勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2025年05月

    テイカカズラ
       

    米国の貿易赤字は2024年、GDP比で3.1%になる9180億ドルに達した。これを削減するために、トランプ政権は関税の大幅引き上げを行っている。だが、国内のインフレ問題に火を付ける危険性が高い。そうなると、ドル安による輸出促進政策が浮かび上がるも、物価高へのリスクを含んでいる。根本的には、財政赤字削減によって内需を抑制することだ。これは、直接の痛みを伴うだけに、米国民がこれを受入れるか疑問である。しかし、貿易赤字削減には、この荒療治しかないようだ。

     

    『ロイター』(5月28日付)は、「米貿易赤字解消に必要な歴史的ドル安、実現可能性は不透明」と題する記事を掲載した。

     

    米国が貿易赤字を大幅に削減、あるいは解消するためにはドルが大幅に下落する必要がある。だが歴史が示すように、大幅なドル安はまれであり、貿易に予測不可能な結果をもたらす中で、実際どれだけ下がるかは分からない。

     

    (1)「トランプ政権の目標が、外国為替相場でのドル安だとすれば、それはすでに軌道に乗っている。米政府の財政の行方と政策の信頼性に対する懸念の高まりに加えて「米国例外主義」と「安全な避難先」としての米国債の地位が終止符を打ったことを背景に、ドルは外国為替相場で今年に入ってから10%弱も下落している。しかし、トランプ氏は1期目にドルが15%下落しても貿易赤字には何の影響もなく、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が起こるまで米国内総生産(GDP)成長率が2.5~3.0%の間で推移していたことを忘れてはならない。したがって米財政赤字を縮小させるには、もっと大きな動きが必要になる」

     

    今年に入って、ドルはすでに10%弱も下落している。トランプ1期目は、ドルが15%下落しても貿易赤字には何の影響もなかった。要するに、この程度のドル安では、貿易赤字が減らないのだ。

     

    (2)「貿易赤字の削減は困難であり、景気後退なしに赤字を解消できれば歴史的な偉業となる。米国は、過去半世紀にわたって恒常的に赤字を垂れ流してきた。飽くなき消費者需要が、世界中からモノ(商品)を吸い上げ、外国からの米国資産に対する旺盛な購買意欲が資本を国内に呼び込み続けてきたからだ。唯一の例外は1980年第3・四半期で、米国はGDP比で0.2%というわずかな貿易黒字を計上した。だが、この時期は最終的に景気後退に至った米国の経済活動の急減速と重なるか、その結果であった。経済成長が収縮するのに伴い、輸入需要が低迷し、貿易不均衡は縮小した」

     

    米国が、貿易赤字を減らすにはGDPの減少が前提だ。輸入需要が低迷することで、貿易赤字縮小に向うからだ。

     

    (3)「1987年の貿易赤字は、当時としては過去最低となるGDP比3.1%にとどまった。これは85年から87年にかけてドルが約50%下落し、過去最大の下落幅となったことが主因だ。この間のドル下落は、85年9月のプラザ合意によって加速された。80年代前半にドルが放物線を描くように上昇したことを受け、世界の経済大国が協調してドル安に取り組んだのがこの取り決めだ」

     

    85年から87年にかけドルが約50%下落し、過去最大の下落幅となった。これにより、1987年の貿易赤字は、当時としては過去最低となるGDP比3.1%にとどまった。ドル安が、貿易赤字を減らした顕著な例だ。

     

    (4)「だからといって、ドルの大幅下落が必ずしも米貿易赤字縮小と一致するわけではない。ドルの下落が2番目に大きかったのは、リーマン・ショック前の2002年から08年半ばにかけての約40%下落だった。しかしながら、米貿易赤字はそのうちの大部分の期間を通じて拡大し、05年にはGDP比で6%と過去最高を記録した。09年までに3%ポイント超縮小したが、これは為替レートよりも大不況時の輸入急減が要因だった」

     

