勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2026年07月

    あじさいのたまご
       

    米国・イラクの軍事衝突以降、中国の原油輸入量が減っている。これが、国際原油市況の調節弁になったと指摘されている。現に、6月の原油輸入量は日量715万バレルと10年ぶりの低水準に落ち込んだ。衝突開始直前の2月の1258万バレルと比べると、実に43%もの減少である。この一方で、原油輸入減の穴埋めに石炭消費量が増えている。これによって、大気中の有害物資(PM2.5濃度)が増えた。国民の健康を犠牲にして原油輸入減に走った形である。

     

    中国の原油輸入減が、国際原油市況を安定させるためだけが目的であったのか。外貨準備を減らさないという切羽詰まった目的もあったはずだ、原油市況を安定という「きれい事」だけとは思えない。原油不足を理由に、ASEAN(東南アジア諸国連合)への石油製品輸出を打ち切っているからだ。これによって、自らのASEAへの販売権益を失い、日本が獲得している。こういう「下手な戦術」を引き起した理由は、外貨節約にあったとみるべきであろう。

     

    『フィナンシャル・タイムズ』(7月14日付)は、「中国の大気汚染、一時改善も中東衝突で再び悪化 石炭火力に依存」と題する記事を掲載した。

     

    最近、中国北部の一部の都市では、石炭火力発電や好ましくない気象条件の影響で再び汚染が広がり、これまでの成果を揺るがしかねない事態となっている。

     

    (1)「フィナンシャル・タイムズ(FT)が2000年以降のデータを分析したところ、広大な国土を持つ中国は、有害な微小粒子状物質を13年の最悪水準から、25年末までに約60%削減することに成功した。その結果、大気汚染に起因する入院件数は30%減少した。中国は大気汚染の平均濃度を30年までに1立方メートルあたり30マイクロ(マイクロは100万分の1)グラムとする国家目標を掲げる。現在、目標をわずかに下回る水準まで低下し、国際的な基準に近づきつつあるが、依然として世界保健機関(WHO)が示すガイドライン値の約6倍の高さだ(編集注、中国は26年からの5カ年計画で30年までの都市部の汚染濃度目標を27マイクログラム以下としている)」

     

    中国の大気汚染度は、依然として世界保健機関(WHO)が示すガイドライン値の約6倍の高さである。

     

    (2)「有害物質は、直径2.5マイクロメートル以下であることからPM2.5と呼ばれ、自動車の排ガスや工場の排出物が主な発生源だ。PM2.5の直径は人間の髪の毛の30分の1で、肺の深部にまで到達し、血液の循環を通して臓器に健康被害をもたらす危険性がある」

     

    有害物質は、あの有名な「PM2.5」である。臓器に健康被害をもたらす危険度が高い。

     

    (3)中国は26年3月、大気汚染の平均濃度を35年までに25マイクログラムに引き下げる目標を掲げた国家大気基準を導入した。F Tの分析によると、中国で現在の基準を満たす地域に暮らしていた住民の数は15年には8700万人だったが、24年には7倍以上の6億6400万人に増えた。それでも国民の半数以上はいまだに有害なレベルの大気汚染にさらされており、その大半は人口1000万人以上の都市で暮らしている」

     

    国民の半数以上は、いまだに有害なレベルの大気汚染にさらされている。それにもかかわらず、原油輸入を減らして石炭依存度を高めた。こういう弊害が、現実に起っている。

     

    (4)中国の汚染改善は、主に政府の指示によって進められた。国内で増え続けるエネルギー需要に対応しながら、再生可能エネルギーで世界をリードする存在となるのを後押ししてきた。一方、世界最大の温暖化ガス排出国のままで、発電量の多くを環境負荷が最も大きい燃料の石炭に依存している。フィンランドのシンクタンク、エネルギー・クリーンエア研究センター(CREA)のデータによると、中国では26年1〜5月に北部6都市のPM.5濃度が平均11%増加し、他の地域でも濃度の改善ペースが減速した。中東の軍事衝突でより安価で環境負荷が大きいエネルギー源(編集注:石炭)に依存する動きが広がった時期と重なる」

