勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2025年07月

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    中国は、米国の主要基地に脅威を突きつけるようなミサイル・艦船・航空機の増強配備を続けている。米国はそうではなく、「忍者作戦」で対抗する。各部隊の機動性を向上させ、攻撃拠点を広く分散させ、島嶼に隠れて作戦能力を高めることだ。敵に探知されにくくすると同時に、敵に大きなダメージを与える能力を磨こうとしている。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(7月31日付)は、「米国製ハイマースの新型ミサイル、対中国に照準」と題する記事を掲載した。

     

    米国が、ウクライナに供与した高機動ロケット砲システム「HIMARS(ハイマース)」は戦況を一変させるほどの影響を与えた。その機動性や隠密性、精密なロケット弾の発射により、ロシアの進軍を遅らせるのに役立った。数十年前から使われているこのトラック搭載型ロケット弾発射機に今、新たな改良が加えられている。それが将来起こりうる別の紛争、つまり中国を相手にした戦いで非常に重要な役割を果たす可能性がある。

     

    (1)「今回の改良は、長射程のミサイルという形で実現し、最終的には海上の動く目標を攻撃できるようになる。そうなれば、台湾を巡る戦闘が勃発した場合、米国と同盟国が重要な水路を掌握しやすくなる。中国は必要ならば武力で台湾を制圧すると宣言している。「精密打撃ミサイル(PrSM)」と呼ばれるこの新兵器は7月25日、オーストラリアで行われたデモンストレーションで使用され、米同盟国がPrSMを発射する初の機会となった。約500キロの距離にある目標を攻撃でき、これまでの「陸軍戦術ミサイルシステム(ATACMS、エイタクムス)」のミサイルの射程約300キロに比べて長い。これは米国がハイマースの向上を目指す中で重要な節目となる」

     

    精密打撃ミサイル(PrSM)が、豪州で発射実験が行なわれた。標的が移動する「椅子」でも命中可能という精密さを誇っている。米海兵隊は、大部隊での作戦計画よりも、少人数で島嶼部に潜んで戦う戦略へ切替えている。この精密打撃ミサイルは、米海兵隊が運用して作戦成果を上げる手はずである。

     

    (2)「精密打撃ミサイル(PrSM)は、移動式発射台から撃てる長射程の新型ミサイルだ。中国の軍事力増強に対抗し、米国が自軍の機動性向上を目指す中、太平洋地域の重要な拠点や水路を掌握するのにこのミサイルが役立つ可能性がある。太平洋の島々に配備されたハイマースが敵艦を遠方から攻撃できるようになる。これにより、中国が台湾海峡を越えて侵攻部隊を送り込んだり、巨大な海軍力で台湾を封鎖したりする試みはより複雑になるだろう」

     

    PrSMは、トラックで移動できる利便性がある。発射後に速やかに移動すれば、敵に攻撃地点を把握させずに済み、次の攻撃作戦を開始できる強みを持つ。神出鬼没という点では「忍者部隊」である。中国軍が、大船団で台湾海峡を渡れば、途中の島嶼からPrSMが打ち込まれるという戦術である。

     

    (3)「オーストラリアでのミサイル発射を視察したダニエル・ドリスコル米陸軍長官は、「いま起きている紛争の状況を見ると、固定された場所に大規模な部隊を配置し、大きな痕跡を残すやり方は成果が出ていない」と述べた。「成果が出ているのは、機敏に動き、痕跡を隠し、素早く移動する能力だ」と。米国は中国に対抗する軍事戦略を見直している」

     

    米軍は、ウクライナ戦争から多くの戦術を開発している。ハイマースが威力を発揮したのは、「機敏に動き、痕跡を隠し、素早く移動する能力」であることを立証した。

     

    (4)「地上配備型の移動式ミサイル発射機は、この戦略にとって重要だ。米国は7月に入り、オーストラリアで地域初となる「Typhone(タイフォン)」の発射を実施した。タイフォンは「トマホーク」や「スタンダード・ミサイル6(SM6)」などのミサイルを発射できるシステムだ。別の米国製ミサイルシステム「NMESIS(ネメシス)」は、対艦ミサイル発射機が遠隔操作トラックに搭載されている。中国は、米国のミサイル能力を非難している。中国外務省の報道担当者は今年、フィリピンにタイフォンを配備したことは、地域の平和と安全を乱すとし、タイフォンを戦略的攻撃兵器だと断じた」

