勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2025年05月

    あじさいのたまご
       

    中国経済を改革開放路線へ牽引した鄧小平は、「中国に原油はないが、レアアースがある」と胸を張った。その通りで、中国は世界のレアアースの約70%を採掘している。精製では、世界の90%が中国産だ。レアアースは、民生・軍事技術に必要な磁石の主原料である。それだけに、中国の独占状態は西側諸国にとって危険この上ない話である。

     

    ブラジルが今、レアアースの主要生産国になろうとしている。米地質調査所(USGS)によると、ブラジルは中国に次ぐ世界第2位のレアアース埋蔵量(約2100万トン)を誇る。これは世界の確認埋蔵量の5分の1超を占め、米国の10倍超に相当する。ブラジルのサバンナ地帯で電気自動車(EV)やスマートフォン、ミサイルの製造に不可欠な金属を含む白い岩石を生産している。出荷先は、中国向けでなく米国向けだ。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(5月26日付)は、「レアアース生産施設、中国以外で続々建設」と題する記事を掲載した。

     

    地政学的な緊張により、ブラジルの鉱物への関心が高まっている。米国が4月に新たな対中関税を課すと、中国はレアアース材料の輸出規制を強化した。これを受け、EV大手テスラなどの米製造業企業が懸念を強め、中国以外の調達先を探す動きを加速させた。中国は、一部企業向けのレアアース輸出は5月に再開された。

     

    (1)「カナダのアクララ・リソーシズのラモン・バルア最高経営責任者(CEO)は、「中国は手ごわい競争相手だ」とそう話す。同社は、米国に建設予定の精製工場向けにレアアース鉱山を開設する。レアアース鉱石を個々の元素に分離する工場を米国のどこに建設するかを、8月までに決める予定だという。買い手も決まっている。アクララは昨年、ドイツ企業VACにレアアースを供給する契約を締結した。米自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)などの顧客向けに磁石を製造するため、VACは米国防総省から9400万ドル(約136億円)の資金を得てサウスカロライナ州に工場を建設中だ」

     

    カナダのアクララが、ブラジルのレアアース鉱山から採掘した鉱石を米国へ運び精錬する。場所はこれから設定するが、売り先は次々と決まっていく。

     

    (2)「アクララのバルア氏は、「需要の津波が押し寄せている」と話す。アクララは、ブラジルとチリの工場で軽・重レアアースを抽出・加工することを目指している。ブラジルには、ジスプロシウムやテルビウムなど、より希少な重レアアースも豊富にある。ジスプロシウムとテルビウムは銀白色の金属元素で、高温時に磁石が磁力低下するのを抑制する。EVではモーターが加熱しても磁石で動力を得られるため、これらの重要性は高い。埋蔵量が巨大であるにもかかわらず、ブラジルはレアアース市場で存在感が小さかった。複雑な採掘規制に加え、中国の先行競合企業に立ち向かおうとする企業があまりおらず、資金調達が難しいことが原因だ」

     

    ブラジルには、ジスプロシウムやテルビウムなど、より希少な重レアアースも豊富だ。これまで、ブラジルの重要性が余り認識されなかったのは、複雑な採掘規制と資金調達が難しかったからだ。だが、レアアースの重要性が世界的に叫ばれるとともに、開発を阻んできた条件がクリアされてきた。こうして、レアアースの「中国独占」が破られようとしている。

     

    (3)「ブラジルのレアアース採掘・加工コストは、中国の約3倍と推定されるため、欧米のバイヤーはブラジル産鉱物に大幅な割増料金を支払う可能性が高い。中国以外でレアアース加工を習得している企業はわずかな上、その習熟は容易ではない。ブラジルのアレシャンドレ・シルベイラ鉱業・エネルギー相によると、同国は潜在的なレアアース鉱床の調査を進めており、他の鉱山の廃棄物からレアアースの痕跡を探している。「これ(鉱床が眠っている可能性)は大きなチャンスだ」と指摘する」

     

    ブラジルは、中国と違いレアアース採掘・加工で環境保全の規制が厳しい。これは、当然の措置である。中国の方が、野放図なのだ。

     

