勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2025年11月

    テイカカズラ
       

    ロシアは、ウクライナ和平をめぐって「のらりくらり」しながら時間稼ぎをしている。ウクライナの体力疲弊を待つ形だ。最終的には、ロシアの思い描く通りの決着へ持ち込もうという算段だ。ふらつくロシア経済は、ウクライナ侵攻4回目の冬を迎える。国民生活は疲弊しているが、未だ崖っ縁までには至っていない。これが、プーチンロシア大統領にわずかな「余裕」を与えている。

     

    『ブルームバーグ』(11月27日付)は、「ウクライナ侵攻から4回目の冬、ロシア国民に痛み-経済的体力が試練に」と題する記事を掲載した。

     

    プーチン大統領の下でロシアが開始したウクライナ侵攻から4回目の冬を迎え、ロシア国民は日常生活のあらゆる部分で影響の広がりを実感している。ロシア中部と南部の何十もの地域で、エネルギー施設や住宅がドローンとミサイルの攻撃を受けており、前線との近さを実感せざるを得ない。空襲警報のサイレンがほぼ毎晩鳴り続け、戦闘が迫っていると絶えず知らせる。

     

    (1)「前線のはるかかなた、モスクワを含むロシア各地で、経済的痛みを人々は感じ始めた。家計は食費を切り詰め、鉄鋼・鉱業・エネルギー産業も苦境に陥り、成長エンジンに亀裂が幾つも生じつつある。大規模財政出動と記録的なエネルギー収入が支えるロシア経済のレジリエンス(体力)が試練にさらされている。苦しみはウクライナとは到底比べものにならず、プーチン氏に戦争終結を促す可能性は低い。それでも2022年2月の全面侵攻を決断した代償が、これまでになく大きいという現実を浮き彫りにする」

     

    ロシアの今年の冬は、いつもの冬よりも厳しくなりそうだという。戦争の痛みが、あちこちで強くなっているからだ。家計は食費を切り詰め、鉄鋼・鉱業・エネルギー産業も苦境に陥っている。軍需産業は、武器を納品しても政府から代金が支払われない状態だ。この状態が、前記の鉄鋼・鉱業・エネルギー産業へ波及している。

     

    (2)「トランプ米政権は停戦実現に向け、ロシアの石油・天然ガス収入の抑制を目指す圧力を強めている。ロシアが望む制裁緩和を盛り込んだ包括的和平案を巡り、米ロの交渉が水面下で続いているもようだ。米カーネギー国際平和財団ロシア・ユーラシアセンターのアレクサンドル・ガブエフ氏は「全体の経済指標に基づけば、今この戦争をやめることがロシアの最善の利益になるだろう。けれども戦争を終わらせたいと考えるには、崖っぷちに立たされている認識が必要だ。ロシアはそこにまだ至っていない」と指摘した」

     

    プーチン氏は、「時間を味方につけている」。粘り勝ちで、ウクライナを屈服させるという「我慢比べ」をしている。トランプ氏が、ウクライナへ強力な武器を与えて、ロシアの経済的消耗度を引上げれば、事態の打開へ繋がるであろう。だが、トランプ氏には別の思惑がある。ロシアを味方につけて対中国戦略を練っているからだ。

     

    米国が、先に提出した和平案には、ロシアをG8へ復帰させるという項目さへあって仰天させた。トランプ氏が、ロシアを取込もうという戦術が含まれている。ウクライナの犠牲で、米国の対中戦略へロシアを組入れるというのだ。ロシアと米国の下打ち合せでは、ロシアがこれを望んだのであろう。ロシアの本心は、新興国のトップでなく先進国の一角に席を占めて「大国ロシア」の威容を国民に示したいのであろう。

     

    このロシアの願望は、どこまで満たして行けばいいのか。その場合の欧州の反応はどうか。難しい方程式である。だが、なによりも侵略されたウクライナの悲劇の回復が第一でなければならないが、当のウクライナ政府の幹部は、大規模な汚職容疑で揺れている。戦争で国土が消えるかどうかという瀬戸際で、賄賂を懐に入れる輩がいるとは絶句する。そう言ってはいけないが、「タヌキとキツネの化かし合い」という局面である。

     

    こうなると、最前線で命を的にさせられて戦っている両軍の兵士とその家族、犠牲になった兵士や家族が、最大の貧乏籤を引かされたことになる。最前線から遠く離れるほど、それぞれの「欲望」が渦巻いて、この戦争を利用しようとしている一団の人たちが控えているのだ。