     

    中国では、26年1〜5月に北部6都市のPM.5濃度が平均11%増加した。石炭依存度を高めた結果だ。

     

    (5)「発電量のうち再生エネの割合は03年には15%程度で、ほとんどが水力発電だった。25年には37%まで上昇した。23年以降に太陽光発電が普及し、発電量が倍増した。同時期に風力発電は28%、水力発電は14%増えた。対照的に化石燃料による発電は24年以降、約1%減少している。15年以降で初めて石炭火力発電が減少に転じたのが主因だ」

     

    再生エネの割合は、25年には37%まで上昇した。化石燃料による発電は24年以降、約1%減少した。

     

    (6)「米調査会社ブルームバーグNEFの報告書「ニュー・エネルギー・アウトルック2026」によると、報告書は中国の排出量が50年までに「ピーク時と比べて50%減るが、依然として米国や欧州の現在の排出量を大きく上回る水準となる」と予測する。中国にとって最大の課題は石炭への依存だ。豊富で安価な石炭の供給があるため、化石燃料の中で最も大気を汚染させるにもかかわらず、エネルギーの多くを石炭火力で生み出している」

     

    中国は、原油輸入減のバッファーに石炭を利用している。この「代替材」がある限り、原油国際市況を操作すべく自国原油輸入量を減少させるであろう。世界は、こういう「裏技」を知らずに、中国の原油購買姿勢を褒めている。


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    中国は、外交官や記者の名目で大量の人員を米国へ派遣している。目的は、正常な業務遂行でなくスパイ活動とみられてきた。米国の技術情報などの収集目的である。米国政府は、こういう実態を阻止すべく、広く留学生や記者の滞在ビザの期間を短縮すると発表した。とりわけ、中国人記者の滞在を90日に限定した。これに中国が猛反発しており、中国外務省は「対抗措置を取る」としている。今回の記者ビザ短縮が、痛手であることを「言わず語り」で証明している。

     

    『ロイター』(7月17日付)は、「米、学生・報道関係者のビザ滞在期間を短縮へ 『入国者急増』に対応」と題する記事を掲載した。

     

    トランプ米政権は16日、外国メディアの記者のほか、外国人留学生や文化交流プログラムの参加者に対するビザ(査証)の有効期間を短縮する方針を打ち出した。政権が移民の取り締まりを強化する中、国土安全保障省(DHS)は学生ビザなどを利用した入国者の大幅増を理由として挙げている。

     

    (1)「政府の告示によると、留学生と交流訪問者向けのビザの期間を最長4年とする。また、現在は数年間有効とされている記者向けビザの期限を最長240日とし、申請者が中国籍の場合は最長90日とする。認められた期間を超えて滞在を希望する場合は、DHSに延長を申請するか、いったん米国から出国した上で再入国し、改めて入国許可を得る必要がある。新規則は議会による審査を経て、連邦官報への掲載から60日後に発効する。DHSは厳格化の理由として、こうしたビザを利用した入国者数が大幅に増加していることを挙げ、「監視と管理に課題をもたらしている」と指摘。学生ビザや交流ビザを利用して数十年にわたり米国に滞在し続けている事例も数多くあるとしている」

     

    米国は、中国の情報収集・影響工作・技術窃取を抑制するための安全保障措置 として導入したものだ。中国は長年、留学生ビザを通じた研究情報の吸い上げ、記者ビザを使った情報収集を行ってきた。米国は、文化交流名目の政治工作 として問題視してきたもの。米国は 「制度を悪用されてきたので、構造的リスクを減らす」 という判断をしたのだ。

     

    (2)「DHSによると、2024年の学生ビザによる入国件数は180万件を超え、前年から11%以上増加。24会計年度(23年10月1日開始)は、交流訪問者向けビザが50万件超、報道関係者向けビザが3万7300件発給された。トランプ大統領は2期目就任以降、広範な移民取り締まり策を実施すると同時に、合法的な移民に対する審査も強化。思想や信条を理由に学生ビザや永住権(グリーンカード)が取り消されたり、多くの移民の合法的な滞在資格が剥奪されたりしている」

