勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2025年03月

    テイカカズラ
       

    尹錫悦(ユン・ソクヨル)弾劾審判の判決日程が、遅れに遅れている。盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領と朴槿恵(パク・クネ)元大統領弾劾事件の場合、2週間以内に判決が出ていることとくらべ、今回は異常なまでの遅れである。これだけ遅れているのは、憲法裁判官の間で意見の相違が大きく、決定が難航しているという分析が有力視されている。これに慌てているのが左派陣営である。早く尹氏の弾劾決定を受けて、大統領選挙に臨みたいからだ。

    『ハンギョレ新聞』(3月31日付)は、「尹大統領弾劾審判、4月18日以降に持ち越される『最悪のケース』へと高まる懸念」と題する記事を掲載した。

    2月25日、尹大統領弾劾裁判の弁論が終結した後、遅くとも3月中旬には決定宣告が出るだろうという期待が多かった。3月中旬には、20日か21日の判決を目標に、評議が順調に進んでいると把握されていた。


    (1)「宣告日程が決まらないなど、雰囲気が急変したことで、今後の日程さえ見通しが立たなくなった。最後の争点整理過程で、これまで沈黙していた誰かが「別の声」をあげたものと推定される。24日、ハン・ドクス首相弾劾宣告では、尹大統領弾劾事件の行方を推し量ることができるという予想とは裏腹に、憲法裁は全くヒントを残さなかった。むしろ5(棄却)対2(却下)対1(認容)で、裁判官が「分化」したことだけが確認された」

    ハン・ドクス首相弾劾宣告では、8人の憲法裁判官のうち5人が棄却、2人が却下で認容1人であった。このように意見が分かれたことから、尹大統領弾劾でも意見が分かれているとの見方が強まっている。この背後には、最大野党「共に民主党」が、執拗なまでに政策遂行を妨害した事実が浮かび上がったことだ。尹氏だけの責任でなく、「共に民主党」にも責任があるという見方である。


    (2)「裁判官が、どのような点において意見の相違があるかをめぐり、憲法裁の外部では様々な分析が飛び交っている。まず、決定文の作成などの手続き的問題が指摘され、時間がかかっているとみられている。検察の調書と弾劾裁判での陳述に違いがあるが、決定文の草案が検察調書を基盤に作成されており、これを法廷陳述に変えるのに時間がかかっているという推定だ。判決があまりにも遅くなり、尹大統領弾劾事件の罷免に必要な認容の定足数6人に達しないのではないかという懸念の声もあがっている」

    弾劾は、「政治裁判」である。国会の弾劾告発では当初、「内乱罪」が含められていたが、後に削除されている。内乱罪が要件でない弾劾告発であれば、純粋な政治的判断が問われてくる。憲法裁判官も難しい判断を求められる。

    (3)「6人以上が認容の意見を出さなければ、罷免は成立せず、尹大統領は職務に復帰する。元最高裁判事は30日、ハンギョレとの電話インタビューで「こんなに遅くまで結論が出ないのは、定足数6人を満たしていないからかもしれない。一人が別の意見を出したことで、それに同調した人が出てきた可能性もある」とし、「棄却や却下の論理がいくらつじつまが合わなくても、裁判官がそのように主張して意見を貫くと、方法がない」と語った」

    6人の裁判官が、意見の一致がなければ「棄却や却下の可能性もある」との見立ても出ている。尹大統領の行動にも「一定の合理性があった」という判断があるから、意見がまとまらないのであろう。


    (4)「4月まで持ち越された尹大統領弾劾宣告の最終ラインはムン・ヒョンベ裁判官とイ・ミソン裁判官が退任する4月18日だ。4月10日は両裁判官退任前の「8人体制」でできる最後の定期宣告日だ。憲法裁は弁論が終結したパク・ソンジェ法務部長官の弾劾事件も「8人体制」で結論を出す方針だという。結論を出さなければならない「課題」が山積しているのだ」