     

    中国の反発は、地上配備型の移動式ミサイル発射機が中国に脅威であることを示している。

     

    (5)「オーストラリアは米国から42基のハイマースを購入し、PrSMの開発でも米国と協力している。最終的にはPrSMを国内で製造し、米国の生産ラインを補完する可能性がある。太平洋地域の他の米同盟国と同様に、オーストラリアは地域の緊張が高まる中で軍事力を増強しており、長距離打撃能力と島嶼部での機動力を最優先に掲げている。同国は最近、19カ国が参加する大規模演習「タリスマン・セーバー」で米・シンガポールと共にハイマースの実弾発射を行った。「インド太平洋地域の抑止力を拡大することが目的だ。潜在的な敵国にわれわれが痛みを与えられることを示すためのものだ」。パット・コンロイ豪国防産業相はPrSMの発射デモンストレーションに立ち会い、こう述べた」

     

    豪州は、PrSMを国内で製造し、米国の生産ラインを補完するという。これは、中国にとっては警戒すべき情報であろう。中国は、一国で米同盟国軍と対峙するという大きな負担を抱えている。

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    中国から出国しようと空港へ行くと、窓口で赤いランプが付いて「出国禁止」を知らされるという。理由は不明である。人権無視も甚だしいことだ。多くが、民事紛争の飛び火という。解決まで数ヶ月も中国へ「留め置かれる」のだ。こういう国へ行くのは空恐ろしいことである。何を考えているのだろうか。

     

    『フィナンシャル・タイムズ』(7月29日付)は、「『底知れぬ恐怖がまん延』 中国による出国禁止令が急増」と題する記事を掲載した。

     

    中国が、出国禁止令を出す事例が増えている。専門家や関係者の話では、中国国民と外国人が一様に巻き込まれており、中国への出張に懸念が深まっている。

     

    (1)「米金融大手ウェルズ・ファーゴ7月、中国当局が幹部社員の出国を禁じたことを受け、従業員の中国渡航を一時停止した。その数日後、米商務省の職員も出国を阻止されていたことが判明した。裁判所が出した禁止令の完全な記録は入手できないが、その一部を示す最高人民法院(最高裁に相当)のデータからは、渡航制限を受けた個人の数が2018年以降、毎年増加していることがわかる」

     

    中国当局は、何が目的であろうか。情報を取る「逆スパイ」目的であろうか。困った話だ。

     

    (2)「中国の渡航制限を追跡調査する米人権団体「米中対話基金」のジョン・カム氏は、増加の要因として中国政府とトランプ米政権との緊張の高まりを挙げる。米中両政府は28〜29日、関税の停止期間の延長を協議するためスウェーデンの首都ストックホルムで会合を開いた。「出国禁止の事例は多岐にわたり、1つの理由では説明がつかない。問題はますます深刻化している」とカム氏は述べる。同氏は中国から出国できない米国人が30〜40人いることは認識しているが、実際もっと多いのはほぼ確実とみる」

     

    こういう不条理な扱いへ対抗するには、トランプ流の「相互拘束」の実行である。中国公務員を同じ扱いにすれば、中国も目を醒ますであろう。やられたら、やり返す。残念ながら、こういう野蛮な方法しかないとすれば、哀しいことである。

     

    (3)「出国禁止は、説明もなく命じられるケースが多い。被害者は、不透明で時に敵対的な制度に直面し、支援も対処手段もほとんどないまま1人でどうにかするしかない。中国を出ようとして初めて、自分に禁止令が出ていることに気付く人も少なくないとカム氏は言う。空港の税関で出国が禁じられていることを知ったある人物は、「ライトが赤に変わり、奇妙なサイレンが鳴り響いた」と当時の状況を振り返る。係員から出国禁止を告げられ、問い合わせ先の電話番号を手渡されたが、連絡しても誰も出なかったという。同じく空港で足止めされたある投資家は、心臓の鼓動が激しくなったことを覚えている。「何か間違いを犯しただろうかと必死に記憶をたどった」と回想する。「不安で押しつぶされそうだった。一日一日が1年のように長く感じられた」と言う」

     

    帰国しようと空港に向ったら「出国禁止令」とは、無慈悲なことをよく平気で行なうものだ。人権意識などは、欠片もない専制国家の手口である。

     

