勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2026年10月

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    米CNNテレビは6日、トランプ米政権が中国と互いの核施設への視察を開始する案について非公式に協議していると報じた。米政権は、中国やロシアと核軍縮に向けた枠組みが必要だとの認識だが、中国はこれまで参加に否定的な姿勢を示してきた。今回の提案は、中国側から持ちかけたといい、CNNは関係者の話として、中国が合意につながる信頼醸成に前向きになっている可能性を伝えた。

     

    最近の中国外交は、一時期のような戦狼外交や威圧一辺倒ではなく、対話チャンネルを維持しようとする動きをみせている。今回も、核施設相互視察そのものが重要というより、「米中はまだ話ができますよ」という政治的シグナルの意味合いが大きい。この背景に何があるか。

     

    それは、経済要因が中国を押し潰し始めたことだ。特に外貨準備高でも、即金性が問われる「実質外貨準備高の対GDP比」が危険ラインの5%割れをみせている。これが、中国の外交行動に制約を加えつつある。中国外交は、金融パニックを回避したいという「安全運転」に切替えている可能性が強い。突然の「対話姿勢強化」の裏には、こういう「のっぴきならない」事態が控えているにちがいない。

     

    『ロイター』(10月6日付)は、「米中、核施設相互視察を協議 中国が提案とCNN報道」と題する記事を掲載した。

     

    米CNNは6日、米国が中国との間で核施設相互視察の開始について協議しており、今後数カ月の間に予定されている対面会談でも、その実現に向けて引き続き働きかけていく方針だと報じた。

     

    (1)「CNNが、関係筋の話として伝えたところによると、相互訪問の構想は今年行われた米中当局者の協議で中国側が提起し、⁠米エネルギー省傘下の国立研究所や中国の同等施設への訪問が検討された。米中当局者協議は主に、国連安全保障理事会常任理事国の会合の合間に行われてきたという。トランプ米大統領は先月、中国の習近平国家主席と会談した際、米中ロ3カ国による軍備管理交渉を呼びかけた。中国はかねて、自国の核戦力は⁠ロシアや米国に比べてはるかに小さく、そうした協議への参加は不要だとの立場を示している」

     

    中国は近年、米国から核弾頭数を急速に増やしているとみられている。この状況で、中国が透明化の一歩を提案するのは、核戦力拡大への国際的警戒を少し和らげたいという意図にほかならない。中国が、国際緊張激化の「因子」でないということを示そうとしているのであろう。戦狼外交を得意とした中国からみれば、想像もできない動きである。それだけに、中国が金融パニックを回避したいという切羽詰まったものを感じ取るのだ。外交姿勢が、余りにも「急変」しているからだ。

     

    (2)「CNNは、米政府当局者の話として、両首脳が会談で核施設訪問の可能性につい⁠て協議しなかったと伝えた。その上で、両首脳が再会談するまでに、核施設訪問の可能性を巡る実務レベルの協議が⁠さらに行われる見通しだとした。トランプ氏と習近平国家主席の年内の再会談は公算が大きいと広く見ら⁠れており、11月に中国で開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議、または12月に米国で開かれる20カ国・地域(G20)会合の機会に行われる可能性がある」

     

    中国は、研究施設や国立研究所、技術施設など、比較的公開しやすい場所を対象にしている可能が大きい。まさに、「信頼醸成」である。中国は最近、米国から核弾頭数を急速に増やしているとみられている。それだけに、緊張緩和の必要性を感じ始めたのであろう。だが、これによって「中国が核軍縮に向かう」のでなく、「核軍拡を続けながら、米国との衝突管理を始めた」というところであろう。

     

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    2026年のノーベル化学賞に、東京理科大学名誉教授の硤合憲三さんが選ばれた。フランスのアンリ・B・カガンさんとの共同受賞であり、授賞理由は「不斉有機合成における非線形効果と自己触媒作用の発見」である。日本からのノーベル賞受賞(米国籍を含む)は、25年の坂口志文・大阪大特別栄誉教授と北川進・京都大特別教授に続き3年連続。個人では計31人目になる。

     