    ドルは、2002年から08年半ばにかけ約40%下落した。米貿易赤字はその間、大部分の期間を通じて拡大。05年には、GDP比6%と過去最高を記録した。

     

    (5)「過去50年間で、20%を超えるドル下落があったのは1977~78年と90年代早期の2回だけで、他には15~20%の下落が数回あっただけだ。いずれも米国の貿易収支に明確な影響は与えなかった。いくつかの広範な指標から見て、ドルが歴史的な高水準にあるというトランプ政権の認識は正しい。トランプ氏とベセント財務長官が世界貿易のバランス再構築を意図していると考えると、ドルへの圧力がすぐにも解消されることはなさそうだ」

     

    過去50年間で、20%を超えるドル下落があったのは1977~78年と90年代早期の2回だけだ。他には、15~20%の下落が数回あった程度である。このように、ドル安が限られた期間しか起こっていないことを考えると、ドル高が構造的要因で起こっているとみるほかない。米国先端産業の抜きん出た競争力が招いたドル高である。これが、米国製造業全般の競争力を奪うという矛盾した結果を生んでいる。

     

    学校のクラスを例に取れば、数人の秀才が満点をとって、クラス全体の平均点を上げているようなものだ。「その他大勢の生徒」の得点は平凡でも、平均点はぐっと上がるもの。IT産業が、まさに「秀才」の立場だ。

     

    (6)「2024年、GDP比で3.1%の9180億ドルに達した貿易赤字を削減するには、ドルはどの程度下落しなければならないのだろうか。ヘッジファンドのマネジャー、アンドレアス・ステノラーセン氏は、今後2年間にドルが20~25%下落すれば貿易赤字が「消滅」すると見ており、ドイツ銀行のピーター・フーパー氏はドルが20~30%下落すれば「最終的に」貿易赤字をGDPの約3%に縮小させることができると考えている。歴史を振り返ると、深刻な景気減速がなければ実現は難しいかもしれない。しかし、トランプ政権はそのリスクを受け入れる用意があるようだ」

     

    米国は、深刻な不況が起らない限り、貿易赤字が減らない構造になっている。先の例で言えば、「その他大勢の生徒」が平凡すぎる得点であるからだ。産業間の競争力がバラバラになっている結果である。

     

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    生産カルテルの胴元JA

    減反政策の継続は不可能

    農家60キロ2.3万円に

    主役はいずれ農業法人へ

     

    混乱した米価問題は、小泉農相の登場によって大きく局面転換し始めた。5月26日には、政府保有米(21年産米や22年産米)を直接、小売業者(年間1万トン以上の扱い業者50社以上)に売り渡すと発表した。最終の小売価格は、玄米で5キロ当たり2000円見当にするという意欲的目標である。この効果が的面に出て、27日夜には募集を打ち切るほどの盛況である。第二弾は、小規模小売店を対象に再開する方針だ。

     

    これまで、政府保有米20万トンを全農(全国農業協同組合連合会:JA)へ売り渡してきたにもかかわらず、小売価格が値上がりし続ける異常事態は解消しなかった。政府はそこで、随意契約によって小売業者へ直接売り渡す「直撃弾」を投げ込んだ。一連のコメにまつわる混乱は、日本農政の政策手詰まりの結果である。

     

    農水省は、1971年から2017年までの46年、実に半世紀もの間にわたる減反政策によって、生産過剰状態のコメを消費量に合わせて減らし米価を維持してきた。国内の主食用のコメ需要は、人口減を背景に年10万トンペースで減ってきたからだ。農水官僚にとって、減反政策が米価維持の唯一の政策となっていた。

     

    これが、23年のコメ不作によって需要減を前提とした農政の弱点を露呈させた。これまでの「減反による価格維持」政策は、農政の骨格になってきた。ここから「逸脱した」形の政策は論外であった。農水省自らが、コメが足りないと認めることは、半世紀にわたり固守した「減反政策」に反するからだ。こうした硬直姿勢に対して、天候異変で不作になるという、ごく普通の現象を突きつけられた。農政の混乱はここから始まった。

