中国の国家発展改革委員会は3月30日、ガソリンおよびディーゼルの最高小売価格を引き上げると発表した。中国の価格は、通常10日ごとに調整される。今回の価格引き上げ幅は、過去最大のものとなった。同委員会が定める算定式に基づけば、本来の引き上げ幅の約半分にとどまっているという。コストアップ分を全額、価格引上げに転嫁していないのだ。コストプッシュインフレを恐れているのだ。
『ニューズウィーク 日本語版』(3月31日付)は、「中国がイラン戦争最大の被害者? 習近平の誤った経済政策と石油危機が奏でる「最悪なハーモニー」と題する記事を掲載した。筆者は、ゴードン・G・チャン氏である。『やがて中国の崩壊がはじまる』(2001年)の著者だ。
中国は世界最大の原油輸入国であり、原油の約45%をこの重要な海上の要衝を通じて手に入れている。3月初め、国家発展改革委員会は石油などの精製業者に対し、新たな燃料輸出契約を締結しないよう命じた。また、既に約束済みの海外向け出荷についても、可能な限り取り消すよう指示した。
(1)「一見すると、中国は緊急措置に頼る必要はないように見える。第一に、エネルギー供給源の多様化を継続してきた結果、ホルムズ海峡を経由するエネルギーは全体の6.6%にすぎない。さらに、中国は長年にわたりイランを支援してきたことから、中国向けの石油タンカーは戦争開始以降も同海峡の通過を認められている。これは東アジアの他国と比べて中国経済に大きなアドバンテージを与えている」
中国は、ロシアとつながる石油パイプラインを持ち、米国の制裁の影響を比較的受けにくい立場にある。理屈の上では、多くの国よりも余裕をもって危機に対応できるはずだ。それにもかかわらず、中国は石油備蓄の放出に踏み切っていない。中国がもっとも警戒しているのは「価格上昇が経済全体に波及すること」である。
(2)「加えて、中国は備蓄量を公表していないものの、約140日分の輸入を賄うことができる。現時点では、多くの人々が紛争はその期間内に終結すると見ている。こうした恵まれた状況にもかかわらず、シティグループとゴールドマン・サックスは、今月のエネルギー価格の急騰が、中国の長年にわたる懸念材料であるデフレを一夜にしてインフレへ転じさせる可能性があると考えている」
エネルギー価格の上昇は、やがて食品価格や生活コスト全体を押し上げる。それは、社会不安や政権の安定性に直結する。中国指導部はその連鎖を強く恐れているのだ。社会不安が拡大すれば、一党独裁体制にヒビが入る。強権だが、国民の不安増大には最も弱いという脆弱体質である。不思議な政権である。
(3)「中国の物価について懸念される理由は多い。先月、生産者物価指数(工場出荷価格を測る指標)は41か月連続でマイナスとなった。中国政府は最近、消費者物価指数がプラスであると報告しているが、その一部は出来過ぎに見えるとの指摘もある。世界各国の政府は消費主導の穏やかなインフレを望むが、中国はコストプッシュ型のインフレ環境、すなわち「悪いインフレ」に陥る可能性が高いと見られている。中国企業は利益率が低下してきている。工場はエネルギーコストの上昇分を価格に転嫁するのが難しく、かつてアメリカで「スタグフレーション」と呼ばれた状況に近づく可能性もある」
中国の物価上昇は、スタッグフレーションという「悪いインフレ」に陥る可能性が高い。
(4)「中国経済は強靭だと考える者も多いが、実際には比較的小さな衝撃でも大きな影響を受ける、きわめて脆弱な構造を持っている。この脆弱性は中国共産党の政策に起因する。世界の著名な経済学者たちの助言を繰り返し退けてきた中国の習近平国家主席は、個人消費を経済の基盤とすべきではないと考えている。北京市で最近閉幕した「両会」において、中国指導部は「人への投資」を掲げたものの、消費を拡大するための構造改革は打ち出されなかった。中国の指導者は、経済成長の手段を輸出に限定してしまった。つまり、自給自足を掲げる習は、自国経済の運命を外国に委ねたのだ」
中国の脆弱な経済構造の根幹は、投資主導型経済によって個人消費が極端に低いことだ。それだけに、スタッグフレーションへ陥れば、国民生活はアウトになる。政権基盤を揺るがすのだ。
(5)「これまでのところ、輸出主導(個人消費軽視)の賭けは成功してきた。2024年、中国の貿易黒字は9922億ドルに達し、昨年は驚異的な1兆1900億ドルとなった。先進国およびいわゆるグローバルサウスの国々の双方で、中国製品に対する関税やその他の障壁による抵抗が強まりつつある。現時点で中国の工場には、安価で信頼性の高いエネルギーの両方が必要である。イラン戦争は、そのコストと安定性の双方を脅かしている。またこの戦争はグローバル化そのものにも脅威を与えている。世界が安定していた時代には、中国の対外市場への依存は問題ではなかったかもしれない。しかし現在、世界は混乱の中にある。冷戦後30年間の安定から最大の恩恵を受けてきた中国が、イラン戦争をはじめとするさまざまな紛争の最大の被害者となる可能性がある」
世界経済がイラン戦争で混乱している中で、中国の輸出主導経済は揺らいでいる。低い個人消費比率(対GDP比40%弱)だけに、輸出停滞と物価上昇はスタッグフレーションへ誘い込むであろう。