    4月18日には、2人の裁判官が退任する。そうなると、4月10日が「8人裁判官」最後の体制という。この日に、結論を出さなければならない。

    (6)「このような状況で、両裁判官の退任までに尹大統領弾劾事件の結論が出ない可能性まで取りざたされている。裁判官の間で激論が続き、尹大統領弾劾案の結論を出すことができず、両裁判官が退任するかもしれないということだ。こうなれば、憲法裁は再び「6人体制」に戻り、事実上任務の遂行が不可能な状態になる。西江大学法科大学院のイム・ジボン教授は、「決定文を整えるのにここまで時間がかかるとは考えられない。政治的な考慮をして時間を引き延ばす裁判官がいるのではないかと疑われる」とし、「国民が承服できる決定を速かに下さなければならないのに、すでに適期が過ぎた。憲法裁判の決定は説得力のある内容も重要だが、時期も重要だ」と指摘した」

    4月10日に、結論が出ないケースもあり得るという。左派陣営は、尹大統領弾劾結論が出なければ、大統領選も不可能になる。ヤキモキしている理由はここにある。


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    中国では不況になると予想外の事態が起こる。かつて、下水の油を再製して「食用油」として売られて大騒ぎになった事件がある。また、それを彷彿とさせる事態が始まっている。中国市民は今や、一元でも安い食事をしたいと血眼になっている。中国は、食事でも油で炒めたものを好んでいる。食堂は、安い食事「需要」に答えるには、食用油コストを引下げなければならない。こうして再び、下水の油を再製した「食用油」需要が出てくるのだろう。

    『レコードチャイナ』(3月30日付)は、「深夜にマンホール開け『地溝油』をすくう謎の3人組、飲食店での再利用に懸念―中国」と題する記事を掲載した。

    中国メディア『封面新聞』(3月27日付)は、四川省成都市で深夜に「地溝油(ドブ油)」と呼ばれる下水油を盗んでいるとの通報が市民から当局に寄せられたと報じた。


    (1)「記事によると、同市に住む陳(チェン)さんが23日午前1時ごろ、友人との会食を終えて道路を歩いていた際に、マンホールの蓋(ふた)を開けて下水油をすくい上げている3人組に偶然遭遇。現場付近には「吐きそうになる」ほどの悪臭が立ち込めており、3人組が回収した油を飲食店に戻すのではないかと案じた陳さんは動画を撮影して地元当局に調査を依頼した」

    中国の末端経済が、いかに沈滞しているかを雄弁に物語っている。深夜にマンホールの蓋を開けて廃油を集めているとは、悲惨そのものである。ここまで落ちぶれているのは、生業がなくなった結果である。不況期には、こういういかがわしい「行為」が現れる。

    こんな状況下で、EV(電気自動車)の過剰生産が行われている。生産者物価指数は、前年比で30ヶ月近くもマイナスで、これが消費者物価上昇率のマイナスへ転嫁している。「下水油」のくみ上げも、こうした習近平氏の間違った政策の結果である。


    (2)「陳さんによると、3人のうち「実行役」は2人で、「男1人と女1人が、路傍のマンホールの蓋を開け、中から黄色い油汚れをすくい上げ、脇の白いバケツに入れていた」という。思わず「おい、何をやっているんだ、下水油を盗んでいるのか」と叫ぶと、2人は付近の路地に停車していた車の中の1人と合流、下水油を車内の大きなバケツに移し替えた。車内にはバケツが数個も積まれていたという。その後、3人は車に乗って現場から立ち去った。陳さんは「以前にも似たようなケースをたくさん見てきたので、これらの油が回収されて食卓に戻るのではないかと心配だ」とコメントしている」

    「3人組」は、歩行者から声をかけられても慌てることなく立ち去ったという。これは、常連の「下水油」集めであろう。初心者であれば、慌てふためいて逃げ出すはず。「ベテラン」の仕業だ。


