勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2025年12月

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    サムスン電子は、世界で初めて開発した10ナノメートル級DRAMの国家核心技術が、中国に流出した事件で、元サムスン幹部ら10人が起訴された。捜査網を避けるため、内部の行動指針や暗号を共有し、組織的に犯行に及んでいたことが分かった。金銭に目が眩んで、ここまで悪質行為ができるのか。国益喪失という認識がない、私利私欲の驚くべきストーリーである。

     

    『聯合ニュース』(12月23日付)は、「先端半導体技術を中国へ流出したサムスン元幹部らを起訴 被害額は数兆円=韓国検察」と題する記事を掲載した。

     

    韓国のソウル中央地検は23日、中国の半導体会社に国内企業の中核技術を流出させたとして、サムスン電子の元幹部ら5人を不正競争防止法違反や産業技術保護法違反の罪で起訴したと明らかにした。

     

    (1)「中国の半導体大手、長鑫存儲技術(CXMT)の社員5人も同罪で在宅起訴した。検察によると、CXMTは2016年の設立後、サムスン電子の元部長を開発室長に起用した。元部長はサムスン電子独自の技術だった10ナノ(ナノは10億分の1)台のDRAM(半導体メモリー)工程技術を入手するため、サムスン電子の中核人材のヘッドハンティングに乗り出した。サムスン電子の研究員はDRAM工程の重要情報を持ち出してCXMTに転職。CXMTは当時、世界唯一の技術だった10ナノ台DRAM工程技術を確保した」

     

    産業スパイ映画もどきの話だ。中国の半導体大手CXMTは、サムスンの技術を盗み出すために韓国へ支社を作るほど念入りな準備を行っていた。巨額な研究開発費を出さずに、口先だけのスパイによって盗み出させたのだ。

     

    (2)「ソウル中央地検のパク・ソンヒョン検事は記者会見で、「600ほどの工程をノートに書き写して持ち出した」として、「退社前からCXMTと取引をし、計画的に技術を持ち出したとみられる」と述べた。CXMTはサムスン電子の社員を追加でヘッドハンティングし、本格的なDRAM開発に着手した。協力企業を通じ、韓国の半導体大手・SKハイニックスの半導体工程関連技術も確保した」

     

    捜査過程で、SKハイニックスの技術も追加で流出したことが確認された。CXMTでクリーン工程を担当していた人物は、20年6月、SKハイニックスの協力会社を通じて、国家核心技術かつ営業秘密に当たるDRAM工程情報を不正取得したとして起訴された。検察は、今回の流出により、サムスンの24年の推定売上減少額だけで5兆ウォン(約5000億円)に達し、将来的な国家経済全体の被害は数十兆ウォン(約数兆円)規模に及ぶと見ている。

     

    (3)「韓国企業の半導体技術を入手したCXMTは2023年、中国初で世界で4番目に10ナノ台DRAMの量産に成功した。検察によると、世界市場のシェア変化に基づいて推定したサムスン電子の2024年の売上高の減少額は5兆ウォン(約5200億円)に達し、今後の韓国の半導体企業に与える影響を合わせると、被害額は少なくとも数十兆ウォンに上ると推定している」

     

    中国のCXMTは2023年、中国初であり世界で4番目に10ナノ台DRAMの量産に成功した。盗んだ技術で「10ナノ」生産に成功したというが、ノートに手書きの図で半導体を生産できるのだろうか。これも驚くべき話だ。中国の半導体スパイ戦の一部始終である。

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    AI基本法の登場で一変

    ラピダスは8割債務保証

    英国の蒸気機関にも匹敵

    現場AIあらゆる業種へ

     

    2022年から始まったAI(人工知能)が、今や世界中をAIブームへ巻込んでいる。AI関連株式は、軒並み高騰した。今や、AIは「ブーム」か「バブル」か、という論争を生むほどになっている。ブームであれば、AI株価はまだまだ上がり続けるであろう。だが、バブルであれば、いずれAI株は暴落するに違いない。

     

    AIに関する根本的な論争が起こっているのは、現在のAIがクラウド型(中央処理)であることだ。一カ所で、膨大な情報が処理されるために、大量の電気と水を必要とする点で、環境破壊という現代において最も忌避すべき随伴現象を引き起こしている。これを回避するには、分散型(現場)AIによって作業の現場で情報処理する技術が求められるはずだ。こういう設計思想に基づいて現在、クラウド型に対する対抗技術の開発が進んでいる。AIバブル論は、クラウドAIの非効率性に不安を覚えはじめた結果とみられる。