    (4)「匿名を条件に取材に応じたこの2人はいずれも、禁止令は本人がごく間接的に関わった事件に絡むもので、解除されるまでに数カ月かかったと話す。投資家の場合、本人が取締役を務めていた中国企業での財務上のトラブルが原因だったという。最高人民法院のデータを見ると、裁判所が24年に出した出国禁止令は5万3000件にのぼり、ほぼすべてが民事事件に関連したものだった」

     

    中国に留め置かれた間の費用は、誰が負担するのか。本来は、中国政府の負担であるが、被害者本人に負担させているのであろう。これでは、踏んだり蹴ったりである。

     

    (5)「中国の親戚を訪ねていた商務省職員が、出国を禁じられた理由も不明だ。当局はいかなる情報の開示も拒否している。米紙『ニューヨーク・タイムズ』はこの職員が4月半ばから出国できず、中国の治安当局から尋問を受けていると報じた。米大使館は、「この件を非常に注意深く追跡しており、できるだけ早く事態を解決するため中国側と協力している」と述べた」

     

    米国商務省職員へは、「逆スパイ行為」であろう。米国情報を聞き出しているのだ。米国は断固たる措置に出るべきだ。

     

    (6)「専門家や実際に禁止令を受けた人の話では、中国では様々な部局が禁止令を出している。財政難に陥った地方政府が、遠くの企業の幹部を拘束して罰金を科すケースもある。こうした地理的に離れた企業家に難癖をつけ、罰金をとるなど搾取する行為は皮肉を込めて「遠洋漁業」と呼ばれている」

     

    企業家に難癖をつけ、罰金をとる目的の「出国禁止」もある。高額の罰金を科して財源収入にしているのだ。「追い剥ぎ強盗」と似たようなケースである。

     

    (7)「主に、中国の事例を監視するスペインの人権団体セーフガード・ディフェンダーズは、報告書の中で出国禁止令を認める中国の法律が18年から22年の間に10件から14件に増えたと指摘した。これには国家監察法も含まれる。18年に改正された同法では、容疑者でなくても捜査を受けている人や捜査と関係がある人には出国を禁じられるようになった」

     

    出国禁止令が増えたのは、2018年以降であう。習近平氏の独裁体制が、固まるとともに強化されている。こういう国へは寄りつかないことが、身の安全を保証する唯一の方法だ。

     

     

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    5500億ドル投資の意味

    日本は米国製造業救済役へ

    鉄鋼・自動車含む9業種で

    米国内は歓迎一色に染まる

     

    日米関税交渉が妥結した。対日関税25%が、自動車を含めて15%へ引下げられる一方、新たに対米投資5500億ドルを実施する。関税引下げ条件として、大型対米投資が目玉になった。この提案は、日本側が行なったものである。「関税より投資」が、米国の貿易収支改善に寄与すると主張し続けた結果だ。日米のサプライチェーン強化に資し、日米経済安全保障強化に貢献するという狙いである。

     

    この構想は、日本独自のものである。関税交渉当時、米国官僚は全く聞く耳持たぬ状況で、「関税引下げ条件=輸入増大」の一本槍であった。これを辛抱強く説得して「関税より投資」構想を納得させ、最後はトランプ大統領の決済を得た。以上の交渉プロセスは、赤沢経済再生担当相がNHK(7月26日)で明かにしている。赤沢氏は、今回の合意によって「失われた30年を取り戻して余りある、劇的な経済成長が可能」と胸を張った。

     

    5500億ドル投資の意味

    トランプ氏は7月24日、「日本政府は、いわばシードマネー(初期投資資金=正しくは基盤投資の共同出資金)を出す。誰もこれらが可能だとは思っていなかった。そして、これは本当に素晴らしいことだ」と喜色満面のコメントを出した。

     

    こうして、日米双方が交渉結果を歓迎する「ウイン・ウイン」である。確かに、日本の主要輸出産業の自動車が、これまでの関税2.5%が15%引上げで済めば、中長期的にコスト切り下げで乗りきれる状況だ。日本は、米国から25%関税を通告されたとき、悲観的見通しに支配された。だが、15%に引下げられてムードは一気に楽観論へ転換した。

     

    新たに、米国へ5500億ドルの直接投資が行なわれる。業種は、次の9業種だ。詳細については後で触れたい。

    1)半導体

    2)医薬品

    3)鉄鋼

    4)造船

    5)重要鉱物

    6)航空

    7)エネルギー

    8)自動車

    9)AI

     

