勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2024年12月

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    内閣府が25日に発表した2025年度の政府経済見通しでは、経済成長が4年ぶりに加速する。GDPの実質成長率は1.2%で名目成長率2.7%になる。政府の経済対策の押し上げ効果によって個人消費が改善し、内需が経済成長をけん引する。

    『ブルームバーグ』(12月26日付)は、「25年度は実質賃金プラス定着へ 個人消費が成長けん引ー政府見通し」と題する記事を掲載した。

    内閣府は26日公表した政府経済見通しで、2025年度も高水準の賃上げが期待される中、物価変動を反映させた実質賃金のプラスが定着するとのシナリオを示した。所得環境の改善が個人消費を喚起し、経済成長をけん引する姿を描いている。

    (1)「政府見通しでは、25年度の消費者物価指数(総合CPI)が前年度比2.0%に鈍化する一方、名目賃金は24年度と同じ2.8%の伸びを維持すると見込む。可処分所得の増加に伴い、個人消費も実質で1.3%増にプラス幅を拡大する見通し。内需主導で実質国内総生産(GDP)成長率は1.2%に加速するとみている」

    CPI上昇率が2.0%で、名目賃金は24年度と同じ2.8%増であれば、実質賃金上昇率は0.8%を維持できる。個人消費を実質1.3%増とみる根拠だ。久しぶりに日本経済に「快晴」が訪れる感じである。

    ここまで来れば、「デフレ完全脱却」は言うまでもないことだ。デフレ脱却の4要因は、25年度の目標数値でいずれもクリアできる。
    1)賃金上昇   2.8%増
    2)投資の増加  3.0%増
    3)消費の拡大  1.3%増
    4)物価の安定  2.0%増
    25年度の日本経済は、「健康体」を取り戻せる。

    (2)「デフレ型経済からの脱却を掲げる石破茂政権は、「賃上げと投資がけん引する成長型経済」の実現を目指している。11月には物価高への対応や所得向上を柱とする財政支出21.9兆円規模の総合経済対策を決定した。来年1月発足のトランプ次期米政権で想定される保護主義的な政策に各国が身構え、世界経済の先行きに不透明感がくすぶる中、賃金上昇をテコとする内需の持続的な回復が経済成長の鍵となる」

    25年度政府経済見通しは、明るい展望になっている。

    (3)「25年にかけて物価上昇を上回る賃金上昇が定着するかどうかは、日本銀行の金融政策を見通す上でも注目される。植田和男総裁は25日の講演で、国内では「目先の大きなポイントは春季労使交渉に向けた動き」だと指摘。2%の物価上昇と整合的な賃上げを当たり前のこととして社会に定着させていくことが重要だとの認識を示した。内閣府によれば、25年度の成長率見通しが達成されれば供給制約の局面に入り、潜在GDPの直近実績値(年率0.5%)に基づくGDPギャップ(需給ギャップ)は0.4%と、18年度以来のプラスに転換するとみている」

    植田日銀総裁は、2%の物価上昇と整合的な賃上げが「常識」として定着する社会の実現が重要だとの認識を示した。この発言の通りである。逆に言えば、日銀には2%の物価上昇に収まる金融政策を行う責任があるということだ。GDPギャップ(需給ギャップ)は、0.4%と、18年度以来のプラスに転換することも、明るい材料である。7年間も、GDPは需給不均衡のマイナス状況に落込んでいたのだ。

    25年度経済見通しでは、内需の伸び率を24年度の1.1%から1.3%増と底堅いと見込んでいる。個人消費は、実質所得の底堅い伸びに支えられる。企業の賃上げ率は、24年並みの5%程度と予想される。日本経済に、晴れ間が広がることは間違いなさそうだ。

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    日本の企業や個人から、海外の巨大テック企業への支払いが増え続けている。米GAFAMなどが提供するサービスによって、国際収支ではいわゆる「デジタル赤字」が急増している。過去5年で約2倍の6兆円に膨らんだ。日本は稼ぐ力を高めなければ、国内の富が外に出ていくばかりで「デジタル小作人」とまで揶揄されている。

    だが、日本産業の足下を見ると、膨大な「宝物」の存在に気付かされる。「世界のトヨタ自動車」が、SDV(ソフトウェア・ディファインド・ビークル)に取組んでいることだ。クラウドとの通信を通じて、自動車の機能を継続的にアップデートすることで、運転機能の高度化など従来の車にない新たな価値を提供することで付加価値が高まる。

