勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2025年01月

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    米当局は、中国の人工知能(AI)スタートアップ、DeepSeek(ディープシーク)が、シンガポールのサードパーティーを通じて米エヌビディアの先端半導体を購入し、半導体販売を巡る米国の規制を回避したか調査している。

    『ブルームバーグ』(1月31付)によれば、非公開情報だとして匿名を条件に話した関係者によると、ホワイトハウスと米連邦捜査局(FBI)の当局者もディープシークがシンガポールの仲介者を使い、中国への販売が禁止されているエヌビディアの半導体を購入したか確認を進めている。こうした状況から、中国へのエヌビディア製半導体の中国輸出を禁じるように、米国下院中国特別委員会は要請した。

    『ロイター』(1月31日付)は、「米下院中国特別委がエヌビディア製半導体の輸出規制要請、ディープシーク巡り」と題する記事を掲載した。

    米下院中国特別委員会の指導部がトランプ政権に対して、中国の新興人工知能(AI)企業ディープシークが利用しているとされるエヌビディア製半導体の輸出規制を検討するよう要請した。同委員会委員長で共和党のジョン・ムーレナー議員と民主党筆頭委員のラジャ・クリシュナムルティ議員が、29日付けでマイケル・ウォルツ大統領補佐官(国家安全保障担当)に送った書簡の内容が、30日明らかになった。


    (1)「両議員は書簡で、トランプ大統領が「戦略的な敵対勢力に関連した情勢」に照らして商務省と国務省主導で米国の輸出管理制度を徹底的に見直すよう指示した点に言及。「この見直しの一環として、エヌビディアの『H20』や同規格を輸出管理の対象にする国家安全保障上のメリットを考慮してほしい」と述べた。また両議員は、ディープシークが最近公表したAIモデルにはエヌビディアのH20が大量に使われており、このH20は現時点では米国の輸出管理対象になっていないと指摘した」

    イタリアのデータ保護当局は1月30日、中国ディープシークの人工知能(AI)アプリのイタリア国内でのアクセスを制限したと発表した。ディープシークに対し個人データの取り扱いを巡り説明を求めたものの、提示された情報は「不十分」だったと説明した。調査を開始したとも明らかにした。すでに、豪州政府もディープシークのAIアプリ利用を控えるように発表している。

    こうした問題が発生していることもあり、米国下院の中国特別委員会がエヌビディア製半導体の中国輸出の禁止措置を要請しているのであろう。


    『ブルームバーグ』(1月31日付)は、「米、DeepSeekがエヌビディア半導体をシンガポール経由で入手か調査」と題する記事を掲載した。

    米当局は中国の人工知能(AI)スタートアップ、DeepSeek(ディープシーク)がシンガポールのサードパーティーを通じて米エヌビディアの先端半導体を購入し、AIタスクに使用される半導体販売を巡る米国の規制を回避したか調査している。事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。

    (2)「トランプ大統領が、次期商務長官に指名したハワード・ラトニック氏は29日開かれた上院の指名承認公聴会で、ディープシークが米国の輸出規制を回避したとの見方を示した。ラトニック氏は、「彼らが大量購入し、回避する方法を見つけたエヌビディアの半導体でディープシークモデルを動かしている」と主張。「終わりにしなければならない。彼らがわれわれと競争するつもりなら、そうすればよい。だが、われわれとの競争でわれわれのツールを使うのをやめてほしい。従って、私はその点に関して非常に厳しく対応するつもりだ」と発言した」

    次期商務長官に指名されているハワード・ラトニック氏は、上院の指名承認公聴会で「エヌビディアの半導体でディープシークモデルを動かしている事態を終らせる」と発言した。輸出禁止含みである。