    (3)「記事は、同市ではこれまでにも深夜の「下水油盗み取り」に関する通報が寄せられており、市場監督管理局などが調べたところ、市内の油脂回収業者が下水油を回収してバイオディーゼル燃料の生産原料として省外に輸送していたと紹介。今回の「3人組」が正規の業者によるものであるかは現在当局が調査中だと伝えた。陳さんは、仮に正規の業者ならば車両にロゴを入れる、ユニホームを着る、マンホール周囲に告知を出すなどの措置をすべきであり、無許可営業や下水油の「食用再利用」という違法行為ならば厳罰に処すべきだと語った。記事を読んだネットユーザーからも徹底調査や違反者への厳しい処分を求める声が多く寄せられている」

    下水油の再利用とすれば、外食で安い食事を取れなくなる。それにしても、こういうことを苦もなく考えつく中国社会の「非倫理性」に驚くほかない。どんなに苦しくても守らなければならない「最低ルール」があるはず。それが、簡単に無視されているからだ。中国社会の基盤が、これほど脆弱であるとは考えさせられる問題である。「中華民族再興」は、難しい課題だ。


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    財務力がリスク吸収
    全自動5段階レベル
    テスラを上回る評価
    NTT提携がプラス
    ラピダス裏方で大役

    米国自動車市場は、4月3日からの「25%関税」で大揺れだ。トランプ米大統領は、これまで自動車関税に言及してきたので、海外メーカーは駆け込み輸出に大わらわである。この中で唯一トヨタ自動車だけは、駆け込み輸出を見送っている。トヨタの説明では、過剰在庫を持たないのが「経営原則」としている。一時の騒ぎに巻き込まれない。こういう「自信」をみせているのだ。

    トヨタが、2月の世界の販売・生産実績を発表した。世界販売(トヨタ単体)は、前年同月比5.8%増。世界生産も同5.8%増で、いずれも2カ月連続で前年を上回った。新車を投入した効果で、国内販売が引き続き好調。海外は生産・販売とも2月として過去最高を記録した。


    海外販売では、中国が15.0%増と好調。前年より稼働日が多かったほか、当局の補助金施策や販売店の販売促進策が奏功した。北米は、同6.5%減と対照的だ。米国需要は引き続き堅調だが、前年に比べ稼働日が少なかったことと、人気の高いハイブリッド車(HV)の在庫不足が響いた結果だ。

    注目された日本から米国への輸出は、前年同期比1.7%減と、駆け込みがなかった。関税発動前に米国輸出を増やして、在庫手当を厚くする対策を全く講じなかったのだ。3月に入っても変わらない姿勢である。トヨタが、ここまで「冷静」な理由は何か。米国でのHV人気の高さと、関税分の値上がりがあっても他社との競争で勝ち抜けるという見通しだ。そうでなければ、米国への駆け込み輸出へ傾斜したであろう。

    財務力がリスク吸収
    トヨタが、眼前のアクシデントに右往左往せず、悠然と自社の経営ポリシーに従っているのは、あらゆる状況変化に立ち向かえる財務体質の強靱さが裏付けだ。目的に向って、すべてのリスクを計算しながら経営プロセスを踏める余裕があるのは、びくともしない財務力なしでは不可能だ。これが、トヨタの長期的安定戦略の基盤を構築している。


    トヨタは、EV(電気自動車)も電池が勝負であることを早くから見抜いて、世界で最も早く全固体電池開発に着手していた。現在のリチウム電池が持つ固有の欠陥によって、EVブームが頓挫することを見抜いていた。現実は、その通りになって欧米の自動車企業を苦しめている。トヨタは、EVに代わってHV人気が来ると読んでいたが、ズバリこの戦略が当って大受けである。「人の行く裏に道あり花の山」を実践している。

    トヨタが挑戦する最終目標は、全自動運転車(FAV)の開発である。米国アップルは、過去10年にわたり1000億ドル(約15兆円)の研究資金を投入し、最後は諦めるほかなかった。世界最高峰のIT企業ですら、放棄せざるを得ないほどの「難路」である。トヨタは、ほとんど宣伝もせずに地道な開発を続けている。