    SDVの導入により、自動車メーカーは新しいビジネスモデルを構築し、ユーザーに対してより高度な運転支援機能やエンターテインメント機能を提供することが期待されている。こうして日本は、トヨタのSDVを利用することで「デジタル黒字」に転換できるのでないかという期待が高まる。

    『日本経済新聞』(12月27日付)は、「2025年を読む 変革の行方(4)テック競争日本の再挑戦 厚い『産業資産』を武器に」と題する記事を掲載した。筆者は、同紙のコメンテーター中山淳史氏である。

    人工知能(AI)の米国、電気自動車(EV)の中国。テック競争で両国に大きく水をあけられる日本は2025年、反撃できるだろうか。日本が蓄えた「産業資産」がカギを握る。

    (1)「一つは車だ。トヨタ自動車は25年から新型車に制御全般を担う基本ソフト(OS)を搭載する。新しい運転機能ができれば全面改良を待たずにインターネットからソフトウエアで改善部分をアップデート(更新)。娯楽やデータサービスも有料で提供する。自動車メーカーは稼ぐ場所を大きく広げられる。「SDV」と呼ばれるそうした車は米テスラや中国企業が先行するが、トヨタが注目するのは「保有台数」だ。自動車世界一の同社は、販売台数が年間1千万台以上。車は10年前後乗り継がれる耐久消費財だ。トヨタの印をつける車は世界で1億台を超えている。10年かけてOSの載る車に置き換えていけば、中国の比亜迪(BYD)など新興勢力の数倍の規模で顧客とつながる経済圏ができる。経営統合の協議を始めたホンダと日産自動車も似た発想をする。日本車全体の保有台数は2億~3億台ある。日本企業が新たな成長局面を迎えるには顧客基盤という資産を強固にする「アップデート」が不可欠だ」

    トヨタは、世界で年間1000万台の販売台数である。10年間で1億台になる。車の乗り継ぎ期間はおおよそ10年とされる。となれば、将来1億台のトヨタ車にSDVを通して有料サービス提供が可能である。ホンダや日産も同じ構想だ。そうなれば、2億台近い日本車がSDVで「外貨」を稼げる。

    (2)「2つ目は産業データだ。企業が無意識に蓄えながら潜在価値に気づけなかった別の資産だ。日立製作所は24年にエヌビディアと提携し、鉄道関連の保守サービスを始めた。日立製の車両にAI学習にも使うエヌビディアのチップ付き制御装置を載せて状態を常に把握し、必要な時に告知と修理をする。他社製の保守サービスも請け負うという。実は、製造現場やインフラに眠るそうしたデータを狙うのが米テックだ。エヌビディアのほかマイクロソフト、グーグルなどが日本の自動車、機械と連携を模索する」

    産業データも稼ぐ場所を広げる。日立製作所が、24年から鉄道車両に半導体付き制御装置を登載する。ラピダスが開発中の「CPUとアクセラレータ」を結合したAI半導体は、あらゆる機械へ装着されて無人化に寄与する。ここでも当然、「デジタル黒字」を稼げるであろう。

    (3)「AIの学習に使うネット上のオープンデータはあと1、2年で枯渇するともいわれる。それより規模が数倍も大きいのが産業データであり、製造業の裾野が広い日本やドイツ企業は羨望の的だ。ドイツは真っ先に官民プラットフォーム(基盤)を設け、日本も「ウラノス・エコシステム」などの基盤が最近できた。成功すれば国内企業同士の的確な組み合わせで商品やAI、問題解決型サービスを世界に発信しやすくなる。「デジタル赤字」と呼ばれる日本のサービス収支改善にも一役買う可能性がある」

    「物づくり大国」日本は、AIの普及によって問題解決型サービスを世界に発信しやすくなる位置だ。これは、非常に大きな日本の資産になる。

    (4)「生産、営業の大事なデータを他社に見せたがらない企業も少なくない。産業データは米テックが持たない重要な資産だ。データを持つ企業が不安がらず、積極的に持ち寄りたくなる競争と協調の仕組みづくりが25年の課題だ。最後に日本で芽生える新興企業という資産だ。AIや完全自動運転、バイオなど米中がほしがりそうな企業が現れつつある。例えば、自動運転のチューリング(東京・品川)は運転の全てをAIに任せられ、テスラの上をいく「レベル5」の車を25年に東京都内で試験運転する。可能性ある企業をもっと生めるよう、見守っていきたい」

