勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2025年03月

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    米国が、4月3日からすべての輸入車と部品に対して25%関税を追加する。日本車もその対象であるが、この中で唯一「無傷」であるのはトランプ氏側近となったマスク氏率いるテスラである。マスク氏は、かねがねEV(電気自動車)補助金不要論を唱えていた。今回の全輸入車25%関税の勝利者は、テスラになりそうだ。ただ、世論のマスク批判が厳しいので、テスラ販売へどう影響するかは不明である。

    『ブルームバーグ』(3月27日付)は、「トランプ自動車関税 数少ない勝者はテスラ 大半はコスト増に直面」と題する記事を掲載した。

    トランプ米大統領の関税計画の影響が明らかになるにつれ、自動車業界にとって厳しい現実が浮き彫りになってきた。ほとんどの自動車メーカーが敗者となる中、イーロン・マスク氏率いる米電気自動車(EV)メーカー、テスラは数少ない勝者の一つとして際立っている。


    (1)「テスラは、カリフォルニア州とテキサス州に構える大規模な工場で、米国で販売する全てのEVを生産している。そのため、トランプ氏が新たに課す自動車および主要部品への輸入関税の影響をほとんど受けない。一方、韓国の現代自動車やドイツのフォルクスワーゲン(VW)、米国のゼネラル・モーターズ(GM)など主要な競合メーカーは、間もなく大幅なコスト増に直面することになる」

    米国を舞台に内外の自動車企業は、トランプ関税で明暗を分けた。マスク氏のテスラは無傷、現代自・VW・GMが大幅なコスト増に見舞われる。

    (2)「CFRAリサーチのアナリスト、ギャレット・ネルソン氏は今週の分析リポートで、テスラは国内で製造を手掛けているため、新たな関税の影響を「最も受けにくい」と指摘した。テスラ自体は今週、X(旧ツイッター)への投稿で、自社のモデルは「最も米国製の車両だ」と強調した。それでも同社が完全に影響を受けないわけではない。マスク氏は26日、「重要なのは、テスラが無傷ではないということだ。関税の影響は依然として重大だ」とし、「コストへの影響はささいなものではない」とXに投稿した」

    テスラのマスク氏は、バツが悪いのか弁明している。


    (3)「テスラの最高経営責任者(CEO)を務めると同時にトランプ政権で「政府効率化省(DOGE)」も率いるマスク氏を巡っては利益相反の可能性が懸念されている。こうした中、トランプ氏は関税についてマスク氏とは協議していないと断言。自動車関税発動に関する布告に署名した大統領執務室で26日、「マスク氏がビジネスに関して私に何かを頼んだことは一度もない。これには実際、少し驚いた」と述べた」

    マスク氏を巡っては、利益相反の可能性が懸念される。「痛くもない腹を探られる」立場だ。反マスク派運動をしている人たちに、絶好の批判対象とされる懸念がある。

    (4)「この関税は、米国内で部品を大量に調達している自動車メーカーには有利に働くことになる。また、トランプ氏は例外も認めており、「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」の下で輸入された車両や部品は非米国製部材にのみ新たな関税が適用される。さらに、USMCAに準拠するカナダおよびメキシコからの部品については、米国がこれらの関税を徴収するプロセスを確立するまで、新たな関税の発動はないという。カナダとメキシコは、たとえ見込みが低いとしても、この期間を利用して新たな関税の完全適用を回避しようとする可能性がある」

    USMCAに準拠するカナダやメキシコを利用し部品を調達する企業は、関税徴収プロセスが確立するまで、25%関税を徴収しない。これは、一種の「バッファー」にするつもりかも知れない。


    (5)「輸入車への依存度が高い海外メーカーは、大きな圧力に直面する見込みだ。特に韓国の現代自は大きな打撃を受ける可能性がある。同社および傘下の起亜自動車はアラバマ州とジョージア州に工場を構えているほか、今週には210億ドル(約3兆1600億円)を投じて米国での事業拡大計画を発表したものの、グローバルデータによると、現代自は昨年、米国での販売台数の半分余りを占める100万台強の自動車を米国に輸入している。SKセキュリティーズのアナリスト、ヒュク・ジン・ユン氏によると、25%の関税が課された場合、現代自と起亜自は毎年10兆ウォン(約1兆200億円)もの関税を米国に支払わなければならない可能性がある。これは2024年に両社が得た営業利益のほぼ40%に相当する」

