓をリードする考えだ。

    (1)「経済産業省が、2024年12月に策定した新たなエネルギー基本計画では、ペロブスカイト太陽電池を中心とした次世代太陽電池について、2040年に約20ギガワットの導入を目標とすると明記されている。家庭の電力使用量の約1割を次世代太陽電池で賄う計算だ。積水化学はいち早く次世代太陽電池の量産化にこぎ着けるべく、技術開発や投資を加速する」

    政府は、ペロブスカイト太陽電池を中心とした次世代太陽電池を、2040年までに約20ギガワット(原発20基分)導入する計画だ。

    (2)「今回の量産化決定の経緯について、積水化学でペロブスカイト太陽電池事業の実務責任者を務める森田健晴・PVプロジェクトヘッドは、「国の覚悟が当社の経営層に伝わり、決断につながった」と表現した。そのことを物語るのが、国による破格とも言える補助金の投入だ。積水化学の量産化決定前日の12月25日、経済産業省が積水化学のペロブスカイト太陽電池の量産化への取り組みを「GXサプライチェーン構築支援事業」の支援対象として採択し、3145億円にのぼる総事業費の2分の1(5割)を補助金として支給することを決めた。大手企業に対しては3分の1補助(3分の1が補助率の上限)が基本とされているが、事業への取り組みの熱意が評価され、中小企業向けと同等の2分の1補助の対象となったという」

    政府は、積水化学のペロブスカイトへ総事業費の5割という破格の補助金を支給する。ペロブスカイトを世界の主流へ押上げる決意である。

    (3)「政府がペロブスカイト太陽電池に期待を寄せることには理由がある。すでに先行して普及が進むシリコン系太陽電池では、中国企業が世界シェアの8割以上を占め、日本企業は太刀打ちできない状態となった。原料であるシリコンの製造から太陽光パネルの組み立てに至るまでサプライチェーンをすべて押さえ、低コストでの供給体制を構築しているためだ。これに対して、国は次世代太陽電池では挽回のチャンスがあると見ている。というのも、ペロブスカイト太陽電池では原料であるヨウ素の生産で日本は世界第2位であるうえ、生産技術の確立でもリードしているためだ」

    屋根に設置されているシリコン系太陽電池は、日本発技術である。日本企業は、資金面で立ち行かず中国の補助金政策に敗れた。この轍を踏まないように、ペロブスカイトは、政府支援を厚くして中国の追随を許さない体制を整えている。

    (4)「積水化学の加藤敬太社長は、「ロール・ツー・ロール方式でのペロブスカイト太陽電池の製造技術を確立している企業は当社以外にない。重要な特許も押さえており、簡単には追随できない」と説明する。ロール・ツー・ロール方式とは、ロール状の基材フィルムに電極形成、電極加工、発電層形成といった作業を重ね、そのうえで再びロールにして完成させるといった技術だ。積水化学は塗工や封止方法などで独自の技術を確立し、製造中から始まる品質の劣化などペロブスカイト太陽電池固有の弱点を克服した」

    積水化学は、ペロブスカイトをロール状に巻き付けて生産する世界初の技術を完成させた。

    (5)「前出の森田氏によれば、太陽電池フィルムの厚みは従来の太陽電池の約20分の1程度で、重さも10分の1〜15分の1程度と、薄型・超軽量を実現した。積水化学は現在までに発電効率15%達成、屋外耐久性10年相当の確認、30センチメートル幅でのロール・ツー・ロールの要素技術完成といった技術開発の成果を上げているが、2025年に屋外耐久性20年相当、ロール・ツー・ロールの1メートル幅化を目標に掲げ、発電効率については2030年18%、将来はシリコン系に匹敵する20%以上を目指している」

    現在、ロール状の幅は30センチメートルだが、25年には1メートルへ広げる。これで生産コストは大きく低下するはずだ。発電効率は、30年に18%へ上げ将来、20%以上を目指す。