    授賞した研究は、難しい専門用語で一般人には理解不能である。かいつまんで言えば、「最初はほんのわずかな違いでも、それがどんどん広がって大きな差になる仕組み」を発見した。また、「小さな違いが大きな違いになる仕組みを見つけて、生命のはじまりの謎を解く手がかりを与えた」というもの。さらに、やさしく言えば「最初は1点差だったチームが、次々と仲間を増やして100対0で勝ってしまう仕組みを見つけた」という内容だ。「生命誕生の謎を解く基礎科学」と「医薬品産業を支える応用化学」を結び付けた発見とされている。

     

    難解な専門用語が並ぶ研究だが、その成果は決して化学者だけのものではない。この受賞は、「基礎研究の価値」を改めて示した出来事として受け止めるべきであろう。現代社会は、成果を急ぐ風潮に支配されている。研究開発にも「何年で実用化できるのか」「いくら利益を生むのか」が問われる。しかし、ノーベル賞に結実する研究の多くは、そうした短期的な価値基準の外側に存在する。硤合憲三さんの研究もその典型例である。分子の左右のわずかな偏りが自己増殖によって大きな差へと発展する現象を発見したことは、生命の起源という根源的な謎に迫る手掛かりを与えたと評価されている。

     

    私たちは日常生活の中で、医薬品や化学製品の恩恵を受けている。しかし、その背後には数十年にわたり積み重ねられた基礎研究の成果がある。今日の産業競争力は、昨日の応用研究ではなく、一世代前の基礎研究によって支えられているのである。今回の受賞で特に印象深いのは、研究者の粘り強さだ。科学の世界では、真に独創的な発見ほど理解されるまでに時間がかかる。実際、硤合憲三さんの発見した「Soai反応」は長年にわたり世界の研究者を驚かせ続けてきたが、その価値が広く認識されるまでには長い年月を要した。

     

    これは経済や社会にも共通する。短期的な成果だけを求める組織は、一見効率的に見える。しかし長期的には、独創性や挑戦する文化を失ってしまう。研究者が「役に立つかどうかわからないテーマ」を追究できる環境こそが、新しい産業や技術革新を生み出す土壌となる。

     

    近年、日本の研究力低下が指摘されている。大学への研究費配分、若手研究者の雇用不安、国際競争の激化など課題は少なくない。しかし、今回の受賞は、日本の科学が依然として世界最高水準の創造力を持っていることを証明した。読売新聞が伝えた祝福の声の中でも、「日本が世界トップクラスを走っていることの証明」と評価する見方が示されている。

     

    さらに注目すべきは、この研究が純粋な知的好奇心から生まれた点である。AI(人工知能)が普及し、自動化が進む時代だからこそ、人間にしかできない「なぜだろう」という問いの価値が高まる。効率化や最適化だけでは、新しい知識は生まれない。常識を疑い、答えの見えない問題に挑戦する姿勢こそが科学の原動力である。

     

    ノーベル賞は、一人の研究者への表彰であると同時に、その研究を支えた社会へのメッセージでもある。研究成果は一夜にして生まれない。大学、学生、研究仲間、そして長年研究を続けることを許容する社会の存在があって初めて実現する。今回の受賞は、日本人として大いに誇るべき快挙である。それ以上に重要なのは、その成果を「おめでとう」で終わらせないことだろう。基礎研究を支え、若い世代が自由な発想で挑戦できる環境を守り続けることこそ、未来のノーベル賞につながる。

     

    硤合憲三さんの受賞は、日本の科学が持つ底力を世界に示した。同時に、それは「本当に価値のあるものは、時間をかけて育つ」という普遍的な教訓を私たちに改めて教えているのである。



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    日本への潜在的恐怖とは

    中国の抱える外交的病根

    EUが築く高い通商の壁

    中国が日本へ外交的軟化

     

    高市首相の「台湾有事発言」(昨年11月)が、中国へ大きな衝撃を与えた。高市発言は、台湾有事が日本有事になり得ることを示唆したものだ。この一言で、中国は日本に対して「新軍国主義」という意味不明な言辞を弄してまで、躍起になって非難を行っている。米中首脳会談では、第二次世界大戦まで遡り「米中同盟論」という古証文を持出した。もっとも、当時の中国は中華民国であり、中華人民共和国は生まれていなのだ。中国は、この矛盾を隠してまで、日本非難に全力を上げている。

