勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2025年06月

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    東京・日本橋は、日本の道路元標「原点」である。「東京から××キロ」の始まりは、この日本橋である。三井不動産は、同社の本社がある日本橋再開発に合わせて、この地域を半導体育成拠点にするという「大計画」を打ち出した。半導体が、日本の次代をリードする産業という認識をビジネス化するものだ。いよいよ、半導体が日本の骨格を担う産業になることを明確にするビジネス・プランである。

     

    『日本経済新聞 電子版』(6月26日付)は、「三井不動産、東京・日本橋に半導体育成拠点 企業・人材のハブに」と題する記事を掲載した。

     

    三井不動産は、今秋にも半導体に関わる企業や研究機関を集めた産業育成拠点を都内に設ける。数年で200〜300社規模の会員組織もつくり、勉強会などを通じて新規ビジネスの創出や人材育成を促す。場所を貸すだけの不動産業にとどまらず、産官学の連携を主導する「産業デベロッパー」事業を新たな成長の柱に据える。

     

    (1)「足元では、国を挙げた半導体産業の再興策が進む。三井不は新たな拠点を全国に点在する企業や人材をつなぐハブにし、日本の競争力向上の後押しにもつなげる。産業育成拠点は東京・日本橋に設ける。企業などが入居するオフィス区画に加え、共有スペースやイベント会場などをそろえる。半導体に関わる勉強会や交流イベントを定期的に開く。2026年夏には江東区内に研究開発の機能を備えた賃貸オフィスも竣工する。都内には企業や研究機関に加え、業界に関心がある学生ら人材も集まる。こうした点から日本橋への拠点開設を決めた」

     

    現在の日本橋界隈は、江戸時代創業の三越本店が大店舗を構える商業地域である。ここを時代の最先端を行く半導体育成拠点にする構想だ。2040年には、日本橋に架かる高速道路が地下化し、日本橋川の両端は散歩や船遊びができる空間へ変貌する。

     

    こうした地域再生の魅力を生かし、半導体ハブにしようという狙いだ。完成後は、世界的な魅力を備えるゾーンへ生まれ変わる。企業や研究機関に加え、業界に関心がある学生ら人材も集まる「リクルートセンター」にもなるという。半導体業界にとっては、なんともありがたい援軍である。

     

    (2)「同時に、半導体メーカーやサプライヤー、新興企業などで構成する一般社団法人を立ち上げる。ノーベル物理学賞を受賞した名古屋大の天野浩教授が理事長に就き、複数の専門家もアドバイザーに招く。三井不のオフィスに入居する関連企業などのパイプを生かして会員を募り、数年後に200〜300社規模にする計画だ。会員企業などがイベントに参加することで交流を深め、最終的に協業につなげる狙いがある」

     

    三井不動産は、高付加価値産業の半導体の関連企業をすべて、日本橋地域へ集めて自社のテナントになってもらうという遠大な計画だ。日本橋再開発の前に「陣取りする」という戦略であろう。テナントになりたい企業は、早手回しに手を打つ必要がある。日本橋再開発は、都心では最後の「ウォーター・フロンティア」である。

     

    (3)「三井不は、台湾積体電路製造(TSMC)やソニーグループなどの工場が立地する熊本県内に工場やオフィス、研究所などを集積した数十万平方メートル規模の「サイエンスパーク」の構築を検討している。仙台市内には東北大と組み、半導体関連などの企業や研究者を集める同様の拠点を整備することを表明している。今後はこうした地域とも連携し、全国に点在する産官学をまとめた拠点に育てる」

     

    三井不動産は、すでに熊本や仙台で「サイエンスパーク」を発表している。半導体関連などの企業や研究者を集める拠点整備事業である。オフィス・ビルから一歩進めて、生産活動へつながるビジネスの展開である。

     

    (4)「三井不は産官学の連携拠点づくりに力を入れており、既に生命科学、宇宙の分野で取り組みを進めている。2016年には国内外の製薬会社などが集う一般社団法人「ライフサイエンス・イノベーション・ネットワーク・ジャパン(LINK-J)」を設立し、会員数は25年内に1000社を超える見通し。23年には宇宙航空研究開発機構(JAXA)と連携して日本橋に宇宙産業の拠点を開き、会員数は300社を超えた」

     

    三井不動産は23年に、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と連携して日本橋に宇宙産業の拠点を開設している。ハイテク産業へ焦点を合わせているのだ。

     