     

    作業現場でのAI処理技術が、日本で開発されている。ラピダスの現場AIがそれだ。現場の状況に基づいてAIを駆使して作業を自動処理するには、何よりも小型でなければならない。指先程度の超小型とされる。ラピダスは現在、「CPU+アクセラレータ」半導体の開発途上であり、27年からの量産化を目指している。

     

    ラピダスは、世界初の現場AI半導体を世に送り出す予定だ。クラウドAIは、高価な画像処理半導体のGPUを組込む。ラピダスAIは、汎用型CPUで代行するので低コスト化が実現する。現場AIが、こうして超小型で低コストを武器にクラウドAIへ対抗可能とされている。既存でも、あらゆる工業製品へアタッチメントとして取り付ければ、自動化が実現するという、労働力不足に悩む現場には生産性向上ツールの決め手として期待がかかっているのだ。

     

    AI基本法の登場で一変

    日本政府は12月23日の閣議で、「人工知能(AI)基本計画」を決定した。それによると、「日本の強みを生かしたAIの開発や研究インフラの整備に努力する」としている。日本の「強みを生かしたAI」とは何か。政府は、それを明示していないが別途、公開されている「概要書」には、通常の官庁文書でみられないような、躍動した文言が並んでいる。これを読むと、日本がAIで「核」になる技術を開発中という強い印象を与えるのだ。

     

    日本政府は、ラピダスのAI半導体による現場AIによって、「政府や自治体、中小企業、医療,介護、教育で普及させるほかに、グローバルサウスへの進出支援」までを謳い上げている。これは、ラピダス半導体が世界のデジタル技術のゲームチェンジャーになることを無言のうちに「宣言」したのも同然と言えるのだ。

     

    ラピダスについて、これまで随分と無理解な批判が寄せられてきた。「失われた30年」によって、日本社会が徹底的な敗北精神に打ちのめされた結果だ。だが、戦後のノーベル科学賞の授賞者数において日本は、米国に次いで世界2位である。基礎研究の実績が豊富であることを裏付けるもので、日本は「腐っても鯛」である。ましてや、日本半導体は1980年代半ばまで、世界を牛耳っており、その基盤は残されている。米国IBMやベルギーの国際半導体研究機関imecの協力も得て、最先端「2ナノ」試作に成功した背景だ。

     

    ラピダスは25年12月、AI半導体生産の低コスト化につながる技術を開発した。複数の半導体チップを実装するための基板で、世界で初めて大型ガラス製の試作に成功した。従来手法と比べ、基板の生産効率を10倍も高める。先行するTSMCに組み立て工程の工夫で対抗する形だ。世界初技術では、半導体の前工程と後工程を全自動化することにも成功している。これが、製品歩留まり率を飛躍的に引上げる。つまり、コストの低下に寄与するのである。

     

    日本政府は25年12月、ラピダスへの民間金融機関融資に対して、最大8割の債務保証を付けることを決めた。メガバンク3行は、最大2兆円の融資を行う上でのテコになる。まだ、製品も販売されていない企業へ2兆円もの巨額融資である。通常であれば、融資できないケースだが、ラピダスAI半導体が日本のみならず、グローバルサウスまで「商圏」にした技術となれば、「世界製品」という格付けになる。メガバンク3行が、将来性を買っての融資であることは間違いない。

     

    ラピダスは8割債務保証

    政府による「8割債務保証」は、ラピダス技術が世界的AIのゲームチェンジャーになる裏づけになっている。これについて、東京大学の越塚登教授は次のように興味ある示唆を行っている。

     

    デジタル技術の分野では、およそ20年周期でゲームチェンジが起こるとされる。単に性能や容量を2倍、4倍と増やす倍々ゲームを追うのではなく、次のゲームチェンジで主導権を握るための技術開発に注力すべきだ。現状はまさにインターネット時代からAI・データ時代へ移る、ゲームチェンジの真っただ中にある(出所:『日本経済新聞』12月19日付「経済教室」)。

     

    越塚氏は、この論文の中で「ラピダス」のラの字も触れていない。だが、冷徹に読み込めばラピダスは世界AIで主導権を握れることを明確にしている。その論拠は、次の点だ。

     

    「現在は、小規模なAIと既存の情報システムを組み合わせ、学習よりも推論技術の高度化へと重点を移している。すなわち、事業において重要な顧客データや個人情報、リアルタイムデータ、競争相手企業データなど、限定されたプレーヤー間だけで共有すべきデータを、安全かつ信頼性を確保しながら生成AIで扱えるような環境の整備が焦点である」(つづく)