     

    米国が、世界最大の経済規模や世界最高水準の科学研究センターであることから、世界中から移民や学生などの入国ビザ発給が増えている。この制度が悪用されているので、米国が厳格化するとしている。中国が、その最大の「恩恵」を受けてきたのであろう。それだけに、制限されることに反発しているのだ。

     

    『ロイター』(7月17日付)は、「米のビザ短縮『差別的』と中国、対抗措置警告」と題する記事を掲載した。

     

     中国外務省は17日、米国の新たな「差別的」なビザ(査証)規定の撤回を求め、中国は同等の対抗措置を取る権利を有すると主張した。

     

    (3)「外務省の林剣報道官は定例記者会見で、米国の決定は誰の利益にもならないとし、受け入れられないと述べた。トランプ米政権は16日、外国メディアの記者、外国人留学生や文化交流プログラムの参加者に対するビザ(査証)の有効期間を短縮する措置を発表した。留学生のビザの期間は最長4年、記者向けビザは最長240日で、申請者が中国籍の場合は最長90日とした」

     

    中国が、強く反発する理由は実際に「痛手」であるからだ。中国外務省は「差別的」「受け入れられない」と反発し、 「同等の対抗措置を取る権利がある」と威嚇している。この反応は、 中国が実際に不利益を受けるからこそ出ている反応 である。中国が、不利益を受ける理由は、ビザ制度を戦略的に利用してきたからだ。現実には、次のように利用してきた。

     

     留学生を通じた技術・研究情報の吸収については、米国がこれを「技術流出の最大ルート」として警戒している。 記者ビザを使った情報収集も行われている。中国の国営メディアは「報道機関」というより 国家の情報機関的役割を担うことが多いからだ。全て、中国の世界覇権目的に利用されている。 長期滞在を利用したネットワーク構築も行われている。研究者・学生・記者が長期滞在することで、 米国内に影響力ネットワークを形成できるからだ。米国はこれらを「構造的リスク」と判断し、 滞在期間を短くすることで「活動の余地」を削る 戦略を取った。だから、中国は「自らの目的遂行を妨害する」として怒るのだ。


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    リニア新幹線建設の「静岡工区」の工事が、9年越しの膠着状態から正式に脱することになった。7月18日、静岡県の鈴木知事が県自然環境保全条例に基づく協定をJR東海と締結する。地元のテレビ静岡の「テレしずWasabee編集部」は、超辛口の川勝批判をしている。

     

    『テレしずWasabee』(7月17日付)は、「川勝前知事は稀代のペテン師だったのか? リニア反対派に寄せた書簡で露呈した『大推進論者』という虚構」と題する記事を掲載した。

     

    2017年10月10日、「水問題に関して具体的な対応なく、静岡県民に誠意を示す姿勢が無いことに対して心から憤っている」。すべての始まりは、川勝平太 知事(当時)による、この一言だった。

     

    (1)「県内で、リニア中央新幹線のトンネル工事を始めるにあたって必要なJR東海との協定締結が間近と見られていた中、会見で突如として怒りを爆発。川勝知事が問題視したのはトンネル工事に伴う大井川の水資源への影響と南アルプスに生息する動植物への影響だ。中でも大井川の水資源については命の水と称して流域住民の感情を煽り、2021年の県知事選では圧倒的な得票差で4選を決めた」

     

    川勝氏は、自らの県知事4選にリニア新幹線反対を利用した形跡がある。なかなかの「戦略家」だ。現在、赤字経営に苦しんでいる静岡空港の実質的「生みの親」である。リニアに反対し、赤字空港を作らせるなど経済感覚で合格点とほど遠い。

     

