米国の貿易赤字は2024年、GDP比で3.1%になる9180億ドルに達した。これを削減するために、トランプ政権は関税の大幅引き上げを行っている。だが、国内のインフレ問題に火を付ける危険性が高い。そうなると、ドル安による輸出促進政策が浮かび上がるも、物価高へのリスクを含んでいる。根本的には、財政赤字削減によって内需を抑制することだ。これは、直接の痛みを伴うだけに、米国民がこれを受入れるか疑問である。しかし、貿易赤字削減には、この荒療治しかないようだ。
『ロイター』(5月28日付)は、「米貿易赤字解消に必要な歴史的ドル安、実現可能性は不透明」と題する記事を掲載した。
米国が貿易赤字を大幅に削減、あるいは解消するためにはドルが大幅に下落する必要がある。だが歴史が示すように、大幅なドル安はまれであり、貿易に予測不可能な結果をもたらす中で、実際どれだけ下がるかは分からない。
(1)「トランプ政権の目標が、外国為替相場でのドル安だとすれば、それはすでに軌道に乗っている。米政府の財政の行方と政策の信頼性に対する懸念の高まりに加えて「米国例外主義」と「安全な避難先」としての米国債の地位が終止符を打ったことを背景に、ドルは外国為替相場で今年に入ってから10%弱も下落している。しかし、トランプ氏は1期目にドルが15%下落しても貿易赤字には何の影響もなく、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が起こるまで米国内総生産(GDP)成長率が2.5~3.0%の間で推移していたことを忘れてはならない。したがって米財政赤字を縮小させるには、もっと大きな動きが必要になる」
今年に入って、ドルはすでに10%弱も下落している。トランプ1期目は、ドルが15%下落しても貿易赤字には何の影響もなかった。要するに、この程度のドル安では、貿易赤字が減らないのだ。
(2)「貿易赤字の削減は困難であり、景気後退なしに赤字を解消できれば歴史的な偉業となる。米国は、過去半世紀にわたって恒常的に赤字を垂れ流してきた。飽くなき消費者需要が、世界中からモノ(商品)を吸い上げ、外国からの米国資産に対する旺盛な購買意欲が資本を国内に呼び込み続けてきたからだ。唯一の例外は1980年第3・四半期で、米国はGDP比で0.2%というわずかな貿易黒字を計上した。だが、この時期は最終的に景気後退に至った米国の経済活動の急減速と重なるか、その結果であった。経済成長が収縮するのに伴い、輸入需要が低迷し、貿易不均衡は縮小した」
米国が、貿易赤字を減らすにはGDPの減少が前提だ。輸入需要が低迷することで、貿易赤字縮小に向うからだ。
(3)「1987年の貿易赤字は、当時としては過去最低となるGDP比3.1%にとどまった。これは85年から87年にかけてドルが約50%下落し、過去最大の下落幅となったことが主因だ。この間のドル下落は、85年9月のプラザ合意によって加速された。80年代前半にドルが放物線を描くように上昇したことを受け、世界の経済大国が協調してドル安に取り組んだのがこの取り決めだ」
85年から87年にかけドルが約50%下落し、過去最大の下落幅となった。これにより、1987年の貿易赤字は、当時としては過去最低となるGDP比3.1%にとどまった。ドル安が、貿易赤字を減らした顕著な例だ。
(4)「だからといって、ドルの大幅下落が必ずしも米貿易赤字縮小と一致するわけではない。ドルの下落が2番目に大きかったのは、リーマン・ショック前の2002年から08年半ばにかけての約40%下落だった。しかしながら、米貿易赤字はそのうちの大部分の期間を通じて拡大し、05年にはGDP比で6%と過去最高を記録した。09年までに3%ポイント超縮小したが、これは為替レートよりも大不況時の輸入急減が要因だった」
ドルは、2002年から08年半ばにかけ約40%下落した。米貿易赤字はその間、大部分の期間を通じて拡大。05年には、GDP比6%と過去最高を記録した。
(5)「過去50年間で、20%を超えるドル下落があったのは1977~78年と90年代早期の2回だけで、他には15~20%の下落が数回あっただけだ。いずれも米国の貿易収支に明確な影響は与えなかった。いくつかの広範な指標から見て、ドルが歴史的な高水準にあるというトランプ政権の認識は正しい。トランプ氏とベセント財務長官が世界貿易のバランス再構築を意図していると考えると、ドルへの圧力がすぐにも解消されることはなさそうだ」
過去50年間で、20%を超えるドル下落があったのは1977~78年と90年代早期の2回だけだ。他には、15~20%の下落が数回あった程度である。このように、ドル安が限られた期間しか起こっていないことを考えると、ドル高が構造的要因で起こっているとみるほかない。米国先端産業の抜きん出た競争力が招いたドル高である。これが、米国製造業全般の競争力を奪うという矛盾した結果を生んでいる。
学校のクラスを例に取れば、数人の秀才が満点をとって、クラス全体の平均点を上げているようなものだ。「その他大勢の生徒」の得点は平凡でも、平均点はぐっと上がるもの。IT産業が、まさに「秀才」の立場だ。
(6)「2024年、GDP比で3.1%の9180億ドルに達した貿易赤字を削減するには、ドルはどの程度下落しなければならないのだろうか。ヘッジファンドのマネジャー、アンドレアス・ステノラーセン氏は、今後2年間にドルが20~25%下落すれば貿易赤字が「消滅」すると見ており、ドイツ銀行のピーター・フーパー氏はドルが20~30%下落すれば「最終的に」貿易赤字をGDPの約3%に縮小させることができると考えている。歴史を振り返ると、深刻な景気減速がなければ実現は難しいかもしれない。しかし、トランプ政権はそのリスクを受け入れる用意があるようだ」
米国は、深刻な不況が起らない限り、貿易赤字が減らない構造になっている。先の例で言えば、「その他大勢の生徒」が平凡すぎる得点であるからだ。産業間の競争力がバラバラになっている結果である。