     

    23年の夏は、記録的猛暑に襲われた。日本で3割も作付けされている「コシヒカリ」は、寒さには強いが、暑さに弱い品種である。コシヒカリの主産地は、秋田・茨城・栃木などで、猛暑によって品質低下が起ったのだ。米作の3割が「不作」となれば、日本全体でコメ不足に陥って当然であろう。

     

    農水省は、前述のような事態が起こっていても、コメの供給不足を認めることはなかった。過去の減反政策を拠り所にして、政府備蓄米を大量放出したり、減反の手を緩めたりすれば、コメの生産量が増え、米価が下がると危惧したのだ。農水省にとって、最も重要なのは米価維持という生産者側の論理に立っていた。ここには、米価の高騰で苦しむ消費者目線はゼロであった。

     

    生産カルテルの胴元JA

    コメの生産者組織で最大の実力を持つのは、全農である。生産者カルテルの「胴元」と言える存在だ。生産者カルテルとは、複数の企業が市場での競争を回避するため、生産量や価格、営業地域などについて互いに取り決める行為である。これによって、価格がつり上げられて事業者側が利益を得る一方、消費者は安い商品やサービスを購入できないなどの不利益を被る。生産者カルテルは、こういう弊害を伴うので、独占禁止法によって禁止されている行為だ。

     

    日本農業は、これまで産業という枠組みで議論されることはなかった。食糧自給率維持という、別枠で取り上げられてきた。農水省が、半世紀も減反政策を続けられた理由は、食糧安全保障という農業保護論に支えられていたもので、日本農業が「脆弱構造」という前提である。産業論という視点でみれば、弱体化した産業を放置せず、体質強化して独立して一本立ちできる産業へ押上げる政策が採用される。不思議なことに、日本農政にはそのような視点がなく、ただ農家を保護して置けば良いという安易なものだった。

     

    日本農業は、全農が政治と結びついて最大の「圧力団体」になったことで、産業論という真っ当な視点を奪い去った。選挙のたびごとに有力候補者を支援し、その力を借りて「生き延びる」という消極的な戦術を選択してきた。これが結局、日本農業を弱体化させた大きな理由である。

     

    産業保護主義と結びついて、衰退した産業の典型例は米国鉄鋼業である。米鉄鋼労組(USW)は、政治権力と結びつき鉄鋼保護で関税を引上げて「自滅」への道を歩んでいる。かつて世界一のUSスチールが、日本製鉄に合併される時代を招いた背景だ。

     

    米国鉄鋼業ですら、保護主義に走れば最終的に衰退する例が見られる。となると、日本農業の中核であるコメの国際競争力は今や、いかにして高めるか新たな視点が求められる。日本農政は、保護主義から脱して競争力強化へ踏み出さなければならないギリギリの段階にきているのだ。今回の「令和の米騒動」は、これを考えるまたとない機会となった。

     

    農水省によると、農業を主な職業とする基幹的農業従事者(概数値)は、24年に前年比4%減の111万人で、05年の半数ほどに減っている。このうち、65歳以上の担い手が7割を占めている。今後、後継者不在を理由とした耕作放棄が一気に進む危険性が高まってきた。こういう状況下で、農水省の取っている政策は、ただ「米価を下げたくない」という消極的なもので、これで今後の危機を乗りきれるはずがない。

     

    全農は、農家の貯金を殖やすことに主眼を置いている。それには、米価維持から値上がりへ転換させることだ。全農が、今回の米騒動で敏捷に動かなかった背景は、米価値上がり→農家貯蓄増加→JA貯蓄増加という一連の「好循環」に目が眩んだとみられる。コメ消費者への配慮はゼロであった。コメ消費者は、全農の会員でないから当然かも知れない。

     