    (5)「半導体の拠点づくりもこうした戦略の一環で、事業領域を広げて業績拡大を目指す。日本の半導体産業は、1980年代後半には世界市場の5割以上を握る存在だったが、日米の貿易摩擦を経て競争力を失った。足元では政府がTSMCの工場誘致や最先端半導体の量産を目指すラピダスの設立を主導し、再興を目指している」

     

    三井不動産は、ラピダスが生産を開始する前に、陣容を整えて半導体開発拠点をつくろうとしている。ラピダスが、日本の半導体ブームを一挙に拡大させるという読みであろう。

     

     

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    習近平中国国家主席は、自らの指揮で始めた「鉄道崛起(くっき)」によって、212兆円もの「鉄道債務」をつくる最悪事態に見舞われている。不動産バブルが永遠に続くと信じて始めた事業が、思わぬ結果を招いたのだ。日々、膨らむ債務の増加に対して、何らの対策も打たずに「中華再興」のお念仏を唱えているだけだ。

     

    『朝鮮日報』(6月25日付)は、「習近平の『鉄道崛起』は巨大なブラックホール、判明した負債は1兆4600億ドル 28都市中26都市の地下鉄で大規模な赤字」と題する記事を掲載した。

     

    およそ10年の間に、雨後のたけのこのように増えた中国の都市地下鉄が、地方財政を圧迫する巨大なブラックホールになった…という報道が中国国内で相次いでいます。

     

    (1)「24年は深センで7.7兆ウォン(現在のレートで約8100億円。以下同じ)相当、北京で4.1兆ウォン(約4300億円)相当の赤字になるなど、経営実績を公開している28都市のうち26都市が大規模な赤字を出しました。29都市の地下鉄の負債規模も、2023年末現在で4兆3000億元(約87兆円)になりました。中国は、全国55の都市が地下鉄を運営していますが、このうち1キロ当たりの1日利用客数が1万人を超えて重要が十分にあるところは北京・上海など7~8カ所に過ぎないといいます。にもかかわらず、各都市は巨額の資金を投じて地下鉄を建設しました」

     

    中国は、地下鉄経営28都市中で26都市が大規模な赤字に陥っている。乗客数が想定以下の結果だ。人口減が、次第に響き始めたのであろう。

     

    (2)「中国の地方政府は、政府所有の土地を不動産開発業者に売ることによって財政の2~3割を賄います。地下鉄の路線を新設して駅勢圏周囲の土地を高く売れば十分だ、と考えたのです。ところが不動産バブルがはじけたことで、状況は変わりました。地方政府は土地売却収益の急減のせいで、ただでさえ財政状況が厳しいのに、地下鉄維持のために巨額の補助金まで支払わなければならない状況に直面しました」

     

    地下鉄建設で莫大な建設費を投入した。これは、地域開発による地下上昇で建設費を賄えるという前提があったのだ。この想定が、不動産バブル崩壊ですべて崩れた。

     

    (3)「習近平主席の就任後にかなり増えた中国の高速鉄道も、状況は同じです。高速鉄道大国をつくると称し、人口規模が小さくて収益性の確保が難しい地域にまでずらずらと路線を敷いたことで、高速鉄道の建設と運営を担当する国有企業の国家鉄路集団の負債総額は24年末の時点で6兆2000億元(約125兆円)にまで増えました。高速鉄道と地下鉄を合わせると、負債の規模は1兆4600億ドル(10兆5000億元=約212兆円)に達します。年間の利子だけでも300億ドル(約4兆3500億円)に上るという観測があります」

     

    高速鉄道も、地下鉄経営の苦境と同じ悩みを抱えている。高速鉄道と地下鉄を合わせると、負債の規模は約212兆円。年間の利子だけでも約4兆3500億円にも達している。これが、財政赤字を生んでいるのだ。

     

    (4)「広東省広州に基盤を置くネット経済メディア「智谷趨勢」は今年5月28日、「地方政府の補助金を除くと、中国国内の主要28都市の地下鉄のうち26都市が赤字状態」だと報じました。深センが407億元(約8210億円)で赤字の規模が最も大きく、北京も217億元(約4380億円)の赤字を記録しました。深センは1日の利用客数が1189万人で、中国の大都市の中では最も多いにもかかわらず、11億元(約20億円)以上の赤字を出しているのです」

     

    地下鉄では、深センや北京という中国を代表する大都市が赤字に陥っている。1日約20億円の赤字という。卒倒するほどの事態だ。この2都市だけで、年間7300億円の赤字になる。

     