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    https://www.mag2.com/m/0001684526



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    ドイツ国際放送局『ドイチェ・ヴェレ』中国語版サイトは、日本が国連での影響力を高めることを目指した動きを進めていると報じた。目下、高市首相による台湾関連発言をめぐって、日中は応酬を続けている。中国の過激な感情論に対して、日本は理詰めの冷静な発言によって、中国の主張をことごとく反駁している。こうした日本の姿勢は、各国から注目されている。米議会は、上下両院ともに「日本支持決議案」を上程するなど、日本支援の動きが始まっている。

     

    『レコードチャイナ』(12月24日付)は、「日本はなぜ国連での影響力を大幅に強めようとしているのか―独メディア」と題する記事を掲載した。

     

    独国際放送局『ドイチェ・ヴェレ』(12月の20日付)中国語版サイトは、日本が国連での影響力を高めることを目指した動きを進めている理由について報じた。

     

    (1)「記事は、日本の外務省によると、国連で働く日本人職員が24年末時点で979人に達し、1990年以降の統計では最高を更新したと紹介。副主任以上の要職に就く日本人も94人に上り、国連での発言力を着実に高めていると伝えた。また、国家安全保障局や外務省が、国際的リーダーシップを担える人材育成に力を入れ、国連大学本部の東京所在や、国際刑事裁判所のアジア支部誘致など、国際的プレゼンスを拡大する具体策も進めているとした」

     

    国連で、副主任以上の要職に就く日本人も94人もいる。国連で働く日本人職員の約1割が、要職についている。

     

    (2)「その背景として、日本人専門家を国連の重要ポストに配置する「5年計画」の取り組みがあると指摘。特に中国がここ数年、国連機関での自国職員数を増やして人口規模や財政貢献に応じた影響力を確保しようとしていることへの対応とみられ、国連機関に勤務する中国人職員は2009年の794人から23年には1647人に増加していることを紹介した。そして、東京にある国際基督教大学(ICU)の国際関係学教授、スティーブン・ナギ氏が「日本は、中国の国連内での影響力拡大に対抗するため、国連での自国のプレゼンスを強化することを唯一の現実的な対応策と捉えている」と指摘したことを伝えている」

     

    日本は、国連の重要ポストに日本人専門家を配置する「5年計画」があるという。日本は、国連分担金で米国、中国に次ぐ第3位の負担国だ。通常予算と平和維持活動(PKO)予算の両方で高い分担率を維持しており、国連の透明性や効率的な予算活用を働きかけるなど貢献している。日本が、「カネだけ出してヒトを出さない」のでは国連の責任を果したことにはならない。

     

    (3)「中国が、特に新疆ウイグル族の人権問題に関する報告書作成などで国連活動に関与しており、米英はこれを批判する一方、ロシアや一部の発展途上国は擁護するなど、国際的な意見が分かれていることを紹介した。その上で、専門家からは日本の動機が必ずしも中国への対抗だけではないとの見方も出ているとし、テンプル大学日本校の村上博美教授が「日本は理想主義的な立場から、国連を通じて世界の危機介入に関わることを重視している。そのため、国連での影響力を戦略的に強化している」と解説したことを伝えた」

     

    国連の前身である国際連盟設立(1920年=大正9年)に際して、新渡戸稲造は教育者で『武士道』の著者として国際的に高名であったこともあり、事務次長の一人に選ばれた。新渡戸は、人種差別撤廃に奔走するなど活躍した経緯がる。日本が、国連を通じて世界の危機介入に関わることを重視している裏には、国際連盟時代からの新渡戸精神を受け継いでいるのであろう。

     

    (4)「村上教授の見解として、日本は国際社会での発言力を高めることで国連の効力を維持しつつ、自国の安全保障や外交的立場を強化する狙いがあると伝え、高市早苗首相の下でもこのスタンスが継続される見通しだと報じている」

     

    国連分担金3位の日本が、それに応じた貢献をすることは当然である。何の不思議もないことだ。

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    米国は、AI半導体エヌビディア半導体の中国流出に神経を払っている。米シンクタンクの外交問題評議会(CFR)によれば、AI半導体の米中格差は現在、5倍程度である。2年後には17倍へと大きく開くという。一方では、模倣が得意の中国だけにエヌビディア半導体の「H200」が輸出解禁されて中国へ渡れば、技術格差は縮まるという。米国は、エヌビディア半導体の中国流出に神経を払っている理由だ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(12月23日付)は、「米国のAI半導体『能力は中国の5倍、2年後17倍に』米シンクタンク」と題する記事を掲載した。