    (3)「ディープシークが今回示した飛躍的な前進は、中国を先端技術から遮断しようとする米国の試みの有効性に関して議論を引き起こした。さまざまな半導体と製造装置を対象とする同規制は、中国の半導体産業発展の取り組みを遅らせ、中国を軍事的優位に立たせる潜在力を秘めるAIにアクセスできないようにすることを目的としている。ディープシークは、モデル開発に使用したAI半導体を完全には明らかにしていないが、先月リリースされたV3モデルはエヌビディアの「H800」を2048個使って訓練されたと研究者は論文で指摘」

    ディープシークは、すでにモデル開発に使用したAI半導体がエヌビディアの「H800」であることを明らかにしている。

    (4)「H800は、バイデン前米政権が高性能なバージョンへの中国のアクセスを制限したことを受け、エヌビディアが中国市場向けに開発したものだ。その後、米当局は2023年10月にH800などエヌビディア製半導体を中国向けに禁止したため、エヌビディアは同市場向けに「H20」と呼ばれ、性能をさらに落とした別の半導体を設計することになった。トランプ政権当局者は現在、H20も制限するかどうか協議を始めている」

    エヌビディアは、中国市場向けに「H20」と呼ばれ、性能をさらに落とした別の半導体を設計することにしている。米国下院中国特別委員会は、半導体の対中全面禁輸方針であるから、「H20」輸出が不可能になる可能性が強まっている。


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    トヨタ自動車は1月30日、2024年のグループ世界販売が前年比3.7%減の10820000台と発表した。子会社のダイハツ工業の認証不正の影響などで過去最高だった23年の実績を割り込んだものの、独フォルクスワーゲン(VW)などを抑え5年連続の世界首位を維持した。トヨタの営業利益率は、24年に11.9%と跳ね上がり、23年の7.3%から大きく改善した。VWは、8.5%である。

    『日本経済新聞 電子版』(1月30日付)は、「トヨタ24年世界販売5年連続首位、不正影響もVWに大差」と題する記事を掲載した。

    トヨタ自動車が30日発表した2024年のグループ世界販売台数(ダイハツ工業、日野自動車含む)は、前年比4%減の1082万台だった。独フォルクスワーゲン(VW)グループの903万台に大差を付け、5年連続で世界首位となった。認証不正やリコール(回収・無償修理)の影響があったものの、強みのハイブリッド車(HV)が欧米で好調だった。


    (1)「トヨタ単体(レクサス含む)の世界販売台数は1%減の1015万台と、2年連続で1000万台を上回った。地域別では北米と欧州がそれぞれ4%増で、「RAV4」「ヤリス」などのHVモデルが伸びた。中国は現地メーカーとの価格競争が激化しているが、7%減に踏みとどまった。国内販売は14%減と2年ぶりに前年実績を割り込んだ。車の量産に必要な「型式指定」の不正問題を受け、約4カ月にわたって「ヤリスクロス」の受注を停止した影響が出た。電気式スイッチの不具合により、「プリウス」の出荷を2カ月止めたことも響いた」

    トヨタ自動車単体では、世界販売台数は1%減の1015万台と、2年連続で1000万台を上回った。これで、トヨタの実力を遺憾なく発揮していることがわかる。中国市場では7%減になったが、他国市場で挽回している。24年営業利益率は、11.9%とここ数年では久しぶりに二桁を記録した。余力十分で世界市場を制覇していることが分る。


    (2)「世界での電動車販売は23%増の453万台と、全体の45%を占めた。HVは21%増の414万台で、初めて400万台を超えた。車両価格が手ごろで燃費が良いことから人気が高まっており、トヨタは一部地域でHV専用モデルを導入している。電気自動車(EV)は34%増の13万台だった。前年より大幅に伸びたが、先行する米テスラ(179万台)や中国・比亜迪(BYD、176万台)、VW(74万台)などとの差は依然として大きい」

    EVとHVの電動車が、売上全体の45%を占めている。HVは、すでに初期開発コストを完全に回収しており、今後は作れば作るほど利益率が高まる構造になっている。

    (3)「トヨタグループ全体での世界生産は8%減の1061万台、トヨタ単体では5%減の952万台だった。トヨタは25年の世界生産(単体)について、1000万台弱とする計画を仕入れ先に伝えている。内訳は海外生産が660万台弱、国内生産が約340万台とした」

