勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2025年06月

    a0960_008527_m
       

    日鉄が、USスチールの合併をほぼ確定させた。在米の日本人専門家は、おしなべて合併「悲観論」に傾いていた。政治情勢が、合併に壁になるであろうというものだった。だが、『ウォール・ストリート・ジャーナル』(WSJ)は、一貫して合併の経済的合理性と米国経済への貢献を強調した。結果は、WSJの見通し通りの結論に落着きそうだ。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月2日付)は、「米国の新たな『鉄鋼のカーテン』」と題する社説を掲載した。

     

    トランプ米大統領が、日本製鉄によるUSスチール買収を認める方針を示したことについて、最も評価できる点は、クリーブランド・クリフスによるUSスチール買収という政治的な動きを阻止したことだ。最も良くない点は、この買収が外国製鉄鋼に対する関税の壁をさらに高くし、米国企業の競争力を低下させる新たな機会となったことだ。

     

    (1)「トランプ大統領は、ピッツバーグのモンバレー工場への22億ドル(約3160億円)を含め、日鉄がUSスチールに計140億ドルの投資を約束していると誇らしげに語った。しかし、日鉄による投資の約束の大半は、買収の承認をバイデン前米政権に求めていた段階で既に固まっていた。それでもジョー・バイデン前大統領は、マッコール氏とクリーブランド・クリフスのローレンソ・ゴンカルベス最高経営責任者(CEO)への配慮から、この取引を阻止した」。

     

    バイデン前大統領は、労組(USW)と国内鉄鋼企業クリーブランド・クリフスの肩を持って、合併阻止に動いた。それぞれの利益を代弁したものだ。

     

    (2)「マッコール氏(USW会長)とゴンカルベス氏(クリフスCEO)は、価格引き上げにより有利になる鉄鋼カルテルの形成を望んでいる。日鉄は2023年、クリーブランド・クリフスとの買収合戦に競り勝った。USスチールを取得すれば、クリーブランド・クリフスは米国内で、高炉による製鉄、鉄鉱石埋蔵量、電磁鋼生産の100%、自動車に使用される鋼材の3分の2を支配することになっていた」

     

    マッコール氏(USW会長)とゴンカルベス氏(クリフスCEO)は、鉄鋼カルテルの形成を望んでいる「仲間内」である。労組が企業と手を結んでいる悪例だ。

     

    (3)「共和党は、一般労働者に支持されていた日鉄による買収案を承認するようトランプ氏を説得した。クリーブランド・クリフスは先月、赤字圧縮と債務返済のために、従業員1000人のレイオフとペンシルベニア州およびイリノイ州の工場の操業休止、ウェストバージニア州での新工場建設計画の中止を発表した。そこで出てきたのが、通商拡大法232条に基づく鉄鋼関税を現行の2倍の50%にするというトランプ氏の新たな救済策だ。関税の引き上げは、クリーブランド・クリフスの赤字を食い止める助けにはなるかもしれないが、雇用の確保や創出にはつながりそうにない。自動車メーカーや機械メーカーなどの鉄鋼消費者のコストを増大させ、それがクリーブランド・クリフスに跳ね返ってくる可能性がある」

     

    共和党は、日鉄による買収案を承認するようトランプ氏を説得した。トランプ1期の元商務長官は、早くから「合併OK」説であった。ゴンカルベス氏(クリフスCEO)は、日鉄を悪口雑言で非難したが、今や「青菜に塩」の立場に陥っている。50%の関税引上げが、クリフスのユーザーのコストを増大させて需要減を招き、クリフスに跳ね返ってくる可能性があるからだ。

     

    (4)「トランプ氏が1期目に課した鉄鋼・アルミニウム関税は一時的な価格上昇につながったものの、値上がりが顧客に打撃を与え、需要を減退させた。米連邦準備制度理事会(FRB)の調査によると、この関税によって米製造業で7万5000人の職が失われたと推定されている。金属製品製造業における雇用は、その関税の発効時よりまだ約3万3000人少ない」

     