    (4)「米国は過去5年間、中国の市場支配が続いた数十年の間に閉鎖されたレアアース加工工場や磁石工場の再生に数億ドルを投じてきた。トランプ米大統領は2020年、レアアースをはじめとする重要鉱物の対外依存について国家非常事態を宣言し、大統領に返り咲いた後もこの分野を優先課題としている。欧州は中国への依存度低減に取り組んでいる。欧州連合(EU)は、必要な重要原材料の40%を域内で加工することを目指しており、レアアースなどの指定材料について域外の単一国からの供給を年間域内消費量の65%以内に抑えることで合意した」

     

    米国は、数十年の間に閉鎖されたレアアース加工工場や磁石工場の再生に動いている。EUも、必要な重要原材料の40%を域内で加工することを目指している。「中国任せ」の姿勢を一変させている。

     

    (5)「アクララは、価格で中国と競争できないものの、より環境に優しい採掘方法を売り込んでいる。中国は通常、粘土層に穴を開け、一般的な肥料である硫酸アンモニウム溶液でレアアースを洗い流して採掘する。この工程は比較的安価だが、周辺の土壌や水源を汚染するリスクがある」

     

    中国は、環境破壊を厭わず硫酸アンモニウム溶液でレアアースを洗い流して採掘している。

     

    (6)「アクララはこの方法を採用せず、深さ約30メートルまでの粘土層を掘削し、プラントまで運んで処理する計画だ。残った粘土は洗浄して地中に戻され、通常1トン当たり3ポンド(約1.36キロ)未満のレアアースしか含まない土を大量にトラックで運ぶのは高コストだが、採掘現場の汚染は抑えられる。アクララのパイロットプラントと鉱山を最近視察したレアアース専門家のジョン・ハイカウィ氏は、「環境不安に配慮するということが、アクララのブラジル計画と中国の現状との最大の違いだ」と述べた」

     

    アクララは、中国流の採掘方法をとらず、鉱石を精錬所まで運ぶ。残った粘土は、洗浄して地中に戻すという「地球に優しい」方法だ。中国流とアクララを比べて、ユーザーはどちらを選ぶかである。永続性から言えば、アクララであろう。

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    中国の地方政府は、不動産開発企業へ土地を売却するほかに、自らが設立した融資平台へ土地を売却する「キャッチ・ボール」によって財源をつくってきた。これは、益出しを狙った「粉飾決算」まがいの行為である。こういういかがわしい取引による益出しもついに限界へ達した。

     

    『日本経済新聞 電子版』(5月25日付)は、「中国、『地方』の土地購入8年ぶり低水準 債務膨張で削減にカジ」と題する記事を掲載した。

     

    中国の地方政府傘下にある投資会社、融資平台の土地購入が急減している。2025年は5月23日までで約2200億元(4兆4000億円)と、ピークだった21年の同時期に比べ6割減った。8年ぶりの低水準だ。融資平台の負債総額は国内総生産(GDP)に匹敵する規模に膨らみ、削減が不可避になった経緯がある。不動産需要の落ち込みで、市況の低迷は当面続く公算が大きい。

     

    (1)「中国の情報会社DZHが、収集した地方融資平台の土地取引データ28万件を集計した。金額が不明な案件は除いた。25年の取得額は1〜5月としては17年以来の少なさだった。融資平台の土地購入は年後半に加速する傾向があり、例年通りのペースで推移すれば25年通年の取得額は1兆元前後にとどまる。通年でもっとも多かった22年には約2兆4000億元を購入していた。大半が地方政府からの取得とみられ、財政への影響は大きい」

     

    25年の取得額は、1〜5月としてみると17年以来の少なさだった。融資平台は、地方政府の財源不足を隠す手段に悪用されている。融資平台は、地方政府が土地を売った形にして架空利益を出す「粉飾決算」の舞台である。世界的にみても、こういう粉飾決算は珍しい。この手法は、全土の地方政府で同じ手法を使っているのだ。

     

    (2)「土地取得が急減した背景には、債務の膨張がある。DZHによると24年末時点の融資平台の負債総額は125兆元、うち有利子負債は83兆元に達した。負債総額は24年のGDP(134兆元)に並ぶ。これらは中国政府の「隠れ債務」に位置づけられる。中国政府の公表では13年6月時点の融資平台の債務は約7兆元だった。集計方法が違うため単純比較はできないものの、10年あまりで10倍以上に膨らんだ。小規模な融資平台では開示がないケースが多く、実際の負債はより大きい」