    先に販売実績を発表していたVWによると、同社の24年の販売台数は同2.3%減の約903万台だった。VWが主力市場とする中国では、10%近い減少となったことが響いた。


    世界的なEV不振にも関わらず、トヨタは26年の世界生産が1040万台程度、27年に1070万台程度と増加基調である。これは、新型EVの投入が予定されている結果だ。EVは、25年が40万台強で、26年はさらに2倍以上へ増やす計画である。

    VWは、EVの販売戦略が大きく狂ったこともあり25年の世界販売台数の落込みが不可避となっている。トヨタとの差は、一段と開く状況になった。

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    メルマガ629号で、「習近平、『毛沢東』威光にすがる 『失われた12年』 危なくなった4期目」と題する記事を掲載した。これを裏付けるようなデータが、中国人民銀行(中央銀行)から発表された。24年の人民元の新規貸出が、20%(注:正しくは7.3%)も減ったのである。11年の新規貸出は前年比6.1%減であった。24年は、これを上回る減少率になった。端的に言えば、「恐慌状態」を示している。

    習近平氏が、国家主席に就任したのは2012年である。11年の新規貸出落込みを意識して、不動産バブルに依存する経済運営に走ったことは十分に想像できる。自らの経済運営能力の確かさを見せつけたかったのであろう。現実には、この間の政策がすべて否定される形で24年の新規貸出が急減する事態になった。金融緩和しても、新規に借りる意欲が消え失せているのだ。習氏の政策が、なんら効をなさなかったという意味である。「習近平氏よ、お分かりか」なのだ。


    『日本経済新聞 電子版』(1月30日付)は、「中国、24年銀行貸し出し13年ぶり減 金利負担の実感重く」と題する記事を掲載した。

    中国で銀行融資が落ち込んでいる。中国人民銀行(中央銀行)によると2024年の人民元建て新規貸し出しは前年を20%(注:正しくは7.3%減)下回った。13年ぶりに減少した。不動産不況に端を発した景気停滞が長引き、民間企業や家計が借り入れを伴う投資に慎重になっている。

    (1)「返済額を差し引いた24年の新規貸出額は18兆0900億元(約400兆円)だった。借入期間の長い中長期資金を銀行から調達する動きが鈍いためだ。借り入れ主体で分けてみると、企業が借りた中長期資金は26%減り、6年ぶりにマイナスとなった。とくに民間企業は景気停滞に加えて、国有企業が幅を利かせて民業を圧迫する「国進民退」のあおりを受けて先行き不安が強い。民間企業が手掛けた24年の固定資産投資は2年連続で前年を下回った」


    金融緩和を行いながら新規貸出が減っているのは、「流動性の罠」と呼ばれる現象である。これは、金利機能が働かない状況に陥っている証拠だ。こうなると、金融緩和よりも、財政支出が求められる緊急事態になっている。習氏には、その認識が欠如している。習氏が、財政赤字拡大を拒否しているので、側近も異を唱えられないのだ。「亭主が好きな赤烏帽子」という事態になっている。

    (2)「住宅や自動車のローンが大半を占める家計向けの中長期資金も12%減った。深刻な不動産市況で新築住宅の販売面積がピークの21年から半減。買い手が減って価格が下がり、「待てば住宅はもっと値下がりする」との予想から買い控えが広がった。人民銀行は景気下支えのために銀行融資を増やそうと、金融緩和を進めてきた。24年は3回の利下げに踏み切ったが、下げ幅は小さい。インフレ率を加味した実質の政策金利をみると、12月時点で3%と、日米欧より高い。中国の企業や家計が実感する金利負担は相対的に重いことも借り入れが伸びない一因とみられる」

