米国のドナルド・トランプ大統領は27日、中国からの輸入品に対する関税を来週からさらに10%上乗せすると表明した。合成麻薬フェンタニルの取引における中国の役割を理由に挙げた。新たな措置は3月4日の発動を予定している。トランプ氏は今月初めに中国からの輸入品に対して10%の追加関税を発動済みで、上乗せ幅は倍の20%になる。
中国企業は、すでに「トランプ関税」引上げを予測して、海外移転を早めている。問題は、こうした生産機能の移転によって、産業空洞化が起こることだ。ますます雇用減少に見舞われることになる。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』(2月28日付)は、「トランプ関税かわす中国メーカー、生産移転を加速 東南アジアでの生産を拡大」と題する記事を掲載した。
トランプ米政権が2月初めに中国からの輸入品に新たに10%の関税を課したことを受け、中国の電子機器メーカー、安集利安科技は追加関税を回避する計画を推し進めた。現在、10%の関税と今後起こり得る追加措置により、安集利安はマレーシアでの生産体制を急ピッチで整え、春には最初の製品を米国に出荷することを目指している。安集利安のエグゼクティブ・バイスプレジデント、ルノー・アンジョラン氏は「作業の加速を余儀なくされている」と述べた。同氏は他の工場を視察するためインドを近く訪問する予定だ。
(1)「多くの中国製造業者にとって、トランプ氏の政権復帰は、東南アジアを中心に工場を開設したりパートナー企業を見つけたりする計画に緊急性をもたらした。世界の工場としての中国を補う選択肢を見つける「チャイナ・プラスワン」戦略に着手した外国企業もあり、他国での生産を拡大している。一部の工場は、関税で米国のバイヤーのコストが上昇する中、価格を引き下げて製品の魅力を維持する方法を模索している。しかし、中国の多くの業界では利益率がすでに低く、価格を引き下げる余地は限定的だ」
中国企業自体が、「チャイナ・プラスワン」戦略を構築せざるを得ない時代になった。「トランプ空襲」に備えて「疎開」することだ。この疎開は、片道切符になる。再び、中国へ戻ることはない。
(2)「関税回避の方法を探る中国企業は、ベトナム、インドネシア、タイなどで生産を拡大している。中国商務省によると、東南アジア諸国連合(ASEAN)の製造業への中国からの直接投資は2023年に約91億ドル(約1兆3600億円)となり、18年の約45億ドルから増加した。調査会社ファソム・コンサルティングの分析によると、22年以降、東アジアおよび太平洋地域への中国からの投資の大半は、工場や新規事業を新設する「グリーンフィールド投資」が占めている」
中国は、ベトナム、インドネシア、タイなど東南アジア諸国連合(ASEAN)製造業への直接投資が、2023年に約91億ドル(約1兆3600億円)となり、18年の約45億ドルから倍増した。
(3)「イリノイ州を拠点とする家庭用品会社ハニー・キャン・ドゥー・インターナショナルのスティーブ・グリーンスポン最高経営責任者(CEO)は、トランプ政権による対中関税第1弾の導入前は自社製品の約50%を中国で、残りをベトナムと台湾で生産していたと推定している。現在では中国での生産は約20%に減少する一方、ベトナムが約60%、台湾が残りの20%を占めている。同社の中国の請負業者でベルベットハンガーを製造する企業は、カンボジアに工場を設立中だ。グリーンスポン氏は約6カ月で完成すると予想しており、工場が稼働し次第、生産をそこに移転させることを提案している。グリーンスポン氏は「2025年末の時点で、中国で重要な事業を行っているとは考えにくい」と述べた」
イリノイ州を拠点とする家庭用品会社CEOは、米中関税戦争が起こる前の生産で、中国が50%を占めていた。現在は、中国生産が約20%に減少しており、25年末はゼロ予測である。
(4)「サプライチェーンの移転は容易ではない。新しい場所を探し、施設を建設し、労働者を訓練し、現地の規制を理解し、生産の品質とスピードを向上させるには時間とコストがかかる。一部の製造業者は、中国では堅固なインフラとサプライチェーンが確立しており、他国よりも事業展開が容易だと指摘する。一部の生産を他国に移したとしても、製品の原材料は主に中国から調達する必要があるとの声も多く聞かれる」
生産機能の移転は、生やさしい話ではない。一部の生産を他国に移したとしても、製品原材料は主に中国から調達する必要がある。
(5)「安集利安のアンジョラン氏は、欧州やオーストラリアの顧客を増やそうとすることは可能だが、関税が引き上げられても米国の顧客を諦めることはないと話した。同社が製造する製品の約半分が米国の顧客向けだと推定している。トランプ氏の関税政策は急激な変化を伴うものの、アンジョラン氏は何もせずに事態の収束を待つ余裕はないと語った。中国製造業者にとって、米国企業に製品を販売することはますます困難になると彼は考えている。「これはわれわれが単に回避できる巨大な潮流ではない」とアンジョラン氏は述べた」
安集利安のアンジョラン氏は、関税が引き上げられても米国市場を諦めないという。それだけ、米国市場の魅力が大きいことだ。米中対立が、中国企業を追い詰めている。