     

    融資平台の土地取得が急減した理由は、これ以上の粉飾決算が不可能になったからだ。融資平台に溜まっている隠れ債務は、限界に達している。

     

    (3)「融資平台が発行した債券の利率は、過去3年の加重平均で3.%だった。銀行借り入れの金利水準も同じと仮定すると、利払いだけで年2兆元を大きく上回る。PwCコンサルティングの薗田直孝シニアエコノミストは「地方に財務余力がないのは明らかだ」と話す。開示がある最新の決算期の集計では、融資平台の純利益合計は、5500億元強だった。これには1兆元を超す政府支援が含まれるとのデータもある。これ以上の利払い増は持続不可能だ」

     

    融資平台の抱える債務(債券)の利払いは、年2兆元(約40兆円)を大きく上回る。融資平台の純利益合計は、5500億元強(政府支援1兆元を含む)だ。こういう収益構造である以上、地方政府から土地を購入する余裕はなくなった。

     

    (4)「信用力には、既にほころびがみえる。公募社債では債務不履行(デフォルト)を起こしていないものの、信託商品など私募形式の資金調達では不履行や支払い遅延が多発している。私募のデフォルトは24年に40件を超え、25年も10件を上回る。習近平指導部は、地方財政の破綻を回避するため、「隠れ債務」の削減を本格化している。24年11月には5年間で総額10兆元の地方債を発行し、融資平台の債務を置き換える計画を発表した。15月の債券発行額をみると融資平台が2兆元強にとどまる一方、地方債は4兆元に上った。土地取得の減少も債務削減策の一環だ」

     

    融資平台の発行する社債は、信託商品など私募形式でデフォルトが多発している。24年に40件を超え、25年もすでに10件を上回っている。地方政府が後ろ盾の融資平台が、まさかのデフォルトを多発させているのだ。地方政府自体が、発行する債券デフォルトであれば大事になる。だが、傍系の融資平台の発行する私募債では、同じデフォルトでも目立たないのであろう。いずれ、中国の信用機構を揺るがす事態となる。ボヤが、大火になるのだ。

     

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    宙に浮いていた日本製鉄のUSスチール買収計画が大きく動き出した。「トランプ関税」を巡り難航する日米交渉にも追い風となりそうだ。これまで、日鉄の計画に反対してきたトランプ米大統領が、両社の提携容認に転じたのはなぜなのか。

     

    トランプ氏は23日、自身のSNSで日鉄の買収計画について「これはUSスチールと日鉄の計画的な提携(パートナーシップ)だ」などと投稿した。石破首相は、「トランプ氏がSNSに投稿しているわけで、私どもが詳細に語る段階にない」と強調した。日本政府内でトランプ氏が日鉄によるUSスチールの完全子会社化を容認したのか、SNSの投稿だけでは背景や意図が判然としないとしている。

     

    『毎日新聞 電子版』(5月24日付)は、「動き出したUSスチール買収計画 トランプ氏、一転『容認』のワケ」と題する記事を掲載した

     

    トランプ氏は23日、自らの交流サイト(SNS)への投稿で、「これはペンシルベニア州史上最大の投資だ」。米東部ペンシルベニアに拠点を置くUSスチールに対し日鉄が予定する140億ドル(約2兆円)の巨額投資の意義を強調した。「私の関税政策により、鉄は再び『メード・イン・アメリカ』になる」と、トランプ関税で米鉄鋼産業を復活させるとの持論を改めて訴えた。

     

    (1)「トランプ氏は、USスチールを「偉大な米製造業」の象徴と位置づけ、これまで海外企業に買収され子会社化される事態を明確に拒絶してきた。今年2月上旬には記者団に「誰もUSスチールの株式の過半数を持つことはできない。他の企業では可能だが、USスチールでは無理だ」と明言。転機となったのは4月7日だ。トランプ氏は突如、対米外国投資委員会(CFIUS)に対し、日鉄がUSスチール買収に向け講じる国家安全保障上のリスク軽減のための措置が適切かどうか再審査するよう命令。バイデン前大統領の中止命令の根拠となった「安保上のリスク」が覆る可能性が浮上し、交渉関係者からは「突破口が開いた」との期待の声が上がった」