    (6)「2025年1月に設立される政策投資銀の出資を受けた新会社は、製品設計や製造、販売など中核的な役割を担う。基本的な技術は積水化学が担うとともに新会社に貸与し、新会社は施工や販売のノウハウを確立し、公共施設や商業施設、オフィスビルなど幅広い分野に普及を進める。「今回の事業化決定を踏まえた生産ラインは2027年度に量産を開始し、2030年度のギガワット級の生産に向けて第2、第3ラインの増設を検討している。装置メーカーなど独自技術を持つ企業の出資受け入れについても前向きに考えていく」(積水化学の上脇太・代表取締役専務執行役員)」

    生産ラインは、2027年度に量産を開始し、2030年度のギガワット級の生産に向けて第2、第3ラインの増設を検討している。何としても「日の丸技術」の優秀性を世界へ示して欲しいものである。


    テイカカズラ
       

    世界第2位の自動車メーカーであるVW(フォルクスワーゲン)は、EV(電気自動車)で大きな経営蹉跌に陥っている。ドイツ政府のEV補助金打ち切りと、中国市場におけるEV不振が原因である。EV依存経営が、VW経営の屋台骨を揺るがしている。これに比べて、トヨタ自動車の「全方位経営」は見事と言うほかない。EVやHV(ハイブリッド車)水素自動車(水素燃料エンジン・燃料電池車)と可能な限りの動力源開発を行っている。VWには、こういう技術的な広がりがなかった。

    『時事通信』(12月27日付)は、「ドイツ自動車産業に冬の時代、米中に憂いの種 相次ぐ事業再編」と題する記事を掲載した。

    ドイツ自動車産業に冬の時代が訪れている。中国勢の台頭や電気自動車(EV)の普及の遅れに加え、トランプ次期米大統領が掲げる高関税政策が追い打ちとなりそうだ。業界全体に事業再編の波が押し寄せている。

    (1)「最大手フォルクスワーゲン(VW)の労使は12月20日、年間73万4000台分の生産縮小と3万5000人の人員削減を含むリストラを2030年までに独国内で実施することで合意した。VWグループは、世界販売の3分の1を占める中国市場で、EV大手比亜迪(BYD)をはじめとする地元勢にシェアを奪われた。この結果、割高な人件費やエネルギーコストのために利益率が低い独工場にメスを入れざるを得なくなった。世界的なハイブリッド車(HV)回帰の流れにも乗り遅れた」

    VWは、EVへ100%賭ける経営へ走ってしまった。耐久消費財では、普及途上で技術的理由による「キャズム」(溝)が生じるという経営鉄則を無視すると大きな取りこぼしをした。トヨタは、このキャズムの存在によって、EVの販売において「挫折」が起こることを認識していた。それは、電池の開発である。完璧な電池は現在、使われているリチウム電池でなく、全固体電池であることを見抜いて、この開発に全力をあげている。VWは、電池の開発も行っていなかった。二重三重の「取りこぼし」があったのだ。

    (2)「IFO経済研究所のフュースト所長は、「VWは氷山の一角にすぎない」と指摘する。高級車大手メルセデス・ベンツとBMWも業績が振るわず、サプライチェーン(部品供給網)全体の地盤沈下につながっている。24年に入り、部品大手のZFやボッシュ、重工大手ティッセンクルップが大規模な人員削減を明らかにした。ドイツは、主要国の中でも輸出依存度が高く、とりわけ自動車や関連部品は輸出の柱として独経済をけん引してきた。しかし、最大の輸出相手国である米国のトランプ次期政権が保護主義的な貿易政策を打ち出しており、「輸出企業に大打撃になる」(ケルンのドイツ経済研究所)と警戒の声が上がる」

    VWの年次報告書によると、23年にVWが世界で売った936万台の内、32.7%にあたる307万台が中国市場である。VWは、中国の消費者が好むEVの開発に遅れており、これが将来の見通しを暗くさせている。今後の経営戦略は、中国市場と欧州市場の建直しだが、その戦略が立たないのだ。

