サンシュコ
   


北朝鮮は、過去の報道例からいえば、正恩氏に関わる重大事態のニュースがあれば即刻、反応して否定してきた。今回は、全くそれがない。世界の有力メディアも、金正恩氏の生死問題について沈黙している。

 

正恩氏の政治的な退場は決定的と見るほかない。その場合、北朝鮮に何が起こるのか。ここでは、金正日氏の死去後に起こった対韓国への軍事強硬策を振り返っておくことが重要であろう。以下の記事は、正恩氏が「脳死状態」という本欄の記事以前に、朝鮮日報に掲載されたものだ。正恩氏の復帰は、不可能という前提であることに留意すべきであろう。

 

『朝鮮日報』(4月22日付)は、「金正日総書記死去後3年間大混乱、金正恩空白期には金与正氏が出てくる可能性」と題する記事を掲載した。

 

(1)「今回の「金正恩(キム・ジョンウン)重体説」は、北朝鮮が制裁長期化とコロナ禍で経済難に直面しているところに浮上した。金正恩国務委員長の健康リスクまで加わった場合、北朝鮮の状況は大きな混乱に陥るだろうという見方が持ち上がっている。北朝鮮は、首領一人に全ての権力が集中する唯一領導の体制だからだ。金正恩の健康状態は、すなわち北朝鮮体制の安定性・耐久性と直結することが避けられない。金日成(キム・イルソン)、金正日(キム・ジョンイル)死亡時も、極度の混乱とともに事態急変への懸念が高まった」

 

韓国政府は、「正恩氏健在説」に立っている。だが、過去の二人の「首領」が死亡後に起こった対韓国への軍事的挑発を前提に、緊急体制を組む必要性が強くなってきた。

 

(2)「保守系最大野党「未来統合党」所属で、先日の総選挙で当選を果たした脱北者出身の太救民(テ・グミン。本名:太永浩〈テ・ヨンホ〉)氏は21日、「身辺異常説が報道された後、1週間以上たつ現在まで北朝鮮が何ら反応を見せずにいるというのは極めて異例」と語った。太氏はこの日、見解を表明して「北朝鮮は体制の特性上、『最高の尊厳』にけちが付けられるたびに、『最高の尊厳』は健在だという動きを数日のうちに見せてきた」として、このように指摘した」

 

北朝鮮は、正恩氏の生死問題について沈黙していること自体が、事態の深刻性を示唆している。

 

(3)「韓米中の政府当局者らの説明を総合すると、金正恩はすぐに「重体」あるいは「事故」というべき状況までは至っていないとしても、健康問題で休息や治療を必要とする状況だとみられる。金正恩は10日前の今月11日、西部地区航空師団隷下の「追撃襲撃機連隊」を視察するなど、今年に入ってこれまで16回の公開活動に出ていた。週に1度の割合で軍事・経済・政治分野の動きを続けてきた」

 

(4)「健康問題などで金正恩の統治活動が中断したら、北朝鮮の「国家機能」そのものがまひしかねない。首領一人が「万機親覧」する北朝鮮の権力構造上、意思決定権者がいなくなるからだ。例えば金正恩は、建設現場を視察した際、建物の仕上げ材やインテリアについて「細かな指示」を下すこともある。南成旭(ナム・ソンウク)高麗大学教授は「北朝鮮の最高指導者は現地指導を通して北朝鮮を統治するが、これができなくなると権力が動かなくなる」と語った」。

 

北朝鮮政治は静止状態に陥るであろう。この機に乗じて「金ファミリー」打倒の動きがあるのかどうか、全く分からない。

 


(5)「かつて、金正日国防委員長が20088月に脳出血で倒れて1112月に死亡するまでのおよそ3年間、韓半島情勢は大きく揺れ動いた。後継者の金正恩に権力が移譲された当時、平壌では権力闘争が激しく、北朝鮮は外部にその混乱を噴出させる様相を呈していた。2回目の核実験(20094月)と哨戒艦「天安」爆沈(103月)、延坪島砲撃挑発(同11月)などがこの時期に集中した。「天安」・延坪島挑発など南への攻撃は、金正恩が後継者として立地を固め、能力を誇示するために主導した-という見方が支配的だ」

 

金ファミリーは、金日成・金正日・金正恩と直系3代が権力を承継してきた。それでも正恩氏は、自らの権力基盤強化のため、韓国へ軍事挑発し、能力の高さを誇示してきた。「正恩後」の権力継承では、正恩氏以上の困難が伴う。となれば、韓国に対していかなる戦術を使って、北朝鮮内での権力基盤を確立するのか。警戒すべき段階であろう。儒教社会の北朝鮮が、直系男子を欠く権力承継である以上、模索=混乱が予想される。

 

(6)「専門家らは、金正恩の空白が長引く場合、取りあえず金与正(キム・ヨジョン)や金正哲(キム・ジョンチョル)など「白頭山の血統」を中心に「集団指導」のメカニズムが作動する可能性があるという見方を示した。情報機関の関係者は「2008年に金正日が倒れたとき、妹夫婦(金敬姫〈キム・ギョンヒ〉、張成沢〈チャン・ソンテク〉)、夫人(金玉〈キム・オク〉)を中心に非常指導体制が稼働したことがある」として「金与正、李雪主(リ・ソルジュ)に注目する必要がある」と語った」

 

当面は、金ファミリーによる「集団指導体制」が取られるという見立てをしている。この段階で、過去に正恩氏から加えられた異常な弾圧に反発する層が動くのかどうか。これにも、関心を向ける必要があろう。