    (2)「現在は、開業の第一段階となる東京・名古屋間の各工区で建設工事が進められているが、静岡工区だけが着工に至っていない。このため、JR東海は当初目標としていた2027年の開業を断念せざるを得なくなった。川勝知事のちゃぶ台返し発言をきっかけに、JR東海はその後、トンネル掘削によって湧き出た水を全量戻すと表明。これにより、静岡県は対話の場として地質構造・水資源部会専門部会と生物多様性部会専門部会の2つを2018年11月に立ち上げたが、JR東海との議論は思うように進まなかった」

     

    川勝氏の言動には、「直情径行」の色彩が強い。経済学者という看板を背負っているので、発言に真理っぽさを感じさせるのだ。有権者は、これに乗せられたのであろう。

     

    (3)「このため、ついには国交省が仲介に乗り出し、専門的な見地からJR東海に指導や助言を行う有識者会議を設置。そして、水資源に関わる部分について2021年12月に、生物に関わる部分については2023年12月に報告書がまとめられた。しかし、川勝知事は「これまで地質・水資源と生物多様性と2つの有識者会議があったが、そこで出された見解は県として尊重する。それを持ち帰って専門部会で、もう一度、JR東海とすり合わせをするという立て付けになっている」と主張。結果、その後も県とJR東海との対話は2026年3月まで継続された。ただ、川勝知事は自身について常々「リニアの大推進論者」と称してきただけに、多くの人は川勝知事がリニア中央新幹線建設の意義を理解しつつ、流域住民の生活環境や自然を守るために奮闘していたと信じていたはずだ」

     

    川勝氏は、リニア推進論者の装いをしながらリニアを妨害した形になった。これは、政治的に責任を負わないで、自らの政治生命を維持する巧妙な戦術である。ここまで来ると、学者ではなく政治家そのもののビヘイビアである。

     

    (4)「現に川勝知事は自身の不適切発言を機に辞職を表明した後の会見(2024年4月)でも「(リニア中央新幹線は)1970年代からやってきて、日本の技術の最先端というかエキスが入っている。それに懸けて人生を終えた、後輩に引き継いでいった人たちがいる。私はその思いも知っているし、推進派から外れたことはない」と強調していた。それだけに、鈴木康友 知事が静岡工区の着工容認を表明したあと、川勝前知事がリニア中央新幹線静岡工区のトンネル工事に反対する市民団体に寄せた書簡の内容には驚いた人も多いだろう」

     

    リニア新幹線に賛成であったならば、それを実現する方策を探すはず。それが、逆に着工を妨害する行動になった。責任を取らずに妨害する。巧妙な戦術である。

     

    (5)「川勝氏は、書簡で次のよう指摘している。「南アルプスを傷つける行為は、我が日本国民が伝統的に大切にしてきた『八百万の神々』『草木国土悉皆成仏』という、人だけではなく、自然も同じように重んじる古来の思想にも真っ向から反するものです」。「リニアが日本の公益に資するよう、まだまだ知恵を絞り、考え直すべきことがあります。工事は遅れに遅れ、総工費は、年を追うごとに、膨れ上がっています。『急がば廻れ』といいます。一度、立ちどまって、全体計画を見直すべきときです」「トンネル工事は、南アルプスには、『百害あって一利』なしです」「元々、無関係であった静岡県をリニア・ルートに強引に組み入れた民間企業JR東海の意思決定者は、南アルプスのことをよく知らず、とんでもない誤りを犯しました。一民間企業の己の事業優先の経営者の無知が生んだ莫大なツケを、現在、工事関係者も静岡県民も払わされています。そして、天下の至宝=南アルプスに測り知れない危害を及ぼそうとしています。それは万死に値するほど誤った決定でした」「JR東海は、『さすがサムライ・ジャパン!』と世間から評されたければ、静岡県をルート上に入れた過ちをいさぎよく認める勇気を発揮されたい!『過ちは改むるに如かず』です」。書簡にはこのような文言が長々と綴られていた。

     

    この「川勝書簡」は、矛盾が満載である。川勝氏は、この書簡を出すことで、これまでの言動の裏を自ら明かしてしまった。

     