     

    中国の台湾侵攻が始まれば、米国は「台湾関係法」(1979年)を寄りどころにして参戦が有力視されている。こういう潜在的敵対国になる米国を前に、同盟国の日本を非難するとは不可解である。中国の日本批判は、「手当たり次第」という不条理なものになっている。

     

    この日本非難の裏にあるのは、中国が台湾侵攻で立てていた戦略で大きく外れたからだ。それは、「日本の参戦ゼロ」の前提であった。中国の想定では、米国参戦は「渋々」という程度で、日本の米軍基地利用も制限されるという「中国の身勝手」なものであった。それが一転して、日本が「有事」として戦火拡大を阻止すべく参戦すれば、中国にとって極めて不利になるという読みに変ったのだ。

     

    ここで不思議なのは、中国が執拗なまでに尖閣諸島の領海を侵犯している事実である。日米が、この動きから想定するのは次の点だ。中国は、台湾侵攻と同時に尖閣諸島を侵攻し、北朝鮮には38度戦を突破させ韓国へ攻込ませる「広域作戦」である。これによって、日米の軍事力を分散させるという戦術である。だが、中国の思惑は別のところにあるようだ。尖閣諸島で威圧を掛け続ければ、日本は嫌気がさして台湾有事から手を引くとみてきた。尖閣諸島威圧は、台湾侵攻で日本に手を出させない「予防策」であったのである。

     

    日本への潜在的恐怖とは

    中国のこういう身勝手な前提が、高市発言で全て雲散霧消してしまった。日本が「台湾有事は日本有事」となれば、状況が一変する。これまで「恐怖の的」であった日本軍が登場するとなれば、台湾侵攻作戦は成り立たないということになるのだろう。

     

    これは、歴史的事実である。日清戦争と日中戦争において、中国軍は日本軍によって手痛い敗北を喫した。日本軍と戦って勝利の経験がないことは、現在の人民解放軍にとっても恐怖の的であるのだろう。そうでなければ、高市発言であれだけ天地をひっくり返したような騒ぎになるはずがない。よほど、自衛隊の存在を恐怖の対象として捉えているのだ。特に中国は、日本の潜水艦部隊を恐れている。世界一といわれる「静謐性」と「操船術」によって、米海軍の潜水艦部隊を上回っていると折り紙付きだ。

     

    台湾侵攻作戦の帰趨は、潜水艦部隊の優劣によって決まるとも言われている。そうなると、海中で大きなスクリュー音を出す中国潜水艦は、日米潜水艦部隊の格好の標的になる。また、米国の情報収集の能力によって、中国が開戦準備を始めた時点でそれを捕捉されるという。これによって、日米潜水艦部隊は事前に配置され、中国潜水艦が母港を出る直前に封鎖されるリスクを抱えることになる。近代戦の経験ゼロの中国軍にとって、台湾侵攻作戦は余りにもリスキーなのだ。

     

    中国軍は、朝鮮戦争で米軍と陸上で死闘を演じた。台湾侵攻では、海上の戦争になる。中国海軍は、台湾海峡(最短距離で135キロメートル、平均で150キロメートル)をいかに安全に渡るかが最大ポイントだ。これは、史上最大の「敵前上陸作戦」になる。第二次世界大戦でドイツ軍と日本軍と戦った米軍には膨大な作戦資料が残されている。中国軍にはゼロだ。人民解放軍首脳部が、早期の台湾侵攻作戦に否定的であったのは当然である。習近平氏は、これら軍幹部を全て粛清してしまった。人的資源まで失ったのだ。

     

    中国は、高市発言による作戦の前提が180度変ったことと、軍幹部の粛清によって作戦計画を立てられる状況でなくなっている。こうなると、習近平氏の「心理状態」がどうなるか想像すれば分かるであろう。「日本憎し」の4字である。

     

    中国は、第二次世界大戦中の痕跡である、国連憲章の「旧敵国条項」(日本とドイツが対象)まで持出している。これが、日本を威圧する戦略である。果たして有効だろうか。

     