     

    ロシアの文豪トルストイは、若き日にクリミア戦争に従軍した経験が、反戦思想の原点となった。晩年には非暴力主義(トルストイ主義)を提唱し、ガンジーにも大きな影響を与えた。トルストイにとって戦争とは、人間の理性と愛を破壊する最大の暴力とみた。このトルストイが、次のような名言を残している。

     

    「戦争は、最も卑劣な人間が、最も高貴な理想を語るときに始まる」。この言葉は、プーチン氏や習近平氏にそのまま当てはまる。プーチン氏は、「大ロシア帝国の復活」を。習氏は「中華民族再興」を語って、戦争を美化しているのだ。正義の戦争などは存在しない。邪悪だけが開戦動機である。

     

     

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    習近平氏は、高市発言をめぐってトランプ氏まで電話をするほどの騒ぎを引き起したが、これで一段落する気配も漂い始めている。中国のイメージダウンになることに気付いたようで、振りかざした拳を下ろす気配がみえてきた。と言っても、現状はそのまま。互い睨み合いの状態がつづきそうだ。

     

    『ハンギョレ新聞』(11月27日付)は、「中国、日本に『追加対応』警告後に様子見…中日、緊張のなか関係改善の見通し」と題する記事を掲載した

     

    日本の高市早苗首相の「台湾有事で集団的自衛権の行使は可能」発言後、圧力を加えている中国は、発言が撤回されなければ追加措置がありうると警告していたが、その後の局面では逆効果を懸念し、対応の度合いを調整しているという分析が示された。

     

    (1)「香港『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』(11月26日付)は、専門家らの話を引用し、中国が日本にさらに圧力を加えることはすぐにはないだろうと報じた。これは、トランプ政権の高率関税措置などに備え、中国が最近強調しているルールに基づく開放的な国家というイメージを損ね、外国人投資家の間で不確実性への懸念を強める恐れがあるためだと説明した。華南理工大学公共政策研究所の徐偉鈞研究員は「(日本に対する)経済的対応に過度に依存すれば、開放的な貿易大国としてみなされることを望んでいる中国の戦略を弱め、外国人投資家や企業を不安にさせる恐れがある」と指摘した」

     

    香港『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』は、中国政府が日本へさらなる圧力を掛けることはないとの予測記事を掲げた。これ以上踏み込めば、日本がやむなく「応戦」して、中国が痛手を被るからだ。中国が、日本へ圧力かけられる限界を示している。

     

    (2)「高市首相は今月初めに国会で、中国の侵攻にともなう台湾有事の状況は、日本が集団自衛権を行使できる「存立危機状況」だと発言した。台湾を自国の領土の一部とみなす中国は、内政干渉であり、日本の軍国主義の復活を予告するものだと強く反発している。中国は、自国民の日本への旅行・留学の自制命令、日本産水産物の輸入再開の停止、高官級会議の延期通知などで対応している」

     

    台湾は、国際法的に言えば中国の領土ではない。北京政府に統治権がなく、実効支配していないのだ。台湾侵攻は、中国の侵略行為になる。

     

    (3)「レアアースの輸出規制などを管轄する中国商務部の何詠前報道官は、20日の定例会見で、高市首相が発言を撤回しなければ「必要な措置」を取るなどと述べ、追加対応を示唆した。言及されている中国の追加圧力措置としては、日本への旅行の自制ではなく「禁止」、観光目的などでの中国入国時のビザ免除の終了、レアアース輸出規制の強化などがある。日本製品の輸入制限や日本人による直接投資の規制などを導入する可能性があるとの見方も出ている」

     

    中国が、日本へレアアースを止めれば、日本は半導体素材を輸出ストップにする。中国は代替先がないから、半導体生産はストップする。それを覚悟なら、「おやりなさい」だ。大言壮語もほどほどにしないと、経済の寿命を縮めることになろう。

     

    (4)「エコノミスト・インテリジェンス・ユニット」のシニアアナリストのチム・リー氏は、このような措置によって、日本の自動車産業が影響を受ける可能性があると指摘した。リー氏は「このような措置が導入された場合、元に戻るのは困難」だとして、「中国と日本はいずれもこのような措置を限界ラインとみている」と分析した。しかし、中国は友好的な日本企業との関係を維持して、外国人の投資を拡大し、米国に対する依存度を減らそうとしており、経済的影響は限定的だとリー氏は予測した」