    (3)「高い電気代や難解な役所手続きが、ドイツの産業立地としての競争力を低下させているとの指摘も絶えない。ただ、安定した新政権が発足する来春以降まで、政府による打開策は望めない。EVで先行する米テスラやBYDは欧州市場にも浸透し始めており、独企業は地力を試される厳しい局面を迎えている」

    EV市場は、消費者の要望で自然発生的に生まれた市場ではない。二酸化炭素削減という政策によって生まれた人工的市場という指摘がある。その通りであって、EVがユーザーに溶け込むには、価格と機能がエンジン車とくらべ遜色ないレベルマで「進化」することが求められる。トヨタはその時期が、2030年頃にくると設定している。全固体電池搭載のEV発売時期をここに合せている理由だ。

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    韓国は、24年1~11月の輸出総額は6223億8600万ドルで、日本との差が202億ドルと、史上最も小さい水準まで迫ったと「大喜び」である。これは、日本企業が現地で生産しているので、あえて輸出する必要がなくなったという意味だ。ちなみに、国際収支での「所得収支」は23年、日本が2493億ドルの黒字で世界1である。韓国の所得収支は316億ドルの黒字に過ぎない。日本の13%だ。こういう客観的な事実を忘れ「ぬか喜び」している姿は、微笑ましくもあるのだ。

    『中央日報』(12月30日付)は、「今年の韓国の輸出額「日本のあごの下まで追撃」、来年が心配」と題する記事を掲載した。

    24年、韓国と日本の輸出額格差が過去最低水準である202億ドルまで縮まった。輸出国順位で韓国は前年より2段階上がった6位を記録し5位の日本を追撃中だ。ただ来年には保護貿易主義を掲げる第2次トランプ政権発足と世界的な景気鈍化が合わさり輸出成長が鈍化するだろうという懸念が出ている。

    (1)「韓国貿易協会が、日本の財務省の輸出額速報値を活用して分析した結果、1~11月の韓国の輸出額は6223億8600万ドルと集計された。日本の6425億9800万ドルとの格差は202億1200万ドルで過去最低を記録した。韓日の輸出額格差が、200億ドル水準に狭まったのは初めてだ。両国の輸出額格差は2016~2021年の6年間は1000億ドル台を維持していたが、2022年に632億4000万ドル、2023年に850億3500万ドルと1000億ドルを割り込んでいた」

    韓国は、輸出額が日本へ接近したとして大喜びしている。いかに、日本を尺度にして判断しているかがわかる。「反日」土壌は、こういう面にみられる。

    (2)「24年格差が減ったのは韓国の輸出の54.9%を占める米国、中国、東南アジア向け輸出が大幅に増え実績が改善された余波だ。貿易協会のキム・ナユル研究員は「IT景気回復で韓国の半導体・コンピュータ輸出が大きく増加し、化粧品・医薬品などに対する世界的需要が拡大した」と話した。大韓貿易投資振興公社(KOTRA)によると、1~10月の輸出国順位で韓国は6位を記録している。2022年の6位から昨年は8位に落ちたが、今年は順位を回復し5位の日本のすぐ下まで追撃している」

    日本は、現地生産しているから輸出する必要がないのだ。それだけ、相手国市場に定着していることを示している。製品輸出という「一見(げん)さん」ではない。韓国には、こういう構造的な理解が欠如している。

    (3)「ただ、政府が当初期待した「年間輸出7000億ドル」の目標達成は難しいとみられる。関税庁などによると、今月20日までの累積輸出額は6627億ドル水準だ。目標まで373億ドルほど残ったが、これまでの輸出実績を考慮すれば今年の輸出総額は6800億~6900億ドルにとどまると予想される」