    今回の米価急騰は、日本農政がこのまま続けば破綻するという悲痛な「シグナル」なのだ。全農が、これに敏感に反応しないで「旧套墨守」では、余りにも能がなさすぎる振舞である。(つづく)

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    https://www.mag2.com/m/0001684526

    テイカカズラ
       

    日産自動車が、苦境に立たされている。社内の予測で、自動車製造部門の余剰資金が今期(26年3月期)中にほぼ底を突くという。この予測は、米国関税が維持され事業への資金注入がない前提に基づいているが、資金的に綱渡りを強いられている。そこで、横浜市の本社ビルを売却しテリースバック方式で賃貸する案なども検討するほか、英国政府系の機関である英国輸出信用保証局から保証が付いた10億ポンド(約1900億円)のシンジゲートローンも受けることも視野に入れるほどだ。

     

    『ブルームバーグ』(5月28日付)は、「日産が1兆円規模資金調達計画、英政府保証付き融資も視野―関係者」と題する記事を掲載した。

     

    経営が悪化し、社債の償還期限の問題に直面している日産自動車は借り入れやさらなる資産売却を通じて1兆円規模の資金調達を検討している。

     

    1)「ブルームバーグが確認した文書によると、高利回りのドルやユーロ建てを含む最大6300億円の転換社債や普通社債を発行する。また、英国政府系の機関である英国輸出信用保証局から保証が付いた10億ポンド(約1900億円)のシンジゲートローンも受けることも視野に入れる。日産はまた、保有する仏ルノーや電池メーカーのAESCグループの株式、南アフリカとメキシコの工場を売却する計画。さらに、横浜市の本社と米国にある不動産も売却してリースバックすることも検討している。英国輸出信用保証局の広報担当者、アンディ・アストン氏は特定の取引に関する臆測についてはコメントしないと述べた」

     

    日産は、現金化できる資産はすべて売却するという危機に立っている。英国政府機関からの融資まで受ける話まで進めているとなると、ただ事でないという印象だ。

     

    2)「事情に詳しい複数の関係者によると、4月に就任したイバン・エスピノーサ社長兼最高経営責任者(CEO)は、今月に入って取締役会にこの計画を提示した。資金の一部は4~6月期(第1四半期)中に調達する方針だが、承認は得ておらず実現するかどうかは不透明という。新たな資金調達は既存の社債の借り換え分も含んでいる。報道を受け、午後の取引再開直後から日産株は上昇幅を拡大」

     

    エスピノーサ氏の提案した資金調達計画は、まだ役員会で承認されていないという。

     

    3)「日産とその関連会社は2025年に総額16億ドル(約2300億円)、26年に同56億ドル近くの社債が償還期限を迎え、今後の資金繰りが正念場を迎える。日産が資金調達を急ぐ背景には、社内の予測で自動車製造部門の余剰資金が今期(26年3月期)中にほぼ底を突くとの見通しが示されたことがある。この予測は米国関税が維持され、事業への資金注入がない前提に基づいている。エスピノーサ氏は、15日のインタビューで、日産は約2兆2000億円の手元資金に加え、未使用のコミットメントラインもあり「流動性の面では堅固な基盤を築いている」として、今後12~18カ月間は何もせずとも事業継続が可能だと話していた」

     

    日産が、資金調達を急ぐ背景には、自動車製造部門の余剰資金が今期(26年3月期)中にほぼ底を突くとの見通しがあるからだ。

     

    4)「文書によると、米国の関税が維持された場合、今期の営業損失は最大で4500億円に達する。関税が撤廃された場合でも3000億円と予測されており、過去最大の営業赤字となる見込みだ。同社は13日に公表した決算資料で今期の利益予想を未定としたが、関税影響を除いた今期の営業利益については収支とんとんを見込んでいるとしていた。日産は、英国のサンダーランド工場でのEV生産拡大のため、20億ポンドの投資を公表している。英国政府は欧州連合(EU)離脱後の不確実性が続く中、このプロジェクトを歓迎している。関税に関して米国と英国は貿易協定に合意していることから、英国から米国への輸出によってメリットを享受できる可能性もある」