    利下げしても、それによって貸出が増える状況ではない。国債利回りの上昇が、顕著に示すように先行きに不安感が充満している。


    (3)「習近平指導部は24年12月に開いた中央経済工作会議で、25年の経済運営方針として金融政策は「適度に緩和的」な姿勢をとると決めた。利下げの幅を拡大させるとの予測も浮上しているが、追加の金融緩和は銀行の利ざやをさらに圧迫しかねない。国家金融監督管理総局によると、24年9月時点の利ざやは1.53%で過去最低を更新した。利ざやが縮小し銀行の収益力が落ち込むと、不動産不況で膨らんだ不良債権の処理に手間取り、金融リスクの抑制に支障を来す恐れがある」

    24年9月時点の利ざや1.53%は、利ざやの下限である1.8%を下回っている。銀行自身に利下げの余地がなくなっている証明だ。後は、財政支出拡大しか道がない。


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    最先端半導体の国産化を目指すラピダスは、国内の無理解によって「いずれ倒産してTSMCへ吸収される」というデマで飛び交っている。日本の技術開発力を全く信用しない「暴論」と言うほかない。最近の特色である「非公式情報」が、あたかも信頼度100%の威力を持って通用しているから驚くのだ。最近は、農業専門家までが「参戦」しており、ラピダスがTSMCに買収されるのが「オチ」としているから驚く。

    こういう俗説・珍説をよそに、半導体人材養成は着実に進んでいる。ラピダス進出先の北海道大学は、政府支援で半導体ラボを設置する。実際の製造装置を使った半導体教育を行うもの。国策事業である半導体育成は、雑音をよそに確実に進んでいる。

    『日本経済新聞 電子版』(1月28日付)は、「北大に半導体製造の試作ラボ、国が採択 人材育成拠点」と題する記事を掲載した。

    北海道や札幌市などは1月28日、内閣府の「地方大学・地域産業創生交付金」の対象事業に採択されたと発表した。千歳市や北海道大学、公立千歳科学技術大学とも連携し、半導体の製造や研究、人材育成を一体的に手掛ける複合拠点の形成を目指す。



    (1)「北大内に、半導体の一連の製造工程を再現して試作する「半導体プロトタイピングラボ」を新設する。専用のスペースに機材などを順次導入し、2027年度をめどに本格的な体制を整える。ラボを使った実習プログラムもつくり、道内の他大学や高等専門学校(高専)にも提供することを想定している」

    日本政府が、半導体人材教育支援体制を組むのは、2030年までに半導体育成で10兆円を投入する一環である。半導体が、日本産業の強化の上で大きな柱になることを見込んでいるからだ。これまで北海道は、半導体ビジネスと無縁の地域であっただけに、人材育成の種まきを行う。

    (2)「北大は学内の半導体リソースを一元化し、半導体教育研究の司令塔となる「半導体フロンティア教育研究機構」を25年4月に開設予定だ。同機構を中心に大学院まで一貫して半導体を学べる体制を構築する計画で、今回の交付金も活用する。千歳科技大とも連携し、千歳市に進出した最先端半導体の量産を目指すラピダスを含めた関連企業との共同研究にもつなげる」

    北大が、半導体技術教育のセンターになればその波及効果は大きい。クラーク博士の「少年よ、大志を抱け」(1877年)から147年で、北海道に最先端技術の種が蒔かれる。


    (3)「同交付金は地方創生のため、魅力的な地域産業や雇用を創出することなどを狙いとした事業にあてる。事業開始から5年間、国から事業費の一部として年間5000万〜7億円を目安に補助を受ける。道などの事業は25年度から29年度までが補助の対象。詳細な支援額は当該自治体の予算編成の進捗によって決まる」

    北海道には、高専4校が設立されている。半導体教育の底辺を担う優位な人材が育てられる。このように、人材供給のきめ細かい計画が作られているが、ラピダスを軌道に乗せるには4つの要素が必要である。

