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韓国の労組は、戦闘的な存在で世界に広く知れ渡っている。「労働貴族」という名前の通り、大企業の賃金は日本を上回る。生産性が高い結果、賃金も高ければ問題はない。現実は逆で、韓国の生産性は日本を下回るのだ。

 

これでは、韓国企業の経営が行き詰まって当然である。すでに、その兆候が現れている。設備投資余力を失い、韓国経済の先行きに警戒信号が上がる理由になった。韓国労組が、労働貴族に転じたのは、1997年の韓国金融危機以降である。労働者の首切りが、韓国労組を怒らせた。これ以降、企業の労働生産性には協力しない。終身雇用を守る。年功序列賃金を堅持させるという「労組3原則」を守ってきた。これでは、韓国経済が潰れても致し方ないのだ。

 

『朝鮮日報』(10月30日付)は、「韓国大企業の大卒年収、日本を30%上回る」と題する記事を掲載した。

 

韓国大企業の大卒者に対する初任給の水準が日本の大企業に比べ30%以上高いことが分かった。一方、中小企業の大卒初任給は日本が韓国を上回った。このため、大企業と中小企業の賃金格差も韓国がはるかに大きく、若者がスタートアップなど新たなチャレンジに消極的になり、大企業への就職に必死になる社会的風潮を生んでいると指摘されている。

 

(1)「韓国経営者総協会(経総)が韓国雇用労働部、日本の厚生労働省の資料に基づき、昨年の韓日の大企業の新入社員初任給(1年目の年収)を分析した結果、韓国の大企業(従業員500人以上)は36228ドル(約394万円)で、日本(同1000人以上)の27647ドルを31%上回った。1人当たり国内総生産(GDP)に占める初任給(年収)の割合は韓国(GDP33346ドル)が115.5%で、日本(39286ドル)の70.4%を大きく上回った」

 

給料は、高ければ高いほど良いわけでない。生産性に見合ったものでなければ安定性がない。働く者にとっては不安だ。外資系企業は高賃金で有名だが、一度不況が来ればあっさりと解雇されるリスクを伴う。賃金とは、解雇リスクを伴う意味で「ハイリスク・ハイリターン」である。

 

韓国では、「ローリスク・ハイリターン」を狙っている。解雇は絶対にさせないという戦闘的な取り組みによって、ハイリターンを守っている。韓国企業が疲弊するのは当然である。私の韓国経済衰退論には、こういう「貴族労組」の存在が大きな影を落としている。

 

(2)「一方、中小企業(従業員1099人)の大卒新入社員の初任給は韓国が23814ドル、日本が24479ドルで、日本の方が高かった。中小企業の大卒初任給を100とした場合、韓国では大企業の初任給が152.1だが、日本の大企業は112.9で、大企業と中小企業の差は韓国がはるかに大きかった」

 

韓国では、大企業労組が高賃金を得ている裏で、中小企業がそのしわ寄せを受けている。そのメカニズムはこうだ。大企業が、中小企業製品を買い叩いて、自らの高い賃金コストを補填させているからだ。これでは、中小企業が大企業の支払う賃金を一部、肩代わりさせられているも同然の話だ。これを抑えるには、公正取引委員会が、大企業が中小企業製品買い叩きを防止する強力なシステムを作ることだ。これを率先して実行しているのは、サムスンぐらいである。

 

(3)「韓国と日本の大企業における大卒初任給の格差は拡大傾向にある。2006年には従業員1000人以上の事業所で韓国が日本より10.4%高かったが、14年(韓国は従業員300人以上、日本は1000人以上)には格差が39%に拡大した。ところが、経済協力開発機構(OECD)が調べた1時間当たりの労働生産性は17年時点で日本が41.8ドルで、韓国(34.3ドル)に比べ20%以上高かった。経総のイム・ヨンテ経済分析チーム長は「企業の国際競争力を高めるためには、まず大企業の大卒初任給を合理的に見直し、年功基準の賃金体系を職務、成果中心に再編する必要がある」と指摘した」

 

下線を引いた部分は正論である。まさに、労働改革をすることだが、韓国労組が納得しないから、現在まで未解決のままにきている。年功序列賃金と終身雇用が、韓国の労働市場を閉鎖的にさせ、労働の流動化を妨害している。転職の自由が実現できない限り、40代過ぎて会社を辞め自営業に転じるという、韓国固有の「自営業増殖メカニズム」を絶たなければ、韓国の就業構造は近代化しない。韓国労組は、それを邪魔している点で「天敵」に成り下がっている。

 

(4)「財界からは大企業の大卒初任給を引き下げ、中小企業との賃金格差が縮小すれば、失業率を抑制する上でも役立つとの意見がある。大企業と中小企業の初任給に格差が大きい場合、青年が大企業にばかりこだわり、就職を先送りにするからだ」

 

これを実現する第一歩は、まず保守党が政権に復帰しなければ話は進まないであろう。ただ、韓国では労組が総力を挙げて反対運動を展開し、交通機関が止まるなど騒乱状態になるだろう。国民の4割は労組寄りの「進歩派」である。よってこの理想案は実現せず、韓国経済は衰退過程を歩むほかないと見る。