7月20日の参院選は、自公が政権を維持できるかどうかの天王山だ。争点の一つは、昨年から2倍にも跳ね上がった米価対策である。これまで、価格安定を目的に続けてきた実質的「減反政策」が破綻した。生産者に歓迎され、消費者が喜ぶ米価の実現には、輸出に向けるコメの「余裕ある生産対策」につきる。この「二方よし」の政策が今、問われている。
7月1日付の農水省局長人事が発表された。小泉農相は、新米価政策実現に向けた「改革人事」を行う。コメの価格高騰対策とその後の農政改革を見据えた人事とされる。
『日本経済新聞 電子版』(6月30日付)は、「農水人事に小泉色 コメ局長に改革派『素人』、10年越しの宿題意識」と題する記事を掲載した。
農林水産省の幹部人事が、7月1日付で発令される。小泉進次郎農相はコメの価格高騰対策とその後の農政改革を見据え、農産局長にあえてコメ政策の専門家ではない山口靖総括審議官をあてた。10年ほど前に自民党農林部会長として農協改革に取り組んだ小泉氏の意向が色濃く映る。
(1)「小泉氏は5月、農相に緊急登板して「コメの分野の改革をしっかりと進めることが農政全体の改革につながる」と意気込んできた。今回の幹部人事は党農林部会長を務めた2015〜17年以来、10年越しの改革を意識したものとなる。農産局長はコメ政策を直接担う。従来の政策に引きずられない柔軟な発想の持ち主として、コメ政策の経験は乏しい山口氏に白羽の矢を立てた」
農水省官僚は、自民党農水族という「舅」を抱えている。JAと密接な関係をもつだけに、絶えず政治的圧力に屈してきた。だが、米価高騰という異常事態で、さすがの農水族やJAも肩身の狭い思いだ。この「好機」を捉えなければ、日本農業に再生の機会はない。今回の農水省人事には、そういう思いが込められている。
(2)「1992年入省の山口氏は省内の重要政策を仕切る総括審議官や政策課長を務め、2027年度から水田政策を根本的に見直すと掲げた基本計画も4月にとりまとめた。小泉氏の部会長時代はJAグループの農林中央金庫の業務を監督する経営局金融調整課長だった。江藤拓前農相下では一般競争入札で政府備蓄米を放出しても価格高騰が抑えられなかった。農相経験者の石破茂首相は農水省の対応に不満を漏らしていたという。小泉氏は、備蓄米放出を小売りに直接渡す随意契約に切り替え、作況指数の廃止や流通の全事業者調査など前例のない施策を打ち出した。省内の政策変化を象徴する人事が、山口氏といえる」
小泉農相の下で、これまでの農水行政は「抜本改革」へ踏み切っている。備蓄米放出の随意契約、作況指数の廃止、流通の全事業者調査などあらゆる面でメスが入った。これは、農水官僚が長年、抱いてきた疑問を小泉氏が掬い上げて実現させたのだろう。農水省官僚は苦しんできたにもかかわらず、政治が対応しなかったのだ。
(3)「今後の農政改革では農協改革が本丸となる。JAグループと向き合う経営局長には小林大樹新事業・食品産業部長が就く。小泉氏の部会長当時は経営局協同組織課長。農協改革で当時タッグを組んだ小林氏を経営局長にするのは小泉氏の肝煎りといえる。農政改革は、コメの需要と供給を均衡させて価格を安定させる生産調整を改め、コメの増産にカジを切れるかが焦点になる」
JAは、既得権益確保という消極的立場から、農政改革を推進する積極派へ衣替えしない限り生き延びられない状況だ。抵抗族から改革派へ鞍替えすることだ。
(4)「増産には輸出の販路拡大が不可欠だ。輸出・国際局長には省内きっての改革派とされる杉中淳経営局長を起用した。杉中氏は、農産物の輸出促進で実績を挙げ、総括審議官時代の24年に「農政の憲法」と呼ばれる食料・農業・農村基本法の初の抜本的改正を取り仕切った。小泉氏は、17日に経団連の筒井義信会長と海外市場の開拓などでの協力で合意した。既存の取り組みにとらわれない輸出拡大策を杉中氏に託す」
日本のおいしいコメを輸出するには、コストの切り下げが不可欠。それには、農地の集約化という古くて新しい問題が横たわる。コメ輸出政策の確立こそ、生産者と消費者がウイン・ウインの関係を結べるポイントになる。価格安定が実現するからだ。
(5)「価格高騰対策の省内チームのトップを担う渡辺毅次官は留任し、2年目に入る。小泉氏は6月上旬の日本経済新聞の取材で「農水省の中に(部会長)当時の私を支えてくれたメンバーもいる」と語り、当時政策課長だった渡辺氏の名前を挙げた。信任が厚い。小泉氏はすでに内示した課長級人事にもこだわった。政策課長にはJAグループに精通する旧知の日向彰経営局総務課長をあてた。コメ政策を担う農産局企画課長には国際派の国枝玄輸出・国際局国際地域課長を選んだ」
次官は続投である。改革の旗頭を務める。課長人事も、「改革」がキーワードになった。
(6)「小泉氏は、党農林部会長だった16年、「負けて勝つ。改革への抵抗勢力がどういう抵抗手法を使うかはよくわかった」と述べた。全国農業協同組合連合会(JA全農)の組織刷新などの改革をまとめたものの、改革期限を明示しないなど道半ばの前進だったことを踏まえた発言だった。10年越しの課題に取り組む意思を人事で示している」
小泉氏は、コメ対策に成功し農政改革を軌道に乗せられれば、政治家としての「前途」が大きく開ける。小泉氏にとって、是が非でも成功させなければならない理由だ。