    技術・人材・資金・需要である。「ラピダス否定派」は、これまですべてを「不可能」としてきた。だが、現実は次々と難問が解決されている。
    1)技術:25年4月から「2ナノ」半導体の試作が始まる。実は、すでにラピダス千歳工場隣接設備を利用し、試作準備過程が始まっている。
    2)人材:北大中心に準備が始まる。
    3)資金:政府が全面的責任を果すことを公表している。
    4)需要:試作品をユーザーへ提供されてから具体化する。現在、すでに40社と交渉中とされる。


    『日本経済新聞 電子版』(1月30日付)は、「中国AIと開発競争、ASMLのCEO『勝者はまだ見えず』」と題する記事を掲載した。

    オランダの半導体製造装置大手、ASMLホールディングのクリストフ・フーケ最高経営責任者(CEO)は29日、日本経済新聞の取材にも応じた。フーケ氏は、日本市場への期待を口にしながらも、復活には「早期の顧客獲得が課題になる」との見解を述べた。

    (4)「24年にCEOへ就任したフーケ氏は、ラピダスのEUV露光装置の導入を「重要なマイルストーン」とした。さらに長い半導体産業の歴史や、多くの技術者がいる点を強みとして挙げ、「日本には(成長の)機会がある」と話した」

    ASMLは、ラピダスが独自の製造技術を確立していることを認識している。これは、重要な点だ。世間のラピダス否定派は、これすら認めようとしていない。

    (5)「フーケ氏は、ラピダスが量産を目指す最先端のロジック半導体は、「先行企業に追いつくための困難が非常に大きい」と現時点での見方を語った。ラピダスが成功する上では厳しい競争の中でも他社に打ち勝ち、早期に顧客を確保することが必要になるとの認識を示した。実際に、「今の段階では日本に研究開発(R&D)拠点などを設ける計画はない」とも明かすなど、日本での一層の体制強化はラピダスが率いる復活の行方次第だという」

    ラピダスは、すでにTSMCより進んだ技術体系を確立している。ラピダス半導体は、TSMCと分野の異なるAI半導体(CPUとアクセラレータを結合)製品分野を追求している。ラピダスは、TSMCと製造技術も需要先も異なる。ラピダスは、TSMCを上回る技術体系を確立したのだ。5月には、ラピダスの製品納入先が明らかになる。大泉一貫宮城大学名誉教授は、「ラピダスのTSMC売却もあり得る」と悲観論を言い立てている。専門分野の異なる農業専門家・大泉氏の見立ては、外れるであろう。


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    米海軍は、中国が2027年までに台湾へ侵攻するという前提で防御体制を固めている。その主要武器の一つがステルス・ミサイルである。このミサイルは、目標地点に接近すると飛行高度を急激に下げ、海上すれすれで飛行するのでレーダーが捕捉不可能とされる。中国が、このほど行った「机上演習」では主力駆逐艦をもってしても防御不可能となった。

    『朝鮮日報』(1月30日付)は、「中国研究者ら、『中国の主力駆逐艦、米ステルス・ミサイルにお手上げ』南シナ海有事をウォーゲームで検証」と題する記事を掲載した。

    香港英字紙『サウスチャイナ・モーニングポスト(SCMP)』は1月3日、中国国内の学術誌に掲載された論文を引用しつつ、このように報じました。中国が、誇る排水量1万1000トン級の055型駆逐艦は、米国の長距離対艦ミサイル(LRASM)に対して無力で、一方的にやられかねない-とする中国内部でのウォーゲームの結果が公開されました。電子攻撃によってレーダーをかく乱されても、赤外線追跡システムを利用して駆逐艦を精密打撃する、という内容でした。

    中国内部でのウォーゲームの結果は、これまで何度か公開されたことがありますが、自国兵器の先端性能や攻撃力をアピールするケースが大部分でした。今回は「中国の主力駆逐艦が米国の先端対艦ミサイルにやられかねない」という内容で、この結果に当惑する反応が中国内部からも出ています。