    (5)「文中で、川勝前知事は「私はリニアに反対したことは一度もありません」と改めて宣言しているが、果たして本当に議論を無用に引き延ばす意思がなかったのかといえば疑問が残る。一方、振り返ると川勝前知事は在任中、リニア中央新幹線について何度も「一旦立ち止まるべき」「計画を見直してはどうか」と言及していたし、時にルート変更の必要性についても唱えていた。 その意味では、今も昔もリニア中央新幹線の停車駅が設けられないにもかかわらず、ルートに静岡県が含まれたことに、ただただ不満を抱いていただけなのかもしれない」

     

    リニア新幹線の必要性を認めていながら、着工を認めなかった。妥協策を出さなかったことが、反対論者であったことを裏付けている。論理の破綻である。


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    中国は、高速鉄道の速度を日本の新幹線と競いあっているが、肝心の「車内マナー」は全く酷い。乗客が、車内で飲み食いしてもゴミを放置。その上、当局の車内掃除が不徹底という二重の悪条件が重なって、異臭を発しているというのだ。

     

    これは、公共空間意識に対する、日中の差を示している。中国では、高速列車内で炊飯するという「異常行動」が報じられた。これは、公共空間と私的空間の境界が、曖昧な文化的背景を象徴している。さらに、車内清掃の頻度が低い中国では、社会規範の弱さが重なることで、こういう極端な行動を生んだのであろう。 日本では、公共空間の扱い方に強い規範がある。並んだ列に割込まないなどの「無作法」は起らない。中国が、先進国並みの公共空間意識を持つことは、何時になったら実現するのか。

     

    『レコードチャイナ』(7月16日付)は、「『中国高速鉄道は本当にひどい』との投稿に共感続々=『国民の素養が低下』『めちゃくちゃ臭い』」と題する記事を掲載した。

     

    中国のSNS『小紅書(RED)』に「今、高速鉄道に乗ると本当にひどい」との投稿があり、600件に迫るコメントが寄せられるなど、大きな反響があった。

     

    (1)「江蘇省在住の投稿者の女性は、中国高速鉄道の車内で撮影した写真をアップした上で、「改札では列に並ばず、列車に乗り込む時も列に並ばず、好き勝手に割り込んでくる」「駅のホームでたばこを吸ってる人がいても放送で控えるように呼び掛けるだけ。実際に阻止する人(係員)は誰もいない。『静音車両』は形骸化し、普通にスマホから音を出している人がいる」などと、高速鉄道の不満を書き込んだ」

     

    このパラグラフの例は、公共空間と私的空間の混同である。自宅の延長が公共空間に持ち込まれている。中国社会は、公私の区別が希薄である。花盛りの賄賂は、その典型例であろう。賄賂(私)は、ルールによらずに公的利益を得ることである。これは、「個」の確立ができていないことを証明している。先進国のように、個と個がハッキリと認識されている場合、必ずそこには対立が起るので、ルールが存在して個と個の争いを調整する。中国の公共空間と私的空間の混同は、深い社会の「闇」を映し出している。

     

    (2)「この投稿は大きな反響を呼び、ユーザーからは「国民の素養は経済の低迷と共に年々低下している」「その通りだ。ここ23年は特に顕著」「スマホから音出す人マジで嫌い」「日本から帰国すると、(人々のモラルの差に)イライラする」「高速鉄道が登場したころはみんななんだか立派だと感じて大人しくしていたけど、今では一般化したからみんな遠慮がない」「昔の緑皮車(普通列車)から高速鉄道にアップグレードされたが、乗る人の質は変わっていない」「今の高速鉄道はスピードと料金を除いて、ますます緑皮車に近付いてきている(泣)」といった声が上がった」

     

    このパラグラフに指摘されている事実は、「自己抑制」がない我が儘な振る舞いである。自宅という私的空間での行動が、公共空間へ持ち込まれていることの混乱である。

     