    (5)「広東省仏山の状況はさらに深刻です。仏山地下鉄の昨年の売り上げは6億元(約120億円)ですが、要した費用はその4.5倍の27億元(約540億円)にもなります。政府の補助金21億元(約420億円)をもらっても1億8000万元(約36億円)の赤字を出しました。仏山地下鉄は、運営費用を減らすために地下鉄駅舎内の照明を減らし、冷房の温度を調節し、エスカレーターの稼働を止めるなど、さまざまな対策を施行している。雲南省昆明の地下鉄では2023年、数カ月にわたって給与の遅配も生じました」

     

    広東省仏山地下鉄は、大赤字で地下鉄駅舎内の照明を減らし、冷房の温度を調節し、エスカレーターの稼働を止めるという「死の地下鉄」に成り下がっている。

     

    (6)「地下鉄が赤字を出す最大の理由は、巨額の建設費と金融面での負担があるのに、乗客数が十分でなく、運賃が安いせいです。重慶など一部の都市は、地下鉄の運賃を引き上げるなど対策の整備に乗り出したといいます。珠海トラム1号線、上海張江トラム1号線のように、赤字に耐えられず運行そのものを取りやめるところも出てきています。中国の高速鉄道も同じような有様です」

     

    運賃が「安すぎる」ことも大きな理由だ。「社会主義大国」を喧伝し、運賃の安さをPRして大赤字に落込んでいる。いまさら、大幅運賃引上げも言い出せず、日々の赤字を増やし続ける自己矛盾に陥っている。「口は災いの元」という典型例である。

     

    (7)「高速鉄道の建設と運営を担当する国家鉄路集団は、慢性的な赤字状態に陥り、負債も雪だるまのように膨れ上がったのです。2013年の時点で3兆2300億元(約65兆1000億円)だった同グループの負債は、昨年末には6兆2000億元(約125兆円)にまで増えました。日経アジアは昨年8月、「国家鉄路集団の負債は不動産バブルの崩壊で倒産した恒大集団の負債の2倍を上回る水準」と報じました」

     

    高速鉄道も昨年、「賃金変更」を行った。国民が気づかぬように微調整したが、赤字の一部もカバーできず苦悶している。運賃引上げは、習政権の信頼感を損ね兼ねないという懸念が大きく、赤字垂れ流し要因になっている。

     

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    韓国経済は、これからどうなるかが問われている。李政権で、一段の悪化懸念が強まっている。24年は韓国企業の4割が、金利を営業利益で支払えない「ゾンビ状態」に達した。この状況を改善するには、規制緩和が不可欠であるが、李大統領は労働長官候補に、元労組委員長を指名した。これでは、労働改革は不可能であろう。もはや絶望という「二字」が浮かび上がるほどだ。

     

    『東亜日報』(6月25付)は、「10社中4社が『ゾンビ企業』、玉石を区別してこそ経済を立て直せる」と題する記事を掲載した。

     

    昨年1年間、韓国企業10社のうち4社が、稼いだお金で融資金の利息も払えないほど収益性が悪化したことが分かった。深刻な消費萎縮が続き、米国発関税戦争の衝撃まで襲った今年は、事情がさらに悪化する可能性が高い。利益を出せずかろうじて延命する「ゾンビ企業」に対する構造調整が先行されなければ、政府が追加補正予算を編成して景気を支えても、成長率の向上効果は限られざるを得ない。


    (1)「韓国銀行の「企業経営分析結果」と題した報告書によると、昨年、韓国国内非金融企業3万4000社余りの中で、営業利益を利息費用で割った利息補償比率が100%未満の企業の割合は、昨年より1.3ポイント増の40.9%だった。2013年に関連統計を取り始めて以来、「ゾンビ企業」の割合が40%を越えたのは初めてだ。最初から赤字を出して、利息補償比率が0%の企業も28.3%に達した」

     

    24年の「ゾンビ企業」割合が40%を越えたのは、2013年に関連統計を取り始めて以来である。韓国経済の底の浅さを示している。

     

    (2)「消費萎縮の直撃を受けた中小サービス業者、不動産景気悪化の影響を受けた建設業者の状況が特に悪かった。新政府が20兆ウォン(約2兆円)以上の第2次補正予算を編成して資金を供給すれば、これらの企業の寿命は延びる可能性がある。だが、回生が不可能なゾンビ企業にまで無差別的に支援し、彼らの淘汰が遅れれば、競争力の高い企業が適時に必要な支援や資金供給を受けられなくなる。この機会に玉石を選り分けなければ、皆一緒に滅びるという警告が出てくる理由だ」