    トランプ1期の鉄鋼・アルミニウム関税は、値上がりが顧客に打撃を与え、需要を減退させた。この関税によって米製造業で7万5000人の職が失われた。今回の50%関税は、さらに被害を大きくする。USスチールは、日鉄の合理化投資でコストを引下げるので、逆に利益が急増する恵まれる立場だ。米鉄鋼市場で、一段と優位な立場になる。荒野を疾走するに等しい話だ。

     

    『フィナンシャル・タイムズ』(6月1日付)は、「USスチール従業員、日本製鉄に期待する雇用の安定」と題する記事を掲載した。

     

    5月30日午後、強風が吹きすさぶ中で米東部ペンシルベニア州ウエストミフリンにある米鉄鋼大手USスチールのモンバレー製鉄所アービン工場での集会は、2023年末に日本製鉄が創業124年のUSスチールを買収すると発表して以降、たどった長い道のりのクライマックスとなった。USスチールの従業員集会の参加者にとっては、「雇用」と「投資」が最優先事項であるからだ。

     

    (5)「集会でトランプ大統領は、会場を埋めたオレンジ色の作業着を着た従業員とその家族に「あなた方のところにたくさんのカネが入ってくる」と話した。参加者の多くが、同氏の方針転換に不安を抱いていたとしても、日鉄による投資計画への期待がその不安を打ち消した。トランプ支持者でモンバレー製鉄所内の別の工場に23年間勤務する修理工のジョンさんは、トランプ氏が「買収計画の詳細を知った」ので方針を変えたと考えている」

     

    合併反対論であったトランプ氏が、方針転換したことに不安もあるが、日鉄が2兆円投資によって新製鉄所計画を明らかにしている。これは、従業員にとって最大の贈物である。雇用の確保になるからだ。

     

     

     

     

    a0070_000030_m
       


    世間は、「進次郎流」として政府備蓄米放出を絶賛している。ともかく一週間で「5キロ2000円」の備蓄米が台所へ届いたのだから賞賛の嵐だ。野党党首が批判的コメントを付けると、逆風が吹くという流れになった。農家もコストが回収でき、消費者も満足する米価を実現するにはどうするか。結論は、事実上の「減反政策」を止めて、コメを輸出する体制づくりが求められている。自民党は、この流れに乗って「5年間で2.5兆円」の構造改革計画を石破政権へ提出した。減反政策廃止によって輸出が前提という。変われば変わるものだ。

     

    石破茂首相は6月2日の参院予算委員会で、コメの安定供給に関する閣僚会議を立ち上げると表明した。首相をトップとし5日にも初会合を開く方向だ。農業政策に関し食料安全保障の観点から検証を進めていく考えを表明した。林芳正官房長官は2日の記者会見で関係閣僚会議について「まずは米価高騰の要因と今般の対応の検証を行う必要がある」と述べた。「生産性向上を通じた持続的な農業生産によりコメの安定的な供給を実現する」と語った。自民党の提案と呼応した農政改革への狼煙であろう。

     

    『日本経済新聞 電子版』(6月2日付)は、「自民党・森山裕氏『食料安保へ5年で2.5兆円確保を』 石破首相に提言」と題する記事を掲載した。

     

    自民党の食料安全保障強化本部は2日、食料の安定的な確保に向け5年で2.5兆円規模の予算を求める決議書を政府に提出した。通常の農林水産予算とは別枠と位置づける。本部長の森山裕幹事長が石破茂首相と小泉進次郎農相にそれぞれ渡した。

     

    (1)「農地の大区画化やロボットを活用したスマート農業の導入などを支援する。1.3兆円ほどの国費負担を見込む。森山氏は、「コメを広い農地で耕作できるようにしスマート農業を進めれば、輸出が可能になる」と語った。農林水産省内で記者団の質問に答えた」

     

    農水省は、1971年から2017年までの46年、実に半世紀もの間にわたる減反政策によって、生産過剰状態のコメを消費量に合わせて減らし米価を維持してきた。国内の主食用のコメ需要は、人口減を背景に年10万トンペースで減ってきたからだ。農水官僚にとって、減反政策が米価維持の唯一の政策となっていた。自民党は、こういう現在の農政の大転換を決めたのだ。

     