     

    トランプ氏は、これまで日鉄・USスチール合併に反対してきた。それが一転、「承認」となると体面も考えなければならない。日鉄の意向は十分知り抜いて入るだけに、米国が日鉄に「出資と技術」だけ出させて、「合併はノー」言えるだろうか。合併を認めなければ、「出資と技術」の提供を見合わせると言うことになりかねない。「ディール」とは、そういうものだ。

     

    (2)「判断の背景には、「トランプ関税」が招いた市場の混乱を収束させたいとの思惑がうかがえる。トランプ氏は42日、満を持して看板政策の「相互関税」を発表したが、世界経済だけでなく米国自身がこうむる大打撃への懸念から、米国債とドル、米株式が一斉に売られる「トリプル安」が発生。同9日には、発動したばかりの相互関税の一部停止を余儀なくされた。これに対し、日鉄の計画は「経営不振のUSスチールを救済するとともに、日米連合で中国の大手鉄鋼に立ち向かえる」(アナリスト)と評価されてきた。投資額は、買収計画発表当初から10倍に膨らんでおり、容認すれば市場から再評価を得られるとの読みが透けて見える」

     

    トランプ氏は、5月30日のUSスチールでの演説で「トランプ効果」を100%強調したいのでないか。彼の性格から、そういう意図が感じられるのだ。

     

    (3)「日鉄の巨額投資の進展は、トランプ関税を巡る日米交渉にも好影響を与えそうだ。米国は、日本側が求める自動車関税などの撤廃に難色を示すが、一方的な高関税措置は、貿易赤字の縮小だけでなく、米国への投資を拡大させることも目的。交渉で攻め手不足気味だった日本にとって、アピール材料となるからだ。日米交渉筋の一人は、「これまでも日鉄が米国に投資すれば、優れた技術が米国企業に使えるようになると説明している」と打ち明ける。日鉄の巨額投資は、鉄鋼のサプライチェーン(供給網)強化にもつながる」

     

    トランプ氏は、日米関税交渉の成果の一つに、日鉄・USスチール合併を取り込んでいる可能性もあろう。

     

    (4)「米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』は23日、「日鉄とトランプ政権は、数週間以内に、国家安全保障協定を策定するよう作業している」と報じた。日米両政府は、6月半ばの首脳間合意も視野に入れているが、トランプ氏の姿勢の変化で関税交渉がさらに加速する可能性がある。

     

    日鉄とトランプ政権が、数週間以内に、国家安全保障協定を策定すると報じられている。これは、日鉄が中国との関係を絶つことを改めて確認する協定となろう。これが、条件になって吸収合併の条件にする可能性もある。

     

    (5)「日鉄は、技術流出への懸念などからUSスチールに100%出資する「完全子会社化」を求めてきた。トランプ氏の投稿に歓迎コメントを出した日鉄は「前向きな内容で一歩前進は間違いない」(関係者)としつつ、事前にトランプ政権側から文書などでの連絡はなかったといい、買収が本当に実現するのか戸惑いも見せる」

     

    トランプ氏は、5月30日のUSスチールの集会に参加するとも投稿した。ここで、トランプ人気健在ぶりを大々的にみせつける意向であろう。それまでは、情報を極秘にしておくのだ。トランプ氏のやりそうなことである。

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    日本が50兆円産業始動

    量子コンピュータとは?

    堺屋太一氏の夢が実現へ

    中国は量子社会が不可能

     

    石破首相の支持率は、低空飛行を続けている。最近は、米価高騰に端を発して農相が交代するなど、混乱気味である。7月の参院選挙を目前に控えて、石破氏の苦悩の種は尽きない。この石破氏は、無類の読書家として知られる。安全保障論から技術論へと幅広いのだ。次世代「量子コンピュータ」にも深い関心を寄せている。

     

    その一端は5月18日、茨城県つくば市内で産業技術総合研究所の新たな拠点「量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター」を視察したことに現れている。日曜日にもかかわらず、出かけたのだ。その際、開発に関わる企業関係者と会い、人工知能(AI)との連携について意見を聞いている。この後の記者会見では、「5月末に政府の量子戦略を抜本的に強化していく」と明言。25年を「量子産業化元年」と位置づけると説明した。

     