    韓国は24年、年間輸出目標7000億ドルには未達の模様だ。25年は、トランプ関税引上げで、輸出が大揺れの見通しである。

    (4)「問題は25年だ。1月に第2次トランプ政権が発足する上に、主要輸出相手国の景気鈍化が予告され警告音が鳴っている。貿易協会の輸出産業景気見通し指数調査(EBSI)報告書を見れば、25年1-3月期のEBSIは96.1で4四半期ぶりに基準値である100を割り込んだ。100より低ければ韓国の輸出企業が前四半期より輸出が悪化すると予想しているという意味だ。輸出鈍化の見通しに内外の主要機関も一斉に韓国の来年の経済成長見通しを引き下げている。韓国銀行は1.9%、国際通貨基金(IMF)とアジア開発銀行(ADB)は2.0%、経済協力開発機構(OECD)は2.1%を提示した」

    トランプ関税で対中が60%引上げられれば25年に、韓国の対中輸出は大きな影響が出る。日本との輸出差額が、今年のように接近したと喜んでいるどころの話でなくなろう。



    テイカカズラ
       

    韓国国土交通省は12月30日、南西部の務安(ムアン)国際空港で179人が死亡した旅客機事故を受け、国内の同型101機について特別点検を行うと明らかにした。事故原因は不明だが、鳥と衝突する「バードストライク」や旅客機の車輪の異常などが指摘される。米当局と合同で原因調査にあたる。

    英国『BBC』(12月30日付)は、「韓国旅客機事故の原因調査続く 専門家は様々な要因指摘 フライトレコーダー解析に1カ月か」と題する記事を掲載した。

    韓国南西部・全羅南道の務安(ムアン)空港で29日午前、胴体着陸した済州(チェジュ)航空の旅客機が滑走路を越えて壁に激突して炎上した事故で、当局による原因調査が続いている。複数の専門家や関係者は、様々な要因が考えられると指摘している。

    (1)「29日の事故では、乗客・乗員181人のうち179人の死亡が確認された。聯合ニュースによると、機体の尾翼側にいた客室乗務員2人が救出された。事故機は、ボーイング「737-800」型で、タイ・バンコクから務安空港へ向かっていた。務安は首都ソウルから約288キロ南だ。韓国の運輸当局によると、旅客機は着陸態勢に入る際に「困難な」状況に陥った。飛行経験が6800時間を超える機長は、鳥の影響により、最初の着陸をやり直したという」

    飛行経験6800時間を超えるベテラン機長が、操縦桿を握っていた。鳥の影響により、最初の着陸をやり直している。

    (2)「そのすぐ後に、遭難信号「メーデー」を通信し、通常とは反対方向への着陸が許可された。当局はバードストライク(飛行機が鳥と衝突すること)と悪天候が事故の一因になった可能性を示唆している。しかし、航空専門家たちは、これらが今回のような致命的な事故を引き起こすほどの要因だったのか疑問視している。現場からはすでに、フライトデータレコーダーとコックピットのボイスレコーダーが回収されている。ボイスレコーダーは無事だという。破損の影響で、フライトデータレコーダーの解析には1カ月かかる可能性があると、同メディアは調査担当者の話として伝えた」

    当局は、バードストライクと悪天候が事故の一因と示唆しているが、専門家はそれだけでないと推測している。

    (3)「韓国メディアによると、乗客の一人は家族にメッセージを送り、鳥が「翼にくっついていて」飛行機が着陸できないのだと書いていた。「最期の言葉を書いた方がいいのか」とも書き送ってきたのを最後に、連絡がとれなくなったという。事故直後から、バードストライクのために着陸装置が故障したのではないかと言われていた。航空関連のニュースを扱う「エアライン・ニュース」の編集長ジェフリー・トーマス氏は、「この悲劇をついては、いろいろなことが腑(ふ)に落ちない」とBBCに述べた」

    着陸装置が、バードストライクのために故障したのではないかとみられている。

    (4)「韓国と韓国の航空会社は、「業界の『ベスト・プラクティス(最良慣行)』」と評価されており、航空機と航空会社のどちらも「安全性において優れた実績」を築いてきたと、トーマス氏は述べた。イタリア空軍士官学校の元教師で、現在は航空ジャーナリストのグレゴリー・アレジ氏は、「現時点では、答えよりも疑問の方が多い」とロイター通信に語った。「なぜ、旅客機はあれほど高速で移動していたのか。なぜ(翼の)フラップが開いていなかったのか。なぜ着陸装置が降りていなかったのか。こういう疑問が残っている」と指摘」

