習近平・中国国家主席は、「中華再興」が唯一の国家目標になっている。製造業中心で経済成長を進めるというもの。この裏では、国民生活は置去りにされ、雇用不安と賃下げリスクにおびえている。中国人民銀行が先頃、預金金利を引下げて貸出刺激策に出たが、国民は貯蓄増強で「生活防衛」に回っている。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』(5月28日付)は、「中国は経済政策を変えるのか?
全てを握るのは習主席」と題する記事を掲載した。
10年以上にわたり、中国が製造業主導の成長モデルから消費重視のモデルに移行するのかが注目されてきた。中国がモノを作り続け、それを世界が買い続けることには無理があり、変化への期待が高まっている。この疑問に答えられる立場にいるのは、中国の全てを取り仕切る習近平国家主席をおいて他にいない。しかし、その答えは決して安心できるものではない。
(1)「先週、中国中部の洛陽市にある国有の機械工場を視察した際、習氏は製造業重視の政策を改めて確認した。習氏は歴史に触れながら、「かつてはマッチや石鹸、鉄を輸入に頼っていたが、今では世界最大かつ最も多くの産業分野における製造業国となった」と中国の変貌を誇った。習氏は全国放送された洛陽軸承集団での演説で「われわれは正しい道を歩んできた」とし、「引き続き製造業部門を強化し、自力更生を堅持し、中核技術の習得に努めなければならない」と語った」
習氏は、従来路線を強調してみせたが、中期計画「第15次5カ年計画(2026〜30年)」の策定に当たって、微妙な発言もしている。前国家主席である胡錦濤氏が、2012年11月の共産党大会での活動報告演説で「科学的な政策決定、民主的な政策決定、法律にのっとった政策決定を堅持せよ」と言い残した。習氏が最近、これを同じ言葉を使ったことにより、胡錦濤路線への復帰を臭わせている。混乱する中国経済をみながら、心は千々に乱れているのかも知れない。
(2)「米国やその他の地域との貿易摩擦が高まる中、中国政府は消費重視にシフトしているとされるが、それはない。習氏は優先順位がどこにあるのか、そしてこれからもどこにあり続けるのかを明確にした。中国の産業・技術面での変貌は否定しようがない。中国は再生可能エネルギーからロボット工学、人工知能まで、将来性のある多くの分野で突き進んでいる。西側に追いつくだけでなく、場合によっては追い越している」
習氏は、先端技術さへ揃えられれば「国家安泰」と思い込んでいる。14億人の国民が、雇用不安と賃下げリスクに直面していることなど眼中にない典型的な「王様」スタイルだ。
(3)「製造業は、現在の中国が直面する全体的な経済低迷の解決策ではない。むしろ多くの根本的な問題はそこにある。はびこる過剰生産、価格を押し下げる激しい競争、生き残りに苦しむ赤字工場。中国は今やデフレサイクルに完全に陥っている。習氏の製造業への強い執着は、北米、欧州、アジアの多くの国が電気自動車、太陽光パネル、鉄鋼をはじめ、ありとあらゆる中国製品に対して貿易障壁を設けている理由でもある。これは米トランプ政権による中国孤立化の取り組みとはほとんど関係がない。押し寄せる中国製品が、これらの国々に自国の産業と雇用への不安を抱かせているのだ」
中国の過剰生産が、世界貿易秩序を破壊している。各国が、関税の壁を高くして自国市場を守らざるを得ない状況になっている。
(4)「ベッセント米財務長官は一貫して、中国に対し製造業と輸出への過度な依存から国内消費を重視するモデルへの移行を促してきた。(90日間の貿易休戦の一環として行われる米中交渉で、ベッセント氏がこれを優先課題とするかどうかは不明だ)。西側の企業経営者たちも、中国が工場重視から自国の消費者の財布を豊かにすることに重点を移すことを望んでいる。多国籍企業にとってこれはゲームチェンジャーとなり得る。より大きく、より収益性の高い中国市場を開拓する機会となるからだ」
中国は、過剰生産=過剰輸出によって自らも苦しむ結果に陥っている。この矛盾を解消しようとしないのだ。
(5)「中国内外のエコノミストらは長年、中国を米国のような消費主導型経済にすることで、長期的な成長がより持続可能になると主張してきた。しかし、中国経済の運営を決定するのは習氏であり、最近の発言は、そうした呼びかけが今後も聞き入れられないことを示している。習氏が製造業に対する姿勢を変えない主な理由は、欧米流の消費主導型成長に対する根深い哲学的な異議にある。習氏はそうした成長を無駄なものと見なし、人々の財布にお金を入れるための景気刺激策に対して極めて慎重だ」
習氏は、欧米流の消費主導型成長を忌避している。こうした成長が、無駄なものとみえるのだ。中国が、一心不乱になってつくっているEV(電気自動車)は、耐久消費財であることを忘れたような思考パターンである。電池や太陽光パネルも、すべて生活を豊かにする手段だ。人間の経済行動の最終目的は、消費につながっている。これを忘れているのだ。
(6)「トランプ大統領が、目指す米国の製造業復活も、習氏は見逃していない。それは同氏に製造業の重要性を再確認させている。「トランプ氏が米国経済を中国のようにしたいと考えているなら、習氏にとって、それは何かを物語っている」と、ある中国当局者は最近語った。とはいえ、中国と他国、とりわけ米国との貿易摩擦が続けば、中国の製造業は必然的に打撃を受け、経済にさらなる打撃を与える可能性がある。何かが変わらざるを得ないかもしれない。問題は、中国は変化を余儀なくされるのかということだ」
米国の目指す製造業復活は、個人消費とのバランスを取ろうとするためだ。中国は、米国と逆に個人消費復活で製造業とのバランスルを取らなければ、経済成長できない段階へ達している。こういう経済のバランス論が、習氏には理解不能である。