     

    米シンクタンクの外交問題評議会(CFR)は、米国と中国の人工知能(AI)半導体は技術力の格差が拡大するとの報告書を発表した。現状で最先端の米エヌビディアのAI半導体は能力差が中国・華為技術(ファーウェイ)の製品に比べて5倍あり、2027年後半までに17倍に開くという。

     

    (1)「トランプ政権が認めたエヌビディアの先端半導体「H200」の対中輸出解禁に関連してまとめた。同製品は主力品「ブラックウェル」より計算処理能力などの性能が劣るものの、「輸出解禁はAIの開発競争で米国に大きなリスクをもたらす」と警告する。仮に26年に300万個のH200を輸出すると、中国のAI開発能力を少なくとも23年分増強させるという。世界最大級のデータセンターを建設する可能性があり「AI新興のDeepSeek(ディープシーク)などは米との差をはるかに早く埋める」と予測した」

     

    中国政府は、米国が輸出解禁した「H200」に対して、輸入しないで国産半導体で代替するように牽制している。だが、製品の質の面で中国が「H200」へ追いつくのは困難とされている。対外的に「中国は半導体で進んでいる」という虚勢とみられる。

     

    (2)「米中の半導体に差がある根拠について「中国製造受託大手の中芯国際集成電路製造(SMIC)は回路線幅7ナノ(ナノは10億分の1)メートルの生産にとどまり技術は天井に達している」と分析。高性能化の鍵を握る回路線幅の微細化に行き詰まっているとした。ファーウェイの半導体は、SMICなどが製造受託しているとされる。このため同社は少なくとも今後2年、エヌビディアのH200を上回る能力の半導体を出す計画がないとみる。匹敵する製品の投入は27年後半以降で、28年から本格利用が始まるとしている」

     

    ファーウェイの半導体は、SMICなどが製造受託している模様。同社は、少なくとも今後2年、エヌビディアのH200を上回る能力の半導体を出す計画はないとみられている。

     

    (3)「半導体の生産能力も差があり、ファーウェイが提供するAIの計算能力は楽観的な仮定でも25年はエヌビディアの5%、26年は4%、27年は2%と分析。ファーウェイが半導体の生産量を100倍に増やしても、エヌビディアが提供する計算能力の半分未満という。ファーウェイは個々で劣る半導体の計算能力を補完するため、半導体を大量に搭載したエヌビディア製よりも高性能と称するAIサーバー群を投入する計画だ。CFRは報告書で、エヌビディアのAIサーバーに比べると生産量は大幅に少ないとも分析した」

     

    ファーウェイが提供するAIの計算能力(総合性能)は、楽観的な仮定でも25年がエヌビディアの5%、26年は4%、27年は2%と分析されている。技術進歩の遅れがもたらす欠陥と理解されている。

     

    (4)「一方で中国は、国産AI半導体の育成を急ぐ。国有企業にはファーウェイ製など国産半導体の利用を推奨する。7兆円超の資本金を持つ半導体の国策ファンドも新たに始動させるなど、外国に頼らない半導体のサプライチェーン(供給網)の構築を目指す」

     

    中国は、AI自立化を目指しているが、国家としての信用度に問題があるので、中国製AIは輸出先がないという決定的な弱点を抱えている。こういう国家としての限界について、どこまで認識しているのか。中国製AIは、世界制覇が不可能である。西側諸国は、AIという信頼度の欠ける国家の製品を購入しないからだ。

    あじさいのたまご
       

    ロシア軍のクゾブレフ上級大将は11月下旬、プーチン大統領にウクライナ東部ハルキウ州クピャンスクの「解放を完了した」と報告した。クピャンスクは、小さいながら戦略的に重要な要衝だ。その後プーチン氏は、ロシア軍最高の栄誉である金星章をクゾブレフ氏に授与した。だが授与式からわずか3日後、ウクライナのゼレンスキー大統領がクピャンスクへの境界標前に立つ動画を公開した。第三者による評価では、ロシアは2022年前半以降、クピャンスク全域を支配下に置いたことはない。このように、ロシア軍は大統領を欺くような戦況報告をして、勲章まで授与されている。

     

    『フィナンシャル・タイムズ』(12月22日付)は、「自信深めるプーチン氏、根拠に不正確な戦況報告か」と題する記事を掲載した。

     