     

    中国が、レアアース輸出を止めた場合の代償は大きくなる。「このような措置が導入された場合、元に戻るのは困難」になる。中国は、何と言ってレアアース輸出規制を解除するのか。「弁解」しにくくなろう。

     

    (5)「米中関係の改善も、中日の緊張に影響を与える見込みだ。四川大学経済学院の龐中英教授は、来年予定される米中首脳の相手国訪問が、中日関係の見通しを改善しうるとみている。龐教授は「第2次世界大戦後の日本の対中国政策は、おおむね米国の動きに追随してきた」と指摘した。龐教授は「もし、米国が中国との関係を安定化させようと動けば、日本もそれに従うことになる」として、「最終的に中日関係の行方は、緊張下にあっても改善に向かう可能性が高い」と述べた」

     

    習氏は、トランプ氏へ「言いつけた」から、儀式が終ったのであろう。習氏のトランプ氏への電話は、どう意味づけになるのだろうか。それなら、高市氏へ電話するのが筋であろう。それができないから、不満をトランプ氏へ言ったに違いない。

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    中国の習国家主席は、米大統領トランプ氏へ電話をしたことが注目されている。1時間の会話中で、半分は台湾問題であったという。その中で習氏は、米中両国による世界秩序の維持を強調した。考えてみれば、この習氏による電話は、不思議なタイミングで行われたことになる。

     

    この両氏は、10月下旬に韓国で会談をしている。こういう基本的問題は話合われているはずだ。それにもかかわらず、習氏があえて電話をしたのは国内事情であろう。自己の立場を守るべく、高市発言を抹消させたかったに違いない。習氏は、台湾侵攻で日米が参戦しない、という夢のような前提に立っているとすれば、何とも言いがたい非現実論者と言うほかない。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(11月27日付)は、「トランプ氏、台湾巡り日本に抑制求める 習氏と会談後」と題する記事を掲載した。

     

    中国が台湾を攻撃した場合、日本が軍事的対応を取る可能性を高市早苗首相が示唆したことを巡り、中国の習近平国家主席がドナルド・トランプ米大統領との会談で怒りをあらわにし、またトランプ氏も習氏の発言に耳を傾けた。

     

    (1)「事情に詳しい複数の関係者によれば、高市氏の発言から数日後、習氏はトランプ氏との1時間の電話会談の半分を費やして台湾を巡る中国の歴史的な主張を展開。また世界秩序を守る米中両国の共同責任を強調した。複数の日本政府当局者やブリーフィングを受けた米国の関係者によれば、トランプ氏は同日には高市氏と電話会談を実施し、台湾の主権に関する問題で中国政府を挑発しないよう助言。このトランプ氏の助言は直接的なものではなく、高市氏に発言を撤回するよう圧力をかけるようなことはなかったともこれらの関係者は述べた」

     

    習氏は、国内的に高市発言で「苦境」に立たされているのでないか。習氏が、台湾侵攻を軍事的に容易な作戦と吹聴してきた手前、高市発言がそれを否定したと受け取ったに違いない。日本は、中国が威嚇すれば引っ込むという非現実的な前提で、「台湾解放論」を主導してきたとすれば、何とも「能天気」な話になる。

     

    (2)「ホワイトハウスは、高市氏とトランプ氏のやり取りに関する質問に対し、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)向けにトランプ氏の声明を発表。トランプ氏はその中で、「米国と中国の関係は非常に良好であり、それはわれわれの親愛なる近しい同盟国である日本にとっても非常に良いことだ。中国と仲良くすることは、中国と米国にとって素晴らしいことだ。私の考えでは、習主席は大豆やその他の農産物の購入を大幅に増やすだろう。そしてわれわれの農家にとって良いことは、私にとっても良いことだ」とした。トランプ氏はまた、「われわれは日本、中国、韓国そして他の多くの国々と素晴らしい貿易協定を結んでおり、世界は平和だ」とし、「この状態を維持しよう!」と付け加えた」

     

    トランプ氏は、現在の米中関係が安定しているから経済的に良い結果を得ているという認識である。この状態を維持したい。それが、「日本、中国、韓国そして他の多くの国々と素晴らしい」ことだとしている。

     

    (3)「今回の出来事は、米中関係における新たな現実を浮き彫りにした。中国との貿易休戦と台湾問題が切り離せないものとなる中、トランプ氏と習氏は来年予定されている複数の会談に向け準備を進めている。米政府は公式見解では、台湾に関する中国の主張を承認することなく認識はしているが、台湾には防衛用の兵器を供与し、中国の武力でその命運を左右できないよう支援している」

