米国トランプ大統領の朝令暮改が、「TACO」(Trump Always Chickens Out(トランプはいつもビビって退く)」という造語まで生んでいる。相互関税で、金融市場で不評を呼ぶとすぐに取下げるからだ。
「柔軟」と言えば聞こえは良いが、逆に言えば「定見のなさ」が目立つのだ。こういう事情から、「トランプのTACO現象」という揶揄が飛び交っている。こともあろうに、ホワイトハウスの記者会見でこの言葉について感想を求められたトランプ氏は、いたってご機嫌な斜めであった。「二度と聞きたくない言葉だ」と吐き捨てた。
『ブルームバーグ』(6月5日付)は、「トランプ流ディールの極意不発-ロシア・中国・イラン指導者なびかず」と題する記事を掲載した。
トランプ米大統領はかねて、世界の強権的指導者とディール(取引)をまとめる自身の手腕を豪語してきた。こうした指導者への敬意を明言してやまないトランプ氏だが、これまでのところ目立った効果に乏しいのが現実だ。
(1)「トランプ氏は、過去48時間だけでロシアと中国、イランの指導者に袖にされた。いずれも昨年の米大統領選でトランプ氏が早急に合意をまとめると公約していた国々だ。ウクライナでの戦争終結や中国の習近平国家主席との貿易合意、イランとの核合意に向けた取り組みはどれも成果を上げていない。トランプ氏は4日未明の自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」への投稿で、「習主席のことは好きで、これからもそうだが、交渉するには彼は極めてタフな相手だ」とラブコールを送った」
従来のトランプ大統領は、「予測不可能性」が強みとされてきた。最近は、得意とするディールが朝令暮改となっている。待っていれば、変わるだろうという予測を生むに至った。こうなると、外交交渉の「ディール力」はガタ落ちである。中国・ロシア・イランが、トランプ氏の警告を聞き流すようになっている。
(2)「その数時間後にロシアのプーチン大統領とウクライナ問題で電話会談したトランプ氏は「直ちに和平につながるようなものではなかった」と認めた。一連の世界的課題を解決する唯一の方法はトランプ氏自身の直接的な関与だと、同氏やその側近は繰り返し述べてきた。だが、トランプ氏のSNSの内容はこうした主張とは相いれないものだ。ロシアや中国の指導者が予想ほど簡単には譲歩しないという現実にトランプ氏は直面している」
トランプ氏は、戦争が嫌いな「平和主義者」と称している。ならば、米国の経済力を背景に不退転の決意でロシアへ臨めば良いのだが、いささか優柔不断な取組み方だ。ロシアとウクライナの間に入って、「ウロウロ」しているだけだ。トランプ氏に足下を見透かされているのだ。
(3)「トランプ氏はこれまで、ニューヨークの不動産業界という熾烈(しれつ)な競争の世界で鍛え上げられた抜け目なさと強硬さを武器に、前任者にはできなかった方法で習氏やプーチン氏のような指導者たちに立ち向かうことができると米国の有権者や世界に約束していた。アラブ首長国連邦(UAE)など米国の一部の同盟国は、大規模な投資の約束によって忠誠を保っている。一方でトランプ氏は、エルサルバドルやパナマなどの国には、圧力をかけたり歓心を買ったりすることで影響力を確保している」
トラプ氏の交渉術は、相手国へ「吹っかけすぎ」て、現実味がないのだ。これは、外交戦略でチーム力を使わず、独断専行している結果である。衆知を集めた外交戦略でなければ駄目なのだ。
(4)「ワシントンの保守系シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)上級研究員のコリ・シェイク氏は、大統領が強硬な態度に出られるのは、米国との関係悪化を望まない友好国であり、一方で米国の敵対国はそのリスクをいとわず、「むしろ喜んで受け入れる傾向にある」と話した。トランプ氏は対ロシア制裁強化の可能性を事実上排除しており、4日のSNS投稿では、週末にウクライナによるロシアの空軍基地へのドローン攻撃があったことを受け、プーチン氏が報復する権利を持つという主張を認めるかのような姿勢も見せた」
不動産業で磨いた「ディール力」は、海千山千の外交戦術には使えないのだ。トランプ氏の場合、「戦争は嫌いだ」と明言している。こうなると、相手国はトラン発言を割引いて聞いているに違いない。
(5)「米国はまた、イランの核兵器取得を阻止しようとしているが、最高指導者ハメネイ師は4日、米国が提示した核合意案を批判し、同国にウラン濃縮の停止を求める米政府当局者を「傲慢(ごうまん)だ」と非難した。そしてトランプ氏は、中国に対する交渉の切り札の多くを失っている。中国は自動車用バッテリーや携帯電話に必要不可欠なレアアース(希土類)の輸出規制を強化。一方で中国は、貿易関係強化の機会があるとみて欧州に関心をシフトさせている」
平和的手法で相手国を動かすには、トランプ氏の「単騎出陣」による限界が明白だ。同盟国と協力することでしか成果を上げられまい。トランプ・ディールの失敗が、ちらつき始めたのである。
(6)「貿易戦争が、中国に壊滅的な結果をもたらすというトランプ氏の確信とは裏腹に、習主席の指導部は形勢を逆転させている。レアアースの輸出規制を通じて米国の主要産業を締め付ける一方で、米国の関税引き上げや技術規制の強化、アジア太平洋の同盟国・地域を対中包囲網に組み込もうとするトランプ政権の動きに耐えようとしている。シンクタンク、欧州外交評議会(ECFR)米国プログラムのディレクター、ジェレミー・シャピロ氏はトランプ氏について、必ずしも権威主義的で強権的な指導者を好んでいるわけではないと分析する。ただ、トランプ氏はこうした指導者たちとの方が「うまく意思疎通ができ、敬意を抱いている。このため、彼らに対して脅しをかけることや、不平等な取引を強いることには一層慎重になる」とシャピロ氏は解説した」
トランプ氏は、同盟国へも相互関税をかけたことで中国に足下を見透かされている。同盟国を巻き込んで対中戦略でなければ効果は上がらない。同盟国や友好国の相互関税はすぐに取り止めなければ、対中交渉も失敗するリスクをかかえる。日本へ圧力をかけるとは、逆立ちしている。本来ならば、日本を優遇して協力を求めるべきが筋なのだ。