    旅客機が、なぜあれほど高速で着陸したのか。フラップが開いていなかったのか。着陸装置が降りていなかったのか。これらが、疑問点としている。

    (5)「ソーシャルメディアに投稿された未検証の動画では、旅客機が滑走路を外れて外壁に激突し、機体の一部から炎が上がるのが確認できる。別の動画には、大きな黒煙が立ち上る様子が映っている。40年以上の経験を持ち、今回の事故機と同型の機体の操縦経験がある航空専門家クリス・キングスウッド氏は、事故を捉えた動画では、事故原因がはっきり確認できないとしている。ただ、着陸装置が降りていないことや、フラップが想定された方法で使われていなかったことから、「あらゆることが本当に、あっという間に起こった」様子だと述べた。「両方のエンジンを失った場合、通常はこのような状況に追い込まれる」とし、「民間航空機は、片方のエンジンだけでもそれなりに安全に飛行できるもの」だと述べた。

    着陸装置が降りていないことや、フラップが想定された方法で使われていない点など、究明が待たれるという。今回のようなケースは、両方のエンジンを失った場合に起こるという。

    (6)「また、バードストライクで両方のエンジンが損傷したとすれば、飛行高度が非常に重要になるとした。低高度を飛行していた場合、パイロットは、「非常に短時間に、膨大な数の決断」を迫られることになると、キングスウッド氏は付け加えた。エンジンが故障した場合に、着陸装置とフラップの両方を作動させる代替システムはある。しかし、キングスウッド氏によると、地上から「数千フィートという比較的低い高度を飛行していたのであれば、機体を飛行させることに集中しつつ、どこか安全な場所に着陸させる必要があったはず」だという」

    エンジンが故障した場合に、着陸装置とフラップの両方を作動させる代替システムがあるという。安全な場所へ着陸させる方法もあったはずとみられる。


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    中国国家主席習近平氏にとって、トランプ次期米国大統領は扱いにくい厄介な交渉相手になる。中国経済が、回復軌道に乗る見通しのない現在、さらなる関税率60%引上げという途方もないことを言う相手であるからだ。トランプ氏はさらに、ロシアのプーチン大統領と手を結ぶ可能性すら否定できないしたたかさを持っている。こうなると、習氏はまさに「内憂外患」に陥る。

    『ブルームバーグ』(12月30日付)は、「トランプ氏の対中戦略、隠し球は『逆ニクソン』か」と題するコラムを掲載した。筆者のミンシン・ペイ氏は、米クレアモント・マッケナ大学の行政学教授である。

    米国に並ぶ超大国になるという目標に関しては、自国経済の低迷が続き、足踏みしているかもしれない。それでも、習氏は真の災難に見舞われることなく、暗雲立ち込める地政学情勢を巧みに乗り切ってきた。ただ、米国で2025年Ⅰ月に2期目のトランプ政権が発足すれば、習氏の命運がこの先どうなるかは分からない。中国にとって、今後10年間の軌道を決定付けるであろう幾つかの問題に同時に直面する可能性もある。

    (1)「間違いなく、習氏にとって最初の荒波となるのは、米中間の緊張が一段と高まることだ。トランプ氏は中国からの輸入品に対する関税を最大60%まで引き上げると公約している。実際にそうした場合、23年に2国間貿易が5700億ドル(約90兆円)を超える規模に達した米中は急速かつ無秩序に切り離されることになるだろう。米国はまた、先端テクノロジーの対中輸出規制を強化する見込みで、これにより、半導体や人工知能(AI)、量子コンピューティングなどの分野における中国の進歩はさらに妨げられる」