    トランプ米大統領がロシアに有利とみられている和平案を提示したにもかかわらず、プーチン氏は戦争を推し進めている。欧米の政府関係者はロシア大統領府に届く不正確な情報が同氏の判断に影響していると考えている。

     

    (1)「2人の当局者によると、ロシア軍や情報機関はプーチン氏に定期報告を行う際、ウクライナ側の死傷者数を水増ししているほか、ロシアが人員などの軍事資源で優位に立っていると強調したり戦術的な失敗を小さく見せたりしているという。プーチン氏と定期的に面会する側近が、ウクライナ侵略が勢いを失いつつあるロシア経済の重荷になっていると説明しているものの、軍幹部が伝える楽観的な戦況報告によってプーチン氏は全面的な勝利を収められると信じているという」

     

    太平洋戦争でも、旧日本軍は戦果を過大に発表していた。これが、戦争を長引かせた大きな要因だ。ロシアでも、ウクライナ侵攻で同じ手が使われている。

     

    (2)「バンス米副大統領も10月、その傾向に言及した。「ロシア側は実際の戦況より自分たちが優位に立っていると考える傾向があり、本質的にずれた期待を抱いている」と述べ、これが合意をより困難にしているとの見方を示した。英王立国際問題研究所(チャタムハウス)のロシア専門家キア・ジャイルズ氏は、ロシアの偽情報作戦が国外にも届いており、「トランプ氏の側近の大半にロシアが早期に戦争に勝利する」と確信させる「非常に高い効果」を上げていると指摘した」

     

    プーチン氏は、完全に「雲の上」の人になっている。ロシア軍の嘘情報を真に受けているからだ。

     

    (3)「ゼレンスキー氏は12月中旬、「ロシアから大量の偽情報が流れてきている。そのため米国の仲間にロシアの言うことをうのみにすべきではないと合図を送った」と報道陣に述べた。ロシアの独立系ニュースサイト「ファリデイリー」はプーチン氏が10月以降、公開の場で6回軍幹部から説明を受けており、ウクライナ侵略開始以降で最も多いと報じた。そのうち3回でプーチン氏は軍服を着用していた。4時間半に及んだ19日の記者会見で、プーチン氏はロシア軍が優位に立っていると再び主張した。「我が軍は前線全体で前進しており、敵は後退している」と述べ、「25年末までに(戦場での)新たな成功を目にするだろう」と国民に約束した」

     

    ロシア軍の嘘情報は、米国まで流れて正常な判断を妨げているほどだ。プーチン氏が丸め込まれているのは、最も信頼している軍幹部から聞かされるかららだ。

     

    (4)「プーチン氏への戦況報告は、ウクライナ侵略の総司令官であるゲラシモフ参謀総長が主に行っている。ウクライナは、抵抗しないとの報告を受けていたゲラシモフ氏が2022年にウクライナの首都キーウへの電撃戦を指揮した。1カ月後には撤退を余儀なくされ、作戦は大失敗に終わった。戦闘が長期化すると、侵略を支持する強硬派はゲラシモフ氏と当時のショイグ国防相がプーチン氏に実情を知らせず、多数の兵士を犠牲にする「肉ひき機」戦術に依存していると非難した。前出のジャイルズ氏は、組織内におけるこの「独立した偽情報のループ」が軍事作戦の結果に直接影響していると指摘した。最も顕著な例が22年に始まったウクライナへの全面侵略そのものだ。プーチン氏は数日で終わると期待したが、4年近く続いている」

     

    ウクライナ侵攻をはじめた時のゲラシモフ参謀総長が、いまもプーチン氏への「嘘戦況報告」の張本人となっている。

     

    (5)「ゲラシモフ氏は24年8月、プーチン氏にロシア西部クルスク州でウクライナ軍の前進を止めたと報告した。だが実際にはウクライナ軍が既に同州の一部を制圧しており、混乱の中で避難した住民に死者が出た。同じ集落を何度も制圧したと主張するなど勝利を誇張する報告と、戦場での実態には落差があった。これは民間軍事会社「ワグネル」の創設者エフゲニー・プリゴジン氏(故人)による23年の反乱で、ゲラシモフ氏とショイグ氏が主な標的となる理由にもなった。ジャイルズ氏によれば、ロシアが停戦合意によって得られる利益を無視し、多大な犠牲を払って侵略を継続しているのも、この落差を埋めるためだと考えれば説明できる」

     

    ロシアが、停戦合意によって得られる利益を無視し、多大な犠牲を払って侵略を継続しているのも、すべて「嘘戦況報告」が原因としている。実に、「罪作りな話」である。

     

     

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