    農業を主な職業とする基幹的農業従事者(概数値)は、24年に前年比4%減の111万人で、05年の半数ほどに減っている。このうち、65歳以上の担い手が7割を占めている。今後、後継者不在を理由とした耕作放棄が一気に進む危険性が高まってきた。こういう状況下で、農水省の取っている政策は、ただ「米価を下げたくない」という消極的なもので、これで今後の危機を乗りきれるはずがない。自民党はこの現実をふまえ、農地の大区画化やロボットを活用したスマート農業の導入などを支援するとしている。当然、輸出が可能になる。

     

    自民党が、ここまで踏み込めば日本に「農業革命」が起るだろう。総事業費2.5兆円のうち、1.3兆円が国費負担にするという。残り1.2兆円は多分、米価引上げによる消費者負担になるであろう。これは、5キロ玄米でどの程度の値上がりか。いずれ計算される。ただ、消費負担はやむを得ないとしても、現在の5次問屋まである複雑な流通機構を廃止して風通しをよくすることが前提だ。中間マージンで食われている経費(25%)を排除して、生産者と消費者が分け合えば、それほどの負担にはなるまい。

     

    自民党の提案は、これまでの「保守頑迷」の農政が、ここまで一挙に変われるのだろうか。7月の参院選を前に「起死回生」という狙いもあろう。理由は何であれ、変革することは歓迎である。

     

    今回の米価急騰は、日本農政がこのまま続けば破綻するという悲痛な「シグナル」なのだ。全農が、これに敏感に反応しないで「旧套墨守」では、余りにも能がなさすぎる振舞である。前述の通り、24年の基幹的農業従事者(兼業を除く)111万人のうち、65歳以上の担い手が7割を占めている。農業は「力仕事」だ。70歳を過ぎたら第一線で働くことは不可能にある。こうみると、日本農業はあと5年で「終焉」を迎える。全農には、この面の配慮が全くなかった。会員が減ることは、組織衰退につながるのだ。

     

    (2)「森山氏は、野村哲郎元農相が小泉氏について党への根回しがないと苦言を呈したことに言及した。小泉氏の対応について「当然のことをしっかりやっていただいた。本人が農林部会長をしていたので連携は何ら心配していない」と述べた」

     

    「令和のコメ騒動」は、自民党政権を吹飛ばすほどの威力を持っている。農水族が、従来感覚でコメ流通を眺めていると、国民の「怨念」で吹飛ばされるほどのマグマになっているのだ。仲間内での縄張り争いをしている状況にない。

     

    次の記事もご参考に。

     

    2025-05-29メルマガ673号 日本、米不足解消は「簡単!」 生産制限止めて増産へ 輸出視野に「


    a0005_000022_m
       

    誇り高い韓国社会が、米民間選挙監視団から大統領選挙について厳しい評価を受けた。「10点満点で3~4点」という落第評価だ。真面目な政策論争よりも互いの「人格非難に」熱中しているからだ。政策そっちのけで「お祭り騒ぎ」というのも不思議な光景なのだろう。韓国の置かれた状況を考えると、こういう上滑りな選挙運動で済むはずがない。

     

    米民間選挙監視団によって、不正選挙の兆候も把握された。韓国中央選挙管理委員会は、米民間選挙監視団の状況把握を拒否するなど、「開かれた選挙」とほど遠い違和感を与えたようだ。韓国選挙につきもの「不正問題」は、ますます疑惑を深めている。

     

    『朝鮮日報』(6月2日付)は、「『10点満点で3~4点』『民主主義国家では最低レベル』 米民間の選挙監視団が韓国の選挙制度を酷評 韓国大統領選」と題する記事を掲載した。

     

    5月25日に来韓した米国の国際選挙監視団は、口をそろえて次のように強調した。「韓国の投票システムは手続きの透明性が保障されていない。有権者は常に疑問を投げかけてきたが、政府と中央選挙管理委員会は閉鎖的な態度を変えないため、制度に対する信頼性は低い。今後は変化が必要だ」。監視団は、第21代大統領選挙を前に韓国の選挙システムを監視するため来韓した民間団体である。

     