    現代自と起亜自は、毎年10兆ウォン(約1兆200億円)もの関税を米国に支払わなければならないという。両社にとって、24年営業利益の4割にも相当する。痛手だ。

    (6)「トヨタ自動車はケンタッキー、インディアナ、ミシシッピ、テキサス各州に四つの組立工場、またウェストバージニア州とアラバマ州にエンジン工場を構えているにもかかわらず、米国での販売台数の約半分を輸入している。トヨタの担当者は、同社のメキシコ事業はUSMCAに完全に準拠していると述べた」

    トヨタは、米国販売台数の約半分が輸入車である。トヨタも関税の影響を受ける。


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    日本は、トランプ関税から例外になるのではと期待したが、「一律」で自動車に25%関税が追加される。米東部時間4月3日午前0時1分(日本時間同日午後1時1分)から新たな関税の徴収を始める。米国は現在、乗用車に2.5%、トラックに25%の関税をかけている。新たに25%を上乗せすれば乗用車は27.5%、トラックは50%の関税がかかる。今回の関税措置で、日本のGDPが0.2%程度下押しするとの試算が出ている。

    トランプ氏は、今回の関税措置について「恒久化」としている。年間1000億ドル(約15兆0550億円)の関税収入があるとしている。実態は、米国内の自動車価格を押上げ負担増になる。米国製電気自動車(EV)の場合は、約1万2000ドル(約180万円)跳ね上がる可能性がある。消費者負担を増すことになろう。


    『ブルームバーグ』(3月27日付)は、「トランプ氏、25%自動車関税を4月2日発動ー米国産以外『全て』対象」と題する記事を掲載した。

    トランプ氏は、ホワイトハウスの大統領執務室で記者団に対し、「米国外で生産される全ての自動車に25%の関税を課す」とした上で、「米国で事業を行い、この国の雇用や富、多くのものを長年にわたり奪っている国々に課税する」と話した。トランプ氏は4月2日の関税発動を発表するとともに、その翌日から関税の徴収を開始すると述べた。

    (1)「ホワイトハウスによると、完成車だけでなく、エンジンやトランスミッション、パワートレイン部品、電子部品などの主要な自動車部品にも関税が適用される。このリストは時間の経過とともに拡大され、さらなる部品が含まれる可能性がある。トランプ氏は自動車関税について「恒久的」なものだと説明するとともに、例外措置について交渉することに興味はないと発言した。同氏の関税発表を受けて、ゼネラル・モーターズ(GM)やフォード・モーター、ステランティスの株価は通常取引終了後の時間外取引で下落した。27日午前のアジア市場では、トヨタ自動車をはじめとする自動車メーカーの株価が下げている」

    完成車だけでなく部品など主要な自動車部品にも関税が適用される。恒久的としているので、米国自動車企業も株価が下落している。


    (2)「ホワイトハウスのスタッフセクレタリー、ウィル・シャーフ氏によれば、自動車関税は既に実施されている関税に上乗せされる。トランプ政権は、関税賦課で米国に年間1000億ドル(約15兆0550億円)の新たな歳入がもたらされると予測している。いわゆる「相互関税」の発表を来週予定しているトランプ氏は、「それは米国にとって真の解放記念日で、4月2日になる。私はそれを楽しみにしている」とも話した」

    米国は、関税賦課で年間1000億ドル(約15兆0550億円)の新たな歳入を得るとしている。最終的には、価格引上げで消費者が負担するもの。トランプ政権は、この辺で間違いを起こしている。

    (3)「自動車関税は、トランプ氏による貿易戦争を大幅に拡大するもので、日本やドイツ、韓国をはじめとする主要自動車メーカーが標的になる公算が大きい。米国、メキシコ、カナダにまたがる統合型サプライチェーンに依存する北米の自動車メーカーにも混乱が生じる恐れがある。しかしトランプ氏は、関税によって米国内の自動車セクターの成長を促し、各社が生産を米国にさらに移転することにつながると論じた。昨年の米国の乗用車・ライトトラック輸入額は2400億ドル強相当に上った」

    北米の自動車メーカーは、米国、メキシコ、カナダにまたがる統合型サプライチェーンを形成している。メキシコやカナダの生産基地が、米国へ移転するには相当の時間がかかる。その間は、製品価格上昇がつづく。