    敵国条項は、既に「死文化」しており、実務では使えない「代物」である。1995年の国連総会決議と2005年の世界サミットの成果文書で、敵国条項は「時代遅れ」と認定されている。武力行使は、安保理の承認なしにできないシステムである。つまり、敵国条項を使って、中国が単独で日本へ先制的な武力行使する法的根拠はないのだ。

     

    米国・欧州は、台湾海峡の平和、日本の自衛権、日米同盟を明確に支持している。中国の敵国条項論は、国際法によらない単なる「政治的プロパガンダ」である。欧米が、日本と一体であれば、日本は何ら中国を恐れる必要のない、ただの「因縁」を付けられた脅迫に等しいことになる。

     

    中国の抱える外交的病根

    中国の対日行動の根底を支配するのは、「恐怖×依存×体面×国内政治」の複合心理現象である。日本を恐れているからこそ悪口を言い、日本へ依存しているからこそ「ニーハオ」と近づく。一方では、日本を威嚇して対外的イメージを保ち国内で威厳を保つという複雑怪奇な心理状態に追い込まれている。こうした矛盾が、中国外交の本質である。中国自身が、それに気付いていないとところに危機の根源がある。(つづく)

     

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    中国が、岩屋前外務大臣の訪中の際に副首相と外相が面会するという「厚遇」ぶりを見せた。中国が、元閣僚に対してこれだけの対応したのは、日本の歩み寄り(高市発言撤廃)を期待したものである。だが、高市政権は高い支持率に支えられているというチグハグさを見せている。世論が動かない以上、日本に「実損」がないという意味である。

     

    2014年の安倍政権は、対中関係改善に努力した。現在の高市政権にはその動きがないのはなぜか。対中関係改善の政治的利益が、逆転しているからだ。この客観的事実の認識が盲点になっている。2014年当時の安倍政権は、中国との対立が長期化し、経済界も改善を希望した。だから、首脳会談自体に価値があったので、玉虫色合意が成立した。現在の高市政権にとっては、「中国に簡単に譲らないこと」そのことが支持理由の一部になっている。中国の圧力そのものが、高市支持率を押し上げているのだ。

     

    安倍政権は、関係改善に政治的利益になった。高市政権は、強硬姿勢に政治的利益という構造になっている。ここが決定的な違いである。安倍政権も高市政権も保守派でありながら、中国への対応が異なる裏には、日本の経済的な状況が大きく変化している面がある。安倍政権当時は、「失われた30年」で中国市場を必要とした。高市政権になって、日本経済の復活が明白になっている他に、インドやASEAN(東南アジア諸国連語)などの成長市場が現れている。もはや、中国に拘る必要性がなくなったのだ。

     

    この現実によって、世論も対中姿勢で「強硬」になっている。中国の軍事力強化を警戒する安全保障論の高まりだ。こういう構造的な日中分析を行うと、日中は「管理された低温冷戦時代」へ入っているとみるほかない。「焦る中国、じっくり構える日本」という構図がハッキリと浮かび上がる。日本が、自信を取り戻したのであろう。

     

    『日本経済新聞 電子版』(10月7日付)は、「王毅外相が放つ誘い水の虚実、日中修復『安倍モデル』に高いハードル」と題する記事を掲載した。筆者は、同紙の編集委員 中沢克二氏である。

     

    中国外交トップで共産党政治局委員兼外相の王毅(ワン・イー)が9月28日、北京で前外相の岩屋毅に会った際、語った言葉の解釈が議論の的になっている。そして政治局委員として王毅と同格の副首相、何立峰(ハァ・リーファン)も同29日に岩屋と会った厚遇も話題だ。

     

    (1)「岩屋が率いる日本国際貿易促進協会(国貿促)は、日中の貿易関係をつなぐ伝統ある組織だ。前外相の岩屋が新会長になり、経済代表団として改めて訪中するなら、機会を逃す手はない。経済担当の副首相が会談に応じたのは順当だ。中国側にはこれ以上、日本からの投資が減るのを食い止めたいという思惑もあった」

     