    メンバーは、モース・タン元国際刑事司法大使、ジョン・ミルス元米国防総省サイバーセキュリティー政策局長、グラント・ニューサム元米海兵隊戦略将校、ブラッドリー・テイアー・シカゴ大学政治学博士―などさまざまな分野の専門家で構成されている。韓国の選挙を直接観察し、選挙における手続き面での公正性を検証し、国際社会に向け報告書を公表することが彼らの目標だ。

     

    (1)「5月29日から2日間にわたり行われた期日前投票も、疑問の声が相次いでいる。投票日初日にはソウル市西大門区で投票用紙が投票所の外に持ち出される事態が発生し、江南区では夫の身分証で代理投票を行った契約職公務員が拘束された。京畿道富川市と金浦市では2024年4月の総選挙の投票用紙が発見され、選挙管理委員会のずさんな対応が改めて問題になった。また国民の力の張東赫(チャン・ドンヒョク)選挙対策委員会状況室長は5月30日「選管が発表した期日前投票者数と実際の投票者数に違いがある」と発表した」

     

    ユン前大統領が、「内乱騒ぎ」を起こした理由の一つは、不正選挙の存在だ。中央選管は否定していたが、疑惑が存在している。中央選管は、憲法機関であり政府から独立した存在だ。これを理由にして、人事も勝手なことが行われている。しかも、憲法裁判所裁判官が、中央選管から昇格するケースが多く、「独立王国」を形成している。ここが、左派勢力と結びつけば、韓国政治を左右できる力を持っている。

     

    (2)「5月31日にチョソン・ビズとのインタビューに応じた監視団は、韓国の選挙制度について「閉鎖性を見直し、手続きの透明性確保に向け直ちに改善を進めるべきだ」と主張した。韓国の選挙制度については以前から数々の疑問が提起されてきたが、改善は全く進んでいない。そのため監視団は、「選挙システムに対する国民の信頼は深刻なレベルまで落ち込んだ」との評価を下している。

     

    韓国は、既得権益の社会である。一つの制度ができあがると、それに付随した「利権」が発生する國である。中央選管も、その適例である。

     

    (3)「(質問)国際選挙監視団について紹介してほしい。いつ発足し、韓国訪問はどのように決まったのか。(答え)モース・タン(以下、タン):国際選挙監視団は2024年末から活動に向けた議論が始まり、今年3月末に結成された民間の監視団だ。韓国の民主主義が一層強固になることを願う思いから韓国訪問を決めた。韓国は、米国の重要な同盟国であり、中国と北朝鮮の情報戦が集中する戦略的要衝でもある。韓国で民主主義が破壊されれば、その影響がアジアはもちろん国際秩序全般に及ぶ可能性が高い。そのため国際社会は今、韓国の選挙システムに大きく注目する必要がある。また中国共産党の干渉、選挙への信頼性低下などの問題は米国でも起こりかねない。そのため一層厳密に見守る必要がある」

     

    国際選挙監視団は、国際社会が韓国の選挙システムに大きく注目する必要があると主張している。日本の隣国で、こういう事態が起こっていることに深く憂慮するほかない。口では、実に立派なことをとうとうと述べるが、選挙の「ムラ意識」を払拭できずにいるのだ。

     

    (4)「グラント・ニューサム(以下、ニューサム):2020年の韓国総選挙について深く研究した。最初は問題があるとは考えていなかった。ところが調査を進めると選挙過程で正常とは言えない事例が数多く見つかった。統計的にあり得ない開票結果、郵便投票の配送記録不一致、あり得ない早さの投票経過発表など、深刻な事例も目の当たりにした。そのため22年の大統領選挙や24年の総選挙も監視を行った。今後は変化が必要との思いから韓国に直接来ることになった」

     

    2020年の韓国総選挙についても、多くの不正事例が見つかっている。特に、左派勢力が労組を利用して行う不正が多い。中央選管が、それを見逃している。韓国では、左派=進歩主義と称している。現実は、リベラル主義とはかけ離れた存在である。右派の方が、リベラルに近いという錯綜した関係にある。

     

