(4)「6月に成立した今年度補正予算にも「工夫」があった。長引く中東情勢の悪化を受けた物価高騰対策のため3兆円強を計上したものの、財源の特例公債(赤字国債)は前年度分の未発行となる範囲にとどめるというロジックを採用。前出の政府関係者は「赤字国債を財源とすることに変わりはないが、市場はそこまで乱れなかった」とし、政府の説明に一定の効果があったとの認識を示した」
高市政権は、きめ細かい政策を行っている。イラン戦争中でも、日本の石油市場は平穏であった。世界で稀な現象である。こういうプラス面は、評価されず「当たり前」と見過ごしている。
(5)「市場を気遣うこうした姿勢は、高市氏が念頭に置く二つの「影」を浮き彫りにする。一つは2022年に英国で国債・通貨が急落した「トラス・ショック」だ。日本の財政見通しへの懸念が大きく高まれば、自身の政策を推し進めるどころかトラス英元首相のように退陣にすら追い込まれかねない。政府関係者は高市氏がトラス氏と重ねられることに神経をとがらせていると説明。市場との対話姿勢を強調することで、同じ轍を踏まないよう意識しているとも語った」
英国は2022年に、女性宰相トラス氏が闇雲な減税を行い、国債・通貨が急落する「トラス・ショック」が起った。高市氏が、自民党総裁選で立候補した際、本欄はトラス・ショックの再来危険性を指摘した。「積極財政」という言葉には、こういうリスクがつきまとっている。政治家は、言葉の使い方に注意すべきであろう。
(6)「もう一つの「影」は財務省だ。財政規律に重きを置く同省は、政権発足前から高市氏にとって「抵抗勢力」と位置付けられていたとされる。前出の関係者は骨太の方針に盛り込まれる積極財政的な政策を念頭に、「高市氏は財務省が政策をつぶそうとしてくるのではないかと疑っている。『そんな攻撃には屈しない』という思いが市場の信認を重視する姿勢にもつながっている」と分析した」
高市氏は、「安倍二代目」を名乗っている。安倍元首相は、財務省の財政均衡主義に悩まされたとしている。野放図な財政拡大は、極めて危険であるだけに財政均衡は必要である。ただ、財政支出がいかなる「見返り」を生むかという視点を欠いた、財政均衡主義は否定されなければならない。財務省には、その目利きがいないのだ。経産省と密接に協力すべきにも関わらず、「省益」に拘った。財務省と経産省は、定期的な人事交流を行い、お互いの主張を理解し合う努力が不可欠であろう。
(7)「ただし、今後も継続的に「市場の信認」を確保できるのかは不透明だ。目の前には肝いりの重要分野への投資に加え、防衛費の増額、消費減税など巨額の財源を必要とする政策が待ち受ける。投資の一部を政府債務残高とは別枠の「つなぎ国債」で賄うにしても、その妥当性を市場がどう判断するかは見通せない。高市政権は財政運営の目標に「債務残高対GDP比の安定的低下」を掲げたが、前出の関係者は「金利上昇によって国債の利払い費がかさめばかさむほど、数値は悪化し自身の首を絞めることになる」と指摘した。「高市氏は結局、ずっと『市場の信認』に縛られることになる」
名目成長率が、市場金利を上回っている限り、対GDP比の国債残高は減少する。高市氏が、名目GDP成長率3%を維持すると強調している裏には、この「対GDP比の国債残高」問題の意識がある。名目GDP成長率は、市場機能の復活にともない健全に推移している。
25年の名目GDPは、663兆円である。IMF(国際通貨基金)予測によれば、27年には700兆円になる。さらに、32年には800兆円だ。この「100兆円台」の刻みでみた日本の名目GDP額成長の増加幅は、かつての高度経済成長期と同等で推移している。日本経済の成長軌道は順調である。願わくば、高市氏が発言トーンを落として、市場重視を公の場で繰返し発言する以外に、かつての失言をカバーできないであろう。