     

    米国の真意は、中国といざこざを起こさずに、台湾へやるべき支援を行うという姿勢だ。日本に対しても、同じことを希望しているのであろう。

     

    (4)「中国政府は、24日のトランプ氏と習氏の電話会談について、台湾を巡る話し合いに焦点が当てられたと公式に説明。事情に詳しい複数の関係者によれば、トランプ氏による高市氏への電話も、これを反映したものだという。習氏はトランプ氏に対し、「台湾の中国への復帰は、戦後国際秩序の重要な構成要素である」と述べたと、中国政府は説明している。トランプ氏は高市氏との電話会談の中で、台湾に関する発言のトーンを和らげるよう提案したと、事情に詳しい米国の関係者は述べた。トランプ氏は、高市氏の国内政治的制約について事前に説明を受けており、中国政府を怒らせた発言を完全に撤回することはできないと認識していたという」

     

    このパラグラフでは、習氏の「苦衷」ぶりがよく分る。台湾は、中国の領土という認識である。日本に邪魔をさせないということだ。しかし、日本の4倍の国防費を使っている中国が、これほどまでに日本の存在に戸惑っているのはなぜか。日本を恐れているのだ。日清戦争で、大敗した清国海軍の苦い思い出が蘇るのであろう。太平洋戦争で、米海軍を苦しめた日本の存在を無視できないに違いない。

     

    (5)「トランプ氏と習氏の電話会談は、両指導者にとっての最重要課題を浮き彫りにした。 ホワイトハウスに近いある関係者は、電話会談が貿易に関するものであり、中国が約束した大豆購入の実施遅延を米政府として懸念していると述べた。一方で習氏にとっては、台湾が最優先事項だった。複数の関係者によれば、同氏は日本を名指しせず、トランプ氏に対し日本政府に直接圧力をかけるよう求めることもなかったが、戦後秩序に関する習氏の議論は、日本を敗戦国として暗に示すものであり、最近の緊張に対する同氏の懸念の深さを示している」

     

    習氏が日本を名指しすれば、「日本脅威論」を認めるようなものだ。それを避けている。巧妙な電話である。

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    正義の戦争は存在しない

    台湾侵攻で中国軍は敗北

    中国製造業の弱点を突く

    技術・持久力2面で欠陥

     

    日中対立の折、G20サミットで日中首脳の接触はみられなかった。高市首相が、台湾有事の際に自衛隊出動の可能性に言及し、中国が強い抗議を行った結果だ。中国は、事前にG20サミットで日本の首脳と会談する予定はないと公表。日本側も、最初から中国語通訳を帯同せず、会見意思を示さず静観した。これには、後日談が現れた。日本の淡泊な姿勢に中国側が焦ったのだ。11月24日、習近平国家主席がトランプ米大統領へ電話して、「日米結託」に探りを入れるという慌てぶりをみせた。「高市、習を走らせる」構図だ。

     

    中国は、日本批判をエスカレートさせている。国連事務総長へも書簡を送った。それによると、次のような主張を繰り広げている。

     

    高市首相の発言が、「国際法と外交規範に対する重大な違反」を犯したと強調。「もし、日本が海峡両岸情勢に武力介入しようとするならば、それは侵略行為」である。さらに、「中国は国連憲章と国際法に基づく自衛権を断固として行使し、主権と領土保全を断固として守る」と述べたのである。

     

    中国の「強硬声明」には、台湾問題が中国の内政であるという前提に立っている。つまり、台湾は中国の領土という意味だ。ここで、国際法が領土についていかなる定義をしているか、である。領土とは、統治権が及ぶことを前提にしている。この点で現実に、北京政府の統治権は台湾へ及んでいない。台湾問題は、北京政府の「内政」でなくなるのだ。だが中国は、台湾を武力攻撃できる合法的権利を持ち、これへの介入が侵略行為と断じている。完全な論理のすり替えである。

     

    中国は、日本を「侵略者」呼ばわりする異常な言動を始めている。歴史に範例を求めれば、朝鮮戦争は北朝鮮と中国による韓国への侵略行為である。北朝鮮側は、武力行使の理由として民族統一という理屈を使った。中国の理屈に従えば、侵略阻止の国連軍がなんと「侵略者」の烙印を押されるのだ。中国は、北朝鮮と同じ理屈で台湾へ侵攻しようとしている。自らを正義と位置づけ、これを阻止する国を侵略国として糾弾する。中国の深慮遠謀が、すでに始まっているのだ。