    (5)「(質問)来韓後、どんな活動をしてきたか気になる。選管とも接触を試みたと聞いたが本当か。(答え)ニューサム:期日前投票が始まる1週間前ごろ、ソウルに到着し直ちに活動を開始した。期日前投票所の現場を訪れ、市民団体やメディアとのインタビュー、集会への参加など主要なスケジュールを消化しながら忙しく過ごした。CBSテレビやNewsmaxなど米国メディアのインタビューにも応じ、韓国のメディアやユーチューブチャンネルとも接触した。自発的に選挙の監視を行う市民団体の関係者とも連絡を取り合うなど、今も選挙監視活動を行っている」

     

    国際監視団は、大統領選挙運動の一部始終を丹念に調査している。いずれ、報告書が出る。

     

    (6)「中央選挙管理委員会にも何度か面会を要請したが断られた。(監視団は)国際法に定められた基準に沿って透明な形で活動すると伝えたが、選管は外部からの監視を事実上遮断した。これは選挙において守るべき透明性を疑わせる非常に深刻な問題だ」

     

    中央選管は、国際監視団の要請に応じず面会を拒否している。自らが、疑われる行為と関係していることを取り沙汰されたくないのだろう。潔白であれば、堂々と面会に応じるべきだ。

     

     

     

    a0960_008532_m
       

    日鉄のUSスチール合併は、トランプ米大統領の翻意によって暗礁を乗り切れそうな局面へ向っている。日鉄の行う2兆円の巨額投資が、きっかけになった。これこそトランプ氏を説得できる「切り札」だ。トランプ氏は、正論で立ち向かっても無駄という典型例である。かつての「安倍外交」の手法は、もはや通用しなくなった。トランプ氏の要求する「実弾」を用意できるかどうか。それが外交の帰趨を決定する時代である。元外務次官の藪中三十二氏はこう指摘する。

     

    『毎日新聞 電子版』(6月2日付)は、「安倍流外交『もう限界』の理由 習近平氏との会談で起きた奇跡」と題する記事を掲載した。元外務次官の藪中三十二氏へのインタビューである。

     

    変動する国際政治に、日本の外交はどう向き合うべきなのか。40年間の外交官生活で幾多の厳しい交渉に携わった薮中三十二・元外務事務次官(77)に聞いた。

     

    (1)「第二次世界大戦後、米国がリードする形で多角的な自由貿易体制が構築され、世界貿易機関(WTO)の設立につながり世界経済の発展に貢献してきました。トランプ氏は、WTOの下での自由貿易が米国を弱体化させたと考えているようで、WTOを敵視しています。トランプ氏は2国間で交渉し、自分で決めたルールでディール(取引)をしようとしています。国際社会が80年間かけて築いてきた多角的な自由貿易体制の仕組みが崩壊の危機にあります」

     

    米国には、中国のWTOへ加盟が失敗という見方が強い。中国が、自由貿易のルールを守らず悪用し、ダンピング輸出してきたからだ。

     

    (2)「トランプ氏に正論でぶつかってもうまくいきません。トランプ氏に「成功した」と思わせる工夫が必要です。例えば、トウモロコシや大豆の輸入拡大、さらには、自動車の対日輸出についての工夫も必要でしょう。そして、トランプ氏が重視しているのは、対米投資です。そこは、日本が最大の対米投資国ですから、うまく活用し、いくつかの投資プロジェクトを示すなどの工夫も必要でしょう」

     

    トランプ氏は、不動産ビジネスで叩き上げてきた手法を外交へも利用している。それだけに、トランプ氏へ「お得感」を感じさせる条件提示が要諦になる。対米投資が、トランプ氏の持つ尺度である。日本は、ここを突くべきだ。日鉄のUSスチール合併で、新規に2兆円投資することは、トランプ「ディール」にピタリ合う話となろう。

     

    (3)「米国と一定の合意を行う一方で、日本は自由貿易の原則を維持する重要性を世界に発信する必要があります。また、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)やRCEP(地域的な包括的経済連携)を活用し自由貿易体制を推進することも重要です。トランプ氏と手を打ちつつ、これらに取り組む、難しい外交をやらなければいけません」

     

    日本は、TPPやRCEPを活用することが必要だ。EUとの連携も不可欠になってきた。

     