    中国は、米国の対中貿易抑制策によって「受け身」の立場へ追いやられている。これが、根本的な弱点である。

    (2)「過剰債務やデフレ、不動産危機で景気の足腰が弱っている中国は、トランプ氏が米大統領として関税というバズーカ砲を初めて放った18年よりもさらに危うい状態にある。さらに厄介なことに、米国の国家安全保障機関を牛耳る対中強硬派は、台湾や南シナ海を巡りより攻撃的な戦術を採用する公算が大きく、それは1962年の「キューバ危機」を連想させるような超大国間の対立を招く恐れがある。トランプ政権の始動後、習氏にとって最初で最も困難な課題は、米中の摩擦が制御不能になるほどエスカレートするのを防ぐことだ」

    米ソ危機になった「キューバ危機」のような緊張した状況が、米中関係で起こりうる危険性が出てきた。これをどう防ぐかだ。習氏が、強硬な振舞をすればあり得ないことでない。

    (3)「2つ目の重要な試練は、習氏が中国経済を復活させることができるかどうかだ。中国政府は最近、消費主導の成長を優先する計画を発表したが、これまでの実績から、あまり期待されていない。トランプ氏が仕掛けるだろう貿易戦争は、投資・輸出頼みから家計消費重視へとシフトし、中国の成長モデルを根本的に方向転換させる推進力となる可能性もはらむ。そうした原動力こそ習氏が必要とするものだが、習氏が変化に対して二の足を踏めば、中国が抱える対外的なあらゆる課題への対応はさらに難しくなるだろう」

    トランプ氏の対中「関税引上げ」は、中国経済へ大きな影響を与える。これを避けるには、消費刺激目的で、対家計優遇政策をとらざるを得まい。何時までも、回避していることは許されないからだ。

    (4)「3つ目の疑問は、経済面だけでなく地政学面でも、習氏がどれほど柔軟な姿勢で臨むかことができるのかという点だ。中国は周辺国に何年も圧力をかけ続けているため、それらの国々は米国側に一層深く引き込まれている。しかし、もし、「米国第一」を掲げるトランプ氏が東アジアの同盟国に10%の関税を課し、米国の軍事展開を補完するため追加負担を強いるようなことをすれば、東アジア各国の対米関係が急速に悪化する恐れがある」

    中国周辺国は、米中双方にとって重要なパートナーである。米中いずれも、強圧姿勢をとれば、相手側へ「追いやる」矛盾を抱えている。

    (5)「4番目の課題は、中国が限られた影響力しか持たない中でも、ウクライナでの戦争終結に積極的な役割を果たす方法を見つけることだ。トランプ氏は中国に平和をもたらす努力をするよう促しているが、習氏はジレンマに陥っている。ロシアのプーチン大統領に不利な条件を受け入れるよう圧力をかけることは、習氏自ら「無限」だとするロシアとの友好関係を損ねかねない。一方、プーチン氏の強硬な立場を支持すれば、ほぼ確実にトランプ氏を怒らせ、欧州の反発を一段と買うことになる。誰をも満足させることはほとんど不可能だが、また不可欠とも考えられる」

    習氏は、ウクライナ戦争を終らせる役割を果すことだ。中国が、こっそりとロシアを支援している現状は、長期的に中国を不利な状態へ追込む。

    (6)「習氏は最終的に、かつてであれば全く想像できなかったジレンマに直面する可能性すらある。トランプ氏が「モスクワを訪問する」という考えは、交渉能力の高さを示したい同氏と、米政府の重点をロシアから中国に移すよう強く主張してきた対中強硬派の双方にとって、魅力的に映るかもしれない。トランプ氏が実際にロシアとの関係改善に動けば、中国にとって二重の打撃だ。習氏がプーチン氏と結んだ戦略的パートナーシップが大きく揺らぐ一方で、米国は中国との競争に振り向けてきた膨大なリソースと労力を解放することができる。いずれにしても未知数だ。だが、10年余り前に中国最高権力者の座に就いた習氏にとって、2025年に下す決断が最も重要なものになるのは確かだろう」

    トランプ氏が、ロシアとの関係改善に動けば、中国にとって二重の打撃になる。習氏は、いつまでも「中華の夢」に酔ってはいられない局面に来ているのだ。

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