    24年の米貿易赤字1兆2000億ドル(約170兆円)のうち、鉄鋼、自動車、機械、電気機器、医薬品が占める割合は合計77.5%だった。トランプ政権が、こうした貿易赤字業種の立直しには、日本から5500億ドル投資を仰ぐほかないとの結論であろう。単純な比較論だが、年間1兆2000億ドルの貿易赤字の77%は製造業である。今回の日本の9業種は、まさにこの「心臓部」に当る。

     

    日本企業が、期待通りの成果を上げる段階になれば、米国の貿易赤字はかなり減って貿易収支均衡化への道筋がみえる可能性も出てくるであろう。トランプ氏は、日本提案に乗って関税よりも投資という構想の重要性に気づいた理由であろう。赤沢氏によれば、米国内ユーザーからは、早くも「日本製品を全量買い取りたい」という気の早い申出でもあるほどだ。

     

    米国の輸入赤字業種には、鉄鋼が入っている。日鉄のUSスチール合併が、米国鉄鋼業の近代化に不可欠という文脈のなかで承認されたことを裏付けるものだ。これが、日本企業の巨額直接投資を必要とする端的な例であろう。「死に体」の米国製造立直しには、日本の9業種が必要であることを明確にしている。

     

    日本企業が、大挙して米国へ「逆上陸」することは、今回が初めてである。日本が、「黒船来襲」と怯えたころとは、嘘のような時代になった。これは、日本にとって経済のみならず安全保障面における大きな一歩となろう。日本が、米国にとって経済面で不可欠の存在になったからだ。日米経済が「一体化」することは、米国製造業の弱点を日本企業が補うことを意味する。この裏には、日本企業の技術力が過去30年間、格段の進歩を遂げたことを示す。GDP成長率では、「失われた30年間」でも、技術は磨かれ続けていたのだ。

     

    日本は米国製造業救済役へ

    米国では、製造業衰退の象徴的な例が鉄鋼業に現れている。鉄鋼業の衰退は、関税保護との相互関係によって1980年代以降、目立つようになった。輸入鋼材への依存が進む一方で、関税が課されるケースも増加し、鉄鋼業は競争力を低下させた。特に2018年、トランプ政権下で「通商拡大法第232条」に基づき、多くの輸入鋼材に関税が課された。これが、製造業全般のコスト増をもたらし、競争力低下を引き起こした。鉄鋼業衰退は、関税政策に起因する価格上昇によるもので、企業に技術革新への意欲を失わせたのだ。

     

    いうまでもなく、鉄鋼業は製造業の基盤である。「鉄は国家なり」という言葉もあるように、鉄鋼の競争力は製造業の競争力を左右する要の存在だ。それだけに、鉄鋼業は政治と結びつきやすい側面も持つ。こうして得た政治力が、関税による保護要請に走らせた。トランプ氏は、関税で米国鉄鋼業を衰退させた「張本人」である。今回、さらに50%の関税だ。日鉄の勝利は、これによって不動のものになろう。(つづく)

     

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    https://www.mag2.com/m/0001684526



    あじさいのたまご
       

    中国政治は、中国人民解放軍の支配権力を握った者が支配するシステムだ。習近平国家主席は、中央軍事委員会主席として睨みを効かせてきた。習氏が指名した側近の軍事委員は、3人も不祥事を理由に消えている。習氏の権力基盤が、大きく揺らいでいるとみられる最大の理由になっている。中国人民解放軍機関紙『解放軍報』は、最近号で堂々と「集団指導体制」を強調して、習氏の影が薄くなっていることを示唆し注目されている。

     

    『日本経済新聞 電子版』(7月31日付)は、「北戴河前に中国軍で集団指導復活の兆し、中央軍事委ガバナンスに注目」と題する記事を掲載した。筆者歯、同紙の中沢克二編集委員である。

     

    中国共産党が指揮権を持つ軍隊、人民解放軍の内部で実質的な「集団指導体制」が復活する兆しがある。目立つのは、軍内から発信される中央軍事委員会主席、習近平が関係する政治用語の変化だ。河北省にある海辺の保養地では、現役指導部と長老らが重要問題を巡って意見交換する「北戴河会議」が8月初旬から始まる見込み。その直前という微妙な時期の動きは興味深い。