    トヨタの全自動運転車開発で、最終的なライバルとなるのは米国テスラであろう。テスラと言えば、マスクCEOがトランプ大統領の側近に名を連ね政治へ没頭している。マスク氏の目的が、全自動運転車実験の規制緩和にあると指摘する向きもある。だが、かりに目的が叶って「レベル3」への実験が早まっても、人命損傷事故が起こればお手上げである。その意味で、当局の規制緩和は全自動運転車を実現する上で何の意味もないのだ。マスク氏は、政治へ深入りすることで世論の反発を受ければ逆効果になろう。


    全自動5段階レベル
    ここで、全自動運転車への規制レベルを明らかにしたい。運転システムの支援度合いによって5段階のレベルに分類される。
    レベル1 ハンドル操作などを補助する
    レベル2 システムが運転を部分的に支援する
    レベル3 特定条件下でシステムが運転操作を行う
    レベル4 特定条件下で完全にシステムが運転を行う(無人運転も可能)
    レベル5 全ての状況でシステムが運転を行う(無人運転)

    全自動運転車は、レベル5の段階を指す。現状はレベル2の段階だ。それだけに、レベル5へ達するまでには、多くの実証実験を重ねなければならない。自動運転車は、世界の中で日本が最も切実に必要としている「モビリティ」(移動手段)である。

    日本では、すでにドライバー不足でモビリティ社会に大きな影を落としている。バス路線では、運行バス本数を減らす事態になっているほど。こうして、高齢化社会における公共移動手段の確保が困難になっている。それだけでない。物流業界の人手不足など、多くの難題解決に自動運転車の一日も早い実現が待たれる。それには、着実な実証実験が不可欠である。人命の損傷は絶対に許されない領域だけに、レベル5実現はまだ先の話になる。そのためにも、現在の実験継続が不可欠である。


    日本政府は3月26日、国家戦略技術として8分野を選定した。日本企業の海外展開を後押しする政策決定である。このなかに、モビリティが入っている。これは日本企業が、全自動運転技術の国際標準になると宣言したことだ。政府が、日本の全自動運転技術を世界最先端にあると認め、支援することを公表したのだ。この最先端技術こそ、トヨタが開発している「MTC=モビリティ・ティームメート・コンセプト」方式にそったものだ。

    MTCは、次のような内容だ。ドライバーは、運転を楽しむ自由を持ちながらも、必要な時には自動運転技術によるサポートを受けられるよう設計されている。例えば、高速道路では「ショーファーモード」を選択して自動運転を行い、都市部では「ガーディアンモード」による安全運転支援を受けることが可能だ。こういう柔軟さが、レベル5の全自動運転車に必要な条件になろう。(つづく)

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    経営再建中の中国不動産大手、碧桂園控股(カントリー・ガーデン・ホールディングス)の2024年12月期連結決算は、最終損益が328億元(約6800億円)の大赤字となった。4期連続の大赤字である。香港大法院は、このような碧桂園に対する法的整理の申請に首を立てに振らないで「生存」させている。法的整理=倒産となれば、連鎖倒産が激増して社会不安を生むという経済を超えた理由だ。

    『日本経済新聞 電子版』(3月30日付)は、「中国碧桂園、最終赤字6800億円 不動産不況で3期連続」と題する記事を掲載した。
     
    碧桂園は22年、中国の不動産販売契約額で首位であった。その後、不動産不況で資金繰り難に陥り、信用不安による販売不振が深刻化している。


    (1)「経営再建中の中国不動産大手、碧桂園控股が30日に発表した2024年12月期の連結決算は、最終損益が328億元(約6800億円)の赤字(前の期は1784億元の赤字)だった。売上高は2527億元と前の期比37%減った。開発用不動産などの資産性低下に伴う評価減は62億元と、前の期(約1200億元)に比べ縮小した。役員報酬の削減などコスト削減を進めたが、3期連続の最終赤字となった」

