中国は、米国の主要基地に脅威を突きつけるようなミサイル・艦船・航空機の増強配備を続けている。米国はそうではなく、「忍者作戦」で対抗する。各部隊の機動性を向上させ、攻撃拠点を広く分散させ、島嶼に隠れて作戦能力を高めることだ。敵に探知されにくくすると同時に、敵に大きなダメージを与える能力を磨こうとしている。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』(7月31日付)は、「米国製ハイマースの新型ミサイル、対中国に照準」と題する記事を掲載した。
米国が、ウクライナに供与した高機動ロケット砲システム「HIMARS(ハイマース)」は戦況を一変させるほどの影響を与えた。その機動性や隠密性、精密なロケット弾の発射により、ロシアの進軍を遅らせるのに役立った。数十年前から使われているこのトラック搭載型ロケット弾発射機に今、新たな改良が加えられている。それが将来起こりうる別の紛争、つまり中国を相手にした戦いで非常に重要な役割を果たす可能性がある。
(1)「今回の改良は、長射程のミサイルという形で実現し、最終的には海上の動く目標を攻撃できるようになる。そうなれば、台湾を巡る戦闘が勃発した場合、米国と同盟国が重要な水路を掌握しやすくなる。中国は必要ならば武力で台湾を制圧すると宣言している。「精密打撃ミサイル(PrSM)」と呼ばれるこの新兵器は7月25日、オーストラリアで行われたデモンストレーションで使用され、米同盟国がPrSMを発射する初の機会となった。約500キロの距離にある目標を攻撃でき、これまでの「陸軍戦術ミサイルシステム(ATACMS、エイタクムス)」のミサイルの射程約300キロに比べて長い。これは米国がハイマースの向上を目指す中で重要な節目となる」
精密打撃ミサイル(PrSM)が、豪州で発射実験が行なわれた。標的が移動する「椅子」でも命中可能という精密さを誇っている。米海兵隊は、大部隊での作戦計画よりも、少人数で島嶼部に潜んで戦う戦略へ切替えている。この精密打撃ミサイルは、米海兵隊が運用して作戦成果を上げる手はずである。
(2)「精密打撃ミサイル(PrSM)は、移動式発射台から撃てる長射程の新型ミサイルだ。中国の軍事力増強に対抗し、米国が自軍の機動性向上を目指す中、太平洋地域の重要な拠点や水路を掌握するのにこのミサイルが役立つ可能性がある。太平洋の島々に配備されたハイマースが敵艦を遠方から攻撃できるようになる。これにより、中国が台湾海峡を越えて侵攻部隊を送り込んだり、巨大な海軍力で台湾を封鎖したりする試みはより複雑になるだろう」
PrSMは、トラックで移動できる利便性がある。発射後に速やかに移動すれば、敵に攻撃地点を把握させずに済み、次の攻撃作戦を開始できる強みを持つ。神出鬼没という点では「忍者部隊」である。中国軍が、大船団で台湾海峡を渡れば、途中の島嶼からPrSMが打ち込まれるという戦術である。
(3)「オーストラリアでのミサイル発射を視察したダニエル・ドリスコル米陸軍長官は、「いま起きている紛争の状況を見ると、固定された場所に大規模な部隊を配置し、大きな痕跡を残すやり方は成果が出ていない」と述べた。「成果が出ているのは、機敏に動き、痕跡を隠し、素早く移動する能力だ」と。米国は中国に対抗する軍事戦略を見直している」
米軍は、ウクライナ戦争から多くの戦術を開発している。ハイマースが威力を発揮したのは、「機敏に動き、痕跡を隠し、素早く移動する能力」であることを立証した。
(4)「地上配備型の移動式ミサイル発射機は、この戦略にとって重要だ。米国は7月に入り、オーストラリアで地域初となる「Typhone(タイフォン)」の発射を実施した。タイフォンは「トマホーク」や「スタンダード・ミサイル6(SM6)」などのミサイルを発射できるシステムだ。別の米国製ミサイルシステム「NMESIS(ネメシス)」は、対艦ミサイル発射機が遠隔操作トラックに搭載されている。中国は、米国のミサイル能力を非難している。中国外務省の報道担当者は今年、フィリピンにタイフォンを配備したことは、地域の平和と安全を乱すとし、タイフォンを戦略的攻撃兵器だと断じた」
中国の反発は、地上配備型の移動式ミサイル発射機が中国に脅威であることを示している。
(5)「オーストラリアは米国から42基のハイマースを購入し、PrSMの開発でも米国と協力している。最終的にはPrSMを国内で製造し、米国の生産ラインを補完する可能性がある。太平洋地域の他の米同盟国と同様に、オーストラリアは地域の緊張が高まる中で軍事力を増強しており、長距離打撃能力と島嶼部での機動力を最優先に掲げている。同国は最近、19カ国が参加する大規模演習「タリスマン・セーバー」で米・シンガポールと共にハイマースの実弾発射を行った。「インド太平洋地域の抑止力を拡大することが目的だ。潜在的な敵国にわれわれが痛みを与えられることを示すためのものだ」。パット・コンロイ豪国防産業相はPrSMの発射デモンストレーションに立ち会い、こう述べた」
豪州は、PrSMを国内で製造し、米国の生産ラインを補完するという。これは、中国にとっては警戒すべき情報であろう。中国は、一国で米同盟国軍と対峙するという大きな負担を抱えている。