    (4)「トランプ氏の新たな措置は、既にインフレに不安を感じている米消費者にとって自動車価格引き上げをもたらし、関税が景気悪化を招くとの懸念を増幅させることになりそうだ。関税は外国製自動車の価格を引き上げる公算が大きいが、供給や部品が課税の打撃を受けたり、サプライチェーンが低コスト国での製造から切り離されたりすれば、米国製自動車価格も上昇することになる。複数のアナリストは、新たな関税によって新車価格が1台当たり数千ドル上昇する可能性があると推計。最近の調査によれば、カナダ、メキシコ、中国への関税賦課はクロスオーバー車の製造コストを約4000ドル引き上げ、米国製電気自動車(EV)の場合は約1万2000ドル跳ね上がる可能性があるという」

    EVは、約1万2000ドル(約180万円)の値上がりになる。消費者負担が増すのだ。

    (5)「トヨタ自動車やドイツのBMWなど、米国外自動車ブランドのロビー団体「オートス・ドライブ・アメリカ」のプレジデント、ジェニファー・サファビアン氏は今回の関税を巡り、「米国内での自動車生産・販売コストを押し上げ、最終的には価格上昇や消費者の選択肢の減少、米国内の製造業の雇用減少につながるだろう」と発表文で指摘した。他方で、全米自動車労働組合(UAW)のショーン・フェイン委員長は「トランプ政権はきょうの措置で歴史をつくった」と歓迎の意向を表明した」

    UAWは、トランプ関税を歓迎している。消費者物価上昇になる事態を歓迎とは、皮肉な現象である。労働者の生活が脅かされるのだが。


    テイカカズラ
       

    FRB本音は物価警戒
    関税は4月から本番へ
    高まる円高要因に注目

    米国トランプ政権2期が、始まってまだ2ヶ月余である。トランプ大統領は、関税を武器にして外交・内政を同時に進めているが、肝心の国内経済に早くも大きな障害を抱える事態になった。株価の急落である。株価の上昇が富裕層を潤し、個人消費を支えてきた。その株価急落によって、個人消費に警戒信号が出たのだ。米国の個人消費は、対GDP比67.9%(2023年年)と高比率である。米国経済にとって、にわかに襲ってきた重大問題である。

    株価は、景気の先行指標として重視されている。その中でも、米国の景気動向に対して最も敏感なのが「運輸株ダウ平均」である。ここには、鉄道、航空、物流など消費関連が含まれている。この運輸株ダウ平均は、最近の高値に対して23%も急落し、近時の値戻しが2.9%に止まっている。つまり、反発力が極めて弱い点に注目すべきだ。


    一般によく知られている「ダウ工業株平均」は、最近の高値に対して17%急落し11.6%の値戻しである。これは、いわゆる「半値戻し」であり、高い回復力をみせた。問題は、運輸株ダウ平均の戻りが極めて鈍いことが、米国株の回復力の脆弱性を示唆している点である。

    米国株式市場を観察するには、ダウ工業株平均と運輸株ダウ平均が、今回のように「別々」か「同一」か、を識別することが重要だ。過去の循環過程において確認されている事実は、運輸株ダウ平均がダウ工業株平均に先行している点である。先行期間は一律ではないが、運輸株ダウ平均の下落は時間をおいてダウ工業株平均を道連れにしている。

    この理屈は簡単である。GDPの7割を占める個人消費の増加率が鈍れば、GDP全体の伸び率が落込むのも当然だ。トランプ政権は、株価の急落が「過渡期現象」として気にかけない姿勢である。株価無視は、26年11月に迎える中間選挙で、トランプ氏に不利な状況をもたらすことになりかねない要因だ。上下両院の共和党と民主党の議席差は、次の通りである。
    上院 共和党 53 民主党 47 差は6議席
    下院 共和党220 民主党215 差は5議席


    このように僅差である以上、関税引上げが消費者物価を押し上げれば、トランプ政権はバイデン政権の二の舞で苦境に立たされるであろう。トランプ政権の「賞味期限2年」という仮説根拠は、この議席差の僅少差と関税問題にある。さらに、前述の運輸株ダウ平均の鈍い回復力が示す米国経済の下降状況もマイナス要因になろう。

    FRB本音は物価警戒
    FRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長は、3月19日の記者会見で次のように語った。関税措置によるインフレ率押し上げ効果について、「一過性」との認識であった。だが、一時的なものとなるかどうか、当局として「実際のところ分からない」と、予防線を張ることも忘れなかった。パウエル氏は、ここでトランプ氏の関税措置へ警鐘を鳴らせば、大変は騒動になることが確実。すでに、トランプ氏は利下げを提案しているからだ。