     

    今期の営業損失は、最大で4500億円に達するという。これは、大変な事態である。13日に公表した決算資料では、今期の利益予想を未定としていた。実態は、これだけの赤字予想である。

     

    5)「4月1日にCEOへ就任したエスピノーサ氏は、北九州市で予定していた電池工場の建設計画の撤回したほか、今月には2万人の人員削減と、世界17工場のうち7工場の閉鎖を計画すると発表。急ピッチでリストラを加速している。ただ、読売新聞などの報道によると日産は国内の追浜工場(神奈川県横須賀市)と日産車体の湘南工場(同平塚市)も閉鎖する方向で調整しており、他国の政府系機関の保証付きの融資を受けることは議論を呼ぶ可能性もある」

     

    日産はここまで追い込まれているが、退職役員に約5億円の退職金を支払うという。不思議な感じがする。



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    日本製鉄の米鉄鋼大手USスチール買収を巡り、USスチールの「黄金株」を米政府に付与することが合意条件に含まれていることが分かった。米政府が、重要な決定に対して拒否権を持つことになる。トランプ米大統領と先週面談した米上院議員が米CNBCの番組で明らかにした。以下は、『ロイター』(5月27日付)の「日鉄のUSスチール買収、「黄金株」が米政府の合意条件=米上院議員」が報じた。

     

    米政府はUSスチールの黄金株を持つことで、生産の削減など重要事項の決定に対して拒否権を発動できる。USスチールが本社を構えるペンシルバニア州選出のデイブ・マコーミック上院議員によると、合意条件にはUSスチールのトップが米国人であること、取締役会の過半数を米国人が占めることが含まれる。

     

    マコーミック議員はCNBCのインタビューで「米国人最高経営責任者(CEO)、米国人が過半数を占める取締役会、そして黄金株が設けられる。基本的に、複数の取締役会メンバーについて米政府の承認が必要となり、それによって米国の生産レベルが削減されないことなどを確保できるようになる」と述べた」

     

    米国政府が、USスチールの「黄金株」を持つことに対して、日鉄がどのような反応を示しているか不明である。日鉄は最終的に、米国の鉄鋼市場の潜在成長性と金庫株の制約性をどう評価するかにかかっている。米国は、世界一のGDP大国である。ここは、米国経済の成長力に賭けるほかあるまい。「虎穴に入らずんば虎児を得ず」、である。合併には、ある程度のリスクを伴う。

     

    韓国は、日鉄がUSスチールを合併すれば、米国鉄鋼市場で揺るぎない地位を占めるだろうと警戒している。韓国からみれば、「垂涎の的」なのだ。

     

    『ハンギョレ新聞』(5月27日付)は、「トランプ大統領『日鉄とUSスチールのパートナーシップ』言及…韓国鉄鋼業界は緊張」と題する記事を掲載した。

     

    トランプ米大統領が5月23日(現地時間)、日本製鉄とUSスチールの「パートナーシップ」に言及し、韓国国内の鉄鋼業界の緊張も高まっている。トランプ大統領が、日本製鉄によるUSスチール買収を最終的に許可した場合、米国市場をめぐって韓国と日本の激しい鉄鋼競争が繰り広げられる可能性があるためだ。日本製鉄は、韓国の鉄鋼企業と類似した製品を作っているため、USスチールの買収で米国現地の生産拠点が大幅に増えれば、関税戦争で韓国より有利な位置に立つ可能性がある。

     

    (1)「韓国の鉄鋼業界は、状況を注視している。日本製鉄の技術力とUSスチールの米国現地の生産能力が合わさった場合、米国の鉄鋼市場内における日本製鉄の競争力が高まるためだ。特に、米国の関税対応策に支障が生じる可能性を懸念している。現代製鉄とポスコは現地生産を増やすため、米国内の製鉄所を共同で建設し、高付加価値用の自動車鋼板を作ることにしている。また、韓国企業は米国企業がうまく作れない鋼管や特殊鋼板などの高付加価値のある鉄鋼については、関税がかかっても競争力があるため輸出をさらに増やす戦略も慎重に検討している」