     

    正義の戦争は存在しない

    およそ、世界に「正義の戦争」など存在しないのだ。すべて、邪悪な領土拡大意欲で始まっている。これが、世界史の教える史実である。中国は、台湾の軍事的統一を「正義の戦争」と位置づけているが、本音は領土拡大と半導体技術の取り込みにある。

     

    中国は、こういう見え透いた動機をカムフラージュすべく、日本を侵略者呼ばわりして国連事務総長へ書簡を送り、全加盟国へ通知された。シンガポールのウォン首相は、日本が地域の安全保障において重要な役割を果たしているとし、日本支持を表明。その上で、「歴史についての固定概念を捨てるべき」との考えを示し,遠回しに中国を諭した。『レコードチャイナ』(11月23日付)が報じた。

     

    中国が、国連事務総長へ書簡を送った動機は、実に興味深いものがある。中国が、高市発言によって大きな衝撃を受けたことだ。それは、中国の軍事戦略と産業戦略を根本から練り直させるほどのショックを与えたとみられる。そのショックとは、次のようなものだ。

     

    1) 中国が台湾へ侵攻すれば、最終的に台湾軍・米軍・自衛隊と戦端を交えることになる。これは、中国軍が著しく不利になるという軍事戦略面のショックである。

     

    2)自衛隊が米軍と同一行動を取れば、日本による中国への素材や部品の禁輸措置で、中国の先端産業が崩壊するという産業戦略面のショックである。

     

    台湾侵攻で中国軍は敗北

    まず、軍事戦略面からみておきたい。

     

    これまで、台湾有事においては米中の戦いが中心で、日本は「後方支援」や「基地提供」の役割にとどまるとみられていた。高市氏の「存立危機事態」発言は、日本が自衛隊を動因する可能性を明言したのも同然であり、中国にとって「想定外の参戦」を意味するようになった。今や、中国は台湾有事を想定する際、米軍・自衛隊・台湾軍の三者と同時に対峙する可能性を念頭に置くほかなくなった。

     

    米戦略国際問題研究所(CSIS)のシミュレーションによれば、台湾侵攻に関わる24のシナリオのうち、中国は23で台湾制圧に失敗する。唯一成功したのは「日本が不介入で在日米軍基地も使わせない」場合のみであった。中国にとっては、これまで日本の参戦や協力が、台湾侵攻作戦を大きく左右する「不確定要素」であった。

     

    今回の高市発言で自衛隊が参戦すれば、CSISのシミュレーションにおいて、中国敗北が100%確定的になる。こうした結果に対して、習氏の受けたショックが、いかに大きかったか容易に想像できるのだ。習氏は、台湾を統一して歴史に名を刻む「大政治家」を目指している。その夢が、日本の存在によって阻まれれば、日本への憎しみはいかばかりか。中国が、「日本非難」を国連にまで持ち出すほど、エスカレートしている異常さは、高市発言への怒りの大きさを示している。その挙げ句が、習氏によるトランプ氏への電話だ。日米の「共同作戦」か、どうかに探りを入れざるを得ないほど動揺している。

     

    中国軍は、明時代から日本に対して「敗北のトラウマ」に苛まされている。日清戦争、満州事変、日中戦争と敗亡の連続であった。こう書き並べてくると、「戦争賛美者」として誤解されやすいが、歴史を事実として取り上げただけである。中国が、こういう近代戦での敗北を思い起こすと、中国が高市発言に異常反応した背景には、単なる「発言」への怒り以上のものがあろう。中国は、「日本が本気で自衛隊を動かす可能性」を現実的脅威として認識していることを窺わせている。(つづく)

     

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    https://www.mag2.com/m/0001684526



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    EU(欧州連合)が、海外からの直接投資に関する規制強化を計画している。具体的には、中国企業が欧州の労働者に恩恵をもたらすことなく、また技術移転もせずにEUのオープンな市場から利益を得ることを防ぐ目的だ。中国は、海外企業の直接投資の際、技術移転を露骨に要求してきた。だが、EUへ資本進出する際に技術移転を拒む閉鎖体質を丸出しにしている。こういう偏った経営に対して、EUが、「ノー」を突きつけるもの。

     