     

    中小サービス業や建設業の悪化が目立っている。末端需要の悪化を示している。気の毒だが、財政支出を増やしてもすべてを救済できないであろう。

     

    (3)「このようなことのため、大統領選挙当時、李在明(イ・ジェミョン)大統領陣営も、グローバル競争力に問題が発生した石油化学・鉄鋼分野の企業を構造調整する案を点検したという。韓国で大規模な産業構造の調整が行われたのは、1998年の国際通貨基金(IMF)事態直後が最初であり最後だった。この時に行われた構造調整で、約20年間、韓国経済は競争力を維持することができた。だが、以後人為的産業構造の見直しの影響を意識した過去の政府が手を引き、構造調整は事実上中断された」

     

    ここ20年間、産業の構造改革が行われていない。政治不安も重なって、放置されてきた結果だ。中国に技術面で追われていることの認識が希薄であった。それが、構造改革を遅らせた理由だ。

     

    (4)「今は、「第2のIMF危機」という評価が出るほど、経済が深刻になっている。産業構造調整を通じて競争力を回復しなければ、グローバルサプライチェーンの見直し、中国製造業の挑戦に対抗して、韓国経済の未来を約束できなくなった。米国、日本、欧州連合(EU)など先進諸国の政府は、直接「アメとムチ」を持って経済の新たな枠組みを作っている。産業構造調整という長年の難題を解決するには、新政府がスタートして経済の青写真を新しく作る今が最適のタイミングだ」

     

    韓国は今、既得権益を打ち破る改革が求められている。だが、労組を中心とする左派勢力がこれを拒んできた。こともあろうに、李政権の労働長官候補に元労組委員長が上がっている。

     

    『中央日報』(6月25日付)は、「民主労総出身の初の労働長官、労組寄りという懸念の払拭を」と題する社説を掲載した。

     

    実用主義を明らかにした李在明(イ・ジェミョン)政権の最初の内閣の人選は破格だった。雇用労働部長官に、全国民主労働組合総連盟(民主労総)委員長だった金栄訓(キム・ヨンフン)韓国鉄道公社機関士を内定した。民主労総出身の初の労働長官候補で、2004年に鉄道労働組合委員長となった後、2010-12年には民主労総委員長を務めた。

     

    (5)「大統領室は、「前政権の労働弾圧基調を廃止し、黄色い封筒法の改正など『働く人の権利』を強化するための適任者と判断した」と人選の背景を明らかにした。半面、「労組寄り」政策が本格化するという懸念のため経営界は緊張している。新政権が労働市場の二重構造解消などを前に出して労働権の強化を加速させているが、雇用に関連した労働懸案の処理には均衡感覚が必要だ」

     

    前政権は、年功序列制・終身雇用制の廃止に努力した。新政権は、これを労働弾圧基調として退ける姿勢だ。これだけ取り上げても、韓国の労働流動化は阻止されよう。左派政権とは、こういうものである。有権者は、口当たりの良い「公約」に釣られて投票したのだろう。自業自得と言うほかない。

     

    年功序列制・終身雇用制の恩典は、転職しないブルーカラーだけだ。転職が前提になるホワイトカラーには、足かせになる。50歳前後で中途退社しても転職先がなく、最後は自営業に就いて「自滅」している現状を改革しなければならない。

     

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    バブルから復活遂げる奇蹟へ

    科学の国・ドイツも日本詣で

    量子コンピュータ実用化段階

    日本は成長力取戻し再離陸へ

     

    2025年は、量子力学が発見されて100年になる。我々にとって、馴染みの深いニュートン力学に代る位置づけだ。その量子技術が、これから現実世界で応用される時代を迎える。これだけでも今後の「技術世界」は、大変革時代を迎えることが理解できるであろう。日本が、ここで躓いたら永久に落伍する。負けられない大技術競争時代へ突入した。政府が、2025年を「量子元年」として実用化の先鞭を切ると宣言した理由である。

     

    量子技術は、量子コンピュータによって実用化される。量子力学の原理を用いた新世代のコンピュータであり、「量子ビット」と呼ばれる情報の最小単位を使用する。これまでのニュートン力学の情報単位は、「ビット」(0か1)と呼ばれている。一方の「量子ビット」では、「0と1の両方を兼ねる」という複雑な構造になる。それだけ、計算速度が速くなるので、現在のスパンコン(スーパーコンピュータ)を何百倍も上回る速度で計算できる「怪物」である。

     

