中国経済を改革開放路線へ牽引した鄧小平は、「中国に原油はないが、レアアースがある」と胸を張った。その通りで、中国は世界のレアアースの約70%を採掘している。精製では、世界の90%が中国産だ。レアアースは、民生・軍事技術に必要な磁石の主原料である。それだけに、中国の独占状態は西側諸国にとって危険この上ない話である。
ブラジルが今、レアアースの主要生産国になろうとしている。米地質調査所(USGS)によると、ブラジルは中国に次ぐ世界第2位のレアアース埋蔵量(約2100万トン)を誇る。これは世界の確認埋蔵量の5分の1超を占め、米国の10倍超に相当する。ブラジルのサバンナ地帯で電気自動車(EV)やスマートフォン、ミサイルの製造に不可欠な金属を含む白い岩石を生産している。出荷先は、中国向けでなく米国向けだ。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』(5月26日付)は、「レアアース生産施設、中国以外で続々建設」と題する記事を掲載した。
地政学的な緊張により、ブラジルの鉱物への関心が高まっている。米国が4月に新たな対中関税を課すと、中国はレアアース材料の輸出規制を強化した。これを受け、EV大手テスラなどの米製造業企業が懸念を強め、中国以外の調達先を探す動きを加速させた。中国は、一部企業向けのレアアース輸出は5月に再開された。
(1)「カナダのアクララ・リソーシズのラモン・バルア最高経営責任者(CEO)は、「中国は手ごわい競争相手だ」とそう話す。同社は、米国に建設予定の精製工場向けにレアアース鉱山を開設する。レアアース鉱石を個々の元素に分離する工場を米国のどこに建設するかを、8月までに決める予定だという。買い手も決まっている。アクララは昨年、ドイツ企業VACにレアアースを供給する契約を締結した。米自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)などの顧客向けに磁石を製造するため、VACは米国防総省から9400万ドル(約136億円)の資金を得てサウスカロライナ州に工場を建設中だ」
カナダのアクララが、ブラジルのレアアース鉱山から採掘した鉱石を米国へ運び精錬する。場所はこれから設定するが、売り先は次々と決まっていく。
(2)「アクララのバルア氏は、「需要の津波が押し寄せている」と話す。アクララは、ブラジルとチリの工場で軽・重レアアースを抽出・加工することを目指している。ブラジルには、ジスプロシウムやテルビウムなど、より希少な重レアアースも豊富にある。ジスプロシウムとテルビウムは銀白色の金属元素で、高温時に磁石が磁力低下するのを抑制する。EVではモーターが加熱しても磁石で動力を得られるため、これらの重要性は高い。埋蔵量が巨大であるにもかかわらず、ブラジルはレアアース市場で存在感が小さかった。複雑な採掘規制に加え、中国の先行競合企業に立ち向かおうとする企業があまりおらず、資金調達が難しいことが原因だ」
ブラジルには、ジスプロシウムやテルビウムなど、より希少な重レアアースも豊富だ。これまで、ブラジルの重要性が余り認識されなかったのは、複雑な採掘規制と資金調達が難しかったからだ。だが、レアアースの重要性が世界的に叫ばれるとともに、開発を阻んできた条件がクリアされてきた。こうして、レアアースの「中国独占」が破られようとしている。
(3)「ブラジルのレアアース採掘・加工コストは、中国の約3倍と推定されるため、欧米のバイヤーはブラジル産鉱物に大幅な割増料金を支払う可能性が高い。中国以外でレアアース加工を習得している企業はわずかな上、その習熟は容易ではない。ブラジルのアレシャンドレ・シルベイラ鉱業・エネルギー相によると、同国は潜在的なレアアース鉱床の調査を進めており、他の鉱山の廃棄物からレアアースの痕跡を探している。「これ(鉱床が眠っている可能性)は大きなチャンスだ」と指摘する」
ブラジルは、中国と違いレアアース採掘・加工で環境保全の規制が厳しい。これは、当然の措置である。中国の方が、野放図なのだ。
(4)「米国は過去5年間、中国の市場支配が続いた数十年の間に閉鎖されたレアアース加工工場や磁石工場の再生に数億ドルを投じてきた。トランプ米大統領は2020年、レアアースをはじめとする重要鉱物の対外依存について国家非常事態を宣言し、大統領に返り咲いた後もこの分野を優先課題としている。欧州は中国への依存度低減に取り組んでいる。欧州連合(EU)は、必要な重要原材料の40%を域内で加工することを目指しており、レアアースなどの指定材料について域外の単一国からの供給を年間域内消費量の65%以内に抑えることで合意した」
米国は、数十年の間に閉鎖されたレアアース加工工場や磁石工場の再生に動いている。EUも、必要な重要原材料の40%を域内で加工することを目指している。「中国任せ」の姿勢を一変させている。
(5)「アクララは、価格で中国と競争できないものの、より環境に優しい採掘方法を売り込んでいる。中国は通常、粘土層に穴を開け、一般的な肥料である硫酸アンモニウム溶液でレアアースを洗い流して採掘する。この工程は比較的安価だが、周辺の土壌や水源を汚染するリスクがある」
中国は、環境破壊を厭わず硫酸アンモニウム溶液でレアアースを洗い流して採掘している。
(6)「アクララはこの方法を採用せず、深さ約30メートルまでの粘土層を掘削し、プラントまで運んで処理する計画だ。残った粘土は洗浄して地中に戻され、通常1トン当たり3ポンド(約1.36キロ)未満のレアアースしか含まない土を大量にトラックで運ぶのは高コストだが、採掘現場の汚染は抑えられる。アクララのパイロットプラントと鉱山を最近視察したレアアース専門家のジョン・ハイカウィ氏は、「環境不安に配慮するということが、アクララのブラジル計画と中国の現状との最大の違いだ」と述べた」
アクララは、中国流の採掘方法をとらず、鉱石を精錬所まで運ぶ。残った粘土は、洗浄して地中に戻すという「地球に優しい」方法だ。中国流とアクララを比べて、ユーザーはどちらを選ぶかである。永続性から言えば、アクララであろう。