     

    (1)「7月23日、権威ある中央軍事委の機関紙、解放軍報の第1面に注目すべき論評が掲載された。驚きがあったのは見出しではない。共産党内のガバナンスに深く関係する文章内の以下の表現だ。「(共産)党委員会の統一的な指導(体制)と集団的な指導(体制)を強化する必要がある」。異例なのは、習近平時代の特徴がにじむ「統一的な指導」と、その対局にある伝統的な「集団的な指導」という2つの意思決定体制を併記、並列したことだ。しかも「統一的な指導」という用語の前に「集中的な」は入っていない。

     

    習近平「一強体制」批判が、中国軍内部で起こっている。これは、注目すべき動きだ。

     

    (2)「習とその側近らは、「集中的で統一的な指導」という形で、トップへの「権力集中」を誇示することが多かった。それが、「統一的な指導体制」と「集団的な指導体制」をセットで提起したのは大きな意味がある。これは、次のような意味である。「トップが独断で決めるのではなく、集団討論を経た統一的で団結した指導体制が重要。委員会内部で実質を重視しながら十分に議論したうえで、科学的に決定せよ」という趣旨だ」

     

    トップが独断で決めるのではなく、集団討論を経た統一的で団結した指導体制が重要としている。習氏によって、葬られた言葉の「集団指導体制」が復活だ。軍はなぜ、ブレーキを掛けたか。米国との対立に危機感を持ったのだろう。

     

    (3)「中央軍事委は、中国が発動する様々な具体的軍事行動に関する決定機関だ。中央軍事委メンバーはもともと7人いた。だが、前国防相の李尚福の失脚後、補充はなく、習側近の政治工作部主任の苗華も先に失脚が確定した。さらに習が格別の配慮で抜てきした中央軍事委副主席で軍制服組No.2の何衛東は5カ月近く行方不明だ。現在は実質的に、トップの習と制服組軍人3人の計4人しかいない。解放軍報の論評は、この残った4人の中での「統一的な指導」と「集団的な指導」を主張しているとも考えられる」

     

    中央軍事委は7人制だ。うち、習派の3人が消えている。なぜか、習氏の独断による「台湾侵攻阻止」であろう。開戦反対論が軍部の多数派になっているとみられる。

     

    (5)「過去の経緯を振り返ると、解放軍報が紙面で「集団的な指導」(集団主導)を訴えたのは、2024年12月9日以来である。ただ、当時は第6面に掲載した「集団指導を堅持する先頭に立て」という見出しの評論だった。今回は1面である。ただし、見出しはなく、文章内の文言だけだ。さらに前に遡ると24年7月9日付の第4面にあった強軍論壇と題したコラムで「集団指導を堅持し、民主の発揚に重きを置くように」という見出しで、軍内の集団指導の堅持を論じていた。目立つ形の言及は今回で3回目になる。流れは明確だ」

     

    軍部における習氏による独断反対論は、昨年12月から始まっている。習氏が、「戦える軍隊」と発破を掛けていたころだ。米軍は、中国が27年までに台湾侵攻をするとみてきたが、中国軍内部ではこれを止める動きが始まっていたのだろう。

     

    (6)「軍に関係する機関、組織が最近、発信する文章で「集団主導」に言及する場面も増えている。「集団指導、民主集中、個別議論、会議決定」という16文字の政治スローガンを提起する手法だ。8月1日の軍創設記念日を前にした中国各地の党と軍の活動で、会場に堂々と16文字を掲げた写真報道も散見される。16文字は、中国共産党員が必ず守るべき規則である党規約に明記されている基本原則だ。この行為自体をとがめることはできない。党規約違反になるからだ」

     

    軍内部では、「集団指導、民主集中、個別議論、会議決定」という16文字の政治スローガンが、盛んになっている。習氏が、勝手に戦争を始めないようにする動きだ。

     

    テイカカズラ
       

    消費のドロ沼不況に喘ぐ中国は、不動産バブルの象徴である中国恒大集団が、香港証券市場から消える瀬戸際を迎えた。倒産したはずの恒大集団の株式が、未だに上場されていることに奇異な感じを受ける。これが、中国商法である。波及を恐れて、形だけでも生かし続けてきたのだ。なんとも不思議は社会である。

     