    自動運転の新興企業チューリングは、運転の全てをAIに任せられ、テスラの上をいく「レベル5」の車を25年に東京都内で試験運転する。このニュースは画期的なものだが、世間では余りにも知られていない。日本の最先端技術を広く知って貰えれば、妙な悲観論も消えるであろう。

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    太陽光発電の「元祖」は日本である。だが、中国の量産化でお株を奪われた。この苦い経験に懲りて、日本発祥の「曲がる電池」ペロブスカイトの製品化では、技術漏洩防止に力点を置いている。日本発技術を守る意思を鮮明にしている。

    積水化学は、ペロブスカイトの量産に約3100億円を投じ、堺市に新工場を建設する。政府系金融機関の日本政策投資銀行(政投銀)も出資する「物々しさ」だ。2030年までに稼働し、生産能力は電池の発電容量で年100万キロワット分程度とみられる。原子力発電所1基分の発電容量に相当する。政投銀は、投資額の5割にあたる約1600億円を分担する予定だ。

    『日本経済新聞 電子版』(12月30日付)は、「積水化学、『曲がる太陽電池』量産 政投銀と新会社」と題する記事を掲載した。

    積水化学は26日、薄くて曲げられる次世代の太陽電池「ペロブスカイト型」の量産に向け日本政策投資銀行と共同で新会社を設立すると発表した。2027年には10万キロワット、30年までに年100万キロワット級を生産できるようにする。総経費は約3100億円超を見込み、半分を政府の補助金でまかなう。国内需要だけでなく、海外展開も視野に入れる。

    (1)「新会社の積水ソーラーフィルム(大阪市北区)を25年1月6日に設立する。資本金は1億円で、積水化学が86%、日本政策投資銀行が14%出資する。技術漏洩のリスクを抑えるため、新会社が積水化学からライセンスを受け、太陽電池の製品設計、製造、販売を担う。新会社の社長に就く積水化学の上脇太取締役専務執行役員は、「オールジャパンでやっていく。供給網の強靱化に向け、他社の出資を受け入れる可能性はある」と述べた。施工や装置メーカーの出資を受け入れることも検討する」

    日本政府の意気込みが感じられるスタートになる。新会社は、日本政策投資銀行が14%出資して、政府がバックにつくことを鮮明にした。今後、海外でも事業展開する予定なので、その際の便宜性を考慮したのであろう。

    (2)「27年に約2万5000世帯分の消費電力に相当する10万キロワット級の製造ラインを稼働する。建物の購入や製造設備の設置に900億円を投じる。シャープの堺工場(堺市)の建物や電源設備、冷却設備などを転用する。積水化学の加藤敬太社長は、「これまでやったことがないくらいのスピード感で事業を垂直に立ち上げる」と意気込む。段階的に増強し、30年には原子力発電所1基分に相当する100万キロワット級まで増やす。総経費は3145億円となる見込みで、そのうち5割の1572億5000万円は政府の補助金を活用する。30年時点でペロブスカイト型太陽電池の売上高は、1500億〜2000億円を見込む」

    27年には、10万キロワット級の生産を目指す。30年には、原子力発電所1基分に相当する100万キロワット級へ引上げる。

    (3)「まずは、災害時に避難所となる体育館の屋上への設置を想定している。ペロブスカイト型の太陽電池は現在主流のシリコン型に比べ重さが15分の1と軽いため、体育館のような軽量屋根にも設置しやすい。災害時でも避難所が停電するリスクを抑えられる。積水化学は液晶向けで培った液体や気体が内部に入り込まないようにする封止技術に強みがある。既に10年程度の耐久性を実現しており、25年には20年程度に高める。30センチメートル幅のフィルムでエネルギー変換効率15%を達成している。30年までに18%まで高め、将来的には現在主流のシリコン型と並ぶ20%以上を目指す」

    ペロブスカイト型の太陽電池は、現在主流のシリコン型に比べ重さが15分の1と軽いため、どこへも設置できる便利さがある。銀行店舗の壁に貼る構想も進んでいる。中国は、特許関係で、ペロブスカイト型の太陽電池へ進出が困難だけに、技術漏洩に警戒している。