    国貿促は、石橋湛山・元首相が会長を務めた「名門団体」である。石橋といえば、日中復交論を最初に唱えた政治家で、中国にとっては恩義のある存在である。

     

    (2)「考えるべきは、中国外交を仕切る政治局委員が経済訪中団との会談に応じた意図だ。日本側の希望に応じた形だが、何立峰との会談が大筋固まっていた以上、あえて登場する必要はなかった。目的は、前外相の岩屋を通じて日本側に「関係正常化に向けた条件」を提示することだ。その証拠に中国外務省の発表は、王毅が国貿促会長である岩屋個人と会談した体裁をとっている。何立峰の中国公式報道が、国貿促訪中団という団体との会見としたのと対照的だ。

     

    中国側は、岩屋が前外相であるので日本政府へパイプが通じているとみている。岩屋は、反高市派でパイプにならないのだ。

     

    (3)「王毅と岩屋の会談内容は、中国の建国記念日である国慶節(10月1日)長期休暇の間、中国外務省ホームページの「外相活動」冒頭で写真付きで大きく掲載され続けた。重要部分を紹介する。「王毅は、来年は中日国交正常化55周年に当たると指摘した。現在、中日関係は再び厳しい局面にあり、再び正常化を実現すべきだ。日本側にとって急務なのは台湾問題に関する自国指導者の誤った言動を早急に是正することで、重要なのは歴史問題で正しい態度をとること、そして根本的なのは客観的かつ理性的な対中認識を形成することである」

     

    王氏は、岩屋氏へ「台湾問題に関する誤った言動を早急に是正する」ように伝えている。「是正」という言葉に関心が集まっている。

     

    (4)「(王毅の上げた)重要度は、①台湾問題②歴史問題③対中認識――の順だ。日本側で注目されたのは台湾問題に関する「是正」という言葉づかいだった。昨年11月、首相の高市早苗が「台湾有事」を巡る国会答弁をして以来、中国は一貫して答弁自体の「撤回」を要求してきた。今回は間違いを正すという意味の是正を使っている。これは誘い水なのか」

     

    王氏は、台湾発言の「撤回」でなく、「是正」に変えている。トーンを落としたのだ。これは妥協の誘い水である。

     

    (5)「比較すべき過去の例がある。14年に北京で開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を利用して、悪化した日中関係の修復に向けた日中首脳会談が設定された経緯だ。主役は当時の首相、安倍晋三と習。対中関係を修復したこの「安倍モデル」では、14年11月7日、当時、中国の国務委員だった楊潔篪が北京で日本の国家安全保障局長だった谷内正太郎と会談。3日後の日中首脳会談実現の決め手となる(玉虫色の)「妥協」4項目だった。今回も中国・深圳で11月18〜19日に開催するAPEC首脳会議に向けて「安倍モデル」に似た「玉虫色」の文章を作ればよい。日中両政府が直ちに交渉に入ることだ。そこには高いハードルがある」

     

    「安倍モデル」に従って、高市首相が玉虫色の文章を作るには時間的余裕がないことと、下工作をするルートがないことだ。

     

    (6)「日本側には、従来と異なる政治的な現実もある。習政権による異様な高市政権への圧力が、高市内閣の支持率維持に貢献してきた面は否定できない。先の衆院選での自民党の歴史的大勝にも対中姿勢が絡む。中国側に明確な変化がない場合、自ら動くのは不利な側面もある。選挙結果が与えた固い政権基盤が逆に妥協を難しくしているのだ」

     

    習政権による異様な高市政権への圧力が、高市内閣の支持率維持に貢献してきたという現実は、世論が「反中国」になっていることだ。メディアは、「世論の右傾化」と切り捨てているがそうではない。冒頭で指摘したように、日中の経済関係の逆転が理由だ。ここに気づかない議論は、上滑りするだけであろう。

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    スズキは6日、11月に発売する軽自動車の電気自動車(EV)「eスカイ」の価格を212万円からにすると発表した。国内の軽EVで最も安く、7月に中国の比亜迪(BYD)が発売した「ラッコ」より安いという挑戦である。

     