    この怪物を早く飼い慣らした国と企業が、世界競争で勝利を収められるので今後、熾烈な「戦い」が演じられる。日本は、理研(理化学研究所)が2023年に試作機を発表している。現在は、理研と富士通が共同で、超伝導量子コンピュータの本体製造に着手した。日立製作所は、単独でシリコン量子コンピュータ開発に取組んでいる。

     

    こうして日本では、理研・富士通と日立製作所の2グループが量子コンピュータ本体の製作に取組んでおり、かつての高度経済成長時代のメインフレーム(大型コンピュータ)競争を彷彿とさせる熱気を孕んだ状況だ。日本企業が、30年の雌伏期を経て世界と真っ正面から競争するまでになったのだ。将来への自信を示す象徴的な動きであろう。

     

    バブルから復活遂げる奇蹟

    世界のバブル経済史において、バブルを破綻させた国の経済が再び復活したのは、1929年の世界恐慌を引き起した米国のみである。オランダや英国は、ついに復活することはなかった。この伝で言えば、平成バブル(1990年)で崩壊した日本経済の復活の可能性も低かったはずである。だが、こういう杞憂を吹飛ばし始めたのは「日本技術の黎明」である。それは、量子技術だけではない。次のように、多くの企業が申し合わせたように新技術開発に成功したのだ。

     

    1)トヨタ自動車の全固体電池

    2)国策半導体ラピダスの「2ナノ」(試作中)

    3)NTTの次世代通信網「IOWN」(アイオン)

    4)曲がる電池「ペロブスカイト」

    5)南鳥島深海(6000メートル)のレアアース(希土類)採掘技術

     

    きら星のごとき世界をリードする技術が今、一斉に登場している。これらは、決して偶然の結果ではなく、その基盤になった日本の社会的土壌の存在に気づかねばならない。この基盤が失われない限り、日本に世界をリードする技術が生まれ続けることを期待させる。

     

    日本が、新技術を生み出す社会基盤を有することは、何を持って証拠づけるのか。それは、日本社会が「中庸」を保っていることに表れている。中庸とは文字通り、思考において極端な右にも左にも偏らないという意味である。この冷静さによって、日本社会が「失われた30年」と揶揄されながらも、内に秘めた「中庸」によって前述のような技術開発を成し遂げた、その背景であろう。決して既得権益にしがみ付かず、新規分野の技術開発を怠らなかったのだ。

     

    中庸とは、「節制」や「慎み」の精神であろう。これが、右へ左へと極端に走らせる行動の抑制に繋がっている。実は、この節制や慎みこそが、日本の「武士道精神」と深くかかわっている。困難の中で耐え忍びながら、信頼を守り未来を切り開く姿勢を表しているのだ。日本企業は、この歴史的な文化遺産を受け継いでいる。

     

    明治維新で、武士は特権階級としての地位を失い、教師や巡査となって庶民とともに生活して、新しい時代を切り開いた。明治の庶民の知的水準を押上げる役割を担ったのである。これは、「失われた30年」において、日本企業が取ったビヘイビアと極めてよく似ていると言えよう。

     

    企業は、低成長下で経営リスクの最小化を優先させた。結果として、それが内部留保の増加をもたらし、賃金引上げや設備投資増加に結びつかなかったというマイナス面は隠せない。ただこの裏には、日本経済の期待成長率が低かったという動かしがたい事実もある。ともかく、企業はこういう最悪な環境下で何をしていたか。惰眠を貪ることなくひたする、新技術の開発に努めていた。それが今、一斉に花開き始めている。

     

    武士道精神は、12世紀末からの鎌倉時代に始まる。これが、社会のみえざる規範になっていたことは否定し難い事実だ。武士道精神とは、新渡戸稲造によれば「義」や「誠実」といった価値観を重視する。これは技術開発に通じるもので、技術者や研究者が社会に信頼を築く上で重要な倫理的基盤となっている。大袈裟な表現でなく、技術者や研究者は現代の「侍」とも言える矜持を身につけている。この精神性が、世界を動かす新技術開発で実を結んだと言えるだろう。将来も、こうした文化遺産は保持され続けられるに違いない。(つづく)

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    https://www.mag2.com/m/0001684526


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    BYDは、世界中の自動車販売で旋風を巻き起こしてきたが、その「暴走経営」に過剰在庫圧迫という自動的「鉄槌」が下った。中国自動車業界の平均在庫は1.38ヶ月であるが、BYDは3.21ヶ月と2.3倍もの過剰在庫を抱えていた。売上高急伸の裏で、こういう異常事態が起こっていた理由はなにか。補助金頼みの無謀な増産を続け、ついに限界へ突き当たった形である。