    パウエル氏は、こういう政治情勢から一過性と発言した後に、実際のところ分からないと本音を吐露している。関税措置こそが、米国経済へ大きな時限爆弾を投げ込むであろうことは、トランプ政権1期においても立証済みである。

    1930年代の米国の高関税や、第1次トランプ政権の対中関税が、物価面でいい結果を生まなかったことが明らかになっている。現在では、次のような推計が行われている。『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月7日付)から引用した。


    1)ゴールドマン・サックスの推計によれば、メキシコ、カナダ、中国に対する新たな関税の70%相当分は消費者が負担することになる。その額は、年間2600億ドル(約38兆5000億円)になる。

    2)コンサルティング会社アンダーソン・エコノミック・グループの試算によると、関税の発動により、北米での自動車生産コストは4000~1万ドル増加する。代替品がほとんどない車種の場合、コスト増加分の75~80%が消費者に転嫁されるため、価格の手頃さが損なわれ、販売台数も減少する。

    これら二つの試算からも分るように、消費者負担は明確である。つまり、最終販売価格が引上げられるのだ。これが、物価押上げ要因になる。

    関税は、こうして物価を押し上げるのだ。FRB関係者は、パウエル氏の発言と異なり、物価上昇によって利下げのタイミングが、先送りされるリスクを指摘している。これが、経済データにもとづく正直な分析であろう。利下げの時期が先送りされれば、経済への影響は不可避である。トランプ氏が焦って、FRB批判を声高にする情景が、今から想像できるのだ。トランプvsFRBの対立時期は、必ず来るであろう。


    米国連銀関係者には、関税引上げの影響が一時的とする見方もある。シカゴ連銀のグールズビー総裁は3月21日、関税に起因するインフレへの打撃は一過性のものに終わる可能性があると述べた。ただし、関税の範囲が限定的であることが前提とした。その理由は、輸入がGDPに占める比率でわずか11%であることを上げている。

    この輸入比率が、GDPの11%と低いから関税引上げ措置の影響は小さいと言えるだろうか。日常生活に影響する消費者物価の上昇は、限定的な商品の値上がりが大きな影響を及ぼすものだ。こういう拡散的議論は、余りにも生産的でない「詭弁」に映る。(つづく)

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    https://www.mag2.com/m/0001684526




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    中国広州市郊外に、世界のネット通販を一変させたサプライチェーン革命の現場がある。小規模生産でも注文に応じて、即納品するという迅速性が評判を取ってきた。さぞや、近代的な設備で生産していると思いがちだが、実態は完全な零細企業の集まりである。日本経済新聞の北京総局長桃井裕理記者が、現地を取材した。

    『日本経済新聞 電子版』(3月26日付)は、「利益なき繁忙、『SHEIN村』にみる中国製造業の憂鬱」と題する記事を掲載した。

    創業わずか数年で時価総額1000億ドルを実現した中国発の衣料品ネット通販「SHEIN(シーイン)」。その奇跡のサプライチェーン(供給網)革命を支えた通称「シーイン村」の姿から中国製造業の現状を探った。


    (1)「シーインが本部を置く中国南部の広東省広州市の番禺区。高層ビルが立ち並ぶ中、古ぼけた小さな建物がぎっしりとひしめく「城中村(都市の中の村)」と呼ばれる地区が点在する。その1つが「シーイン村」として知られる南村鎮だ。入り組んだ道に並ぶ建物の1階はどこも開け放たれ、ホコリっぽい土間に古びたミシンが並ぶ。作りかけの衣服が山積みとなり、床には「SHEIN」と書かれたビニール袋も散らばる。同地区に集まる無数の業者の多くがシーインの仕事を請け負う」

    日本の町工場とは印象が全く異なる。近代的作業現場とほど遠いのだ。

    (2)「中国の繊維業界は人手不足に直面している。これまで現場をけん引していた70年代生まれの工員が次々と退職しているにもかかわらず、続く年代ではきつい仕事が敬遠されているためだ。しかもシーインとの取引では納期遅れやミスに厳しい罰金が伴う。熟練工がいなくてはビジネスが成り立たない。シーインのビジネスモデルは、多品種を少量生産しながら需要に迅速に対応する「オンデマンド製造」だ」

