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中国は、新型コロナウイルスの発症震源地で、取り返しの付かないダメージを受けている。国内では大失業時代の到来。国外では、自国の発症源を隠蔽するために著しく信頼を損ね、「反中国ムード」を醸成していることだ。その結果、国内で激化する矛楯を隠すために、海外から中国のコロナ対策が成功したという「賞賛の声」を集めようと焦っている。次の例がそれだ。

 

『フィナンシャル・タイムズ』(4月20日付)は、「自滅した中国コロナ外交」と題する記事を掲載した。

 

米ウィスコンシン州議会のロジャー・ロス上院議長のもとに、中国政府から一通の電子メールが届いた。中国の新型コロナウイルス感染拡大に対する取り組みを称賛する決議案を議会に提案してほしいという依頼だった。この「自作自演」の中国賞賛の決議案依頼こそ、中国政府がコロナ禍で追い詰められている実情を自ら暴露したものである。

 

(1)「ウィスコンシン州議会のロジャー・ロス上院議長は、これは(前記の依頼メール)いたずらに違いないと考えた。メールには、決議の文案まで添付されていた。その内容は、中国共産党がいかに素晴らしく対応したかといった論点や信じがたい主張が羅列されており、決議にかけるには怪しすぎる内容に満ちた提案だった。「外国の政府が州議会に接触してきて法案の可決を求めるなど聞いたこともない。そんなことはあり得ない」とロス議長は4月中旬、筆者に語った。そして、そのメールはシカゴの中国総領事から送られてきたことが判明した。『びっくりした。それで、こう返信してやった――親愛なる総領事殿、ふざけるな、と』」

 

中国の在米中国領事館が、ウィスコンシン州議会のロジャー・ロス上院議長へ送ったメールは信じがたい内容であった。中国のコロナ対策を賞賛する決議案を可決してくれと言うもの。ここまで、中国政府が国内的に追い詰められている証拠だ。

 

(2)「中国政府は新型コロナ危機に乗じて国際的な立場を高めようとして、逆に手ひどいオウンゴールを喫するということが続いている。このエピソードもその一つと言わざるを得ない。中国南部の都市にはアフリカの人が多く居住するが、そのアフリカ系住民が感染デマなどにより嘆かわしい扱いを受けていること、中国が各国に送った医療用品や医療機器に欠陥が多いこと、中国政府高官が感染は米軍から始まったとする陰謀説を公に認めるなど、世界における中国の評判をコントロールしようとする中国共産党の取り組みは、大半が裏目に出ている

 

中国は、コロナ禍によって大きなミスを冒している。世界における中国の評判をコントロールしようとする中国共産党の取り組みは、大半が裏目に出たのだ。WHOの事務局長追放や、WHOと別組織の設立への動きなど、すべて中国政府の蒔いた種だ。

 

(3)「データに疑いは残るが、新型コロナに関する中国の公式発表では、中国の死者数は5000人未満で、米国の約4万人(19日時点)、イタリアとスペインのそれぞれ約2万人(同)に比べ少ない。中国政府が、この状況を利用しようとしたことは結局、危機の収束後、中国が世界で孤立し、信頼を失う可能性を高めている。北京大学の著名な学者、王緝思氏は、新型コロナがもたらした様々な事態により米中関係は1970年代の国交正常化以降、最悪の水準に落ちたと指摘する。米中間の経済、技術面の分断は「もはや回復不能」なところまできていると指摘する」

 

中国は、自分の蒔いた種で世界を大混乱に陥れながら、これを機に外交的な利益を得ようと画策するなど、西側諸国に信じがたい行為を重ねている。米中関係は、「回復不能」な段階まで悪化したと指摘されている。米中デカップリングが現実化する背景は、中国の裏切り行為が招いたものだ。

 

(4)「英国でも変化は急激だ。保守党の有力議員たちは、首相に中国に対しもっと強硬な姿勢を取るよう求めている。英メディアは中国への批判を強め、英情報機関も中国政府からの脅威に重点的に備えると明言した。欧州やオーストラリアは、株価の下落など経済が混乱する中で中国企業が欧州や豪の企業を安く買収するのを阻止すべく対応を急いでいる。日本政府は、日本企業がサプライチェーン(供給網)から中国を外すことを促すため、7日に決定した緊急経済対策に2400億円超の予算を盛り込んだ

 

日欧は、中国への不信感を強めている。既述のように、米国も中国への疑念を深めた。こうして日米欧が、結束して中国に背を向ける事態になれば、中国はもはや頼る先を失うであろう。

 


(5)「もし、中国政府が早くから透明性を高め各国との協調路線にかじを切っていれば、もっと世界から共感を得られていたはずだ。ところが中国政府は逆に、政府による感染の隠蔽を批判した国民を逮捕し、新型ウイルスの感染が中国から始まったとする見方は違うのではないかという宣伝活動まで展開した。そして、感染封じ込めには自国の独裁体制の方が優れているとさえ主張している。中国政府が3月に国境を実質的に閉鎖し、査証の効力を停止したため、多くの多国籍企業は大打撃を受けている。米メディア企業の記者の多くを3月に国外退去させたことも中国政府に対する国際社会の態度を硬化させた。中国の主要国営メディア(新華通信が運営するサイト「新華網」)は、「米国を新型コロナウイルスの地獄に投げ込めるよう」、米国への医療用物資の供給を停止し、医療関係の輸出を差し止めればよい、と脅しさえした

 

中国の外交戦略は、全て秦の始皇帝並みの「合従連衡」という古びた謀略を基本にしている。現在も、2200年前のこの戦略を使っているから、すぐに中国外交の裏が読めるのだ。「オウンゴール」という中国外交の失点こそ、近代外交戦略を知らない幼稚さを示している。

 

(6)「こうした中国の言動は、米国をはじめ世界各国の政府に中国を自国の供給網から外そうとする動きを加速する結果につながる。なぜ中国がこのような明らかな自滅的な行為に走るのかは、中国国内の政治状況を考えるとわかる。今回の危機は、2012年に習近平(シー・ジンピン)氏が中国共産党総書記の座に就いて権力を握って以来、最大の危機だ。中国共産党支配の正統性は、感染初期段階の過ちとその後の強権的な抑え込みにより傷ついた。習氏は、今後始まる経済的危機で国民の支持はさらに失われることに気づいている

 

中国共産党は、国民から選挙権を奪っている軟弱な基盤に成立する政権だ。これが、外交戦略でも近視眼的な政策を発動させる背景である。ウィスコンシン州議会のロジャー・ロス上院議長へ、中国賞賛の決議案を出してくれと出した依頼こそ、中国国内でどれだけ不利な事態に陥っているかを物語っている。