習近平中国国家主席は、人民解放軍中央軍事委員会副主席張又侠氏ら2名を粛清した。この唐突な事態は、深刻な経済停滞と台湾侵攻作戦遅延で、習氏が焦っていたことを示している。習氏が、人民解放軍へ深い猜疑心を持っていることを裏付けた。こういう局面で、高市首相の「台湾発言」が飛び出したのである。習氏が、これに本能的に反応して激烈な日本批判を始めた。こういう、新たな見方が出ている。
『ニューズウィーク日本語版オンライン』(1月30日付)は、「高市首相の発言は正しかった...『対中圧力』と『揺れるアメリカ』に向き合う『日本の戦略』とは?」と題する記事を掲載した。筆者は、元CIA工作員グレン・カール氏である。
中国政府が台湾に武力を行使すれば、それは日本にとって自衛隊の出動を正当化する「存立危機事態」になり得る──高市早苗首相が昨年11月の国会答弁で述べたこの言葉は、日本政府の長年にわたる立場を再確認したものにすぎない。だから無視してもよさそうなのに、中国側の反応は不自然なほどに過剰だった。
(1)「中国軍が昨年12月下旬、台湾を包囲する実弾演習を実施して民間機の発着を阻害し、10万人以上の旅客に影響を与えた。それは米国のナンシー・ペロシ下院議長(当時)が台湾を訪問した2022年以来の大規模な軍事演習だった。日本の指導者が台湾について発言することには必ずリスクが伴う。現に中国は今回も怒ってみせた。しかし私は、この激烈な反応も実は米国と台湾に向けた、さらには国内に向けた戦略的な動きではないかとみている。そして高市首相の周辺も同様な見方をしていると思う」
中国が、昨年11月の高市「台湾発言」以来、過激な言動と中国軍の台湾包囲の大演習を行い日本への不満を表わした。だが、本当の狙いは、米国と台湾に向けた牽制であるという。
(2)「だが横暴で身勝手な大国の常として、中国は高市首相の政策を自国の覇権に対する脅威と見なす(実際は中国の脅威に対する反応なのだが)。だから生意気な高市には、その無礼な言動への代償を払わせねばならないということになる。中国は高市の「存立危機事態」発言に不快感を示す一方で、台湾周辺での大規模な軍事演習によって米国をも挑発したのだ」
高市発言は、米軍の台湾防衛出動を前提にしている。中国としては、日本牽制が米国と台湾へ向けた警告でもあろう。
(3)「昨年12月17日、トランプは急に気が変わったのか、台湾の主権に対する中国の脅威に対抗する形で台湾に111億ドル相当の武器を売却すると発表した。単一の武器取引としては米・台湾間で史上最大の規模だ。この支援は台湾の主権を守るという米国政府の長年にわたる約束に沿うものだが、「米国ファースト」の範囲を超えた国外への軍事的関与を嫌うトランプ流の孤立主義とは矛盾していた。その12日後、中国は台湾周辺で威嚇的な軍事演習を実施し、日本から台湾への空路・海路を実質的に遮断することで怒りを表明した」
米国トランプ氏は、日中の対立に何ら発言しなかったが、台湾へ111億ドル相当の武器を売却すると発表。米国は、中国の牽制に対して「武器売却」で回答した。間接的な高市発言支持である。
(4)「中国は、米中間で「大いなる取引」というアメを見せておいてムチを振るう一方、日本に対しては罰を与え、日本が果たそうとする自立した戦略的役割を無力化する試みだった。中国は台湾や日本の領海に対する侵犯の頻度も上げており、国際的に公海と認知されている海域での主権主張も繰り返している。高市発言を含め、台湾や南シナ海における主権の主張に反対するいかなる発言も許さず、それを自らの行動規範を押し付ける機会として利用するのが中国流だ」
中国は、強い米国へは「微笑」を送る一方で、日本へは「罰」を与えるという傲慢な振舞をしている。かつて日本が、ODAで3兆円も支援したことを忘れた顔である。こうして中国は、対外的に強気姿勢である。だが、問題は国内で発生している。
(5)「高市発言への過剰な反応の背景には、中国の国内事情や軍・政府部内の腐敗もありそうだ。その攻撃的な姿勢は見せかけにすぎず、中国軍が依然として台湾を占領する能力を持たず、腐敗や効率の悪さに苦しんでいる事実を隠したいだけだという解釈も成り立つ。現に習は汚職その他の不正行為を口実に、何十人もの高級将校を解任または更迭している。こうした動きや高市発言に対する過剰反応から透けて見えるのは、中国が自らの能力に対して抱く不安感であり、いかに習政権の国内基盤が盤石でも、国際社会では思いどおりにいかないことへの焦りではないか」
習氏が、「一日千秋」の思いで過ごしている台湾侵攻作戦は、中国軍内部から「無理」という声が出ている。習氏は、これに対して粛清というムチを振るっている。絶対に許さないという姿勢だ。習氏は、軍事教育を受けた経験がない。こうした「軍事の素人」が、国家のトップに座って「勝利」を夢見るという最悪な状態にある。犠牲は軍隊、果実は習近平という構図である。
(6)「皮肉なもので、中国共産党は国内の抗争や腐敗で支配の正統性が脅かされるたびにナショナリズムを鼓舞してきた。反日感情と「反植民地主義」に代表されるナショナリズムと台湾の併合、そして経済成長こそが、辛うじてその正統性を支えてきた。気が付けば中国の共産主義は習の個人崇拝に変質し、個人の権利は国家の優越に従属させられ、治安と安保が最優先の国になっている。だからこそ中国側は高市発言に食い付き、日本を悪者にすることで国民の不満のガス抜きを図った。つまり、高市首相の発言も日本の政策も正しいが、国内外の複雑な力関係が錯綜するなかで条件反射的な反発を招いたと言える」
高市発言は、習氏が焦っている最中に飛び出した。習氏は、これを絶好の機会と捉えてナショナリズムを煽っているにすぎない。問題の本質は、中国国内にある。