    碧桂園は今年1月、1年遅れで23年12月期の最終損益が1784億元(約3兆8500億円)の赤字と発表した。資金繰り悪化で決算発表が大幅に遅れたもの。21年12月期に4760億元の最終赤字を計上し、アジア企業で過去最大の赤字となった中国恒大集団に次ぐ赤字水準である。中国恒大は、香港高等法院(高裁)で清算命令が出されたが、碧桂園は免れている。

    (2)「24年12月末時点で、デフォルト(債務不履行)の総額が1881億元に上っていることも明らかにした。6カ月前から約400億元増えた。1回でも不払いが発生すると他の債権もデフォルトしたとみなす「クロスデフォルト」と呼ばれる仕組みにより、総額が膨らんだ。24年12月末の資産超過額は512億元と、1年間で約4割減少した。債務超過は回避したものの、財務の劣化が進み再建の難易度は増している」

    経営的には、完全な「死に体」である。だが、法的には生き続けているゾンビ状態だ。碧桂園はかつて優良不動産開発企業であった。教育施設建設と抱き合わせに、マンション群を売出す手法が大当たりした。だが、政府はこの販売手法を禁じたことと、経営地盤が地方の2線、3線都市という立地性が命取りとなり業績が急降下した。


    (3)「同社は23年10月、米ドル債の利払い不履行に伴い国際金融団体がデフォルトと認定した。債権者から香港高等法院(高裁)に法的整理(清算)を申し立てられており、5月に次回審理が開かれる予定だ。30日公表の決算資料で「(法的整理の)申し立てに全力で反対し、債権者側と意思疎通している」と強調した。中国では不動産会社が資金繰り難でマンションを完成させられず、購入者が引き渡しを受けられないケースが社会問題化した。政府は優良な住宅開発案件を選別して融資を促す不動産融資協調制度(通称ホワイトリスト制度)などの対策を打ったが、不信は根強く、市況の低迷が続いている」

    碧桂園は、債権者から香港高等法院(高裁)に法的整理(清算)を申し立てられている。これに反対しているのは、多額の「契約負債」(住宅を売ったが住宅を引き渡していない債務)を負っており、倒産すれば住宅購入者が丸損になるという切羽詰まった状況にある。地方政府は、一部でこういう未引渡し物件の竣工を急いだが、逆に住宅在庫を増やすという事態も引き起している。住宅を巡る「悲喜こもごも」という状態だ。

    中国では、債権者が不動産開発企業への法的整理を申請しても、すんなりと通らないのは、倒産によって連鎖倒産が起こるリスクを回避しているからだ。不動産開発企業を核にして、どれだけ不良債権が未整理のままに残されているか不明である。この状態では、中国経済が回復軌道へ戻ることなどあり得ないのだ。

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    国策半導体企業ラピダスは、4月1日から試験操業に入る。すべて順調に推移している。NHKが3月29日、ラピダスの内部映像を紹介したほどだ。技術提携先の米IBMは、ラピダス半導体購入を約束した。時事通信によると、ラピダス市川社長が「訪米のたびにラピダス半導体への期待が高まっている」と手応えぶりを示した。地元北海道千歳市は、2棟から4棟の工場増設を期待して用地手配するなど活気に満ちている。オフィスも一挙に6棟の計画が持ち上がっている。関連企業の進出ラッシュである。

    『時事通信』(3月30日付)は、「先端半導体、試作ライン4月稼働 27年量産開始へ一里塚―ラピダス」と題する記事を掲載した。

    先端半導体の国産化を目指すラピダスは4月1日から、北海道千歳市の工場で試作ラインを稼働させる。米中対立などの地政学リスクが顕在化する中、戦略物資である半導体の国内拠点確保は喫緊の課題。ラピダスが目標とする2027年の量産開始に向け、重要な一里塚となりそうだ。