    (4)「トランプ氏をハンドルするには、嫌がることを言わない「安倍流」は、それなりに効果がありましたが、経済でも安全保障でも、対日理解が深まったかといえば疑問です。トランプ氏は、日米同盟が「片務的」だと言いますが、日米安保条約の下、在日米軍基地の役割は、日本の防衛だけでなく、極東の平和・安定のためでもあります。米国にとって、覇権を争う中国と向き合うため、ますます在日米軍基地の重要性は高まってきている。そのことをトランプ氏によく理解させることが大事です」

     

    安倍元首相は、トランプ氏と肝胆相照らす仲になった。それは、安倍氏がトランプ氏の話を否定せず聞いて、後に反論するスタイルが成功したものだ。これは、誰にも通じる「話法」である。相手の言い分は、先ず肯定することである。

     

    (5)「2008年、日中共同声明が発出され「東シナ海を平和・協力・友好の海」にすることがうたわれました。この合意に基づき、東シナ海における資源開発に関する合意が達成されました。私が関係した交渉の一つです。これを条約化すれば、東シナ海において、日本が主張する中間線で水域確定ができる運びとなりましたが、中国国内の評判は悪く、条約交渉は進まず、死文化したかと思っていました。

     

    安倍氏は、習近平氏との対話も成功させた。2008年の日中共同声明が有効であることを認めさせたからだ。これも、「対トランプ話法」の応用編であろう。

     

    (6)「10年後、奇跡が起きました。安倍氏と習近平国家主席の3度の首脳会談を経て、習主席が08年合意を有効な合意だと再確認しました。これは、安倍外交の成果です。今後、この08年合意が条約化されることを強く望みます。そのためにも、中国と正面から向き合うことが大事です。中国と話し合うとなると、「中国に融和的だ」などといった批判を耳にすることがありますが、大きな間違いです。中国とは堂々と向き合い、ルールを守れと、平和攻勢をかけることが大事です」

     

    日本は、中国と外交的な距離を置かずに会って対話するルートを維持しなければならない。対中外交では、正論をぶつけ「ディール」が不要だ。

     

     

    a0960_008527_m
       

    韓国大統領選挙は6月3日に迫ったが、公約論争よりも互いの人身攻撃に熱中している。有権者は、「政策よりも人物本位」という選択基準だ。これでは、韓国の未来はどうなるのか、相変わらずの混迷が続きそうだ。合計特殊出生率(一人の女性が出産する子どもの数)は、世界一低い状態である。「世界で最初に消える国」とまで言われる韓国が、真剣な議論はお預けである。世にも不思議な大統領選である。

     

    韓国中央選挙管理委員会が5月28日に公開した大統領選挙の有権者意識調査(2次調査)の結果によると、候補者選択の基準は次のようなものだ。

    1)「能力・経歴など人物」    31.8%

    2)「政策と公約」        26.9%

    3)「道徳性」          24.9%

    4)「所属政党」          7.9%

    出所:『中央日報』5月29日付

     

    大統領選が、人身攻撃が主体で政策・公約を上回っているのは、有権者の関心事であることを裏付けている。韓国社会では、政策論は二の次で人物が問われている。となると、左派の李在明氏は、5つの罪を背負う被告の身だ。不倫問題も引きずっている。これで、当選となると、韓国社会の「道徳律」の低さまで露呈することになりそうだ。

     

    『中央日報』(6月1日付)は、「公約出す前に『大統領選挙後の国』も少し考えようと題する社説を掲載した。」

     

    3日後に迫った韓国大統領選挙は政策論争の代わりに泥沼化した人身攻撃ばかり乱舞したため候補らの公約集も後手、後手に回った。

     

    (1)「『国民の力』の金文洙(キム・ムンス)候補は期日前投票開始(5月29日)3日前、『共に民主党』の李在明(イ・ジェミョン)候補は1日前に公約集を出した。内容も具体性に劣り急ごしらえの印象があるものが少なくない。その上、新政権は政権引継ぎ委員会を挟まずに発足することになり、中途半端な公約がそのまま政策として施行されかねず、より懸念が大きい。そのため候補らは残りの選挙運動期間だけでも「大統領選挙後の韓国」を考えて公約を整え、発言にも慎重を期さなければならないだろう。