    スズキは、軽EVをエンジン車並の価格に抑えた目的は何か。コスト構造革命であろう。中国の電池を使ってBYDと正面から競争に挑んだことだ。「BYDが日本市場を揺さぶった結果、スズキが本気になった。日本のEV市場にとってはむしろ良いニュースだ」という評価も出てくるであろう。

     

    『日本経済新聞 電子版』(10月6日付)は、「スズキの軽EV『eスカイ』、日本最安の212万円 BYD超える航続距離」と題する記事を掲載した。

     

    スズキは6日、11月に発売する軽自動車の電気自動車(EV)「eスカイ」の価格を212万円からにすると発表した。国内の軽EVで最も安く、7月に中国の比亜迪(BYD)が発売した「ラッコ」より安い。

     

    (1)「eスカイは、スズキにとって初の乗用車の軽EVだ。海外に比べ普及が遅れる国内EV市場の需要喚起を目指す。装備内容が異なる3グレードを用意する。受注生産の最廉価グレードがラッコの同グレードより約2万円安い212万円になる。中位グレードは239万円、最上位は279万円とした。国からの補助金は未確定だが、同社の商用車の軽EV「eエブリイ」は56万8000円となっており、同額になった場合、eスカイは155万円から購入できる。同社のガソリン車の主力軽「スペーシア」(153万円から)と同水準となる」

     

    eスカイは、国からの補助金は未確定だが、同社の商用車の軽EV「eエブリイ」補助金と同額とすれば、同社のガソリン車の主力軽「スペーシア」と同水準である。スズキが、ここまで価格を抑えたのは、「EVは高い」という一般的な見方を打破するためであろう。EVは、手頃価格というイメージを打出したことだ。

     

    スズキが狙うのは、軽自動車市場防衛とみられる。日本では、軽が4割近くを占めるほど普及している。スズキは、この軽の王者だ。もしEV化の波が来たとき、BYDや他社に市場を取られることになる、これが最大のリスクだ。スズキは、軽市場を守らなければ自社の基盤を失う。こういう危機感があるのだ。そのためには、敢えてエンジン車並み価格(補助金付き)にして、消費者にどちらの選択にも対応できるような柔軟性を維持したに違いない。それが結果的に、EVを伸すという戦略だ。

     

    (2)「航続距離は、全グレード共通で最大310キロメートルだ。ラッコは214万円の最廉価グレードが210キロ、239万円と249万円の上位グレードが320キロとなっている。スズキは、過去にも初代「アルト」の47万円(1979年)や初代「スイフト」の79万円(2002年)など当時としては破格の価格設定で市場を切り開いてきた。eスカイは軽EV専用のプラットホーム(車台)やEVの駆動装置「イーアクスル」を新たに開発して軽EVとして最高の電費性能を実現した。電池は競合でもあるBYD系のリン酸鉄リチウムイオン(LFP)電池を採用し、コストを抑えた」

     

    電池は、競合先であるBYD系のリン酸鉄リチウムイオン(LFP)電池を採用している。これは、日本製に拘らず、BYDと同じ土俵に乗って勝負するという姿勢だ。これは、新しい戦略である。

     

    軽EVのコスト構造は、概ね次のようなものだ。

    電池 30~40% 

    モーター・インバーター 10~15% 

    車体・シャシー 25~30% 

    その他 20%前後

     

    212万円という価格では、営業利益率が極めて低いとみられる。初期数年間は、営業利益率0~3%程度でも不思議でない、と推計されている。スズキは、「利益を削って市場を守る」という局面であろう。欧州輸出も視野に入っている。

     

    (3)「国内の新車販売全体に占めるEVの比率は、8月に3.9%だった。補助金の増額で前年同月より2.5ポイント増えたが、中国の43%、欧州の29%と比べて低い。EVと親和性が高いとされる軽自動車で国内最大手が、これまでより安価なEVを投入することで普及が進む可能性がある」

     

    スズキは、エンジン車並のEV軽を投入する。欧州市場も視野に入れての価格戦略であろう。軽こそ地方では最適とされている。ガソリンスタンドが減っている現在、EVであれば給電は自宅で可能になる。スズキにとっては、日本の軽自動車市場を守るという認識が全面に出ている。

     

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