     

    韓国トップ鉄鋼企業のポスコ(浦項製鉄)は、日鉄が技術支援して創業された企業である。製品構成が類似なのは、浦項が日鉄技術を模倣した結果だ。日鉄が、USスチールを合併すれば、USスチールの製品構成が日鉄型になるので、浦項製鉄の対米輸出が競合すると懸念している。

     

    (2)「問題は、日本製鉄と韓国の鉄鋼企業の製品群が類似している点だ。日本製鉄も中国の低価格鉄鋼攻勢に対応して製品の高級化を推進してきた。熱延・冷延鋼板などの汎用材だけでなく、自動車鋼板、鋼管などの高付加価値鉄鋼を生産しているということだ。日本製鉄がUSスチール買収により米国現地での高付加価値鉄鋼の生産量を大幅に増やすことになれば、物量と価格面で韓国企業よりさらに競争力のある位置を確保する可能性が生じる」

     

    日鉄が、USスチールを合併すれば、米国で韓国企業よりも物量と価格面で競争力のあるライバルとなる。それを懸念している。

     

    (3)「韓国政府関係者は25日、ハンギョレに「日本製鉄と韓国鉄鋼企業の製品群は似ている。米国市場で韓国と日本の競争が激化するだろう」と述べた。韓国貿易協会のハン・アルム首席研究員は、「韓国企業が関税対応策として自動車鋼板、油井用鋼管など米国が輸入に依存している高付加価値鉄鋼の販売を増やす戦略を追及しているが、日本製鉄がこれらの製品を米国内で生産するとなると、韓国企業の打撃が予想される」と話した。世界鉄鋼協会の最近の統計を見ると、2023年基準で日本製鉄のUSスチール買収時の総年間粗鋼生産量は5941万トンで、世界4位から3位に上がる」

     

    韓国政府も、日鉄とUSスチール合併による米国鉄鋼業の競争力強化を懸念している。これだけ有望な両社合併である。日鉄は、米国の金庫株に慌てることなく対応することだ。

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    中国政府は、内需不振をカバーすべく各地方政府へ「越境EC」(電子商取引)を推奨し始めている。すでに15地方政府をモデル地区に選んでいるほどだ。秦皇島市(河北省)、保定市(河北省)、エレンホト市(内モンゴル自治区)、丹東市(遼寧省)などだ。各国が、特例措置として小型貨物関税を無税にしている特典を狙った「隙間ビジネス」である。SHEIN(シーイン)やTemu(テム)は急成長し、株式を上場するまでになった。

     

    隙間ビジネスであることから、小型貨物関税無税制度を撤廃されれば、途端に道を閉ざされる大きなリスクを抱えている。すでにその動きが始まっている。米国が5月2日以降は、中国・香港に対して輸入申告額800ドル(約11万6000円)以下の場合に関税を免除するいわゆる「デミニミス(非課税基準額)」ルールを適用しない決定した。米国以外にも、EUや英国などがシャットアウトしている。

     

    こうした壁が西側にできたことは、越境ECが過熱していることの証明でもある。Temuの今年1~3月期決算は、純益で47%減益という事態に見舞われた。

     

    『日本経済新聞 電子版』(5月28日付)は、「中国『Temu』のPDD純利益47%減 13月、国内外で競争激化」と題する記事を掲載した。

     

    中国新興ネット通販で「Temu(テム)」の親会社PDDホールディングスが27日発表した2025年1〜3月期決算は、純利益が前年同期比47%減の147億元(約2900億円)だった。競争が激しくなったことを受け、出品者から徴収する手数料を引き下げたことなどが響いた。