     

    シェアNO1企業が、こういう自滅的な結果を招いたのは、政府による無理な輸出奨励策があった結果であろう。各国が、中国車のダンピング輸出に警戒して関税を引上げたので、ついに行き場を失い過剰在庫へ落込んだとみられる。

     

    『ロイター』(6月25日付)は、「中国BYD、国内工場で生産能力削減 ライン増設も延期=関係筋」と題する記事を掲載した。

     

    中国の電気自動車(EV)大手、比亜迪(BYD)がここ数カ月、国内の一部工場でシフトを削減し、新たな生産ラインの増設計画を延期するなど、生産と事業拡大のペースを鈍化させていることが関係者の話で明らかになった。

     

    (1)「BYDは、ここ数年販売台数を大きく伸ばし、米テスラを抜いて世界最大のEVメーカーに成長した。しかし、激しい競争が続く中国市場で大幅な値下げを行っているにもかかわらず、在庫の増加に苦しんでいる。関係者によると、BYDは一部工場で夜勤を中止し、生産能力を少なくとも3分の1削減した。これらの措置は少なくとも4つの工場で実施され、新たな生産ラインの建設計画の一部も中止されたという」

     

    BYDの販売躍進は、見せかけのものだった。派手な値引き競争は、コストダウンの結果でなく、過剰生産による「生存をかけた」サバイバルであった。これまでの、「BYD強さの秘密」として喧伝されてきた情報は、すべて事実に基づかない宣伝工作であった。

     

    (2)「ある関係者は、これらの措置についてコスト削減が目的だと話した。別の関係者は販売目標が未達成に終わったことを受けて実施されたと述べた。中国汽車工業協会(CAAM)によると、BYDの生産台数の伸びは4月と5月にそれぞれ前年比13%、0.2%に鈍化した。これらはいずれも旧正月休暇の影響で工場の稼働が低下した2024年2月以来の低い伸びだった。また、BYDは23年と24年は第2・四半期から月間生産量を増やし始めたが、今年は傾向が変わり4月と5月の平均生産量は23年第4・四半期と比べて29%減少した」

     

    BYDの減産は、今年4月以降に始まったばかりである。それまで、「野放し増産」を続けてきたのだから、中国経済が急激に悪化し始めたことを窺わせている。

     

    (3)「中国自動車流通協会(CADA)が5月に実施した調査によると、BYD販売店の平均在庫は3.21カ月分で、中国の全ブランドの中で最も高かった。業界全体の在庫水準は1.38カ月分だった」

     

    最も売行きの良かったはずのBYDが、業界平均を2.3倍も上回る在庫を抱えていたとは驚きである。在庫圧迫は通常、売行き不振企業で起るものである。それが、最も売行き好調企業で起ったとは、不可思議な現象だ。考えられる理由の一つは、国内需要見通しを誤るほどの販売不振が起った。もう一つは、輸出不振で急遽国内へ振り向けたことだ。いずれにしても、販売戦線で急激な変化が起ったのであろう。

     

    BYDは、異常在庫を抱えた結果、5月下旬から始めたさらなる値引きに対し、政府機関や業界団体が強い批判を始めるきっかけになった。6月6日、中国内陸部の重慶市で開かれた自動車の国際会議で、政府系経済団体の中国国際貿易促進委員会で自動車分野トップを務める王俠会長は、BYDの値下げ競争に対し「際限のない価格競争などは企業の合理的な利潤を圧迫し、製品やサービスの質に悪影響を与え、長期的には企業と消費者に不利益をもたらす」と強く批判したほど。

     

    こうした批判の中で、中国民営自動車大手、浙江吉利控股集団の李書福董事長は6月7日、前記の自動車国際会議で「新たな自動車工場を建設しない」と述べたほど。世界的に余剰となっている生産能力を活用するなどして、他の完成車メーカーとの協業に前向きな姿勢を示した。吉利は、2027年までにグループ販売台数を24年実績比5割増の500万台に増やす目標を掲げてきた。これが、「お蔵入り」である。

     

    中国では、24年時点で146の自動車ブランドがひしめいている。過当競争による価格競争が激しさを増しているほか、生産能力の過剰問題が深刻化した理由だ。業界トップ企業のBYDが、すでに3割の減産を余儀なくされているほどである。中国経済を支えてきた自動車業界も、ついに不況に屈する時期がきたようだ。

     

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