    『日本経済新聞 電子版』(7月29日付)は、「中国・恒大集団が上場廃止の瀬戸際 不動産市況好転の夢、崩れる」と題する記事を掲載した。

     

    経営再建中の不動産大手、中国恒大集団が香港市場で上場廃止の瀬戸際に立たされている。時間を稼いで市況の回復を待つ戦略は不発に終わる可能性がある。中国経済最大のネックである不動産不況の根は深く、危機の芽はくすぶる。当局は信用不安の再燃を警戒している。

     

    (1)「香港取引所は売買停止期間が18カ月に達すると上場廃止にできると定める。恒大は2024年1月に香港高等法院(高裁)から法的整理(清算)の命令を受けたことで売買停止となり、7月28日に期限を迎えた。29日時点で恒大や取引所からの声明は確認できていない。売買停止が18カ月を過ぎると通常、取引所内の委員会が上場廃止にするか検討に入る。廃止を回避するには売買再開への道筋を示す必要があるとされるが、複数の関係者は「恒大が上場廃止を回避するのは厳しい」と話した」

     

    恒大集団は7月29日、香港取引所で上場廃止になるはずだが、特別の動きは見られない。

     

    (2)「恒大は中国不動産バブルの象徴だ。住宅価格が上がり続けるという「神話」を前提に、未開発の住宅を顧客に大量に売りさばく手法で事業を拡大。20年に当局が監視強化に転じたのを機に経営危機が表面化した。資金繰りの悪化で販売契約済みの案件を顧客に引き渡せなくなり、信用不安に直面した。23年6月末時点で6442億元(約13兆円)の債務超過となり、負債総額は2兆3882億元と日本円で50兆円近くに膨らんだ」

     

    恒大集団は23年6月末時点で、約13兆円の債務超過である。負債総額は50兆円近い。このどうにもならない企業が、香港市場に上場されていること自体が不思議な話だ。

     

    (3)「法的整理を巡る香港高裁での審理では、会社側が結論の先延ばしを求める「牛歩戦術」を繰り返し、法的整理の決定までに約1年半かかった。法的整理手続きが始まった後も本土では事業を継続し、市況が好転するのを待つ構えだったが、再建の望みは薄れている。本土の不動産関係者は「全国的に恒大が開発したり販売したりしているマンションは聞かなくなった」と語る。以前開発を手掛けた案件も他社に売却され、プロジェクト名も変わっている。事業を引き継いだ会社も販売に苦心する。22年に恒大から別の業者に引き継がれた広州市の販売物件では7月、特定住戸を契約すると車1台を進呈するキャンペーンが展開されていた」

     

    恒大集団は、あくまでも生残りを策したが、命脈が絶たれた感じである。証券市場という公的機関に、取引不可能な企業を残しておくこと自体が不当行為である。恒大集団の売れ残り物件を引き継いだ企業も、販売に苦戦している。契約すれば、車1台を進呈するキャンペーンを展開するほどだ。このように、住宅不況は深刻である。

     

    『ブルームバーグ』(7月29日付け)は、「中国の消費者心理悪化、景気減速リスク浮き彫り-人民銀の四半期調査」と題する記事を掲載した。

     

    中国消費者の労働市場に対する見方が過去最悪となったことが、中国人民銀行(中央銀行)の調査で分かった。政府目標を上回る経済成長率が続いているものの、景気減速リスクが浮き彫りとなっている。

     

    (4)「7月25日発表の調査によると、4~6月(第2四半期)に所得と雇用、物価に対する消費者の悲観的な見通しが強まった。消費意欲は、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が始まって以来、最も弱い水準となった。ゴールドマン・サックス・グループのユーティン・ヤン氏らエコノミストはリポートで、「最新のデータは悲観的な見通しを物語っている」と指摘した」

     

    消費意欲は、20年の新型コロナ発生以来の落込みである。もはや、どうにもならない事態を迎えている。

     

    (5)「昨年の後半以降、小売売上高は持ち直していたが、消費者心理の改善ではなく、主に政府の補助金が後押ししていた可能性がある。消費者物価や住宅価格が上昇すると予想する回答者の割合が減少している。2022年から住宅価格が下落している不動産セクターの低迷は、今後とも続くことが示唆された」

     

    中国経済は、「四面楚歌」の状態だ。過小消費がさらに縮小する事態に落込んでいる。もはや打つ手がない状態だ。「中国式社会主義」が落込んだ罠である。

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