外交は、タヌキとキツネの化かし合いという説がある。相手を欺いて国益を守るという見方である。米国トランプ大統領が3月、訪中する際に秋の中間選挙を有利に取り運ぶべく、日本を裏切るという懸念が表明されている。この説に従えば、日米関係は米国産大豆などを大量に中国へ輸出する「身代わり」となるという話であろう。
日米関係は、そんな薄っぺらなものなのか。米国は、日本の協力なしに製造業=国防力を維持できない瀬戸際にある。次世代技術は、すべて日本が握っているだけに、日本を裏切れない事情がある。日本の協力なしに、米国の覇権は成り立たないのだ。この現実を直視すべきであろう。
『日本経済新聞 電子版』(2月28日付)は、「『高市外交』の急所、米国がハシゴを外すとき ベネズエラ攻撃の含意」と題する記事を掲載した。
対中外交を考える際、日本の外交当局は米国にハシゴを外されるリスクを常に警戒する。「2026年は特に注意が要る」という。トランプ米大統領が11月の中間選挙に向けて中国と何らかの取引をする可能性が高いためだ。
(1)「米国外交の歴史を踏まえれば、問題の大きさがわかる。米国はかつて欧州の紛争と距離を置き、自らが位置する西半球の安定を守ればよいという「モンロー主義」をとってきた。第2次世界大戦後に「世界の警察官」となったのはなぜか。日本にハワイの真珠湾を攻撃されたためだ。西半球だけでは不十分で、東半球も守らなければ危ないとの認識になった」
米国が、モンロー主義を捨てたのは19世紀に入ってからだ。「大陸国家」から「海洋国家」として発展すべく、太平洋へも進出した。これが、世界覇権樹立へつながったのである。このパラグラフの記述は、米国の歴史を正確に捉えていない。
(2)「米国に警察官を務める国力がなくなり、トランプ氏は「ドンロー主義」を掲げて再び西半球を重視するようになった。1月のベネズエラ攻撃は、その最たるものだ。石油利権や麻薬対策が理由に挙がるが、西半球の反米勢力を排除する狙いがあったのは間違いない。10年代半ば、ベネズエラが債務返済のためカリブ海の小島を中国に譲渡するとの説が流れた。隣の島にはベネズエラ軍の基地がある軍事的に重要な地域だった。14年に中国外務省の報道官が記者会見で否定したが、その後も噂は流れた」
ドンロー主義は、言葉の綾である。足下の西半球から中ロ勢力を一掃するという宣言であって、東半球を捨てるという意味ではない。米国は、世界覇権の「味」を十分に堪能している。この地位を捨てて、西半球に閉じ籠もる意思など100%ゼロである。米国の国力不足は、日本の技術力が補う形になっている。レアアースの「重要鉱物特恵市場」のアイデアや資金・技術・資源(南鳥島のレアアース採掘)は、すべて日本がお膳立てしているのだ。この日本を裏切ることは、米国の世界覇権コストを極めて高くするに違いない。
(3)「米国が西半球重視に戻るなら、東半球はどうなるか。最大の競争相手である中国との接近をめざすのではとの疑念が強まる。トランプ氏は3月末からの訪中を手始めに、年内に習近平国家主席と最大4回会談するとされる。商談と引き換えに何をディール(取引)するか。習氏は台湾への支援を控えるよう要求するだろう。トランプ氏が、経済だけでなく安全保障にも踏み込んで譲歩するとの懸念は多い」
中国経済は現在、気息奄々の状態である。米国経済は、AI(人工知能)による生産性向上で、スタッグフレーションにならず予想外に健闘している。この状態で、米中どちらが経済的に譲歩するのか。トランプ氏が、安全保障という世界覇権に関わる問題で妥協するとは考えがたい。
(4)「米国がアジアの安保から手を引いたとき、日本の選択肢は限られる。極論として安保の専門家が挙げるのは①日本も核武装する②中国の勢力圏に入る――の二択だ。その間に韓国やフィリピンなどと集団安全保障の枠組みをつくる第3の道がある。いずれも実現のハードルは高い。米国が1月に発表した国家防衛戦略は台湾への明示的な言及を避けた。一方で沖縄から台湾を結ぶ「第1列島線」の防衛という表現で中国抑止も掲げた。アジアから直ちに撤退するわけではない。トランプ氏は西半球ではないイランへの攻撃もちらつかせる」
米国が、アジアの安保から手を引くことは、世界覇権の座を降りることだ。基軸通貨ドルの持つ醍醐味も手放すことになる。日米関係は今後、双方の事情から一層の密着が進まざるを得ない客観情勢が醸成されている。この事実を見落とした「日本切り捨て論」は、余りにも皮相的と言うほかない。
(5)「社会不安を抱える中国の国力が、伸び続けるとは限らない。それでも安保の要諦は楽観論よりワーストシナリオに備えることだ。高市早苗首相は3月19日にトランプ氏と会談する。主目的は米国をつなぎとめること。日中対立に巻き込まれたくないのが、米国の本音だ。過去の日中対立局面でも日本を支持しつつ「これ以上の対立は望まない」と水面下で伝えていた」
外交上、ワーストシナリオを持つことは必要である。しかし、中国経済が不動産バブル崩壊後遺症で、これから「失われた40年」へ突入するであろうという冷静な視点も必要だ。中国を過大評価することは避けるべきで、「等身大」の中国を見定める必要があろう。習氏による人民解放軍最高幹部粛清は、中国弱体化のシグナルとも読めるのだ。米国は、こういう中国を見透かしている。




