英国で、EU(欧州連合)再加盟論が登場している。ただ、再加盟コンセンサスには程遠い状況である。EU市民(移民)の自由移動こそが離脱の象徴的争点であったからだ。移民が、雇用を奪うという切実な問題である。若年層ほど親EUだが、こうした事情で再加盟には「もう一度国論を二分するのか」という疲労感も強い。
主要政党も「関係改善」は言うが、「再加盟」を正面から掲げていない。英国のEU再加盟の実現性は、短〜中期ではかなり低いが、長期的には「完全にゼロではない」と言う程度だ。TPP(環太平洋経済連携協定)との関係は、英国が本気でEUに戻るなら、TPPからの離脱か大幅な再調整がほぼ必須とみられている。
『ロイター』(5月31日付)は、「EUにメリット多い英の再加盟、将来申請なら歓迎が得策」と題する記事を掲載した。
英国でEU離脱の是非を問う国民投票が実施されてから10年が経過し、現在の与党労働党内ではEU再加盟を巡る議論が激しさを増している。これが差し迫った問題になるかどうかは、親EU派で次期労働党党首の座を狙うアンディ・バーナム氏と、EU懐疑派のナイジェル・ファラージ氏が率いる新興右派ポピュリスト政党「UKリフォーム」の候補が対決すると目されている6月の下院補選にかかっているかもしれない。
(1)「この選挙結果次第では、今はマンチェスター市長のバーナム氏が首相に上り詰める可能性がある。しかし、もし将来の英政府がEUの門を叩くことがあれば、EU側は予備交渉に時間を費やし過ぎないのが得策だろう。もちろん、欧州各国政府はより差し迫った懸案を抱えている。ロシアに対する信頼ある防衛体制の構築に向けた資金確保、フランスやイタリアの重い債務負担、そして反EU政党の台頭などだ。またEU側は改めて加盟候補国となる英国に対して厳しい質問を投げかけることも予想される」
英国側の現実は、複雑である。労働党政権は「再加盟は議題ではない」と明言している。世論は、EU離脱は「後悔」という傾向だが、再加盟の国民投票をすぐに求めるほどではない。再加盟には、国民投票がほぼ不可避で、政治的リスクが大きいからだ。つまり、「議論は近いが、実際の加盟は近くない」というのが現実的な見方である。
(2)「具体的には単一通貨ユーロへの参加意思があるか、EU市民の英国での就労権を受け入れるか、そしてパスポートなしの移動を可能にするシェンゲン協定に参加するか、といった内容が含まれる。離脱前の英国は、シェンゲン協定とユーロの両方から適用除外(オプトアウト)を受けていた。しかし現実の世界では、英国を再びEU陣営に迎え入れることへの欧州側の関心は圧倒的である。ウクライナに対するロシアの攻撃性、補助金を受けた安価な製品を市場に氾濫させる中国、そしてますます敵対的になるトランプ大統領の米国という状況下で、英国を再び引き入れることは、世界との交渉において欧州をより強力にするだろう」
英国民の通貨「ポンド」への郷愁は強い。日本が、仮に「円」を捨てて他通貨に変えるとなれば、大騒動になりかねない。EU市民(移民)の英国での就労権を受け入れるかも大問題である。英国のEU離脱の発端は、移民が職を奪うという深刻な問題であった。
(3)「貿易交渉でも影響力が増す。2025年のデータに基づくと、英国が加われば域内の総輸出額は3兆5000億ドルに達し、中国の3兆8000億ドルにほぼ匹敵することになる。また、国境を越えた連携の強化により、防衛体制もより効果的になる。さらに英国は決して軽視できないパートナーであり、EUの貿易額に占める比率は10年前の14%からは低下したものの、依然として10%もある」
英国がEUへ復帰すれば、貿易や防衛の面で「心棒」が1本加わって、強みが出ることは確かだ。歴史的に、英国は欧州の覇者であったから当然であろう。
(4)「EU側には妥協すべき理由がある。まず(英国に)ユーロ導入の問題は喫緊の懸念事項ではない。英国の交渉担当者が「共通通貨には決して参加しない」とあらかじめ断言しない限り、柔軟に対応できる余地はある。いずれにせよユーロ導入への第一歩は、財政赤字を国内総生産(GDP)比3%未満に抑え、インフレを制御することだ。英国は昨年の財政赤字がGDP比で4%を超え、物価上昇率も約3%となっており、まだその段階には達していない」
英国は、昨年の財政赤字がGDP比で4%を超え、物価上昇率も約3%だ。これは、EU基準に達していないので、経済政策の縛りを受けることになる。
(5)「英政府が、EU市民の就労権という原則を受け入れれば、シェンゲン協定についても別の妥協点が見つかる可能性が高い。金融サービス規制に関しては、離脱後の英国による独自の規制の試みが成長の起爆剤とならなかったことや、EU側も24年の「ドラギ報告書」を受けて競争力強化を目指していることから、双方が合意に至るのは比較的容易とみられる」
EUは、英国がEU市民(移民)の就労権という原則を受け入れれば、という前提を置いている。だが、英国はこの問題に反旗を翻してEUを脱退したのだ。この大前提が、英国で簡単に受け入れられる状況にない。
日本にとって、英国のTPP加盟が「欧州の中で最もインド太平洋にコミットする国」 という位置づけを強める意味を持っていた。もし英国がEUに戻り、TPPから抜けると、インド太平洋における「日英+豪+カナダ+アジア諸国」という枠組みは、象徴性がやや薄れる面もあろう。一方で、EU全体としてのインド太平洋関与(対中牽制・サプライチェーン多角化)が強まるなら、日本にとっては「パートナーの質が変わる」だけとも言えるのだ。
問題は、英国がTPPとEUをいかに「天秤」にかけるかという問題でもあろう。10~20年後のTPPが、ASEAN(東南アジア諸国連合)の発展によってどれだけ魅力的になっているか。英国は、掴みかけたパイを手放すリスクも計算に入れなければならないであろう。