    (3)「特に多かったのがにおいに関する指摘で、「しかも今の高速鉄道は臭い」「車内めちゃくちゃ臭いよな」「衛生面がひどすぎる。週末に乗ったらなんとも言えない酸っぱいにおいがした」「モラルは後のこと。一番ひどいのはにおいで、まるで濡れたモップが腐ったよう。汗のにおい、足のにおい、食べ物のにおいが混ざり合って、とにかく臭い」などの声が相次ぎ、「乗ったらくしゃみと鼻詰まりがひどくなった。座席のほこりかと思ってマスクをしたら効果てきめんだった!」「ある物を台無しにすることにかけては(中国人は)得意中の得意」といった声も寄せられた」

     

    中国高速鉄道は、清掃頻度が構造的に少ない。 清掃頻度は、終点でのみ清掃するケースが多い。折り返し運転でも「簡易清掃のみ」。長距離運行(8〜12時間)でも途中清掃が入らないことがある。これは、 清掃体制に問題がある。清掃員の人数が少ない、清掃時間が短い、清掃の質が路線・地域で大きくばらつく。さらに、トイレ清掃は「終点でまとめて」という運用が一般的である。

     

    車内の異臭の原因は、車内飲食が多い(カップ麺・串焼き・弁当)ことや、ゴミ箱が少なく、通路にゴミを置く乗客もいる。車内で子どもが走り回る、床に食べ物を落とすなどの行動が散見される。清掃員の待遇が低く、離職率が高い。中国高速鉄道は、「清掃を頻繁に入れない運行方式+乗客の行動のばらつき」で汚れやすい構造になっている。

     

    日本の新幹線は、世界でも異常レベルの「清掃密度」だ。 清掃頻度は、東京駅到着後12分で完全清掃(7分で終わることも)。毎回の折り返しで必ず清掃し、車内ゴミゼロを前提にした運行設計である。 清掃体制は、TESSEI(鉄道整備株式会社)による「7分間の奇跡」を維持している。1編成に約20名が一斉に入り、座席の向き変更、ゴミ回収、床清掃、テーブル拭き、トイレ点検 を高速で実施する。新幹線は、「清掃を前提にした運行+乗客の協力」で世界最高レベルの清潔さを維持している。

     

    乗客も、「降りるときにゴミを持ち帰る」が暗黙のルールである。駅・車内のゴミ箱が多く、分別も徹底している。こうした協力が、新幹線が世界一清潔な車内を維持している背景である。

     

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    中国では、エコノミストが真実を語ることを禁じている。悲観的な予測が、国益に反するという立場だ。この犠牲者が、著名エコノミスト高善文氏で77日、ガンで55歳の生涯を終えた。

     

    高氏は、米国で2024年12月に、中国の実質GD成長率は、政府が主張する5%近くではなく、おそらく公式発表の半分にも満たない2%前後で推移しているだろうと語った。これが、習近平氏の逆鱗に触れて、その後の発言機会を奪われた。ガン発症もあって、発言を封じられたまま短い生涯を終えた。悲観論を封じる政府が、正しい経済対策を打てるはずがない。高氏の死は、中国の不況が深刻化する理由を説明している。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(7月16日付)は、「中国経済の真実を突いたエコノミスト、沈黙の彼方へ」と題する記事を掲載した。

     

    習氏は、中国経済において市場が「決定的な役割」を果たすと約束して権力の座に就いていた。しかし数年たっても巨大な国有企業は依然として肥大化したままであり、補助金を受け、銀行融資で真っ先に優遇される存在だった。そして、トランプ米大統領の1期目半ばにあった米国は、そうした状況が国有企業にもたらす不当な優位性に対して批判の声を強めていた。なぜ改革が実現しないのか、私はその理由を知りたかった。

     

    (1)「高氏の答えは、私にとって決して忘れられないものだった。国有企業は「共産党の脚」だと彼は言った。自分の脚を切断する人などいない。だからこそ習氏は、自身の経済モデルの中核として国有部門に依存し続けたのであり、国有と民間の境界線も明確になるどころか曖昧になり続けたのだと。それは長い会話の中で何気なく発せられた一言で、そこには高氏が何事にもそうであるように、淡々とした、静かな自信が表れていた。だが結果的にそれは、この時代の中国の経済政策に関する見立ての中でも、とりわけ先見の明があるものだった」