    シーインは、オンデマンド製造で急成長してきた。だが、業者の犠牲の上に成り立ったビジネスモデルである。


    (3)「業者への初回発注のロットは100程度。顧客の反応をみながら人工知能(AI)で需要を予測し、少量ずつ追加生産を重ねる。このモデルはアパレル業界の長年の悩みであった在庫問題を解決した。シーインは広州で中小・零細業者を含む1000を超えるサプライヤーをネットワーク化することで実現した。奇跡のサプライチェーン革命は、出稼ぎ労働者たちが20~30年かけて築き上げた産業エコシステムがあってこそ可能となったものだ」

    アパレル業者にとって救世主だったのは、同社が決められた日付の支払いを保証したことだ。中国では支払いの遅延や不払いが横行しており、立場が弱い中小・零細事業者にとっては、シーインがありがたいビジネスパートナーであった。

    (4)「だが、気がつけば多くの会社が利益なき繁忙に陥っていた。「注文規模はどんどん小規模になり、単価はどんどん安くなっていった。管理も要求も罰金も厳しくなった」。こう語るのは30〜40人の工員を雇う経営者の唐氏。同社はシーインが事業に参入した翌年の2016年から協力サプライヤーとなった古参企業だ。「昨年はたくさんの仕事をこなしたが、300万元(約6000万円)の赤字だった」と嘆く。サプライヤーにとって同じパターンの製品をどれだけつくるかが利益率に直結する。最初の注文数は100でも、売れ筋や定番商品になって注文が繰り返されれば利益は増える。しかし「最近は昔に比べて継続注文が減った」と複数の事業者が語る」

    シーインは急成長したが、サプライヤーは納品価格を切下げられて赤字をつくった。共存共栄ではなかった。


    (5)「湖北省出身の経営者である呉氏は、「今の広州でアパレル事業を手掛けても競争力は一切ない」と言い切る。広州では家賃や食費などあらゆるコストがかさむ。対策としてよく言われるのが、コストの安い海外への移転か内陸移転だ。資金や体力がない中小企業の場合、内陸移転が唯一の選択肢となる。だが、それも容易ではない。「内陸に工場をつくったが、2年で閉じた」。前述の唐氏はこう語る。故郷の湖南省に3000平方メートルの工場をつくったが、約150万元の損を出して終わった。湖南省は広州に比べて家賃も人件費も安いが、容易に人材を集められるわけではない。そもそも南村鎮は伝統的に、湖南省や湖北省から縫製技術者をめざす出稼ぎ労働者が集まる場所だ。加えて、地方では布や部材の調達にも手間がかかる。単純にコストが安いというだけでは事業は成り立たなかった」

    シーインは生き延びられても、サプライヤーはもはや限界に来ている。南村鎮でこそ成り立つビジネスだが、コスト高で経営が不可能になっている。受注単価が上がらないからだ。

    (6)「南村鎮では、「今年に入ってシーインからの発注が大幅に減った」との声が相次ぐ。米国政府はシーインなど中国発のネット通販が、「800ドル以下の小口貨物への免税措置」を使って大量輸出していると指摘。免税の撤廃を検討しており、先行き不安は強まるばかりだ。大手サプライヤーがベトナムに移ったという話も不安に拍車をかける。「今年も利益が出なければ、この事業はもうやめる。シーインは業界にとどめを刺した」。唐氏はこうため息をつく。「世界の工場」としての中国は、歴史の1ページになろうとしている」

    中国に根を張るサプライヤーは、しだいに消えていく。シーインは、中国を生産基地にしては成り立たなくなっている。「世界の工場」が消えるのだ。





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    トランプ米大統領は、4月2日に新たな関税を発表すると予告した。この日は、「米国解放の日」になると位置づけている。関税収入を減税財源に使うという意味だ。だが、関税は国内へ転嫁されるので、消費者物価を押上げる要因になることは確実。トランプ政権は、これを補うべく減税を行う方針である。だが、減税の受益対象者は企業や高所得者である。関税による物価上昇の「被害者」は一般国民だ。減税の恩典には浴さない層である。こういう行き違いによって、米国経済は冷却化する危険性が高い。

    『フィナンシャル・タイムズ』(3月25日付)は、「トランプ米政権、2段階の関税制度を検討 4月2日に発表」と題する記事を掲載した。

    トランプ米大統領は新たな関税の2段階での導入を検討している。貿易相手国を対象とする調査が完了するまでの間、これまでほとんど行使したことのない権限で緊急関税を発動する計画だ。協議に詳しい関係者によると、トランプ政権の高官らが検討している案はトランプ氏が導入を掲げる「相互関税」に確固たる法的根拠を与えつつ、減税策の財源確保を目指すとしている。


