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新型コロナウイルスを巡っては、先行き暗い話ばかりである。今冬からウイルス感染第二波が来ることや、インフルエンザが重なって、市民はさらに穴蔵生活を余儀なくされるというもの。本欄も、そういう暗い話を紹介してきた。その中で、唯一の希望は抗体検査の普及である。

 

市民の生活を制限し、企業と世界経済に破壊的影響を及ぼしているのが、ロックダウン(都市封鎖)である。この安全な解除時期を見極めるうえで、抗体検査は政府に必要なデータをもたらす極めて重要なものである。その抗体検査セットが現在では、粗製濫造で自信を持って使えるものが、わずかと言われるほど。抗体検査が、封鎖解除の切り札になるとは分かっていても、二の足を踏まざるを得ないのが現状なのだ。

 

『フィナンシャル・タイムズ』(4月23日付)は、「封鎖解除の鍵、『抗体検査』を試す精度のハードル」と題する記事を掲載した。

 

抗体検査は、個人が過去の感染で免疫を獲得しているかどうかを示す。免疫ができていればウイルスに感染しないので、仕事や人との接触も許されることになる。この意味で、都市封鎖解除には欠かせないツールである。問題は、精度がきわめて低いことだ。ロシュ・ホールディングのセベリン・シュバン最高経営責任者(CEO)は、「これまでに発表された他社の新型コロナウイルス抗体検査薬はひどい失敗作だ」とこき下ろすほどである。

 

(1)「英国COVID検査科学諮問委員会は今週、英政府が採用を検討している市販の抗体検査キット9種類に関する評価報告書を発表した。新型コロナに対する免疫反応の検査について、要件を満たすものは一つもなかった。英レディング大学の微生物学者サイモン・クラーク氏は、同報告書は「数種の検査キットは一般人が使用するには精度が不十分で、新型コロナに感染していたかどうか、免疫ができているかどうかを見分けるには決して十分ではないことをごく明確に示している」と話す」

 

ついひと月前、英国はジョンソン首相の言う「ゲームチェンジャー」(状況を一変させるもの)を約束していた。新型コロナウイルスに感染して抗体ができた人を簡単に見分けられる検査キットを数百万個、間もなく配布するというのだった。ドラッグストアの英ブーツや米アマゾン・ドット・コムなどの小売業者を通じて、家庭用の「妊娠検査薬」のようなキット350万個以上を供給する計画だった。だが、検査の精度に問題のあることが判明し、計画は流れた。これで、抗体検査への期待がすっかりしぼんでしまった。前記のロシュCEOは、5月に入れば画期的な精度の高い抗体検査キットを発売すると胸を張っている。



(2)「抗体検査は血液を採取し、人体の免疫系がウイルス感染と闘うためにつくる特定の抗体を検出するので血清検査とも呼ばれるが、困難に直面しているのは英国だけではない。世界各地で問題が報告されており、スペインなどの欧州諸国はアジアから輸入された大量の抗体検査キットを排除している。米国では、有効性が未確認で質的に問題のある検査キットを数十社が販売するのを許したとして、米食品医薬品局(FDA)が批判を浴びている。米国公衆衛生研究所協会のスコット・ベッカー会長は、「率直に言って質が疑わしい」90種類以上の抗体検査キットが市場に「氾濫」していると述べた」

 

FDAは、抗体検査キットの発売を焦った結果、精度に問題のあるキットの発売を許したとして批判されている。「あの厳格なFDA」がと、すっかり評判を落とした。米国政府が、それほど都市封鎖解除を焦っていた証拠でもある。

 

『ブルームバーグ』(4月23日付)は、「新型コロナ抗体検査薬、他社の既製品は失敗作ーロシュCEOが酷評」と題する記事を掲載した。

 

ロシュ・ホールディングのセベリン・シュバン最高経営責任者(CEO)は、これまでに発表された他社の新型コロナウイルス抗体検査薬はひどい失敗作だとこき下ろした。

 

(3)「これまでの抗体検査薬は信頼性が低く、英国やスペイン、米国の一部は使い物にならないと断定した。シュバンCEOによると、このような検査薬は開発が容易な一方、正確性の確保が極めて難しいことが理由だという。「どのような素人でも抗体検査薬を製造できる。問題は実際に役に立つのかということだ」と同CEOは22日、記者団との電話で述べた」

 

ジュネーブに本部を置く非営利組織「革新的な新診断法のための財団(FIND)」は、開発中または市販されている280種類の免疫学的測定法(抗体検査)をリストアップしている。その多くは中国製だ。中国の規制当局は、スペインに輸出した検査キットに品質上の問題があったことが判明した後、未認可の輸出業者を取り締まっている。中国製の抗体検査キットは、精度が30~50%と言われている。抗体検査が、これまで精度が低く問題を起こしたのは、ほとんど中国製の粗悪品によるものだった。

 

(4)「ロシュは5月初めまでに抗体検査薬を発売する計画だ。開発に当たり他社製品も調べたが、信頼に足る製品はなかったとし、「何の価値もないか、わずかな有用性しかない」と酷評。英国の検査のアプローチについても批判し、同国は長年にわたり必要なインフラへの投資が不足していたと指摘した」

 

ロシュは、自信満々である。その抗体検査キットは、5月初めまでに発売されるという。期待通りの高精度であれば、抗体検査への期待が高まるであろう。抗体を持っていれば、もはやマスクをつける必要なない。そういう日が、早く来ることを願っている。