    石破氏は、「地方から世界に通じる次世代産業を生み出していく」とも述べた。スタートアップや中小企業の入居社数を5倍以上に増やす目標を掲げた。政府は、2030年に量子技術を生かしたサービスなどの利用者数を計1000万人に増やす目標を掲げる。生産額は、50兆円規模をめざす意欲的なものだ。

     

    量子コンピュータは、「量子力学」と呼ぶ物理学の理論を応用した次世代コンピュータだ。量子コンピュータが、従来のコンピュータの苦手とする複雑な計算や問題解決を可能にする。利用される分野は、自動車、製薬、金融、エネルギーなどで、新しい技術やサービスの開発が加速すると期待が寄せられている。日本経済は、これをテコに少子高齢化を乗切る戦略である。

     

    日本が50兆円産業始動

    政府が、量子コンピュータを利用して2030年に50兆円の生産額目標を掲げる裏には、先端半導体「2ナノ」が国策半導体企業ラピダスによって生産可能になったからだ。ラピダスの2ナノ半導体は、今年7月に試作品が登場予定で、作業は計画通りに進んでいる。米IBMは、2ナノ半導体を自社で製作している量子コンピュータに採用する旨を公表した。量子コンピュータ量産化は、日本で行われる。精密工業技術に優れる、日本の「お家芸」であるのだ。

     

    かつて、世界で大型コンピュータを製作できたのは、米国を除けば日本だけだった。その技術基盤が、しっかりと存在するのだ。日本は、量子分野で2019年に米国と共同声明をまとめた。25年1月にデンマークと、4月には英国と、5月に欧州連合(EU)と矢継ぎ早に協力覚書を結んでいる。関連政策の当局者が話し合う多国間の対話は、半年ごとに開いている。参加する国は、オーストラリア、カナダ、フランス、ドイツ、オランダ、韓国、フィンランドなどだ。これら諸国と個別の連携を検討している。

     

    石破首相は、すでに締結済みの米国とは「システム開発やサプライチェーン(供給網)の強化など具体的な連携を進める」と語った。日本が、最先端半導体生産にメドがついた以上、量子コンピュータの生産でも、米国と連携するというものだ。こうした事情によって、日本が量子コンピュータの世界的生産基地になる。技術の国際標準化も視野に入れている。

     

    日本は、1980年代の大型コンピュータ(メインフレーム)製造で、米国と対立する形になった。量子コンピュータでは、米国と協調するので、状況は全く異なる。日本が、西側諸国の量子コンピュータの中核的位置を占めるので、日本の経済や社会へ大きな影響を与えることは間違いない。「技術」としての量子コンピュータだけでなく、これを基盤にして形成される「量子社会」へと発展する可能性を示唆している。日本がこうして再び、世界の最前線へ飛び出せる機会を得ることになった。

     

    量子コンピュータとは?

    量子コンピュータが、どのような機能を持つのか。まず、これを理解しておきたい。

     

    1)産業イノベーションの加速 量子コンピュータは従来のコンピュータが苦手とする複雑な計算や問題解決を可能にする。自動車、製薬、金融、エネルギーなどの分野で、新しい技術やサービスの開発が加速する。

     

    2)産業競争力の強化 量子技術のリーダー国としての地位獲得で、日本企業は国際市場での競争力を高める可能性が大きくなる。特に、材料開発や物流、AIと量子技術の融合などが期待される。

     

    3)外資の誘致 量子技術の研究開発が進むことで、世界中から投資が集まり、日本は研究拠点としての役割をより強固にできる。

     

    4)脱炭素の達成支援 量子コンピュータの計算能力を活用することで、気候変動対策やエネルギー効率の向上に役立つ新しい解決策を見つけやすくなる。環境分野で、大きな進展が期待される。

     

    上記の4点によって、日本企業が世界企業との競争で優位に立つ可能性が高まる。日本の大企業は、ほとんどが実質「無借金経営」である。将来見通しさえつけば、果敢な設備投資を行える経営余力を秘めている。これまで、設備投資に積極的になれなかったのは、潜在成長力が「0.5%」と低いことが足を引っ張られてきた。それが、量子コンピュータの普及によって、新たなビジネスチャンスを実現できれば、状況が100%変わる。その意味で、量子コンピュータが与える影響は極めて大きく、従来の常識を打ち破るのだ。(つづく)