    (1)「トランプ政権が検討している案の一つは、貿易相手国に対して米通商法301条に基づく調査を開始すると同時に、めったに発動されない緊急権限を使って暫定的な追加関税を即時適用するというものだ。最大50%の関税を適用する可能性もある。トランプ氏は輸入自動車に対する関税を4月2日付で即日適用し、政権1期目に実施した自動車・同部品を対象とする国家安全保障上の調査を再開する可能性もある。トランプ氏は24日、自動車関税について「数日中に」発表される可能性があると発言した」

    トランプ氏は、大掛かりな関税引上げ策を練っている。最大50%の関税が、適用される可能性もあるという。正式発表されれば、市場へ大きな影響を与えるであろう。

    (2)「トランプ氏は、諸外国が米国を不公平に扱っていると不満を漏らしている。だが、政権高官は関税を他国との交渉材料としてではなく、減税の財源として使うことに重点を置いていると、協議に詳しい関係者はいう。そのため、トランプ氏が複数の貿易相手国にできるだけ早く高関税を課すために使える確かな法的選択肢を模索する動きが進んでいる。政権の首席交渉官を務めるラトニック商務長官は、貿易相手国の対米貿易黒字や税制を厳しく批判したうえで「ディール(取引)」を求めている。米ホワイトハウスのデサイ報道官は「4月2日に予定される相互関税についてトランプ大統領はまだ最終計画を公表していないが、政権内のすべてのメンバーは最終的に、米国の産業と労働者にとって公平な競争条件を実現するという点で一致している」と述べた」

    関税が、「米国の産業と労働者にとって公平な競争条件を実現する」と政権メンバーは考えている。具体的には、関税が「歳入増」になるという考えだ。これは、極めて一方的な考えで国内物価を押上げるリスクを全く捨象した議論である。


    『ブルームバーグ』(2月22日付)は、「関税収入への依存強めるトランプ政権、減税の財源で-貿易戦争必至か」と題する記事を掲載した。

    (3)「トランプ氏は、「関税で多額のお金が入ってくる」とソーシャルメディアに投稿した。今会計年度には、約2兆ドル(約300兆円)の赤字が見込まれる連邦予算が、均衡する手段になるとしている。2月19日夕には、「膨大な関税のお金」を政府は受け取ることになると表明していたのだ」

    トランプ氏は関税によって、25会計年度に約2兆ドルの財政赤字が消えるとしている。

    (4)「ハセット米国家経済会議(NEC)委員長は2月20日、記者団に対し、今月導入された中国からの輸入品に対する10%の関税は「10年間で5000億~1兆ドル」を生み出すと話した。ラトニック米商務長官は、FOXビジネスとのインタビューで、他国の税制や規制の障壁を狙い撃ちにする「相互」関税だけでも、「われわれに年間7000億ドルをもたらす」可能性があると発言。この資金は財政赤字の解消に役立ち、金利の「急低下」を引き起こし、その結果「経済全体が急成長する」と付け加えた」

    ハセットNEC委員長は、中国への10%関税で「10年間で5000億~1兆ドル」歳入が増えると目論んでいる。こういう試算が成り立つのは、関税分が国内価格へ転嫁される現実を見落としている。また、相手国の報復関税もあるのだ。


    『中央日報』(3月26日付)は、「ムーディーズ『トランプ政権の関税政策、米国の財政赤字悪化させる』」と題する記事を掲載した。

    ムーディーズは、25日の報告書で「米国の財政健全性は数年間持続的に下落するだろう。すでに2023年11月以降さらに悪化している」と評価した。

    (5)「ムーディーズは、米国が「特別な」経済回復力を持っており、ドルが世界の金融システムの中枢的役割をしているが、第2次トランプ政権の政策は財政には得よりは失になりかねないと指摘した。ムーディーズは、「持続的な高率関税や代替財源がない減税、一度発生すれば経済に大きな影響を与えるリスクなどが信用に否定的に作用し、米国経済の長所が財政赤字や負債に耐えられるという見通しを弱めさせる。事実、経済や金融環境が有利に繰り広げられる時も、財政悪化は続く可能性が高い」と評価した」

    ムーディーズは、関税が財政赤字を生むと指摘している。これは、関税が国内物価を押し上げることによって、スタッグフレーションを引き起すと危惧している。トランプ政権は、関税を減税に回すとしているが、庶民は減税対象でなく関税負担を一方的に受ける立場だ。これが、GDPの7割を占める消費を直撃して、物価高の景気停滞という最悪事態を生む。


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