    (4)「ペロブスカイト型は、現状ではシリコン型に比べ発電コストが割高だ。原料のコストはシリコン型より安いものの、製造コストの低減が課題となる。量産が軌道に乗れば製造コストが下がるうえ、軽くて薄い特性を生かせば設置コストも抑えられる。30年時点の1キロワット時あたりの発電コストはシリコン型の1.6〜2倍となる14〜20円を見込む。加藤社長は、「シリコン型はリサイクルでコストが上がり、(量産が進めば)十分に商機はある」と話した」

    ペロブスカイト型は現在、屋根に設置しているシリコン型に比べ発電コストが割高だ。だが、量産規模の引上げで解決可能という。

    (5)「経済産業省は、「電源構成のうち再生可能エネルギーが占める割合を4〜5割に高める計画だ。5割と仮定すると、太陽光は23年度の発電実積に対して3.6倍に増やす必要がある。ただ、日本の平地面積あたりの太陽光設備容量はドイツの2倍超、英国の8倍弱に相当する。太陽電池の設置に適した土地を新たに確保するのが難しくなっている。太陽光の更なる活用には、ビル壁面などこれまで想定していなかった場所にも設置可能なペロブスカイト型の活用が重要になる。経済産業省は40年度におよそ550万世帯分の電力使用量に相当する2000万キロワット分を導入する目標を策定している」

    経済産業省は、40年度におよそ550万世帯分の電力使用量に相当する2000万キロワット分を導入する目標だ。原発2基分を賄える計算だ。

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    中国は、不動産の供給過剰に苦しんでいる。数百万戸に上る売れ残り住宅は市況を圧迫し、習近平国家主席による経済てこ入れの努力に冷や水を浴びせている状況だ。25年には、中央政府が住宅市場の「受け皿銀行」を創設する形で介入すべき、との提言も聞かれる。この貴重な提案も、実現の見込みはほとんどない。

    実際に買入れる場合、50兆(約1050兆円)~70兆元(約1470兆円)が必要になると見積もられている。過去の無駄な住宅投資が、中国GDPを押上げた計算だ。需要の先食いだけに、今後のGDPを押下げる形になる。因果は巡るのだ。

    『ロイター』(12月25日付)は、「中国、不動産問題解消へ『受け皿銀行』創設に期待」と題する記事を掲載した。

    中国は不動産の供給過剰に苦しんでいる。数百万戸に上る売れ残り住宅は市況を圧迫し、習近平国家主席による経済てこ入れの努力に冷や水を浴びせている状況だ。そこで来年は、中央政府が住宅市場の「受け皿銀行」を創設する形で介入すると期待される。

    (1)「習氏が、まず不動産市場を安定させない限り、経済成長を再び上向かせられない、というのは大半のエコノミストの一致した意見だが、肝心の問題の正確な規模は誰にも見当がつかない。ゴールドマン・サックスの調査チームの試算では、不動産開発会社が現在建設中のプロジェクトを全て完成させれば、住宅在庫は93兆元(13兆ドル)に達する。これは昨年、中国で販売された全住宅の合計価格の8倍に相当する」

    ゴールドマン・サックスの試算では、不動産開発会社が現在建設中のプロジェクトを全て完成させれば、住宅在庫は93兆元(約1953兆円)に達する。昨年、中国で販売された全住宅の合計価格の8倍にもなるという。これだけの在庫を抱えながらなおも建設している。市場機能は、完全に失われている。

    (2)「こうした供給量が、ピーク時には中国の年間国内総生産(GDP)の約4分の1を生み出した不動産セクターの重荷となっている。中国恒大集団や碧桂園といった大手不動産は経営破綻するか新規プロジェクトを中止した。中国国家統計局のデータによると、10月の新築住宅価格は5.9%低下と10年ぶりの落ち込み幅で、16カ月連続のマイナスを記録。市況悪化は、不動産を保有資産の柱とするケースが多い中国人家計の消費能力を奪っている」

    巨額の住宅在庫の圧迫で、持ち家住宅の資産価値が低下して、家計消費を圧迫している。諸悪の根源は、過剰住宅在庫にある。

    (3)「中央政府もこれまでさまざまな対策を試みてきた。今年5月には地方政府が余剰物件を取得して手頃な価格の住宅として販売するのを促進する措置を公表した。しかし国内メディアの報道を見る限り、その成果は期待外れにとどまっている。人民銀行(中央銀行)が国有企業による売れ残り住宅購入支援のために打ち出した再融資制度の枠も3000億元と、年間住宅販売額の3%弱に過ぎない。既に借金を抱えている地方政府は、民間不動産会社から大幅な割引価格で物件を買っても、さらなる価格下落を招く恐れがある以上、支援計画への参加には消極的だ」