    (1)「ラピダスは22年に設立され、トヨタ自動車やNTTなどの出資も受けている。千歳工場では、人工知能(AI)や自動運転システムへの活用が見込まれる回路線幅2ナノメートル(ナノは10億分の1)の先端半導体を製造する。昨年12月には、微細化に不可欠な極端紫外線(EUV)露光装置を国内で初めて導入した」

    4月1日から試験操業が始まる。これまで随分と無責任な報道に悩まされてきたが、一貫した技術開発がこれら「雑音」を跳ね返してきた。ラピダス自体が、「PR下手」も手伝い、地味な報道であるので「疑念」を増幅していた。これも、試験操業開始で消えるであろう。

    (2)「小池淳義社長は「27年までには確実に量産を開始できる」と手応えを示す。「決して楽な道ではないが、(試作の段階で)歩留まりを上げ、信頼性を確保していきたい」と意気込む。2ナノ半導体を巡っては、台湾の半導体受託製造大手、台湾積体電路製造(TSMC)なども量産準備を進めている。ラピダスは納期の短縮に力を入れることで、競合他社との差別化を図る方針だ」 

    ラピダスは、27年からの量産化に向けて大きな手を打った。半導体の設計受託や人材派遣を手掛ける世界的なシンガポール企業、クエスト・グローバルと提携したことだ。同社は航空や防衛、自動車分野などで多くの顧客を抱えており、半導体設計や製造委託先の選定も支援する。ラピダスはクエストとの提携で顧客確保に弾みをつけたい考えだ。スタッフを500人以上も派遣することに決まった。これで、受注と製造の両面で強力な支援態勢が整った。


    『時事通信』(3月30日付)は、「『ラピダス効果』に期待 盛り上がる地元経済―北海道千歳市」と題する記事を掲載した。

    ラピダスが先端半導体工場を建設中の北海道千歳市は、2023年2月以来、東京エレクトロンやオランダのASMLなど半導体関連37社が進出、産業拠点として存在感を増している。4月からはいよいよラピダスの試作ラインが稼働。地元経済への波及効果に期待が高まっている。

    (3)「マンスリーマンション運営などを手掛けるWeekly&Monthly(札幌市)は4月以降、千歳市内の物件を2室から20室に増やす。ホテルより割安で長期滞在でき、工場作業員らの引き合いは強い。黒木健次郎社長は「様子を見ながら40室ほど増やしていきたい」と話す。また、進出企業の拠点開設でオフィス需要も拡大。市によると、当初は商業ビルの空き室などで急場をしのいでいたが、今後新たに6棟のオフィスビル竣工が控えているという」

    千歳市と言えば、空港があるものの札幌への通過地点であった。それが、一大工業地域へ変貌する。クエストから500人以上のスタッフ派遣となれば、ラピダスは1000人以上の雇用を抱えることになる。住居確保が大きな課題だ。


    (4)「市の将来ビジョンによると、ラピダスが2~4棟目の工場を建設すると想定し、社員やその家族らの転入で40年までに約7800人の人口増加効果があると試算。新たに市内で1423億円の消費活動が生じると見込んでいる。半導体を巡る世界的な競争は激しさを増しており、ラピダスを軸とした「日の丸半導体」復活の道は険しい。試算通りに進むかは不透明だが、市は「待望の試作ライン稼働。次は27年の量産開始に向けて支援していきたい」(次世代半導体拠点推進室)と、伴走を続ける構えだ」 

    千歳市は、ラピダスの2~4棟目の工場建設を見込んでいる。かねてから、ラピダスが第二工場、第三工場計画を口にしていたので、千歳市が用地確保で動いているのであろう。ラピダス半導体は、「エッジAI半導体」を製造する。端末(エッジ)で、AI(人工知能)機能を実現する画期的な半導体である。GPU(画像処理装置)を使わずに、CPU(中央処理装置)でAI機能を果すので小型化と省電力化を実現する。これまで半導体は単なる「部品」であったが、ラピダス半導体は独立した「製品」として高い付加価値を実現する。これが、他の半導体製造企業と根本的に異なる点だ。この認識は、なかなか一般へ伝わらないのが悩みだ。


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