    (1)「今回のウォーゲームの結果を盛り込んだ論文は、昨年11月29日に中国の学術誌『指揮統制とシミュレーション』に掲載されたものだといいます。研究チームは、米国と中国の空母機動部隊が台湾南東のプラタス島(東沙島)付近の海域でぶつかる状況を想定しました。南シナ海の北東で、台湾南西部に属する海域です」

    ウォーゲームの「戦場」は、南シナ海の北東で、台湾南西部に属する海域だ。

    (2)「米空母機動部隊は、戦闘機や駆逐艦など複数のプラットフォームから中国の大型駆逐艦を狙って10発のLRASMを発射しました。高高度を飛行したミサイルは、中国の空母機動部隊に接近すると高度を14メートルまで落としてレーダーを回避します。しかし10キロまで近接したところで中国軍のEA(注:電子攻撃)を受けてレーダーがきちんと作動しなくなりました。それでもLRASMは熱画像カメラで標的を追跡し、巡航を続けました。目標に迫ってからはハイスピードで高度を上げ、急上昇して打撃地点を設定し、ダイビングするように落下して中国の駆逐艦をたたいたといいます」

    LRASM(ステルス・ミサイル)は、「忍者」である。変幻自在にスピードど飛行高度を変えて攻撃してくるからだ。AI(人工知能)の勝利であろう。


    (3)「このミサイルの具体的な諸元や作動方式などは機密に分類されていますが、中国の研究チームは、公開された情報を中心にこのミサイルの諸元と作動方式を把握し、シミュレーションを進めた-とSCMP紙は伝えました。同紙は、「研究チームが厳格な事実主義を基にシミュレーションを進め、軍事的な衝突の状況において米国の強力な攻撃兵器に効果的な対応をするための手段と戦術を開発することが目的」だと記しました。

    中国は、LRASMの公表されている性能から推測して机上演習に臨んだ結果が、惨敗であった。

    (4)「LRASMは、米国のシンクタンク「戦略国際問題研究所(CSIS)」の台湾侵攻シミュレーションでも常連のように登場します。B1B戦略爆撃機が、このミサイルを多数搭載し、発射すれば、台湾海峡を渡る中国海軍の艦隊に大打撃を与えることができるのです。CSISは米軍に、現在は400発水準となっているこのミサイルの在庫を大幅に増やすべきだとも勧告しました。B1Bは、1機で最大24発のLRASMを搭載できるといいます」

    シンクタンクCSISは、LRASM在庫を現在の400発からもっと増やすべきとしている。B1B戦略爆撃機は、1機で最大24発のLRASMを登載可能というから、400発では、すぐに在庫払底になる。


    (5)「このミサイルは、巡航速度がマッハ0.7~0.8程度で、有効射程は370キロ。実際には550キロ程度まで打撃可能といいます。極超音速対艦弾道ミサイルより低速ですが、専門家らは、だからこそ、より効率的な兵器だとみています。極超音速ミサイルは、高速ではあるものの特有のプラズマ波などによってセンサーに捕捉されやすく、むしろ対応が容易なのです」

    ステルス・ミサイル攻撃は、最大550キロ先から行えるという。姿のみえない場所から攻撃するので「忍者」そのものであろう。

    (6)「米国は、2027年に中国の台湾侵攻が現実になるかもしれないという想定の下、しっかりと対応戦略を具体化している雰囲気です。西太平洋を担当する米海軍第7艦隊のフレッド・ケイチャー司令官は今年1月10日、産経新聞のインタビューで「AIを組み込んだ無人機や無人艇などの新たな戦力が今年8月までに第7艦隊に導入される」と語りました。2023年に、それぞれ数千基に達する無人機・無人艇を大量生産する「レプリケーター(複製者)プロジェクト」をスタートさせました。自律運航可能な無人機・無人艇を大量に複製して中国の戦闘機・艦艇の物量攻勢に対応するというわけです」

    米海軍は、すでに27年に向けて対応完了である。一方の中国は、ミサイル部隊が汚職で最高幹部が逮捕される事態だ。これでは、ますます中国に勝ち目がなくなる。




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