中国は、トランプ関税に対して強気を通しているが足下はグラグラ状態である。越境通販シーインは、145%という高関税で中国からの輸出が不可能になったからだ。低賃金と短納期を武器に急速な成長を遂げてきたが、それも今は「一場の夢」と化した。数千もの下請け業者は、ベトナムへ移転するか倒産かという二者択一の危機に直面している。習近平氏の悩みは深まる。
『ロイター』(4月20日付)は、「トランプ関税受けベトナムに生産移転も、中国SHEIN村に打撃」と題する記事を掲載した。
超ファストファッションを扱う中国発インターネット通販「SHEIN(シーイン)」の急成長は、中国南部の広州郊外周辺の村々の命運を大きく左右してきた。そのため、これらの村は通称「シーイン村」と呼ばれるようになった。シーインが年間300億ドル(約4兆3000億円)を超える商品を販売する巨大企業へと成長できた背景には、低価格戦略に加え、低価格の輸入品を無税で米国に輸入できる関税免除措置(デミニミスルール)を活用したことがある。
(1)「これらの村にある何百もの工場による効率的なサプライチェーンも、シーインの成功の鍵だった。広州の番禺区のシーイン村を最近訪問したところ、村の雰囲気は暗いものだった。工場長3名と地元の下流サプライヤー4社は、シーインの地元での受注が減少していると話した。同社のベトナムへの生産拠点分散の動きが原因だという。トランプ米政権による中国への145%の関税やデミニミスルールの廃止により、中国での生産に依存してきた企業の間に動揺が走っている」
越境通販シーインは、低賃金の零細工場へ大量発注してコストを下げる手法で急速な成長を遂げてきた。この「アクロパット手法」が一大転機を迎えている。トランプ関税が主因だ。
(2)「工場経営者のリー氏は、2006年から中国国内および海外市場向けに衣料品を製造している。リー氏は、シーインと5年間取引をしてきたが、今年のシーインからの発注は、ベトナムへの発注増を受け、50%減少したと語った。「影響は明らかだ」と彼は述べた。「関税は当面、いつ終わるか見通せないし、次に何が起こるか分からない」。ここでは、何千もの小規模な契約製造業者が、へそ出しトップスやミニスカートを1着数元という安価で生産し、すぐさま世界中の若い消費者に出荷している」
シーインは、1着数元(約1000円前後)という安価で生産し、すぐさま世界中の若い消費者に出荷してきた。この安価・迅速が受けたのだ。
(3)「工場オーナーでシーインのサプライヤーでもある56歳のフー氏は、「正直に言うと、ここ2年間の越境EC(電子商取引)は狂ったように成長した。以前は中国にそんなビジネスはなかった」と、語る。シーインの創業者で中国系シンガポール人の許仰天(クリス・シュー)氏について、「彼がいなければ、このビジネスは生まれなかった」と評した。フー氏とリー氏は共に、シーインが主要サプライヤーに対し、最低発注量と納期の長期化を約束してベトナムへの生産移転を促していることを認めた。シーインから直接伝えられたか、計画の説明を受けた他のサプライヤーから伝えられたという」
シーインが、主要サプライヤーに対し最低発注量と納期の長期化を約束し、ベトナムへの生産移転を促しているという。ベトナムが、シーインの生産基地になるのだろう。
(4)「フー氏は、「トランプ政権になってから、春節(旧正月)以降、シーインは多くの主要な工場にベトナムでの工場開設を検討するよう求めている」と語った。シーインが、ベトナムからの調達を増やすことは、より低い関税率の適用を受けたり、関税免除措置を利用したりする上で有利に働く可能性がある。しかし、ベトナムから発送される商品についても、この免税制度が維持される保証はない。これはシーインにとってはジレンマでもある。価格と時間が重要な業界において、コストがかかり時間も浪費する可能性があるからだ」
米国が、シーインの商品である限り、無税で米国へ輸入できる関税免除措置(デミニミスルール)の利用を認めるかどうかだ。米国は、中国と香港からの発送に対して無税を取消す処置を発表している。ベトナムからの郵送が増えれば別途、対策が講じられる恐れもる。
(5)「デラウェア大学でファッション・アパレルを専門とするシェン・ルー教授は、何千種類もの新しいスタイルの服を少量ずつ生産し、消費者に迅速に出荷するというビジネスモデルを根本的に変えなければ、シーインはサプライチェーンを多様化できないという。また、中国南部以外の地域に生産地を多様化しなければ、関税を回避して低価格で米国の消費者に製品を届けることはもはやできないと述べた」
シーインは、現行ビジネスモデルの変更をしなければ、関税を回避して低価格で米国の消費者に製品を届けることが困難という指摘も出てきた。
(6)「工場経営者のリー氏にとって、ベトナムへの移転は魅力的ではない。移転には多額の設備投資が必要となる上、中国に比べて労働生産性が低いからだ。リー氏は「中国では1日に1000着の服を仕上げられるが、ベトナムでは1か月かかる」と話す。国内市場向けの供給を増やす計画を立てているリー氏だが、選択肢がほとんどない同業者もいると言う。「彼らには、2択しかない。倒産するか、ベトナムに行くかだ」と指摘する」
ベトナムの生産性は、中国よりもはるかに低いという。それでも、ベトナムへ工場移転しなければ倒産するという。中国の労働集約ビジネスは、一大転機を迎えている。