    中央政府の行ってきた住宅対策は、すべて「焼け石に水」であった。小規模過ぎて、効果を上げられないのだ。

    (4)「より断固とした対策は、中央政府が最後の買い手として登場することだろう。これは他の国が住宅危機で実行した手段でもある。米政府は1938年、大恐慌を受けて連邦住宅抵当金庫(ファニーメイ)を創設し、銀行から住宅ローンを買い取って不動産市場の再活性化を図った。ユーロ危機に際しては、スペイン政府が資産管理会社を立ち上げ、国内銀行から不動産会社向けの焦げ付き融資を取得している」

    米欧には、政府が過剰住宅在庫を買上げた歴史がある。中国もこれに見習えば良いのだが、「中国式社会主義」という大見得を切っている手前、これもできないのだろう。

    (5)「中国でも、同じような受け皿銀行が市場てこ入れに役立つ。受け皿銀行によって、地方政府が国内全土で数百万戸の売れ残り住宅を吸い上げ、選別して手頃な価格の物件に変えたり、賃貸に回したりすることができる。また物件を市場に放出するペースを管理すれば価格の統制が容易になり、財政難の省や市から未完成プロジェクトを買って建設用地を確保することも可能だ。このような救済策には多額の費用がかかる。黄奇帆氏などのエコノミストは、総額で50兆~70兆元が必要になると見積もっている。しかし受け皿銀行創設でマインドがすぐに持ち直し、より深刻な市況悪化が避けられるとすれば、政府が拠出する金額はこのうちの一部で済むかもしれない」

    中国で、在庫住宅買入れの「受け皿銀行」を作れば、問題解決の糸口が掴めるという提案が出ている。総額で50兆~70兆元が必要になるという。習氏は、国債発行で「3~4兆元」レベルの話かしていない。とても住宅受け皿銀行創設など論外であろう。

    (6)「習氏が政権の座に就いた2013年も、不動産市況の低迷との格闘があった。当時の政府高官やメディアの報道からは、過剰在庫対策として受け皿銀行を立ち上げるための「基本的な環境」は整っていたことが分かる。だが最終的には人民銀行が乗り出し、15年から20年にかけて3兆元余りの流動性を供給して、新規住戸の在庫圧縮に対する事実上の補助金になった。皮肉なことにその対応が不動産バブルを醸成し、20年にバブルがはじけて以前よりずっと大きな市場の混乱が残された。だから来年、財政省はそうした混乱を一掃できる大規模な手段を講じなければならない」

    中国人民銀行は、不動産業界に対して15年から20年に3兆元余りの流動性を供給した。これが、新規住戸の在庫圧縮に対する事実上の補助金になって、逆に過剰在庫を膨らませるきっかけになった。バブルは、小規模の段階で「芽を摘む」ことが肝心である。胡錦濤政権は、それを行ってきた。習氏の対応が甘かったのだ。


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    中国指導部は、12月11~12日の日程で中央経済工作会議を開催した。25年の経済運営方針を定める年1回の会議である。財政赤字を拡大するなど、意気込みを見せているが、「9つの重要項目」の一つに妙な文言が加わっている。「民政の保障・改善を加えた国民の充実感・幸福感・安心感の増大」だ。経済政策とは不似合いな一節で、ここがポイントである。

    何の目的で、この文言が挿入されたか。国民の不満を監視するという「とんでもない」意味合いが込められている。当局は、25年経済が停滞予想であることをすでに予測している。不満噴出を前提に、強制的に「幸福感・安心感を増大させる」というのだ。中国も落ちぶれたものである。

    『日本経済新聞(電子版読者メール)』(12月26日付)は、「中国、25年経済方針に『相互監視社会推進』を掲げる不信」と題する記事を掲載した。筆者は、同紙中国総局長桃井裕理記者である。

    11~12日の日程で中央経済工作会議が開かれました。翌年の経済運営方針を定める年1回の重要会議です。今回の方針で注目されたのは「習近平政権の経済政策の方針転換」がいくつか示されたことです。経済不振への強い危機感のあらわれと受け止められています。