     

    (1)「売上高は10%増の956億元だった。売上高、純利益ともに市場予想を下回った。節約志向を追い風に、11四半期連続で増益を続けてきたが、ブレーキがかかった。販売促進費用や広告費用を積み増したことも利益を圧迫した。陳磊・会長兼共同最高経営責任者(CEO)は決算資料に「外部環境の急速な変化に対応するため出品者と消費者の支援に大幅な投資をした」とのコメントを寄せ、利益に影響が出たと説明した」

     

    減益理由として、「外部環境の急速な変化に対応するため」と断りが入っている。輸入貨物の無税制度を利用したビジネスだけに、ここを塞がれたら「アウト」である。その時期が早くもきたのだ。

     

    (2)「中国政府による家電などへの補助金政策をきっかけに、最大手のアリババ集団や京東集団(JDドットコム)が盛り返すなど業界内の競争が激しさを増しており、成長率が鈍化した。22年秋以降に急拡大した海外向け通販のテムも、米国で小口輸入に対する非課税措置が撤廃されるなど逆風が吹く。米国や日本で現地に在庫を持つ出品者の募集を始めるなど、中国から商品を発送する越境通販以外のビジネスモデルの構築を急いでいる」

     

    通販のTemu(テム)は、22年秋以降に急拡大した海外向けが、米国で小口輸入に対する非課税措置が撤廃されるなど逆風が吹いている。これは一過性でなく今後も続く。さらに他国へ広がっている。

     

    『日本経済新聞 電子版』(5月20日付)は、「越境ECの免税措置、世界で見直し機運 中国系『Temu』など念頭」と題する記事を掲載した。

     

    主要国が、少額の輸入品への免税措置の廃止や縮小に動き出した。中国発のネット通販事業者が免税制度を利用して安値攻勢を仕掛けており、課税対象となる国内事業者から不公平だとの意見が強いためだ。

     

    各国が見直すのは、海外から一定額を下回る製品を輸入した場合、関税や消費税を免除する制度だ。「ささいなこと」を意味するラテン語から「デミニミス・ルール」と呼ばれる。もともとは輸入事業者の事務作業や税関の通関作業を軽減する目的だ。

     

    (3)「近年は中国系の「Temu(テム)」や「SHEIN(シーイン)」といった越境EC(電子商取引)サイトがこの制度を利用し販路を拡大しているとの見方がある。消費税や関税が免除されれば、その分だけ安く消費者に商品を提供できるためだ。課税対象となる国内の事業者には不利なため、公平に課税するよう求める意見が強い。輸入品が急増すれば水際の取り締まりが甘くなり、違法薬物などの密輸ルートに使われかねないとの指摘もある」

     

    関税や消費税が無税であることを利用して、中国越境ECは急速な伸びである。商品は、常識では考えられないような「捨値価格」である。中国の安いコストの製品が、無税で「上陸」しているのだ。

     

    (4)「オーストラリアや欧州連合(EU)、英国などはすでに免税制度の廃止や縮小に取り組んでいる。5月上旬には米国が中国からの少額輸入品に対する非課税措置を撤廃した。トランプ米大統領は合成麻薬フェンタニルの流入阻止が目的だと説明している。日本は1万円以下の少額貨物の消費税や関税を免除している。政府の税制調査会(首相の諮問機関)のもと免税制度の見直しに向けた議論が進む。財務省によると、日本の少額貨物の輸入件数は24年に約1億7000万件となり、5年間で5倍強に急増した。加藤勝信財務相は20日の記者会見で「諸外国の実態や実務への影響なども含めて引き続き検討したい」と語った」

     

    EU、英国、豪州、米国などはすでに中国越境ECへ「ストップ」をかけている。日本は、未だ1万円以下の少額貨物の消費税や関税を免除している。Temuなどの広告を見ていると、超破格値で、「1万円以下」の価格帯が並んでいる。日本もいずれ、この恩典が消されるであろう。

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