ベッセント米財務長官は、4月29日の記者会見で米国の関税措置の影響により、中国で1000万人の雇用が失われる可能性があると指摘した。中国政府は、いずれ中国側の関税政策が持続可能でないことを認識するだろうとも述べた。『ロイター』(4月29日付)が報じた。米国は、中国の状況を詳細に把握しているとみられる。中国の労働集約産業は、現実に大きな痛手を受けている。
『朝鮮日報』(4月30日付)は、「対米輸出全面ストップ、利益をあきらめて持ちこたえる中国の工場」と題するルポ記事を掲載した。
4月18日、中国・北京から約200キロ離れた河北省保定市高陽県のタオル工場を訪れた。1990年代から30年ほどタオルを作っていると話す工場長は数百個余りの箱とまだ完成していない半製品のタオルの山を前に「これは全て米国に出荷されるべき物なのに、作業が全て中断した状況だ」と話した。
(1)「今年に入り、(米電子商取引大手の)アマゾンに納入する1200万元(約2億3000万円)相当の契約を獲得した。普段の800万~900万元の契約に比べると大口だった。輸出企業が必ず納入日を守ってほしいと言っていたので、それを約束したのだが、最近連絡が来て、数日以内に(供給量を)減らさなければならないと言ってきた。輸出企業が商品を(米国に)送る方法を見つけるまで、倉庫にこうやって積んでおくしかない。月間売上高600万元(約1億2000万円)規模の工場にとって1200万元の契約は大口だった。しかし、米中の貿易戦争が始まった今、それがかえって仇になり、工場の未来を脅かしている」
アマゾンからの大口契約が、突然のキャンセルになった。大量の在庫を抱えて四苦八苦である。
(2)「この日、取材した高陽県のタオル卸売街は、ほとんどの商店が閉まっており、物騒な雰囲気だった。高陽県は中国有数の紡織産業地帯で、昨年末現在で約4200社の関連企業が立地している。ここで生産されるタオルだけで年間50億枚に達し、中国全体の生産量の3分の1を占める。それでも店を開けていたある問屋は「最近は午後になってから店を開く。不景気に米中貿易戦争まで重なり、仕事が少ないからだ」と話した」
高陽県のタオル卸売街は、ほとんどの商店が閉まって「休業状態」である。「トランプ恐慌」の襲来である。
(3)「米国による相互関税は、中国の紡織産業にとって致命的だ。中国紡織工業連合会によると、24年の家庭用繊維製品の輸出額は、前年比5.6%増の484億9000万ドルだった。2022年(1.09%減)、23年(2.38%減)という2年連続のマイナス成長を経て、ようやく増加に転じたところだった。輸出全体の40%近くを占める米国(11.1%)と欧州連合(EU・9.49%)への輸出が増えたためだったが、その頼みの対米輸出が減ることになったのだ。ある卸売業者は、「米国とEUに供給する商品は利益率が高い」とし、大きな打撃は避けられないと懸念した」
中国の紡織産業は、米国が輸出全体の40%近くを占める大口である。それだけに、トランプ関税の影響は甚大である。
(4)「対米輸出顧客が多い工場と卸売業者は利益を放棄して持ちこたえるしかない状況だ。高陽県最大の繊維問屋街である「高陽商業貿易城」に入居しているSさんは「皆が原価を下げなければ、生き残ることができない」と話した。Sさんは「工場は人件費を減らして原価を下げ、卸売業者の私たちと(ここで商品を買っていく)輸出業者も価格を下げなければならない。そうやってようやく関税を相殺できる」と話した。前出の工場長は「(営業を担当している)妻にひとまず資金が残らなくても顧客が要求する品質と計画に合わせるよう伝えた。1、2カ月間は稼げなくても構わない。工場を維持することさえできればいい」と述べた」
ともかく、米中の話合いがついて関税が引下げられるのを待つほかない状態だ。
(5)「彼らが、米中貿易戦争を長期間耐え抜くことは難しい状況だ。米国に代わる顧客はいないためだ。前出の工場長の場合も生産量全体に占める対米輸出の割合が半分以上を占める。中国政府は、米中貿易戦争がエスカレートすると、「中国が巨大な経済規模を持つ点を忘れてはならない」とし、内需市場に注目するよう呼びかけているが、取材で会った卸売業者や工場関係者は国内で新しい顧客を探す選択肢は考えていないと話した。ある卸売業者は「国内市場の場合、(消費低迷で)価格競争が激しすぎて生き残れない」と話した。中国国家統計局によると、昨年の衣類、靴、帽子、織物の1人当たり消費支出額は前年比0.3%の伸びにとどまった」
中国国内で、新しい顧客を探す選択肢は考えられないという。国内市場の場合、価格競争が激しすぎて生き残れないからだ。
(6)「中国の中小工場の悲鳴は、高陽県だけでなく、全国から上がっている。 米自由アジア放送(RFA)は4月18日、中国の浙江省、江蘇省、広東省など主な輸出地域で工場がメーデー(5月1日)連休から操業を中断し、長期休暇に入るところが多いと伝えた。勤務時間を短縮した工場が続出しているほか、従業員は在庫処理のために親戚や知人を動員しているとされる。浙江省、江蘇省、広東省などの貿易業者の工場で10年以上管理職として働いたという人物はRFAのインタビューに対し、「こんな経済状況は数十年間なかった」と語った」
中国の浙江省、江蘇省、広東省など主な輸出地域では、工場がメーデー(5月1日)連休から操業を中断して長期休暇に入るところが多いという。中国政府は、この状態でも「最後まで戦う」という。メンツの問題である。