    (1)「主な方針転換は3つあります。①「適度に緩和的」な金融政策 ②財政赤字比率の引き上げを明記 ③9つの「重点項目」のトップに「内需拡大」を提示。問題なのは、この③の重点項目の9番目に記された「民生の保障・改善を通じた国民の充足感・幸福感・安心感の増大」です。こうした項目は過去の経済運営方針にもありましたが、今回のように充足感や幸福感など「人民の受け止め方」を前面に打ち出してきたのは初めてです。9番目の重点項目「民生」の最後に盛り込まれていたのは、「新時代の『楓橋経験』の堅持と発展」という方針です」

    9つの「重点項目」の最後に、「民生」が上げられている。「民政の保障・改善を加えた国民の充実感・幸福感・安心感の増大」に、「新時代の『楓橋経験』の堅持と発展」が入っているのだ。これは、国民の相互監視を意味する。25年経済も停滞予想で、国民の不満が出るので相互監視すると宣言しているのだ。

    (2)「『楓橋経験』は、1960年代初頭に浙江省諸曁市楓橋鎮で始まった「民衆主導」の治安管理方法が起源です。「小事不出村、大事不出鎮、矛盾不上交(小さな問題は村から出さず、大きな問題は町から出さず、難題は上に引き渡さない)」をスローガンに、住民が警察組織と一体化して住民自身を管理し、思想の統制を図る運動でした。住民同士の「相互監視社会」といえます。毛沢東はこの運動を「楓橋経験」と名付けて絶賛し、1963年11月に全国での大展開を命じました。その3年後に起きたのが文化大革命です。民衆が動員され、家族や友人、同僚が互いに監視し、密告し合いました」

    「楓橋経験」は、1960年代初頭に浙江省諸曁市楓橋鎮で始まった「相互監視」である。毛沢東は、「楓橋経験」を1963年11月に全国展開するように命じた。その3年後に起きたのが文化大革命だ。習近平氏が、この悲劇を繰返すのか不明だが、警戒すべき動きである。最近の人民解放軍の汚職取締りは、この「相互監視」と関係あるのか目が離せないだろう。

    (3)「その運動を現代によみがえらせたのが習氏です。習政権下で全土での政治的キャンペーンが始まり、各地の公安組織は「いかに民衆と一体化し『楓橋経験』を実践しているか」を競うようになりました。今回の経済工作会議は「経済の好循環には人々の幸福感が不可欠だ」と意義づけました。その方針は間違っていません。しかし、民生や社会保障改革という項目を「幸福感」という人々の考え方に関する言葉から始めたうえで、最後を「楓橋経験の発展」で締めくくったことには懸念を持たざるを得ません。中央が求める「幸福感」を持つこと自体が思想統制の1つの柱となりかねないためです」

    習氏は、国民に「幸福感」を抱くように強制する方針である。不満を取り締まる意向をハッキリ打ち出している。

    (4)「そもそも「相互監視」のような項目は、経済政策においてはありえない存在です。そんなものが経済運営方針の重点項目に掲げられた――。この事実から伝わってくるのは「充足感、幸福感、安心感」どころか、不信感以外の何者でもありません。経済分野における言論統制もひしひしと強まっています。中国経済メディアの財聯社は19日、「中国各地の証券監管局が証券会社などに、エコノミストや証券アナリストの対外発信の管理を強化するよう要請した」と報じました。それに先立ち、中国では2人の著名なエコノミストの言論が封殺されたことが話題となっていました」

    中国経済を批判するエコノミストへ取締りが行われている。

    (5)「その1人が国投証券首席エコノミストの高善文氏です。高氏は12月3日、同証券会社が広東省深圳市で開いたフォーラムで講演し、中国の経済成長率についてこう語りました。「新型コロナや不動産バブルの崩壊が起きたここ数年、中国の経済成長率は実態よりも毎年3%は高かった。高く見積もりすぎた経済成長率は累積10%には達する」。もう一人は11月24日に、東北証券首席エコノミストの付鵬氏が内部の講演会でこう指摘しました。「今年は突如として2000万人のオンライン配車の運転手が出現した。彼らはもともと中産階級だった」。中産階級の没落が消費減退の主要因であるとの主張です。いずれの発言も中国のSNSで物議を醸しましたが、すぐに削除され、2人のエコノミストのアカウントも封鎖されてしまいました」

    「北京で物言えば唇寒し」という状況が始まっている。習氏は、明らかに追い詰められている。ここまでやらなければ、政権維持が難しくなっているのだろう。お気の毒な事態になっている。

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