     

    中国の国有企業は、共産党支配である。習氏が、国有企業を整理できないのは、国有企業が「共産党の脚」であるからだ。自分で、自分の脚は切れない。中国共産党最大の弱点が、ここにある。高氏は、これを見事に言い切った。

     

    (2)「高氏が最後に大きな話題を呼んだのは、真実を語ったからだった。ピーターソン国際経済研究所が2024年12月にワシントンで開催したフォーラムで、当時SDIC証券のチーフエコノミストだった同氏は、中国の多くのエコノミストがささやくだけにとどめていたことを堂々と口にした。中国の実質国内総生産(GDP)成長率は、政府が主張する5%近くではなく、おそらく公式発表の半分にも満たない2%前後で推移しているだろうと」

     

    高氏は、中国のタブーである「GDP改ざん」を公の席で発言した。しかも米国で。これは、多くのエコノミストが知りながらも沈黙していた点である。

     

    (3)「高氏はさらに踏み込み、中国指導部は約束し続けている景気刺激策を実施する意向があるのかどうか疑問を呈した。私が当時報じたように、習氏はこれに激怒した(中国政府は毎年、通常5%前後の成長目標を設定し、毎年のようにその数字にほぼピタリと着地する数値を発表している)。習氏は調査を命じ、それは最側近の蔡奇氏によって直ちに実行されたことを私は後で知った。高氏は公の場で発言することを禁じられた。予定されていた大学での講演も「個人的な都合」を理由に突然キャンセルされた。

     

    高氏が、米国での「舌禍」によって、公の場での発言を禁じられた。

     

    (4)「中国のソーシャルメディアにはとにかく追悼の声があふれている。インスタグラムのようなアプリ「小紅書」では、ある投稿が高氏を「真実を語った稀有(けう)なエコノミスト」だとたたえ、多くの共感を集めた。そして、近頃は「『楽観的』なエコノミストしか残っていない」と付け加えられていた。 検閲当局は今のところ、こうした投稿の大部分を放置している。このことは、中国の一般市民が公式統計を、そしてそれにあえて異議を唱える人たちをどう見るようになったのかに対する、当局なりのささやかな評決のように感じられる」

     

    中国市民は、中国経済の現実を肌身で知っている。高い失業率が全てを物語っているからだ。市民は、真実を語って発言を封じられた高氏へ追悼の言葉を送っている。

     

    (5)「中国の金融界には、高氏をこの分野における「諸葛亮(孔明)」と評する者もいた。諸葛亮とは3世紀の軍師で、その並外れた先見の明が何世紀にもわたって語り継がれている。高氏の経済の見立てに信頼が寄せられたのは、同氏が言葉で安心感を与えることよりも、正しくあることを重んじていたからだ」

     

    中国経済の停滞が深まると共に、中国金融界は高氏を軍師・諸葛孔明に擬えている。不動産バブル発生時から、すでに現在の状況は読めていたはずだ。少なくとも、バブルの世界史をひもとけば、分かったはず。手近なところには、日本のバブル崩壊という良い見本がある。

     

    (6)「高氏は30年にわたり、政府が望む以上に明確に中国経済を読み解いてきた。中国人民銀行をはじめ、光大証券、SDICへと移り、そこで同氏が執筆する調査リポートは他のエコノミストがほとんど真似できないほど市場を動かした。資産価格のサイクルについて、彼は正しかった。「党の脚」という指摘についても、彼は正しかった。そして、GDPの数値についても正しかった。だがその主張が、人生最後の1年に彼から声を奪うことになった。自国経済に関する真実を聞くことに耐えられない政府が、その運営方法を改めることなど決してない、ということを」

     

    自国経済に関する真実を聞くことに耐えられない政府が、その運営方法を改めることなど決してない。これは、永遠の名言であろう。

     

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