    『フィナンシャル・タイムズ』(11月23日付)は、「EUが海外からの投資規制強化へ、中国の競争力に対抗」と題する記事を掲載した。

     

    欧州委員会は域内の産業基盤活性化や経済成長促進に向けた一連の提案を12月に出す予定で、現在協議中の規制改定案はその一部だ。トランプ米政権の関税政策のあおりで安価な中国製品がEU市場に大量に流入している。鉄鋼や化学製品業界は、ただでさえエネルギー価格高騰や複雑な環境規制への対応に苦闘しているのに、中国企業がさらなる重圧をかけている。

     

    (1)「直接投資は、中国企業がEUの追加関税を回避するための手段とも考えられている。欧州委員会のセジュルネ上級副委員長(産業戦略担当)は、フィナンシャル・タイムズ(FT)に、「外国投資がEU域外で組み立てられた部品(の組み立て)に充てられるのではなく、欧州のバリューチェーン全体の機能」に貢献できるような基準を設定すべきだと述べた」

     

    EUは、中国企業が関税逃れ目的で、製品組み立てだけを行うことに強い警戒をみせている。全生産工程をEUで行うことを条件にしようとしている。

     

    (2)「フランスは、現地調達要件の拡大と「メード・イン・ヨーロッパ」条項をEUの法律に盛り込むべきだと長年主張してきており、同国出身のセジュルネ氏もこれを強く後押ししてきた。同氏は改定案ではEUに投資する外国企業に地元労働者の雇用や、「バッテリー等の分野」での技術移転が義務付けられるとの見方を示した。また「(投資は)欧州市場への単なる入り口ではなく、欧州の経済成長に資するべきだ」と述べた。さらにEUとトランプ氏には、製造業の復活という「共通の課題」があると述べ、「唯一異なっているのはEUが産業政策において関税以外の手段を用いる点だ。我々は市場を保護するが、(外国からの直接投資に対し)欧州での現地生産を認める条件を設ける方法を選ぶ」と説明した」

     

    現地生産では、技術移転も条件に付けられる。中国政府は、技術移転に難色を示しているので、これが争点になろう。

     

    (3)「中国の車載電池メーカー、寧徳時代新能源科技(CATL)は、欧州の競合他社より優れた技術を持っており、この問題の焦点となっている。すでにドイツで工場が稼働しているほか、ハンガリーに70億ユーロ、スペインに40億ユーロを投じて工場を建設中だ。米国防総省は1月、CATLを中国人民解放軍とのつながりが疑われる企業のリストに追加した。同社は疑惑を否定している」

     

    CATLは、技術移転が焦点になっている。中国政府は、ブレーキをかけている。

     

    (4)「スペイン東部サラゴサの工場は、欧州自動車大手のステランティスと共同で建設する。CATLは中国から建設作業員2千人を現地に連れて行く計画だ。また工場の従業員3千人の大半は地元で採用するとしているが、中国政府の方針に従い最も重要な技術の共有には消極的になると予想する労働組合関係者もいる。あるスペイン政府関係者は、同国が外国投資への規制強化を目指すEUの取り組みを強く支持していると明らかにし、「欧州の経済安全保障と強靱(きょうじん)さを高め、海外からの直接投資を通じて欧州各国が付加価値の高いテクノロジーや雇用を生み出すことが可能になる」と期待を示した。中国企業は近年、水素関連事業でもドイツやスペイン、北欧諸国で大規模な投資を行っている」

     

    CATLは、中国から建設作業員2千人を現地に連れて行く計画だ。技術漏洩を防ぐ目的であろう。最も重要な技術の共有には消極的になるとみられている。

     

    (5)「中欧アジア研究所(CEIAS)のマルティン・シェベナ首席エコノミストは、規制強化により「欧州各国、特に規制介入の緩さを暗にほのめかして一部産業への外国投資を誘致しようとする南欧や中東欧諸国の(税率引き下げや労働・環境基準緩和などを競う)『底辺への競争』に歯止めがかかる」と指摘した。また、シェベナ氏は電気自動車(EV)産業では伝統的に欧州企業とつながりが深い日本と韓国の企業も規制強化の影響を受けると指摘した。一方、EU関係者は、日韓企業は中国企業よりEUが定める基準に適応する可能性が高いとの見方を示した」

     

    日韓企業は、中国企業よりEUが定める基準に適応する可能性が高いとみられている。技術移転にも弾力的という意味であろう。

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