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    https://www.mag2.com/m/0001684526




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    中国の3月米国債保有量が、日本と英国に続き3位に退いた。英国が、米国債保有規模で中国を超えたのは、2020年10月以降で今回が初めてだ。このことから、中国が米中関税戦争で報復のため、意図的に米国債を売却したのでは、と憶測を呼んでいる。だが、中国が米国へ報復して米国債を売却すれば、未だ保有する米国債相場を下げることにもなる。こうみると、報復説は「読み過ぎ」となりそうだ。

     

    『フィナンシャル・タイムズ』(5月24日付)は、「米国債の保有、中国が世界3位に後退」と題する記事を掲載した。

     

    中国による米国債の保有額が今世紀に入って初めて、英国を下回った。中国政府が外貨準備の運用を見直していることを裏付ける動きだ。

     

    (1)「3月末時点で、中国の投資家が保有する米国債の総額は7650億ドル(約110兆円)となった。前月の7840億ドルから減少した。一方、英国の投資家の保有は前月から300億ドル近く増えて、7790億ドルになった。5月16日公表のデータで明らかになった。この結果、英国は海外の米国債保有額で日本に次いで2位に浮上した。英国の保有額が中国を上回ったのは2000年10月以来」

     

    中国は、3月末の米国債保有額を190億ドル減少させた。この結果、米国債保有額では日本、英国に次いで3位へ後退した。経常収支黒字が増えている中で起った現象だけに、その意図が詮索されている。

     

    (2)「仏金融大手ナティクシスでアジア太平洋担当のチーフエコノミストを務めるアリシア・ガルシアエレロ氏は、「中国はゆっくりとだが着実に、米国債を売却してきている。これは米国への警告だ」と指摘する。「警告は数年前から続いており、米国はもっと早く対応すべきだった」。米格付け会社ムーディーズ・レーティングスは同業の米フィッチ・レーティングスなどを追う形で、米国から最上位の信用格付けを剥奪した。今回のデータは格下げに続き、債務や財政赤字の拡大について米国政府に警告を発するものだ」

     

    元米財務省高官で、現在は米外交問題評議会に所属するブラッド・セッツァー氏は、中国の動きについて、「ドル離れというより、デュレーションを短くする動き」とみているとX(旧ツイッター)に投稿。「ポートフォリオの満期を短くしている十分な証拠は見える」と指摘する。

     

    事実、中国の3月国債保有減少では、期間長めの米国債の純売却276億ドルが一因となっている。これが、「デュレーション説」を裏付けている。デュレーションとは、債券投資において広く用いられるリスク指標だ。デュレーションは、債券の価格、クーポン、最終償還および繰上償還条項に基づいて算出される。中国は、こういうテクニカルな意味で保有額が減ったと解釈できる。ただ、中国が米国債に代って、金保有量を増やしている。米国債よりも、金を選好している可能性が強い。

     

    (3)「中国政府は、2011年のピーク時には1兆3000億ドル規模の米国債を公式に保有していたが、徐々に減らしている。米政府機関の債券のほか、金などほかの資産に分散を図っている。またアナリストは、中国が第三者のカストディアンを通じて米国債を保有する割合を増やしていると見ている。このため中国による実際の保有額は把握しにくくなっている。英国の米国債保有の増加についてアナリストらは、国際金融界の本拠地としてのロンドンの役割を指摘する。英国の保有分には、大手金融機関やカストディアンのほか、ヘッジファンドが含まれる。統計は3月末までのもので、トランプ氏が貿易戦争を一段と拡大した「解放の日」以後の中国側の対応は織り込まれていない」

     

    中国が、米国債保有名義を換えている説は早くから流れている。ロシアが、ウクライナ侵攻で西側諸国から外貨準備を差し押さえられたケースもあり、中国もその二の舞を踏むまいと言う警戒心の現れとみられる。アナリストは、中国が第三者のカストディアンを通じて米国債を保有する割合を増やしていると見ているのは、これを裏付けている。英国の米国債保有分には、大手金融機関やカストディアンのほか、ヘッジファンドが含まれる。となると、カストディアンを介在して、米国債は英国が増え、中国が減ったのは説明がつくのだ。

     

     

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