     

    大統領選は、公約がメインのはずである。それが、選挙運動開始時点(5月12日)で示されていなかったのだ。何とも、不思議な選挙である。大統領選挙が、人気投票の趣である。

     

    (2)「これまで李在明・金文洙候補が見せた動きは正反対のケースが多く心配は並みのことではない。まず国の存亡がかかった外交・安全保障領域で、両候補は不適切な発言により欠礼議論を自ら招いた。李候補は、25日の遊説で「南米の『アなんとか(アルゼンチン)』『ブなんとか(ブラジル)』という国、かつて好調だったのにクーデターで完全に壊れた」と話した。尹錫悦(ユン・ソクヨル)前大統領の戒厳を批判しようとする趣旨だったが、あえて南米1~2位の大国であり韓国外交の域内拠点国を名指しで結び付ける必要があったのか疑問だ」

     

    李候補が、外国名を正確に言えないとは驚きである。外交的にも、相手国へ失礼極まりない話である。

     

    (3)「金文洙候補は、先月27日のテレビ討論で西海(黄海)中国人カジノ建設議論と関連し「外国人がたくさん観光に来て米軍が駐留することが韓国の防衛力に重要な部分を構成している。特に中国人も西海と近いため」と話した。外国の民間人、それも最大貿易相手国であり北朝鮮の核パートナーである中国の観光客を「対北朝鮮防衛力の一部」と話したのは、韓国が彼らを「トリップワイヤー」(注:設定したラインを越えると通知する機能)と認識しているのではないかとの議論を呼びかねない」

     

    金候補は、黄海での中国人カジノ建設が韓国の対北朝鮮防衛力として利用できるという妙な発想法をしている。つまり、北朝鮮へ中国人観光客が増えればその手前、北朝鮮が韓国侵略を控えるという、飛躍した話をしているのだ。韓国は、北朝鮮への中国人観光客増加を「トリップワイヤー」としてみているという意味だ。ちょっと、理解不能な話だ。

     

    (4)「両候補は、こうした浅はかな発言をしておいて当選した場合、どのように該当国首脳らと向き合うのか心配だ。トランプ発関税戦争、朝ロ密着、米中対立のような核心懸案を解消する案は全く提示しなかったのだ。就任と同時に押し寄せてくる荒波に対する準備の代わりに外交コストばかり増幅させる欠礼性発言をはばからないので大統領選挙後の国が心配になる」

     

    両候補は、米中関税戦争、朝ロ密着化、米中対立のもたす諸問題の議論を一切しないというのだ。これこそ、韓国安全保障問題の根幹である。それをパスしている。有権者は、こういう切羽詰まった問題をどう扱う気持ちであろうか。

     

    (5)「経済もやはり両候補の公約を見ると大統領選挙以降を考えて出したものなのか懸念される。李候補は5大経済強国入りと人工知能(AI)3大強国、潜在成長率3%の達成を公約した。先端産業に100兆ウォンを投資するという案も出した。金候補も「企業請願担当大統領室首席」の新設と「AI官民革新ファンドなど100兆ウォン以上の投資」を公約に掲げた」

     

    李候補は、5大経済強国入りと人工知能(AI)3大強国入りをあげている。GDP13位になろうという「落ち目の韓国」が、どうやって5大経済強国になるのか。ただの「法螺吹き」競争である。

     

    (6)「これらの公約を履行するためには、李候補は約210兆ウォン(約21兆円)、金候補は約150兆ウォン(約15兆円)が必要になるものと集計された(韓国マニフェスト実践本部)が、どのようにしてこれほどの巨額の資金を調達するのかに対し両候補とも納得できるほどの方法を提示できていない。だれが当選しても財政健全性の悪化は火を見るより明らかだろうとの批判が出ている理由だ」

     

    両候補の公約を実現するには、巨額資金が必要だ。その資金調達メドは、全く立っていないという。ともかく、「法螺の吹きあい」競争である。有権者は、どのようにして「人物」を見定めるのであろうか。くじを引くような大統領選である。

     

     

    このページのトップヘ